ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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※作者の知識はルルーシュ、R2、亡国のアキトまでです。


病弱でアルビノな忍者の娘

 吹き抜けた春風が木の葉を揺らす。

 静寂に包まれた世界に小さな揺らぎは自然と収束し、何事もなかったように消えていく──かに思えた、刹那。

 消えかけた揺らぎが突然息を吹き返したように、木立ちの一本が「がさり」と音を立てた。

 森の中。

 木々の間隔が比較的広い自然のスペースに向け、飛び出したのは一人の黒装束。

 

「──隙あり」

 

 右手の苦無が陽光によってぎらりと輝く。

 囁くような声は、忍びの者独自の発声法によって明瞭に響いた。

 当然、声は標的にも届く。

 しかし、行く手に立つ標的──簡素な着物を纏った年若い少女は黒装束に背を向けたまま、びくりと身を震わせることさえしなかった。

 聞こえなかったのか、驚き過ぎて動けないのか、いずれにせよ隙は十分、最初に飛び出した一人に続き、周囲の木立ちからは次々に仲間が飛び出しており、最早どう対処しようと逆転は不可能。

 

 影に生き、暗殺を生業とする者達にとって奇襲は十八番。

 声をかけた以上、成功は必定。

 ()()()()襲撃者の判断に間違いはなかった。

 

「甘い」

 

 平時であれば愛嬌を感じさせるであろう声が、今は強烈な冷たさをもって一帯に響いた。

 少女は烈風の速さで振り返ると同時に跳躍。

 鋭い視線が敵を射抜く。

 

「な──!?」

 

 驚愕しながらも得物を投擲、すぐさま予備を引き抜いた黒装束もさすがと言うべきだろう。

 勢いを殺さぬままに身を捻り、かわした苦無を掴んで投げ返してみせた少女の方が、一枚も二枚も上手ではあったが。

 最初の黒装束が飛来する苦無を叩き落とした時点で形勢は逆転。

 少女は接近と同時に相手の股間を蹴り上げて無力化すると、こぼれ落ちた苦無を奪取、空中に留まったまま、悶絶する男の身体を支柱に半回転、飛び道具に対する盾を作った。

 

「ええい、平蔵めしくじりおって」

「かかれ。立て直す間を与えずに攻め立てるのだ」

「───」

 

 近くの木の幹に飛びつき、足場として再度跳躍した少女は、僅かなタイムラグを交えて襲い掛かってくる残りの黒装束達に向け、再びその身を飛び込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 天然の訓練場である森を抜けた少女は、ふう、と息を吐いて空を見上げた。

 視線の先に浮かんでいるのは美しい夕焼け。

 

「思ったより遅くなっちゃった」

 

 年上の男達大勢からえんえんと攻められ続けるという稽古は厳しい上、終了時間が計りにくい。少女か男達、どちらかが精魂尽き果てるまで終わらないものだから、全員から立つ気力を奪うのに難儀してしまった。

 そのうえ、年下の女の子にこてんぱんにされた男達ときたら「さすがはお嬢様」「これなら篠崎流も安泰だ」「でも、お相手になる方は大変だな」と聞き飽きたような賛辞を次々と送ってくる始末。そんな元気があるなら戦いに活かせと言いたかったが、これ以上、稽古が長引くのは勘弁だったので何も言わずその場を辞した。

 

 代々続く忍者(しのび)の家系に生まれ、家の名を冠する「篠崎(しのざき)流」の次期継承者として平日は学校から帰ってから、休日はまる一日稽古漬けの生活を送る少女だが、一日のノルマをこなしさえすれば後は自由にしていいと、現当主である父から許しを得ている。

 よって、ここからは自由時間。

 夕餉まではほんのひと時といったところだが、時間の長さは関係ない。稽古終わりに彼女が向かうところといえば一つしかなかった。

 

「お帰りなさいませ、咲世子(さよこ)様」

「ただいま。あの子は部屋にいますか?」

 

 少女──咲世子の家は大きな日本屋敷だ。

 玄関で靴を脱ぎながら使用人に問うと、返ってきた答えは少し予想と違っていた。

 

百合(ゆり)様はたった今、浴場へ向かわれたところでございます」

「そうですか」

「咲世子様も入浴になさいますか?」

「はい」

 

 幼少期から世話をしてくれている彼女は少し楽しそうに「かしこまりました」と応え、手早く入浴の準備を始めてくれた。というか、既に準備が始まっていたようにも見える。なんというか有難い話である。

 急いだ甲斐もあって、咲世子が脱衣所で服を脱ぎ終え、浴場へと入ったのは想い人が湯に浸かる直前だった。

 

「百合。一緒に入ってもいいかしら」

「姉さま」

 

 十歳という年齢相応以上に細い足を熱い湯に浸けようとしていた少女は、ぺたん、と石の床に足を下ろすとゆっくり振り返った。

 咲世子を視認すると小さな唇が笑みの形に変わる。

 

「もちろん、ご一緒いたしましょう」

 

 快諾を得た咲世子は異性からのどんな告白よりも胸がときめくのを感じながら、百合との距離を一歩詰める。

 と。

 どういうわけか、こくんと頷いたばかりの百合が困ったように眉をひそめ「でも」と言う。

 

「お互い裸ですので、少し恥ずかしいです」

「恥ずかしがることないでしょう。女同士だし、姉妹なんだから」

 

 一緒の入浴について抵抗を口にされるのはこれが初めてだった。

 百合もそういう年頃になったのか、と寂しく思いながら、咲世子は断固として姉妹のスキンシップを続けようと心に決める。

 それらしい理由をつけて説得するのも百合に積極的になってもらうためだ。

 一歩、二歩、警戒心を持たれないようゆっくりと歩き、彼我の距離をほぼゼロに縮めると、細くか弱い少女の手を取って入浴を促す。

 

「で、ですが姉さま」

「湯気も立っているし、良くは見えないでしょう?」

「それはそうですが」

 

 意外にも説得は難航した。

 異性ならともかく同性なのだから実際問題、そこまで恥ずかしがらなくてもいいと思うのだが。ひょっとして、足を滑らせないよう支えてあげる際、後ろから抱きしめたのが原因だろうか。

 

「どうしたの、急に恥ずかしいだなんて」

 

 小さな身体を湯船に肩まで沈めた後、洗い場に移動しながら尋ねる。

 少し遅れておずおずと返ってきたのは、

 

「その、夢を見たのです」

「夢、って、いつもの?」

「はい。ですが、今回の夢はいつもと内容が違いました。それに、より鮮明で……私は、夢の中で、成人した男性と一つになって」

「な、何を言いだすの」

 

 咲世子は慌てた。十歳の少女が大人の男性と一つになるなど、あまりにも破廉恥が過ぎる。

 

「い、いえ、そういう意味ではありません。ただ、魂というか存在そのものが重なるような感覚を味わったということで……」

「あ、ああ。そういうこと……。それで、自分が自分じゃないような感じがして、私とお風呂に入るのが恥ずかしかった?」

「はい……そうです」

 

 言っていて恥ずかしくなったのか、百合の声は最終的に消え入りそうなほど小さくなっていた。

 とはいえ咲世子には笑う気も咎める気もない。

 幼少期にはありがちなことだし、そういう可愛らしい理由なら反抗期よりもずっといい。

 

「大丈夫。あなたは私の大切な妹。それは変わらないから」

「ありがとうございます、姉さま」

 

 汗をかいた身体を丁寧に洗い、湯に浸かる。

 百合は咲世子が入ってくるのを待っていてくれた。のぼせてしまわないかと思ったが、案外平気そうだ。いつの間にか肩までしっかり浸かるのではなく胸のあたりから上を出しており、そのせいもあるかもしれない。

 後ろから抱きしめるようにして小さな身体を持ち上げ、白く細やかな髪を梳く。

 

 五歳離れた腹違いの妹は特別な存在だ。

 純血の日本人でありながら髪も肌も透き通るように白く。先天的に色素の薄い体質であるのが原因らしい。そのせいで日焼けに弱く、病気がちであるため外で遊ぶことも学校に通うこともできない。

 生まれた時から家の中で育てられた彼女は「篠崎流を会得させるには不適格」として「代わりの教育」を施されている。

 歳が違うせいで座学さえ共にできないため、会うことができるのは一日のうちのほんの僅かな時間しかない。

 

 家人の中には疫病神だの呪われた子だのと言って嫌う者もいるが、咲世子は百合を愛している。

 小さくてか弱くて、どこか西洋のお姫様のようなところのあるこの妹に少しでも幸せになって欲しい、彼女が健やかに成長できるよう守ってやりたいと、そう願っている。

 だから、自由時間はこうして百合と会い、話をする。

 そうすることで咲世子自身も心安らぐことができるのだった。

 

「あの、姉さま。質問があるのですが」

「なあに?」

 

 また、百合は聡明な子だ。

 話をしていると「この歳でそんなことを?」と驚かされることも多い。

 答えるのに苦労するような疑問を投げかけてくるので咲世子自身の勉強にも──。

 

「主に神聖ブリタニア帝国で開発されているKMF(ナイトメアフレーム)は現在第何世代まで進んでいるのかご存じですか?」

「……え?」

 

 訂正。

 百合の話についていくには咲世子の側にもっと勉強が必要かもしれない。

 咲世子は愛する妹の評価を更に上方修正しつつ、どう答えたものかと頭を悩ませることになった。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 転生した先はコードギアス世界の日本人でアルビノの女の子だった。

 

 十歳のある日、前世の記憶を完全に取り戻した俺こと篠崎(しのざき)百合(ゆり)はしばらくの間、右も左もわからない状況に途方に暮れることになった。

 使用人や家庭教師にあれこれ質問をしたりしているうちに百合の記憶と俺の記憶の整合性が取れ、ある程度のことは理解できたのだが──率直に言って、俺は近い将来死ぬかもしれない。

 

 順を追って説明しよう。

 『コードギアス』は地球に似た世界を舞台にした近未来SFロボットアニメだ。

 外伝がいろいろあったり媒体によって設定が違ったりしてややこしいが、とりあえず言えることは、この世界における日本は今から数年後に滅ぶ。

 何故なら大元となるテレビアニメ作品が「他国の侵略によって日本が植民地となって七年後」から始まるからだ。

 

 主人公はルルーシュという少年。

 彼は日本を占領した『神聖ブリタニア帝国』という国の王位継承者の一人、つまりは皇子様なのだが、なんやかんやあって両親から見捨てられ、日本の地で戦争を経験する。

 戦争から七年後、元の身分を捨てブリタニアの平民として、ブリタニアの植民地『エリア11』となった日本で学生をしていたのだが、なんやかんやあって『C.C.(シーツー)』と名乗る謎の少女と出会い、謎の力『ギアス』を得て祖国への復讐、そのための日本解放へと乗り出していく。

 

 というわけで。

 この日本は何もしないでいるとほぼ確実に戦火に飲まれ、神聖ブリタニア帝国の植民地になってしまう。

 一応、アニメの通りなら虐殺に次ぐ虐殺、戦いに次ぐ戦いの末にルルーシュが希望を繋ぎ、日本には平和が訪れるのだが、そこに至るまでには数多くの日本人が死ぬ。具体的に言うとストーリー中盤の一イベントだけで十万人くらいさくっと死ぬ。

 いや、うん、生き残れる気がしない。

 染色体異常のアルビノで常人並の戦闘能力さえ覚束ない百合の身体では、そもそも最初のブリタニア侵攻の時点であっさり死にかねない。

 正直、この事実に気付いた時には自分の正気を疑ったし、まだ半信半疑だが、いくつかの独特のワード(神聖ブリタニア帝国とか)を確認できてしまったのでほぼ間違いない。

 

 ──生き残るためには介入するしかない。

 

 もちろん、百歩譲ってこの世界がコードギアスの世界だとして、原作通りに進む保証はないのだが、もし原作通りだったとしたら確実に日本が滅びるわけで。

 原作通りに進まないならそれでいい、原作通りに進んでしまった時のために手を打っておくのは悪いことではない。

 

 幸い、俺のすぐ傍には原作キャラが存在した。

 

 俺、篠崎百合の実家である篠崎家の長女、篠崎咲世子。

 彼女は原作において主人公ルルーシュと妹ナナリーの世話をするメイドであり、その正体はくノ一っぽい服装で苦無や爆薬を駆使し、作中トップクラスの戦闘能力を誇るSP(自称)──まあ、要するに忍者メイドである。

 今は原作の時間軸より前なのでメイドにはなっておらず、それどころか家を継いでもおらず先代が健在なのだが、実際に会った彼女には確かにキャラの面影があった。

 まあ、初めて会ったのが風呂で、しかもお互い全裸だったのには内心すごく焦ったが。

 百合の中には段階的に俺の記憶、そしてそれに纏わる知識が蘇っており、それらを夢として知覚していたので、夢で見たと言って誤魔化すことができた。

 

 年頃の女の子である咲世子の裸は前世で男だった俺には正直目の毒だったが、妹として愛情深く接してくれる彼女を邪険にすることもできなかった。

 仕方なく咲世子とのスキンシップを受け入れた俺は、咲世子の年齢から今の時代を原作開始から九~十年前と判断した。

 開戦が原作開始七年前なので猶予は二、三年。

 思ったよりは余裕があるが、何しろ事は国家レベル、政治レベルの事件だ。ちょこちょこっと介入した程度では何も変わらない。

 できる限りのことをできるうちにやっていくしかない。

 

「主に神聖ブリタニア帝国で開発されているKMF(ナイトメアフレーム)は現在第何世代まで進んでいるのかご存じですか?」

 

 手始めに、俺は現在の技術レベルを確認しようと、姉である咲世子に軽い質問をぶつけた。

 すると「何を言ってるんだこいつ」という顔をされた。その程度の情報は当たり前だったか。さすがは忍者だ。

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