ボクっ娘幼馴染に配信チャンネル乗っ取られたらバズり倒した 作:世嗣
週一更新を続けていたところで10話で突然文字数が反旗を翻したので遅れました。
10話は四分割くらいされたので、何事もなければ今日から1話ずつ投稿される予定です。
アスナさん誕生日おめでとうございます。今回は特に出てきません。
攻略会議はつつがなく終わった。
……というか何話して何をするかの大枠は決まってたみたいだった。
今回の参加者の紹介と、これからの流れと。
この中で俺たちにしかできないこととかあるのかな。
いや弱気になるな。俺はリーダーだからユウキとランを引っ張っていくんだぞ。
「ヒロなにぼーっとしてるの? もうパーティ編成終わっちゃうよ?」
「え、あー悪いラン。ちょっとな、いろいろ」
「パーティ編成? なにそれ」
「おいおいユウキさっきの攻略会議聞いてなかったのか?」
「もう、ユウったら。それじゃあこのあと困っちゃうよ」
「ちゃんとわかったことはあったし。ゆ、ユナちゃんがかわいいこととか……」
「わかる」
「ユナちゃんのファン再発してない?」
「だってふわふわ浮いてるのマジで幻想的じゃん……目で追うのは仕方ないっていうか……どうやってんだろ……アイドルという徳積みまくりの天使はああやってレッドブルに頼らなくて翼を授かれるのかな……ああいう姿を見るだけで他のことに全く身が入らなくなるぜ……」
「わかるよ―――っていうことはヒロも聞いてなかったんじゃんか!」
「はっ、しまった! 誘導尋問だ!」
ええい仕方ない今回の話はランに聞こう。教えてくれラン!
「えっ、私? そんないわれてもゲームの話なんて私にはちんぷんかんぷんだったし……」
じゃあ三人とも全滅ってことか。
いやそもそも俺がちゃんと聞いておかなきゃいけない立場なんだよな。
さっきだって俺がもっとしっかりしてりゃエイジさんともうまくやれたはずだ。
……歌姫の騎士エイジ、か。
「ヒロどうかした?」
「なーんでもねえよ。だからのぞき込むな顔が近いってんだよ」
ほれほれ離れた離れた。しなだれかかるなっての。
とりあえず、シリカは近くにいないからーー、そこで階段に座ってるリズさん! どうなったのか教えてください!
「攻略会議の話? まあいいけど」
さすがリズさん、話が早い。
「とりあえず前提として今回の敵『イルファング・ザ・コボルドロード』はSAO一層ボスだったやつよ」
「ああ、なんか聞いたことあるっす。なんか攻略にすごい苦労したとか」
「そうそう。で、こいつみたいな大型ボスに関してはソードアートシリーズにはいくつかの分類があるのね」
リズさんはなにやらやいやいとやかましい人だかりの方をちらりと見つつ、説明を続ける。
まずフロアボス。
SAO、アインクラッドの一層ごとに一体ダンジョンの最後のボス部屋に陣取ってたすげー強いモンスターらしい。
次にフィールドボスと呼ばれるその地帯の番人のようなボスモンスター。
ダンジョンの最後にいるものやエリアを徘徊しているものと色々いるがだいたい「フロアボス以外の大型ボス」と考えていいらしい。
最後にクエストボス。
特定のクエストやフラグ管理で出てくるボス。
俺たちが戦った殉教者ニコラスはこれにあたるようだな。
オリジンにおいてフロアボスはその
フロアボスはほかのボスと強さも、規模も大違い。
なんとボス攻略のためだけにわざわざカムラが道路や公園を封鎖してボスバトルをするんだと。
まあそうはいっても《イルファング・ザ・コボルドロード》はSAOで一度は倒されたモンスターだ。
多くの人が「案外簡単に攻略されちゃうんじゃないの」なーんて思ってたが、
ディアベルさんやキバオウさんのアインクラッド軍なんかも30人規模のレイドで挑んだようだが4本ある体力ゲージが残り一本半になったところで制限時間が来てしまったらしい。
今回ユナの声掛けで集まったのはプレイヤー7人の7パーティ、合計49人。つまり一回の攻略に集められる
現実で一気にそれだけのプレイヤーを集められるのはトップ配信者のユナくらいだろう。
つまるところ、この攻略はいまのソードアート・オリジンにおいて最大の攻略作戦なのだ。
「―――ま、そういうわけで、フロアボス攻略はそんだけ難しいもんなのよ」
「なるほど、仮面ライダーローグでエボルトフェーズ4に大ダメージ与えるくらい難しいのか……」
「家に帰ろうとした時に自転車のペダルがバキって割れちゃった後に門限までに家に帰るくらい難しいんだね……」
「ピーマンの肉詰めも駄目なくらいピーマンが苦手な子に気付かれないように夕飯にピーマンを混ぜ込むくらい難しいんですね……」
「例え話下手軍団なの?」
そんなことを話してたらさっきまでざわついてた人たちが次第にまばらになっていく。
「パーティ編成の話し合いも終わったみたいね」
「え、あれその集まりだったんすか。あたし聞いてない!」
「ほんとに聞いてなかったんだよ、ヒロは。ぼーっとしてるからシリカさんが引き受けてくれたの」
そ、そうだったか……すまんシリカ。
「ま、いーんじゃない。ああいう人付き合いはあの子にやらせとけば。……まあ、正直団長はついて行った方が良かったのかもしれないけど」
「で、ですよね。俺今からでも行ってきましょうかね」
「うーん、なんかやらかす未来しか見えないからここで大人しくしてていいんじゃない」
「どういう意味っすかそれ!」
「そのまんまの意味よ」
「リズドラシルぜってぇ許せねえ……!」
「おー、ぜってぇ許せねえだ。生で聞くとそれなりに感じ入るものはあるわね」
「? 生で?」
「あ、あー……」
リズさんが露骨にやっちゃったという風に口を押える。
あれ、この人もしかして……。
「実はさっきからヒロを団長って呼んだり、私たちにも詳しかったりでもしかしてとは思ってたんですけど……リズさん私たちのチャンネル結構見ててくださったりしますか……?」
「シテナイワヨ?」
「あ、あからさまに棒読み! さすがにボクでもわかるよこれ!」
「リズさん、ユウキ騙せないのはよっぽどっすよ」
「うるさいわねっ」
リズさんが大きなため息を一つ。
「……こうなったら隠しても仕方ないか。私あんたたちのチャンネル登録してるわ。アニールブレードあとくらいから時々コメントとかもしてるし」
「えっ、てことは団員さん!? 言ってくれたらよかったのに!」
「だ、だって恥ずかしいじゃない。自分より小さい子の……ファンとか」
「そんなことないですって! ね、姉ちゃん!」
「うんうん、嬉しいです。私たち団員さんと会ったことなかったですから、ちょっと感動してます」
「あ、そうだせっかくだし一緒に写真撮ろうよ! いまオリジンアバターだから記念になるし!」
「い、いいの?」
「もっちろん! ほら姉ちゃんとボクの間で」
「いいのかしらこんな贅沢……」
あのー、そこに俺はいなくていいのかな……一応俺は団長なんだけど……いらないか、はい。だってリズさん今までになくでれっとした顔してるしな。
こういう時は大人しく見ておくに限る。俺もガキの頃ヒーローショーの言ったとき変な茶々入れないでほしかったし。
「……何してるんですか、リズさん」
あ、シリカ。
「し、シリカ、これにはいろいろあってね……」
「ふーーーーーん、なるほどぉ。なーーんでリズさんが今回私の配信に付き合ってくれたのかよ~~~~~くわかりました。いやぁ~~~、羨ましいなぁ〜〜〜〜〜〜! 美少女双子の間に挟まれる気分はどうですか?」
「こ、ころして……」
「きゅあー!」
死ぬほどシリカに絡まれ始めた。
真っ黒な目でぬるぬるとリズさんにまとわりついているシリカはウナギみたいだった。
「と、というかパーティメンバー! 連れてきたんでしょ! あたしに絡んでないでちゃんと紹介しなさいっての!」
「………………まあ、いいですけど」
「びっくりするくらい全然よくなさそうな「まあいい」だな」
やや強引にリズさんが話題を切り上げると、シリカも渋々それに乗った。
「ええと、追加のパーティメンバーは二人いらっしゃるんでしたっけ」
「そうだよランちゃん。スリーピングナイツは私と
「いま私にすごいルビ振らなかった?」
俺ユウキ、ラン、シリカにリズさん、ピナはアイテム扱いだから5人か。
ユウキたちと仲良くしてくれる人たちだといいんだが。あとできれば腕が立つ人。
「ねね、スカレッド」
「ん?」
「あらかじめ言っておくけど、ちゃんとやってよね」
「なんだ突然。俺は常にクライマックスだぞ」
「オッケー! きみに期待したのが間違いだったね!」
「何が言いたい姫プの似非ロリ」
「さーねー自分で考えれば炎上仮面男。あ、きたきた。こっちですよー」
何が言いたいんだろうかこいつは。
まあいい、こっちにきてるのは……おお、随分と背が高いな。それに男だ。
なんかあの人の感じ見たことがあるような……てか隣に人が浮かんでるな。
はっはっは、珍しい人もいたもんだ……オリジンで浮かぶ人? まてまてまてまてそんなの一人しか居なくねえか?
ちょっと待てよシリカ、俺に「ちゃんとやれ」って、そういうことなのか?
「……マジ?」
追加のパーティメンバーが俺たちの前にやってくる。
一人は満面の笑みで、もう一人は心底いやそうに。
「というわけで、スリーピングナイツのパーティに臨時で入ってくれることになりました、エイジさんとユナさんでーす! ぱちぱちー」
「ユナです。みんなの邪魔しないように気をつけるからよろしくね。ほらエーくんも!」
「僕は別に……」
「もー、お世話になるんだからそう言うこと言わない! はい、あいさつ!」
「……よろしく」
わーお。
「じゃあ、ボス部屋にはA班から順に行こう!」
ディアベルさんの声にしたがって、オーグマーを起動させたプレイヤーたちが交通規制のかかった道路を進んでいく。
真っ昼間から一部道路を封鎖してボスバトルに使っちまうなんて、カムラの会社のデカさを思い知ぜ。
そろそろ俺もオリジンつけといたほうがいいな。
「ユナさんお久しぶりですー」
「シリカちゃんやっほー! 前はあったのは確か……」
「インターネット紅白の時ですかね。あの時は私司会でしたし」
「そうそう! シリカちゃんが飛び入りで私のUbiquitas dbを歌ったんだよね。懐かしいなあ」
「あはは、お恥ずかしい限りです」
シリカがユナと仲よさげに話してるのを見るとこいつも有名配信者だってのを思い知る。
炎上常習犯の俺とはずいぶんな違いだ。
ふと、話がひと段落したのかユナの視線がこっちに滑る。
「きみたちがスリーピングナイツだよね?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「あはは、そんなに緊張しなくてもいいんだよー? 私たちはきみたちにお世話になるんだし」
「う、ウスッ!」
「固いなあ。そんなに肩ひじ張らずに、よろしくね」
「……?」
「なんでそんな未知のものが目の前に現れたエイリアンみたいに首をかしげるの? 握手だよ、握手」
お、俺が握るのかユナの手を。
この白魚のようにきめ細やかで孤高の歌姫としての存在を際立てるような袖からのぞいた俺が後アバター作製技術を百年学んでもたどり着けなさそうな至高の芸術にあまつさえも触れて握り返すのか。
「うーん、無理」
「わ、わああっ! ヒロが倒れたぁ! ねえちゃあん!」
「……うん、だめだ。ユウがこの前炊飯器を開けっぱなしにしたせいで食べられなくなっちゃったお米くらいカチコチだ」
「これでユナのオタクじゃないって言いはってんだからとんだあまのじゃくよねえ」
「めんどくさいやつなんですよ、スカレッド」
「スカレッド?」
「ヒロの昔の名前です。ほら、あそこの変なお面の」
「ふうん……」
「……ユナ、そろそろ」
「もうそんな時間? ごめんね、私ちょっとそろそろ
「落ちる?」
「ふふ、ユウキちゃんは気になるならそれはエーくんに聞いておいてね。じゃ、エーくんもみんなと仲良くしなきゃダメだからね!」
「善処はするよ」
「もー、約束だからね! そうしないと今晩のおかず一品減らしちゃうんだから」
「それは……こまるな」
「なら気を付けるよーに! じゃあまた、ボス部屋前で!」
はっ、気を失っていたか。すみませんこのヒロ不覚にもユナちゃんの姿を―――うおお!? 消えた!? ユナが消えた?! アタックライドインビジブル?! それともトランスチームガンの謎煙か?!
「まさか今まで俺が見ていたユナは俺のキモすぎる感情がほとばしったことによる幻覚……?」
「違う。馬鹿か君は」
「って、エイジさんが隣に!? なぜ!?」
「っ、……うるさ」
「うわあ、エイジさんが夜喉が渇いて自販機に行ったら財布を忘れたことに気づいたとき並にめんどくさそうな顔してる」
俺は……そうか、ユナちゃんに手を差し出されて気を失ったんだった。
たすかった、あのままだと俺は一生自分の手を洗えないか、俺のようなカスがユナちゃんに触れた象徴である罪深き手を切り落とさなきゃいけなくなっていた。
どちらにしろ、セーフ。
俺がほっと胸をなでおろしてると、その隣ではいぬっころユウキがエイジさんに突撃していた。
「ねえねえエイジさん! さっきのライブも今もユナちゃんは出たり消えたりしてたけどどうなってるの? あと落ちるって? どこかに行っちゃったけどユナちゃんって人間なんですよね? エイジさんはそれ全部わかるんですか?!」
「ま、まあ、僕は彼女のボディガードだからね」
「じゃあ教えてほしいです! ボクそのことがずーっと気になっちゃって、攻略会議のお話もあんまり頭の中に入ってこなくって」
「あー、それは……ううん、調べたらわかるとはいえ今教えていいものか。ううん、僕の口からは言いにくいな」
「だめでしたか……ごめんなさい……」
「あ、いやだめじゃないだめじゃない。ユナも教えてあげてって言ってたし、君には教えていいだろう」
「やったーーっ! エイジさんありがとーっ!」
「あ、ああ……」
「すげえな速攻でエイジさんと仲良くなってないかユウキ」
「ユウったら本当に人たらしだよねー」
甚だ同感だ。
なにせ、あんなに嫌そうな顔だったエイジさんが今では、正月の実家の集まりで親戚の子どもの面倒を見るお兄さんみたいになってるからな。
エイジさんは少しかがんでユウキと目線を合わせると、いいかい、と話し始める。
「ユナは僕らと違って、ここに来ているのは意識だけだなんだ」
「意識だけ?」
「わかりやすく言うなら僕たちは
「……??」
「難しかったか。困ったな……」
必死に話を理解しようとして脳から煙を出していたユウキにランが助け舟を出した。
「つまりユナさんはオーグマーをつけてプレイしてない、ということなんですか?」
「ああ、そういえばよかったか。そうだな、いまリアルのユナはナーヴギアをつけてアバターを操作してるんだ。専用の設備があるところでね」
「なるほど~。じゃあユナちゃんが今いないのはその設備のある所に帰ってるからなんだね」
「うん、その認識で正しいよ。悪いね、口下手で。迷惑をかけてしまう」
「いえいえ、ユウのお話に付き合ってくださってありがとうございます」
くしくし、と現実では俺の作ったシュシュで髪を留めてるあたりを触りながら微笑むラン。
「ええと、君の名前は」
「ランと。こっちは妹のユウキです、ご指導お願いします」
「そうか。ラン君に僕が教えることはあまりなさそうだが」
少し柔らかい顔で話すエイジさんにランはにこりと笑う。
……なんだか、俺の時と態度がずいぶん違う気がするよーなー。
いやここは臆する時ではない! 今のノリなら案外打ち解けられるかもしれねえぜ!
「あのエイジさん、ユナちゃんがいるのってカムラの本社とかっすか?」
「なんで君に教えなきゃならない」
ふん、と鼻を鳴らすエイジさん。
きびしい……。
「ったく、エイジ、あんた少しは団長にも優しくしてやりなさいっての。ユナにも仲良くするようにって言われてたでしょーが」
「リズベットさん。それは、そうですが」
「団長だってさっきは悪気があったんじゃないんだし。
ほら、団長も。ちゃちゃっともう一回謝っておきなさいよ。別に他に何かしたわけじゃないんでしょ」
あ、いえ、そのですね、リズさん。
「……待ってなにその態度。あとお面の間から流れてるの汗? まって団長エイジ、いやユナに何かしたことあるの?」
「……口を滑らせて炎上を少々」
「炎上はそんな嗜みみたいにするもんじゃないのよ」
エイジさんが今までで一番機嫌悪そうに唇をゆがめる。
「僕だって一度のミス程度でここまで腹は立てない。
ただ、この彼だけは別だ。
君、先々月ユナに姫プと言って燃えた配信者だろう? なのにまたあんな不注意を……僕だと恥ずかしくてユナに顔向けできないな」
「マジでその節はすみません……」
「ユナは別にいいよと言ってたが、僕は忘れてないからな」
マジ?とリズさんがランを見た。
ランは悲痛な面持ちで頷いた。
「……ごめん、団長あたしにフォローできるレベル超えてたわ」
「いえ、まあ俺が悪いんで……すみませんクズでカスで……」
ちょっと、いやかなり情けなくなる。
「エイジさん」
「ユウキ君?」
不意に俺の隣でユウキが真剣な声音で割って入った。
まさかユウキ、俺の弁護をしてくれるのか……?
「エイジさんってユナさんのことがすごく好きなんだね!」
全然違った。
「べっ、別にそういうわけじゃ」
「えー、でもエイジさんは前ヒロが悪口を言っちゃったことに怒ってるんだよね? 自分のことじゃないのにそんなに怒れるなんて、すっごく好きな証だよ!」
「あ、でも『エーくん』っても呼ばれてましたよね。もしかして結構長いお付き合いなんですか?」
「ラン君まで……」
「ふふ、女の子はみんな恋バナ好きなんです」」
「うんうん。……まあボクは正直あんまわからないけど、でもエイジさんとユナちゃんのことには興味あるなー」
「う、そんな風に見ても特に君たちに教えられることはないからな」
「なーんでですか、教えてあげたらいいじゃないですか。僕とユナは幼馴染なんだよ……って」
「えっ、そうなの!」
だが、そんなエイジさんの道を塞ぐドラゴンアイドルが一人。
「……ああ。一応な。でもユナはアイドルだからそういうのは公言しないようにしていたんだが、な」
恨みがましく目を細めるエイジさん。
「ひえっ、リズさ~ん、かくまってください~」
「あたしに隠れるくらいなら言うなっての」
「だって公式配信でユナが散々エー君って呼んでる時点で今更ですって!」
「勝手な推測が出るのと公式に言ってしまうのは別なんですよ。はあ……」
「ぜったい心配しすぎだと思うけどなぁ」
「いやでも確かにユナちゃんは人気っすからね」
ファンも多いし、一応アイドルとしての扱いを受けてるからには最低限守らなきゃいけないイメージというのもあるのかもしれない。
俺は正直楽しそうに歌ってるユナを見てるだけで満足だったクチなので思うところはないが。
「そういうわけだ。できれば君たちも黙っておいてくれると助かる」
「ボクは幼なじみで配信してるのすっごい素敵だと思うけどなあ。ほら、ボクらとおそろいってことになるし!」
「ユナは君たちと違って僕と配信してないから、残念だけどおそろいにはならないな」
「むー、じゃあエイジさんも配信しましょうよ! 一緒にやったら絶対楽しいですって!」
「いや僕はいいよ。今のポジションで満足しているしな」
「ユナさんも喜びますよ!」
「それは──いや僕の話はもういいだろう。ほら、さっさとダンジョンに入ろう。そろそろ僕らG隊の番だ」
足早にダンジョンに進んでいくエイジさんの背中に、ユウキが口をとがらせる。
「ぜーったいエイジさんも一緒なら楽しいのに」
「俺たちは俺たち、ユナたちはユナたちでいいだろ、別に」
「え~~、姉ちゃんはそう思う?」
「私は、今の三人が楽しくて好きかなあ」
「それはそうだけどさ~」
オリジンを起動して先を進むエイジさんについていく。
現実ではコンクリートのビルがRPGのダンジョンらしい石をそのまま削り出し様な通路へと変わる。
それに従ってダンジョンもオーグマーの機能で次第に仄暗く代わっていく。
「前の人は見えないっすね」
「割と距離を置いたからな。僕らが順当に進めば追いつくことはない」
「? 追いついちゃダメなの?」
「あー、確かパーティが重なるとその分出てくるmobも多くなるんだよ。だから進む時はワンパーティずつで、ボス部屋前で合流がセオリー……らしいぜ」
「……全くの無知というわけでもないようだ」
「一応SAO時代のボス攻略動画くらいは見てきましたからね」
アスナさんにも注意されたし、リーダーとしてやるべきことはやるさ。
ふとリズさんにじっと見られてるのに気が付いた。
さっきからしきりに俺とエイジさんを見比べているような気がするが……。
「いや、こうして見るヒロとエイジって似てる気がして」
「「 は? 」」
「僕と彼が?」
「俺とエイジさんが?」
「「 いやないない 」」
「……真似しないでくれるか」
「してないですって! そっちがしたんじゃないすか!?」
じっと睨みあう……けど、くそ俺よりも10センチは身長が高い!
ええい、リズさんよく見てくださいよ俺とこの人のどこが似てるんだ!
「だって、幼なじみが配信者で」
「まあ、ユナは幼なじみだが」
「ユウキとランは幼なじみですが……」
「配信企画のプロデュースしてて」
「エイジさんそんなのまでやってるの?」
「やれることをやっただけだ」
「それでコミュニケーション能力皆無の盾なしの
「コミュニケーション能力皆無―――って俺は片手剣じゃなくてバスタードソードっすよ! ジャンルとしては片手剣と両手剣の間!」
「否定するのそこでいいの?」
「……使いにくい武器だな」
「ちょっとぉ!?」
「事実を言ったまでだ。それに」
ちらっとエイジさんがこっちを見て、なんだ剣を抜いて近寄って──。
「た、たんまたんまたんま! 俺が悪かったなら謝り──」
斬、と剣が振るわれた。
「GYAA……」
「──この程度の不意打ちに気づいてないやつに似ているとは言われたくないな」
「―――っ」
言葉もない。全く気付かなかった。
エイジさんがコボルドを斬った後そのまま蹴りを叩き込みダンジョンの床に転がす。
すると助けに来たのか数体のコボルドが現れ、ぎゃあぎゃあとやかましく騒ぎ出す。
「……全部で四体か」
「よーしボクらも―――」
「いやいい。僕一人でやろう。ボス戦前に君たちに消耗させるのは本意じゃないし、それに──」
前に出ようとしたユウキを手で制したエイジさんが、片手剣を構えた。
「―――僕一人で十分だ」
そして、駆ける。
「っ、速い―――!」
沈み込んだ体が獣のように低く加速する。
黒とライトパープルを基調とした近未来的なローブに身を包むエイジさんはまるで影のよう。
剣を持ってるはずなのにフォームが一切崩れない。まるで陸上選手みたいだ。
「GYAA!」
しかし相手するのはコボルド。人間ならばその速度にひるんだかもしれないがただの思考ルーチンの集積体である彼らに意思はない。
だが、数がいるせいなのか、それとも感じるはずのない恐怖を感じ取っているのか、それともその両方か、コボルドたちはなかなか前に踏み込んでこない。
「……片手剣じゃリーチが足りないか」
ならば、とエイジさんが剣を手放した。
「
そのまま片手剣を蹴り飛ばす。
矢のように飛んだ剣がコボルドに突き刺さる。
「
ワンアクションで武器を持ち帰るショーットカットで、虚空からを呼びだしたの一振りの長槍。
「ほっ、と」
横薙ぎ、足払い。
弾丸のように飛んできた剣にくし刺しにされた仲間に目を奪われた一瞬を狙いすまし、槍で引っ掛けるようにコボルドの体を浮かす。
「GYAA―――」
「お疲れ」
抵抗をしようとした次の瞬間、コボルドの視界に移っていたのはいつの間にか握られていたダガーだった。
するりと魚を解体するようにライトエフェクトが走り、コボルドはそのまま二度と地面を踏むことなく経験値と
「さて、残りは二体だな」
地面に転がっていた片手剣を足ではね上げてキャッチしたエイジさんは、残りのコボルドに目を向ける。
残りの戦いを見るまでもないほど明らかな実力差。
「すごい戦い方ですね……私は武器使わないからわからないですけど、あれ何が起きてるんですか?」
「ごめん、正直私もよくわかってない。でも噂には聞いてたけど、オリジンの武器全て使いこなせるって《歌姫の騎士》の話は本当っぽいね」
「全部って、そんなのできるんですか?」
「普通ならできないわよ。だから最強って言われてるのよ、エイジ」
「強くてかっこいいとか無敵ですよね。あー、私もああいう相棒欲しいなー」
「きゅくる……」
「あ、ピナ?! いやいまのはピナに不満があるとかじゃなくてね?!」
全武器を使える、最強のプレイヤー、か。
「……つよいね」
「一応聞くけどユウキ、あの人とお前どっちが早い」
「ボクとなんか比べられないよっ! ま、まあ反射だけなら同じくらいかもしれないけど……それよりも動きが速すぎる」
ユウキでもか。いや、正直そこまでは予想はしてたけど。
「じゃあ、だ。アスナさんなら、どうだ」
これはユウキにしかわからないことだ。
実際剣を重ねて、今目標にしているユウキだから、誰よりも『エイジさんの実力』がわかるはずだ。
「……それも、すごく難しい質問だけど。動きの速さと立ち回りに限定するなら、エイジさんのほうが上、かも」
そんなにか。
コボルドは決して弱い相手じゃない。俺たちとほとんど変わらない体格に鉄鎧を着こみ、鉄剣と盾を持つ。
このダンジョンに出る奴らはコボルドロードが近くにいるからか侮れない連携だって行う。
森の秘薬の時に戦ったネペントと比べるならば、コボルド一体につきネペント三体分くらいの強さはあるだろう。
あの時より防具やら武器やら俺たちも強くはなっているはずだが、それでもこれだけのコボルドを瞬時にさばききれるかは怪しい。
「次は、片手斧にするか」
だが、そんなコボルドたちをいともたやすく蹴散らしていく。
ユウキとアスナさんの戦いは剣舞のようだったが、エイジさんは違う。
組み上げられた戦闘の理論。冷静に状況を見て、適切に武器を使い分ける。
時には片手剣。時には槍。そこから短剣、片手斧、両手剣、大鎌までつないでいく。
それは、片手剣と両手剣の間であるバスタードソードを選んだ俺の、完全な上位互換の戦い方だった。
「これで、最後だ」
最後のコボルドがポリゴンとなって消えていくと、エイジさんは剣を払って鞘に納める。
エイジさんは俺に厳しいし、無愛想だし、そのくせなんかユウキやランには甘い。
でも。
「……かっけえ」
一人で敵を殲滅して、散りゆく青白いポリゴンの中で佇むエイジさんは、死ぬほどカッコよかった。
それこそ、いままで俺にやたらと辛辣な態度がくるっとひっくり返って、「なんかクールでカッコいい」って思えてくるくらい。
うん、なんか一周回って2号ライダーみたいでアリだよ。
むくむくと俺の中で一つの想いが形になっていくのを感じた。
「一応聞くが君たちに負傷は?」
エイジさんがゆっくりとこっちに歩いてくる。
ああそうだ、俺はこの人くらい強く、いやこの人みたいになりてえ!
「エイジさん!」
ばっと頭を下げる。
「俺の師匠になってください!!」
「は? 嫌だが」
「ありがとうございま―――ダメなんすか?!」
「きみ僕との今までの会話のどこに弟子になれる可能性を見出してたんだ」
「そこは、こう、勢いで!」
「薄々感じていたが、君相当な馬鹿だろ」
大丈夫です。
成績はユウキと互角ってとこですから。赤点もたまにしか取りません。
「ヒロ突然どうしたの」
「始まりはいつだって突然なもんなんだよ! 俺はエイジさんの戦い方にめちゃくちゃ惚れた……! だからエイジさんのようになりたいんだ……!」
「その心は?」
それは、まあいいだろ。
とにかく、エイジさんは俺の理想だ。
「へえ~、だから弟子入り。団長も思い切ったわね」
「だから断っただろう。というかそもそも僕は君が嫌いだ」
「あれ、でもさっきヒロのことコボルドから守ってたよね?」
あ、黙った。
「……別に彼のためじゃない。ユナに頼まれたからだ」
「わあ、ツンデレですね」
「きゅくるる」
「ツンデレね」
「ツンデレさん?」
「2号ライダーみたいっすね」
「ヒロはそれが誰にでも伝わる言葉だと思わないほうがいいと思う」
し、しかしツンデレは二号ライダーの代名詞なんだが……。
「……いいから行くぞ、僕らはバカな話ができるほど暇じゃない」
「あ、待ってくださいよ師匠! 俺に剣を教えてください! あと人生の教えとかを経験を込めてなんかすごいいい感じに! ヒビキさんみたいにキャンプ中に言ってくれるとベストです!」
「君さっきから距離の詰め方エグすぎるだろ」
道を進む。何度か敵も出てくることもあったものの、そのたびにエイジさんが速攻で片づけていく。
俺たちも一応戦ったが、俺たちが一体倒す間にエイジさんは三体倒してた。
なんなんだよあの人……強すぎる……やはり師匠にするならあの人だ……。
「師匠はどうしてそんな強いんすか」
「その呼び方をやめろ」
「やめたら教えてくれるんすか?」
「君に話す義理はない」
しょっぱい。
だが、幸運なことにエイジさんの強さが気になっていたのは俺だけじゃないらしかった。
「あ、それボクも気になるかも」
ユウキが手を挙げると、少しエイジさんの表情が和らぐ。
「ボクいま強くなるためにいろいろ頑張ってて、ソードスキルの素振りとかもやってるんだけど……どうやればエイジさんくらい強くなれるのかなって」
「そういわれるとくすぐったいけど、僕はできることをやっただけだ。君も……まあそこの彼も努力すれば強くなれるだろう」
「でもボクエイジさんみたいな戦い方なんて練習してもできる気しないよ」
「いや、本当に僕は頑張っただけなんだよ」
エイジさんは少し顔を曇らせたが、「話した方が早いな」と呟いた。
「ユウキ君はフルダイブ
「ふるだいぶのん……? 姉ちゃん訳して!」
「ノンコンフォーミングは……不適合、かな」
「つまりフルダイブ不適合……えっ、エイジさんが?!」
ユウキが目を丸くした。
フルダイブ不適合。
いくつかネットニュースで見たことがある。
確かナーヴギアとうまく接続できないことが原因で、アバターに違和感が出る症状だ。
個人差はあるものの、遠近感が掴めないとかがよくある症状だったと思う。
まさか、エイジさんがそれだっていうのか。
「僕は不適合の中でも少し特殊な『アバターに理性よりも生存本能が優先して伝達されてしまう』ものだった」
「?」
「はは、簡単に言うと『強敵を前にビビってしまう』と思ってくれたらいい。カッコ悪いだろう」
自嘲気味に笑うエイジさんだが、リズさんがそれをすぐさま否定する。
「でもそれはエイジのせいじゃなくて機械のせいでしょ? あたしの鍛冶仲間にもいたわよ、そういう不適合のやつ」
「そうそう! どんなにエイジさんの意思が強くてもそういう風に体が動いてしまうのならそれは仕方ないですって。ね、ピナ」
「きゅくるー」
「僕もそう思っていたさ。SAOでユナが殺された、あの時までは」
殺された? ユナが?
「ユナは昔からゲームが好きで僕もよくそれに付き合ってた。SAOもその一環だ。不適合だったけど、雑魚と戦う分には問題のない症状だからね」
でも、とエイジさんが続ける。
「ある日僕とユナはトラップにかかったプレイヤーを助けに行ったんだが、その時のモンスターがとにかく強かった」
「守れなかった、んですか?」
「それより最悪だ。情けないことに目の前でユナがモンスターに囲まれているのに足がすくんで動けなかったんだ」
「でも、それはゲームの」
「ああ、たかがゲームの中だ。ユナも僕を気遣って大丈夫だと言ってくれた」
エイジさんが、悔しそうに唇をかむ。もうずいぶん経つだろうに、今でも忘れられない後悔なのかもしれない。
「それでも僕は僕を許せなかった。
現実で似たようなことがあった時、僕は同じようにユナを守れないんじゃないか、と思った」
……それは。
自分だったらどうだろう、目の前で木綿季が、藍子が傷ついてるのに何もできないのは。
いや考えるまでもない。きっと、死にたくなるほど、自分が嫌いになる。
「だから僕は思ったんだ。『そうだ、筋トレしよう』とね」
「「「 ん? 」」」
なんて???
「それまでの僕は恥ずかしながらモヤシでね。インドア派だったせいで筋肉もなかった。でも、毎日腕立て伏せ100回 状態起こし100回スクワット100回ランニング10kmをやり続け、その果てにベンチプレス90kgを上げた時に思ったんだ」
「何を……?」
「このゲームの連中リアルで僕が殴ればみんな死ぬんだよな、と」
「流石に死なないっすよ?!」
「このモンスターも所詮ポリゴンで僕がサーバールームに乗り込んで殴るだけで破壊できるんだよな、と」
「それはそうかもしんないけど!」
「そう気づいたら僕は死の恐怖を克服しVRで自由に戦えるようになっていた」
「すごいわね……まったく他人に応用できない方法で事態が解決した……」
「下手な機械よりも体を鍛えた方が有意義だ。昔ユナのお父さんにパワードスーツのテスターを頼まれたけど、あれはリアルの僕の動きについてこれず粉々になってしまったからね」
「元弱者の成り上がり話聞いてるつもりがいつのまにかマッスルモンスターの誕生秘話を聞かされている!!」
「筋肉……それがこの世の真理なんだ」
……ふむ。
「ユウキ、俺らも真似して筋トレしてみるか?」
「いや……ボクはボクなりに頑張ってみようかな……」
それがいいと思う。
これたぶんイケメンゴリラの才能が覚醒した話だと思うし。
《ヒロ》
師匠!
誰かを守るために強くなったエイジの背中に、自分の戦い方の理想を見た。
《ユウキ》
エイジになつく犬っころ。
《ラン》
恋バナが好き。
《リズ》
百合に挟まる鍛冶屋。
《シリカ》
よりによって自分ではなくルーキーの双子姉妹のチャンネルを追う裏切り者をじーっと見続けている。
《エイジ》
筋肉モンスター。師匠じゃない。