ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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ギアスユーザー・リリィ 八

「やっぱり、個体値厳選と努力値調整はエンドコンテンツですね……」

 

 ゲーム会社の社長である俺だが、日ごろからゲームをやりこんでいるかといえばそうでもない。

 仕事のせいでゲーム時間が削られているからだ。なので一作目も二作目も、廃人に比べたら大人しいプレイしかしていない。

(テストプレイとデバッグはさんざんやったが)

 

 ただ、数日前のお茶会でユーフェミアから対戦希望の話が出たことで、もう少し手持ちの強化をしておく必要が出てしまった。

 

「まさかユーフェミアさままでプレイしていたなんて」

 

 兄からのプレゼントだったということなので、またしてもシュナイゼルの差し金である。

 ともあれ、あの純粋な少女から「一緒に遊ぼう」と言われては断れない。

 さすがにガチ廃人ということはないはずだが、念のため、ガチバトルにも対応できるようにしておきたい。C.C.と対戦した時は技セレクトと相性でなんとかゴリ押したが、対戦理論まで構築してるような奴には手持ちだと心もとない。

 非公開の内部データやダメージ計算式、技の成功率等を網羅できているのは開発側の特権。

 純粋に強い対戦用のメンバーを一から育てて社長の面目を保ちたい。

 

 というわけで、今日はクラブハウスの方に泊まってのんびりゲームである。

 ベッドの上でチーズ君を抱きしめながらぴこぴことゲーム機を操作。

 

「ミレイさんはおそらくインパクト重視。六体全部別のオーナーからトレードした個体だとか、そういう方向性で攻めてくるはず。ただ、神楽耶さまは要注意ですね。あの方は侮れません」

 

 状態異常を駆使して一方的に攻撃して来るか、はたまた博打技を連続して成功させてくるか。正攻法では歯が立たない恐れがある。

 と。

 こんこん、と、部屋のドアがノックされる音に、俺はゲームの手を止めた。

 

「はい。どちらさまですか?」

「わたくしです、ユーフェミアです。少々お話があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ユーフェミアさま?」

 

 既に午後九時にさしかかろうとしている時間に何の用だろうか。

 

「今開けますね」

 

 首を傾げつつ、ドアを開ける。

 すると、寝間着姿で憂い顔のユーフェミアが立っていた。一応、傍らに専属のメイドさんも立っているが──。

 少女は俺の顔を見つめると、真剣な様子で言ってくる。

 

「夜分遅くに申し訳ありません。二人だけでお話がしたいのですが、よろしいでしょうか」

 

 女同士でなければ恋愛的な意味だと勘違いしてしまいそうなシチュエーションだが、赤面している場合ではないだろう。

 

「大事なお話なのですね。お茶くらいしかお出しできませんが……」

 

 頷き、脇に避けてユーフェミアを招くと、メイドさんが「ユーフェミア様をよろしくお願いいたします」と深くお辞儀をしてくる。何かあったらお前のせいだという言外の意図を察しつつ「必ず無事にお帰しいたします」と答えた。

 ドアが閉じてもなお、ユーフェミアは緊張した様子を続けていた。

 ひとまず紅茶を出し、テーブルを挟んで向かい合う。

 

「それで、お話というのは……?」

「リリィ様。わたくし、どうしても確かめたいことがあるのです」

 

 どうにも切迫した様子だ。

 

「……ユーフェミアさま。それは、他の者に聞かれてはまずい話でしょうか?」

「……はい」

 

 ならば仕方ない。

 何が起こったのか特定しきれないまま、俺はユーフェミアに断った上で盗聴器・監視カメラ発見等のルーチンをこなした。盗聴防止装置も起動。

 本当は地下に行ければいいのだろうが、俺には権限がない。

 皇女に対して失礼すぎる行動だが、ユーフェミアは文句を言わなかった。

 

 そして。

 ユーフェミアは紅茶を一口飲んでから話を切り出した。

 

「お話というのは、わたくしの部屋に以前住んでいた方のことなのです」

「っ」

 

 息を呑んだ。

 

 ──早すぎる。

 

 隠し通せると楽観していたわけではない。ただ、バレないで済む可能性もあるとは思っていた。なのに、こんなにも早く気づかれるとは。

 心の準備もないまま投下された爆弾に冷や汗をかきつつ、誤魔化すのは無理だろうな、と思う。

 

「どんな方だったのか、リリィ様はご存じですか?」

「ナナリーさん、という女の子です。神楽耶さまと同い年で、目と足が不自由な方でした。ですからこのクラブハウスにお兄さんと一緒に住んでいました」

「お兄様のお名前は?」

 

 ユーフェミアは俺から視線を外さない。

 

「ルルーシュさんという、線の細い知的な男性です」

「……やっぱり」

 

 皇女の唇が小さく動き、俯いた顔から涙がこぼれる。

 そっとハンカチを差し出すと、少女は「ありがとうございます」と言って涙を拭いた。

 

「もしかして、お知り合いなのですか?」

「どうして、そう思われるのですか?」

 

 問い返されて迷う。

 なんとなく。あなたの様子を見てそう思った。そんな風に答えることは簡単だ。何より、踏み込むことは彼女達の、皇族の問題に深く関わることになる。

 ことを穏便に済ませたいのなら、ユーフェミア側が言葉を濁してくれることに賭けた方がいい。

 だが。

 

 ──今更じゃないのか?

 

 何故、ユーフェミアは俺のところへ来たのか。

 情報を得たいのなら直接理事長を問い詰めてもいいのだ。皇族として命令すれば理事長としても逆らうことは難しい。

 にもかかわらず俺のところに来たのは、俺が「最も親しい友人だから」ではないのか。

 皇女に頼られている、あるいは()()()()()()()()時点で俺はもう踏み込んでしまっている。

 

 ならば、話せる範囲で話せるだけ話してしまうべきだ。

 

「ルルーシュさんとナナリーさんは日本とブリタニアの戦争による戦災孤児だと聞いています。戦争時はまず海戦が行われ、本土で戦いが始まるまでには間があったにも関わらず、です」

 

 原作知識を用いずに考えても「両親はどうして日本にいたのか」という疑問が出る。

 もちろん、仕事で日本に居て帰れなくなった可能性はあるが、本土に大規模な空襲はなかった。たまたま数少ない空襲に遭ったのだとして、都合よく子供達だけが生き残れるものだろうか。

 

「最初からご両親は一緒ではなかった。亡くなったから日本へ来た、あるいは()()()()()()()、と考えた方が自然ではないかと。そしてアッシュフォード家、ミレイさんや理事長がよく気にかけていましたから……」

 

 何らかの事情を抱えていることは間違いない。

 となると、出自がミレイより上、つまり最低でもブリタニア貴族である可能性は決して低くない。

 ユーフェミアの様子を見た今なら、更に深いところまで推測できる。

 

「リリィ様は、その上で彼らと交友を?」

「利害関係だけで交友関係を続けるのは心に負担がかかります。ルルーシュさんやナナリーさんが好きだからこそ、私は彼らとお付き合いをしておりました。……いいえ、しております」

「今でも交流があるのですか?」

「もちろん、連絡は取れます。親しい友人の方はみんなそうだと思いますが」

「……リリィ様は本当にお優しいのですね」

 

 少女の口から溜め息が漏れる。

 ユーフェミアは表情を緩めると、俺に向かって頭を下げた。

 

「失礼な態度を取ってしまって申し訳ありません。実は、学園内で噂話を耳にしまして……シャーリーさんという方から詳しくお話をお伺いしたのです」

 

 そうか、シャーリーからか。

 そういえば彼女は原作でルルーシュの写真まで持ち歩いていたか。俺も一緒に撮った写真くらい持っているが、さすがに持って歩いてはいない。

 

「頭をお上げください、ユーフェミアさま。大切な方なのでしょう? 手がかりになるかもしれないのなら、なんとしてでも問い詰めたい。そう思うことは何もおかしなことではありません」

「ありがとうございます、リリィ様」

 

 なおも瞳に涙を溜めながら、ユーフェミアは笑みを浮かべる。

 

「ルルーシュ達が生きていた。それがわかっただけでも代えがたい幸福です。これもリリィ様が運んでくださった幸運なのでしょうか」

「それでしたら、ユーフェミアさまに転校を勧めた方のほうかと。それから、ルルーシュさん達を保護してくださった理事長にも」

「ええ、その通りですわね」

 

 少しずつ少女がいつもの調子に戻り始めている。

 ほっとしつつ、俺は内心で「どうしたものか」と悩んだ。

 

 ──ユーフェミアにあっさりバレてしまった。

 

 こうなると退学の必要はあったのか、とさえ思ってしまうが、当のルルーシュ達が学園に居ないだけまだマシだ。最悪、本当に他の租界へ、あるいはゲットーへと逃げてもらうことができる。

 というか、ユーフェミアとシュナイゼルにかなりの繋がりがあるようなので、このままだと高確率でそうせざるをえなくなる。

 ユーフェミアにしてみれば(腹違いとはいえ)兄妹が生きていたという朗報なのだ。心優しい兄(ユーフェミア視点)に報告しない理由の方が少ない。

 

「ですが、ユーフェミアさま。差し出がましいことかと存じますが、ルルーシュさん達にも事情があること、どうかご理解いただけないでしょうか」

 

 だから、俺は先んじて釘を刺す。

 

「彼らとユーフェミアさまがどのような関係なのか、私には推測することしかできません。ですが、()()()()()()()()生きていることを隠したまま今日まで過ごしてきたのだということくらいはわかります」

「ええ。……きっと、そうなのでしょうね」

 

 ルルーシュ達の事情を知っているユーフェミアは頷いてくれる。

 兄妹が生きていると知った場合、皇帝は「反逆の意思があるなら殺せ」とかなんとか言いそうだし、シュナイゼルあたりは表面的には喜びつつ、いともあっさりと政治の材料にするだろう。

 そうでなくとも貴族の中に「親マリアンヌ派」とかができてややこしいことになる可能性もある。

 

「ですから、ユーフェミアさま。どうか、ルルーシュさん達の生存を他者に漏らすのは待っていただきたいのです。せめて、そう。本人達の意思を聞くまでは」

「ルルーシュ達と話ができるのですか?」

「連絡を取ることはできるのです。こう見えても私は彼の雇用主でもあるわけですし」

 

 ふふん、と胸を張って見せると、ユーフェミアはくすりと笑った。

 

 いや、まあ。

 威張っている場合では全くないんだが。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「今日も平和ですね、お兄様」

「……そうだね、ナナリー」

 

 ルルーシュ・ランペルージは未だかつてないほど暇だった。

 正確には平日昼間のこの時間は「勤務中」にあたるのだが、出来高制かつ時間給(割り当てられた時間に見合うだけの成果が出ていれば一定の給与が支払われる。要求以上の成果が出ればボーナスの対象になる)という融通のきく雇用形態のため、プログラマーとして天才的な才能を持つルルーシュにはのんびりする余裕が十分にあった。

 学園に通う必要もなくなった。

 授業は単位制なので、出席を重んじる教師の授業は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()一定時間座って聞いていなければならない。十分以上に優秀なルルーシュにとってそれは苦痛であった。

 

 外にはあまり出られないものの、リリィから与えられた新しい家(正確にはリリィの家を借りているのだが)は快適だし、買い出し等は咲世子が担当してくれるので不自由はしていない。

 何より、

 

「退屈はしていないかい、ナナリー?」

「いいえ。むしろ、お兄様の近くにいられるので、楽しいくらいです。……皆さんと離れてしまったのは少し寂しいですけど」

「そうか」

 

 微笑み、「俺もナナリーと一緒にいられて嬉しいよ」と返す。

 親しい友人からはシスコンとからかわれる過保護ぶりだが、当人としては「兄が妹を大事にして何が悪い」と思っている。シスコンはある意味、尊称だ。

 

「ミレイさんとリリィさんは時々遊びに来てくださいますし」

「リリィ先輩には本当に頭が上がらなくなってしまったな」

 

 リリィ・シュタットフェルト。

 ミレイとは本土にいた頃からの知り合いで、名家シュタットフェルトの()()。以前は孤児であったとされ、その才覚によって見いだされ、変わり者で知られるロイド・アスプルンドの婚約者となった()()()()()()

 孤児であったことを裏付けるように、あるいは()()()()()()()()、養女になる前の彼女の動向についてはルルーシュには掴めていない。

 ただ、お気楽な性格で裏表のないミレイと違い思慮深い性格で、面倒な仕事は他人に放り投げるミレイと違い人から頼られることの方が多く、元気いっぱいなミレイと違い病弱で、知らないことは知らないとあっさり流すミレイと違い()()()()()()()

 

 シュナイゼルから預かったという謎多き少女、普段ゲームばかりしていると思えばルルーシュに対して妙に横柄だったりするセシリア(仮)の件も含め、リリィには色々と疑問がある。

 疑わしい部分があるにも関わらず心底から疑えないのがまたややこしい。

 

「あの、お兄様。せめてリリィさんにだけは本当のことを……」

 

 ナナリーが彼女を慕っているのもまた悩ましいところだ。

 幸い女性同士であるため、誑かされる心配だけはしなくていいのだが。

 

「そうだね。そうできればいいけど……それは慎重に考えないと。リリィ先輩が悪い人じゃなかったとしても、知ったせいでトラブルに巻き込まれてしまうかもしれない」

「そう、ですね。そうですけど……」

 

 どうしたものか。

 ルルーシュは溜め息を吐──こうとして、ナナリーに心配をかけないように内心に留める。と、

 

「着信?」

 

 一瞬だけ携帯電話が鳴って、切れる。

 同じことがもう一度あって、ぱったりと鳴らなくなる。確認すると発信者はどちらもリリィだった。

 二回続けてワンコールで切った場合、大事な話があるから家に行く合図。

 

「お兄様」

「ああ。お茶の準備をしておこうか、ナナリー」

 

 言いながら、ルルーシュは可能な限り考えられる厄介事を脳裏に思い描いていた。

 そして奇しくもリリィの用件は、思い描いたうちの一つとほぼ一致していた。




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