ボクっ娘幼馴染に配信チャンネル乗っ取られたらバズり倒した 作:世嗣
「攻略会議まで時間があるし、先に自己紹介でもしときましょうか」
シリカが一旦配信を止めると、ピンク髪のおねーさんがそう切り出した。
噴水広場の端の方、他の集合者の邪魔にならない位置でお互いに名乗り合う。
「あたしはリズベット。長いしリズでいいわよ。この子の友達でお目付役ってとこ。よろしく」
「なんでリズさんの方が早く挨拶してるんですか?! いちおうコラボ相手は私なんですけど!」
「はいはい悪かったわね、じゃあ配信者の先輩らしくハイドウゾ」
「振りが雑! 雑ですよリズさん! ええいままよ!
ピナっピナっ! ドラゴンアイドルシリカでーす! よろしくねスリーピングナイツの双子ちゃん!」
「きゅっくるー!」
「え、ドラゴンがいる! すごいふわふわの! 見てよ姉ちゃん! かっわいいねぇ〜!」
「わ、私はちょっと、その……わ、こっちに、きゃっ舐めないで〜、も〜!」
「姉ちゃんずるい! ボクにも触らせてよ〜」
「ピナァ?! なんでそっちに懐いてるのぉ!? 私、マスター、私!」
シリカが悲痛な叫びをあげてる。
ピナ……たしかフェザーリドラだっけ。
ああいう小さくてかわいい生き物がユウキたちみたいなのと絡んでると、うん、グッとくるな。
まあマスターはシリカなんだが、2年前ならいざ知らずいまの17歳で身長もまあまあ伸びた今だと……。
「ハンッ」
「なんで今鼻で笑ったの? ねえこのお面の不審者なんで今鼻で笑ったの?」
「悪い気にするな。少し喉の調子が悪かった」
「白々しい嘘つくのやめてくれないかなー!?」
「ヴェハハハ、悪い悪い。今度お前のチャンネルにユウキとコラボしに行くからさ」
「えー、ヒロとぉ〜〜?」
「おいなんだそのビルドの幻さんのクソダサファッションを見るような目は」
「まー、ユウキちゃんたちもいるならプラスかぁ……私のチャンネルに来たからにはあいさつも私流で行ってもらうからそのつもりで」
あいさつ? ああ、あのインコみたいにピナっピナって連呼するやつか。
こいつ自分の痛さを他人に伝播させようとしてないか?
うーん、あのあいさつをうちの奴らにやらせるのか。
ユウキたちは……ピナと戯れてるみたいだ。
「実体はないはずなのに触ってる感触がするのは不思議ですね」
「オーグマーの再現機能ってとこかしらねー」
「きゅくる〜♪」
「すごいなぁ、羽も触っていいの? きみは優しいなぁ」
うーん、取り敢えずユウキにでもやらせてみるか。
「ユウキー、ちょっとそのままピナと一緒にさっきシリカがやってたシリカのあいさつやってみてくんねえか?」
「あいさつ……ええっ、ボクが? さ、さすがにちょっと恥ずかしいというか……」
「安心しろ、配信してないからシリカより恥ずかしくはならねえよ」
「この人一回ぶん殴っちゃいましょうかね、ほんと」
「えーと、あいさつ、あいさつ……」
シリカの不穏なセリフは華麗にスルーしつつ、ユウキに頼み込むとほんのり赤ら顔ですう、と一息。
「ぴ、ピナっピナっ! スリーピングナイツのユウキだよーっ!」
「きゅくるー!」
「……」
「ひ、ヒロ、なんとか言ってくれない……」
「いや普通にかわいいなって。予想外だった」
「ふぇっ」
ぼしゅっとユウキの顔が赤くなる。
あやべ、思わずそのまま声が出たな。
しかし、可愛かったのは事実で……なんだ、シリカ肩なんか掴んで。
「コラボの件、無しにしようね」
「何爽やかな顔で言ってんだ。頼んだのはお前だろ」
「いやだってこれ反則だってぇ! どう考えても私の全盛期のあいさつよりかわいいもん! 恥じらい? 恥じらいのせいなの? ボクっ娘が顔赤らめながら言うのはちょっと反則だと思うんだよねー!? というかピナがさっきからユウキちゃんにべったりなんだよぉ〜!」
「まあいいじゃないの。ピナのせいでシリカは死ぬほど煽てられてSAO時代かなり出来あがっちゃったんだし」
「リズさん! 黒歴史なんでやめてください!」
「ああ、知ってるっす。中層のアイドルとかもてはやされて姫プやってたんでしたね、シリカ」
「ぐっ、ぐうっ! こ、このお面の不審者ぁ! やめてって言ったよねぇ!」
「事実を言って何が悪いか全然わかんねえなァ?!」
「はー?! 幼なじみの双子におんぶに抱っこでチャンネルの登録者数伸ばしてる炎上男には言われたくないんですけどー?!」
「グァーッ!」
「なんでお互いに傷のえぐりあいしてるんですか」
しかしだな藍子、シリカのやつが余計なことを言うからだな。
「はいはい言い訳しない。まだ私たち自己紹介もしてないんだから」
「そう言えばそうか。すんません、シリカ、リズさん。俺たち──」
「あーいいわいいわ。シリカはもちろん、私もなんとなくあんたたちのこと知ってるから」
「えと、そうなんですか?」
「ん。あなたたち有名だからね。追っかけでもない私でもなんとなーくのあだ名くらいは知ってるわ」
「光栄ですけど、あはは、なんだか気恥ずかしくなっちゃいますね」
「ちなみにリズさんは俺たちのことなんて?」
「んー? 別に又聞きした名前そのままよー?」
リズさんが俺たちの姿を一人ずつ目に移していく。
「左のロングの子が絶剣ユウキちゃんで」
「どうもユウキです!」
「それでショートのあなたが蒼弓ランちゃん」
「あはは、その呼び方は慣れないですね……」
「そして最後は自分で燃える織田信長」
「俺だけ歴史上の偉人なんすよ」
しかも死んでるし。
アイコンになっちゃうのか? パーカー着た幽霊なのか? マコト兄ちゃんに使われたり家康と秀吉と合体して天下統一しちゃうのか?
というかそもそも本能寺を燃やしたのは織田信長じゃなくて明智光秀なんだよなぁ。
「あっはっは、ジョーダン、じょーだんよ。ちゃんと知ってるわよ、スリーピングナイツの団長さん」
「リズさんは告白した後ヘタレてなーんちゃってって誤魔化すことが魂に染み付いたせいでこうした普段の会話でも茶化してしまうんです。許してあげてくださいね」
「その年齢ギリギリのツインテール後腐れなく切り落としてあげましょうか」
「やめてください! これトレードマークなんですから! あ、やめて引っ張らないでぇ!」
「いらんこと言うやつだな。黙っときゃいいのに」
「ヒロ、ものすごいブーメラン投げてるのわかってる?」
何言ってんだ俺は──シリカのこと言えませんね……はい……。
「でもボクたちのことそんな知られてるなんて思わなかったなー。やっぱボクたちのサンタさんへの挑戦の影響は大きかったりする?」
「まあそれもあるけど私はどっちかっていうと、アスナから話を聞いてたのが大きいわね」
「え、アスナさんと知り合いなの?」
「ふっふっふ、もちよ。なんなら親友と言ってもいいわ」
「リズさんはSAOでアスナさんの剣を作った人なんですよ」
「剣というと、ランベントライトですか?」
「そうそう、よく知ってるわねー」
「えっ、リズさんがあの閃光や黒の剣士の専属鍛冶屋の方なんすか?! wikiで見た!」
「あたしのことまでまとめられてんの? 困ったわね」
「ッス! あの水晶武器シリーズの作成方法を見つけたって書いてあったっす!」
「はー、SAO wikiとかどこの誰がまとめてるのか知んないけどよくそんな細かいとこまで……」
「ふふん、ちなみに私もSAOwikiには載ってます。リズさんとは違ってプレイヤーネーム付きで。どやぁ」
「でもお前の解説文は昔のお前の取り巻きが書いてるせいなのかなんか熱量あってキモいよな」
「そう言うの今言わなくていいから!! スカレッドの推し語りの方が100倍キモかったから!」
「なんだとやるかこの野郎! てかその名で呼ぶな!」
「あー女の子のほっぺなんか勝手に触っていたたたたっ! ひっぱるにゃー!」
「やかましい! いてっ、くそっ、脛を蹴るな!」
「このお面の不審者! なにその恐竜みたいな蛍光色のキャラ!」
「この野郎西暦2021年9月5日午前9時から放送された仮面ライダーリバイスをバカにするんじゃねえ! 一人で二人の仮面ライダー! 生物と過去作のモチーフを取り込んだ秀逸なフォームチェンジデザイン! 2話はオープニングでのその不穏さと過去作にないスタイリッシュさから始まりモモタロスやアンクを思わせながらも決定的に信頼できない『悪魔の相棒』を見事に描き切ったんだぞ! 俺も6年前にリアタイした時はテレビにかぶりついたんだ!」
「急に語り出してなに!」
「タイムリーだろうが!」
「6年前の作品でしょ!」
「す、すごい! 漫画でも見ないような取っ組み合い始めた!」
「……ラン、あんたも苦労してそうねー」
「リズさんも大変そうですね」
「あ、なんか姉ちゃんとリズさんがわかり合った目をしてる」
「きゅくるー」
しばらくして藍子の指示で俺の脳天にチョップをかましたユウキに引きずられシリカと離れる。
喧嘩相手のシリカにはお咎めなしなのはどうなってるのか。
喧嘩両成敗が基本だろうに。
「じゃあそろそろいい時間だし挨拶回り行こっか」
「挨拶回り? ボクらも?」
「うんうん。一通り一緒に戦う人と、お世話になる人には顔合わせをしてた方がいいと思うよ」
「いやでもどうせこのあと攻略会議だよな」
じゃあその時集まった時に挨拶するじゃダメなのか?
あ、シリカにこれ見よがしにため息つかれた。
魂まで抜けたんじゃないかって思えるくらいでかいやつ。
「ほんとわかってないよね。私たちは今回どういう立場での参加ですかー」
「どういうって……」
隣のユウキを見る。
「えーと、ボクとのPvPの報酬でのアスナさんの紹介……だよね」
ちらり、とユウキがさらに隣のランを見る。
「この前もらった書類には上位ギルド推薦枠とありました。元々はSA:O運営から声がかかった枠を私たちにそのままくれたのだとか」
「ちゃんと見てきてるのね。えらいじゃない」
「じゃじゃーん、ではここからピナピナくえすちょーん!」
「きゅういー!」
「そういう推薦でやってきたビギナープレイヤーを見る同業者の目はどうなるでしょう、はいヒロ早かった!」
「いい歳こいてピナピナクエスチョンとか言ってて恥ずかしくねえのか?」
「ちょわーっ!」
「ぬわーっ!」
ぼ、ボディに突き刺さる拳……ッ!
「はい、次の方解答どうぞ。じゃあユウキちゃん!」
「はい! なんかズルしてるように感じると思います!」
「はい、正解です。正解者にはご褒美のピナのハグ!」
「きゅくるる〜!」
「わ、ドラゴンさんほっぺを舐めるとくすぐったいよお〜!」
「なんかピナやたらとユウキちゃんに懐いてる気がする」
こほん、とシリカが咳払い。
「まあ、そういうわけでこのままいくと多分あんまいい気持ちで迎えられないと思うんだよね。ただでさえきみたちは横の繋がりがないんだし。
だから、せめてお世話になりますって頭下げておこうってことだよ」
私そこそこ顔広いからきみたち三人の緩衝材にもなれるだろうしね、とウインクをするシリカ。
ここまで言われると俺でも気づく。
シリカは俺たちが気持ちよくボス攻略に参加できるように最低限のことを教えてくれているのだ。
俺が昔馴染みだというのもあるだろうが、だいたいは善意で。
「あー……、ありがとう、シリカ。あとすまん、気を遣わせたみたいで」
「いいからいいから。実は攻略に来ないかーって誘われてはいたけど私は人数足りなくて参加できなかったんだ。
だから、うん、ヒロから声がかかったのは渡りに船だったよ」
だからwin-winの関係ってことで、とにひっとシリカが笑う。
そう言ってくれるとありがたい。
「じゃあ取り敢えずあいさつまわりしよっかー。まず最初は今回の司会の──」
「もちろんワイやな?」
「! その声は──」
そう言いつつ、シリカが俺たちを伴い広場に疎らにいるプレイヤーたちの元へ向かおうとすると、突如ぬっと人影が現れる。
「──モヤッとボール!」
「そうそう、ワイの頭を不正解した時のモヤ付きと共に目の前のでかい穴へぽーいっとな──ってなんでや! てか古い番組やな! アレ最後の放送2019年やろがい! いま2027年やぞ!」
この怒涛のツッコミ! そして関西弁のダミ声と、特徴的なその髪型は、ま、まさか……!
や、やばいすごい嫌な予感するぅ!
「お、その顔ワイの
びっと親指で自らを指して、特徴的な髪型のその人は堂に入った様子で名乗る。
「ワイはキバオウってもんや。今回のイベントの司会を任されとる」
「紹介するね、こちらキバオウさん。アインクラッド軍の『キバオウなんでやチャンネル』の名コメンテーターさんだよ。あ、いかつい
「お前はワイのなんなんや! なんで歳下の女子にでかい犬っころ扱いされなアカンのや!」
「すみません! お、俺! スリーピングナイツのヒロです!」
シリカとわちゃわちゃ言い合いをしてる中、割り込むようにあいさつをする。
うひゃあ、じろって見られた。こ、こええ。
「あー、知っとるわ。お前元々一人でやったったやろ? ウチにもジブンに物申してくれって頼みがぎょうさんきとったわ」
「あ、あの! キバオウさん」
「お、なんや嬢ちゃん」
「私スリーピングナイツのランです。あのヒロがご迷惑をおかけしていたのなら本当にすみません」
「ボクも謝ります! ヒロかーっとなると思ってること思ってないこと無茶苦茶に言っちゃうダメなやつなんです! ごめんなさい!」
「坊主、ジブン、相方たちに恵まれとるな」
それは、はい。俺なんかのために頭を下げてくれるいい幼なじみたちです。
「ま、でも皆まで言うな。
大抵は自分で何かいう勇気もない上、状況も理解しとらん野次馬どもや。ワイかてそんな奴らの気持ちを代弁するほど暇やないわ。
せやから嬢ちゃんたちがそのことに関して気にする必要はない」
「あ、ありがとうございます」
「ただ!」
キバオウさんが一歩俺へと踏み出すと、品定めするように俺の顔を覗き込んでくる。
「ジブン、一回
「そ、それは……」
「懐かしいのぉ〜。あの時は流石にワイも物申したしそれでウチのファンと野次馬とで大炎上。確か5回目くらいの炎上やなかった──あいたぁ!?」
「キバオウ、あまりそれ以上ルーキーをいじめてやらないでくれよ」
「ディアベルはん!」
不意に、キバオウさんのトゲトゲヘアーをぱしんと軽く叩かれた。
叩いた当人はにこりと人当たりのいい笑顔を浮かべる。
こしょこしょと耳元で囁くユウキ。
ランはその後ろで突然現れた人物と俺とをじっと見つめている。
たぶん俺が口を滑らせたり変なこと言ったら注意するつもりなんだろう。
「ヒロ、この人は……?」
「あー、さっき話に出てたろ。俺が前口を滑らせて迷惑かけた人だよ」
「スカレッド、横の繋がらりないくせに燃やした相手には事欠かないね」
「……うるさないな」
事実だから強く否定もできない。
……ランがじっと見てくる。うん、わかってるまず謝れってんだろ。わかってるよ。
「その、はじめましてディアベルさん。俺はヒロです。前は色々とすみませんでした」
「ははっ、そう気にしないでいいさ。キバオウだってもう気にしてない。だろ?」
「まあ、ディアベルさん本人がそういうんならワイかてこれ以上昔のことを引っ張り出す気はないで」
「サンキュー。じゃ、これは仲直りの握手ってことで」
お、おおっ、力強く腕を握られた。
悪いのは俺なのにさらっと流してくれた。大人の余裕というやつか。
「さて、そっちのお嬢さん二人は初めてだよな。
よろしく、オレはディアベル。ギルド『アインクラッド軍』の一応のリーダーで、職業は気持ち的にナイトやってます!」
「あ、はい! よ、よろしくお願いします! ボクはユウキです!」
「ランです。お願いします」
ぺこりと腰を折るランにつられて、ユウキも勢いよく頭を下げた。
ユウキのアバターの紫の長髪が動きに従って暴れ馬のように振り回されるのを見て、ディアベルさんは苦く笑う。
「いやー、このネタSAOで言ったら基本笑いは取れたんだけど、時代変わったかなー」
「そりゃそーよ。もうSAOのサービス終わったのも一年前だからね」
「まあ、オリジンがすぐに出てくれたからこうして顔見知りは割とそのままこっちに流れてたりするんですけど」
「お、リズベットさんに、ドラゴンテイマーのシリカちゃんか。今日は閃光さんはいないんだな」
「学生は暇じゃないってことよ」
「確かにもう七月も末日が近いか。君たちといい今が夏休み前の一番忙しい時期ってわけか」
「ケッ、ええ身分だこと。ワイら社会人に夏休みなんてあらへんのやで。そこのお面やろうなんてかわいー幼なじみなんかつれおって」
「はいはい。ほら、キバオウ、いつまでも後輩をいびってないでそろそろ
「いやディアベルはん、ワイは別にやな……」
「話は後で聞いてやるから。じゃ、今度のボス攻略はよろしくな、お面の団長くんとルーキーのお嬢さんたち」
ひらひらと手を振ってディアベルさんはキバオウさんを伴いその場を立ち去っていった。
その後、「じゃあ一通り回っていこうか」というシリカに連れられるまま今日お世話になる配信者やプレイヤー達に挨拶をしていく。
「配信者の方が多いんですね」
「ふつーのプレイヤーの人もいたよ? さっきの片手剣使いの人の武器カッコよかったよね〜」
「でも比率としては配者の方が多かった気がしない? 私たちもそうだし、さっきのキバオウさんも」
「そう言われたら確かに……ヒロなんで!」
「速攻で俺に投げたな。まあいいけど」
というか言ってなかったっけ。
「今回のボス攻略戦はカムラ主催の配信者と視聴者の参加企画なんだよ」
「カムラ? それって確かSA:Oの運営会社ですよね」
「正確に言うならソードアートシリーズの版権を持ってるアーガスからの依頼で続編を作った会社、って感じかしらね」
「? 何か違うの?」
「え、いやそれは……まあSAOしてなければ大した違いもないか。ごめんごめん、忘れてちょうだい」
「わかりますよリズさん、そこらへん私もちょっと気にしちゃいますもん。功績……というかやったことが全然違いますもんね」
「そうなんですか? 私、そういうのにはあまり詳しくなくて……」
「気にしないでいいよー。まあ簡単に言っちゃうとアーガスとカムラは持ってる技術が違うんだよね。
アーガスはゲーム会社。ナーヴギアっていうハードを作り出した功績はあるんだけど、SAO以外ではあんまり振るってなくてね。そこで、カムラとの共同開発で新作を作ってんだよ」
「それがSA:Oなんですか?」
「そうそう。カムラはどっちかっていうともっと手広くいろいろやってるところなんだけど、オーグマーやそこから発展した技術は超一級品だよねー。
オーグマーを連携しての配信中カメラアングル自動調節してくれる機能とかなんか凄すぎるし。
でもそうは言ってもSAOプレイヤーたちにとってはSAOはアーガスのものだし、けどかといって今のオリジンを楽しんでる事実も否定できず、結果、リズさんみたいにめんどくさいオタクの反応になる訳なんですねー」
「悪かったわね、めんどくさいオタクで」
リズさんがそっぽを向く。
「ええとつまり、アーガス社はカレーのレシピを作ったところで、カムラ社はそのレシピを使ってカレーパンやカレーうどんを作ってるところってことですか?」
「え、合ってるのかしら……いや、合ってるとは思うけど……なんか独特な例えをするわね」
「まあなんとなくわかってもらえたかな……ユウキちゃん?」
ユウキ? ああ、なんだ目を丸くして。何かあったのか。
「シリカさんって、凄い詳しいんですね……ヒロの知り合いなのに……ヒロと取っ組み合いしてる人なのに……」
「ちょっとスカレッドきみのせいで私きみの幼なじみに同じくくりに入れられてるみたいなんだけど」
「しらねえよ。いい年してロリ声ロリアバターロリキャラでやってるやつが悪いんじゃねえの」
「一線超えたよそれ……! 」
この野郎やるってのか! ほっぺ引っ張ってやるよ! おらおら!
「やっぱあんたたち仲良い……いやこれ思考のレベルが同等なのかしら。たぶんデカい体のガキなんでしょうね」
「「 ガキじゃないが?! 」」
「そういうとこよ、そういうとこ」
呆れた様子のリズベットさんだが、俺には反論がある。
「いやそもそも俺たちリアルで会うのはこれが初めてですよ」
「だね。お互いのリアルの名前とかも知らないし」
「そーなの? オリジンのボス攻略に声かけるくらいだしリア友とかだと思ってたわ」
「はっはっは、何をおっしゃいますかリズさん。こいつと俺がそんなものなわけないでしょう」
「そーですよ! ヒロにはボクと姉ちゃん以外友だちいないんですから!」
「うん、まあそうなんだけどそこを強く言い切らなくてもよかったんだぞユウキ」
「そういえば聞けてなかったんですけど、ヒロとシリカさんってどういうつながりなんですか?」
「あ、それボクも気になってたんだ! ヒロに配信者の知り合いなんているイメージなかったから」
俺とシリカの関係? 別に大したもんじゃねえけどなあ。
「この人私のママなんですよ」
「俺シリカのママなんだよ」
「は?」
「ヒロ?」
「これガチで引かれてない? お前らたぶん勘違いしてるから!」
一瞬で二人の周囲の空気が氷点下まで下がった!
なんかユウキの声がビビるくらい低いしあとランの目が笑ってない! 笑顔が変わらねえからかえってこええ!
シリカぁ! 何とか言ってくれェ!
「ママっていうのは『私のアバター作った人』って意味ね。私がデビューしたての時立ち絵とキャラデザ描いてくれたのがヒロ……当時のスカレッドだったんだ」
「ああ、そういえば昔そんな感じのSNSアカウントを持っていたような」
「なあんだ、別に普通じゃん!」
ランとユウキが納得してくれたみたいだ。
ふー、別に何も悪いことしてないがなんか肝が冷えた。
にしても、スカレッドか……懐かしいもんだな。
「あの時はスキル上げのためにアバター作成とかの依頼を格安で受けてたんだよなー」
でも経験も知名度もないやつに依頼なんてのはなかなか来ないもので。
だが、そんな中で唯一連絡を取ってきたのが当時SAOで中層のアイドルとして名を挙げつつあったシリカだった。
「その頃は私もあんまりお金なくてさー、安めでやりますって言ってたきみはちょうどよかったんだよね」
「そういうわけで依頼に応じてシリカの初期アバター作ってやったんだよ。まあ掲示板でレスバに大敗北して垢まで特定されて炎上した時の余波で垢消ししなきゃいけなくなったんだけど……」
今思い出しても苦い思い出だ。
アレ以降俺は藍子に匿名掲示板の使用を禁じられている。
いまのアカウント名がシンプルにヒロなのもそこらへんに理由がある。
「急に消えるからびっくりしたよ、スカレッド。あの時一番よく絡んでるのスカレッドだったのに」
「そういう割にお前俺がヒロのアカウントになってからコラボ依頼したら毎回スルーしてたよなーッ!」
「あたりまえじゃん。何が悲しくてヒロみたいな炎上常習犯とコラボするの。マイナスしかないって」
「なんだとてめえ! 俺はママだぞ!!」
「べーだ! 残念ながらスカレッドの作ったアバターはもう使われてないのでママじゃありませーん!」
「薄情者がァ!」
「突然垢消しして炎上常習犯になったやつが悪いでしょー!」
わちゃわちゃとシリカと取っ組み合ってると、不意に周囲の明かりが消えた。
いや、それはおかしくないか? 今は昼なんだぞ? なんで、いやどうやって太陽が消えたんだ?
「なんか急に暗くなっちゃいましたよ? 」
「慌てない慌てない。あたしたちのオーグマーがそう見せてるだけよ。ようやく今日の企画の主役がやってきたからね」
「主役? でも司会はさっきのキバオウさんたちだって」
「司会は、ね。でも、主役は違う。ふっふっふ、ヒロ、ううん、スカレッドならわかるんじゃない?」
消えた太陽の光。降りる天幕。ちりばめられた
拡張現実の仮初の夜空に、星を砕いて作った階段がかかる。
そこを、一段、また一段と降りてくる人影。
いつのまにか噴水公園のステージの上には無数のカメラが浮かびはじめている。
これ、まさか……いや、そうか、カムラが主催の企画なら、そりゃ来てるよな、あの人が……!
「みんなーー! おっまたせー!」
―――――――――――――――――。
「え、あれってユナちゃんじゃない!? ほら、ヒロがめっちゃ好きだった! あれ、ヒロー? ひーーろーー! ヒロってばー!」
はっ! 一瞬意識が飛んでた。
「ねえあれユナちゃんだよね! 本物じゃない! すごいよ! 空からキラキラ光る階段みたいなので降りてきてる! よかったねヒロ!」
「いや別に俺ユナ好きじゃないし」
「あれそうだっけ、私にユナちゃんのこと教えたのスカレッドだったヒロだったと思うんだけど」
「シリカの覚え違いだっての。俺にそんな記憶ない」
「そうだったかなあ」
「俺は骨の髄からのライダーオタクだぞ。他のことをかまけてる余裕はない」
「ふうん、あ、いつの間にか配信開始してるわね。ステージに降りて……ということは歌うのね。ええと、曲名は」
「Ubiquitous db! ユナがカムラの公式アイドルになる時にリリースされた記念すべきファーストシングル! デビューしたてとは思えない歌唱力から大きく話題になった歌だ! ちなみにUbiquitous は偏在するとかどこにでもいるとかって意味でオリジンのイメージガールとしても扱われるユナ自身がファンに「SA:Oも私もあなたたちのそばにいつでもいる」というメッセージだと思われる! その歌をいきなり掴みとして持ってくるとは……この配信、カムラはどれだけ力を入れてるんだ?!」
「あんたどう考えてもユナ好きでしょ」
「いや別に好きじゃないけどちょっと今話しかけないでユナの歌が聞こえないから」
「あ、こっちにウインクした」
「アアアアア〜〜ッ!(オタクの絶叫) いまこっち見たよォ〜〜! ほんとはカメラを見たんだろうけど視線の方向はバッチシ俺だったよ!」
「その反応で隠すのは無理すぎるでしょうが! 好きでしょ! ユナ!」
「好きじゃないですけど???」
「めんどくさくて本当にすみません……ヒロ昔はユナちゃんのことすごく好きだったんですけど、いまは一応卒業してて……」
「なんでまた。この態度見る限り、かなり初期からのオタでしょ、これ」
「それには、深いわけがあるんですよリズさん……俺の身を斬るような、辛い過去が……」
「ああ、思い出してきた。ヒロまえユナちゃんの配信にお小遣い全部突っ込んじゃって限定生産のおもちゃのベルトの注文し損なったんだよね」
「しょうもなっ!」
しょうもなくねえ!!!
「俺にとっては、ライダーオタクはアイデンティティなんだよ……! だから、俺は、俺の存在を保つために、ユナのオタクをやめるしかなかった……!」
「自分の精神の拠り所もっと他に作ったほうがいいと思うよ。ユナとライダーが好きなの以外に」
「だからユナは好きじゃない!」
「ならちょっとコールしてみなさいよ」
「L・O・V・E! Y・U・N・A!」
「キレキレのオタ芸やってんじゃないわよ!」
バシッとリズさんに背中を叩かれた拍子に、ペンライト代わりにしていたタッチペンが手からすっぽ抜ける。
しかもそれは今まさに曲のクライマックスを終え、静かにポーズを決めようとしているユナの方へと飛んでいく。
やっべ、と俺たち全員の顔が固まった。
だがその最中俺たちの間を駆け抜けていく黒い影。
「すまねえユウキ、急いで取ってくれ! ん?」
「急いでヒロそのままじゃステージに行っちゃうよ! ん?」
「姉ちゃん間に合ってー! ん?」
「「「 今行ったのユウキ/姉ちゃん/ヒロじゃないの?! 」」」
えっ、じゃあいまの誰だよ?!
弾かれるようにタッチペンの飛んでいったユナのステージに目を向ける。
放物線を描き空中を滑っていた細い棒は今まさに頂点へと達し、緩やかに落下していく。
その真下、カメラに映らないギリギリの地点、一人の男が走っている。
「ユナのステージの邪魔はさせない」
その人はそのまま体を沈み込ませると全力で跳んだ。
その跳躍の勢いで空中のタッチペンを手に取るとついでとばかりにそのままバク宙して、体操選手のように地面に着地した。
「うっそ、だろ……なんだいまの、サーカスかよ……」
「い、いま軽く70センチは跳んでたよ……ボクの身長の半分くらい……」
「生身だったよね、いま」
「あー、やっぱりいたのね歌姫のナイト様が」
「ナイト様?」
ユウキが首を傾げるのと重なるようにUbiquitous dBが終わり、ポーズを決めたユナに割れんばかりの歓声が投げかけられる。
「みんなー、ここからはすこーし休憩ね。このあと準備が出来次第、イルファング・ザ・コボルドロード攻略会議を始めるからねーっ!」
ユナがそういうとふっと夜の天蓋に光が戻る。
明るくなった噴水公園をかつかつと突っ切ってこちらに向かってくる黒い男が一人。
身長たっけえ……俺も今は170あるけどこの人はもっと高い。
たぶん、180は楽勝で超えてるし、なんか服の上からでも筋肉がミッチミチなのがわかる。
細いが、ゴツい。無駄な筋肉を削ぎ落としたアスリートみたいだ。
「これは君のか?」
「あ、はい。一応」
「そうか。なら返す」
「どうも。すみません、ありがとうございます」
ペンを受け取ろうと手を伸ばしたら、急にその腕をガシッと掴まれた。
「あの、なんすか。ペン返してくれるんじゃ……」
「お前たちがスリーピングナイツか。この始めて二ヶ月経ってなさそうな初心者丸出しの三人が」
「……だったら、なんだっていうんすか」
なんなんだコイツ急に手を掴んでいいたいこと言いやがって。
とりあえず手を振り払って……振り払って……力強えな?!
「フン、こんなのを推薦した
「なっ、俺たちは正規の手順は踏んで──」
「御託はいい。僕はユナのライブを壊しかけたお前たちの意識の低さの話をしている」
──それは。確かに、俺の不注意だ。
「っしゃあ、そろそろみんな集まろか! 主役のお姫様も登場したし、そろそろ始めるで! あらかじめ伝えといた通り座ってな! ま、話自体は形式的なもんや、本番は会議終わった後の攻略やからそのつもりで!」
ユナのライブ中継が終わったからか、司会のキバオウさんがみんなに声をかける。
その声をきっかけに、今まで掴まれていた腕が解放された。
踵を返してステージに向かいながら、一言忠告するように言葉を残す。
「せいぜいこの後のボス攻略では足を引っ張らないように、ルーキー。
お前たちがいなくても問題はないが……面倒はごめんだ」
くそっ、ようやく振り払えた。なんなんだこいつ!
初めて会った鏡飛彩みたいや態度とりやがって! こいつ平成だと2号枠だろ! だって初対面の人に言う言葉じゃねえだろ! そりゃ俺に非はあるけどよ!
くそ、まだ手が痺れてる。
ここまでくりゃわかる。あの人が名高い《歌姫の騎士》か。
「相変わらずだなー、ユナならアレくらい上手くかわしただろうに。ほーんと、姫さまのことに関しては過保護なんだから」
「シリカさんいまの人知ってるんですか?」
「まあちょーー有名だからね。下手すると、《閃光》のアスナさんよりも有名」
「アスナさんより?! いまのおにーさんが?!」
「そうそう。あんたたちの幼なじみの織田信長なら見たことあるんじゃないの。ね」
「ええ、見たことありますとも。《歌姫の騎士》、実際に見るのは初めてですけど画面越しならいやになるほど」
「《歌姫の騎士》?」
ああ。見ただろさっきの運動神経。
SA:Oは仮想現実じゃねえ。拡張現実だ。
あくまでも俺たちの生きる世界を拡張したもの。
だから、そこには絶対的な原則が一つある。
それは、リアルで強いやつはオリジンでも強いってこと。
「あの人はリアルチート。ばかみてえな運動神経と反射神経で、このSA:Oのトップ配信者ユナの護衛をする、最強の剣」
ユナとお揃いの黒い服に、シンプルな白銀の片手剣。
人は彼のことを、こう呼んだ。
「《歌姫の騎士》。もしくは、SA:O最強の
ぶるり、とユウキが体を震わせた。
わかるよ、俺もいまこんなところで最強のプレイヤーと顔を合わせるなんて思わなかった。
しかも、その人に
アインクラッド軍のリーダーディアベル。その右腕キバオウ。
ビーストテイマー、ドラゴンアイドルシリカと、SAOの名鍛冶師リズベット。
そして、ナンバーワン配信者ユナと、その騎士エイジ。
この中で、経験積んで来いって?
はは、スパルタきついって、アスナさん。
「ヒロ、大丈夫……?」
ランが心配そうに声をかけてくる。
正直、いきなりこんなところに放り込まれてガクブルだよ。
でもさ、ユウキが笑ってんだよ。
いろんな人と、見たことのなかった世界とを見て、楽しくて仕方ねーっていうふうに笑ってんだ。
なら、俺は
「大丈夫だよラン。な、ユウキ」
「うん! こう、胸がぐつぐつしてワクワクして、ぼぼぉ〜って燃えてて、これなんて言ったらいいんだろう!」
なんて言ったらいいか? おいおい、そんなのシンプルにこれでいいだろ。
「沸いてきたぜ……!」
「いいね。ボクも沸いてきた!」
「きゅくるー!」
イルファング・ザ・コボルドロード攻略、しっかり爪痕残してやろうぜ。
「ユナ、おつかれライブよかったよ」
「あー! エーくんさっきルーキーの子たちいじめてたでしょ! もー、優しくしてあげなきゃ!」
「いやあれは彼らがユナのライブを」
「ふーんだしりませーん。エーくんは反省してください」
「ゆ、ユナぁ……」
……あの人ほんとに最強、なんだよな?
《ヒロ》
双子の前では一番かっこいい俺じゃないとダメ。
過去ネーム「スカレッド」。
ハズレの赤。赤のなりそこない。
《ユウキ》
すごい人だらけでワクワクしてる。
《ラン》
二人が笑い合うのを一歩下がって見てる。
《シリカ》
ヒロがママであることは特に誰にも言ってない。そもそも聞かれない。
スカレッドは趣味は合わないが会話のテンポが合うので話してて楽だった。
《リズベット》
オリジンでも鍛冶スキルを上げてるが特に武器は作ってない。
作ってあげる相手がいない。
《ピナ》
ユウキがかわいいと褒めてくれるし、撫で方も優しいので懐いている。
オーグマーを使うことで現実でもシリカと触れ合えるようになった。
《ディアベル》
気持ち的にナイトやってます!のギャグがもう通じない。
《キバオウ》
なんでや!
《ユナ》
SA:Oの運営《カムラ》と提携する公式マスコットにしてトップ配信者。
《歌姫》と呼ばれている。
《エイジ》
この世界においては、持っていたVR不適合障害を体を鍛えまくることで克服した男。
劇場版でパワードスーツで行っていたような動きを生身で可能にする変態プレイヤー。
アスナはVRとの適合率の高さ故に強いが、エイジは身体性能が死ぬほど高いので強い。
※9月16日最後の数文を改稿しました。