狩人よ、自らの武器を執れ

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万能の武器

 

 

 

 

 

狩人(ハンター)が扱う武器には様々なものがある事は有名だろう。

 

あるものは断ち切り、あるものは吹き鳴らし、あるものは打ち砕き、あるものは焼き焦がし、あるものは撃ち貫き……と言った具合に、実に多様な武器が存在する。それらは概して『役割と目的』が明確であり、少し乱暴な言い方をすれば、その役割に徹してさえいれば大きく狩猟に貢献出来る。

 

 

例えばランス、堅牢に盾を構え最前線に立つ事で攻撃を防ぎ、後に続く者の反撃の起点を作り出す武器。これをもう少し攻撃的にしたものが、砲撃機能を搭載したガンランスだと言えるだろう。

 

例えば狩猟笛、聴く者の心身に働きかける旋律で狩りを支えるだけでなく、その重量と長く伸びた形状から繰り出される打撃の破壊力は、同じ打撃武器のハンマーに勝るとも劣らない。

 

 

この役割・目的、言い換えれば『長所』を十全に発揮する事が出来て初めてハンターは、自らよりも遥かに大きいモンスターに対抗し得る戦力となるのだろう。 しかし、長所が有れば短所も存在するのがこの世の常。

 

 

ランスはその重量故に機動力が大きく削がれる他、幾ら盾があってもモンスターの突進や踏み付けに伴う圧倒的重量には無力だ。

 

狩猟笛は一見すれば支援と攻撃を兼ね備えた武器に思えるが、実の所その二つを両立する事は並みの技量では不可能な上に、旋律を奏でればモンスターの注意を引いてしまうというデメリットもある。

 

 

このように、ハンターが用いる武器は全て強力ではあっても万能ではない。一長一短、また相対するモンスターとの相性によっても良し悪しが変わってしまう。

 

 

……だが、ある時一人のハンターが言った。『我らが持つ武器の中に、たった一つだけ真の万能武器がある』と、『それは我ら全てのハンターが等しく持つ物だ』と。

 

その言葉を聞いたとある若者はその武器を探し求め、同士を募り、あらゆる地を巡り、そうして長い年月を掛けて元いた街に帰還した時、満面の笑みを浮かべて『確かに"それ"はあった。そして"それ"は、確かに多くの狩人が持っている』と言ったらしい。

 

 

はて、そんな代物が実在するのだろうか。それはきっと、数ある与太話の一つなのではないだろうか。

 

 

と、『そんな事を言っている内は、きっと"あれ"は見つからない』という台詞が伝わっている事を、ここに記しておく。

 

 

 

 

 

_____某ギルド職員の手記より

 

 

 

 

 

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此処は遺跡平原。大市場バルバレに程近い、一年を通して温暖な地域だ。平原とは名ばかりの山岳地帯から常に風が吹き下ろし、それがバルバレの方に吹いているものだから『始まりの風芽吹く地』なんて大層な渾名で呼ばれる事もある。

 

その遺跡平原にある、山岳地帯と平原部の丁度繋ぎ目の辺り、蔓草の巻きついた赤いレンガ柱の影に隠れているのが俺だ。背中に担ぐのは鋭い金色に輝く操虫棍『叛逆ノ覇棍 レギオン』、左手にはそれに対応する猟虫の『モナークブルスタッグ』が抱き付いている。

 

少し高台になったそこから下を見下ろすと、今回の討伐対象メインターゲットがのしのしと闊歩している姿がはっきりと見えた。無数の傷が刻まれた小麦色の体表に走る、鮮やかな水縹みずはなだのストライプ模様、発達した大顎と四肢に、対照的にスマートな印象を受けるしなやかな尾。自分に敵など存在しないとでも言いたげに大あくびを零し、悠々と辺りを見渡す轟竜_____ティガレックス。 それが、眼下に存在するモンスターの名。

 

 

「……目標確認。それじゃあ、始めるか」

 

 

身体に走る震えを断ち切るようにレギオンと同じ千刃竜の素材で造られた兜を被り直し、俺は猟虫を飛ばしてから空中に身体を投げ出した。ティガレックスの顔面に体当たりを敢行したブルスタッグが左腕に戻ると同時に、鋭い大顎で鼻先を削られた竜が、目の前に降り立った人間を睥睨する。

 

その大きく裂けた口から『轟竜』の名の由来となった滅茶苦茶な咆哮が飛び出す前に、地面を蹴って後方の崖に飛び降りた。背中を叩く大音量の余波を感じながら操虫棍を展開、岩肌に突き刺して減速し、俺を追い掛け始めたティガレックスが崖に巨体を捻じ込むよりも早く駆け出す。

 

 

「だァァァァ!!!! クソ!怖え!!!!」

 

 

心臓がドラムロールのように鼓動を打つ、背後に感じる重圧に泣き出してしまいそうだ。それでも俺がこんな命懸けの追いかけっこを受けて立つのは、俺の武器が比較的軽量な操虫棍であるが故、況して相方には任せていられないからだ。

 

操虫棍の特長と言えば、内部機構によって圧縮された空気を噴き出す事による跳躍を活かした空中戦もさる事ながら、やはり名は体を表すとも言うように『虫を操る機能』が最も大きい。特殊な方法により改良・調教された猟虫は、音に反応してハンターと連携する攻撃手段である他、攻撃の際にモンスターから採取したエキスを使って様々な恩恵を与えられる力を持つ。

 

体内に一時的に蓄えられた後に霧状に散布されるエキスを吸い込む事で、ハンターは身体機能を向上させ、より素早い連撃を繰り出し、またより高く跳べるようになる。…………と、此処までは操虫棍の利点だ。

 

エキスの効果時間はごく短い上に、摂取していない状態では戦力として他の武器種に劣る。では空中戦はどうかと言えば、これもよく隙を見て使わなければ弾き落とされて終わりだ。こんな具合にとにかく扱いが難しい、訓練所でこの武器を握った自分を恨んだ事も一度や二度ではない。

 

その上身軽、……というよりも軽量な所為でこう言った誘導の役を請け負う事も多く、尚且つ決定力にもかける為に大剣やハンマーなどの重量級武器に比べて総じて地味だ。きらきらと眩しい千刃竜の装備を用いているのは、少しでも目立ちたいという打算的な部分もある。

 

半分ほど不純な動機で選んだ装備の背中に、轟竜の大音声がぶち当たった。地面の揺れが少しずつ近付いてくる、背中に冷や汗、全身に鳥肌が立つ。遺跡の残骸や樹木を玩具か何かのようにぶち壊しながら猛追する姿を想像して目の前が暗くなる思いだった。

 

 

「あぁクソ!もうちょっと加減しろよ大声野郎ッ!!!!」

 

 

恨み言を吐き捨てながら、最初の一撃で猟虫に採取させた『白』と呼ばれるエキスで強化された脚力で地面を蹴り飛ばし、一際大きな崖を飛び越えて平原部に飛び出す。次の瞬間、すぐ後ろに迫っていたティガレックスの身体に、無数の弾丸が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

遺跡平原と呼ばれるだだっ広い金色の草原、その只中にぽつんと存在する岩陰にいるのが儂だった。蹲み込んで影に収めた右腕に抱えるのは、角竜の素材をふんだんに使用したヘビィボウガンの『モラクディアーカ』、全身を同じく角竜の素材で構成された防具で包んでいる。

 

双眼鏡をキャップに押し当てて遠く離れた山岳部を観察している内に、その中程に生えた木々が大きく派手に揺れ動くのが見えた。爆走するティガレックスに追い掛けられる、見慣れた黄金色の鎧、追うものと追われるものが木立の隙間を縫うように此方に向かって徐々に降りてくる。相変わらず身体を動かすのが上手いようで、両者の間にはほぼ一定の間隔が空いていた。

 

 

「……っし、やるか」

 

 

愛銃にポーチから取り出した弾丸を装填し、あらかじめ決めておいたポイントに素早く移動。双眼鏡で揺れる木々の位置を確認すれば……、平原に出るまではもう少し時間がかかるだろう。足元の砂を宙に放り捨てて風向きを確認し、しゃがみ撃ちの体勢をとった。

 

儂がこんな形で相方をじっと待っているのは、一重にヘビィボウガンがああいった誘導には向かないからだ。遠距離から連続で高威力の弾丸を叩き込み、その場で身体を固定するしゃがみ撃ちの姿勢を取れば、高い安定性と連射性を両立させる事も出来る武器種。しかしこれらの強みは全て、裏返せば『鈍重でフットワークに欠ける』という弱点になる。

 

狩猟において、足が遅いというのはそれだけで致命的な弱点だ。他なら避けられる攻撃を避けられず、また盾を用いたり、武器そのものを盾として攻撃を防ぐ事も、複雑な機構を搭載しているボウガンには土台無理な話だ。『シールド』というオプションを付ける事もあるが、精々が石礫を防いで射撃を安定させる程度、攻撃を防ぐ事など不可能に近い。

 

加えて幾ら高威力とは言っても、骨や木の実を加工して作られた弾丸は鱗を飛ばし、甲殻を削り、肉を浅く抉るのが精一杯で、命を奪うには相当な数を撃ち込まなければならない。その点に於いては同じように複雑な機構を持つ武器種でも、スラッシュアックスやチャージアックスを使った方がよっぽど良いだろう。

 

総じて、これは堅実だが図体の割に地味な武器と言える。勿論ヘビィボウガンを訓練所で選んだ事に後悔は無く、またこの武器を担いで多くの依頼を成功させてきた事は儂の誇りだ。

 

しかし……それはそれとして、他の武器種が羨ましく見える時もある、というのが正直なところ。実際儂が角竜の装備を身に付けているのは、左肩から大きく伸びる角竜の角を象った装飾がカッコ良くてよく目立つからだ。折角ならば目立ちたい。

 

 

「!」

 

 

そうこうして待つ内に、木々の隙間から崖を越えて相方が跳び出した。予定通りにティガレックスを連れている。彼のすぐ後ろに迫っていた大口に向かって、貫通弾を3発撃ち込む。意識外からの攻撃に一瞬怯むが、そこは流石『絶対強者』 頭を揺らして突き刺さった弾丸を振り落とすと、振り上げた前脚を相方に振り下ろした。

 

 

「ラァァァァァァズゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

無論、黙って踏み潰される儂の相方ではない。元気良くこちらの名を叫びながら走り始め、その後ろを再度追いかけ始めたティガレックスに儂が弾丸を叩き込み続ける。

 

 

「シファァァァァルゥゥゥゥゥ!!!!

 そのまま来ォォォォォォォい!!!!」

 

 

ずどん、ずどん、ずどん、とロングバレルの先が火を噴く度に風を切って貫通弾が飛んでいき、轟竜の体表を削り取っていく。厚い皮と硬く強靭な筋肉を貫くには至らないが、僅かに吹き出した血飛沫が陽光に照らされて光っていた。

 

ティガレックスが焦れたようにそのスピードを上げる、どんどんと儂との距離が縮む。恐らくエキスの効果が切れたのであろうシファルが徐々に遅れ始め、あと数センチで鋭い爪がその背中に届くかというタイミングで、突如ティガレックスの巨体が()()()()()()()

驚愕の声を上げた奴が穴から抜け出そうと暴れるが、おいそれと抜け出せるようなお粗末な罠は使っていない。

 

その正体は『落とし穴』、ハンターが時折使用する簡易罠だ。設置する事で小さな爆発を起こし、大型モンスターでも半身が埋まる程の穴を掘ってから粘着性のある網で蓋をする機器一式で、多少の重量ならば支えられるが、一定以上の重さが真っ直ぐに掛かると…………今のようにずぼん!と穴に嵌る上、ネットが絡まって簡単には抜け出せなくなる仕組みになっている。

 

両前脚を振り乱すティガレックスを他所に相方が砂色の布を掛けて隠してあった大タル爆弾を二つ並べ、大急ぎで離れてから此方に手を振る。奴がネットを引き千切るよりも早く風向きをもう一度確認し、スコープを覗き込んだ。距離とモラクディアーカの癖、風向きと弾種を考慮に入れ、思考時間はきっかり二秒。

 

 

「吹っ飛べ」

 

 

トリガーを引いた一瞬後、視界を染め上げる閃光と共に、爆発音が辺りに鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃ遅かったの、シファル」

「五月蝿いぞラーズ、お前の言う通り怪我なく戻って来たんだからそれで良いだろ」

「うむ、怪我なんぞないのが一番じゃ!」

「五月蝿いし背中を叩くな、まだ終わってないぞ」

 

 

朦々と立ち込める黒煙を眺めながら軽口を叩き合っていた二人の内、操虫棍を背負った男が顎をしゃくった。その先でぶわりと黒煙が吹き飛び、巨体のあちこちを黒く焦がしたティガレックスの姿が露わになる。驚くべき事に、あれだけの大爆発を受けて弱るどころか、鱗が剥げている部分すらない。

 

 

「……丈夫じゃのう、流石は"G級"個体……」

「アレだけやって効いてない訳あるかよ、いつも通り二人で叩くぞ」

「了解、やるぞシファル!!」

「ああ、任せろッ!!」

 

 

二人が言うが早いか、モラクディアーカから無数の銃弾が吐き出され、レギオンの指示に従ってモナークブルスタッグが翔んだ。

 

 

 

______ゴルアアァァァァァアアアアアアッッッ!!!!!!!!

 

 

 

ティガレックスの威嚇の咆哮が轟き、金色の狩人が棍を地面に突き立てて勢いよく宙に跳び上がる。空中高く飛び上がった周りを二、三度猟虫が飛び回ったかと思えば、微かに赤い飛沫の煌めきが散らばる。

 

複雑かつ流麗な軌道を描きやがて振り下ろされるその刃は、紫電となって遺跡平原の空に瞬いた。

 

 

 

 

 

…………この狩猟が如何なる結果を迎えたのかは別として、あの二人の狩人の相性はすこぶる良い。

 

軽妙な連撃を主とする操虫棍と弾丸を大量に撃ち出すヘビィボウガン、互いが互いに、相手が攻撃を加えた部分に追撃を加えられるならば、そこいらの重量級武器よりも遥かに手際良く皮を貫き、鱗を剥ぎ、甲殻を砕く事が出来る上に、逆に手数に磨きをかけてモンスターを翻弄し続け、大きく疲弊させる事も十分可能だろう。

 

一人一人は地味だろうと、二人合わされば大きな……分かり易く言うならば『派手な』戦果を上げられる。あの目立ちたがりなハンター達が二人組で活動を始めたのは、実はそういう経緯があったりする。

 

 

これは何も、あの二人に限った話では無い。結局のところ一人のハンター、一人の武器で出来る事などごく僅かに限られる。大剣は俊敏さで片手剣に勝てず、片手剣は堅牢さでランスに劣る。ランスは多彩さでチャージアックスに劣り、チャージアックスは明快さでハンマーに追い付けない。

 

隣の芝は青く、自らが持たない物が輝き、手元のこんがり肉より向こうのモスジャーキーの方が美味しそうに見えるものだ。皆が皆補い合って、初めて成り立つ物事は少なくない。それは狩猟であり、生活であり、人生だ。

 

だからこそハンター達は等しく"あれ"を持つ。平等で有り触れていて、しかし得難い、そんな最前にして不滅の『万能武器』

 

 

彼らはきっと、それを『』と呼ぶのだ。

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

「それじゃあ、依頼達成を祝って〜……!」

「「乾杯!!」」

 

 

 

 

 









初めましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは、疾風怒号です。近頃はめっきり冷え込んでホットドリンクが欲しい季節になってしまいましたね。

この短編小説は、Twitterにてせと。(@kura_tong)様主催の『#モンハン愛をカタチに。Advend Calender 2020』に参加する上で書かせて頂いたものとなっています。

万年大剣・太刀ぶんぶんの私ですが、この世には多くのハンターがいて、それぞれに得意な武器があり、そのそれぞれの武器に役割がある。タイトルと矛盾するようですが、『真に万能の武器、ハンターなど存在する筈もない』という考えをこうして小説という形で書き上げました。

またこの小説全体のモチーフとして、作者がシリーズで最も思い出深い『Monster Hunter 4』のOP、及びメインテーマ『旅立ちの風』があります、その辺りの雰囲気も感じて頂ければ幸いです。



素晴らしい企画を主催・運営してくださったせと。様、製作に協力して下さったゾディス様、多くの協力者諸氏、この短編を開いて下さった全ての読者に最大金冠級の感謝を。

そして、全ての狩人に輝かしい明日があらん事を!





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