「ところで、雨谷さんは女優さんかなんかなのかい? お忍びでキャンプにでも来てたとか?」
玄関を潜ってエントランスホールに足を踏み入れるや否や、今まで案内役を務めていた田畑さんが急に私を振り返ってそんなことを訊いてきた。
あまりにも予想だにしていなかった質問なので、私はほんの少しの間きょとんとしてしまった。
すぐにかぶりを振って否定した。
「いえいえ、ごく普通の学生ですよ」
田畑さんは大仰なほど驚いてみせた。
「うひゃあ、そりゃびっくりだな。どえらい別嬪さんだから、てっきり。将来は引く手あまただろうなぁ」
「あらまあ、お上手」
私は上機嫌に頬を緩めた。
これだから別嬪さんなどと言われて喜んではいられない。
これこそがオトナって感じの上品な褒め方だった。綺麗だし、嫌味がない。生理的嫌悪感を全く感じさせない。そこらへんの能力に欠けるどこぞの護衛二人にもぜひ見習ってほしいものである。
「ふしだらな乳ぶら下げて、その上でかいケツまで振り回してるんだから、そっち目当ての好色男にはくれぐれも気を付けることね」
灰原さんが横でブスリと言う。
うごご、言ったそばからこの子は――!
見事に悪い手本を示してくれた。
ほんっと、ことあるごとに突っかかってくるんだから。せっかくの良い気分が台無しだ。
このままやられっぱなしってのも癪ではある。どうにかして一矢報いる方法はないものか。
一つ閃いて、私は『私』の記憶を頼りに灰原さんの本来の姿――宮野志保さんの容姿を頭の中に思い浮かべてみた。さすがにバストサイズだとか、細かい部分の特徴ははっきりと覚えているわけではないけれど、おぼろげながら大体の全体像は把握している。
どうやらアタシほどの爆裂ボディではないみたい。
私は優越感の滲み出た笑みを浮かべて、灰原さんの肩に手を置いた。
「だいじょーぶ! 灰原さんもあと十年もすればスタイルのいい立派な大人の女性に成長してるよ」
最後に耳元に口を寄せて、ねっとりと囁くように言い放った。
「まあ、アタシには負けるんだろうけどねぇ。いつまでも嫉妬は見苦しいゾ!」
えーい、と頭が傾くくらい柔らかなほっぺたを指先で突っついてみる。
その瞬間、彼女を取り巻く空気が一変したのがはっきり分かった。
ぎゅるりと首を回して、憤怒に満ち満ちた顔をこちらに振り向ける。
般若の面、という表現すら生ぬるいかもしれない。眼光だけで屈強な体躯の男二、三人はまとめて射殺せそうだった。
血の気が引いたのは言うまでもない。
やっちまった、ついチョーシに乗ってしまった――
お仕置きの一つでも覚悟していたけど、爆発寸前の怒りをなんとか落ち着けた彼女は大きく息を吐いて、ぷいっと顔を背けた。
「決めた。今度アンタがウチに来ても茶菓子のもてなしは一切無しにしてやるわ」
アカン、物理的な折檻より厳しい処置かもしれない。最強のカードを切られてしまった。
生殺与奪の権利を握られているようなもので、こうなると私はなす術もない。平身低頭で平謝りするか、さらに身を深く沈めて土下座するか。二択になっていない二択、どちらかだ。読書に耽りながらのティータイムは誇張でもなんでもなくアタシの生命線なので、それを没収されると赤ちゃんのようにギャン泣きしてしまう。
い、いや、まだだ――!
今回のアタシは一味違う。この程度で簡単に膝を折るわけにはいかない。
私は徹底的な抗戦に打って出た。
「お、おうぼーだー! 本当のことを言って何がアカンのですか、灰原さん!?」
「今すぐ頭下げないと出禁にまでしてやるわよ」
「ほんっとーにスイマセンでしたアタシが悪うござんした後生ですこの通りです」
即座に両手両膝を地に着け、背中を丸めて床におでこをグリグリと押し付ける。
こんな情けない即オチ二コマみたいな陥落の仕方があるかよ、ちくせう。
「なんというかまあ、愉快で元気のいい娘さんなんだな?」
「おかげで退屈したことなどありゃせんよ」
博士と田畑さんが苦笑している。出会った当初は互いに印象最悪であれほどいがみ合っていたのに、今ではすっかり意気投合している。
「助けて、アタシの騎士様!」
「はいはい、自分でなんとかしような?」
コナン君に抱き着いて泣き付いて、ついでにどさくさに紛れてスリスリと互いの頬を擦り合わせるも、片手でぐいっとすげなく押し返される。
触らぬ神に祟りなしってか。我関せずの姿勢を貫くみたいだ。
あくまで彼の専門は殺人鬼。この手のオーガ退治は御免被るということらしい。
「なんか瑠璃おねーさんってすぐ調子に乗るし、ドジっ子だし……」
「ゲームはすっげーヘタだし、灰原にはいっつも怒られてるし……」
「あまりこういう大人にはなりたくないですね……」
ごふぅ――!
少年探偵団の三人にも蔑みと憐みとが綯い交ぜになった目で見つめられる。
フルボッコだよ、もう。
いいかい、キミ達。今からでもアタシを反面教師にしなさい。
間違ってもこんな情けない大人になっちゃいけないよ、トホホ――
★
バカをやるのもほどほどにして、私はすぐに頭を切り替えた。
皆で夫人や先代の肖像画を眺めている間も、例の火事のことが気に掛かっていた。
意識のほとんどはそっちの方に向いていた。
警察は本件に事件性はなく、火の不始末が原因だったと結論付けた。
なぜそうなるか。
現場には特に不審な点はなく、厳重な警備の中で怪しい人物の目撃証言も一切なかったからだ。
ならば、先ほど考えた「事前に何らかの仕掛けを施しておいて遠隔地から着火した」という線は除外するしかない。
今は使われていない通路等があり、そこから密かに忍び込んで直接火を付けたというケースも考えたが、田畑さんによると正規の入口が一つだけで他のルートは一切ないと言う。もちろん窓からの侵入も不可能だ。
被害者の一人を言葉巧みに操って、他人を巻き込む形で自殺を教唆した、なんてケースも一応考えたが、そんなことまで候補に上げてしまったらキリがない。なにより
道を切り開いていくなら、やはり第二のルートの方か。
田畑さんのこの証言をどう崩すか。
じゃあ、こうしよう。
あるいは犯人と何らかの協力関係にあって、嘘を吐いているか。
まあ、普通に考えれば前者だろう。『名探偵コナン』は単独犯のケースがほとんどのようだから、今回も極力その前提で推理を進めていく。
私は足元に視線を落として、つま先でコツコツと床を叩いてみた。
例えば隠れた通路が地下に張り巡らされているとしたら、どうだろう。
まるで水脈のように、呆れるほどの広範囲で。様々な場所に繋がっている。これなら田畑さんが知らないのも無理はない。目には見えないわけだから。
私は自分自身を鼻で笑った。相変わらず突飛な考えだ。
だが、
異様なほど勘が働くし、怪しいと睨んだ事柄はほとんど全てが『クロ』。
恐ろしいまでの的中率を誇る生粋の爆運女。
関係各位の私への評価は概ねそんなところで一致している。
真面目な話、どこかで買い取った古めかしいお城なら、そういう避難用の通路が備え付けてあったとしても不思議ではない気がする。普通の民家ならともかく。
もし仮にそんなものが実在するとしたら、今までの話や状況から推理するに、それを把握しているのは
その人物だけが自由に行き来できるのなら、他に様々なことができただろう。
証拠や凶器など、
私はさらに深く考えた。
間宮マス代、か――?
現当主として実権を握り、この家に長く携わってきた彼女であれば、そのような地下の存在に気付いていたとしてもおかしくはない。
なにせ、彼女だけが唯一の古株で――
そこまで考えた時、私はハッと息を呑んだ。
なぜだ。
なぜ
満さんはこの城に居付いてまだ四年。
貴人さんは生まれも育ちもこの家だけど、幼少の頃にはすでに海外留学の壮途に就いていて、同じく四年前に戻ってきたばかりだ。田畑さんも十年、二十年と長く勤めてきたわけではなく、まだまだ新米の域を出ないらしい。
思えば、これまですれ違ってきた他の使用人達も比較的若い人が多かった。
なぜ新参ばかりで古参の人間が少ないか。
新陳代謝が上手くいっているとか、そう単純な話じゃないだろう。
田畑さんの言っていたことを思い出していた。
夫人だけでなく、長年仕えたベテランの執事、メイドも大勢亡くなった、と。
とんでもない事実に気付いたような気がして、ドッと冷や汗が出た。
ぽつぽつと肌の上が一つずつ粟立つような感覚だった。
まさか――
実の娘だけでなく、旧友や使用人達が一堂に会する己の誕生日を利用して。
「ほう? これはまたずいぶんな大所帯じゃのう」
しわがれた声が突如耳の奥に響いて、私の意識はスッと現実に引き戻された。
私だけでなく、他の皆も声がした方を向いていた。
思いのほか早く現れたな、というのが正直な感想だった。
あれが間宮マス代か――
彼女は車椅子を自走して我々の前にやって来た。
「あぁ、これはすみません。大奥様」
田畑さんがベレー帽を脱いで文字通り腰を低くしながら、慌てて老婆に駆け寄っていった。
間宮マス代は私達を前にしても、やや物珍しそうにしているだけだった。ぎょっと驚くわけでも不快感を示すわけでもなく、ただ泰然と構えていた。
御年八十の人間に相応しい佇まいで、覇気がない。意気軒昂には程遠い。人生の最終期に差し掛かった老人らしく、雰囲気的にも肉体的にも小さくまとまっていた。
あくまで見掛けだけは――
これまでの私の考えは、例によって憶測や推測、直感に基づくもの。
まだ確固たる証拠はなにひとつない。
ただの絵空事。決め付けにもほどがある。そんな風に断ぜられてしまったら、それまでだ。
それでも私は、もはや
見てくれは背中の曲がった小ぢんまりとした老婆なのに、人の皮をかぶった物の怪に見えて仕方がなかった。おぞましいとさえ思っていた。
「で、この者達は?」
「あ、ああ。この人達は満様の御友人の科学者とその連れでして……」
もしお義母様に何か聞かれたら私の友人ということで通しておきなさい、という満さんの指示を田畑さんは厳粛に守った。
さて、どうしたものか――
私はなかなかに困っていた。
先の二人のようにちょっとした世間話にでも興じて口裏を引いてみたいけど、呆けたフリにしろそうでないにしろ、こういった人物の相手はより難しい。「何を言っているのか、ようわからんのう」などとトボけられたらそれまでだし、本当に周囲が言う通りの老人なら、そもそも会話が成立するかどうか。
いや、それ以前に田畑さんが会話することの許可を出してくれるか。
待ち受けるハードルはあまりにも多い。
手をこまねいているうちに、間宮マス代が我々の姿を順に認めていく。
そうして私のところまで来た時――なぜか次の者へ移らず、そのままぴたりと止まった。
視線が私の顔に留まったままだ。
なんだ――?
眠たそうなまぶたの隙間からぎょろりと覗き出る眼がたしかに私を見て――いや、
私は石像のように動かなくなってしまった。まるで蛇に睨まれた蛙だった。
指先ひとつでも動かしてしまったら、その瞬間に食い殺される。わけもなく、無意識のうちにそんなことを考えた。
やがて、間宮マス代はいきなりスイッチが入ったようにカッと目を見開いて、狂喜したように甲高い声を上げた。
「おぉ、娘……
――えっ?
間宮マス代はせっせと車輪を回して、車椅子を急発進させた。
そのまま撥ね飛ばすんじゃないかと思うくらいの勢いで突っ込んできたので、咄嗟に身構えてしまった。器用なもので少しもつんのめることもなく、熟練ドライバーさながらの運転技術でぴたりと停止した。
「あぁ久しい、久しいねぇ……! いつ頃帰って来たんだい? いるならいるで声くらい掛けてくれればいいのに」
潤んだ目に、涙ぐんだ声。
縋るようにして私の手を取り、握っては離し、握っては離し――そんな高齢者向けの握力トレーニングのような動作をしきりに繰り返している。私を実の娘と誤認しているのなら、これは在りし日の肌の温もりや感触を確かめるためか。
私は率直に疑問を抱いた。
本当にそうか――?
傍目には感動的とも、あるいは残酷にも思える光景だっただろう。
しかし、私自身はいまひとつ腑に落ちないものを感じていた。それどころか、はっきり嫌悪感さえ覚えていた。熱烈な歓迎を受けるその一方で、言葉や表情の裏側に潜む
私はすでにこう確信していた。
愛娘じゃない。
間宮マス代は変わらず興奮気味にまくし立てていて、対する私は一言も返さないまま、じっと固い表情で老婆を見つめていた。
見かねた田畑さんが私達の間に割って入った。
「違うんですよ、大奥様! さっきも申し上げた通り、この子は客人の連れです。娘様ではありません」
「えっ?」
横から間違いを指摘されると、老婆はしばらくの間ぽかんと口を開けて私を見上げていた。
やがて自身の勘違いをはっきり自覚したのか、しおれた花のようにがっくりこうべを垂れて目を伏せた。見るからに気落ちしていた。
「あぁ、たしかに。よく見れば全然違うねぇ。なんとなくあの子に雰囲気が似ていたから、てっきり」
老婆の手と腕がするすると私から離れていって、そのまま力なくだらりと体の横に垂れ下がった。意気消沈するのも束の間、彼女はまた面を上げて私を見た。
「おなごや。つかぬことを訊くが、歳は?」
質問の意図が理解できず、私は一瞬答えるのにためらった。
だけど、相手に歳を尋ねられるなんてさほど珍しいことでもないだろう。回答を差し控える意味もない。私はいくらか強張った声で正直に申告した。
「十七になります」
瞬間、老婆の瞳にまた活気が宿り始めた。頬が紅潮して、口が三日月を描くようにニイッと笑った。ホラー映画さながらの狂気に満ちた相貌に、またゾッとした。
「それはまた、ずいぶんと若い……! 成熟した体付きゆえにもう少し年季が入っておると思うておったが」
彼女は変わらずギラついた目で話を続けた。
「美人薄命という言葉があるだろう? あれは真理だよ」
唐突に何の話が始まったのか、最初はよく分からなかった。
「容姿の美醜は生まれついてのもので、個人の努力ではどうすることもできない。運悪く『醜』に降り立った者は、それは多大な苦労を強いられていることじゃろう。だがそれは『美』の側も同じこと。端正に整った者はそちらの方に運気を使い果たしてしまうのか、他の部分が恵まれない。交通事故に遭ったり、大病を患ったり。そういう傾向が強い。なまじ容姿が優れている分、悪漢に目を付けられることもある」
よく喋る。気分が乗っているせいなのか、やたら饒舌だ。
横目にちらりと田畑さんの様子を窺うと、まるで未知の生物でも見るかのように困惑していた。
「はっきり言おうか。おぬしのような佳人は得てして短命に終わる。ある日突然、
ドクン、と心臓が跳ねて胸の内側を叩いたのは、その時だ。
未来を見透かしたような物言いに、素直に驚いたわけじゃない。
「瑠璃おねーさんは死なないもん!」
歩美ちゃんがムッとした顔で私の前に立った。
両腕を目いっぱい横に広げて、まるで死守するように老婆の前に立ちはだかる。
可憐な少女の可愛らしい精一杯の抗議に、間宮マス代は片手を上げて「ほっほっ」と笑った。
「もちろん、これは単なる物のたとえ。そういう傾向にあるから存分に気を付けよ、というだけの話じゃ」
彼女はあらかた語り終えたことで満足したのか、くるりと踵を返した。
「色々驚かしてしまってすまなかったね。先の短いババアの、栄えある未来が待っている若者へのちょっとした金言だとでも思っておくれ」
戻る途中で、彼女はなぜか車輪を漕ぐ手を止めてその場に停止した。
肩越しに私を振り返って、低く唸るように囁いてきた。
「後悔せぬよう、今を懸命に生きるといい。人間なんて一分一秒先にはどうなっておるか、全くわからんのじゃからなあ……」
言うだけ言って、廊下の向こう側へさっさと退散してしまった。
皆、一様に同じ表情を浮かべていた。
誰もが唖然と老婆が消えていった先を見つめていて、未だに二の句を継げられずにいる。
「瑠璃おねーさん、なんだかあのおばあさんに気に入られちゃったみたいだね」
歩美ちゃんがボサッと突っ立っている私を見上げて、そんなことを言い出した。
至極真っ当な感想を述べただけなんだろうけど、私にとってはあまり歓迎すべきことじゃなかった。気味の悪いこと言わないでよ。
歩美ちゃんが口火を切ったことで、停滞していた場の空気がようやく動き始めた。次いで田畑さんが口を開いた。不思議そうに首を捻っている。
「いやあ、驚いたな。あんなに元気よくハキハキと話す大奥様を見たのは久しぶり……いや、初めてかもしれん。でも、なんだか十歳ばかし若返ったように見えたよ。キミのおかげさ。ありがとな!」
「はあ……」
間抜け面して気のない返事をするしかなかった。
周りの人間だけが勝手に盛り上がっていて、当の私はぽつんと蚊帳の外に置かれている。疎外感にも似た感覚だった。
思わぬイベントに遭遇した私達は、気を取り直して再び歩き始めた。
私はまた独りでに考えをまとめていた。
結局、私自身はほとんど言葉を発していないのに多くの情報が手に入ってしまった。
それはなぜか。
やはり、普通の老婆じゃない。ひょっとすると、本当の魑魅魍魎なのかもしれない。
何度も経験しているから分かる。あれは獲物を捉えた時の眼だ。
人通りの多い街中で物陰からじっと手頃な女を物色している、そんなゲス男の値踏みするような視線。とっくに盛んな時期は過ぎ去っているはずだし、男と女の違いはあるけれど、彼女の眼は間違いなくそれと同種だった。
彼女はしっかり頭が働いている。そして、おそらく足もちゃんと動く。
記憶や思考が覚束ない人間の顔じゃない。狡賢い女狐のそれだと、はっきり確信した。
あの数秒の間で、緻密な計算を立てているのが分かった。
決断しなければならない。もう保留にしていられる時間もない。
四人のうち、相手は誰か――
今更、再考するまでもないだろう。私の中で、とっくに腹は決まっている。
彼女があの中で最も何かを感じさせた。あの人が例の塔に火を着けて、十数人もの命を葬り去った。これからはその前提で検証や裏付けを進めていく。
私はごくりと息を呑んだ。震える体を落ち着かせることに努めた。
やれやれ、これはかつてないほどハードだぞ。
なにせ、危惧した通りの展開になりつつある。
そう、おそらくは私自身がターゲットになった。しかも、
いつ犯人に襲われるか分からない恐怖の中で調査を進めなければならない。
これは早急に手を打つ必要がありそうだ――
★
極上の獲物が手に入った。
いや、正確にはまだ掌中のものとしたわけではないが、もはや手に入ったも同然だ。
ここは
あぁ、玉のように美しい娘――!
思い出しただけで胸が熱くなってしまう。
歓喜するあまりつい喋り過ぎてしまったが、これが興奮せずにいられようか。
なにせ、これまで仕留めてきた獲物は
だが、あの小娘はあまりにも次元が違う。
よく肉が付いていて、新鮮だ。加えて、容姿は秀麗。あのような上玉に恵まれることはこの先二度とないと、はっきり断言できる。
汚らしい声で鳴き続けた前の二匹と違って、あの娘はさぞ美しい音色を奏でることだろう。
あぁ、あの娘の全てを滅茶苦茶にしてやりたい。
何の苦労もなく、不自由もなく。これまでの人生をただ無為に過ごしてきたであろう、あの女。あの若さや美貌を目の当たりにしていると、嫉妬の炎がメラメラと燃え上がる。
私自身の人生はすでに投げ打ったに等しい。
全ては先代めが隠した宝を手に入れるため。だが成果は一向に上がらず、時間だけが刻一刻と過ぎていく。
なぜ私がこんな目に遭わねばならない――!
私がこんなにも苦しい思いをしているというのに、なぜあの娘は楽しそうにヘラヘラと笑っていられる――!
少々やりすぎてしまうかもしれん。だがまあ、その時はその時だ。
長く愉しめるようにせいぜい加減して、じっくり時間を掛けてなぶり殺してやろうじゃないか。満開に咲いた花が枯れ果てるその時まで、これからの過程が今から楽しみだ。
そうさ、宝だけじゃない。
あの娘の血と肉も、すべて私のもんさぁ――!