ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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ギアスユーザー・リリィ

 俺の部屋に美少女が住み着いた。

 態度が横柄で、服装に無頓着で、放っておくとピザばっかり食べる不老不死の魔女。原作ヒロイン筆頭ことC.C.である。

 どうしてこうなったかといえばシュナイゼルのせいだ。

 おそらく、俺がある程度の事情を把握していること、俺の内面が争いや謀に向いていないことを既に見抜いているのだろう。

 

『C.C.のことを頼むよ、リリィ』

 

 臆面なく言ってのけ、自分にとって弱点となりうる少女を俺に預けてきた。

 シュナイゼルのような公人が秘密の事柄を作ると、どうしても人や金の流れに不自然な部分が出てくる。偉いということはそれだけ人から注目されるということでもあるので、いっそ彼が匿わない方がC.C.にとっては安全、というのはわからなくもない。

 ただ、だからって俺に預けないで欲しい。

 

 勢いでギアスまで得てしまった。

 本当にこれで良かったのかと考えると頭が痛くなる。まる一日くらい頭を抱えてフテ寝したいところだが、今日も授業があるしそうも言っていられない。

 攻撃的なギアスではなかったようなのがせめてもの救いだ。

 

 とにかく、得てしまった以上は生かすしかない。

 俺は自分のギアスを「守るための力」として使う。

 

「食事はどうする?」

「昨日のピザが残っていますから、温めて食べましょう」

 

 ここに泊まることが多くなったあたりで冷蔵庫と電子レンジを追加しておいたのが功を奏した。

 俺はオーブンモードでピザを温め、多めに注文しておいたサイドメニューの野菜サラダを取り出しながら、下着姿のままベッドに腰掛けぼんやりとしているC.C.に「シャワーでも浴びてください」と告げる。

 すると、彼女は面倒臭そうな顔をして、

 

「別にそれほど臭わないと思うが」

「汗をかいていなくても、気分がさっぱりするでしょう?」

 

 心配しなくても良い匂いだ、などとはもちろん口に出さない。

 ここにはベッドが一つしかない。

 寝返りで床に落ちないようにセミダブル仕様のものを使っていたお陰で女子二人、余裕で並んで寝られたが、C.C.の匂いや柔らかさは十分すぎるほどに伝えられてしまった。

 ついでに「サイズ的に抱き枕にちょうどいいな」とか言われたのも当分忘れられない。続けて「微妙に硬いのが難点だが」と言われたのもだ。チーズ君のぬいぐるみと比べたらそりゃそうだろ。

 

 渋々シャワーを浴びにいった挙句、なんだかんだ堪能して帰ってきたC.C.に「タオルはないか?」と言われたりしつつ、ようやく食事になって、

 

「とりあえず、今後のことを相談させてください」

「私のことなら構わなくていいが」

「構います。私にとってあなたはセキュリティホールなんです」

 

 部屋のドアにロックをかけたり入室ログを取れるようにしたり対策はしていたが、それは「部屋に誰もいない時用」の対策だ。

 その道に詳しい人間なら出入りするくらいは難しくない。

 そこを「いつ誰が入ったか」把握できるようにすることでその後のための武器にするつもりだったのだが、入った誰かさんがC.C.とバッタリ、なんてことになったらまずい。

 加えてC.C.は見ての通りの我が儘娘だ。

 ふらふら出歩いたり、ピザを食べたがったりするのは目に見えている。小食の俺が二人分+αのピザを頻繁に頼んでいたら他に誰かいるのがまるわかりだ。原作のルルーシュも彼女と同居していたが、よくもまあ自分の部屋に置いておく気になったものである。

 まあ、そのあたりが気になるのは俺が情報リテラシーのしっかりした世界から来たせいもあるだろう。

 後はルルーシュが「テロリストのゼロ」と「ルルーシュ・ランペルージ」をきっちり使い分けていたため、万が一C.C.が見つかっても「学生のルルーシュが愛人を匿っていた」としかならなかったからか。いや、それでも十分大事だな……?

 

「できるだけ外には出歩かないでください。出歩くなら他の人に見つからないようにしてください。見つかった場合はなるべく穏便な形で納得させてください」

「おい、注文が多いぞお前」

「心配だから言ってるんです」

「私が見つかることでお前の身が危うくなることが、か?」

 

 ピザを持ったままふん、と鼻を鳴らすC.C.。

 もちろんそれもある。

 俺の周りで特殊な事件が起きれば注目してくる人間も増える。例の暗殺者やブリタニア軍に目をつけられないとも限らない。

 何より、C.C.が皇帝に奪われるのは本当にまずい。

 だが。

 

「あなたの身だって心配しているんですよ?」

「ほう。不老不死の私を心配か?」

「はい。現に、あなた一人では悪い人の魔の手から抜け出せなかったじゃないですか。いくら死なないと言っても、痛いことや苦しいことをされるのは辛いんです」

 

 原作を知っている俺は、C.C.が超越者であると同時に一人の人間であることを知っている。

 死んでも生き返るからと言って痛くないわけじゃない。美しい彼女なら、命の危険を及ぼさずに尊厳を踏みにじられる可能性だってある。

 性格的に合わない相手だからといって無暗に苦しんで欲しいとは思わない。ブリタニア皇帝みたいな狂人ならいくら苦しんでくれてもいいが。

 

「わかったわかった。大人しくしていればいいんだろう」

 

 C.C.が両手を上げて笑った。

 

「変な奴だな、お前は」

「よく言われます」

 

 ほんとによく言われるんだが、身の振り方を改めた方がいいんだろうか。

 

「ま、一応、暇つぶしの道具は持ってきたしな」

 

 他にも幾つかの項目を話し合った後、食後にC.C.が取り出したのは見覚えのある携帯ゲーム機。

 

「C.C.もそういうのやるんですね」

「私の生まれた時代にはこんなもの無かったがな。シュナイゼルが勧めてくるものだから、せめて奴を超えるまではと始めたんだ」

 

 シュナイゼルもゲームするのか……って、そんな話をしばらく前にした気がする。

 

「あいつめ、部下にゲームを進めさせた挙句、湖の乙女の色違いを私に自慢してくるんだぞ。あの極悪非道め」

「……えっと、その会社の二作目もテレビに繋がったゲーム機からできますから良かったら」

「ほう? なかなか気が利くじゃないか。これが終わったらやろうと思っていたんだが、さすがに据え置き機までは持ってこれなかったからな」

 

 それはもう、自分の会社で作ったゲームですから、持ってないわけがないわけで。

 

「それにしてもこのゲームの二作目は出ないのか。さっさと出せば売れるだろうに」

 

 ラインを増やして並行製作中ですからもうちょっと待ってください、と、俺は脳内でユーザーの声に答えた。

 

 

 

 

 

 それから数日。

 俺はC.C.という新たな悩みの種によって忙しい日々を過ごすことになった。

 

 ひとまず携帯電話を新しく契約。

 もう一台あった方が何かと便利なので、とかなんとか言い訳しつつ、今まで使っていた機種の電話帳データなんかを新しく買った最新機種に移し、古い方をC.C.に渡した。

 

「電話には出てくださいね?」

「面倒だな」

「連絡が取れないとお互い困るじゃないですか」

 

 C.C.は「自分がギアスを与えた人間」の居場所とある程度の状態がわかるらしいので、向こうとしては別に不便でもないのだろうが、それは俺の知らない(ことになっている)情報なので気にしてやる必要はない。

 渋々端末を受け取った魔女は「気が向いたら出てやる」と答えた。

 

 C.C.の食事に関しては作り置きを用意して冷蔵庫に詰め込み、更に買い込んだ冷凍食品を冷凍庫に詰め込み、レンジでチンすれば食べられる状態を作った。

 この世界の冷凍食品は前世の日本ほど開発が進んでいない上、作り置きのおかずと言ってもブリタニアの料理ではレパートリーが限られるため、これはさっさと日本食レストランを本格始動させるしかないなと思った。

 服を確保するために衣装も新たに買い込んだ。カレンと神楽耶に付き合ってもらったところ、振り回されて逆に疲れたのは誤算だった。その上、二人はあまり馬が合わないらしく、楽しげにカレンをからかう神楽耶と怒りを抑えきれず擬態が剥がれかかるカレンという構図に俺までやきもきさせられた。

 

 というか、下手したらロイド以上に甲斐甲斐しくC.C.の世話をさせられている気がする。

 

 正直なところ、さっさとルルーシュにパスしてお役御免になりたいのだが、いったいどういう理屈で引き合わせればいいのかさっぱりわからない。

 今のルルーシュは仮面のテロリスト「ゼロ」のモードに入っていないわけで、単なるルルーシュ・ランペルージとC.C.を引き合わせたところで物語は始まらないだろう。

 かといって原作のような劇的な場面を演出することができるかというと……うん、無理。

 

 というわけで、しばらくは俺が面倒を見るしかない。

 といっても、このままだと俺が学園に泊まれるのは多くて二、三日に一度。生徒会の仕事もなくなって暇になったのに学園に泊まってばかりではさすがに両親も怪しむ。まあ、方向性としては浮気とかになるんだろうが、それでC.C.が見つかるのは色んな意味でまずい。

 拠点を学園に移す言い訳は仕事と進学関係でどうにかなるだろうが、頻繁に倒れる俺が使用人もなしに一人暮らしをするのは色々問題がある。

 

「というわけで、私が雇った使用人ということにしてもらえませんか?」

「なんで私がお前に仕えなければならない」

 

 言うと思った。

 

「あくまでフリです。何も研修を受けろとは言いませんし、日中はゲームしててもらって構いません」

「まあ、それなら構わんが」

「ありがとうございます。ええ、私が病気で倒れたら看病してくれさえすればいいので、何の心配もいりません」

「明日病気になってもおかしくない顔色で良く言えたな!?」

 

 それでもお芝居を引き受けてくれるあたり、なんだかんだC.C.もお人よしだと思う。

 家の方には「学園OGに身の周りの世話をお願いした」とかなんとか適当なことを言って誤魔化した。家で雇用するわけじゃないし、個人的な繋がりによる緩い関係なら履歴書を提出してもらう必要もない。こっちからお願いした時以外は使用人を送る必要もない、と言っておいた。

 

「義姉さんが一人暮らしとか大丈夫なわけ?」

 

 カレンには思いっきり懐疑的な目で見られたが、そこは胸を張って、

 

「これでも私、家事は全般できるんですよ?」

「張り切りすぎて倒れないかって言ってるんだけど」

「そ、それは……だからこそお手伝いをお願いしたわけですし」

 

 実際は俺がC.C.をお世話するわけだが。

 

「カレンさんこそ、私がいないからって家に寄り着かないとかナシですからね?」

「どうせ学園では顔合わせるんだから、義姉さんから逃げられるとは思ってないわよ」

 

 カレンの素行が悪いと俺に連絡が来るから、下手なことをすると学園で義姉(おれ)から小言を聞く羽目になるというわけだ。

 最悪、カレンには兄・ナオトのところへ行くという手があるはずだが、それを選ばない程度には俺も役に立っているのだろうか。

 

「紅月さんにあまり心配かけないでくださいね?」

「それは約束できないけど、まあ、善処するわ」

 

 今のところカレンの母親が麻薬にハマるような兆候はない。

 俺があまり屋敷に帰らなくなる、と聞いて残念そうにしてくれた程度には心に余裕がある様子だ。

 というかあの麻薬、原作でルルーシュが総督を殺したのも流行った原因じゃないだろうか。引継ぎのごたごたで取り締まりが滞っただろうし、代わりにきた総督は武闘派で、文化的なところには割と疎そうなところがあった。

 

 と、そんなわけで、俺は週に一、二度家に顔を出す以外は学園のクラブハウスに帰り、C.C.と顔を合わせる生活を送ることになった。

 

「狭い部屋でこんなのと二人きりとはな」

「C.C.は格好いい男性と二人きりの方が好みですか?」

「シュナイゼルは勘弁だがな。あれといると息が詰まる。だがまあ、見目のいい男が私に夢中になるのは悪い気分ではないな」

「ふーん、そうですか」

「おいお前、聞いてきたくせに全然興味ないだろう!?」

 

 いや、だって、超越者ムーブしてる時のC.C.の言動は高確率で信用できないし。

 

「いいじゃありませんか。女二人の方が気楽ですよ」

「ん? ひょっとしてお前、そっちの趣味か? なら、伏して頼めば可愛がってやらんこともないが」

「あ、間に合ってます」

「……ええい、お前といると調子が狂う」

 

 それはこっちの台詞だ。

 

 と、そんなことを繰り返しながらも、俺とC.Cはだんだんと二人の生活に慣れていった。

 部屋で仕事をしていると「構え」とばかりに声をかけてきたりするのは鬱陶しいこともあるが、猫を飼っているとでも思えばまあ、可愛いものである。

 C.Cの方もなんだかんだと俺に文句をつけてくる割に、基本的には大人しく部屋でゲームをしてくれているあたり、話せばわかる人間なのだろう。

 後は折を見てルルーシュに押し付ければミッションはコンプリートだ。いや、C.C経由でルルーシュにギアスが渡った場合、高確率で「先輩はどこまで知ってるんです?」という話になる気がする。それはまた頭が痛い。

 

 本気でどうしたものか。

 

 そんな風に頭を悩ませていたある日、俺は理事長から呼び出しを受けた。

 なんでも来年度からやってくる転入生の件とのこと。

 その時点で大方を察した俺は、このアッシュフォード学園に役者がどんどん揃っていっていることに、ぞくりと身を震わせた。


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