ボクっ娘幼馴染に配信チャンネル乗っ取られたらバズり倒した   作:世嗣

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既に配信者である者 配信者になろうとする者 それを横から見てた者

 

 

 時代を変える天才というのはどの時代にもいる。

 

 それは電球によって人類に光をもたらしたエジソンだったり、ダイナマイトによって世界に大きな影響を与えたノーベルだったり様々だ。

 

 そしてこの時代にも、そういう天才がいる。

 

 『茅場晶彦』。

 

 今の時代を語るうえで避けて語れない存在、それが茅場晶彦だ。

 

 学生の頃からめきめきと頭角を現し、大学にいた間での研究片手に当時零細ゲーム会社であった『アーガス』に入社。

 それとほとんど同時に第二世代フルダイブ型VRマシン『ナーヴギア』の発表、そしてそれを使った世界初のVRMMORPG『ソードアート・オンライン』の製作開始を宣言した。

 いや、このソードアートオンラインってのがものすごかった。

 ナーヴギア自体は一足先にゲームハードとして販売されてたんだが、いかんせん他の会社にはそれを扱うノウハウがない。

 けど、茅場晶彦は自分の設計を十二分に利用した、完全なる異世界をゲームに再現してみせた。

 

 まあ一部ではフルダイブで斬り合いとかして大丈夫かーとか、脳に直接リンクできるハードなんて大丈夫なのかーとかいう人もいたらしいけど―――()()()()()()()()()()()()()()()()

 まあいくらフルダイブって言ってもやっぱゲームだしな。そこまで現実と混同する人なんかもいなかったらしい。

 そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんなの心配するだけ無駄だ。

 その後、ソードアート・オンラインは誰もが知る通りだ。社会現象になるレベルでバカすか売れて、ユーザーは年々増加。最初は高くて手が出なかった人も比較的安価のアミュスフィアが出ると物は試しと手を伸ばし、その世界の虜になって帰ってきたらしい。

 

 だが、そんなSAOも一年前に全100層のクリア。その半年後に人気絶頂の中サービス終了となり、多くのユーザーに惜しまれつつもその四年という歴史に幕を下ろした。

 

 それからは各企業後追いのようにVRMMOに精を出し、ALO、GGO、アスカといろいろ作られるんだけど……と、少し話がずれたな。

 

「まあとにかく、すげーんだよ、茅場晶彦とSAOは」

 

「そういえば、何年か前流行語大賞に入ってたもんね、SAO」

 

「そうそう。茅場晶彦は他にも医療の―――ん、今日の卵焼きうまいな」

 

「そ?」

 

「うむ、腕上げたな」

 

「じゃあヒロのお母さんに感謝かな。私和食全然作れなかったし」

 

「お前のお母さんは洋食がメインだったんだっけか」

 

「うん、だから和食は私もほとんど作ったことなかったなぁ」

 

「母さんも教え子がこんだけ料理上手くなって鼻高々だろ」

 

 うむ、やっぱうまいな。

 

「あ、でもめんどくさくなったらいつでもやめていいからな。お前らには体のこともあるし」

 

「ヘーキヘーキ。ヒロって、毎日お弁当の感想くれるから作りがいあるんだよね」

 

「おばあちゃんが言っていた……食事は一期一会、毎回毎回を大事にしろ、とな」

 

「へー、あのおばあちゃんがそんなことを」

 

「いや、俺のおばあちゃんは言ってない」

 

「どういうこと?」

 

 正確にはおばあちゃんが言ってたことを天道総司が言っていたのをテレビが言ってた。

 

「ま、きつくないならこれからも頼むぜ」

 

「ん」

 

 もむもむと藍子の作ってくれた弁当を食いつつ、廊下に目を向ける。

 おーおー、走ってる走ってる。高校でおんなじクラスでついでだからって藍子が弁当作ってくれなかったら俺も毎日ああだったかと思うと感謝してもし足りんな。

 

 ……木綿季どうしてっかなあ。

 

 まああいつはあいつで結構人懐っこいし、友達と食ってるだろ。弁当は藍子が作ってあげてるみたいだし。

 

 お、生姜焼き今日の味濃いな。俺好みだ。

 

 生姜焼きってこんな味かあ。

 

 肉をかじり、米を口に放り込んで、オーグマーをつけた視界に移る画面を二、三操作する。

 『茅場晶彦さんがリツイートしました』。

 うん、やっぱ夢じゃないな。

 

 ん、なんか藍子がこっち見てんな。どうした? 

 

「うーん、私はユウと違ってアミュスフィア持ってないからよくわからないんだけど、正直オーグマーの方が便利じゃない? みんな使ってるし」

 

「あー、まあそりゃそうなんだが……」

 

 ここら辺はちょいややこしいんだよな。俺もちょっとふわってるし。

 

「藍子はオーグマーの開発者知ってる? この前情〇大陸でちょっとやってたけど」

 

「ああ、ユウが飽きて途中で寝ちゃったやつ。確か重村教授だっけ?」

 

「そうそう、その重村教授って茅場晶彦の大学の教授なんだよ。今でもちょくちょく交流あるらしいぜ」

 

「ふうん」

 

「けどこの重村教授どっちかっていうとAR系のハードじゃなくてロボットとかパワードスーツとかそっち系の機械工学の人らしいんだよ」

 

「……それって、もしかして」

 

 お、なんとなくわかったみたいだな、さすが藍子。

 

「でな、オーグマーの基本システムはほとんどナーヴギアと同じなんだ。つまり、オーグマーはあくまでもナーヴギアから発展した技術の一つってワケだ」

 

「じゃあ重村教授が茅場さんに何かを教えたっていうより」

 

「ウム、たぶん重村教授が茅場晶彦の影響を受けたんだろうな」

 

「へえ~、茅場晶彦さんてすごいのね」

 

「ま、その茅場晶彦は最近は長めの休暇に入ってて何してるかわかんねえんだけど」

 

「へー、そういうことってどこでわかるの」

 

「いかがでしたかブログに書いてあった」

 

「そういうとこの情報鵜呑みにするから君はダメだって前言わなかったっけ」

 

 すんません。

 

「……まあ、そいうわけで何の気まぐれかは知らねえが、『茅場晶彦がリツイートした』って状況はチャンスではあるんだが」

 

「でもヒロあんま嬉しくなさそうだよね」

 

「そ~~~~~なんだよぉ~~~~~」

 

 いやね? これが俺一人ならいいよ? でもさあ。

 

「よりによって木綿季が出てるやつなんだよぉ~~~」

 

 もうあの配信はアーカイブにも残っていない。

 でもどっかのバカが作った切り抜き動画がSNSに放流されクソバズり、トレンドの上位に「幼馴染乱入」が食い込んだ。

 そのおかげで俺のチャンネルの登録者は爆発的に増加、なんか怖いから今日になってからはもうチャンネルは確認していない。

 

「はあ……俺の配信も見たことのないクソ馬鹿野次馬野郎どもが……人の晒上げには敏感に反応しやがってわかってんのかネットの充実とリアルの充実は反比例にあるんだからな……」

 

「こら、そういうこと言うから炎上するんだよ。昔それで袋叩きにあったこと忘れたの?」

 

「忘れてないです。はい」

 

 まだ俺が配信をしていないいたいけな少年であったころ、匿名だからとレス相手を安易に煽ったら死ぬほど叩かれまくったことがあった。果てには、当時のSNSアカまで特定された大変苦い思い出だ。

 そのせいで垢は消すことになるわ、藍子に「ヒロは二度と匿名チャットしちゃダメ」と叱られまくるわで散々だった。

 だから俺はもうそれ以降匿名チャットには触ってない。ちなみに木綿季は横で爆笑してた。

 

 ユゥキドラシルぜってえ許さねえ……! 

 

「でもいつでも現実逃避してないで真面目に対策考えなきゃなあ」

 

 まあ一応昨日の夜に対策は考えたが、やだなあ。

 

「ユウにはなんて言ってるの?」

 

「考えとく」

 

「絶対それ期待しちゃってるやつだよ」

 

「わーってるけど頭ごなしに駄目だって言って納得する奴でもないだろ。ったく、適当にあしらってるうちに熱引いたりしねえかなぁ」

 

「そういうとこはちょっとヒロに似てるよね、ユウ」

 

「お前らの方が似てるだろ、顔とか声とか、あと色々」

 

 おいなんだよそのため息は。

 

「もーいーです、ほらちゃっちゃとお弁当食べちゃってよ、私今日は図書館に行きたいから」

 

「あ、待て待てまだ最後に残しといた卵焼きがあるんだそれまで食わせてくれ」

 

 よしセーフ藍子がふたを閉じる前に何とか奪取に成功! じゃいただきます。

 

「ヒ―――――ロ――――――」

 

「あれ、なんか聞こえない?」

 

 そうか? 

 

 それより俺はこの卵焼きを―――。

 

「ねえねえねえねえ今度からの配信どうする~~~!」

 

「もぐええっ!」

 

 いきなり背中に飛びつくなぁ! ガキか! てか俺の卵焼き! 

 

 俺の箸からこぼれ、哀れ昼食最後の締めくくりとなるべきそれは雑菌だらけの床に落ちる。

 

「おっとと」

 

 ―――直前に、隣りの席に座っていたはずの藍子が素早く片手で受け止めた。

 

「「 おお~~ 」」

 

 これには俺の背中に引っ付いたままの木綿季と二人で拍手。

 すると藍子は照れるように笑みを―――浮かべたりしなかったですね。それどころかジト目で睨まれた。

 

 えーと。

 

「ナイス反射神経!」

 

「……いいからもう食べちゃって」

 

「もが」

 

 口に卵焼き突っ込まれた。

 

「いとうまし」

 

「あー、ずるーい、姉ちゃんの卵焼きボクも食べたかった~!」

 

「ユウの分はちゃんとユウのお弁当箱に入れといたでしょ」

 

「さっき教室からここまで走ってきたからおなか減っちゃった」

 

「どんだけこの教室に来るのに命かけてんだよ」

 

「でも自分のクラスじゃない教室に入るの緊張しない?」

 

「緊張してるやつの入り方じゃなかったでしょ君」

 

 お前俺の名前叫びながら飛びついてきたじゃん。

 

「……ほら、ユウ、ヒロから離れて。もう小学校の頃とは違うんだよ」

 

「えー別にいいじゃんヒロなんだし」

 

「良くないです。ね、ヒロ?」

 

「え、ああそうだな。ほら、クラスのやつも見てっから、ほら」

 

「うーけちー」

 

 ケチもくそもあるかよ。ほれ離れた離れた。

 

「やっぱり敵わないよなあ」

 

「あん? 藍子なんか言ったか?」

 

「んーん、べーつに? で、ユウは何しに私たちの教室に来たの?」

 

 何か用があったんじゃない? と尋ねられて、俺に首根っこを掴まれて引きはがされていた木綿季が「そうだった!」と目を輝かせる。

 

「ねえねえヒロ次の配信いつ!? ボクもう昨日の夜から楽しみで寝られなかったよ!」

 

「おいお前今は調子いいかもしれないけど夜はちゃんと寝ろって倉橋先生にも言われてるだろ」

 

「だいじょーぶだって! 気づいたら寝てたしなんなら授業中にも寝たし!」

 

「ユウ?」

 

「ひえっ、と、とにかくボクは準備万端ってこと! いつでもいけるよ、配信!」

 

 ぐっとサムズアップをしてくる木綿季。

 

「名前とかどうしよっかな。ヒロも本名だしやっぱボクもユウキとか? あ、頻度とかって」

 

「あー、木綿季、すげえ言いづらいんだけどさ」

 

「なになに?」

 

 うわーめっちゃ目きらきらじゃん。ムウ、すげー言いにくいけど仕方ねえか……。

 

「あ、もしかしてボクの体のこと心配してる? ふふーんそれなら大丈夫なんだなー、最近ではお薬もちゃーんと飲んで調子も良いし、普通の人とほとんど―――」

 

「悪いけど、俺配信者やめるわ」

 

「うん、そうだからボクもヒロと一緒に配信者をやめる―――てえええええええ!?」

 

 突然でかい声出すなよ。

 

「あ、わ、わかった、ここで「釣られちゃった?」とかいうんでしょ、もーヒロは本当に冗談が笑えないんだからー」

 

「いや本気」

 

「ま、またまたー……え、ほんとに?」

 

「最初に言っておく、俺はかーなーりマジだぜ」

 

「なななななんでぇ!?」

 

 木綿季が俺の真意を問いただそうと制服の袖をぐいぐいひっぱる。

 やめいやめい脱げるから。

 

「なんでって、言われてもなあ……」

 

「だ、だってものすごい登録者数増えてるんだよ!? クラスでも男の子たちが何人かヒロのチャンネルのこと話してたし!」

 

「もうそんな話題になってんのか、SNSすげーな」

 

「それにかやばさんに見られてるんだよ! やめちゃうのもったいないよ!」

 

「う、それは、そうなんだ、が」

 

「も、もしかしてボクと一緒にやるの、いやだった……?」

 

 なんか変な方向に行ったな。

 

「そ、そりゃそうだよね、ボク姉ちゃんみたいに女の子らしくないし、それにゲームもアスカくらいしかしたことないし、ヒロにだっていつもわがまま言ってばっかりだし、料理は下手だし……あと胸も、姉ちゃんのほうがおっきいし

 

「ゆ、ユウ!?」

 

「いやそういうことじゃない木綿季! お、俺は木綿季の胸も藍子の胸もどっちも等しく好きだぞ!」

 

「ヒロも混乱して変なこと言わないでよ!」

 

 こほん、取り乱したな。俺は木綿季の悲しそうな顔に弱い。いろいろ思い出しちゃうので。

 

 ……藍子の方が大きいんだ。

 

「どこみてるの」

 

「イエベツニ」

 

「……すけべ」

 

 いやいやいやつい見ちゃうものなんですよ、男ってのは。なので俺がことさらに悪いのではないと思うよ。

 恨むなら男をこういう風に作った神様を恨んでおくれ。

 

「ねえねえヒロお願いだよぉ~~、ボク配信者になりたいの~~」

 

「ええい抱き着くなって言ってるだろ、いいかげん年齢ってものを考えろ」

 

「だって最近のヒロボクが抱き着くとなんか甘くなるんだもん」

 

「確信犯かよこの野郎!!」

 

「ぷっ、ヒロっておこちゃまだよねえ~」

 

「今俺を笑ったな……!」

 

 きゃっきゃっとじゃれるように俺に組み付いてくる木綿季。

 やめいやめい最近クラスのやつらも「ああいつもの……」くらいで見るようになってんだ。

 

 あだめいいにおいする。

 

 助けて藍子! 俺はこのままでは押し切られてこいつと二人で配信者をすることになってしまう! 

 

「……しょうがないなあ」

 

 ため息交じりに藍子が立ち上がり、藍色のシュシュにまとめられたダークブラウンの髪がさらりと揺れる。

 

「ほらユウそろそろ教室に戻った方がいいんじゃない? 次一組は大崎先生の英語でしょ」

 

「げ、そ、そうだった……」

 

 大崎かあ。

 あの人自分の授業の時は五分も早く教室に来るからな。昼休みも例外なく。しかも教室がうるさかったら授業を難しくしやがる。

 優等生の藍子はそうでもないらしいけど、俺、あの人苦手。

 

 時間的にも大崎が来るならそろそろ教室には戻った方がいいだろう。お昼休みはこれでタイムアップってとこだろう。

 

 ……なかなか離れんな。

 

「はあ、わーったよ、仕方ねえなあ、とりあえず放課後な、放課後。その時にもう一回相談な」

 

「やたっ」

 

「でも勘違いするなよ、別に俺はお前と配信をするつもりなんて―――」

 

「もう教室に戻っちゃったよ?」

 

 早いんだよ。クロックアップしてんのか。

 

「でも、ヒロが配信をやめる、っていうのは私もちょっと意外だったかな」

 

「ん?」

 

「だって昨日までは『俺は自己承認欲求を慰める手段としての実況配信を愛してるんだ~』とか言ってたのに」

 

「よく覚えてんなあ……」

 

「それに木綿季のアバターも用意してたみたいだし、あれ暇つぶしに二、三日で作ったクオリティとかじゃなかったよ」

 

「む」

 

「もしかして、今まで言い出さなかっただけで、実は昔から木綿季と二人でやる気だったんじゃないの?」

 

「んなんじゃねーよ、偶然だ偶然」

 

「ほんとかなあ……」

 

 俺は確かに自己承認欲求を満たす手段としての実況配信を愛してる。それに木綿季用のアバターを作っておいたのも事実。

 が、俺がこの配信を始めた理由は別に『承認欲求を満たしたいから』ではないのだ。もちろんそれは『木綿季と二人で配信をすること』でもない。

 俺はその本来の目的が達成できないなら別にこのチャンネルに関してそれ程未練はない。

 

 ああ、ちっともない。全然な。まったく惜しくない。いやマジでな。

 

 そんなことを話していたら人がまばらに教室に戻り始め、全員が席に着くころには次の授業の先生が入ってきて生徒に声をかけた。

 

 この教科ごとに先生が変わるって仕組みも中学に入ったころは割と戸惑ったけど、高校にもなればもうずいぶんと慣れちまったなあ。

 

 ……いい天気だなあ。

 

「じゃあ次のところを……緋彩、読んでくれるか」

 

「え、俺っすか」

 

「このクラスに他に緋彩はいないだろう。聞いてたなら読めるだろう」

 

 こりゃもしかしたら聞いてなかったのバレてたかもな。いかんいかんこれ以上目をつけられる前に……げ。

 

「あー、すみません、俺……」

 

「忘れ物か……まったく、授業を聞いてなかったのに反省して隣の奴にでも見せてもらえ。じゃあ代わりに西宮」

 

「ええ、俺ぇ?」

 

 すまん西宮今度埋め合わせはする。

 

「あー、ということでいいか?」

 

「もう、忘れ物ないか朝確認しないからだよ。私がいつでも見せてあげると思わないこと」

 

 と、言いつつも藍子が机を俺に寄せて来てくれる。それに俺も同じように寄せつつ、机をくっつけて教科書を見せてもらう。

 ああ、そうそう昨日から銀河鉄道の夜だったな。

 ジョバンニとかんぱ……なんとかが銀河を旅する列車に乗る話。

 

 なんかデンライナーみたいだな。犬が苦手な赤鬼とか乗ってそう。

 

「―――」

 

 藍子まつげなげーなー。髪もさらさらだし、俺みたいな男とは根本的に違うんだろう。

 体のこともあるから少し肌が白すぎる気もするけど、まあ常識の範囲内だろ。

 

 しっかし、こうして横顔みてるとなんか懐かしい。デジャヴなんだっけなこれ―――。

 

「あ」

 

 木綿季の横顔だなこれ。しかも小学校の時の。

 少しおっちょこちょいのケがある木綿季は小学の頃はよく忘れ物をしていた。そのたんびに隣の席の俺が教科書を見せてたもんだ。

 木綿季とは小学六年以来一緒のクラスになってないからなあ。懐かしい感じがするわけだ。

 藍子は中学から高校までずっと同じクラスなのにな。不思議なこともあるもんだ。

 

 む、なんか脇腹ツンツンされてんな。

 

 ノートの端に、文字? 

 

授業はちゃんときかなきゃだめだぞଘ(੭ˊ꒳ˋ)੭✧』

 

あまりにも隣にいる子が美人で気が気じゃないんだよ

 

あーだめなんだー、教科書忘れてるのに落書きなんて

 

俺は返事してるだけだから

 

ずるっこだ

 

 ずるっこ、か。

 こう言う時の藍子は少し言葉遣いが子どもっぽい。メールとかもこんな感じだし。

 

 ちら、と顔を上げてみる。

 先生は……板書でしばらくはこっち向かないか。

 ちょっとこのページの余白は埋まってきたし、まあここらへんでいいか。

 

そういうお前こそ優等生がこんなことしていいのか

 

みつかったらヒロのせいにするからへーき

 

その時は道連れだからな

 

えー

 

えーじゃない

 

 くすくすと少しだけ肩を揺らす藍子。

 そして赤色のシュシュで結んだ髪を手でくしくしといじりつつ、次の言葉を余白に記していく。

 ほっそりとした蝋のように白い指が藍子らしい丁寧な文字を紡いでいく。

 

なんでユウと配信やらないの( ,`・ ω´・)?』

 

 むう、今回はずいぶん聞いてくるな。

 

 いつもは俺の言い訳にはあんまり突っ込んでこないんだが、さて。

 

なんで気になるんだ? 

 

なんとなく

 

 言う気はなし、と。

 

 こうなるとたぶん俺から聞き出すまで諦めんなこれ。

 木綿季と言い藍子と言い俺の幼馴染は一度こうと決めたらなかなか曲げたがらんから困るぜ。

 

 うーん、正直これを言うのは気恥ずかしいんだが……仕方ねえか。

 

藍子がいないんじゃ意味ないから

 

「え?」

 

「紺野? どうかしたか?」

 

「あ、い、いえすみません。ちょっと、虫が」

 

 一瞬クラスの視線が藍子に集まったが、直ぐにそれぞれのノートに戻っていく。

 だが藍子はノートではなく、教室にふらふら視線を漂わせてから、俺の方を盗み見る。

 それに対し俺はシャーペンの先でノートをコツコツとたたいて答えた。

 

 何か言いたいことがあるんだろ? 

 

 藍子がくしくしと髪を触る。

 

それって、どういう意味? 

 

そのまま。俺と木綿季だけでやっても仕方ねえだろ

 

じゃあ私にやってって頼めばいいんじゃない? なんでそうしないの? 

 

 はあ、なんだそりゃ。

 

藍子人前に出るの好きじゃないじゃん

 

 確かに今の状況はチャンスだ。こんな大人数に注目されることなんてもしかしたら俺の人生で後にも先にもこれだけかもしれない。

 もしここで木綿季の力を借りれば俺は人気配信者の仲間入りだって夢じゃないかもしれない。

 

 けど、もし仮に俺と木綿季が配信者になれば、きっと藍子は疎外感を覚えるだろう。気にしないって言ってくれるだろうけど、きっと『藍子のわからない話』が増えてしまう。

 

 なら、たしかに藍子の言う通り、藍子も誘って三人でやれば問題は解決なのかもしれない。

 

()()()()()()()()()()()、だが。

 

 けど、藍子はきっと自分からやりたいと言うことはないだろう。俺が頼めば、木綿季を理由にすれば、きっと引き受けてくれるかも知れない。

 

 でもな、俺は確かに炎上配信者のクズでカスだが、自分の人気のためならなんでもやっていいなんて思うほど落ちちゃいないつもりだ。

 

 だから、俺は配信者をやめる。

 

 このままだと俺たち三人が、二人と一人になってしまう気がするから。

 

 それは、だめだろう。

 

 だって()()()()()()は幼馴染なんだから。

 

 なら、俺たちは『二人と一人』になっちゃいけない。

 

 俺たちはずっと三人なんだから。

 

 

 しばらく、藍子はじっと俺の書いた文字を見ていた。

 けどしばらくするとふっと顔を上げて黒板の方へと目を向け、かりかりとノートへ書き写し始めた。

 

 それっきり、俺にむけて何か言葉を書くことはなかった。

 

 けど小さく、

 

「そうだったんだ」

 

 とだけ呟いた。

 

 顔は、もう俺は外を向いてたからわからんが、まあ声はそんなに暗くなかったんじゃねえの。

 

 

 

 

第二話 既に配信者である者 配信者になろうとする者 それを横から見てた者

 

 

 

 

 放課後、驚いたことに、というべきか、やはり、というべきか木綿季は俺に配信者になりたいと頼み込んできた。

 

 が、少し昼休みと違うところもあった。

 

「これ、見て」

 

 木綿季が差し出したのは大学ノート。前10冊セットで買ったカラバリのあるやつ。

 中でもこの紫のノートはとっておきと言ってとっていたはずだったのだが。

 

「えーと、これは」

 

「何も言わずに読んで。お願い」

 

 じっと木綿季に見つめられると嫌だとは言えない。

 言われるままにノートを手に取りページをめくる。

 

「木綿季、お前これ……」

 

「ボク、昨日からずーっと考えてた。配信者ってどういうものなのかなとか、何をするとみんなが楽しいのかなとか、どうすればみんなと楽しめるようになるのかな、とか。

 でもボクそんなこと考えたこともなかったから、いろんな人の配信とか見て、やりたい事とか考えたこととかいーっぱいかいたんだ。あ、ヒロのも見たよ。よくわからないこともあったけど、でも、ボクなりにいろいろ書いてみた」

 

「上位の配信者の配信時間に、サムネ、あと題材に……視聴者のコメントまで見たのかよ。お前凝り性だな」

 

「だ、だってほんとにやりたかったんだもん!」

 

 木綿季が頭のリボンを触って、ふうと深呼吸。そして、俺を見上げる。

 

「昨日の配信、すごかった。ボクの言葉にみんなが答えてくれて、ボクが次話すことをみんなが見てた。オーグマーはあんなに小さいのに、そこから無限の世界につながれるんだってわかった」

 

「……」

 

「ワクワクした。ドキドキした。もっといろんなことをしてみたいって思った。だから、おねがいヒロ」

 

 目の前の髪と同じダークブラウンの瞳は真剣そのもので、その奥にはきらきらと輝くものが見えた。

 

 ……なんとなく、今まで木綿季は本気じゃないと思っていた。

 

 目の前にいきなり出てきたものにとらわれてるだけで、そのうち違うことに目が向くと思っていた。

 

 でも、これ見ちゃそんなこと言えねえよなあ。

 

 俺が本気でやめようとしてるなら木綿季だって本気で配信者をやりたいと思っている。

 

 でも、俺は―――。

 

「いいじゃんヒロ、一緒にやれば」

 

「藍子!?」

 

 俺さっき授業の時に言ったよな!? 

 

「だってユウ本気なんだもん。だから私はいいと思うよ、ユウが配信やるの」

 

「姉ちゃん……!」

 

「けどな藍子――むが」

 

「けーどっ」

 

 指で唇を抑えられる。

 

「ヒロとユウの二人でやるってのはちょーっと心配だから、私もやるよ、配信者」

 

「「 !? 」」

 

 今度は俺だけじゃなくて木綿季も口をあんぐり開けた。

 

「藍子お前今なんて……」

 

「だからやるよ、私も」

 

 そうすれば問題解決でしょ? そう藍子の目が言っている。

 

「お前いいのか、配信ってめっちゃたくさんの人に見られるんだぞ?」

 

「ヒロのことだしユウのアバターだけじゃなくて私のも作ってるよね? ならだいじょーぶだよ」

 

 確かに作ってはいるが……。

 

「そ、それにひどいこと言われるかも!」

 

「ネットだし、そもそも自分の顔も出さない人たちの悪口って気にする必要ある?」

 

「自信満々でやった動画が案外評価されなくてへこむかもしれん!」

 

「じゃあそうならないように三人で頑張らなきゃね」

 

「え、炎上するかもしれん!」

 

「そうならないように私もやるって言ってるんです。というかヒロが気を付けてくれればいいんだよ?」

 

 なら……いや、でも。

 

「ほんとに、いいのか?」

 

 藍子がくしくしと赤色のシュシュを触りながら、ふっと頬を緩めた。

 

「私たち三人は幼馴染なんだもん。ならいっしょにやるのは当たり前でしょ」

 

「……」

 

「それとも、ヒロは嫌だった?」

 

「そんなはず! ……そんなはずねえよ」

 

「そ。ならよかった」

 

 にこ、と藍子が笑うと、今までぼけーっと口を開けたままだった木綿季の口角が次第に上がっていく。

 

「どうした木綿季いきなりウォーズマンみたいに笑って」

 

「そ、そんな笑い方してないもん! どんな顔だよぅ!」

 

「プロテインを前にした万丈みたいな顔」

 

「ヒロの例えはわかりにくいの!」

 

 そうかな……そうかも……。

 

 でもマジでめっちゃ笑ってたぞ。

 

「その、あのさ、姉ちゃん」

 

「ユウ?」

 

「その、姉ちゃんもボクらとやってくれるの、配信」

 

「うん、そのつもりだけど……もしかしてお姉ちゃんと一緒はいやだったり」

 

「しないよ全然! ボクも姉ちゃんとできたら素敵だなやりたいなって思ってた!」

 

「もう、それなら言ってくれればよかったのに」

 

「でも、姉ちゃん、そういうの苦手かなって……」

 

「気にしてくれてたんだね、ありがと」

 

「にっへっへ……」

 

 木綿季の頭を優しくなでる藍子。

 こうして二人が並ぶと顔も背丈も全く変わらないのに藍子がお姉ちゃんに見えてくるんだから、姉妹っていうのは不思議なもんだな。

 

 不意に、くいくいと袖を引っ張られる。

 

「ヒロ」

 

 真剣な瞳だった。この瞳に見つめられると、「やらなきゃ」って気持ちになってくる。

 

「ったく、しょーがねえなあ」

 

 まったく、今日の朝まで俺はマジで配信やめるつもりだったんだぞ。

 でも、今の俺には反対する理由がなくなっちまった。

 なら、しょうがねえよな。

 

()()()()()みんながやりたいのなら、しょうがねえ。

 

「やるか、配信者、俺たち三人で」

 

「や、やったーーーーーーー!」

 

「ただ、やるからには最初からクライマックスだぜ?」

 

「うん! 望むところだよ!」

 

「もうほどほどにね? 私たちが参加する回からいきなり炎上とかは嫌だからね?」

 

「あいあい、でも三人になるならチャンネル名とかも変えるか? なんかいいのあるかな……」

 

「あ、ボク案あるよ! 昨日考えたんだ!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねるように手を挙げる木綿季。

 ああ、ああ、木綿季、スカートが危うい感じに……あ、藍子がそれとなく抑えた。

 ウム、流石のおねえちゃん。

 

「ねえユウ、それってどんなの? 聞かせてほしいな」

 

「大丈夫か~? 木綿季は時々びっくりするようなこと言うからな~」

 

「む、死滅したネーミングセンスのヒロにだけは言われたくないよ!」

 

「はっはっはっは、死滅って冗談やめろよ……何で二人とも何も言わないんだ」

 

 え? 俺ってネーミングセンスないの? ウソダドンドコドーン! 

 

 打ちひしがれる俺をよそに木綿季は少し駆け足気味に前へ出て、そしてくるりと振り返った。

 

「じゃあ、言うよ、ボクらのチャンネル名」

 

 木綿季が、俺を見て、藍子を見る。そして、さっき俺に見せてくれたノートを大きく広げて見せた。

 

 

「チャンネル名は『スリーピングナイツ』! ボクが、ううん、ボクらみんながこの世界を冒険するための仲間の名前!」

 

 ──スリーピングナイツ。

 

 眠りの騎士団……いや、眠れる騎士たち(スリーピングナイツ)ってとこか。

 

「ま、悪くねえんじゃねえの」

 

「うん、お姉ちゃんすごくいいって思うよ」

 

「ほんと!? えへへ、なんかうれしいなあ~、あ、じゃあ初配信いつにする!? てか何する!? は、それよりボクってばオーグマーなんとかしなきゃ! ど、どーしよヒロ!」

 

 こらこらいきなりいろいろ聞くな。どれもこれから俺たちで決めるんだよ。

 

「まあでも、『何をするか』については割と選択肢は一択かもなあ」

 

 なにせこの中で経験者は俺だけだからな! 年季の違いってものを──む、なににやにやしてんだお前ら。

 

「だって、ねえ?」

 

「うん、ヒロさっきまでやめるって言ってたのに、ねえ?」

 

「ヒロ〜、実はめちゃくちゃボクたちと配信やりたかったんじゃないの〜?」

 

「―――ん、んなんじゃねえよ!」

 

「ほんとかなぁ」

 

 べ、別に木綿季と藍子と三人で配信はじめた妄想して細かに配信計画まで立てたりアバターの細かい修正とかしてないが? 

 

「へー、ヒロがねえ~」

 

「ボクらのためにねえ~」

 

 あーもう嫌だこの姉妹! 

 

「それでそれで?」

 

「ヒロはボクらのために何考えてくれたの? ボク知りたいなぁ〜」

 

「くっ、ARゲームだよARゲーム! 有名だしお前らも名前くらい知ってんだろ?」

 

「AR……っていうと」

 

「ごめん、私そういうの疎くて……」

 

「まーじかよ、S()A()O()だよ、SAO。コイツを使ってやる、SAOの()()()()

 

 そう言って、コンコン、と俺は耳にかけてある『オーグマー』を叩いて見せた。

 

 

 




 


《 ソードアート・オンライン 》
一年前にサービスが終わった大人気VRMMOゲーム。
空に浮かぶ鋼鉄の城「アインクラッド」をそこに住む冒険者として攻略していく物語で、メインのシナリオはないもののジョブなどに縛られないその自由さが大きな反響を得た。
全100層は四年をかけてプレイヤーによって攻略され、その半年後に惜しまれながらもサービスを終了した。
これにはこのゲームを作った茅場の意思が影響していたと言われている。

ボス自体には何度も挑戦できるものの最初の一回を倒したパーティおよびギルドには称号が与えられるため、ゲーム内でもフロアボス攻略に参加するのはトップランナーの資格の一つだった。

大小様々なキルドがあったものの特に有名なものは「血盟騎士団」「聖龍連合」「アインクラッド軍」「風林火山」などになる。

一部のトッププレイヤーは非公式広報の手によって二つ名も付けられている。
「黒の剣士」「閃光」「神聖剣」あたりはヒロでも知っているくらいには有名である。


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