ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
我が社のゲーム第一作目が発売された。
発売日は社員一同そわそわしながら授業を受けたり、家電量販店に偵察に行ったり、web掲示板を開きっぱなしにして定期的に更新したりと全然落ち着かない有様だったが、当初の売れ行きは「まあ、さっぱり売れてないわけじゃない」程度のものだった。
「いきなり大ヒット、なんて上手い話はありませんね、社長」
「そうですね。でも、これからかもしれませんよ?」
予言というほど大層なものでもなかったが、俺達が作った「神話生物を集めて育てて戦わせる新感覚RPG」はじわじわとヒットしていった。
それというのもこのソフト、交換や対戦といった機能があるため、一人で遊ぶより家族や友人と競い合って遊ぶ方が面白いからである。
初動の段階で買ってくれたユーザーの一部がハマり、周りの人間に勧める。
特に学校等の低年齢層のコミュニティでは効果は絶大だった。アッシュフォード学園の中等部では最終的に二、三人に一人が購入し、デマを交えたゲームの攻略情報が噂を介して飛び回った(ルルーシュ談)。
実を言うと、このために学園購買部に頼んでソフトを置いてもらっていた。
数量限定だが、学割が利くので生徒は普通よりも安く買える。普通ならゲームを置くなんて考えられないが、そこは「遊ぶと自然に幻獣に詳しくなる」「神話に目が向けばアーサー王伝説を調べる子供が増えるかも」とかなんとか言って誤魔化し──説得した。
ついでに俺も自分用に確保しておいたソフトを実際に学内で遊んで宣伝した。
お陰で休み時間にゲームやってる生徒が増えまくったが「授業中にプレイしているのを見つけた場合は容赦なく没収してください」と先生方に媚びを売った。
結果、新興のソフトメーカーとしては異例の大ヒットである。
じわじわ、じわじわ、どーん! みたいな売れ方をしたので驚けばいいのか喜べばいいのかわからなかったくらいで、多めに生産したはずなのに在庫が追い付かなくなり追加発注をかけることになった。
「よくやった、リリィ」
「私達としてもとても嬉しいわ」
両親からも褒められた。
まとまったお金が入ってきたので、借りていた分は無事に返すことができたし、返してもなおお金が残った。俺のお小遣いこと社長の給料はそれほど多くないが、子供のお小遣いとしては多すぎる額である。これで多少の出費なら親に気を遣って遠慮する必要はなくなった。
会社の金は設備投資と人員追加、次回作の費用で大部分が消えるのだが。
友人、知人もゲームのヒットを喜んでくれた。
親しい相手にはソフトをプレゼントしたのだが、ミレイに至っては「ソフトが2バージョンあるから」と渡さなかった方のソフトを自費で買い込むほどだった。
せっかくなのでシャーリーとニーナにも渡したところ、ニーナの方はインドア派のせいか結構ハマってくれたらしい。
「ゲームの中なら空想の生物も動き回れるんですね。こんな風に、お祖父ちゃんのガニメデも……」
と、少し切ない呟きを漏らしていた。
KMFの登場するゲームというアイデアは自分の脳内やスタッフの意見の中にもあったので、ありがたく「検討させていただきますね」と答えた。
ナナリーに関しては、
「おめでとうございます、リリィさん。私も一緒に遊べたら良かったんですが……」
「そうですね。できたらナナリーさんにも遊んで欲しかったです」
ディスプレイを用いた携帯ゲーム機のソフトなので、目の見えない彼女には遊ぶことができない。
自分のことのように喜んでくれただけに少し心苦しいところがある。
フルダイブ型、とまでは言わないものの、脳波を介したディスプレイに頼らない次世代ゲーム機を作れれば、ナナリーとも一緒に遊べるのだが──。
と、考えた俺は原作、というかコードギアスのスピンオフ作品に登場するとある人物を思い出した。
「皆さん。資金を投資に使いたいんですが、いかがでしょう?」
思いついたアイデアを元に色々皮算用をした後、俺は放課後、会社に直行してスタッフ一同で会議をした。
みんなの反応は概ね「また社長が変なこと考え付いたよ」といったもの。
マスコットっぽい容姿と同じレベルで「発想が変」という認識も行きわたっているらしく、突拍子もない提案をしても驚く者がいなかった。
その上で、会社の資金をどーんと使うことには色々と難しい顔をされたのだが、最終的には、
「ま、いいんじゃないですか?」
となった。
「え、本当にいいんですか?」
「いや、提案した本人が驚かないでくださいよ」
「社長の会社ですし、面白そうな話だとは思いますからね。まともに形になるのに滅茶苦茶時間がかかると思いますけど」
「うん、滅茶苦茶時間がかかると思いますけど」
「二回も言いますか……」
というわけで、許可が出たので、俺はとある
◆ ◆ ◆
『このような形での話し合いとなってしまい申し訳ありません、ランドル博士。本来なら直接お会いして話をするべきなのですが、何分身体が弱く、また学生の身でもありまして』
「いいえ。こちらとしても手短に済ませられますので助かります」
『恐縮です』
脳科学者ソフィ・ランドルはパソコンのモニター越しに一人の少女と向かい合っていた。
リリィ・シュタットフェルト。
世界最大国家『神聖ブリタニア帝国』の植民地『エリア11』に住むブリタニア人の学生、兼実業家だ。彼女からメールをもらった後で調べたところ、ゲームを作って一山当てた若き女社長だ、という情報が手に入った。
胡散臭い。
いや、本人は真剣なのかもしれないが、子供の遊びに付き合わされて損をするのは沢山だ。通信による会議くらいなら付き合うが、話に乗るかどうかはきちんと検討する。
『では、早速本題に入っても?』
「ええ、もちろん」
余計な世間話をせず話を切り出して来たのは若者らしい性急さと言うべきだろうか。研究テーマとしては理想を追うが、基本的には現実主義者であるソフィは、リリィのその態度を「好感が持てる」と感じた。
『私が提案したいのは、ランドル博士の研究への資金提供。その見返りとして、我が社が立ち上げる新プロジェクトへの協力をお願いしたい、ということです』
「詳細はもらった資料の通りかしら?」
『ええ』
資料にはもう目を通してある。
提供資金の額は多いとは言えない。とはいえ、それは上には上がいる研究者の世界での話である。
ソフィは研究者として無名に近く、研究内容に至っては「異端」「オカルト」扱いをされている。最大にして唯一の同志であった夫は研究中の事故によって倒れ、現在は植物状態となってしまっている。
だから、この資金提供は魅力的だ。
問題は、
「次世代ゲーム機の開発、というのは、具体的にどういうこと?」
『そのままの意味です。ランドル博士の研究を応用した、目と手の代わりに脳波を用いるゲーム機を作りたいのです』
「……確かに、BRSを実用化できれば不可能とは言わないけど」
特殊なデバイスを埋め込むことで「考える」行為によって機械を操作する、という仕組みだ。
ソフィと夫が研究を続けているシステムであり、未だ完成には至っていない。資金がもらえれば研究スピードは確実に上がるだろう。
だが、
「単刀直入に言うわ。ゲーム機の開発というのは建前、隠れ蓑でしょう?」
『どうしてそう思われるのですか?』
白髪の美少女が不思議そうに首を傾げる。
「メリットが無さすぎる。開発費だって嵩むでしょうし、時間だってかかる。大手ゲーム会社からの話ならまだわかるけど、ね。何より、わざわざE.U.の研究者に話を持ち掛けてくる?」
ユーロピア共和国連合(E.U.)は神聖ブリタニア帝国と対立している。
というか、本当の意味でブリタニアと協調できている国など一つもない、というべきか。自国至上主義で武力制圧が大好きな国にすり寄ったところで末路は占領と大差ないからだ。
今はまだ戦争に至っていないものの、いつ戦争が始まってもおかしくない情勢である。
だから、ブリタニアは信用できない。
何より、
「あなたの婚約者ってKMFの開発者でしょう?」
ソフィの言葉にリリィは静かに答えた。
『私は戦争が嫌いなんです』
「口ではなんとでも言える」
『日本人のお友達もいます。彼らともいがみ合うより仲良くした方が楽しい、と、そう思っています。もっとも──』
少女の口元に苦笑が浮かび、
『KMFのシステムに転用しない、という保証は確かにできません。軍に情報を売ればお金が入ってきます。開発費に充てるのにちょうどいいでしょう。……私でも扱えるKMFがあれば、いざという時に役立つかもしれない、という考えもないわけではありません』
「やっぱり」
『でも、一番の目的は違います。目の見えない友人にもゲームを楽しませてあげたい。そう思ったから、あなたに話を持ちかけました』
最後に、少女は付け加えるように、
『もう一人のランドル博士にもいつかお会いしたいですし』
「……あなた」
ソフィの夫・タケルは日本人である。
本国が失われたことで、このE.U.でも日系人を「イレブン」と呼ぶ動きが生まれている。卑怯な方法で奪われた者達に同情を向ける者もいるが、帰る場所のない彼らなら冷遇しても問題ない、と考える者達もいる。
むしろ、このE.U.には腐った人間の方が多い。
シュタットフェルト家が親日家であるのは確かだ。リリィの通うアッシュフォード学園も看板として差別の撤廃を謳っている。
自由な気風の下で育つ少女なら、一般的なブリタニア人とは違う感性を持っていてもおかしくはない。
ソフィはしばし思案した末に答えた。
「考える時間を頂戴。助手がいるの。彼とも相談してから決めたい」
『かしこまりました。こちらも、もっと良い条件を提示できないか検討しつつお待ちしております』
通信を切った後、ソフィは一人溜め息をついた。
胡散臭い部分はある。
夫に頼れなくなってから辛いことの方が多かったせいか、すっかりスレてしまった心はリリィの話を嘘だと感じていたが、同時に純粋な部分では信じたいとも感じている。
「……どうしたものかしらね」
結局、この後、悩みに悩んだ末、ソフィは少女の提案を了承した。
夫の治療をしたいという思いに勝てなかったことと、その夫についてリリィが言及したことが最後の決め手だった。
◆ ◆ ◆
BRSの技術提供を受けられることになった。
これで脳波コントロール型の機器の開発ができる。
ナナリーでも遊べるゲーム機はもちろん、カメラから読み取った映像を意識内に直接出力して義眼の代わりになるようなものとか、考えるだけで動かせる強化外骨格的なものとかに応用できるかもしれない。実現すればナナリーみたいな子でも景色を見たり、歩いたりできるようになる。
コードギアスの世界はこういうヤバイ技術の芽がその辺に散らばってるから恐ろしい。
まあ、俺はスピンオフ『亡国のアキト』でこのBRSがKMFに搭載されているのを見たから思い切ったことができているわけだが。
お陰でまた金を稼がなければいけなくなった。
web通信は割と発達している世界なので、PC向けの課金ゲーでも企画しようか。萌え系の文化が未発達なのでガチャゲーじゃなくて、ゲーム内マネーを買うことでプレイが楽になるようなシステムがいいか。デジタルカードゲームなら後からコンテンツの追加がしやすいから向いているかもしれない。……パックを剥く作業はガチャと大差ない気がするが。
ゲーム機開発の部署も設置しないといけない。
ブリタニア人だけを雇用していたら大変なので日本人の技術者も雇用することにしよう。今まで以上に守秘義務を徹底しないといけないから考えることいっぱいで頭が痛くなりそうだが、その分だけやりがいはある。
名誉ブリタニア人登録を義務付けると共に寮を作って、そこに住んでもらうことにすれば外部との接触を極力断てるだろうか。
などと、ああだこうだと悩ましい日々を送っていると、
「会長、合唱部に入った以上、たまにはうちにも顔を出してください」
「え」
ナナリーと一緒に歌うために入っただけの合唱部が、先んじて牽制を放ってきた。