「一体どういうつもりなのよ」
「わあーってるよ……!」
コナン君と灰原さんが私の足元でヒソヒソと囁き合っている。
灰原さんは咎めるような目付きで苦言を呈していて、対するコナン君は今のは失策だった、と己の過ちを認めるように苦い顔をしている。
彼の胸中を正確に測ることは難しいけど、色々葛藤やら複雑な思いを抱いているんだろうな。プライベートはともかく、今この時だけは工藤新一として隣にいたい、という彼の気持ちも理解できる気がする。思わず素の自分が出てしまったか。
「話なっげーなぁ、博士とあの怖いおっちゃん」
「仕方ないですよ。僕らは突然の来訪者なんですから」
元太君が早くもグズり出した。
私達は今、足を止めて待ちぼうけを食っていた。
博士と田畑さんが、寝床の割り当てや夕食の時間について話し合っていたからだ。
私は子供達がウロチョロしないよう、御守り役を仰せつかっている。
しっかり少年探偵団の三人に目を配りながら、また意識を思考の奥底に沈めてみた。
今回のネームドキャラは、まだ出会っていない人も含めてこれまで四人。
この中に件の火事を、そして、これから新たに事件を引き起こす者がいるのか。
相変わらず危険は伴うけど、直に対面して色々探ってみたい気持ちが強くなった。
言葉から情報を引き出すよりも、質問を投げた際に表面化する感情の動きを見てみたい。ああいうのは得てして反射的に発露するものだから、言葉と違って取り繕うのが難しい。その人の本音がたしかに垣間見える。
今後の方針について考えを重ねていると、灰原さんが唐突に『爆弾』を放り込んだ。
「そういえば、江戸川君。雨谷さんから聞いたけど、あなた、この前彼女の家で一緒に
コナン君が口に含んでいる途中だった飲料水を盛大に噴き出した。激しく咳き込んでいる。
それなりにお行儀よく静かに過ごしていた子供達も、今の投下でてんやわんやの大騒ぎだ。
「えー、なにそれ! コナン君、ずるーい」
「だ、だめですよぉ! そんなこと……」
「なんだ、コナンのヤツ? 瑠璃の姉ちゃん
面白いくらい三者三様の反応だ。
どういうことかというと、なんでも最近毛利家の風呂の調子がよろしくないみたいで、今日はすこぶる機嫌の悪い日だから、もし良ければアタシん家のを使わせてほしいと蘭に頼み込まれたのだ。
私は快く了承した。
幸い、その辺は融通が利く。
工藤君のところと同じで、両親が仕事の都合で長らく家を空けているから厄介な干渉を受けることもない。ちょっとした一国一城の主みたいなもので、今は私の裁量一つだ。
「小五郎のおじさんは、どーする? 入ってかないの?」
一応訊いてみたけど、予想通りの答えが返ってきた。
「バーロォ、大人のオレが若い娘の家に上がり込んでどーすんだ。近場で適当に済ませてくるよ」
「律儀だねぇ」
中に招き入れて晩御飯を済ませて、先に二人で入ってきていいよと言うと、なぜか蘭が躊躇していた。コナン君との入浴が全く乗り気じゃないみたい。
それまでは率先して連れ込んでいたはずなのに――?
私はすぐに察しが付いた。
なるほど。蘭の中で例の疑惑が晴れない限りは、当然こうなるか。
この様子じゃあ、抱っこの方もずいぶんご無沙汰なんだろうな。
私は、さっと考えを巡らせた。
いや、これはチャンスじゃないか――?
またとない千載一遇の機会だ。
こんな好機に恵まれることは、この先二度とないかもしれない。
アタシは内心で「むふん」と顔を緩めた。ぐへへ。
「じゃあお姉さんと一緒に入ろっか、コナン君?」
「「はあ!?」」
見事なシンクロだ。
目を剝いた表情、声を上げるタイミング。何から何まで全く一緒だった。
蘭が大慌てで私の肩を掴んできた。
「ちょおおっと、瑠璃ちゃん……! ほ、ほら。やっぱりそういうのは教育上良くないわよ」
「ダイジョーブ! 他の女の体を見て色々学ばせるべきよ。教育上はむしろプラスだわ!」
んなわきゃあない。
言うまでもなく口から出任せの詭弁方便だ。小学一年生といえば身体のプライバシーについて学び始めるお年頃で、そういった行為はむしろ教育の妨げになる。すでに十分な知識を蓄えた子なら、トラウマを植え付けてしまうことにもなりかねない。
中身が工藤新一だと分かっているからこその力業だ。
いやまあ、相手が工藤君だったとしても良くはないんだろうけど。同じクラスの男女二人が裸の付き合いなんて言語道断だ。
私は逃げようとするコナン君の腕をふん捕まえた。
目を点にして唖然と立ち尽くす蘭をその場に置いて、颯爽と連れ立っていく。
「さあ、コナン君! お姉さんと一緒に
事のあらましを簡単に説明すると、灰原さんは目を細めてちらりとコナン君を見た。
「……なるほど? なかなかいい思いをさせてもらったってわけね、この男は」
「お・ま・え・なあ~!」
犬のように歯を剥き出しにしてグルグル唸っている。
今の姿じゃあチワワみたいなものだから、全く迫力に欠けるわけだけど。
「洗いっこ楽しかったよね、コナン君」
「洗いっこじゃねえ! アレはおめーが一方的に……」
「いろんなところゴシゴシしてあげたもんねぇ」
「~~~ッッ!!!」
私がしみじみと振り返った後で追撃の一言を放つと、それ以上は言葉にならないようだった。
卒倒するんじゃないかと思うくらい、ますます顔中真っ赤になっている。まさにたった今、湯鍋から引き上げられた蛸みたいだった。
「ずいぶん賑やかだね。おや? お友達が増えましたかな」
間宮満さんが博士と田畑さんを伴って、こちらに歩み寄ってきた。
私と灰原さんにそれぞれ視線を投げて、にっこりと破顔する。外向けのマニュアルに従ったような笑みで、こういうのを違和感なく即座に作り上げられる辺り、相当に手慣れているな、という感じがした。実務経験が豊富なのだろう。
「すみませんのう。この子らもワシの連れでして、良ければ……」
博士が申し訳なさそうに頭を掻くと、彼は肉付きの良い肩をそびやかしてその先を遮った。
「いや、構いませんよ。あの日以来、客人もめっきり減ってしまってね。部屋を持て余し気味なんだ」
あの日以来、というのは、やはり火事の一件だろう。
ちょうどいいタイミングだったので、私は当初の予定通り色々と探りを入れてみることにした。
相手の気を悪くしないように和やかな雰囲気で雑談を交えながら、それとなく質問を挟んでみた。
「例の火事が起こった時は、どちらに?」
「私はその時、たまたま別館の方で過ごしていてね」
なんでも夫人より先に到着していて、家の者への挨拶回りを済ませていたという。
もし自身もあの場にいたら妻と同じ運命を辿っていただろうと、彼は気落ちした声でそう言った。
その時どこで何をしていたか、という聞き取りに大して意味はないし、効果もさほど期待していない。
本命は、むしろこっちの方だ。
「
まばたきほどのほんの一瞬ではあったけど、たしかに虚を衝かれたような間があった。
彼はまた作り笑いの面を顔の上に被せた。一種の防衛反応だろうか、と思った。
「今更向こうに戻っても一人なわけだしね。一人娘を亡くされたお義母様が今や
首から上が喋っているだけ、という感じもする。
やはり、どうあっても本人の口から宝についての話題が及ぶことはない、か。
よく素性の知れない一団を、主の許可無しに己の独断で勝手に迎え入れる。そんなラフプレーをかましている時点で、それなりに執着しているのも進捗が芳しくないのも明白なのに。
ちょっとした宝探し程度の感覚なら、客の手前、己の欲を全面に押し出すのはみっともないと判断したまでのことかもしれない。でも、遊びではない本気の野心だとしたら――やはり周囲には悟られたくないというのが本音だろう。
おくびにも出さず、己の心の内に秘めておく。
妻の死を悼んでいるのも、義母の体を案じているのも事実かもしれない。
だが同時に、どこかで眠る財宝の存在も間違いなくこの人を動かす歯車の一つになっている。
あるいは一番大きい歯車、か――?
私はそう感じた。
★
満さんと別れて再び歩き出すと、また重要そうな手掛かりに遭遇した。
チェスだ――
といっても、チェス一式がそのまま道のど真ん中にぽつんと置かれているわけじゃない。
オブジェクトと言えばいいのか。
等身大のナイトやポーンが点在している。その下の芝生には一定の間隔で切れ込みが入っていて、どうやらそれを
田畑さんによると、これも先代が遺したものらしい。
今の状態を清潔に保ち、駒の配置にはくれぐれも手を加えないこと。
そんな言い付けを、一族は代々守ってきたのだそうだ。
生前にこの意味ありげなチェスを作り上げて、その上で例の遺言を後世に伝えたのだとしたら――おそらく、これは宝の在りかを示す暗号だろう。
子供達が歓呼の声を上げながら走り寄っていく。
チェスというより、珍しい置物か何かだと思ったみたい。
コナン君も
私と灰原さんが、やや離れたところに取り残された。
「雨谷さんは、パズルとか暗号は得意なの?」
「ううん、全然」
臆面もなくあっさりそう言ってのけると、灰原さんは呆気に取られた様子で目をぱちぱちさせた。
「……なんだか意外とできることが少ないのね? 勉強は平均以下、知識は浅い。運動も苦手」
指折り数えながら、私のダメなところを列挙している。
どうも才媛のイメージが先行しがちのようだけど、買いかぶり過ぎだ。
キミが思う以上にアタシは凡俗で、これといった強みもない。
「取り柄っていえば、少しは頭が回るのと勘が鋭いくらい? あぁ、あと可愛らしい見た目とむっちむちの豊満エロボディか」
容姿を褒められるのは素直に嬉しいことなんだけど、最後に関しては、もっとこう――マシな形容の仕方はなかったのかなって思う。なんだか妙にトゲのある言い方だったしさ。
彼女曰く、アタシはケツがでかいし前も異様に出っ張ってるしで体がうるさいらしい。
初めて聞いたわ、体がやかましいなんて表現。
私はぷんぷん怒りながら言った。
「んもう、キミは一体アタシに何を期待してるのさ。コナン君と灰原さんがいなきゃ、アタシはなんにもできないの。しっかりフォローしてよね」
言ってて、だんだん恥ずかしくなってきてしまった。
堂々と開き直って口にすることでもないような気がする。
私はちょろっと舌を出しながら言った。
「なぁーんて、ちょっとカッコ悪いかな? あまりキミ達におんぶにだっこっていうのも――」
「はい、そこまで」
灰原さんが人差し指を目の前にかざして、タクトのように左右に振った。
「できないことはできないとはっきり言う。自分自身の能力を正確に評価して、かつ認める。どっちも簡単にできることじゃないし、それができるっていうのはすばらしいことなのよ。恥ずべきことでもなんでもないわ」
彼女は、変わらず啓蒙するような口調で続けた。
「さっきも言ったけど、全部完璧にこなされちゃつまらないのよ。あなたは頼りないくらいがちょうどいいの。困ったことがあれば、遠慮なく私達に縋り付きなさい。かわいい妹分のために一肌脱いであげようじゃない?」
衝撃に打ちのめされて、私は瞬間言葉を失った。
あらまあ、妹分ときたか――
灰原さんにしては、ずいぶん大胆な発言だ。
なんの躊躇もなく、当たり前のように彼女の口からそんな言葉が飛び出たことがまた意外だった。
私はにんまりと緩んだ口元を手で覆い隠した。
いいのかね。今はそんな姿なのに、妹なんて。
大胆というより、迂闊じゃないかな。灰原さんもあまりコナン君のことは言えない気がする。
「?」
怪訝そうな表情で、灰原さんが私の顔を覗き込もうとする。
間違っても見られるわけにはいかない。
私は慌ててそっぽを向いて、逃げるようにしてコナン君の下に駆け寄った。
「捗ってるかい? 探偵くん」
「ん? いやあ、どうかな。わからねえってより、イマイチ集中できなくてさ」
指先で頬を掻いて、困ったように苦笑いしている。
おや、と思った。珍しいこともあったものだ。
とっくにそんな季節は過ぎ去っているけれど、明日は雪でも降るのかな。
どういうことか、率直に理由を尋ねてみると――
「無茶しがちで向こう見ずなどっかの誰かさんを守護するっつー大事な役目があっからな」
これ見よがしにニヤニヤと笑いながら、執拗に視線を絡ませてくる。
むむぅ、さっきの仕返しのつもりかしら。ぷんすこ。
まあ、身が入らないのも当然か。
事件が起きるかもしれない。その上、色々危なっかしいアタシが独断専行に走ったら――そう思うと、のん気に謎解きなんかしていられないっていうのが正直なところだろう。
でも、やってもらわないと困る。それが私の率直な気持ちだった。
見たところ、私と灰原さんではおそらく手に負えない。
この暗号に対抗できる力を有する者は、この場ではコナン君ただ一人だ。諸悪の根源となった宝の在りかを示すものなら、尚更放っておくわけにもいかない。同時並行で解読に当たるべきだ。
ふむ、だんだん見えてきた気がする。
アタシ、コナン君、灰原さん。それぞれがどのように動くべきなのか。調査が一区切り付いたら、一度話し合いの場を設けてそれぞれに指示を出してみよう。
考えながら、なんとなしにこうべを巡らして辺りを見回すと、一人の男性が目に付いた。
若い人だ。どんなに高く見積もっても二十代の後半だろう。
その場に片膝を着いて、駒のひとつに手を触れながら隅々まで念入りに調べ上げている。コナン君よりも熱心だ。
そうか、あの人が間宮貴人さんか――
夫人が最初の旦那様、間宮
十代を迎える頃にはすでに他国へ留学していて、例の火事が起こる数日前にこの城に戻ってきた。その後も海の向こうへ戻らず、この地に留まっているところも義父の満さんと同じなのだそうだ。
私は緩やかな足取りで彼に近付いていった。
コナン君と灰原さんも、遅れて私の後に続いていく。
見知らぬ者が敷地の中をうろついていることに大層驚いた様子だったけど、自己紹介も兼ねて軽く事情を説明すると、彼はゆるゆると警戒を解いてすぐに理解を示してくれた。
「そうか、それは大変だったね。いいかい、キミ達。このお姉さんの言うことをちゃんと聞いて、お行儀よくするんだよ?」
「「はぁーい!」」
貴人さんの呼び掛けに、二人が気の良い返事で応じる。
私は灰原さんに対して軽く驚いていた。
へえ、灰原さんってこんなこともできるんだ――
コナン君はお母さんがあの有希子さんだから特に違和感はないんだけど、彼女も意外と演技派らしい。
なんというか、普段のクールさからは想像も付かないほどにこやかで、声もはっきり通っていて――ぶっちゃけて言うと、あまりにえげつない猫かぶりの仕方にゾッとしてしまった。鳥肌が立っている。
「――ッ!」
臀部の一部に刺すような鋭い痛みが走って、私は思わず飛び上がりそうになってしまった。
灰原さんが密かに手を忍ばせてつねったのだと、すぐに分かった。
「アンタの考えてることなんか全部お見通しなんだからね」
鋭い目付きでギロリと睨んで、小声で囁いてくる。
さいですか――
裏で何が行われていたか知る由もない貴人さんが、私達を見て不思議そうに眉をひそめている。
私はごまかすようにコホンと軽く咳をして、改めて彼に問い掛けてみた。
「ずいぶんと熱心に調べていらっしゃいましたね。やっぱり、そちらもお祖父様が遺した宝の行方が気になって?」
「うん? うーん、まあ……そんなところかな」
ピンと来ていない様子だった。そんなことは考えもしなかった、とでも言うように。
けれど事実、彼はそれを肯定している。
なんだろう――?
何かを調べている。
しかし、宝そのものが目的ではない。少なくとも、宝に関連する
ちょっとした失せ物を暇な時に探す、というような気軽さではなかった。
真剣そのもので、かなりの熱意をもって物事に当たっているのが分かる。
この様子では、おそらく家の人にも胸襟を開くということをしていないんじゃないか。密かに静かに、単独で――そんな慎重さも窺える。近しい者にすら、決して打ち明けられないこと。同時に、並々ならぬ決意で臨まねばならないこと。
だとしたら、この人は――
あるひとつの可能性に思い至った。
まあ考えてみれば、当然の帰結ではあると思う。実の息子なら、何も不思議なことはない。
私は満さんにした同じ質問を、貴人さんにも投げ掛けてみた。
「火事の後も、ずっとこちらで過ごされているそうですね。何か理由がおありですか?」
見てはっきり分かるくらい、顔が強張った。
若い分だろうか。
満さんのようにすぐには動揺から立ち直れず、数秒ほどぴたりと静止して固まったままだった。
やがて、彼はゆっくり首を横に振って出し抜けに小さく笑った。
だが、目は全く笑っていない。私にひたと視線を据えながら、力強く言った。
「元々、向こうの大学を出たらこっちに移り住む予定だったんだ。幼い頃を過ごした城だからね。別にそういう考えに至っても不思議じゃないだろう? 生家が恋しくなったってわけさ」
勘繰らないでくれ――
そんなちょっとしら苛立ち、怒気にも似た感情が言葉の端々に滲み出ていた。
彼は腹の底に淀む黒々としたものを一つ残らず追い出すように大きく息を吐いて、先を続けた。
「まあ、個人的にちょっと色々思うところがあってね。今は仕事をしながら、のんびり絵でも描いてここで暮らしているよ」
話している最中、彼は私からほんの少し視線を外して別のところを見ていた。
彼は上を見ていた。
もちろん、にわかに星が瞬き始めた空を眺めていたわけじゃない。
私達の背後には、
ほぼ確信を得た私は、謝りたくなって深々と頭を下げた。
「不躾に色々込み入ったことを訊いてしまって、申し訳ありませんでした」
「えっ? ああいや、いいんだ。とにかくここを発つまでの間、ゆっくりしていきなよ」
こうべを垂れたまま、私は誰にも気付かれないようにそっと笑った。
自分自身が可笑しくなってしまったのだ。
同情や肩入れの類いは一切排すると決めていたのに、どこかホッとしている自分がいる。そりゃそうだ。
もちろん、フリの可能性は捨て切れていない。
腹芸の達者な御仁だったとしたら、まだまだ油断はできない。
それでも、彼に対する評価は概ね決まったような気がする。
例によって、自分の直感を信じるとしよう。
彼を突き動かす原動力は、満さんとは別のところにある――
貴人さんに別れを告げて、遊び回っている子供達を回収して大人達のところに戻ってみると、田畑さんは開口一番こう言った。
「さあ、そろそろ中を案内するか。入っちゃいけない場所もあるからな。しっかり付いてきてくれよ」
私は歩きながら、また意識を深い思考の海に沈めていった。
さて――
色々探りを入れてみて、一定の収穫はあった。試してみた甲斐はあったと思う。
その上で、合理的な考えとか今はまだ抜きにして、ただ己の直感のみを信じて目星を付けるとしたら――やはり間宮満さんということになる、か?
ただ、どうにもしっくり来ないのもまた事実だった。
どこまでも感覚の話になるけど、ガツンと来るものがない。作者の思惑にまんまと乗せられてなるものか、と反骨心めいた感情を抱いている自分がたしかにいる。要は、
一体誰なんだ、今回のエピソードの黒幕は――?
くれぐれもマークする相手を間違えるわけにはいかない。出足でつまずけば、それだけで命取りになる。慎重かつ大胆に、スピーディーに――あらゆることが求められる。
やはり、まだ見ぬ最後の一人に賭けてみるしかないか。
間宮マス代。亡くなった夫人の実母にして、間宮家の現当主。
満さんがあんな状態だと言うから気になって田畑さんに詳しく尋ねてみると、十年ほど前から足腰を悪くして城にこもりっきりらしい。
さらに高齢が祟って、認知機能の低下も顕著になってきている。娘の死のショックもあってますます記憶が曖昧になり、いつかこの城に帰ってくると未だに思い込んでいるのだそうだ。
普通であれば、そんな老人がアグレッシブに火を着けられるとは到底思えない。
気力も体力もないわけだから。
だが、そんな人であればあるほど
本当に間宮マス代が全ての元凶であるならば今度は子殺しということになるから、それはそれでイヤではあるんだけど。
『私』が来てここがそういう世界だと理解してからは、もう目に映る事象は全て疑って掛かることにしている。頭の中に浮かんだ可能性は、それがどんなに無さそうなことでもぞんざいに扱うことはしない。一つ一つ、細かく精査する。
過信は禁物だが、もはや決め付けて掛かるほどの放胆さがないと
とにかく、会ってみよう。結論を出すのはそれからだ。
いや、こちらからわざわざ出向かなくても、自然とそういう機会に恵まれるはず。
私と相対することで隠されていた本性が剥き出しになるかもしれない。
その時は、やはりアタシ専属の
情けないけど、アタシ自身には何の力もない。
ちらりとコナン君の方を窺うと、彼はすぐさまこっちの視線に気付いた。
コナン君は何も言わず、ただニヤリと笑って力強く頷いて見せた。
★
瑠璃からアイコンタクトを受けたオレは、ただ黙ってこっくり首を縦に振った。
わかってるよ、心配すんな――
驚くべきことに、瑠璃はもうほぼ一点まで相手を絞り込んでいるみたいだ。
例の火事についても、すでにかなりのところまで考えが及んでいる。
オレも負けていられないと言いたいところだけど、やっぱり事が起こった後ならともかく今の段階なら瑠璃の方が一枚も二枚も上手だ。そう認めざるを得ない。
ならオレのすべきことは、いつも通りサポートに徹すること。
不足分を補う。瑠璃に差し迫る脅威を排除する。
オレはもう一度、瑠璃のキレイな横顔をじっと見つめた。
いいぜ、思いっきりやれよ。約束したもんな。
何があっても、オレが絶対に護ってやるって――