ボクっ娘幼馴染に配信チャンネル乗っ取られたらバズり倒した 作:世嗣
「ありがとざざしたー」
帰っていくお客さんに頭を下げて、次のお客さんの品物を手早く会計していく。
ふう、昼のピークもぼちぼち終わりだな。しばらくは暇になりそうだし、今のうちに商品補充でもしとこう。
レジは、まあパートのおばちゃんでしばらくは回るだろ。
「よっと、ちと多いな二回に分けるか」
裏手に回り山盛りの商品の入ったケースを抱え、商品を並べていく。
配信機材をそろえるために始めたスーパーのバイトだけどだいぶ慣れて来た。
始めるまではどうにも不安があったが、覚えることさえ覚えてしまえば案外できるようになるもんだ。
拘束時間も比較的短めでシフトも割と融通が利く。
まあこうして時折シフトの穴埋めに代打で呼び出されたりはするが、今は木綿季にオーグマー買ってやって金も必要だったしな。
けど、多いな……次のピークまでに終わるかなこれ。
終わらなかったら終わらなかったで仕方ないんだけど、ちょっとレジが回らなくなりそうなのがなあ。
えーと、これどこだっけな。
「それなら生鮮の隣よ。紛らわしいわよね」
「おわっ!」
突然声かけられた! って。
「ふふ、よっす」
いつの間にか隣に眼鏡の美人。少し茶化したしたように俺に片手をあげるのは。
「あっれ、詩乃ちゃんパイセン、来てたんすか」
「あのね、その呼び方はやめなさいって何度も言ってんでしょーが」
「いひゃいいひゃい、いひゃいっすパイセン。ほっぺたやめてくださいよ」
「アンタがいつまでたってもその変な呼び方直さないからでしょ」
いてっ。デコピンされた。
おーいて……というほどではないが、非難の意味も込めてデコ抑えとこ。
「第一、私は緋彩とは学校も違うのに」
「いーじゃないっすか、学校は違うくても先輩で。ここでの仕事はパイセンが教えてくれたんですし」
「それは、そうだけど」
「ならいいじゃないっすか、パイセンはパイセンで」
パイセンが「そういうものかしら」と呟きつつ眼鏡の位置を正す。
「ま、それはともかくバイト穴埋めしてくれてありがとね。今日は如月君急にこれなくなったみたいなの」
「ふっ、いーんすよ。如月はきっと家出した担任の生徒を探しに行ったんでしょうから」
「如月君は高校生だし今日は親戚の法事だって言ってたわよ」
ソッスカ。
「でもよかったの? 休日の昼間だし何か予定あったんじゃない?」
「ハッハッハ」
「笑ってごまかした。……配信とかやる予定もなかったの? 見たよ、自分で燃える織田信長」
「ちょっとリアルでその話は勘弁してください、マジで」
「えぇ~、どうしよっかなぁ~、せっかく後輩が面白いことやってるのに何も言わないのは不義理じゃないかしら?」
「……てんちょー、詩乃っちパイセンGGOってゲームで地獄の女がモガッ」
「OK、クールになりましょ。この話はここで終わり、いいわね?」
ウム、その休戦協定には乗ろうじゃないか。
「ん、でもアンタってもう今週結構入ってたわよね。今日でそこそこ連勤じゃない?」
「ま、ちょうどバイト代、ガンガン稼ぎたい面もあったんで」
「ふうん? また名誉棄損で訴えられてお金むしり取られた?」
「前にも一回あったみたいな言い方やめてくれません?」
流石の俺でもそんなことやったことはねえよ。
「じゃあどうしたの?」
眼鏡の向こうのパイセンの瞳がきろりとこちらを向いた。
手は先ほどから止まらずに商品補充をしているのに器用というか多芸というか。
「え、あー、まあちょっと、幼馴染に、ちょっとプレゼントを」
「幼馴染って、あの休日のシフトの時にいつもお弁当作ってくれてるっていう?」
「いやそっちじゃない方っすね。双子の妹の方」
「誕生日とか?」
「や、なんていうんすかね、まあちょっと日ごろの感謝も込めて、みたいな?」
「そ」
パイセンは短く音を漏らすと、俺の背中を軽くたたいてくる。
いつの間にか山のようにあった仕事もすっかり片付いていた。
「さ、これ戻したらレジの方に行きましょ」
「っすね。混んできたらおばちゃん一人だと大変でしょうし」
じゃあ空いたケースもっていっとくか。
よいしょっと。
「……半分くれたらよかったのに」
「だから残してるじゃないっすか」
「……もう、ありがと。重くない?」
「ふっふっふ、鍛えてますから! ヒビキさんのように! 己を強くするためにね!」
「誰?」
「仮面ライダー響鬼の主人公っす!」
「……そ、よかったわね」
「なんか目がめっちゃ冷たい」
裏手の方に二人で荷物を運びつつ、軽くお客さんの入りも確認しておく。
まあこの分だとしばらくは大丈夫そうか。
「ずいぶんアイスとか売れるようになったわね」
「ま、夏っすからねー。あとひと月もすれば夏休みにもなります」
「え、もうそんな時期?」
「っすっす。もうクーラーは手放せないっすね」
「私はまだ扇風機。もうちょい粘りたいわね」
「あー、パイセン一人暮らしっすもんね」
「適当に何とかね」
「またまた謙遜を。この前の弁当とかめちゃくちゃ美味そうだったじゃないですか。この前の唐揚げとかも」
「おだてても何も出ないわよ」
「そういうんじゃないんですけどね。あ、確か今年受験っすよね、実家帰ったりするんすか?」
「ううん、今年はずっとこっちね。お盆は帰るかもだけど、基本はこっちにいるつもり」
「ありゃ。勉強とかっすか?」
あれ、パイセンがちょっと言いよどんだ。
確か国立を目指すって言ってたし、勉強が大変なんだと思ったが。
はっ! ま、まさか……。
「お、男……? 行くんすか、デート!」
「ばーか、そんなんじゃないわよ。私をそこら辺の脳みそピンクの浮ついた学生と同じにしないで」
「なあんだ、喜んで損したっす」
「喜んでって、あのね、私の恋愛事情にアンタがどう関係あるっていうのよ」
「いや関係はないっすけど、でも詩乃っちパイセンに男ができる幸運は祝わないわけにはいかないというか」
「……べつにありえなくはないでしょ、彼氏ができるのとか」
「えー、だってこの前占いアプリで遊んでたら出会う男が全て彼女持ちかストーカーだけって出たばっかじゃないですか」
「風穴開けるわよ」
いたいいたいいたい拳を脇腹に押し付けないで。脇腹がえぐれるように痛いっ!
「はあ、夏休みはちょっと知り合いの仕事を手伝いに行く予定なの。それだけ」
「仕事を。インターンって奴っすか?」
「まあそんなとこね」
よいしょ、とパイセンが荷物を置くと眼鏡を指で押し上げる。
「まあそういうわけだから、夏の私がいない間はバイトのラインは任せたわよ?」
「ええっ、俺っすか? もっと他に頼る人いるでしょ」
「あら、先輩からのお願いが聞けないっていうの? この前お昼だっておごってあげたのに」
「ファミチキ一個にしてはちょっとお願いが重すぎじゃないですか?」
「贅沢」
「毎日うまい飯食ってるんで」
ああ、でも。
「次シフトかぶったときに弁当のおかず一品くれたら考えときます」
「……生意気」
へへっその腕へのへなちょこパンチは指切りの代わりにもらっておきますよ。
第五話 カテゴリー
「じゃあ、お疲れさんでした」
代打のバイトが終わり詩乃ちゃんパイセンや他のバイト仲間から一足先に上がらせてもらう。
店を出るときに軽くパイセンに頭を下げると、ひらひらと手を振り返してくれた。
うー、小腹が空いたな。まあ家帰ればなんかあるだろ。
いや、まあそれはいいんだけど。
なんか、すげー見覚えある奴いるな。
「あ、ヒロ~バイトおつかれ~っ!」
うん、あの自販機前で手振ってきてるの木綿季だよね。
こっちに振る手が尻尾に見えてくるな。わんわんユウキ。
「あいあいあんがと。で、どーした、何でここにいるんだ?」
「んー、ちょっと時間ができたからバイトしてるヒロでも見ようかと思って」
「なんだ藍子のお使いで買い物とかか?」
「ちょっと近くで友達と遊んでたんだー。ほら、立花ちゃん。でもなんか途中で彼氏との約束忘れてたって帰っちゃんたんだよー。明日学校でジュースおごってくれるっていうから許すけどさー、でもひどくない?」
「まあ橘さんは自分の気持ちに気づくの遅いからな。わかってやれよ」
「なんか違う人のこと話してない?」
「橘さんだろ」
「まあ立花ちゃんなんだけど……なんだろう、この釈然としない感じ……」
ぶつぶつと呟く木綿季。
「それに、ヒロにオーグマー買ってもらっちゃったし、そのせいでヒロがバイト大変だったり、とか……って」
「ははは、こやつめ」
「わわ、あ、頭なでないでよぉ!」
いいんだよ好きでやってんだから、バイトも配信も。
しかし、友達と遊びに行ってたのか。どうりでいつも家で来ているようなラフな服じゃなくて、ちゃんと私服なわけだ。
少しオーバーサイズのTシャツに、すらりとした足を大胆に見せるショートパンツ。
いつもの赤いリボンはそのままだが、全体的に、なんていうのかな、おしゃれだ。活発な木綿季にはすげえ似合う。
普段は制服とかジャージばっかだからちょっと新鮮だし。
……うん、いやマジで似合うんだけど、ちょっと肌見せすぎじゃね?
肩とかずり落ちてちょっと見えそうになってんじゃん。
これもうちょい何とかならねえかな。
「え、なになに、何で突然ボクのシャツの襟ただし始めたの?」
「……ウム」
「ウムじゃないけど」
「ムウ」
「ムウでもなくて」
だめか、どうやってもちょっと危ない感じにしかならん。
「いやお前のそのオーマフォームみたいなTシャツ何とかできねえかなって」
「変なこと言うのやめてよっ、これ割とお気に入りの服なんだからっ!」
「平成の王の何が不満だと!?」
「称号じゃなくてそれを女子の服に例えるセンスが最悪って話してるの」
「うそだろ。平成始まって以来の驚きだ」
「今は令和だよ」
今は2027年です。
じゃれ合いつつ家への道を歩きはじめる。
照らす日差しは夏らしい強いものでじりじりと肌を焼いてるようでもある。
……ちょっと前に立って俺の影に木綿季が入るようにしとくか。
もともと体だけは丈夫な俺と違って木綿季たちの肌はちょっと心配になるくらい白いからな。
「あ、藍子からメールだ」
「姉ちゃん?」
「うん。ええと、何々……『今日はウチのパパもヒロのお母さんも遅くなるので夕飯は私が作ります』、ああ、メニュー聞かれてるなこれ」
「へー、姉ちゃんが好きなの作ってくれるんだ」
「のぞき込むな、顔近いっつーの」
「けち」
人前でこういうのはよくないんだよ。俺が優しく押しのけてるうちに離れなさい。しまいにはデコピンするぞ。
「夕飯なー、木綿季、なんか希望ある?」
「ええ~、聞かれてるのはヒロなんだからヒロが答えなよ」
「つってもなー、藍子の飯大体うまいし」
「もう、そういう曖昧な態度が姉ちゃん困らせてるんだからね。あんまり鈍いと姉ちゃん可哀そうだよ」
「いやいや俺よりお前たち姉妹のこと分かってるの紺野のおじさんくらいだろ。お前たちの唯一の幼馴染の俺が分からねえことなんてないぞ?」
なんだよその呆れたようなため息は!
「姉ちゃんも報われないなー、これが相手だもんね」
「これっていうなこれって」
「はいはーい」
お前な……て、あれ。
「どうした木綿季、俺の手じっと見つめて。なんかついてた?」
「え? あー、なんもない、よ?」
「ダウト」
「う、嘘じゃないし」
「お前って嘘つく時決まって唇触るよな」
「え、うそ!?」
「うん嘘」
「むーーー」
はっはっは、そんなにほっぺた膨らましても怖くないぞー。
「……ちょっと、思い出してただけ。小さいころはよくこの道を手をつないで歩いてたなーって」
「なっついなー。そこのコンビニでお菓子買って、んでこの先の公園で一口交換してたよな」
「そうそう! 姉ちゃんはあんこのお菓子買って、ふふ、ヒロって夏でもチョコ選ぶからすぐとけて泣いてさー」
「泣いてねえし、それにカードがついてくるお菓子は大体チョコなんだよ。そういうお前だってねるねるねるねばっか買ってたじゃねえか。お前途中で食うの飽きていつも俺が食ってたんだぞ」
「ちゃんと一人で食べることもあったもん!」
「三回に一回くらいだったろ」
「むー、昔のことねちねち言って、ヒロのいじわる」
昔の話を始めたのはお前なんだよなあ。
「ね、ヒロ」
「んー?」
振り向くと、木綿季が手を組んで、ほどいて、俺を見上げる。
「手……」
そして何かを言いかけて、ほにゃりと笑った。
「隣、歩いていい、かな」
なんだそりゃ。当たり前のことをいちいち聞くなよ。
しばらく、二人で並んで歩く。
と言っても木綿季が影に入るようにちょいちょい位置を調整しながらだけど。
昔、友達に「君は過保護すぎ」って言われたけど、身に沁みついちまったものだ。治しようもない。
「最近の緋彩のおばさん忙しそうだね」
「ん。まあなんか最近はなー、最後に顔見たの三日前とかかもしれん」
「パパも最近は忙しそうにしてるんだよね。大事なプロジェクトがーとか」
「仕事かあ。どんなのなんだろうな、やっぱ嫌味な上司とかいんのかな」
「やっぱりいるんじゃないかなあ。パパはあんまりおうちでは愚痴とか言わないからわからないんだけどね」
「へー。俺の母さんも割と我慢強い方だからあんまりなー」
「やっぱ心配されてるんだと思うんだ。ママがいなくなって何年か経つけど、やっぱり、ね」
「……そか。大人は大変だなあ」
「大変だねえ」
仕事、仕事かぁ。
「俺たちも将来母さんたちみたいに仕事で忙しくなったりすんのかね」
「え?」
あん? 何不思議そうな顔してんだよ。
「順当に行ったら後たった六、七年後の話だぞ。まったく、俺は今から憂鬱だよ」
「たった七年って、七年ってかなり先じゃない? なんか夢みたいでピンとこないなあ」
「何言ってんだ。お前らとの七年なんてあっという間だったぞ。木綿季もそーだろ?」
「そりゃ、ヒロといたら息つく暇もなかったけどさ」
「ならこれからだって変わらん変わらん。次の七年だってすぐだよ」
「……そうかも。そうかもなあ」
「だろ。なら夢みてえに遠いことでもねえさ」
そっかぁ、と木綿季が噛みしめるように空を見た。
つられて、空を見る。
「生きていけちゃうんだよね、ボク」
空にはバカでかい雲が浮いている。
すっかり夏の空だ。
「将来何になるかっていうのはすごく魅力的だけど、でもしばらくは配信のことに集中しなきゃね」
「だなー。初回としては成功の部類に入るだろーな」
「今は夜に雑談してるけど、やっぱオリジンもがっつりやりたいし!」
言いつつ、バックから取り出したオーグマーを起動。
拡張された現実は俺の世界を直接インターネットの海へとつなげてくれる。
俺らのチャンネルは、と。
「……増えたなー」
もう俺が一人でやっていたころとは文字通り桁違いだな。収益化だってそろそろ視野に入れていいころだ。
「チャンネルだけじゃなくてSNSの方もすごいよね。通知とかすごい多そう」
「多いぞー、自動通知切ったもん、俺。そのままにしてたらそこそこの頻度でぴろんぴろんいうかんな」
「もー、それでイラついたからってなんか変なこと呟かないでよ。……って、いくらヒロでもそんなことはしないか」
「……ソウダナ」
「えちょっとまって何でカタコトなの。ボクから目をそらしたの。ちょっと詳しく―――」
「お、公園だぞ。よしジュースとか飲むか、藍子には黙っとくから」
「え、ジュース? て、ちょっと物で釣って話そらさないでよっ!」
「まあまあ、カルピス買うから。好きだろ」
「好きだけどさ~」
俺に詰め寄り俺からオーグマーを奪い取ろうとする木綿季の頭を抑えて遠ざけつつ、近くの公園の自販機でジュースを買う。
投げ渡したカルピスのペットボトルを危なげなく木綿季は受け取る。
「ほい契約成立」
「あ、ずるい」
「わはは、藍子には内緒にしといちゃる」
あんまりジュース飲みすぎると藍子に小言を言われるからな。
俺はコーラでいいか。
「よっこいせっ」
「もー、家に帰ったらちゃんと話聞くからね。……横いい?」
「百万円な」
「しつれーしまーす」
木綿季が俺のすぐ隣に尻を落とす。
「なんでこんなに広々スペースあいてんのに真横に座んのよ」
「いーじゃん別に。いつものことでしょ?」
「まあそりゃそうなんだが同じクラスの奴らとかに見られたらどーすんだ」
「毎朝姉ちゃんと三人で一緒に登校してるのに何をいまさら言ってるのさ」
「いや三人ならともかく今二人じゃん……ん、ほれかせよ」
「? なにを?」
「あん? ペットボトル、開けれないだろお前」
「もうヒロのボクのイメージ何時で止まってんのさっ! このくらいボクだってあけれますー!」
ふぎっとキャップを開けた木綿季は、そのままカルピスを一気飲み。
「ああ、こらやめろ一気に飲んだらむせちゃうだろ」
「もー! だからヒロはボクのこと子ども扱いしすぎーっ!」
「いやー、自分より身長20㎝小さいやつだとどうもなー、お前中2からほとんど身長変わんないしさー」
「のびてますー! 今年の身体測定も七ミリ伸びてたもん!」
「ほー、俺は三センチのびてたわ」
「むー、ずるい。ちょっと縮んでよー最近ヒロの顔が遠いんだよー」
「わはは小さきものよ」
ぐいぐいと俺の頭を押して縮めようとする木綿季だが、悲しいかな20センチはそれほど小さい差ではないのだよ。
代わりに頭なでておいてやる。
……にしても20センチか。いつの間にか結構差がついたなあ。
この公園で三人でよく集まってた頃には俺も木綿季も藍子もそんなに身長変わらなかったのにな。
「うっし、飲み終わったーっと」
「えええっ、はやくない?」
「んなもんだろ、ゴミ箱は……ちょい遠いな。届くかな」
「やめといたほうがいいと思うなー。ヒロそーいうのはいったことないじゃん」
「心外すぎる」
一、二回はあるわい。見てろよ。
「ほいっと」
「ほら外れた」
「やーかまし」
けらけらと笑う木綿季に軽くデコピンをかましとく。
……こんなにちいせえ缶ですら、このでかいゴミ箱に入らねえのか。
俺が野球少年でなくてよかったよ、ほれ、ぽいっと。
なんかやたらと空き缶が捨ててあるな。
大方俺みたいな外した奴が捨てていったのだろう。
困ったやつらだ。
代わりに捨てといてやろう。
「よーし、ヒロそこどいてー、ボクも投げるから」
「やめとけやめとけお前が入れたら俺がみじめになる」
「ボクが入れることはあんま疑ってないんだねーっと、ほいさっ」
木綿季がカルピスのボトルをバスケット選手がそうするようなきれいなフォームで投げ入れる。
くるくるとボトルは回転しながら俺の目の前を通過し、すっぽりとゴミ箱の中にイン。
「木綿季選手、2ポイント」
「へっへーん、やったね、ぶいぶい」
「はいはい、じゃあそろそろ帰るぞー」
「えー、もっと褒めてくれてもいいじゃん~」
「かわいいかわいい」
よし、このごみで最後だ。
「もー……ん? ね、ちょっと待ってヒロ」
「なんだー、これ以上俺から褒めの言葉を搾り取ろうってのか」
「違うよ、ほらみてってば」
「いててて、首が曲がる首が」
まったくなんだよ……って、なんだこれゴミ箱の上になにかウインドウ?
「『街の美化にご協力いただきありがとうございます。お礼にお役立ち情報をプレゼント!』。なにこれ」
「ボクに聞かれても。でも、街の美化だから……ヒロのゴミ拾いのことなんじゃない?」
「さっきの空き缶か。それでこのウインドウと」
「たぶん?」
「そんなことあんのか?」
「さあ……?」
首をかしげる木綿季と一緒にゴミがこの上に浮かんだウインドウに目を通す。
えーとなになに。
「「 ソードアート・オリジン秘匿クエスト情報? 」」
その夜、定期的にやっている雑談配信でその話を出してみると。
そりゃ隠しクエってやつダ
地域特有のやーつ
「地域特有の……じゃあこのクエストは完全に俺たちしか知らないってことになんのか?」
「え、大発見じゃん! ゴミ拾いしてよかった!」
「拾ったのは俺だけどな」
きゃいきゃいとはしゃぐユウキの頭に軽いチョップ。
ちょっと面の位置がずれてるか、今のうちに直して、と。
「それでそのクエストはどういう内容なの? 私まだ聞いてなかったよね」
「あー、これだよ、これ」
「なになに……『季節外れの贈り物』? なにこれ」
「俺もわかんね。説明文にもちょびっとフレーバーっぽいテキストとフラグ開始ポイントの地図があるだけだし」
「え、地図もあったんだ。みせてみせてボクも見たい」
「もうユウ膝に乗ったら私が画面が見えないよ」
ユウラン供給助かる
切り抜き確定
団長邪魔だからどいてくれない?
「元は俺のチャンネルなんだよなあ……」
ここ最近はユウキとかランのが人気出ちゃったけどさ。
「ふうん、軽く見る感じ探し物をするクエストなのかな」
「たぶんな。たぶんこの地図の指定ポイントに何かがあって、あとはそれをたどりつつ……か?」
「なんだかあいまいだねえ」
「しゃーねえだろ、こんなの俺も聞いたことねえよ。ゴミ拾って発生するクエストとか……」
リアルとの連携要素はオリジンの特色だナ。喫茶店の食事のオマケでクエスト出るとかは聞いてたんだけどナ
上手くいけば道行く子どもが率先してゴミ拾うようになるのでわ?
俺、今日から毎日ゴミ拾います
「で、どうする? やるか、このクエスト」
「はいはいはーい! ボクやりたーい! 他の人がまだやったことのないクエストとかやらない選択肢ないでしょ!」
「あいあい、お前はそういうだろうな。ランは?」
「んー、私はヒロとユウがやるならもちろんついて行くよ」
「俺に関しても異存はねえぜ。秘匿クエスト、やらいでかって感じだ」
「やたっ」
次もクエスト攻略か
そろそろスパチャ解禁してもええんやで
正統派攻略のユナとは違う方向に行きはじめた
「よーし、じゃあ次の休みはクエストにレッツゴー!」
ばっとユウキが俺と藍子の目の前に手を差し出した。
なんだろう。とりあえず握っとくか。
「もー! そうじゃないよっ! 掛け声だよっ! 今から気合入れよーよ!」
ああ、そういうやつね。それならそうと言っておくれよ、ユウキさんや。
ユウキが出した手の上に俺の手が、さらにその上にランのものが重なる。
いくよ、とユウキが目で合図してくるので軽く頷いてみせる。隣でランもまた同じように首を動かすのが見える。
「えいえいおー!」
「すりーぴーんぐーなーいつ!」
「俺参上ーーー!」
……かけ声は後でちゃんと決めような。
《秘匿クエスト情報》
現実との連携が大きな魅力となるSA:O。
その中には「喫茶店でお茶をする」「公園でゴミ拾いをする」「釣り堀で魚を釣る」と言った日常の中にクエストフラグが隠されていることもある。
誰にでもフラグは発生するわけではなく、「ソードアート・オリジンを遊んでいて」「オーグマーを装着している」時のみにウインドウは発生する。
現在SA:O運営はそのフラグ発生条件の多くを秘匿しており、一部にはそうした秘匿クエストを専門に行うプレイヤーも出てき始めている。
今回ヒロたちが受けられるようになったクエストは「季節外れの贈り物』。
『ヒロ』
現在身長172センチ(成長中)
親が高かったからまだ伸びるんだろうな、と思っている。
『木綿季』
現在身長154センチ(頭打ち気味)
後5センチは欲しい。
『藍子』
現在身長153センチ(同上)
小さいと料理の時高いところにある皿が取れないから不便。