ボクっ娘幼馴染に配信チャンネル乗っ取られたらバズり倒した 作:世嗣
しばらくすると、ダンジョンの最奥にやってくる。
現実で言うと昔は日本一高かった真っ赤な電波塔の足下あたり。
こんなところまで一時的にとはいえ封鎖できちまうんだから、カムラはすげえもんだ。
「お、最後のチームが来てくれたな。少し配信の準備するから待っておいてくれ」
ひらひらと手を振ってくれるディアベルさんにこちらも手を振りかえしておく。
! あそこにいるのは―――!
「あ、きたきた。おつかれさまみんなー」
やばいちかいな深呼吸深呼吸おちつけおちつけ―――あだめだわちかいなんかいいにおいする気もする!!
そうだこんな時はしののんパイセンを思い出そう。
そう、あれはバイトを始めて二週間目のこと、偶然休憩室で年上の眼鏡の先輩と一緒になった俺は緊張のあまり腹を鳴らしたんだ。
そしたら先輩はそっと「おなかすいてるなら食べる?」と差し出してくれたんだ、タッパーに入れたいりこを。
田舎のおばあちゃんかよ。そういったら殴られたけど、今ではいい思い出だ。
「ふう、ウス、ユナさんもお疲れ様です」
「あ、緊張はちょっと解けたみたいだね」
にこりと笑うユナの顔に陰りはない。
ユナの顔を見ていると二か月前のアレコレが記憶をちらつくな。
ちゃんと謝りはしたし、当時はもう気にしなくていいとは言ってもらえた。
いまさら触れられても楽しくないかもしれないが……でもやっぱりもう一度謝ろう。
「ユナさん、俺、ヒロって言います」
「? それは聞いたけど……」
「あ、いえ。その二か月前くらいユナさんに姫プとかなんとか言っちゃって燃えたやつ、いましたよね」
「あ、あれやっぱりヒロくんなんだ。もしかしてそうかなーとは思ってたけど」
「その節は本当にすみませんでした。ほんと、死んでも詫びきれない迷惑を……」
「いいよいいよ、気にしないで。あれちょーっと私のファンが強く叩きすぎな気もしたんだよね」
「でも悪いのは俺です。こともあろうに、嫉妬でユナちゃんに死んでも詫びきれぬご無礼を……俺死ねといわれたらいつでも死ぬ準備はできてますんで……」
「重い重い。
私がバトルでの立ち回りうまくないのは本当だし。
だから、この話はここで終わり! これからはSA:Oの仲間としてやっていこー!」
ね、と微笑むユナちゃん。
「すみません、ありがとうございます。頑張ります、俺」
「うんうん、ありがとうとごめんなさいが言えるのはいい子のあかしだよ。えらいえらい」
ぽんぽんとユナが頭をなでてくる。
優しい……いや年上の余裕か。
「確認だけど、エーくんが怒ってるのって」
「まあ、いまの件ですね……ユウキやランとかとは仲良くしていただきましたし」
ちら、と人ごみの中のユウキとランに目を向ける。
「えへん、それでクリア後にわかったことなんだけどイルファング・ザ・コボルドロードの壁画には―――」
「へえ、そんなところまで作りこんであるんだ。歩いてる時からところどころ壁に傷があると思ってたけどそういう理由だったんだね」
「へー、ユウキよく見てるわね」
「ふっふーん、ボクこういうフレーバーテキストとか、裏話聞くの好きなんだ~。想像広がるよねえ」
「コボルドの曲刀は僕らのものより短い。僕は武器を全部適当に使い分けられるから問題ないが―――」
「なるほど、じゃあ後衛の私は距離を取って―――」
うちのランもエイジさんといろいろ話してるし、いい先輩だよなあの人は。
「弟子入りは、ちょっと難しそうだが」
「弟子入り? エーくんに?」
あ、やべ口に出ちゃってた。
「ええと、きみエーくんに嫌われてるんだよね? なんでエーくん?」
嫌われてる。まあそうだ。そんな人に弟子入り志願とか正直馬鹿の所業だろう。
でも、仕方ないじゃんか。
無数の武器を使い分け敵を殲滅する姿。
影のように困難をねじ伏せていく様子がいまでも目に焼き付いてる。
細々な理由は色々あるけど、大きな理由の一つはやっぱり。
「だって、エイジさん、めちゃくちゃかっこいいじゃないですか」
「―――」
ユナが一瞬黙った。やべ、なんかミスったかな。
「あのー、ユナちゃ――」
「だよね! エーくんすっっごくかっこいいよね!?」
うわっ、ユナの顔近い! 目もすげえキラキラしてるし、エイジさんをほめられたのがそんなにうれしかったんだろうか。
「エーくんは幼なじみでさ、私のわがままにいっつも付き合ってくれるんだ。私がオリジンでこういう役割をできているのもエーくんが守ってくれてるからだし」
「それはエイジさんも言ってたっすね。だから自分は配信には出ないんだとかなんとか」
「エーくん気にしいなんだから。
最近だと向かい合ってお礼を言ってもはぐらかされちゃってさー」
「あー、エイジさん素直じゃなさそうですもんね」
「そうなの! 昔は結構カワイイ顔してたんだよ? でも高校生くらいからぐんぐん伸びちゃって、いまではすんってしてることが多いんだ」
「そうなんすねえ。やっぱ、俺の弟子入りは厳しいですかね」
「うーん、どうだろう。エーくんあんま人に色々教えたりするの好きじゃないみたいだし、きみには今すごく怒ってるみたいだし……」
やっぱり、そうだよな。
「あ、でもヒロくんがすっごく頑張ってればまた別だよ! エーくん、頑張ってる人は馬鹿にしないから。だから、今回のボス攻略ですーっごく頑張ってればエーくんも弟子入りを認めてくれる!」
「おお!」
「……かも、しれない?」
「なんかアバウトになったっすね……」
「し、仕方ないじゃん、エーくんがだれか個人にあれだけ感情向けるの珍しいし……あれ、そう考えるとエーくんヒロくんのこと意識してるのかな」
口をとがらせるユナちゃんは、すこしユウキに似てる気がした。
あ、もしかしてエイジさんがユウキに甘かったのってユナちゃんに似てるからだったりするんだろうか。
「それにしても……」
なんだろう、ユナちゃんに観察されているような、やめて! オタクは推しと過剰に接近するのが耐えられない生命なんだ!
「ううん、ヒロくん……どこかで……」
「そ、そのー、ゆ、ユナさん?」
「あ、ごめんね。ちょっと気になることがあって。そのお面素敵だね。あれだよね、日曜日にやってるヒーローのやつだよね」
「知ってるんすか!? 令和二年9月5日日曜日午前9時から放映していた二人で一人の仮面ライダーリバイスを!?」
「スリーピングナイツには東映がスポンサーについてるのか疑うくらい淀みのない紹介だね」
困ったように笑うユナちゃんもかわいい……。天の与えた至高の芸術……。
「おーい、ユナはーん、そろそろスタンバイ頼むで~」
「はーい。じゃあヒロ君との話は楽しいけどそろそろ私行くね。あとはボス戦で!」
はいじゃあまた。
待て、ユナちゃんって俺たちのパーティの一員じゃんか。
やべ、ユナちゃんってこういうバトルの時どうしてたっけ。
ユナちゃんのオタクやめて以来配信見てないからよく知らねえぞ。
「ウス! あ、でも戦いのときの立ち回りとかって―――」
「それは大丈夫だよ! 私は、
「歌うだけ?」
どういう意味、と聞き返そうにもユナちゃんはあっという間に行っちまったな。
仕方ない。あとは本番にうまいこと立ち回っていくしかないな。
さて、そろそろ、だな。
「ユウキー、ランー、そろそろ俺たちも配信始めるぞー」
「ボクらも? ユナちゃんのほうの大きな枠でするんじゃないの?」
「そこあたりは攻略会議で言ってたけど、なんかそれぞれのパーティごとに一枠出すみたいだよ」
「ということは、ユナさんかシリカさんか、ボクら?」
「ユナとはまた別に一枠あるのが望ましい。ユナはスタイルの都合上パーティを俯瞰でしか見れないからな」
「私なら今回パスでいいよ。スカレッドにお呼ばれした立場だし譲りますとも。あ、リズさんはそれでいいですか?」
「あたしはもともとシリカのおまけだからね。異存はないわよ」
「じゃあお言葉に甘えて、俺らの枠で配信だな。事前告知がないのは少し気になるが……」
「それなら攻略会議の後に一応いるかなーってあらかじめつぶやいておいたよ。さすがに時間とかは伝えれなかったけど」
「あー、わり」
「……聞きたかったのはありがとうだったんだけどな」
「あ、それは、なんつーか」
「もういいってば。ほら、配信配信。ディアベルさんたち待たせちゃうよ」
それもそうだな。うっし、切り替え切り替え。
じゃあ、配信開始!
始まったー!
おすおす
ボス攻略戦だー!
やはりな……待機してたかいがあったぜ!
「おっすおっす、俺参上! スリーピングナイツのヒロだぜ」
「やっほーボク参上ー! ユウキでーす! みんなおっまたせー!」
「こんにちは、私も参上。ランです、急な連絡だったのに来てくれてみなさんありがとうございます」
団員参上
団員参上
シリカの姉御が来ていると聞いてきました
アスナ様の推薦とあらばこちらも視聴しなければ無作法というもの……
「わ、前回から引き続きの人もシリカさんのところから来てくれた人もいるんだね!」
「みなさん知ってるってことは、シリカさんも宣伝してくれてたりしたんでしょうか」
シリカ姉さんのツイートは見逃さないぜ
姉さんにも後輩ができるようになったんだなあ
当たり前だ。もう3年超えるベテランだぞ
しりかさんじゅうななさいい
うーん、ひどい言われようだ。愛されてると考える方がいいのだろうか。
だからシリカ地団駄踏んでないでこっちゃこいこい。
「というわけで知ってる人もいるみたいだけど、今日のゲストのシリカさんとリズさんです」
「ピナっピナっ! みんなのドラゴンアイドルシリカでーす! おっまたせー! きゃぴっ☆」
お疲れさまです姐さん
乙です
無理すんな
ロリキャラから卒業せよ
「しゃらーーっぷ! ナチュラル! 私のこれは素! OK?!」
「きゅくるー……」
「ほらいい加減みとめなってピナも言ってるわよ」
「言ってませんが!?!?!!?」
い つ も の
ピナニキはいつも正しい
リズの姉御!
姉御!
「はいはい、わかったわかった。あたしのことはいーから、団長たちとついでにシリカを応援してあげなさいよね」
オッス
姉御の安定感
ということは今回の攻略はいつもの3人とこの二人で五人?
「ううん、じつはまだいるんだよ! エイジさんほらほらー!」
「ちょ、僕はこういうのは」
は?!
エイジやんけ!!!!
ユナ専属ボディガードさん!?
エイジってオリジンPvP百人組手を50秒で終わらせたあのエイジ?
全武器をクイックチェンジで切り替えながら投げ捨てて戦うリアルランスロットの?
ユナには激アマで仕方ないなでなんでもやってしまうあの?
俺この前のユナの攻略配信見てたけどこの人3秒くらい天井走ってましたよ……
なんでいんの?!
「ふっふーん、実はユナちゃんはボクらのパーティなのだ。だからエイジさんも力を貸してくれるんだって」
なんてスマブラ?
スリーピングナイツの躍進が止まらない件
どういうつながりなんだろう
「ふっふっふ、何を隠そうエイジさんは俺の師匠だからな」
?!
ま?
師匠ってなんの?
炎上?
炎上の師匠ってなんだよ
「数合わせで入っただけだろう。堂々と嘘を吐くな」
「いや将来的に弟子入りするんで嘘じゃないです師匠! とりあえずこの後銭湯にでも行って親睦を深めましょう!」
「だから距離感の詰め方がエグいんだよ、君は」
なんだかんだ仲良くない?
これは時間の問題
「みんなー、そろそろこっち視線いいか!」
っと、ディアベルさんがみんなの視線を集めた。
少し俺たちも黙ってあの人の話を聞かなきゃ。
「さて、これでA〜G隊計49人が揃ってくれた。これはSA:O始まってから最大の攻略作戦だ!」
おお、と扉前のメンバーから声が上がる。
「正直、オレかなり感動してる! それもこれもユナさんのおかげだ。この場を借りてお礼を言わせてもらいたいと思う」
「いえいえ、みんなが賛同してくれたおかげだよ」
ディアベルさんのスピーチは淀みない。こういう場での慣れを感じる。
ユナが攻略全体の指揮を任せたのも納得できるな。
「あらかじめ教えとる通りABC隊がアタッカー、DEF隊がタンク隊、G隊には5体湧く取り巻きを担当してもらうで!」
「イルファング・ザ・コボルドロードは厄介な敵だ。体力が一ゲージを割るまで湧き続ける、王を守る兵士。広範囲のソードスキルと重い打撃はまともに食らえばタンクでも危ない」
「でも、ワイらが力を合わせればきっと勝てるはずや」
「うん、俺もそう思うよ。じゃあ最後は座長に締めてもらおう」
ディアベルさんが一歩下がると、ふわりとユナが浮き上がり、俺たち一人一人に語り掛けるように言葉を紡いでいく。
「改めて、今日はみんな集まってくれてありがとう。それと、画面の向こうにいるみんなもね」
ふりふりとユナが手を振ると一気に団員達が加速した。
お前ら俺たちのチャンネル見に来たくせに……といつもの俺なら言ってたところだがユナちゃんに免じて許してやろう。ユナちゃんはかわいいからな。
「ソードアート・オリジンが始まって半年。私たちプレイヤーは様々な場所で冒険してきました。でも、そんな私たちでもいままでボス攻略は成し遂げられていません」
でも、とユナが続ける。
「私たちは? 勝てない? あきらめる? まだ、この世界を冒険はここまで?」
誰もその質問には答えなかった。だが、その瞳はみな同じ答えを宿していた。
そんなわけあるか、だ。
「そう! 私たちはまだ満足なんかしてない! だから私たちは勝たなきゃいけない!
敵は強い、でもここにはみんながいる! オリジンの世界を―――はじまりの大地を踏破せんとするトップランナーたちが!
いまこそ、みんなでボスを倒して、そしてその先にある新たなステージへと踏み出そう!」
「「「「 おおおおおおっ! 」」」」
ユナの声に合わせて歓声が上がった。いや、それはこれから戦地に赴くものたちによる鬨の声だったのかもしれない。
地面が揺らぐようだ。
思わず声をあげてしまうような、カリスマがユナにはあった。
なので俺も上げよう。
「うおおおおおおおっ!」
「ヒロがガチすぎてなんか怖い」
「馬鹿野郎今あげない方が将来的に後悔するのは見えてるんだよ!」
団長ってユナのオタクだったんだ
ウソダドンドコドーン! 団長は特オタオンリーだと思ってた
でもかなりコールに気合入ってたナ……
だいぶ好きなのでは?
「いや好きじゃないが????」
「はいはい分かったから」
「そういえば、エイジさんは私たちと一緒に取り巻きの相手でよかったんですか? ルーキーの私たちはともかくエイジさんはあんなにお強いのに」
「僕はユナの護衛だからね。それにユナの戦い方はボスから最も遠い位置にいるのが好ましい」
「……?」
「まあ君たちが気に回すほどのことじゃないということだ。ほら、戦いが始まる、構えるといい」
「あ、はい!」
各々が武器を構えると、ついに扉が開け放たれる。
「行くぞ! 総員散開!」
でっぷりと肥えた狼のような獣人、イルファング・ザ・コボルドロードは扉を開けて入ってきた俺たちに吠えた。
ディアベルさんの指揮のもとに動くプレイヤーたちに迷いはない。
曲がりなりにもユナ―――正確には企画したらしいエイジさんに直接声をかけられただけはあるということなんだろう。
コボルドロードか。なっついなー
ボス戦今やってるんだ
行きたかったけどさすがにこの距離で駆けつけるのは無理だな
地方民の悲しみ
見た目はあんまアインクラッドと変わってないナ
お、センチネル出てきた
「うっし、俺たちだって負けてられねえな」
いつものように腰のバスタードソードとリアルのタッチペンをリンクさせ、抜刀するとイルファングを守るように立つ五体のコボルド・センチネルたちに相対する。
「みんな敵の分配だけど──」
「2体は僕が一人でやる。あとの3体は君たちで好きに分けろ」
「2体って、あの俺たちは一応七人パーティで」
「問題ない。ああ、君たちに自信がないのなら全部一人でやってもいいが……」
「む、俺たちだってアスナさんに認められて来てるんですよ。半人前扱いはやめてください」
一秒、もしくはそれに満たない短時間、エイジさんは俺を見下ろしていたが、やがて興味も失せたように「まあいいだろう」とこぼした。
「なら任せる、スリーピングナイツのお面の団長君」
「俺にはヒロって
「……名前を呼ぶにふさわしいならいつでも呼んでやるさ」
「師匠も冷たいっすね」
「だから僕は君の師匠じゃない」
「ならどうしたら師匠になってくれるんすか」
「僕が知るか。それくらい自分で頭を回すんだな」
エイジさんは俺の答えも聞かずに駆けだした。
昏い紫の残影をまとう姿は、騎士というよりも暗殺者や死神という方が似合いそうだ。
自分で、か。
ならやっぱりユナと話した通り、俺のことを認めさせるしかないわけだ。
わかりやすいな。沸いてきたぜ。
団長前前!
敵きてるゾー
手をワキワキさせてる場合じゃないって!
「ヒロ前見てっ!」
ランの声……ってうわセンチネルが!
あわてて体をそらすと目の前を剣が通り過ぎていく。
「っぶね~~」
「まったくなーにぼんやりしてんのよ」
「私とリズさんで一体は引き受けるから残り2体はスカレッドたちに任せるよ」
「助かる。あ、あとスカレッドって呼ぶな」
「はいはい、お面の団長くん!」
「それもやめろっての」
いかんいかん、雑念はカット。
「ユウキ、ラン俺たちも行くぞ! 流れはいつも通りだ! トチるなよ!」
「だいじょーぶ! いまのボク中学の修学旅行の前の日くらいワクワクしてるから!」
「それってすごく忘れ物が多いってことになるんじゃ……」
「かえって心配になってきたな」
かわいい例えだな・・・
ラン姉ちゃん、後は頼んだ
修学旅行前の絶剣と厄介炎上特オタ団長かあ
団長はいつも通りな件
団長はいつも不安だもんなあ
なあんだいつも通りじゃないですか
「やかましいわい―――ユウキ!」
「おっけー! スイッチ!」
「二体目弓で一瞬ひるませるよ!」
「ピナ、フレイムブレス!」
「きゅ~~~くわあ~~~!」
「はいはいあたしは盾ね。戦いは得意じゃないんだけどね……」
「さっきのやつらより踏み込みが二センチ深い……なら、片手斧の方があってるな」
「E隊前に出すぎだ! あとA隊が正面にいるうちにB隊は側面に回り込め!」
「ゲージ残り一本になると武器持ち替えや、タイミングはディアベルはんの指示があってからやからな! 気ぃつけや!」
キバオウはん!
なんでや! ここスリーピングナイツのチャンネルや!
せやかて工藤
おお、ヒロが留めたのをユウキが倒して残りをランが射撃で抑えてる
うわ今のエイジバク宙してそのままmobに足で短剣さしたぞ
変態すぎて草
「ヒロ背後から来てるよ!」
「わーってる! 来いやぁ!」
今回の俺は盾だ。盾役の役割は、
センチネルの剣と俺の剣とが甲高い音を立てて鍔ぜりあうとリアルの俺にもタッチペンを通して圧がかかる。
う、ぎぎ、重い……。
「ヒロボクも手伝うよ!」
「いやユウキはもう一体がランの方に行かないように距離とっててくれ!」
「でもヒロ――」
何か言いかけたユウキがふと遠くを見た。
前線のコボルドロードかと思ったが、違う。
いやむしろその反対、もっと後ろの方を見ているような―――。
どこみてるんだ
後ろの、あれユナ?
歌が流れてる、ああ、いつものだな
いつもの?
団員さんユナは初めてかい。はじまるんだよ、ライブがな
「ふふっ、みんなやる気十分だね! じゃあ私もそろそろ歌っちゃうよ!」
ユナが空高く手を掲げ、ぱちんと指を鳴らす。
「ミュージック、スタート!」
音が紡がれ、メロディが躍る。
プレイヤーとコボルドとが死闘を繰り広げる舞台が『歌』という一つだけで、ライブステージへと変えられていく。
「手に入れるよ、きっと──!」
ステージは
音階は光に、声は彩る絵の具に、すべてを束ねた芸術は俺たちの力となる。
「うぇえ?! なんかユナちゃんの歌がなんか光の雨みたいに降ってくるよ?!」
いやそれだけじゃない。なんか雨を通して攻撃・防御すべてにバフがかかってる。
「──今なら、センチネルを押し返せる! ラン!」
「射撃で誘導するよ!」
「助かる! ユウキスイッチ行くぞ!」
っしゃおら! よし、弾けた! 今なら腹の奥まで切り込める。
「ユウキ!」
「任せて―――バーチカル、アークっ!」
ユウキと反転するように入れ替わると、そのまま垂直2連撃ソードスキルがVの字のライトエフェクトを描き、センチネルがポリゴンになって消えていった。
おーグッジョブ!
なんかユナが歌い始めたら全体にバフかからなかった?
ありゃあユナの《吟唱》スキルだナ
kwsk
SAO時代にもあったレアスキルだヨ。基本魔法がないアインクラッドで唯一他人にバフをかけられるとがったスキル
最強では?
ところがそうでもないのだよ。《吟唱》スキルは確かに強い。しかしそれゆえに弱点も存在する。歌うだけで範囲内のすべてのプレイヤーにバフをつけられるという能力はある程度のメロディ、オリジンで言うと約30秒程度の『歌』と認められる音階の維持が必要だ。まあつまりAメロくらいうたわないとバフはつかないわけだね。さらにはバフの持続時間もスキル使用者の歌唱後1~2分に限定される。まあ正直こんないつ終わるかもわからないバフに頼るよりは普通に戦えるプレイヤーを増やした方がましだろう。ただそうさせないのは近くにいる武器を使い分けている彼か。彼がいるから彼女も安心して歌える……いい信頼関係じゃないか
オレっちの仕事取りやがった……
長文解説ニキ!?
来ていたのか!
「お前ほんとに突然沸くな!」
あれ、ニキー?
そして誰もいなくなった
「お前はだれなんだよほんと!!」
答えはない。コメント欄なので当然だ。
いやそんなことよりこのメロディライン、力強い歌声で彩られる歌詞、聞き間違うはずがない!!
「ろ、longingの生歌だあああああああ! 嘘だろ?! ああああああこっち見たこっち見たこっち見たぁぁぁああああああ!」
「ああもうヒロセンチネルが来てるってばぁ!」
団長……?
荒ぶるオタクのポーズ
いつもこんななんだろうか
「一応卒業したことにはなってるんですけどね……はあ……」
頭抱えちゃった
でも弓は寸分たがわずセンチネルの額に吸い込まれてますねえ!
ランクオリティ
どきなさい! 私はお姉ちゃんですよ!
「相変わらずいい歌だ……最高……」
「ちょっとぉエイジさぁん!? 敵、敵が本隊に行きかけてますってばぁ!」
「ああ、悪い悪い」
「ピギィ!」
「秒で片付けられるならちゃちゃっとやってくださいよ……」
「? ユナの歌よりも優先されることはこの世界にはないだろう?」
「……やっぱり
「どこがだ。ユナの歌に聞き惚れてただけだぞ僕は」
「うーんそういうとこ」
似て……似て……る……?
腕があって髪があって目と鼻と口がついてる当たりにてますね
でも団長の顔はお面でみえないからそれはわからないからなあ
「師匠! 見てましたか今の! 俺一人で乗り切りましたよ!」
「見てない。ユナを守るのに忙しかった。あと僕は師匠じゃない」
「ご無体な……」
ボス攻略は順調すぎるくらいに進む。
プレイヤーの最低限の技量が高いのはそうだが、この安定感はユナの《
「諦めたことを、諦められずに。振り返るのはもう終わりにしよう」
ユナが歌い続ける限り俺たちは永続的に攻撃と防御のバフがかかる。
これは原則魔法のないこのゲームにおいては相当のアドバンテージだ。
願わくばこのまま順調に進んで欲しいものだが。
「ディアベルさんたちは……」
いいペースで削れてるなあ
残りのHPバーは一本と二本目が2割残しくらいか
っぱバフありつえーわ
デブのくせに攻撃速いね。リアルであれ対応すんの無理だわ・・・
ALOならワンチャンある
いやーディアベルの指揮あってこそだろ
こういうの見てたら俺もオリジンのレイドやりたくなるな
たしかに攻撃は速い……が、あのくらいの速さならぎりぎり俺の目でも追えそうだ。一番ノってる時のユウキより少し遅いくらいかも。
昨日見たSAO時代の攻略動画だと体力ゲージがラスト一本になったらタルワールから刀に持ち替えて、喉元の鎧が外れて弱点部位を狙えるようになるんだったかな。
そうなると沈み込んでの跳躍加速が厄介になる……そうそう、ちょうどあんな感じで柱を蹴ってこっちに加速するんだよな。
「……んん??」
なんか、団長を見てね?
やべえぞこっちきた!
「馬鹿! ユウキ君そこのお面を引っ張って急いで下がれ!」
「! わかった!」
「ちょま―――」
ユウキが俺の服の襟をつかんで引っ張ると目と鼻の先をコボルドロードのタルワールがかすめていく。
「せーーふっ! ヒロ無事!?」
「あ、ああ……ニチアサで敵の攻撃に吹き飛ばされて川に落ちた人くらい無事だぜ……助かった」
「なんかよくわかんないけど無事ならいいや!」
「ほっ、ヒロとユウは平気そう。シリカさんとリズさんは……」
「こっちもなんとか無事だ。女性二人はさすがに重いけどな」
「ちょっとー! 女性に重いはないですよエイジさん!」
「そういうデリカシーないこと言ってたら団長になるわよ」
「それは……勘弁願いたいな」
史上最大の侮辱
ガチでいやそうな顔しててるw
リズさん団長呼び……ははーん、さては団員じゃないか?
だが、コボルドロードの攻撃はそこで終わらない。
今度は下から上へと切り上げるように歪んだ刃が振るわれる。
「さすがにもうやられねえよ!」
「ヒロ!」
「お前は出なくていい! 下がって息整えてろ!」
ユウキの一歩前に出て相手の剣戟にソードスキルを合わせ―――重いなくそっ!
「上出来だ。そのまま耐えてろ」
背後から槍が飛来し、コボルドロードのたるんだ腹に突き刺さった。
いや今俺の頬にかすってった! いやでもおかげで今なら弾ける!
ならこのままユウキにスイッチを―――いや、あれは、黒い影が、来てる。
エイジ!
でも今武器投げたろどうすんだ
「《体術》スキル単発技―――閃打」
コボルドロードぶんなぐったぁ!?
かっけえええ!
しかもそのまま足で落ちてた槍跳ね上げて攻撃し始めてる
へ、へんたい・・・
「ディアベル、そっち返すぞ」
ほ、ほとんど一人でなんとかしちまった。
「さ、さすが師匠! やっぱりめちゃくちゃつええ!」
「僕は師匠じゃない。ええい、だから寄るな!」
「おう悪かったのう。そろそろランダム行動が出るころやったんや。……と、なんや弟子とったんか」
「馬鹿言うのはやめてくださいキバオウさん」
「かかか、なんや違うんか。ワイはおもろいと思うんやけどな」
こちらに走ってきたキバオウさんが豪快に笑って、俺たちG隊と本隊を見比べる。
「もう取り巻きは片付いたみたいやな」
「うっす。今はとりあえずリポップ待ちです」
「頑張っとるみたいやな。他はどした?」
「シリカとリズさんはあっちでセンチネルと戦ってますけど、たぶん問題ないっすね。ユナさんは一番後方でまだ歌ってて、ウチのランは弓で援護中、ユウキは……あの感じ息整えつつ団員と話してるかもですね」
「了解了解。この分だとG隊の方の心配はいらなさそうやな。エイジもあいかわらず一人で無茶苦茶しとるしのう」
「どっかのブラッキーほどじゃないさ」
「あいつの話はやめいやめい。思い出すだけでサムくなるわ」
「そこは同感だよ、キバオウさん」
ブラッキー先生何してるんだろうね
SAO同窓会
SAO未経験のワイ、低みの見物
「ブラッキー?」
「ま、ヒロ、ジブンは覚えんでもいい奴や。ここんところ何しとるのかもわからんしな」
やれやれと肩をすくめるエイジさんと、苦々しげに吐き捨てるキバオウさん。
「そんなことよりランダム行動が入ってくるのならHPバーは残り一本なんでしょう? 武器は確認したのか?」
「それはディアベルはんがいの一番に確認したで。刀で間違いあらへん」
「さすがアインクラッド軍のリーダー。行動が的確だ。助かります」
ディアベルはイルファングに痛い目見てるからなあ
ベータから変更は確かにありがちだけど不意つかれると仕方ない
「ディアベルさんが、痛い目?」
「あん? ああ、視聴者コメントか。ま、ワイらも若かったってとこや。ゲームの中のことやから今では笑い話やけどな」
じゃあ、ワイは戻るわ、と言い残してキバオウさんが前線に帰っていく。
話を聞く限りこの後の対応はばっちりって思っていいのかな。
けどなんだろう、それにしてはエイジさんが浮かない顔をしてる気がする。
「師匠何か心配事でもあるんですか?」
「僕は師匠じゃないが……少し順調すぎる気がするのが引っかかる」
「順調すぎる?」
どうしてだ? 順調になるようにメンバー揃えたんだよな。
「これは僕の体感だが、オリジンには基本オリジンだけの工夫が入れられることがある。前作からの追加要素といってもいい」
追加要素。
そういえば団員もネペントを燃やして倒した時かなり驚いていたが、ああいうのだろうか。
「だが、今のところこのボスにはその追加要素が見当たらない。だから、もし仕込まれてるとすればそれは……」
エイジさんの目線が遠くへと移る。
その先には、今まさに体力ゲージが残り一本になろうとしているボスがいる。
つまり、それは……。
「体力ゲージが、残り一つになった時?」
「だろうな」
「すげえ気づきじゃないっすか! はやくディアベルさんたちに伝えに行きましょうよ!」
「馬鹿だな。そんなのあの人もわかってて気をつけてるに決まっているだろう。だからタンクを多めにして部隊を編成してるんだ。何が起きても守り切れるようにな」
あ、そうか。
俺程度が思いつくことはそりゃディアベルさんだって対策とってるか。
「よし、今だ! 体力ゲージをラス1にするぞ!」
「っしゃあ! いくでぇ!」
ディアベルさんの指示のもとプレイヤーたちが一斉にボスにソードスキルを叩き込むと、コボルドロードが今まで使っていた斧と盾を投げ捨てる。
そのまま、空いた両手はそのまま腰の刀を抜き放つ。
聞いていた通りだ。
師匠の不安は杞憂……まて、なんだあのモーション。
コボルドロードは、何を思ったかそのまま渾身の力で
突き刺し?
イルファングにこんなモーションあったっけ
見たことねえナ
目に見えてエイジさんの顔色が変わる。
そして前線のディアベルさんもまた、その不穏を感じ取ったようだった。
「ユナ下がるぞッ!」
「エイくん?! ちょ、私アバターだからつかめないって!」
「っ、みんな横によけるんだ!」
「えっ、でもディアベルさんタンクでガードするって……」
「いいから避けろ! このままじゃまとめてみんな死ぬぞ!」
一秒だった。
コボルドロードが地面に剣を突き刺し、目が光る。
その間に前線のプレイヤーの多くはディアベルさんの指示に従い、コボルドロードの正面から退避するため走り出す。
俺もまた近くにいたユウキを庇うように防御の姿勢を取ろうとする。
けどそれ以上の対応をコボルドロードは許してくれない。
「GYAAAAAAAAAA!!」
咆哮。そして、俺の体を飛来してきた無数の武器が斬り刻んだ。
「―――なっ」
痛くはない。だが、確かに「斬られた」という感触が体に伝わる。
「ヒロっ!」
「平気だ! それよりユウキは攻撃食らってねえな!」
「う、うん。ヒロがとっさに前に出てくれたから……」
ならいいんだ。俺はどっちかっていうと防御寄りのステ振りしてるからお前が食らうより軽傷だ。
俺なんかのことより他、特にランはどうなった。ボスからは離れてたから大丈夫だとは思うが。
「あ、ランありがと……」
「いえ間に合ってよかったですリズさん」
「攻撃が来る前にあんたが走ってきてくれなかったら危なかったわ……」
「たまたま近くにいただけなので。お気になさらず」
うん、楽勝だったな。さすが藍子。自分どころかリズさんまで助けてた。
「きゅくる~!」
「あ、ありがとうピナ!」
「エーくんごめん私のせいで体力が減って」
「それ以上はいい。どれもかすり傷だ」
「大丈夫じゃないって! はい回復クリスタル! あ、それともこの前クエストボス倒したときに出たエリクサーがいい!? ほかにも食べたら回復するサンドイッチとかいろいろあるよ!」
「ああ、ポーションでいいから! それは前線の方のやつらにでも使ってやるべきだ!」
またユナがエイジといちゃいちゃしてる
団長は体力半分は減ってるのにエイジは一割しか減ってないのやば
ほとんど剣ではじいてたしなぁ
「ラン!」
「ヒロ、それにユウも。これどうなってるの?」
「わかんねえ。ただ、いま
こんなの昨日チェックしたSAO時代の動画には一つだってなかったものだ。
「私の目にはどっちかっていうと地面からせり出した剣とか斧とかが襲ってきたように見えた」
「じゃあ今生えてるのは、まだ飛んできてない分ってとこか」
どっちかっていうと仮面ライダー鎧武の極アームズの武器射出攻撃に近いのかもな。
地面に武器が刺さってる
あれなんだろ。ボスの近くほど武器が多いから団長のいる距離だと武器あんま見えないんだよなー
斧にタルワールに野太刀。どれもイルファングが使う武器だナ
それなんて無限の剣製?
いや七人の侍では?
まあたふっるい映画を
「いやどっちかっていうとアークワンとアークスコーピオン戦じゃねえか?!」
「はいはいヒロは早く回復ポーション飲む」
「しかしだなラン、もが」
口にポーションを突っ込まれた。
「ねえ、ヒロヒロ、ボク思い出したことがあるだけどいい?」
思い出したこと?
「さっきシリカさんたちと話してた時にシリカさんは『ボス部屋には歴代のコボルドロードを描いた壁画がある』って言ってたんだ」
「壁画? でも、この部屋にはそんなの一つもないぞ?」
「うんそうなんだ。だから、いまのコボルドロードって、ヒロが動画で見たやつとか、SAOプレイヤーの人たちが戦ったボスとはよく似た別
どういうこと?
確かにアインクラッドの壁には一面コボルド王の絵があったよ
でも今ないじゃん
ならあいつイルファングじゃないの?
まさか、初代カ?
「初代? まさかあいつが
「そんなのボクに聞かれてもわかんないよ! なんか違和感あるなーって思っただけだし」
「ううん、ユウはきっとあってるよ」
言い訳するようにモゴモゴ言うユウキの言葉をランが遮った。
「ヒロ、ユウ、あのボスの名前見て」
「? そんなの最初に見ただろ。イルファング」
「──っ、違うよヒロ! 姉ちゃんの言う通りよく見て! あれ
書き換わってるぅ?
というか俺お面のせいでよく見えないんだよな。それでなくても木綿季たちより目が悪いし。
あの小指の先くらいの文字読めるんだ
なんかイルファングからメキメキ音なってる?
心なしか腹も引っ込んでいるような・・・
ここまで露骨になると俺でもわかる。
音を立てながらボスの体が変わっていく、変形……いや、これは。
「変身、してるのか?」
肥えた体は筋骨隆々の巨体に。
狼らしい牙、無手の両手の爪が残虐な光を宿す。
キバオウさんたちが言っていた弱点となるはずの喉元には古傷一つない。
そして、その周囲にはボス部屋を埋め尽くすかのような無数の武器が並んでいる。
レイドの全員が見つめる中、『王』の名前が顕現した。
「
ユウキちゃんの予想ばっちり的中してるーー!?
うわー、カムラぜんぜんアーガスにおんぶにだっこじゃないじゃん
ここで初代のコボルドロードとか見せてくれるのか!
これオリジンこういう感じでアインクラッドの前の時代がっつり書く気なんじゃ
おいおい動き出した!
前線対応できるか?
「キバオウ何人やられた!」
「五、六……七人や! 正面におったD隊のタンクとB隊のアタッカーがいきおった!」
「ならまだ立てなおせる! D隊のアタッカーはB隊へまわれ!」
「りょうか―――うわあっ!」
はじまりの王が、動く。
地面を踏み加速、それだけで半壊していたB隊に肉薄し、近くに刺さっていた野太刀を抜いて、一閃。B隊を蹂躙する。
「うわああああっ!」
B隊の残っていた四人のアバターが刀の範囲ソードスキル《旋風車》に巻き込まれてぼうっとした半透明の影に代わる。オリジンでHPが0になった証だ。
「今度は俺たちに来やがった!」
「でも野太刀で攻撃してくると分かれば―――な、武器を持ち替えて」
だが、終わらない。
コボルドの王は刀を投げ捨てると加速して、今度は斧を手に取ってD隊の生き残りに向けて叩きつけのソードスキルを発動する。
「す、すまんディアベルさん」
D隊のメンバーがポリゴンとなって消えていく。
それなのに、まだ止まらない。
コボルド王がまた武器を捨てながら加速していく。
狙われたのは、先ほどの指示でコボルドロードから逃げた時にほかのプレイヤーから離れてしまったE隊だった。
速すぎんだろ、あんなの間に合うわけねえ!
いや待て、あそこで盾を構えてるのは……!
「もうオレのミスで仲間を死なせるのはごめんだっ!」
「ディアベルはん!!!」
うおおおおあそこから間に合ったぞ!
さすがすぎる
気持ち的だけでなく正真正銘ナイトじゃん!!
「スイッチ、キバオウ前に出ろ!」
「おっしゃぁー! まかせ、うおっ、また移動かいな!」
「っ、やばい。スリーピングナイツ今度はそっちに行ったぞ!」
コボルドロードが疾走しながらそばにあったタルワールを引き抜きライトブルーのライトエフェクトを纏わせる。
俺が、俺がやらねえと―――!
「下がってろユウキ! ラン!」
発動させるのは、アバランシュ。両手剣の突撃技、今なら正面からぶつかって相殺できるはずだ。
「グ、ルワオオオオオッ!」
「う、おおおっ!」
視界の赤いライン、これをなぞりながら最速で全力のソードスキルをぶつける。
甲高い音が響き、取り巻きのセンチネルと比べられないほどの圧と振動が手に伝わってくる。
やばい、やっぱ俺だけじゃ、押し返せない、かも。
「スラントっ!」
「ラピッドシュート」
紫紺の剣閃と藍色の光線が走った。
「もうヒロ先走りすぎ! ディアベルさんでぎりぎりだったのにヒロだけでなんとかできるはずないでしょ!」
「そうだよ! もーほんとうさ!」
「っ、悪い」
三人分のソードスキルを食らったタルワールが押し返されると一瞬でコボルドロードは俺たちの攻撃の届かないところへと移動する。
「大丈夫かスリーピングナイツ!」
その隙をついて肩で息をする俺たちのもとにディアベルさんたち本隊がやってくる。
近くにはシリカとリズさんと、エイジさんにユナもいるな。
「ごめん私たちもなかなか手を出せなくて」
「きゅくる~……」
「で、エイジは何してたわけ」
「ユナをここまで連れてきていたんだ。あれだけの速度だ、正直もう後ろで僕が守ってればいい状況じゃなくなった」
「ごめんねみんな! 今すぐ防御と自動回復の
ユナが歌い始めると視界の端にいくつかのバフアイコンが表示され、じわじわと体力が回復し始める。
体力回復はありがたいが……これでさっきまでの攻撃バフはなしか……。
「とりあえず全員背中合わせで円になれ! 散ってたら穴を狙い撃ちにされるぞ!」
「わかりました―――って、きたきたきたきた来ちゃいましたぁ~! 私とピナ狙われてますぅ~!」
シリカがピナを抱きしめて悲鳴を上げる。
「ディアベルはんひとまずワイらE隊がタンクを引き受ける。その間に対策頼むで!」
「―――っ、すまん、助かる!」
「ふっ、そう不安そうな顔しなさんな。ワイはあんたの副官やで?」
そういってキバオウさんはコボルドロードに向かっていく。
キバオウさんも熟練プレイヤーというだけあってその立ち回りは見事なものだが、斧、曲刀、刀とソードスキルを使い分けてくる敵にはどうにもやりにくそうだ。
コボルドロードの高い火力と目で捉えるのも難しいスピード故に、ソードスキルでの攻撃の相殺もできていない。
あまり長くは耐えられないかもしれない。
「今の生きてるメンバーでタンクができるのは……俺を入れて六人ってところか」
「……それは」
吟唱をひと通り歌い最低限のバフを確保したユナの顔が暗くなる。
あまりにも少ない。もう最初の半分以下の人数だ。
「時間がないから手短に言うが、俺の立てた作戦では、ARということも考えてソードスキルによる相手の攻撃の封殺よりも、盾でしっかり防いでいく方針を取っていた。
体力消費は厳しくなるが3部隊いるなら十分回せる範囲だと思ったし、現に途中までうまくいっていた」
「だけど今はもうタンクの残りは2部隊で、片方は今かなり無理してる。つまりもう、さっきまでの作戦でコボルドロードとは戦えないということだな」
「その通りだよ。悔しながらね」
ディアベルさんが苦しげにエイジさんの言葉を肯定して、ユナに向き直った。
「――ユナさん」
「は、はい」
そして、今回指揮を任された者としてその言葉を告げた。
「この人数であのコボルドロードオリジンを防ぎきるのは無理だ。
指揮担当として、撤退、もしくは玉砕覚悟の特攻を提案する」
自分たちの敗北を認める、その言葉を。
《コボルド王》
初見殺し能力で暴れ回ってる。
《ディアベル》
力不足を感じてるが、認めなければならない。
《キバオウ》
いぶし銀。
《ユナ》
どうすべきか迷ってる。
《エイジ》
ユナのマネージャー兼ボディーガード兼プロデューサー兼幼馴染。
師匠ではない。
《ヒロ》
敗北を前にどうしたらいいか分からず成り行きを見ている。
《ユウキ》
じっと、どこかを見ている。
コボルドロードの壁画とかのあれこれはSAOP星なき夜のアリアコミックを読んだりすると載ってたりします。
ボクっ娘世界において、コボルドロードの世代交代はとある偏屈学者のおつかいで見にいくというシリカなどの中層プレイヤー向けクエストで触れられるのですが、攻略組だったディアベルたちはそのクエストをやってないから知らなかったりします。
今回もどこかに頼れる情報屋でもいれば違ったんでしょうが、なかなかリアルにはいないものですね。