ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「扇要です! 前は学校の先生をしていました!」
今、俺の前には一人の男が気を付けをして立っていた。
対する俺は余所行きのワンピースを着て机を前に座っている。机の上には履歴書的なものがあり、いわゆる面接の体裁が整っている。
男の名前は本人が言った通り。
旧日本人の成人男性で、髪はパンチパーマ気味。文化の違いかお金の問題か、着ているのはスーツではなくカジュアルな私服だったが、原作でトレードマークだったバンダナ(鉢巻?)は着けてない。
扇要は原作にて旧日本人による反ブリタニア勢力──レジスタンスのリーダーを務めていた男だ。
もともとのリーダーは紅月カレンの兄だったが、彼が行方不明になったため、なし崩し的にリーダーになった。
悪人ではないものの、致命的なほどリーダーに向いていない人物だ。
ルルーシュ扮する謎の人物『ゼロ』を信じて反ブリタニア勢力『黒の騎士団』のメンバーになったものの、正体不明のゼロを信用しきれず、記憶喪失になったブリタニアの女軍人を匿って恋仲になってみたり、記憶が戻って軍に復帰した彼女を仕事そっちのけで追ってみたり、敵の重要人物から「ゼロが裏切っている」と言われて反旗を翻したり、挙句、例の女を孕ませ結婚した上にちゃっかり日本の首相に収まった男である。
そのため、原作ファンでも「扇要は嫌い」という人間は多い。
正直、俺もあまり好きではないのだが、原作における重要人物の一人だし、何より、環境次第では大活躍できるキャラクターだと思う。
流されるまま組織の重要人物なんかを務めた彼の自業自得ともいえるが。
「扇要さんですね。今回は、事務作業員としてのご応募でよろしいですか?」
「はい!」
そんな扇がどうして俺の面接を受けているかというと、俺が立ち上げるゲーム会社の求人に応募してきたからだった。
たぶん、既にカレン兄と一緒にレジスタンスをやっているとは思うのだが。
レジスタンスだけでは生活費が稼げないので表の仕事を欲したのか、それとも東京租界を出歩く口実が欲しかったのか。
応募者はできるだけ俺自身が面接しているものの、まさか扇が来るとは思っていなかったので名前を見た時は驚いた。
まあ、原作キャラであろうとそうでなかろうと、従業員になるために応募してきたからには必要か、必要でないかで判断する。
「まず最初に確認しておきたいのですが、我が社での雇用の条件として『名誉ブリタニア人としての登録』を義務付けております。こちらは問題ないでしょうか?」
「……それは、どうしてですか?」
「信用の問題です」
やや声音を落として尋ねてくる扇へ静かに答える。
「名誉ブリタニア人として登録されている、ということは、ある程度の経済力をお持ちであり、また最低限の人格を保証されているということです。会社の資金や、あるいは開発途中のデータを盗まれるようなことがあれば損害は免れませんから、必要な保険かと思います」
「俺達、日本人が信用できないってことですか?」
「そこまでは申し上げておりません。登録されている方と登録されていない方、どちらが信用できるかを考えれば前者になる、というだけの話です」
資格を持っている人間と持っていない人間、と言い換えてもいい。
「……あなた方としても、ブリタニア人である私を無条件で信用はできないでしょう?」
「………」
微笑んで尋ねると、扇ははっとした顔で黙り込んだ。
日本人がブリタニアを憎むのは当たり前だ。国を奪われた上、首相まで殺された(ように見える)のだ。
扇は気を取り直したように俺を見て尋ねてくる。
「じゃあ、どうしてわざわざ日本人を雇うんです?」
「ブリタニア人を雇うよりも人件費が安く抑えられるから。別の視点があった方が色々な意見をゲームに取り入れられるから。……何より、お金というのはある人のところよりない人のところに行くべきだと思うからです」
「ボランティアのつもりだと?」
「そうではありません。お金儲けをするつもりは大いにあります。……ただ、そのために役に立ってくださるのならブリタニア人でも旧日本人でも構いませんし、うちで働いた給料を社員の方がどう使うかはその方達の勝手だと思っています」
登録していない『イレブン』に食料を与えたり、あるいはレジスタンスの資金の足しにしても、だ。
俺の答えに、扇は少し考えてから答えた。
「雇っていただけるなら、名誉ブリタニア人になる覚悟はあります」
俺は更に幾つかの質問を投げかけた上で決定を下した。
「では、扇要さん。あなたを採用します」
◆ ◆ ◆
「カレンさん」
「ん……ああ、義姉さん」
キッチンの使用人からおやつ代わりの焼き菓子をもらった帰り道、自分を呼び留める可愛らしい声に、カレン・シュタットフェルトは立ち止まった。
振り返ると、そこにいたのはカレンより身長の低い義姉。
相変わらず、その気になれば簡単に押し倒せそうだ、と思いながら彼女に尋ねる。
「何か用?」
「少しお伺いしたいことがあるんですが、良いでしょうか?」
「まあ、歩きながらで良ければ」
「いえ、どちらかというとカレンさんの部屋が良いです」
「?」
よくわからなかったが、まあいいかと思い、カレンは了承を返した。
「わかった」
歩き出すとリリィは静かに後をついてくる。
歩幅が違うせいかちょこちょこと追い付いてくるのがちょっと面白い。
思えば、以前に比べると良好な関係になったものである。といっても義姉の態度はずっと変わっておらず、カレンの方が一方的に毛嫌いしていたのだが。
邪険にしても無駄だと気づき、また、彼女が日本人にも親切だということを知ってからは少しずつ話すようになった。
どうせ暇なのだから話し相手くらい居てもいい。
養母はもちろん、父や使用人達とも慣れ合う気はしないが、この小さな義姉は悪意を向けてこないので付き合いやすい。
「学校には行っていますか?」
「義姉さんなら知ってるんじゃないの?」
「ええ、まあ、一応」
質問に質問で返すと、リリィは苦笑しつつ頷いた。
カレンはアッシュフォード学園の中等部に籍を置いてはいるものの、病弱という設定を使い、実際にはほとんど登校していない。
面倒くさいから、というのもあるが、大元の理由は「ブリタニア人ばっかりで息が詰まるから」だ。
「私がこんなですから、病弱だと言っても皆さん信じますよね」
「義姉さんもたまには役に立つね」
「役に立ったのなら嬉しいです」
カレンと違って可能な限り登校し、更には生徒会長を務め、かと思えば起業してゲームを作り、婚約者の相手や中等部との交流まで義姉は明らかに何かおかしい。無理しすぎては風邪をひいて寝込んでいるので、たぶん秀才のフリをした底抜けの馬鹿なのだろう。
「で、話って?」
部屋についたところで切り出せば、リリィはゆっくり窓際に歩み寄り、外を確認してから言ってきた。
「扇要さんという方を知っていますか?」
「扇さん? ああ、それなら……」
意味ありげな間を置いた割にあっさりとした質問だった。
普通に頷きかけてから、カレンは硬直した。義姉には「新しい妹」としか紹介されていないはずだが。
「
「はい。別段、隠すようなことでもないでしょう?」
「……誰にも言ってないでしょうね?」
「言いませんよ、そんなこと」
返答を聞いてほっと息が漏れた。
実際問題、隠しても仕方のないことではある。父がいない時の養母は割と露骨にカレンに嫌味を言ってくる。使用人はともかく、リリィは気づくだろう。
そして、この義姉はカレンの出自を知っても全く態度を変えていない。
「うちの会社に応募があったので採用したのですが、学校の先生だったそうなので、もしかしたらお知り合いかと」
「日本人が何人いると思ってるのよ……。まあ、知ってるけど」
「奇遇ですね。もしかして恋仲とか?」
「違うわよ。兄の友人」
「お兄様は今どちらに?」
「さあね。親もいないし、好きにやってるんじゃない?」
「元気なんですね」
嬉しそうに微笑むリリィ。
「家族は大切にした方がいいと思います。失ってから大事だったと気づいても遅いですから」
「……そうね」
リリィは元孤児だという。
孤児といっても色々いる。物心つく前に親に捨てられた者、何かの理由で両親が死に行くところのなくなった者。どういう経緯でシュタットフェルト家に引き取られたのかは聞いていないが、後者であれば幼少期に親を失っていることになる。
経験者の言葉は重い。
カレンだって戦争のごたごたで失った友人がいる。それこそ孤児になった子供も目の当たりにした。
「ねえ。例えばあんたの会社でもう一人雇ってもらえたりするわけ?」
カレンの兄・ナオトは反ブリタニアのレジスタンスに所属している。
扇要も同じ組織の一員だ。二人揃って「お前には普通の暮らしをして欲しい」の一点張りで手伝わせてくれないのが不満だが、もちろん尊敬はしている。
扇がリリィの会社に入ったのも何かの目的があるからだろう。
身分を手に入れ、定期的な収入があれば、できることも増えてくる。
だから、悪くないアイデアだと思ったのだが、
「採用するかしないかは、会社に必要な人材かどうか、それ次第ですね」
「家族を大事にしろって言ったのはあんたでしょうが」
しっかりしているというか、ちゃっかりしているというか。
抜け目ない義姉の返答にカレンは苦笑しながら文句を言ったのだった。
◆ ◆ ◆
カレンに確認したところ、兄のナオトはまだ生きているらしい。
なら、こっちからスカウトしても良いかと思ったが、止めておくことにした。
カレン経由で話を持っていくにしても怪しまれそうな気がするし、彼は扇がなる前のリーダーだったはずだ。
指導者が名誉ブリタニア人かつ、ブリタニアの企業の下働きでは他の者がついてこないかもしれない。忙しい身の上だろうし、彼はなかなか優秀な人材だった節がある。下手にレジスタンス活動を停滞させたりすると後の反抗に支障をきたすかもしれない。
そんな感じで、俺のゲーム会社はスタートした。
初期メンバーはブリタニア人の精鋭三人+旧日本人が数名。東京租界の中にある小さなビルのワンフロアを借りてオフィスを構えた。弱小ソフトハウスとしてはちょっと規模が大きいかもしれない。
とはいえ、旧日本人のメンバーもなかなか粒ぞろいだと思う。
雑用係の扇以外は絵が描ける者や文章が書ける者などクリエイター色の強い人間を中心に集めた。新しいものを作りたい、という熱意に溢れた若者達だ。きっといいものを作ってくれると思う。
俺は社長だが、基本的に現場には居ない形になる。
肩書きだけデカイ奴が普段から居座っていたらスタッフも集中できないだろうし、そもそも学生なので平日昼間は予定が埋まっている。
代わりに現場を仕切ってくれる人間としてブリタニア人のスタッフを揃えた。うち一人は父の伝手で来てもらったマネジメントに長けた人だ。なるべく人種差別意識の薄い人間を選んだので上手いこと回ってくれると思いたい。
作業進捗や起こったトラブルなどは幹部扱いであるブリタニア人スタッフからレポートを上げてもらい、毎日それをチェックする。遠慮なく意見は言うつもりだが、社長としての強権を発動するよりは現場の意見を尊重したい。じゃないと完全に前世で見た作品のパクリになりそうだし。
ひとまず目指すは黒字。
安定してプラス収支を出しつつ、ちょっとずつ事業拡大できるくらい儲かればいいと思う。
欲を言うならもちろんどーんと儲かって欲しい。事業開始にあたって養父から融資してもらったので、その分は色をつけて返さないといけないし、もっと言えば、親から融資してもらわなくても自分で使える資金を確保しておきたい。
会社を大きくできれば雇える人数も増える。
限られた人数とはいえ旧日本人に収入を与えてあげられるし、儲かる額も増えるだろう。
そして、俺は欲しいものを手に入れたい。
俺が欲しいのは、平和だ。