ボクっ娘幼馴染に配信チャンネル乗っ取られたらバズり倒した   作:世嗣

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劇場版 ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア公開記念更新です。めちゃくちゃ面白かったです。おすすめです。
今週からまた更新していきます。


Kを探せ/眠れる騎士たち
さあ、夏休みまでの日数を数えろ


 

 

 

 

 日曜日。コボルドロード討伐の翌日。

 俺がテレビの前に待機してると眠気まなこの木綿季が顔を出してきた。

 

「おはよー」

 

「おう、おは」

 

「いまヒロのお母さん居ないんだっけ」

 

「うん出張。今日の夕方ごろに帰ってくるって朝連絡あってた」

 

「パパもさっきまだ寝てたし、やっぱりお仕事って大変だ」

 

「だなー。頭が上がらねーわ」

 

 俺の日曜日は速い。なにせスーパーヒーロータイムがあるからだ。

 

 といっても日曜朝のスーパーヒーロータイム、通称ニチアサに早起きしなきゃいけなかったのも過去の話。いまではプリキュアが八時半で九時からライダー、戦隊に至っては九時半スタートで終わるのは十時だ。

 

 正直俺が小二からこの時間帯なので、もう慣れたといえばなれたのだが、だからと言って子供のころに染みついた日曜朝にワクワクしながら早起きする習慣だけは抜けきらず、こうした日曜はやたらと早く起きることになっている。

 

 でもってそんな俺の習慣に引っ張られて、いつからか木綿季も俺と並んでニチアサを視聴するのが恒例になっていた。

 

「うーん、やっぱり今年のオープニングかっこいいねぇ~」

 

「わかるぜ。令和は結構挑戦的な試みが多いからオープニングひとつとってもかなり個性が強い。……ん、へえ、ここでヒロインと」

 

「わ、敵出てきたよ! か、勝てるかな……」

 

「いや残り話数的に……おおっ、ここでフォームチェンジ連続で!?」

 

「でも敵も強いよ! あ、ここでそれを!?」

 

「「 おお~ 」」

 

 ふー、堪能した。今週も日曜朝が一瞬だったな。どの番組をとってもしみじみとした満足感を与えてくれる。

 一週間生きててヨカッター! 

 

「ふたりともー、テレビ終わったー? それならテーブルにお皿運んで―」

 

「あ、はーい」

 

 キッチンからの藍子の声に木綿季がぱたぱたと走っていくのを追いかける。

 

「お、今日はサンドイッチか。やりい」

 

「たまごにハムにー、あ、カツもある!」

 

「ヒロのお母さんに余ってるパン使っておいてってお願いされちゃったから。カツは昨日余っておいたのの再利用。ちょっと重めだけどもう十時だしブランチのつもりなら食べれるでしょ?」

 

「らくしょーらくしょー、じゃあお皿運ぶねー」

 

「なら俺は飲み物でも用意すっか。俺コーヒー淹れるけど木綿季と藍子は何飲む?」

 

「ボクはカフェオレ! 砂糖も入った奴で!」

 

「じゃあ私も同じのを。いい?」

 

「まあいいでしょう。伝説の闇包丁を使うまでもなくお前らを骨抜きにしてやるよ」

 

「コーヒーメーカーのボタン押して牛乳混ぜてるだけなのになんかすごい偉そうだね」

 

 うるさいわい。

 

「ほい、三人分」

 

「わ、ありがとー」

 

「ありがとう、ヒロ」

 

「んー」

 

 コーヒーを俺の前に、カフェオレを二人の前にそれぞれおいてやると、席に座って一息。

 腹は減ってる……が、まあ二人が食前の祈りをしている間は大人しく待つ。

 

 別に急ぐ何かがあるわけじゃないからな。

 

「……よし、おまたせヒロ。食べようか」

 

「おう、じゃあ俺もいただきます!」

 

「はい、めしあがれ」

 

 藍子の声を合図にサンドイッチに手を伸ばす。

 

 最初はやっぱりオーソドックスなハムサンドからだろう。

 からしマヨネーズの塗られたパンはしっとりと柔らかく、一口かじるとハムのうまみとしゃっきりとしたきゅうりの歯ごたえが口の中を飽きさせない。

 ぎゅむぎゅむとかみしめるだけで口の中は満足感で満たされるレベルだ。

 文句なしにうまい。

 

「ん~~~、おいしー」

 

 うーん、木綿季うまそうに食うよなあ。両手でサンドイッチを手に取ってはぐはぐ口に切れる姿はなんかリスっぽい。

 よし、俺も次は木綿季と同じたまごサンドにするか。

 

 薄く切られた食パンの間には、塩コショウとマヨネーズで味付けされたペーストされた卵がぎっしりで、手に取るだけでその圧倒的な存在感が伝わってくる。

 くく、こいつぁヘビーな敵になりそうだ。

 

「はぐっ」

 

 あー、おれこれすき。マヨネーズとたまごってまず合わねえはずねえもんな。

 さすがサンドイッチの鉄板のひとつ。うまい。間違いない。

 

「じゃあ、最後だな。待ってましたのカツサンド!」

 

「ヒロは元気だねえ」

 

「そりゃ朝から贅沢にもカツサンド! これでテンション上げるなっていう方が無理だぜ!」

 

 今まではあとで藍子に味の感想を言うために味わって食ったが、これは豪快にかじりついて本能の赴くまま食らいたい。カツサンドってのはそういうもんだ。

 

 じゃあ、いただくぜ! 

 

 大きく口を開けて一口。パン生地を挟んでのざっくりとした衣の感触、その先の肉の繊維をまとめてかみ切る。

 瞬間、じゅわりとした成長期男子の胃袋を満足させる肉汁と、それを際立てるからしとソースの二重奏。

 下にぴりつくように伝わるアクセントも、口の中に入ってすらこれでもかと存在を主張するでっかいカツも、どれをとっても完璧だ。

 

「あー、美味い。マジで。うん、美味いぜ藍子!」

 

「私はママのレシピ通りに作ってるだけだから」

 

「でも作ってくれたのは藍子だ。なので俺は藍子と藍子のおふくろさんに感謝する。ありがとう、美味い飯を食わせてくれて」

 

「大げさだなあ。でも、ありがとう」

 

 さすがにそろそろ口の中がぱさついてきたのでコーヒーに口をつけてリセット。

 うーん、苦い。苦い……けど、昔に比べると味がわかるようになってきた気がする。

 なんというのか、苦さのあとに香りというのか、豆の甘味みたいなのが舌に残る。

 この感覚はそんなに嫌いじゃない。

 こういう後味を飲み比べられるようになったら大人に近づくんだろうか。

 

「じーっ」

 

「あん、なんだよ木綿季。飲みてえのか?」

 

「え、あ、うーん、ちょっとは興味ある……かも」

 

「ユウには無理じゃないかなぁ。先週試したときも涙目になってたし」

 

「きょ、今日はいけるかもしれないから! たぶん!」

 

「ふうん、じゃあほれ」

 

 マグカップを木綿季に差し出すと、ちらっと不安そうにこっちを見てきた。

 

「ヒロのそのままボクが口つけても、いいのかな」

 

「はいはい今更気にしねえからさっさと飲むなら飲めよー。お前のカフェオレ飲んじまうぞ」

 

「そ、それはだめっ」

 

 木綿季が俺のマグカップを手に取った。

 やれやれ、いまさらこんな回し飲み程度でいちいち不安になるなっての。何年お前らの幼なじみやってきてると思ってんだ。

 

「じゃあ、のむよっ!」

 

 やあっという叫びが聞こえそうなほどの決意に反して木綿季はちびっとマグカップに口をつけて、すぐにうぎゃっと舌を出した。

 

「に、にぎゃい……ね、ねえちゃん……」

 

「はいユウ、カフェオレだよ」

 

「あ、ありがと……」

 

「ワハハ、おこちゃまめ。身長が160になってから出直してこい」

 

 ほれマグカップは返してもらうぞ。

 ごくり。うん、コーヒーは苦い。当然だ。

 

 そのあとはしびびっとカフェオレで舌を落ち着かせている木綿季を尻目に、自分の分のサンドイッチを食べ終わると手を合わせる。

 

「ごちそうさま藍子。今日もうまかったよ」

 

「はいお粗末様です。……あ、ヒロちょっとじっとしてて」

 

「ん?」

 

 なんだろう。

 言われるがまま藍子をぼけーっと見ていると、机の向こうからぐいっと藍子が身を乗り出してくる。

 

 こ、これは!!!! 

 

 しまったこの態勢だとまだ外行き用ではないゆったりとしたルームウェア姿の藍子(木綿季も藍子も窓から俺の部屋に不法侵入してくるので着替えてこない)の服の首元が緩んで、あー、あーーーー! 

 

「ふふ、口元にたまごついてたよ……なにそのポーズ」

 

「俺の体からヤミーが出てこないようにこらえてる」

 

「ふうん? はむっ」

 

「―――っ、藍子さあ、そういうことあんまやるなよな」

 

「? ヒロがユウと回し飲みするのと変わらなくない?」

 

「……さよで」

 

 藍子は俺のことを木綿季と同じ弟かなんかだと思ってる節がある。

 まあ出会ったときに俺が「紺野のねーちゃん」と呼んでたのが悪いんだろうけど、それにしたって心臓に悪い。

 

「むーーー、ボクだけまた仲間外れ」

 

 なんか犬みたいに木綿季が唸ってる。

 

「ヒロ! ボクも口になんかついてる気がする!」

 

「え、ああほんとだ。カツサンドのソースついてんぞ」

 

「ん! とって!」

 

「ええ……それくらい自分でやりなさいよ……」

 

 まあそれくらい別にいいけどさ。

 頬を膨らまして顔を突き出してくる木綿季の口元をティッシュできれいに拭いてやる。

 

「よし、これでいいだろ。きれいになったぞ」

 

「なんかちがう気がする……」

 

 何を求めてたんだこいつ。

 

『いやあ、それにしても大きなニュースになりましたね、ソードアート・オリジンは』

 

『ですねえ。あの公式アイドル《YUNA》のフロアボスクリア後発表された大型イベント告知! これから始まる夏休みに向けた動きといったところでしょうか』

 

『そうでしょうね。今まではコボルドロードしか戦えなかったフロアボスもこれからどんどん増えていくようです。中には大型レジャー施設を貸し切っての攻略企画があるところもあるんだとか』

 

『やはりこの動きはあのフロアボス攻略からプレイヤーが大幅に増加したことも影響してそうですね』

 

『ええ、なんでも一部自治体と連携した大きなイベントになるそうです。大型イベントの最後には大規模なフィナーレイベントが予定されているとの情報もあります』

 

『これからのソードアート・オリジンの動きから目が離せなくなりそうですね』

 

 適当にオーグマーで流してたVR・ARゲームの情報ラジオを聞きつつ、それぞれ飲み物でのどを潤して一息。

 

 さて。

 

「そろそろ、だな」

 

「うん、だね。準備はオッケーだよ」

 

「私も。オーグマーつけてればいいんだっけ」

 

「たぶんな。俺も正直よくわかってないけど、そこらへん含めて自分で説明してもらうとしようぜ」

 

 なにせ俺らにはわからないことだらけだしな。

 

 首にかけていたオーグマーを耳にひっかけて、長めの瞬き二回で起動。

 ここからどうしたもんかな。とりあえずオーグマーをノックして……。

 

「えーと、()()()()?」

 

 変化は一瞬だった。

 

「はい。オーグマー起動に合わせてスリープモードから移行しています」

 

 ぶうんと俺のオーグマーが低い音を立てると、次の瞬間俺たちの視界に一人の女の子が現れる。

 

 腰まである癖のない艶やかな髪は瞳と同じ深い黒。

 対して身に纏う飾り気のないワンピースは、汚れひとつない真っ白。

 ぱっちりとした大きな目と整った顔立ちは人の目を引きそうだが、それよりもいまだ伸びきってない手足のせいで「かわいらしい」といった印象が先に立つ。

 

 簡潔にまとめるとするならば「将来美人になりそうな女の子」が俺たちの前に現れていた。

 

 身長が男の俺は当然として、同世代の中でも小柄な方に入る木綿季や藍子よりも低いあたり実際に子どもなんだろう。

 172ある俺の肩あたりまでないし、たぶん身長は140ないくらいってところだろう。

 

 っと、いつまでも黙ってるのもよくないな。

 

「ええと、あのさ」

 

「おはようございます、ヒロさん」

 

「へ、あ、はい、おはようございます。礼儀正しいな」

 

「はい、朝に人と会ったら挨拶をする、というのが社会に生きる上でのルールだと聞いています」

 

 丁寧に頭を下げられたのでこっちも下げ返す。なんか調子狂うな。

 

「えーと、それでユイ……さん?」

 

「ユイだけで大丈夫ですよ、ご主人さま(マスター)

 

「ま、ますたぁ!?」

 

「ヒロさんは私のいるオーグマーの持ち主なんですからそう呼ぶのは当然ですよ?」

 

「いやそうかもしんないけどさぁ」

 

 なんかこういうのって、ほら、木綿季と藍子が……。

 

「ふうん、こーんなちっちゃい子にマスターとか呼ばせるのが好きなんだー」

 

「ヒロ?」

 

「ほらー言わんこっちゃない! 誤解! 誤解だから!」

 

 木綿季のじとーっとした目が痛い! 藍子は笑顔なのに目が笑ってない! 

 

「とりあえずマスターはやめよう」

 

「では何と呼べば?」

 

「とりあえずヒロって呼んでくれりゃいいから!」

 

「ではヒロさん、と」

 

 まるで笑顔のお手本のような微笑みとともに彼女が頷く。

 ううん、その呼び方もまだまだくすぐったいんだけど……ほかに代案も思い浮かばない。とりあえずはこれで行くしかなさそうだ。

 

「それで、ユイちゃんは私たちにお願いがあるんだっけ」

 

「あ、ボクなんとなく覚えてるよ! 確か風呂の剣士をさがす!」

 

「《黒の剣士》な。それじゃあ銭湯の守護神かなんかになってるから」

 

 あとはアンダーワールドがどうとか言ってたけど……あれはどういうことなんだ? 

 

 いやいや、その前に、だ。

 

「きみ、NPCじゃない、よな?」

 

「違うの? ならプレイヤーなのかな?」

 

「うーん、それは違うんじゃない? ヒロのオーグマーの中にいるのは確かみたいだし。じゃあなんなのかって聞かれるとボクにもわからないけど……」

 

 木綿季がもごもごと口ごもる。

 

「いや木綿季の言うことは正しいぜ。

 SA:O──アンダーワールドには無数の高性能なNPCがいて、俺らはその人たちと話し合うことはできるけど、その人たちとむやみに触れ合ったり動かそうとしたらハラスメント警告が出るようになってんだ」

 

「ハラスメント?」

 

「動かさないでくださいーみたいな表示が出るんだよ。それを無視してNPCにいじわるとかを続けると運営に報告されてアカウント凍結って話だ」

 

「ほへぇ〜、まあ確かにいじわるはダメだよね、いじわるは」

 

 だけど、この子は初めてであったところから動かすどころか、俺のオーグマーに住み着いている。

 これは普通のNPCではありえねーことだ。もちろん彼女が超特別なNPCって可能性もあるが、なんとなく、それは違う気がする。

 

 この子は、いろいろと違う。

 

「みなさんの言うことはどれも間違ってはいません。私はNPCではなく、またプレイヤーでもありません」

 

 その子は、ふ、と年に似合わない大人びた表情を浮かべる。なんだか、どこかで見たような笑顔で。

 

「私は、運営側のAIです。人工知能、と言ってもいいですね」

 

 AI。それって、仮面ライダーゼロワンのヒューマギアとか、鉄腕アトムとかそんなの? 

 この子が? こんな俺たちと普通に話してるのに?

 

「最も正しい表現をするのだとすれば私はこのソードアート・オリジンというゲームを統括するカーディナルシステムから派生するメンタルヘルスカウンセリングプログラム、ユイです。

 みなさんにわかりやすい形に言い直せば、健康管理AI、とでもいったところでしょうか」

 

 かーでぃ、なんて? 

 

「このゲームはカーディナルという自動制御のシステムによって管理されているんです。言うなれば24時間リアルタイムで世界を運営しているAIのゲームマスターです。

 考えたことはありませんでしたか? ソードアート・オリジンというゲームはどうやって無数にいるプレイヤーたちですら把握できないほどのクエストを作っているのかと」

 

「それは、考えたことないとは言わねえけど」

 

「その答えがカーディナルなんです。カーディナルは常に世界中のインターネット、書籍、文献、創作物から学習をし続けクエストを自動生成する機能があります。

 またそれだけではなく、カーディナルはプレイヤーたちの安全性に気を配る機能も存在し、私は特にそのメンタル面の観測、ケアにあてられている端末になります。

 ですが、私自身、いまの状況について理解しかねていることが多くて……」

 

「……細かく説明してくれているとこ悪いんだけどさ」

 

「はい?」

 

 こてん、と首が傾げられる。そういうところは、ちょっと年相応っぽい仕草なんだな。

 

 でも、話すのをやめてくれたのは助かる。なんたって、うん、隣がね。

 

「ZZZ……」

 

「ええと……?」

 

「わるい、木綿季と藍子が話についてこれてねえ。ちょっとまとめていいか?」

 

「あ、ああっ、すみません」

 

 いや気にすんなよ、こういう二人だから。

 というか木綿季は起きなさいっての、ほれ。

 

「むにゃ、もう食べられないよ……」

 

「びっくりするくらいテンプレートな寝言だな」

 

「ヒロがねえちゃんのおやつ食べちゃったのは黙っておいてあげるから大丈夫だってぇ……むにゃ」

 

「……ヒロ?」

 

「シラナイデース! さ、話を続けようぜユイユイ!」

 

「ゆ、ゆいゆい? そ、それ私のことなんですか?」

 

 あたぼうよ。だから話を進めよう、このままじゃ追及が俺に向く。

 

「あとで話聞くからね」

 

「……ハイ」

 

 手遅れみたいですね。くそう。

 仕方ない、眠ってる木綿季はほっといて、俺たち三人で話を進めていこう。

 

「ええと、整理すると、SA:OはカーディナルっていうとってもすごいAIで管理されてて、あなたはそのAIの一部ってことでいいのかな?」

 

「はい。概ねその理解で間違いありません」

 

「なるほどな、だいたい分かった。アンダーワールドはショッカー、カーディナルはショッカー大首領、そして君は地獄大使みたいなもんってことだな」

 

「え、そ、それは正しいのか私のメモリーで判断しかねますが……た、たぶん間違ってないと思われます?」

 

 なら大丈夫だ。じゃああとは、だ。

 

「なんでユイちゃんがヒロのオーグマーから出てきたかってことだよね!」

 

「おわっ、おま、ぶねっ!」

 

 いつの間にか起きていた木綿季が俺を乗り越えてユイちゃんの方へと身を乗り出した。

 こいつ俺が支えてやらなかったら倒れてるところだぞ。

 

 しかし木綿季の言うことには同意だ。

 この子の言うことがすべて正しいのなら、なんで明らかに運営側のAIが俺のオーグマーなんかにいるんだ? 

 あの時俺はただコボルドロードの撃破報酬の《世界の種子(ザ・シード)》とやらをオブジェクト化しただけなんだし。

 

 なにかこれにも理由が……どうしたそんな急にしょぼくれた顔して。

 びしょぬれのチワワみたいになってんぞ、きみ。

 

「申し訳ありません。実は私自身もなぜ私がヒロさんのオーグマーにいるのかがよくわかってないんです」

 

「わかってない?」

 

「正確には『私』というAIのメモリーが何らかの外部ダメージにより読み取れなくなってるんです」

 

「それは、記憶喪失っていうこと?」

 

「そうですね。あなたがた人の『記憶喪失』という状態が、いま私が置かれている状況に一番近いといえるでしょう」

 

 藍子の確認に「正確にそのものとは言えませんが」と付け加えて、彼女は頷いた。

 

 いやいやそれじゃあつじつまが合わない。

 

「きみは俺らにあったとき言ったよな、『黒の剣士を探してください』って。あれはどうなる? なんだって君はあんなこといったんだ」

 

 その質問に彼女は苦笑する。それはかわいらしい顔立ちの彼女には似合わない苦いもの。

 

「私が自分を『記憶喪失そのもの』と言わなかったのとはそこに理由があります。

 実は、私はたった一つだけ覚えているものがあるんです。それは、すごく短い言葉で、それが何を意味するのか私にはわからないけど、きっとそれは私にとってすごく大切なものだったはずなんです」

 

「……それが、その俺らに言った」

 

「はい」

 

 きゅ、と両の手を胸元で抱き合わせて、彼女はさみしそうに言った。

 

「それが『黒の剣士』、という言葉になります」

 

 彼女は表情を変えず続ける。

 

「私は自分を保証するメモリーがありません。なぜここにいるかがわかりません。そして、どこに帰ればいいのかも。

 でも、この『黒の剣士』という人を探せば、それを見つけられるかもしれない」

 

 ああ、そうか、この子は、迷子なんだ。

 

「……私が目覚めたときに、反射的にみなさんに頼んでしまった理由はわかりません。でも、私の中にあるなにかが、そうしろと強く訴えかけたんです。そうしなければ、帰れないと、そう、言っていた」

 

 なんとなく子どもっぽい気がしてた。

 見た目だけじゃない。話し方はしっかりしてても、彼女はどうしようもなく『子ども』だった。

 

 いま、わかった。

 

 この子は迷子なんだ。管理AIという認識はあれど、それを保証する記憶はなく、なぜこんなところにいるかもわからない。

 頼れる人もいなくて、目の前にいる俺たちに思わず助けを求めた。それだけのこと。

 

 話す中で不意に彼女が目を伏せる。

 

「でも、わかってるんです。こんな図々しいお願いなんて迷惑をかけるだけだって。私はヒロさんのオーグマーに偶然入ってきたウイルスのようなもので、私が皆さんに返せるものはない」

 

 つい、と彼女が指を滑らせると俺の視界にウインドウが現れた。

 

「これは?」

 

「全SA:Oプレイヤーに設けられているGM、つまりカーディナルへの報告システムです。これに私のことを報告すれば、ヒロさんのオーグマーは正常に戻ると思います」

 

「戻るって、その時きみはどうなるんだよ」

 

「いくつかの可能性が考えられますが、いちばん高い可能性は消去されるというものです。私は壊れたAIですから残していても仕方ないですし、それに作ろうと思えば私の後継AIはいくつでも用意できることでしょう」

 

 なんでそんな簡単に言えちゃうんだよ。消去って、それはつまり死ぬってことなんじゃないのか。

 

 なんか、腹立ってきたな。なんで自分のことなのにこの子謝ってんだよ。

 

「……ヒロ、あのさボク」

 

「みなまで言うな。わかってんよ。お前だけじゃない」

 

 だろ、藍子?

 

「そうだね、さすがにほっておけないよ」

 

 よし、決まりだな。

 

「なあなあちょっとこっちおいで」

 

「はい?」

 

 言われるままにとことこと近づいてくる。ううん、やっぱ子どもだな。警戒心がない。

 

「なので、ちょいや」

 

「ふにゃあっ!」

 

 とりあえず無防備な脳天にチョップを落とす。

 

「な、なにするんですかぁ!」

 

「きみがあまりにも馬鹿なこと言うからだよ。そういう馬鹿なこと言う子には似合いのお仕置きだろ」

 

「へ?」

 

 自己紹介がまだだったな。ちゃんとやらせてもらうぜ、もう一度。

 

「俺は緋彩英雄。アンダーワールドでの名前は『ヒロ』」

 

「ボクは紺野木綿季! ニックネームもそのまま『ユウキ』だよ」

 

「私は紺野藍子です。ニックネームは藍の読みを変えて『ラン』」

 

 ほら、次は君の番だぞ。

 

「え、ええと、ユイです」

 

「ユイちゃんね! いい名前だね。覚えやすくてかわいい名前だ」

 

 木綿季が目線を合わせるとにぱっと笑った。

 その隣に膝をついて俺も目線を合わせ、言葉を続ける。

 

「俺たちはスリーピングナイツってギルドをやってる。そしてそのギルドで俺たちは誰かを助けるってのを基本に活動してる。ちなみに団長は俺な」

 

「初めての依頼は病気の女の子のためにアイテムを取ってくるってものでさ。結構大変だったけどバッチリやり遂げました!」

 

「ほかにもおつかいをしたり、あわてんぼうのサンタさんの荷物を集めたり、とにかくいろいろやるんだ」

 

「ああそう、もし助けを求める人がいるなら、迷子の女の子だって助けるんだぜ」

 

 ぽかん、と彼女が俺を見上げる。

 

「消去してくれ、とか悲しいこと言うなよ。きみはちっちゃい女の子じゃないか。普通に『家に帰りたいので助けてください』でいいんだよ。子どもの特権だろ、そういうの」

 

「……ほんとうに、いいんですか?」

 

「ああ。俺たちはきみの依頼を受ける。絶対に俺たちがきみを家に帰してみせるよ」

 

「すみません、私」

 

「違うよ、そうじゃなくて。こういう時に言うのは、ね?」

 

 藍子がやんわりと言葉を塞ぐ。

 不思議そうに首を傾げる彼女に、木綿季がこしょこしょと何事かをささやいた。

 黒髪が揺れる。本当にそれでいいのかという主人の動揺を表すように。

 けれど、木綿季が「それでいいんだよ」とウインクすると、ほうと息が吐き出された。

 

「──ありがとうございます、みなさん」

 

 うん、かわいいじゃん。そういう笑顔が一番だよ、きみは。

 

「……にしても、さっきのチョップはなかったよね。女の子なのに」

 

「え?」

 

「うん。あれはマジであり得なかったね。いきなり女の子の頭にチョップだもん。ヒロそういうとこあるよね」

 

 ちょ、ちょっと。

 

 さっと、ユイちゃんが藍子に抱き寄せられた。

 

「わ、触れられちゃうんだね。実体はないけど、あったかいし、やわらかい」

 

「私はNPCではありませんが、この身体データはオリジンにいるほかのキャラクターたちを参考に、きゃっ、ふふ、くすぐったいですランさん」

 

「あーいいなー! ボクも混ざるー! えへへ、かわいいねユイちゃん。ボク妹ほしかったんだー」

 

 藍子とユイちゃんを挟むように木綿季が抱きついた。

 女子三人のハンバーガーだ。

 

「はっ、そうだ! 呼び方まだ決めてなかったよね? 試しにボクのことお姉ちゃんって呼ばない? ボクあこがれてたんだよ、お姉ちゃんって呼ばれるの!」

 

「ええと……」

 

 ちら、とユイちゃんが俺を見た。

 ごめんな、付き合ってやってくれ。ちょっと弟妹に憧れる気持ち、俺にもわかるし。

 

「じゃあ、お姉ちゃん?」

 

「はうーーっ!」

 

 あ、倒れた。

 

「もう悔いない……ボクユイちゃんと出会えて良かった……」

 

「結論出すのが早すぎんだろ」

 

「ユウがお姉ちゃんなら私もユイちゃんのお姉ちゃんってことになるのかな」

 

「それはダメ! 姉ちゃんはボクの姉ちゃんだから!」

 

「わがままだなあ」

 

 ユイちゃんを抱きしめる木綿季を見つつ、藍子はやれやれと肩をすくめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして木綿季と藍子は自分の家に帰っていった。

 

 いつもなら何かしら配信の話し合いでもするところだがひとまず今日はお休みにすることになった。ここんところ根入れてやってたし休憩もたまには必要だ。

 

 木綿季は久々にアスカ・エンパイアに潜るらしいし、藍子もこの前のボス攻略でたまったポイントで買った本を読むとか言ってた。

 俺も俺で、ユイちゃんのあれこれを調べたかったしな。

 

「……マージで、俺のオーグマーに住み着いてんだな。俺のオーグマーのデータが一部どこかに使われてる」

 

「すみません、勝手に住み着くような形になってしまって」

 

「いいっていいって気にすんな。もともと3Dモデル作成以外に負担かけるようなことしてなかったし」

 

 自室の学習机でオーグマーの仮想キーボードを叩く。

 隣ではユイちゃんがひっぱってきた本棚にちょこんと座って、お互いの現状のすり合わせを手伝ってくれてる。

 こういうのは早めにやっとかないと色々大変だろうしな。

 

「私は立ちっぱなしでもよかったんですが」

 

「女の子にそんなことできるわけねーだろ。疲れなくても見てるこっちが気分悪いって」

 

「そういうものなんですか?」

 

 そういうもんなのよ。

 

「それで、ユイちゃんの五感は俺の感覚に基づいてるって考えていいのか?」

 

「基本はそうですね。いまはオリジン運営(カムラ)のドローンに把握できない室内ですからヒロさんの視覚データに頼っているのが現状です。でも、ヒロさんと視界が全く同じというわけではありません」

 

「ほう?」

 

 ユイちゃんが俺の背後に回ると、とつとつといくつかの単語を唱えていく。

 

「仮面ライダーゼロワン超全集、国語辞典、宇宙船八月号、アーガス監修君もモデリングをしよう!……どうですか?」

 

「おお、すげえな。どれも俺の本棚にあるもんだ」

 

「ふふ、すごいでしょう? まだまだ言えますよ? ゲームの特集雑誌に、少年ジャンプ、それに小説版仮面ライダー……あれ、この本さっき中身は出されてたのにカバーだけここに……」

 

「ストーーーーーーップ! わかった! わかったから! きみが優秀なのはよーーーーくわかった!」

 

 だからもういい! それ以上は色々俺のプライバシーがアレになる気がする!

 

「? まあいまのように、先ほどまでヒロさんが見ていたものを記憶しておいて再現することで、私でも自在に動くことはできます。現実的に干渉することはできませんからあくまでも疑似的に再現した世界で、という形になりますが」

 

 これがオーグマーにアクセスできるカメラのある外だと違うんですが、と付け加えられる。

 

「睡眠とかは? 俺がオーグマーを起動してる間は無理やり起こしたりしちゃう?」

 

「いえ、それに関しては大丈夫です。私はAIですからあなたたち人間でいう睡眠の必要性は強くは存在しません。いちおうヒロさんたちに生活習慣を合わせるために夜はスリープモードに映ることになるでしょうが、その時間はメモリーの整理にあてますし」

 

「そっか、俺の行動できみに面倒をかけないのなら気が楽だな」

 

「め、迷惑だなんてそんな! ここにおいてもらえるだけで」

 

「だーかーらー、それは気にすんなって言ってんだろ。俺らはやりたくて君を助けることにしてんだよ。だから必要以上に申し訳がるな」

 

「でもヒロさんはご主人様で、私は壊れたAIなわけですし……」

 

「あとそれ、ヒロさんはやめないか? なんつーか、くすぐったい」

 

「それで言ったらヒロさんだって私を『きみ』というじゃないですか。私たちの距離感としては『さん』つけが適切かと類推されますが」

 

「む」

 

 口の回る子だな。俺より賢そう。親がよかったんだろうか。

 

「呼び方、なあ」

 

 まあ俺のオーグマーに住んでるってことは長い付き合いになるかもしれないんだ。いつまでもきみって呼ぶのもあんまりか。

 

 にしても、なーんかユイちゃんに見覚えがある気がする。

 

 なんだろう……はっ! そうか! 

 

 ぽん、としゃがんで彼女の肩に手を置いた。

 

「ヒロさん?」

 

「敬語のAIで白がメインの服を着た黒髪の女の子……よし、きみの名前はイズだ」

 

「あの、私の名前はユイですが……」

 

「おっとそうか、ごめん、ユイズ」

 

「混ざってます混ざってます」

 

 そうか、すまないあんまりにも仮面ライダーゼロワンに出てくる美人秘書AIイズに要素が似てたもんだから、失敬。

 

 しかしじゃあ何と呼ぶかと聞かれると困るな……ううん。

 

「じゃあ反対に聞くけどきみは俺のことなんて呼びたい? 俺は何でもいいけど」

 

「わ、私ですか!?」

 

 ? なにそんなにびっくりしてるんだよ。この話始めたのはきみなのに。

 

「で、でも、私はAIですし」

 

「あん? いまきみと俺が話してることにAIかどうかなんて関係ねえだろ?」

 

 ほれほれ、何か案出してみなよ。

 

 本棚に座った彼女はしばらくもじもじしていたが、やがて俺の服のそでをつかんで恐る恐る俺を見上げた。

 

「お、お兄ちゃん、とか、でしょうか……」

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

「あ、だ、ダメでしたよね、すみません変なことを言ってしまって」

 

 あ、すごしゅんとしてしまった。

 

「いやだめじゃない。だめじゃないが……ただ、ちょっと意外だっただけだ。いいよ、お兄ちゃんで」

 

「それならよかったです。ならヒロさんのことはこれから『お兄ちゃん』と呼ばせていただきますね」

 

「お、おう」

 

 お兄ちゃん、お兄ちゃんか……木綿季が自分をお姉ちゃんと呼ばせた影響か? いらんことを学ばせたなあいつ。

 いきなり師匠呼びされた時の師匠の気持ちってこんな感じだったのかな。今度聞いてみるか。

 

「じゃあお兄ちゃんは私のことをなんて呼びますか?」

 

「俺、そうだよな今度は俺のターンだよな」

 

 ううん。確か木綿季は『お姉ちゃん』『ユイちゃん』、藍子は『ランちゃん』『ユイちゃん』でまとまったんだっけ。

 なら俺もそれに倣うと『ユイちゃん』呼びになるんだろうが……。

 

 ちら、と俺を見上げてくる小さな女の子を見る。

 

「?」

 

 まあ、せっかく俺のこと『兄』として扱ってくれるんだ、なら俺だってそう返すとしよう。

 

「じゃあ俺は『ユイ』だな。ちょうど俺も髪黒いし、妹っぽいだろ」

 

 わしわしとユイの頭を撫でてやる。実体はないからすり抜けてしまわないように気を付けて、髪をすくように。

 

「ふふ、くすぐったいです」

 

 その笑顔にやっぱり既視感を覚える。

 ううん、どこかでやっぱり見たような……。

 

「お兄ちゃん? どうかしたんですか?」

 

「あ、あー、いやいや俺が兄貴かーってちょっと思うところあっただけ」

 

「そんなに思うところがあるものなんですか?」

 

「あったりまえだろ! 兄貴って言ったら仮面ライダーではかっこいいいの象徴! カブトの地獄兄弟矢車兄貴! ゼロワンの名探偵ヒューマギアでイズの兄ワズ! リバイスの主人公五十嵐一輝! どれもライダー史に残る名お兄様だぜ!」

 

「地獄兄弟……そういう兄弟の方がいらっしゃるんですね」

 

「いや地獄兄弟は兄弟じゃない」

 

「????」

 

「あくまでも地獄兄弟はそう自称してるだけで血のつながりはないんだよ。そういう意味ではちょっと俺たちに近いかもな」

 

「へえ~、奥が深いんですね」

 

「おう、他にもゼロワンのワズは……っと」

 

 しまった、思わず止まらなくなっちまった。こういう話しても木綿季ですらギリ、藍子にいたっては首をかしげちゃうからな。

 

「悪い、こういう話しても面白くないよな。俺いつもこうでさ、ごめんなユイ」

 

「いいえ、私は楽しいです! 私はなんにも知りませんから、こうしてお兄ちゃんといろいろ話してるだけでも、すごく新鮮で楽しくて仕方ないんですよ?」

 

「そ、そう?」

 

 ほ、ほんとに? 楽しいの、俺のオタク語り。

 

「じゃ、じゃあ、見てみるか仮面ライダー。俺サブスクに入ってるから今からでも見れちゃうけど」

 

「ぜひ! 私お兄ちゃんの好きなもの知りたいです!」

 

「お、おお、おおお! じゃ、じゃあまず―――いやまて、一応言っておくと仮面ライダーのシリーズって結構長いんだよ。基本30分番組が一年間50話近く、時間にすると25時間弱くらいあるんだよ。そこが結構ハードルになっててさ」

 

「25時間ですか。それはなかなかですね」

 

「そーなんだよ。木綿季とか藍子も俺に付き合ってみてくれたけど、やっぱ長いからもうしわけなくてさ」

 

 藍子は派手に人が殴り合うのが苦手だと言って、ウィザード以外はあんまりまともに見れてなかったし、木綿季も特に好きなエグゼイドや比較的新しい令和ライダー以外はあんまり記憶がはっきりしてない。

 

「だから、見てくれるのはうれしいけど、見るつもりなら割と覚悟を持ってみてほしい」

 

「そうですね……あ、そういえばお兄ちゃんはサブスクに入っているんでしたっけ」

 

「ん? そうだな。東映特撮ファンクラブだ。仮面ライダーや戦隊なんかの東映の特撮作品が見放題なんだ」

 

 ぱちん、とユイが手を合わせる。

 

「じゃあお兄ちゃんそのアカウントを私に貸してください。私はAIですから主観時間を加速して動画データすべてを閲覧、記憶領域に保存します。これでお兄ちゃんと同じ知識が私にも持てます!」

 

 名案です、と笑うユイちゃん。

 

「あー、なるほど、ううん……」

 

「お兄ちゃん?」

 

「うん、なんつーのかな」

 

 うーーーーーーん。悪いことじゃない。ただ『違う』だけだ。

 でも、そういうのじゃ、なんかダメな気がする。

 

「ヒューマギアは人類の夢なんだよ、バイ、仮面ライダーゼロワン、飛電或人」

 

「え?」

 

「俺の好きな仮面ライダーの主人公の一人の言葉だ」

 

 仮面ライダーゼロワンは人工知能と人間の共存について描いた話で、主人公は人間と人工知能が一緒に生きる未来に向かって頑張るお話だ。

 

 正直、作品の評価としては難しい位置にあるといっていい。

 でもさ、俺好きなんだよ。

 あの主人公の父親が主人公にかけた夢に向かって跳べっていう言葉も、上手くいかないことが山ほどあって、優しくなれない人も、許せない人もいたけど、それでも最後には隣の誰かを許そうとして、前へ進もうとした。

 他の人はいろいろ言うかもしれないけど、俺は好きだ。

 

 ユイは自分にやれることを提案しただけだ。生まれつき俺とは違うことができるから、その尺度を俺に当てはめるのは野暮だってのもわかってる。

 

「でもさ、ユイが今やろうとしてるの、俺を喜ばせるためだろ? 俺せっかく見るなら、そういうのじゃなくてユイに楽しんでほしいんだよ」

 

「―――」

 

「仮面ライダーってさ、たいてい誰かと一緒に見るもんなんだよ。兄弟とか……父親とかがさ、勧めてくれて、それでテレビの前で一緒に見る。

 それって、大人になってもすっごく大切な思い出になるもの……らしい」

 

 まあ正直俺にはよくわからないし、わかるはずもないものだが、仮面ライダーってのはそういうもんなのだ。

 

「だからなんつーかさ、俺は記録じゃなくて『記憶』にしてほしいなって。俺と、仮だけど兄の俺とユイと二人で見たっていう、記憶をさ」

 

 じっとユイが俺を見つめる。

 

「なんで、ヒロさんは、そこまで私にちゃんと向き合おうとするんですか?」

 

 なんで、か。

 

「……今ようやく思い出したんだけどさ、ユイ、ホルンカの村近くの森にいたことはない?」

 

「え?」

 

「俺、そこできみと一度会ってると思う」

 

 ネペントに追われながら森の中を爆走していた時、どうしようもなくなった俺に指をさして道を示してくれた人影があった。

 その結果俺は干し草を見つけることができて、本能寺ファイヤーであの窮地を脱することができた。

 

 そうだ、今話すまでとんと記憶から抜け落ちてたけど、ユイはあの時見た白い人影と似ている、いや、あれはユイだった。

 なんでかわからないけど、俺にはそう断言できる。

 

「すみません、私のメモリーはヒロさんたちに出会った時からのものしかなくて」

 

 そっか。なら仕方ない。

 

「でもあれはユイだったよ。だから俺はそういう困ってる誰かを助けられるきみを道具みたいに扱いたくはないんだ」

 

 ユイはAIで、俺みたいな人間とは違う生まれ方、生き方ができる存在だ。

 だからユイが人間にはできない方法で作品を記憶することは否定されるべきではない。

 

 でも、だからこそ俺は()()()()()()()()

 

「俺はリアルにAIの子と話すのなんて初めてだ。だから正しい付き合い方なんてわからない。だから、俺はユイの扱い方は変えないよ」

 

 ぽんぽん、と背中を叩いてやると唇の端を吊り上げて、笑ってみせる。

 

「ちなみに俺は木綿季にも藍子にも同じように『俺と一緒に仮面ライダーを見ろ!』って言ってきた」

 

 だからすまねえが折れてくれないか?

 このめんどくせえ仮面ライダーオタクのお兄ちゃんにさ。

 

「……ヒロさんは、いいえ」

 

 ふ、とユイは笑った。年相応の、透き通る青空のような笑顔で。

 

「お兄ちゃんがそういうなら、仕方ないですね。いっしょに見ることにします、いろいろ教えてくださいね?」

 

「おう、もちろんだぜ妹よ」

 

 ユイと俺との視線が合うと、芝居がかった口調が面白くて、どちらからともなく笑い合った。

 

 

 

 

「んー、遊んだー」

 

 アミュスフィアを外した木綿季は軽く伸びをするとひょいっと跳ね起きた。

 

「最近あんまり時間取れてなかったけどシウネーやテッチたちも元気そうでよかったなー」

 

 ふんふん、と鼻歌を歌いながら階下に降りる。

 来週からはもう夏休み。もう部屋着は完全に動きやすいTシャツと短パンである。

 

「そういえばヒロとユイちゃん二人だけど何話してるんだろ」

 

 ヒロは骨の髄まで仮面ライダーのオタクだ。別にコミュニケーションに問題があるわけではないが、会話に困ったりしてるんではないだろうか。

 

「ちょっと覗いたりしてみようかな」

 

 うんそうしよう、とつぶやいて自分の部屋に戻る。

 もう知り合って七年。すでに木綿季の中からわざわざ玄関からヒロの家を訪ねるという発想は消えていた。

 

「あ、ユウ、降りてたんだ」

 

 だがその途中、同じタイミングで降りてきたらしい藍子と鉢合わせる。

 

「うん。ちょっとゲームは休憩。そういう姉ちゃんは?」

 

「私も一区切りまで読んだから少し休憩。ついでにヒロの様子でも見て来ようかなって」

 

「姉ちゃんも?」

 

「……ということはユウもなんだ」

 

 くすり、と互いに笑みが漏れた。

 

「やっぱちょっと心配だもんね。ヒロは優しいけどああだし」

 

「うん、ヒロは面倒見いいけどああだもんね」

 

 ヒロは昔から変わらない。ちょっと自分の好きなことに熱くなりやすいけど、なんだかんだ困ってる人を見捨てられないお人よし。

 

「じゃあせっかくだし一緒に行こうか」

 

「だねー。あ、ついでに昨日パパに買ってもらったカステラとか持って行っちゃう?」

 

「いーねそれ! あ、でもその場合ユイちゃんは食べれないんじゃ……」

 

「あー、そっか。ヒロならそこらへんうまいことやってくれないかな」

 

「まあヒロならなんだかんだ言いつつ『わーったよ。なんとかする』ってなんとかしてくれるよ! たぶん!」

 

「かもね」

 

 他愛のない会話をしながらヒロの部屋に向かう。

 いまは藍子がいるのでちゃんと玄関からである。藍子は木綿季が窓越しにヒロの部屋に行くことにあまりいい顔をしないのである。

 わざわざ小言を言われることをする必要もない。

 

 触らぬ神に、というやつである。

 

「ヒロたちいま何してるかな」

 

「そりゃあれだよ、仮面ライダーを見てる!」

 

「だよね。ヒロだし」

 

「まあいつもみたいにちょっと暴走してたらボクらでそれとなーく止めてあげればいいよ」

 

「私たちの時も熱かったもんね。あれ聞いてたらついついこっちも力が入っちゃう」

 

「4、5時間連続でとか余裕で見てるもんね。あとあのディープな話にもなかなかついていけなくて……」

 

「まあでもヒロはああいうのわかってもらうより、説明するのが好きみたいなところもあるだろうし、そんなに気にしなくていい気もするかなぁ」

 

 階段を上り、藍子がヒロの部屋の扉をノック。

 だが、しばらくしても返答がない。

 

「あれ、どうかしたのかな」

 

「集中しすぎて聞えてないのかも。時々ヒロそうなるじゃん」

 

「うーん、ユイちゃんもいるのにそうなるかなあ」

 

 訝しみつつ藍子が扉を開ける。瞬間、今まで扉が隔てていた声が解放された。

 

「ほわぁ~、すごいですかっこいい……いままで白かった体がまるで血が通うように赤く……」

 

「うんうん、わかるわかる。燃える教会の中、家族を失った子どもの涙を見た主人公は戦うという責任に向き合い、『変身』する。ああかっけえ……」

 

「赤はやっぱりヒーローって感じがします。私はなんとなく黒もヒーローのイメージが強いんですけど、こういう使われ方を見ていると仮面ライダーにおいての『赤』は特別な色な気がします」

 

「黒ってなんか強いイメージあるもんな。ううん、もう20年以上前の作品だけど色褪せない良さがあるなぁ」

 

「はい! すっごくおもしろいです! 特にこの主人公の方がすてきですね」

 

「お、やっぱ? なんとなくユイは気に入る気がしてたんだよな。なにせこの作品の主人公はシリーズで一番『人の心に寄り添える』人だと思うんだ。こんな風になれたらってあこがれるよ」

 

「ふふ、もう私にとってお兄ちゃんはそういう人ですよ」

 

「……やめろよ。まだ俺はユイになにもできてねーぞ」

 

「じゃあこれからに期待します、お兄ちゃん」

 

「さよで」

 

「ふふ、はい」

 

 仮面ライダーは見ていた。予想通りだ。

 だが予想に反し、ユイはすごく楽しそうだった。馴染んでいる。いやむしろ馴染みすぎてるとすら言っていい。

 

 しかもユイと話すヒロは心の底から楽しそうで、加えて木綿季にはわからないディープな話も突っ込んでしている気がした。

 

「……姉ちゃん、仮面ライダー、どれくらいちゃんと覚えてる?」

 

「え、ええと、二、三作品くらい……? ユウは?」

 

「ボクは新しいやつは割と覚えてるけど、生まれる前のやつはちょっと……」

 

 ちら、と二人の視線がヒロとユイに滑る。

 

「ほれ、次何見る。もちろん続けてでもいいけど、せっかくだし一通り見て気になるの探してもいいと思うぜ」

 

「そうですね……そういえば先ほどから少し気になっていたのですが……もしかしてスーツのアクターの方がほとんど同じ方なのでは? いまの作品は違いましたが、それより前に見たものだと体格や重心の取り方が非常に似通っているような……」

 

「おおおっ、よくわかったなぁ! その人はレジェンドでさー、平成ライダーのほとんどはこの人が演じてるっていうミスター平成ライダーなんだよ」

 

「やっぱりそうなんですね。おもしろいです。お兄ちゃんが好きなのはどれなんですか?」

 

「俺かー! うーん、難しい質問だけど、強いて言うなら……」

 

 やっぱり死ぬほど馴染んでる。というかいつの間にか膝にまで座っていた。

 さすがにあれは木綿季でもやったことはない。もちろん藍子も。

 

 ヒロの膝の上に乗ったユイが足をパタパタさせながらヒロの好きな作品のことを聞く中、木綿季と藍子が頬に汗を流し始める。

 

「ね、姉ちゃん、ピンチだよピンチ! ユイちゃん思ったよりもヒロの懐に詰めるのが速い!」

 

「そ、そうだね。とりあえず部屋に突撃しよう! カステラ! みんなで食べないとだし!」

 

「うんカステラは一大事だ! うん、置いてけぼりになるのが怖いだけじゃないから!」

 

「ユイちゃんに取られちゃうような気がしてるわけじゃないから!」

 

「「 よし! 」」

 

 なにがよしなのだろう。

 

「ひろーーーお菓子持ってきたよー!」

 

「おわあっ! いつの間に来たお前ら!」

 

「やっほ、ユイちゃん。ユイちゃんっておかし食べられるのかな」

 

「私ですか? そうですね、オーグマーの機能で分析して、それを再現すれば……」

 

 夏休みを目前に控えた日曜日、こうしてスリーピングナイツの黒の剣士探しがやかましく始まったのだった。

 




 
《ヒロ》
きょうだいがいないので突然できた妹に戸惑いつつも、なんとなく嬉しい。
夏休みの宿題は最後の週に藍子に泣きつくタイプ。

《ユウキ》
双子なのに妹なので、密かにお姉ちゃん呼びに憧れていた。
夏休みの宿題は最初にあらかた片付けてしまうタイプ。

《ラン》
ヒロはちっちゃい子が特別好きと言うわけでもないし大丈夫だよね?という不安を持ってる。
夏休みの宿題はスケジュール立てしてコツコツやるタイプ。

《ユイ》
スリーピングナイツの中に現れた圧倒的妹パワーを誇るスーパーAI。
ヒロのオーグマーに住んでいて、ヒロが呼べば出てくる。
地頭の良さと、子どもの無垢さを持ち合わせることでメタ的な仮面ライダーの見方と、子ども特有のヒーローに夢中になる心を併せ持つヒロ特攻の女の子。
ナチュラルにヒロの膝に座るあたり甘えんぼとしての素質が覗く。
夏休みの宿題の答えを聞くと、インターネットへのアクセスを駆使して速攻で最適解を教えてくれるタイプ。

スリーピングナイツ三人+依頼者一人。

次回、黒の剣士捜索配信回。

ヒロインの中でいまのところ誰が好き?

  • ユウキ
  • ラン
  • ユイ
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