コナンの世界に転生した少女の物語   作:エリンギどくだみ

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中編――『令和のミス・マープル』

 辺りは水を打ったようにしんと静まり返っていた。

 耳朶(じだ)を打つのは、自分の荒い息遣いと早鐘を打つ心臓の鼓動、それに別室から響く賑やかな喧騒だけ。私達の部屋だけがまるで氷漬けになったみたいだった。誰一人として口を利かないし、身動ぎもしない。

 

 皆、一様に驚愕している。

 突き刺さるような視線が四方のあちこちから私に集中している。

 

 当然だよね。バンドの関係者でもないただのゲストがいきなり絹を裂くような悲鳴を上げて、メディアに引っ張りだこの有名人を叩く、なんて暴挙に出たわけだから。

 字面のインパクトが凄まじい。冷静に考えなくてもとんでもない狂態で、ドッと冷や汗が出た。やむを得ない事情があると分かっているのは私ただひとりで、当然周囲の理解を得るのは難しい。

 

 まったく、損な役回りだ。

 

「な、なんだよ……急に」

 

 中でも、引っ叩かれた木村さん本人は特に度肝を抜かれた様子だった。

 へなへなと床に腰を落とし、ぽかんとした表情を顔に浮かべて私を見上げている。よほど驚いたみたい。まだ頬はほんのり紅色に染まっているものの、酔いはすっかり吹き飛んで素面に戻っている。

 

 とにかくホッとした。

 酔っ払いは得てして感情のコントロールが利かないものだから、逆上した彼に殴り返されるんじゃないかと思って戦々恐々としていた。

 

 その心配はどうやら杞憂に終わったらしい。

 私の行動があまりに出し抜けだったので、怒りが激発するより先に呆気に取られてしまったみたいだ。

 

「蘭」

 

 私は気を引き締め直して、蘭に鋭く呼び掛けた。

 

 ()()()()()()()

 目を開け、口を動かし、表情を顔に浮かべている。

 

 木村さんの命を救う、というメインミッションはなんとか成し遂げられた。

 本来の運命を捻じ曲げて、殺人事件を殺人『未遂』事件に変えることができた。

 

 なら、次はどうするか。

 それはもちろん、犯人を明らかにすることだ。

 

 ここまで来て途中下車はない。一時停止も一切ナシ。

 後はもう物語の終点に向かって一気に突っ走るだけだ。

 

「警察に連絡して。毒殺未遂事件だって」

 

 私が放った衝撃的な一言に、周囲は騒然とした。

 うろたえて何度も空を噛む山田さんや芝崎さんの姿を見ていると、内心の声が聞こえるようだった。

 

 毒殺――?

 この上何を言い出すんだ、この娘は。

 

 本当に気が触れているんじゃないか――?

 

「えっ? で、でも……」

 

 蘭は尻込みした。

 少しも椅子から腰を浮かそうとしない。とても実行に移せないようだった。

 

 無理もないと思う。蘭もまた、彼らと同じ心境なんだ。

 

 瑠璃ちゃん、本気で言ってるの――?

 

 仮に互いの立場が逆だったとしたら、私も同様に躊躇して正気を疑っていたに違いない。

 たとえ、相手が信頼の置ける友だったとしても。

 

 正直、今は説明する時間も惜しい。

 私は語気を荒げて「いいから!」と強く促すと同時に、目顔で「信じろ」と訴え掛けた。

 

 私の強固な意志を汲み取ったのか、蘭はまだ幾らか戸惑いながらもこくりと強く頷いて、ケータイを片手に室外へ駆け出していった。

 

 私は再び木村さんに向き直った。噛んで含めるように言い聞かせた。

 

「いいですか、木村さん。絶対に、右手を口元に当てたりしないでください。いいですね、絶対ですよ?」

 

 そう、毒が塗り込まれていたのはあのオニギリじゃない。()()()()だ。

 毒が付着した右手でオニギリを掴み、それを口に放り込もうとしたから、彼は危うくお陀仏になり掛けたんだ。

 

 状況からして、あらかじめ料理に毒を仕込んでおくやり方では殺害は不可能に近い。

 

 例えば、料理全てに毒が混入されていて木村さんだけが食べてもいいという決まりなら、確実に彼だけを始末できる。

 でも、実際は私以外の全員が料理に手を付けている。もちろん、彼らは体調に異変を来たしてなどいない。

 

 あのオニギリにだけ毒を仕込むのは――?

 

 この線もだいぶ無茶だ。

 木村さんが手に取るかどうかは全くの未知数だし、その前に誰かの口に放り込まれてしまう可能性の方がずっと高い。確実性に著しく欠ける。

 

 山田さんが犯人であのオニギリを渡す直前に毒を混ぜた、というケースも一応は考えてみた。

 

 その線も限りなく薄いだろう。

 二人のやり取りをつぶさに観察していたけど、そんなことをしている素振りは一切見受けられなかった。

 

 だから、毒が塗付されていたのは彼の右手の方だ、と結論付けるしかない。

 

 最も肝要なのは、毒を盛った方法とそのタイミングだ。

 

 タイミングの方は容易に見当が付く。

 木村さんは『血塗れの女神(ブラッディビーナス)』を歌う直前、サンドイッチを頬張っていた。その時点では特に身体の異常は認められなかったのだから、毒が盛り込まれたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになる。

 

 つまり、犯人は私達の視線が集まっている中で犯行に及んだ、という事実が浮き彫りになる。

 

 堂々と、簡単に――

 

 情報を整理し終わった私は、山田さんと芝崎さんに注意を促した。

 

「室内の物にはくれぐれも手を触れないでください。殺人未遂の現場ですから」

 

 いきなり奇行に走った少女がわけのわからないことを言い出して、その上なぜだか我が物顔で場を取り仕切り始めた。

 周囲の目にはそういう風に映ったことだろう。

 

 ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。

 山田さんは苛立ちをあらわにしながら私に詰め寄った。

 

「なんなんだ……? さっきから何を言ってるんだよ、君は」

 

 実を言うと、私は内心ヒヤヒヤしていた。

 

 ダ、ダイジョブだよね――?

 

 私のこれまでの行動は、全て推測の上で成り立っているものだ。

 本当に毒殺未遂事件が発生しているか、肝心の確認を済ませていない。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 これがとんだ思い違いだったとしたら、どうだろう。

 バカな女が勝手に勘違いして過呼吸を起こしてぶっ倒れ掛けた。そんな与太話で済めばいいけど、生憎そうはいかない。虚偽の通報で警察を動かすわ、所属アーティストに暴行を加えたことで事務所の怒りを買うわ、終いには鈴木財閥の顔に泥を塗るわ。

 

 もう個人の範囲で済む話ではなくなっている。

 訴えられてもおかしくないよね。人生の経歴に一生モノの傷が刻まれる、そんな恐怖の事態だ。

 

 体の先端から徐々に血の気が失せていくような気がして、ゴクリと生唾を飲み込むと――

 

 「瑠璃姉ちゃんの言う通りだよ」

 

 子供の甲高い声が響いた。コナン君だった。

 

 見ると、彼はまだ腰砕けになっている木村さんの右腕を掴み、鼻先を手のひらに近付けてスンスンとうごめかしていた。

 

「この臭い、たぶん青酸カリじゃないかな?」

 

 コナンくん、キミってヤツは――!

 

 心の中に巣食っていた暗黒の霧が一気に霧散したような気がして、私はたまらずむせび泣きそうになってしまった。

 

 まったく、この小さなナイト様は。

 いつも絶好のタイミングで私のピンチに駆け付けて来てくれる。

 

 彼の本当の身分を知る者として、これほど心強い保証はない。

 

 一方、山田さんや芝崎さんは腑に落ちない様子で困惑気味に互いの顔を見合わせている。

 そりゃそうだよね。二人にしてみれば、可笑しなことを口にする可笑しな子供が一人から二人に増えたというだけの話だ。

 

「でも……」

 

 コナン君は何か言いたそうな目で私をじっと見据えた。

 

 うっ――

 

 ある程度予想していたこととはいえ、いざ現実になると思っていた以上に圧がすごい。

 どんなに体が縮んでも、やっぱり彼は東の高校生探偵、工藤新一だ。

 

 何を問いたいのか瞬時に理解した私は、その刃物のように鋭い厳しい視線から逃れるようにそっぽを向いて、素知らぬふりを通した。

 

 お願いだから、()()()()()()は訊かないで~!

 

 半ば嘆願するようにひたすら祈る。

 答えに窮するのは目に見えていた。たとえ体の良い言葉を総動員して説き伏せようとしても、頭のてっぺんから爪先まで理論武装したこの少年にはまるで通用しないだろう。

 

 必死の思いが通じてコナン君が気を利かせてくれたのか、結局それ以上追求されることはなかった。

 

「達也っ!」

 

 その時だった。

 

 木村さんを呼ぶ声と共に、どたばたと騒がしい足音がこちらに近付いてくる。

 やがて、一瞬蹴破ったのかと思うくらいの勢いでドアが開かれた。血相を変えた女性が一人、つんのめるようにして室内に飛び込んできた。

 

 スタジオに遅刻の連絡をしに外へ出たはずの寺原さんだった。

 

 全速力でここまで駆け付けて来たのだろう。

 今の寺原さんは、まるでフルマラソンを完走したランナーのようだった。顔中汗だくで、息切れのせいで肩が大きく上下している。ついさっきまでの私と良い勝負かもしれない。退出する前に脱いだジャンパーを脇に抱えていた。

 

「達也……」

 

 彼女はようやく身を起こした木村さんを茫然と見つめながら、もう一度その名を呟いた。

 壊れたお喋り人形のように、抑揚を欠いた声で。

 

「その、大丈夫、なの……? さっき毛利さんに……あなたが毒を盛られて……殺され掛けたって……聞いたけど……」

 

 私に盗み見された時のように、彼女はひどく狼狽していた。

 完全に顔から血の気が失せている。比喩でも何でもなく、本当に血が通ってないんじゃないかと思うくらい唇まで真っ青だった。手足の先はぶるぶると震え、見開かれた目は驚愕の心中を表すように大きく揺れ動いている。

 

 彼女の姿を見て、ほとんどの人は「毒殺未遂の報せを聞いてひどく動転しているんだろう」と受け取るはずだ。

 

 ()()

 

 私は確信した。

 あの動揺の仕方、間違いない。

 

 寺原さんは()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「さ、さあ……? 俺にも何が何だかよくわからなくてよ」

 

 木村さんはちらりと私を横目に見ながら、首を横に振った。

 寺原さんはそんな彼に駆け寄り、ポンと肩に手を置く。

 

「とにかく無事なのね? なら、良かったわ……」

 

 安堵する裏で微かに引き攣った笑みを口元に湛えたのを、私は見逃がさなかった――

 

 

 

 

 

 

 警察の出足は速い。

 背中に羽でも生えているのかと思うくらい迅速な出動だった。通報からほとんど時間を掛けず、彼らはこの事件現場の一室に雪崩れ込むようにして押し入ってきた。

 

 立派な口髭を貯え、茶色の中折れ帽とコートを着用した恰幅の良い刑事が私達の目の前で「ふうむ」と思案するように唸りながら、部屋の中を見渡している。

 

 彼もまた、コナンの中では知名度の高いキャラクターだ。

 

 警視庁捜査一課に所属する名うての警部、目暮十三(めぐれじゅうぞう)――

 

 公正明大で、熱い正義感と使命感を秘めた優秀な刑事ではあるのだけれど、如何せん犯人のミスリードに引っ掛かる場面も多々あり、その推理力は工藤君など名立たる探偵達に比べるとやはり劣る感じは否めない。

 

 ちなみに、私はすでに目暮警部の面識を得ている。

 下の名前で呼ばれるぐらいには親交があった。

 

 彼はやがて、詳しい事情は分かりました、と得心したように言った。

 

「まず、木村さん。詳しい検査はこれからですが、コナン君の言う通り、あなたに盛られたのは青酸カリと見てまず間違いないでしょう」

 

 警部の言葉を受けて、私とコナン君以外の全員が一斉にどよめいた。

 ごく当たり前のことだけど、半信半疑、いや、ほとんど十割懐疑的な目で見ていた彼らも、警察の見解であれば十分に信用に足るらしい。

 

「マジかよ……」

 

 木村さんは絶句した。彼が受けた衝撃とその落胆ぶりは特に群を抜いていた。

 無理もない。毒物を盛られたということはつまり、何者かが明確な殺意を以って彼を害しようとしたということに他ならない。

 

 動機がない私達部外者組を除けば、おそらく他のメンバーの誰かに――

 

「あー、それで……ちょっと瑠璃君に伺いたいんだが。うーん……」

 

 目暮警部は頬をぽりぽりと掻きながら、私に質問を投げ掛けようとする。

 妙に歯切れが悪い。なにやら言い淀んでいる。

 

 何を訊き出したいのか、大いに予想が付いていた私は観念したように粛々とその時を待った。

 

「さすがは瑠璃君と言いたいところなんだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだね? そこが不思議でならないんだが」

 

 ――そりゃそうだよね。

 

 当然の疑問だと思う。

 

 私は顔の裏側で表情を曇らせた。

 最も痛いところを突いてくる。コナン君も、たぶんそれを訊きたがっていたんだ。

 

 さて、どうしたものか。

 ここは「独特の甘酸っぱい臭いがして、それで分かった」とする方が無難じゃないか。一応、筋が通っていると思えなくもない。

 

 が、それは徹頭徹尾してはいけない答え方だ。

 

 私はあの時、部外者四人組の中で彼から最も遠い位置に腰を下ろしていた。

 毒に一番近い本人でさえ、その悪魔の芳香についぞ気付くことはなかったのに、どうして私が判別できるのだろう。犬のような鋭い嗅覚を持っているわけじゃあるまいし。

 

 大変失礼ながら、目暮警部程度ならその弁明でギリギリ押し通せるかもしれない。

 

 でも、あの優秀な頭脳を持つ目敏い少年だけは決して主張の穴を見逃さない。これからも、きっとそうだろう。

 まったく、事件に対処しながら国内屈指の名探偵にも気を払わないといけないなんて。こっちの世界ではまだ十七歳のうら若き乙女なのに、ストレスで肌がカサカサに荒れてしまいそうだ。

 

 いいだろう。とっておきの『秘策』がある。

 

 私はコホンと咳払いした。

 

「分かりました、お教えしましょう。それは――」

 

 目暮警部の喉仏がごくりと上下した。

 どんな言葉が飛び出すのか。緊迫の面持ちで次の二の句を待っている。

 

 私は鈴を転がすような音色の声を部屋中に響かせた。

 

「ビビッと来たんですよ! この私、令和のミス・マープルと謳われる雨谷瑠璃の鋭利に研ぎ澄まされたシックスセンスがね!」

 

 瞬間、しーんと場の空気が静まり返った。

 猫も杓子も目が点になっている。ぽかんと口を開けて、その場に縛り付けられたかのように硬直している。

 

 頼む、頼む、頼む――

 お願いだから、そんな目でアタシを見ないで~!

 

 早くも顔が火照り出した。目尻に少し涙が浮かんでいる。

 誰か、少しくらいは私の苦労を理解してくれ。好きでこんな痛いキャラを演じているわけじゃないんだ。

 

「……はあ? み、みすまーぷる?」

 

 ようやく、幾らか驚愕から立ち直った目暮警部が言葉を発した。

 「誰ソレ?」とでも言いたげな顔で、全くピンと来ていない。

 

 くそう、やっぱりホームズより知名度が劣るのか、あのおばあちゃん。

 足で証拠を探し回るんじゃなくて、経験則に基づいて推理を進めていく様が今の私にそっくりかなって思ったんだけど。

 

 ええい、もうままよ!

 

 続けるしかない。

 愚策は承知の上だ。私は芝居掛かった口調で、身振り手振りを交えながら大仰に弁舌を振るう。歌劇団の演者のように。

 

「そう、我々が見ている前で毒を盛った犯人の手並みは見事なものでした。その早業は私が持つ三種の神器の内の二つ、真実を見通す『慧眼』を騙し切り、怜悧な『頭脳』をも鈍麻させた。しかし、最大の武器である『第六感』だけは制御の埒外だったようです。私は瞬間、木村さんの危機を察知し、なりふり構わず飛び出して行ったというわけです!」

 

 めっちゃ早口だった。

 即興であるにもかかわらず、よくこんなスラスラと能弁を垂れることができるな、と自分に感服するくらい。

 

 「アンタ、よく噛まなかったわね」と『私』が私の肩に手を置いた。

 結局、唯一の味方は自分自身か。言うまでもなく、場の空気は依然死んだままだった。

 

 次はどうする?

 ご静聴ありがとうございました、とでも締め括れば良いのかな。

 

「ああ、そう。よく分かったよ……」

 

 恥も外聞もかなぐり捨てたゴリ押しが功を奏したのか、目暮警部はウンザリしたように短く呟いてさっと目を逸らした。

 それ以上、説明を求める気はないようだった。下手に追及したらまた延々と喋り出すんだろう、と心の声が顔に書いてある。

 

 そのつもりだもん、バーカ。

 

 あぁ、恥ずかしい。まさに汗顔の至り。

 今の私は、たぶん茹で上がったタコのように耳の先まで真っ赤に染まっている。

 

 自分で発言しておいてなんだけど、もっと他に適切な表現はなかったのかな。

 なんなのよ、令和のミス・マープルって。推理クイーンを吹聴する園子じゃあるまいし。

 

 さしものコナン君も「ハハハ……」と苦笑いするしかないみたい。

 

 本当に損な役回りだ。

 

 気を取り直した目暮警部は、顎に手を当てて再び考え始めた。

 

「しかし、瑠璃君の推理通り、あらかじめ料理に毒を盛る方法は不可能だ。だとすれば、犯人は一体どうやって木村さんの右手に……」

 

 うんうん唸りながら、頭を捻っている。

 

 なんとかなるんじゃないかな――

 

 困り果てている警部とは対照的に、私はそんな風に考えていた。

 未だ事件の詳細は思い出せなくても、手に取るように全て分かる。

 

 毒が塗り付けられた正確なタイミング、具体的な方法、そして犯人――

 

 コナン君の手を煩わせるまでもない。

 私の独力で、なんとか最後までやり通せるはずだ。

 

 毒が仕込まれたのは、木村さんが『血塗れの女神』を歌い始めてから歌い終わって席に戻るまでの間だから、その時ちょうど席を外していた寺原さんに犯行は不可能だ、と結論付けることもできる。

 

 けれど、これもまた推理物の定番だ。

 確固たるアリバイを持ち、疑わしい点が最も少ない人物が逆に事件の真犯人。

 

 あくまで寺原さんを毒殺未遂事件の犯人と断定するのであれば、こう考えるしかない。

 

 その場に居なかったから犯行は不可能、ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 やっぱり、あの瞬間をアタシに垣間見られていたのは致命的だったね、寺原さん――

 

 私は彼女の横顔をちらりと睨み据えた。

 

 

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