コナンの世界に転生した少女の物語   作:エリンギどくだみ

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幕間
江戸川コナンの決意――『雨谷瑠璃は危なっかしい』


 瑠璃について「どんな見た目の人?」と訊かれることがあったら、オレは「人形みたいなヤツ」と答えるだろう。

 

 川のように淀みなく流れ落ちる清らかな黒髪、ブラックパールをそのまま嵌め込んだような瞳。きめ細やかな柔肌は血色が良くて温かみがあるけれど、同時に作り物のような無機質さを感じさせる。

 そうしたいくつかの特徴が「人形」のイメージをもたらしたのかもしれない。懇意にしている友人をあまり物に例えるのは正直どうかと思うんだが、まったく精巧な作りで仕立て上げられていた。

 

 アイツとは高校に入ってからの付き合いだから、まだ出会って二年も経っていない。

 

 その事実に度々驚かされることがある。

 もう蘭や園子と同じくらい、長い時を共に歩んできたような感じがする。

 

 どうしてそんな錯覚に陥るのか。

 腹に落ちる心当たりがなかなか見付からなくて、結局、一緒にいて楽しいから、退屈したことがないから、というシンプルな答えに行き着いた。

 

 明朗快活を絵に描いたような娘で、喜怒哀楽の感情表現がはっきりしていた。

 よく笑い、気に入らないことがあれば子供のように遠慮なくむくれて、哀しいことがあれば素直に気落ちした姿を見せる。そんなクルクル変わる百面相を傍から見ているのが好きだった。

 

 アイツとはすぐに意気投合した。

 

 本ばかり読んでいる姿が目に留まったんだ。

 今でもそうなんだが、とにかく三度の飯より読書を愛しているヤツだった。入学したての大事な時期だってのに、人間関係の構築とかその他細々とした雑事を全て丸投げにして――それは目立つに決まってる。しかも、手に取っていたのはどれもこれも著名な推理物のタイトルばかり。

 

 これは声を掛けずにはいられない。

 

「おもしろいよな、それ!」

 

 とにかく、暇さえあればしつこく話し掛けていた。

 授業の合間の休み時間、昼休憩。さっきの話の続きがしたくて仕方がなかった。

 

 感想を言い合ったり、自分なりの考察を口にしたり、熱い議論を交わしたり――

 

 他のヤツなら「何を言っているかわからない」と匙を投げるレベルの話でも難なく付いてくるから、そりゃ盛り上がらないわけがないよな。

 

 まさかエリート養成所でもなんでもない、ただ偏差値が高いだけの普通の高校にこんなヤツが紛れているとは夢にも思っていなくて、ちょっとはしゃいでしまった。

 

 新しい出会いに歓喜する反面、色々と疲れが蓄積する時期でもあった。

 進学に伴う環境の変化で身の回りがゴタゴタしてたってのもあるんだが、蘭と園子の様子が妙におかしかったのも幾らか影響している。

 

 蘭はなぜかすこぶる機嫌が悪かった。

 逆鱗に触れるようなことをした覚えはないのに、口の先を尖らせてツンとそっぽを向くばかり。

 

 どうしたのかワケを訊いてみても

 

「べっつにー? どうだっていいじゃない」

「雨谷さんとお話でもしてくればー?」

 

 ――と、具体性を欠く発言に終始するばかりでまともに取り合ってくれない。

 

 園子は園子で、少し離れたところからオレ達二人と蘭を交互に見てひたすらニヤニヤしていやがるし。

 

 かと思ったら、なぜか瑠璃と蘭の仲があっという間に良くなっていて、同時にオレに対するけんもほろろな態度もすっかり軟化していた。

 瑠璃の方はともかく、蘭はアイツを避けてる感じだったのに。

 

 切っ掛けさえ掴めばあとはトントン拍子に蜜月の間柄になっていくと思っていたから、コレはコレで良かったんだが――

 

「女って、わからねえ……」

 

 わけがわからないまま散々振り回されたオレは、ただ疲労だけが残った。

 

 本当になんだったんだ、アレは――

 

 

 

 

 

 

 

 

「瑠璃ちゃん、最近なんか悩んでるみたいで全然元気がないんだよね」

「えっ?」

 

 ある日の夕食で、蘭がふと思い出したようにそんなことを呟いた。

 

 オレは少なからず戸惑ってしまった。

 いつもにこやかに笑顔を振り撒く、というイメージですっかり固まっていたから、鬱々と沈んでいるアイツの姿がなかなか想像できなかった。

 

 レックスの打ち上げの日を迎えて久しぶりに会ってみると、その悄然ぶりは予想を遥かに超えていた。

 口数は極端に少ないし、顔も強張っていて血色が悪い。悩みを抱えているというより単純に具合が悪いんじゃないかと思って、ぎょっとしたほどだ。

 

 どうしても気になったから、単刀直入に問い質してみた。

 身体の調子が悪いのか、と。

 

 アイツは何でもないように薄く笑って、こう言った。

 

「有名人が目の前にいるから、少し緊張してるだけだよ」

 

 相変わらず嘘が下手なヤツだな――

 

 微笑の薄い皮がただ顔の上に張り付いているだけって感じがありありとした。

 見るからに体調は万全じゃなさそうだったし、何より緊張しているだけならあんな深刻そうな顔でいつまでも考え込んだりはしないだろう。なぜだかやや離れたところからメンバー四人の行動を逐一目で追っているし。鬼気迫る感じで、見るからに普通じゃなかった。

 

 何か厄介事を抱えてやがるな――

 

 直感的にそう思った。それも、とびっきりタチの悪いヤツが。

 

 具体的に何があったのか訊いてみても、そう簡単に口を割ってくれないだろう。

 バールが必要になりそうだった。

 

 ならせめて、今日一日だけは可能な限りそばに付いてやった方がいいかもしれない。

 

 そんな風に考えていた時だった。

 ボーカルの木村達也を狙った毒殺未遂事件が起きたのは――

 

 思えば、あの日のアイツには驚かされてばかりだったような気がする。

 殺人を防いだこともそうだが、何よりその後の完璧な推理と解決に導くまでの異様なスピードに仰天した。

 

 犯人どころか毒を仕込んだ方法さえまだ判然としていなかったオレは完全に捜査の行方を見守るその他大勢の側で、いささか新鮮な気分を味わう羽目になった。

 

 たしかにアイツは頭がキレる。才女の見た目に違わず聡明で、眼力にも優れている。

 事件の現場に居合わせた時、捜査の過程でオレが見逃していた点にいち早く気付くのがアイツだった。記憶力や視野の広さは、もしかしたらオレより上なのかもしれない。

 

 普通ならよくやったと褒めるべきなんだろうけど、素直に称賛して良いのか判断に困っているのもまた事実だった。

 

 腑に落ちない、釈然としない、納得がいかない――

 

 そんな気持ちばかりが先に立ってしまう。

 

 別に難癖を付けたいわけじゃないんだ。

 そりゃこっちは本職だし、負けず嫌いの自覚はあるから「素人に先を越された」っていう感情はたしかにある。

 

 そうじゃなくて、ただ純粋に疑問だった。

 

 いくらなんでも()()()辿()()()()()()()()()()()()()()()ないか――?

 推理力に秀でている、というだけでは説明が付かないような気がした。妙に察しが良いというか、勘が鋭いというか――

 

 それに、注意力も敏感に働き過ぎている。

 事件が起きた後ならともかく、その前からジャンパーの位置を寸分の狂いもなく正確に把握していたり、一見すれば何でもない他人の動作にいちいち注目していたり。記憶力や観察眼に優れていると言えば聞こえは良いが、さすがにここまで徹底していると行き過ぎな感じが否めない。

 

 やはり、どうも引っ掛かりを覚えてしまう。

 かなり早い段階で犯人の寺原さんをマークしていたようだし。

 

 ――ひょっとして、アイツにはだいぶ前から分かっていたんじゃないか?

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と――

 あの時は咄嗟に舞い降りた第六感で殺人を防ぐことができた、なんてうそぶいていたけど。

 

 だから、あんなにひどく青ざめた顔をしていたんじゃないか。

 

 深く悩み込んでいたのも、事件を食い止めるための策を必死に模索していたからだ。

 そうとしか考えられない。

 

 どうして事前に把握できていたのか、意を決して全部尋ねてみようかと思った。

 

 が、結局思い止まった。なぜかというと――

 

「やってらんないよもうどーだっていいよ。てかその場のちょっとしたノリだってわかってよアタシだってやりたくてやったわけじゃないもん。あでもアタシの尊厳と引き換えに人命が救われたんなら良かったかアハハハハハハ……」

 

 ――当の本人がこのザマじゃあな。

 

 まるで、うわ言のようにブツブツと愚痴を吐き散らす瑠璃の姿が目の前にあった。

 探偵事務所の来客用のソファに身体を横たえて、天井の一点をぼんやり見つめたまま微動だにしない。すっかりしょげ返っている。いや、やさぐれている、とする方が適当か。

 

 こんな有様だから、追い打ちを掛けるように根掘り葉掘り質問攻めするのは気が引けたってわけだ。

 

「元気出しなよ、瑠璃姉ちゃん」

「そうよぉ、瑠璃ちゃん。瑠璃ちゃんらしくないよ」

「ほっといて……」

 

 オレも蘭もコイツを励まそうとずっと耳元で声を掛けているが、何を言ってもぬかに釘だ。

 言葉がただ耳から耳へ素通りしているだけ。取り付く島もない。

 

 今が冬期休業でちょうど良かった。

 この体たらくじゃ、授業に身が入らないこと請け合いだ。学業に差し支える。

 

 どうやらあの事件以来、連日この調子らしい。

 見るに見兼ねて、今日はウチに一泊させようと蘭が無理やり連れ込んだんだ。明日はそんな瑠璃の気分転換のために、園子も交えて四人で遠出する予定だった。

 

「……おい、蘭。その小娘を何とかしてくれ。鬱陶しくて仕事にならねぇ」

 

 デスクに腰を落ち着けたおっちゃんが、顔の前に広げたスポーツ新聞の陰からしかめっ面を覗かせて文句を言ってきた。

 片耳にイヤホンを突っ込んでいる。競馬中継に耳を傾けているらしい。騒がしい実況の声がダダ漏れだ。

 

 蘭は口を尖らせて、声高に言い返した。

 

「何言ってるのよ! 仕事そっちのけで競馬に夢中になってるくせに!」

「しゃーねえじゃねえか、暇なんだからよ。年の瀬が近くて依頼人なんて来やしねぇ」

「だったら、瑠璃ちゃんがここにいてもいいじゃない!」

 

 あえなく言い負かされて、じゃあ三階にでも上がっとけよ、などとブツブツ呟いていたおっちゃんは唐突に「あー! また負けた!」と悲鳴を上げて新聞紙を机の上に叩き付けた。悔しそうに頭を掻き毟っている。

 

 馬券が紙屑と化したんだろう。いつものことだけど。

 

 今でこそ『眠りの小五郎』のおかげで鳴かず飛ばずだったこの迷探偵も一躍時の人だが、根元の本質は一切変わっていない。

 今も酒やタバコ、ギャンブルに余念がないダメオヤジぶりを遺憾なく発揮している。

 

 なんとか心を落ち着けたおっちゃんは早速タバコを一本吹かして、少し興味深そうな視線を寝転がっている瑠璃に投げ掛けた。

 

「で? なんだってソイツはそんなに無気力でやがんだ?」

「うん、それがね……」

 

 蘭が事のあらましを説明する。

 

 カラオケボックスの事件が終結した直後の、目暮警部とのやり取りのことだった。

 警部は事件解決の功労者である瑠璃を手放しに褒め称えた。

 

「お見事だったよ、瑠璃君! 殺人を阻止するだけでなく、犯人まで特定してしまうとは! しかも今回は工藤君抜きで! いやあ、本当に恐れ入った!」

 

 ところが、これ以上ない賛辞を受けた当の本人は特に愉悦に浸ることもなく、そんなことはどうでもいいとばかりに()()()()を警部に固く約束させた。念を押すように何度も何度も――

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 警察の独力で事件を解決したことにしてくれ、という内容だった。

 

「絶対ですよ! もし約束破ったらおしりペンペンですからね!」

 

 とにかくえらい剣幕だった。

 反故にしたら承知しない、というくらいの勢いでグイグイ詰め寄っていく。

 

 目暮警部は了承しつつも、必死に頼み込む瑠璃の姿に困惑しているようだった。

 オレ自身もなんでそんなに躍起になっているのか皆目見当も付かなくて、訝しい気がしないでもなかった。

 

「それは別に構わんが……一体どうしたというんだね? あれほど令和のみすまーぷるだとか言って派手に自己主張していたのに、さっきとはまるで逆じゃないか」

 

 瑠璃は慌てて付け足すようにこう言った。

 

「そ、それは、そのう……あ、ほら、アレですよ! 私は普段、闇の裏世界に身を潜める謎の名探偵ですから! 世間の人々にその名を轟かせてはいけないのです!」

 

 最後に「えっへん!」と胸を張って締め括った。

 

「……あ、そう」

 

 警部はしばらく押し黙った後、呆れたように短くそう答えるだけだった。

 瑠璃を見る目がかつてないほど冷やかだった。

 

 警部の内心の声をできる限り正確に文字に起こすとしたら

 

 高校生にもなってまだ中学生的なノリが抜け切らんのか――

 キミがそんな子だとは思わなかったよ――

 

 といったところだろうか。

 

 瑠璃も大体は察したらしい。

 

「やらかした……やらかした……」

 

 一本調子の唱えるような口調だった。がくりと項垂れて、さめざめと涙に暮れた。

 

 凄まじいプレッシャーの中で木村さんの命を守り抜いて、特に心得もない探偵業をなんとかこなして――

 疲労困憊のところにこの仕打ちだったから、半ば不貞腐れるように落ち込んでしまったというわけだ。

 

 話を聞き終えたおっちゃんは、フッと鼻で笑った。

 

「なんの捻りもねえっつーか、安直っつーか……。もっとマシなネーミングなかったのかねぇ。てか、誰だよミス・()()()()って」

 

 嘲笑の的になった瑠璃は「うっ」と呻いて、瞬く間に顔中真っ赤になった。

 嗚咽を堪えるように口元はくしゃくしゃに歪み、目には大粒の涙が溜まっている。

 

 おっちゃんの容赦ない一言を受けて、すっかり拗ねてしまったみたいだ。

 ぷいっと顔を背けて寝返りを打った。焼いた餅みたいに頬がぷくっと膨れている。

 

「い、いいもん、別にっ……! どーせアタシは痛い子ですよ……ダサいですよっ……! でも、アタシにはアタシなりの事情があるんだもんっ……!」

「お・と・う・さ・ん?」

 

 蘭は鬼の形相で血管が浮き出る拳をわなわなと握り固めた。

 四十近い立派な大人が年頃の少女を辱めているわけだから、ひどく立腹するのも無理はない。せっかく元気付けるために自宅の敷居を跨がせたのに、おっちゃんのせいでより一層悪化してしまった。

 

 さすがのおっちゃんもあまりの怒気に怯んだらしく、これといった反論の余地も見出せないまま聞き苦しい申し開きに終始した。

 

「オ、オレはただ本当のことを言ったまでで……」

「少しはオブラートに包みなさいよ! ったく、もう!」

 

 父親への叱責もそこそこに、蘭は身を屈めて瑠璃に優しく囁いた。

 

「ほら、元気出して、瑠璃ちゃん。今日は腕によりを掛けて御馳走を振る舞ってあげるから。瑠璃ちゃんの大好きな目玉焼きハンバーグもあるよ」

「……えっ? ごちそう!? ハンバーグ!?」

 

 すると、今までへそを曲げていたのが嘘のように、瑠璃はカッと目を見開いて元気良く飛び起きた。どんよりと曇っていた顔が一気に晴れて明るくなり、目はキラキラと輝いている。

 

 意外とコイツはかなりの健啖家だ。

 食事を摂るという行為に目がない。どれだけ胃に放り込んでも括れたままのウエストを見事に維持しているから、あの豊満な胸に栄養と脂肪が全部流れ込んでいるんじゃないか、なんてバカみたいなことを漠然と考えたことがある。

 

 瑠璃は勢いそのまま蘭に抱き付いて、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 まるで餌を待ち焦がれる犬みたいだった。

 

「チーズ! チーズも入れて!」

「分かった、分かった。よしよし」

 

 蘭は呆気に取られつつも、まさに犬をあやすような感じで瑠璃の頭を撫でた。

 

(ハハ、現金なヤツ……)

 

 オレもおっちゃんも、この切り替えの早さには苦笑するしかない。

 まさか好物一発で本来の調子に戻ってしまうとは。うんうん唸りながら上手く励ます方法を思案していたのが馬鹿みたいだ。

 

 ま、いっか――

 

 オレはホッと胸を撫で下ろして、無邪気に戯れる瑠璃を微笑ましげに見つめた。

 明るく活発で、普段は大人のように泰然としているけれど、時折妙に子供っぽいところがある。そんな瑠璃がやはり一番瑠璃らしい。

 

 しかし――

 

 オレはすぐさま笑みを引っ込めた。

 和気あいあいとじゃれ合う瑠璃と蘭から目を逸らして、一人深く黙考した。

 

 今回の一件は、ただただ反省と後悔の事例として強く残った。

 思い出すまでもなく()()()()()()()姿()が不意に脳裏をよぎって、オレは反射的に拳を強く握った。

 

 まさか危うく倒れるところまで行くなんてな――

 

 今でもアイツの憔悴ぶりを思い返すと胸が痛い。

 アイツがボロボロになるまで戦い抜いたってのに、オレは何もせず、いや何もできず、ただぽつねんと『見』に回っていただけ。結局、瑠璃が何もかも独りでやってのけちまった。

 

 探偵として一人の男として、これほど悔しく情けないことはない。

 

 それに――

 

 事件は解決した、瑠璃は元気になった。

 それで「ハイ、めでたしめでたし」とならないところがこの一件の特異なところだ。

 

 まだ最大の謎が残っている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――?

 

 何者かが瑠璃に情報提供を持ち掛けたのか?

 だとしたら一体どんなヤローだ、ソイツは。

 

 あなたがこれから赴く先で事件が起きようとしています。

 目下売り出し中のバンドのメンバーが一人、殺されようとしています。

 

 どう考えてもまともじゃない。

 ぶっ飛びすぎている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ってしまうくらい。

 

 わからないことだらけだ。

 

 困ったことに、瑠璃はたぶん口を噤む。

 なんとなく分かるんだ。アイツは提供元を決して明かそうとしない。今度はバールどころかテコでもこじ開けられそうになかった。

 

 もしまた似たようなことがあれば――瑠璃は今回と同じように躊躇なく己の身を投じるだろう。

 そこまではまだいい。いやまあ、良くはないんだが――

 

 殺人事件に良いも悪いもない。それだけで唾棄すべき対象になる。

 それでも少なからずどれだけ悪いか、そのレベルを決定する議論の余地はあるわけで、もし木村さんが命を落としていたらあくまで規模だけはごく普通の殺人事件として処理されていたかもしれない。

 

 だけど、今回の比じゃないくらいタチの悪い事件だったとしたら?

 目的を達成する過程でどんなに死体の山が築かれようと構わない。

 

 そんな巨悪が相手だったとしたら、瑠璃はどうする――?

 

 おそらく、より一層単身で挑もうとする。

 そんな相手だからこそ、近しい人間を脅威から遠ざけるために()()()()()()()()()()。誰も巻き込まないようにする。

 

 瑠璃はそういうヤツなんだ――

 

 オレはもう一度、今度は睨むような感じで瑠璃に視線を据えた。

 

 話したくないのなら別にそれでいいさ。

 だけど、決してお前を一人で行かせはしない。

 

 その時はオレも一緒だ――

 

 

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