ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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社長 リリィ・シュタットフェルト 五

 ブリタニアからうちの会社への援助はもう一つあった。

 

「……シュナイゼル殿下名義で、新世代ゲーム機開発に援助金が下りました」

「はぁ!?」

「加えて、特派の技術者を一人、協力員として派遣してもらえるそうです」

「特派って、資金に任せて最先端の一歩先を研究してるっていう……」

「おい、言い方」

 

 まあ、言い方は悪いがその通りである。

 特派はシュナイゼル直轄の部署であり、そもそも技術部門なので軍そのものとは毛色が違うと考えていい。実際、原作でも軍人から煙たがられたり「戦場の隅っこで大人しくしていてください」的な扱いをされていた。

 要は金持ちの道楽だ。

 シュナイゼルが管理しているうえにロイドが主任なので、しっかり結果が出ちゃってるのが頭の痛いところだが。

 

「でも、それにしては社長、浮かない顔ですね?」

「ええ。この話、お断りしようか考えていまして」

「え、どうしてですか!?」

「研究成果が利用されることには変わりないでしょう?」

 

 研究員を派遣するっていうのはそういうことだ。

 向こうの高い技術力を借りられる代わりに情報を抜かれると思った方がいい。本当にBRSを採用したいってなったらその時にあらためて話があるだろうが、概要を押さえられて細かく報告されるのは間違いない。

 BRSがランスロットに採用されることはないだろうが、何かしら別のハイエンド機体に採用され、ダウングレードした量産型が作られる可能性はある。

 直接的に、俺のせいでブリタニア軍が強くなる可能性がある。それは、さすがに怖い。

 

 だが。

 

「でも、それって今更じゃないですか?」

 

 そんな俺の胸をスタッフの声が刺した。

 

「KMFのゲームを作る時点で軍とは関わりがあるんですし、今更避けても仕方ありません。あの研究もゲームを作るためなんでしょう? だったら、利用できるものは利用して、私達は私達で『面白いゲームを作る』ことを目指しましょうよ」

「そう、ですね」

 

 そうだけど、そうじゃないのだ、とは言えなかった。

 みんなが言っていることは正しい。

 問題があるとすれば、それは俺自身の問題。そしてその問題は口に出せない。

 

 ロイドの婚約者としての俺にも、実業家としての俺にも、殊更に軍の介入を嫌う理由はない。

 これが「兵器開発にご協力ください」とストレートに言われたのなら別だが。

 

「すみません、我儘でしたね。この話、受けましょう」

 

 結局、俺は吐き気を堪えながら了承した。

 

 ランドル博士にも伝えたところ、彼女は「ならブリタニアで研究する」と言いだした。

 もちろん、本人が近くにいる方がいいに決まっているのだが。

 

「研究データだけ送っていただける、という話でしたよね?」

『纏まった額の資金が出るなら話は別よ。それに、ブリタニアとの戦争が始まったら、自由に通信もできなくなるしね』

 

 助手と、(眠り続けている)旦那さんも一緒だ。

 『亡国のアキト』でもE.U.の軍属になっていたわけで、彼女にしてみれば魂を売る先が変わった、という程度の話なのだろう。

 安全を求めるなら強い国の方がいいに決まっているし、今ならシュナイゼルのお墨付きもあって簡単に移住できる。

 旦那さんの生まれた地なら何か変わるかも、という思いもあるかもしれない。

 

「ご協力に感謝します」

『利害が一致しただけよ。あくまでも研究のためだってことは忘れないで』

「もちろん。こちらもそのつもりです」

 

 結局、俺は俺にできる方法で頑張るしかないのだ。

 

 

 

 

 

 KMFっぽいメカを使った戦略SLGが(エンディング効果もあって)ヒットし、会社にはまた纏まった額のお金が入ってきた。

 

「社長、また何か変なこと考えてませんよね?」

「恐竜を蘇らせてテーマパークを作ろうとか」

「暴走させて手がつけられなくなるビジョンしか見えないので、それはやりません」

「やらないのはそういう理由なんですか!?」

 

 暴走する確信があって、ブリタニア本国の研究者に押し付けられるならやってもいいんだが……いや、それでも駄目か。

 別にブリタニアの一般人を虐殺したいわけじゃない。殺すならブリタニア皇帝だ。

 萌え死とか尊死とかで倒れてくれたらありがたいんだが。

 

「今回は特にビジョンがないんです。……皆さんは、何か生活で困っていることはありませんか?」

「ピザに飽きました」

 

 それはわかる。

 マスコットキャラクターの「チーズくん」のグッズ、オフィスにコンプしてあるからな……。

 もちろんぬいぐるみもある。あったかいので抱きしめて座っていたら写真を撮られまくった記憶がある。

 と、扇が「んー」と顎に手を当て、

 

「俺的には故郷の味が恋しいですね。ピザも美味いんですが、食べ慣れた味になかなか触れられないのが痛いです」

「扇君、それは社長に言っても──」

「いえ、いいかもしれません」

「……え?」

「東京租界に和食レストランを開店できないか検討してみましょう」

「えええ!?」

 

 結局また変なこと思いついたよこの社長、みたいな反応をされた。

 

 

 

 

 

 というわけで和食レストランを思いついた俺。

 となれば当たってみるべきは日本人だろう、ということで、身近にいる日本人に話を聞いてみることにした。

 

 放課後、クラブハウスにある俺の部屋に集まったのはスザク、神楽耶、そして咲世子。

 この部屋なら咲世子も何かあった時すぐ戻れるので安心である。

 

「……それで、皆さんにご意見を伺いたいのですが、どう思われますか?」

「私はいいアイデアだと思いますが……」

 

 そう言ってくれる咲世子は、難しい顔をしているスザク達へ視線を向けた。

 先に口を開いたのは少年の方。

 だんだんとあどけなさが抜けて精悍さが強くなってきた顔立ちには真剣な表情が浮かんでいる。

 

「目的はなんでしょう? 和食が食べたいから、というだけではありませんよね?」

「食べたいから、で間違いはないのですが……」

 

 お前は俺の素性知ってるんだから絡んでくるなよ、とは言えない。

 

「我が家には旧日本人の使用人がいまして、お願いすれば和食を作ってくれるのです。素朴な家庭の味ですが、ブリタニアの料理とは違った美味しさがあるのですよ。芋と揚げ物とソースとチーズばかりでは健康にも良くありませんので、私としては好んでいるのです」

「リリィ様は緑茶もよく召し上がられていますものね。日本びいきのシュタットフェルト家らしいですわ」

 

 神楽耶が微笑んでフォローしてくれる。

 珍しく普通に優しい気がする。いや、普段の言動も俺が勘繰りすぎなだけなのかもしれないが──。

 

「ですが、リリィ様? そう日本人に肩入れされていては敵を作るのではありませんか?」

 

 敵、か。

 確かに、学園にはスザク達日本人を快く思っていない層がまだまだいる。彼らのヘイトは日本人と仲良くするブリタニア人、つまりは俺やミレイにも向けられている。

 生徒会長と理事長の孫だから強い反発にはなっていないが、そういった「反イレブン」層の意識改革は難しいだろう。

 同じ国の人間であっても主義主張や考え方は違うのだから、別の国の人間、しかも少し前までその国と戦争をしていたとなれば「何を考えているかわからない」と思っても当然の話だ。

 

 だが。

 

「構いません。旧日本人にばかり肩入れしているつもりはありませんし、何をしたところで不満に思う方というのはいるものです」

 

 不満の中には「なんとなくウザい」「嫌うのにちょうどいいから」「成功してるから妬ましい」といったものも含まれる。

 敵を作らないことなど不可能なのだから、好かれたい相手に好かれる努力をした方がいい。

 俺が好かれたいのは平穏を望む人々であって、異なる人種を排斥したい人々ではない。

 

「私が和食を食べたい。和食を作ることができて、職に困っている人がいる。故郷の味を求めている人がいる。需要があるなら会社の利益につながるかもしれない。なら、やらなければ損というものです」

「……リリィ様、何か心境の変化でもございましたか?」

 

 断言した俺を見て、神楽耶とスザクはぽかんとした表情を浮かべた。

 特別、大きなイベントがあったわけではないんだが……。

 

「私、何かおかしいでしょうか?」

「いいえ。ただ、リリィ様はもう少し慎重な方だと思っておりましたので」

 

 変なことばかりしてきた気がするので「慎重」と言われると違和感を覚えるが──。

 確かに、以前までの俺だったらもう少し、他人の目を気にしたかもしれない。

 俺は笑って答えた。

 

「少し大胆になってもいいのではないか。そう思っただけです。……生徒会長の任期ももうすぐ終わりますし、ね」

「なるほど」

 

 神楽耶は大きく頷いて、

 

「私はいいと思います! 一度きりの人生、楽しく生きた方がいいに決まっていますから」

「いや、神楽耶はもう少し落ち着いて欲しいんだけど──」

「ふんだ。スザク様は女の子のお尻を追いかけまわしていればいいのです」

「もう少し言い方を考えてくれないかな!?」

 

 疑問を解消した神楽耶は「私にできることであれば協力いたします」と言ってくれた。

 ならば、と、俺は彼女にメインとなる料理人の斡旋と調度品の手配をお願いした。従業員はごく普通のブリタニア人と名誉ブリタニア人でいいとして、メインシェフくらいはきちんと調理経験のある人にお願いしたい。日本の骨董品とかこのご時世だと手に入りにくいし。

 建物はブリタニアの建築基準に則って作りつつ、雰囲気には和のテイストを取り入れる。中は椅子の席と畳の席を用意して、日本人はもちろん、通のブリタニア人にも楽しんでもらえる店にできたらいいと思う。

 

「完成したら教えてくださいませ。絶対に食べに参りますから」

「ああ、僕も興味があるな。ここにいると和食はなかなか食べられないし」

「はい、もちろん。というか、お二人はセミオープンにご招待したいと思います」

 

 俺の野望はまだまだ尽きない。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「では、後のことはミレイさんにお任せします」

 

 アッシュフォード学園の生徒会室。

 上品な調度品で整えられた部屋に、広い窓からの夕陽が射し込んでいる。

 

 ──すっかり様変わりした。

 

 調度品自体を入れ替えたわけではない。机や椅子の配置を入れ替え、幾つかの私物が片づけられただけだというのに、がらりと印象が変わった、とミレイ・アッシュフォードは感じた。

 大きな原因は会長の机だ。

 これまでは敢えて()()()()()()()()()に設えられていたそれが、日光を背にする絶好の位置に移動している。

 日差しを和らげるためのブラインドは依然として窓に取り付けられているものの、この変更は『彼女』が高等部の生徒会長でなくなったことの何よりの証だった。

 

 白い妖精。高等部の魔女。静の生徒会長。

 リリィ・シュタットフェルトは学園創立から二年間務めた会長職を退き、ミレイへと役割を譲ることとなった。

 

 会長用の机の鍵を最後の引継ぎ事項としてミレイに手渡すと、少女はいつものように穏やかに微笑んだ。

 

「このアッシュフォード学園を生徒会長として盛り上げていってください」

「リリィ先輩。本っ当~っに、お疲れ様でした!」

 

 几帳面な彼女らしく、数少ない私物は綺麗に引き上げ、私費で購入したティーセットなどそのまま使える品は生徒会の備品として引き継がれた。

 それでも、室内には彼女の遺したものが多くある。

 詳細かつわかりやすいマニュアル、各種イベントの記録や会議の議事録、生徒会としてコネクションを築いた各所への連絡先等々、凄腕揃いの旧生徒会メンバーと共に大きすぎる遺産を彼女は遺した。

 ミレイとしては割とフィーリングでもなんとかなると思っている生徒会業務だが、ミレイ直々に任命された新生徒会メンバー達はリリィの手厚いサポートを泣いて喜んでいた。

 

 というわけで、頑張った先輩を労おうとハグしにいったら、ひょい、と軽く逃げられて、

 

「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取っておきますね」

 

 これである。

 身体が弱いから、と、イベントごとでも開会と閉会に挨拶するくらいで、後は日の当たらない場所から微笑んで皆を見守っていた。

 本当に病弱であることは誰もが知っていたため、リリィとミレイは「静と動の生徒会長」と一部で呼ばれていた。

 ミレイはそれが誇らしくもあり、歯がゆくもある。

 なので手をわきわきとさせながら、

 

「先輩。今からでも名誉顧問の役職を作りますよ?」

 

 リリィは次で三年生。

 生徒会長としては引退するが、生徒としてはしっかり学園に残るのである。三年目も会長をしたい、と本人が言えば、大抵の生徒は「どうぞどうぞ」と言っただろう。

 しかし、彼女は笑顔で首を振って、

 

「私はもう十分働きました。それに、この学園にはミレイさんの元気が必要です」

「先輩……」

 

 温かい言葉に思わず瞳が潤む。

 

「先輩、死にませんよね?」

「殺さないでください。私はまだまだ長生きしたいです」

 

 軽く頬を膨らませたリリィに、ミレイは「てへ」と笑い、浮かべた涙を引っ込めた。

 

「暇があったら遊びに来ます」

「いつでも歓迎しますから、絶対来てくださいね!」

 

 こうして、ミレイ・アッシュフォード率いる新生徒会がスタートした。




書きかけが尽きてきたので、投稿間隔が空くことがあるかもしれません。
今日は投稿がないなー、となったら多分そういうことですので何卒ご容赦くださいませ。

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