ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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皇女の友人・リリィ 七

 話を少し戻そう。

 

 神楽耶とスザクを説得するのはそう難しいことではなかった。

 何しろ、スザクはルルーシュの古い友人であり、兄妹の素性を知っていたからだ。

 

「突然押しかけてきたと思ったら『すぐに日本を再興しよう』とは、まったく勝手な奴だな、君は」

「すまない。だが、必要なことなんだ」

 

 表向き、ルルーシュとナナリーは「別の租界へ移った」ことになっていたため、顔を合わせた時は少しばかり揉めた。

 スザクは少々かっとなりやすいところがある。

 いつ戻ってきたのか、何故連絡してくれなかったのか、それとも嘘をついていたのか、となりかけた彼をなんとか宥め、こちらのプランを聞かせるのには少々時間がかかった。

 話し合いの場所自体は咲世子経由でアッシュフォード学園地下を使うことができたので、そこは助かったが。

 

「私はいいと思いますわ! かつての友人同士が人種を超えて一つの目的に向かって団結する……素晴らしいではありませんか」

 

 神楽耶の方は話が早かった。

 ルルーシュ達の素性を知っていたかは不明だが、突然の退学に理由があったことくらいは察していたはずだ。

 ある程度、真実に近い推測を既に抱いていたとしても驚かない。

 

「もちろん、僕だって早く復興させたい。だけど神楽耶、そんなに簡単にはいかないだろう?」

「あら。ルルーシュ様のお話しくださったプランはなかなかのものだと思いますわ。もちろん、エリア11総督府との協力は必須になるでしょうけれど」

「それは……でも、だからこそ、有無を言わさないために全土を一度に取り戻した方が」

「スザク様。千里の道も一歩から、という言葉もございましてよ?」

 

 ぴっ、と、指を立てて微笑む神楽耶。

 

「神楽耶さまがそう仰るということは、勝算はあるのですね?」

「その言葉、そのままお返ししたいところですけれど。ある程度の成算と、それから早めに起ちたい事情と、どちらもございます」

 

 きわめて小規模からのスタートなら皇家単独のバックアップでもある程度は機能する。

 そして、始まってしまえばキョウト六家の他の家も協力せざるを得ない。

 

 また、問題として、密かに製造して保管してきた日本製KMF(ナイトメアフレーム)の数が飽和状態になりつつある。

 表立って訓練もできないのに数ばかりが増えている現状で、そろそろ管理が限界に近い。

 小さくてもいいので日本国を立ててしまい、そこの自警用として幾らかを配備できれば格段に楽になる。

 

「……なるほど」

 

 と、口元に手を当てるスザク。

 

「だけど、人員が集まるかな。僕だって首相の息子という箔はあるけど、経験も実力も不足している。それくらいの判断はつくよ」

「問題ない。俺がサポートにつくからな」

 

 ふっ、と、笑って言ってのけるルルーシュはどこまでもキザだが格好いい。

 

「君は、そんなに自信があるのかい?」

「俺を誰だと思っている。これでも皇族として英才教育を受けていた身だぞ」

「そうだったね」

 

 ルルーシュの笑みが伝染したのか、スザクもまた笑って、

 

「君が優秀なのは知ってるよ。その分、性格も悪かったけど」

「なんだスザク。最初に会った時のことをまだ根に持っているのか?」

「当たり前だろ。君ときたらあの頃には今よりずっといけ好かない感じだった」

「ほう。今はマシになったと?」

「ああ。良い顔になったと思う。誰の影響かな?」

 

 スザクの視線が、俺を含めた女性陣へと順に向けられる。

 ユーフェミアは微妙に頬を赤らめて視線を逸らし、神楽耶は意味ありげに唇を歪め、俺は「こっちを見るな」と心の中で思った。

 

 

 

 

 

 

「ところで、そのギアスというのは便利なものですのね。私でも扱えるのでしょうか?」

 

 話が纏まり、スザクと神楽耶に一筆書いてもらった後のこと。

 神楽耶がまるで世間話でもするかのように言って首を傾げた。

 

「日本の名家の娘か。お前なら才能は十分にあるだろうな」

 

 一人だけ残しておくのも、ということで連れてきたC.C.が神楽耶を見て事もなげに答える。

 ブリタニアでいう皇族にあたる少女だ。

 当然、ギアスユーザーとしての適性も高いだろう。

 だが、

 

「神楽耶さま。ギアスは危険な力です。便利な道具くらいのお気持ちであれば止めておいた方がよろしいかと」

 

 俺の忠告にC.C.が「またそれか」とふて腐れた。

 

「お前はギアスに恨みでもあるのか」

「ありますよ。この間なんか殺されかけました」

「あれは自業自得だろう」

 

 まあ、そうとも言うが、ギアスがなければ多分、防犯ブザーだけでどうにかなっていた。

 

「私達にギアスを与えて何をさせたいのか、ちゃんと言ってもらえるのならとやかく言いませんが」

「別に大したことじゃない。ギアスで成功した奴がいたら、そいつに私の願いを一つ叶えて欲しいだけだ」

 

 その願いとやらが問題なわけだが。

 

「なるほど。何かしらの裏がある、というわけですね」

「まあ、そうだな」

 

 緑髪の美少女は開き直ったように答えると肩を竦める。

 

「ルルーシュのギアスも全くのノーリスクというわけじゃない。ギアスの種類によってはリスクの方が大きいものも存在する」

「神楽耶。そんなものに頼る必要はないんじゃないかな」

 

 今なお婚約者を継続中であり、神楽耶の護衛役でもあるスザクは困り顔だ。

 

「過ぎた力は身を滅ぼす。力を持つ者ほど自制が必要になる。力が足りないと思うなら鍛えればいいんだ」

 

 格闘技を習う者も「喧嘩には使うな」としっかり教え込まれると聞く。

 制御する自信がないなら最初から求めなければいい、というのは一つの真理だ。

 

「ですがスザク様。ルルーシュ様もリリィ様も持っているのですから仲間外れではありませんか」

「だから、そういう考え方で手を伸ばすものじゃないだろ。ユーフェミア様もナナリーも、咲世子さんだって持ってないじゃないか」

 

 まあ、ナナリーは契約できない(あるいはC.C.がやりたがらない)し、咲世子はそんなものなくても十分強いんだが。

 ユーフェミアに関しては皇女として自由が制限されているため、そもそもギアスを用いるタイミングそのものが少ない。

 確定でギアスディフェンダーが手に入るなら俺だって積極的に勧めるが。

 

「神楽耶さま。抑止力について考えていらっしゃいますか?」

「え?」

「まあ、さすがリリィ様。そうです、それです」

 

 ちょうど良かった、とばかりに適当な相槌を打たれたので、利用されたのか特に何も考えていなかったのか微妙なところだった。

 

「どういうことですか、シュタットフェルト様──って、もうリリィでいいんだよな。説明してくれないか、リリィ」

「簡単なことです。私もルルーシュ様も、大きく分ければブリタニア側の人間でしょう? 私達に仲間割れの意思はありませんが、()()()()()()()()()()()日本側にギアスがあった方がパワーバランスが取れるのではないでしょうか」

 

 いや、俺も日本人なので、本来は日本側なんだが。

 リリィ・シュタットフェルトの肩書きを捨てるわけにもいかない以上、基本的にはブリタニア人として行動しなければならない。

 ここでシュタットフェルト家もカレンも会社も捨てて篠崎百合に戻るのはさすがに無責任すぎる。

 

 神楽耶は俺の説明に微笑み、

 

「加えて言えば、キョウト六家も一枚岩とは限りませんし」

 

 神楽耶はキョウト六家のトップ。

 実質的に日本のトップと言っても過言ではないが、当人は戦闘能力のないただの少女だ。スザクがいなければそこらの暴漢に負けかねない。

 彼女が余裕をもって倒せるのはナナリーや俺くらいの相手だけだろう。

 

 つまり、味方に狙われる可能性はある。

 

 原作でも、神楽耶に近い立場の別の少女が「お飾りのトップなら挿げ替えればいい」とか言って殺されかけていた。

 これにはさすがのスザクも理解を示さざるをえなかったらしい。

 彼は長めの黙考を経たうえで顔を上げ、決然と言った。

 

「わかった。なら、僕もギアスを持とう」

「よろしいのですか?」

「ああ。リリィがルルーシュの側につくのなら、俺と神楽耶の両方が持ってちょうどお相子だろう」

 

 近しい者同士でギアスを持ちあうというのは確かに悪くない。

 何かあった時、事情を知っている者に止めてもらえる、と思えば気も楽になるからだ。秘密を共有しあうこともできるので、いわゆる超越者の孤独も薄まるだろう。

 

「どうです、C.C.? 構いませんか?」

「……やれやれ。本来はこんなに安売りするものでもないんだがな。まあ、構わん。長持ちする保有者がいるのは私にとってもいいことだ」

 

 意味深としか言いようがない台詞に、ルルーシュと神楽耶がかすかに眉を顰めていた。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「キョウトに戻るのは久しぶりですわね」

「ああ。ルル──君も、西に行くのはあれ以来だろう?」

「ああ、そうだな」

 

 エリア11の総督府を出た後、ルルーシュとナナリーは神楽耶、スザクと合流、咲世子を伴ってキョウトへ移動することになった。

 最初に乗り込んだのは貨物トラックの荷台という風情も何もないものだったが、神楽耶はどこか楽しげでさえあった。

 まるで、向こうでしなければならない「仕事」を苦にしていないかのようだ。

 

(着いたら、キョウト六家の重鎮たちを「決定事項だ」でごり押し、日本再興について「消極的な承認」以上の返答を得る。その上で直ちに俺とナナリーの亡命を発表し、エリア11の総督府に日本自治政府の承認を要請する)

 

 並行して協力者を集め、復興のための資材集めなども始めなければならない。

 ルルーシュの頭脳をもってしても簡単な仕事にはならないだろう。そういう意味では、向こうの政治に長けている神楽耶の協力はありがたい。

 あるいは、神楽耶が明るいのは新たに得た「お守り」のせいもあるかもしれないが。

 

「お兄様、どうかしました?」

「いや。なんでもないよ、ナナリー」

 

 膝の上に乗った妹からの問いかけに微笑んで答える。

 

「協力者が多いっていうのは有難いな、ってね」

「はい。お友達は多い方が楽しいです」

 

 時折、襲ってくる揺れに身を任せながら再び思考を巡らせる。

 

 神楽耶とスザクのギアス取得は上手くいった。

 二人とも効果はわかりやすいものだったといっていい。

 

 スザクが得たギアスは仮称「ギアスアナライザー」。

 対象がギアスを所持しているかどうか、所持しているのならどんな効果かを判別できる。

 手の内さえわかれば後は自力で打開する、という、スザクのスタンスがわかりやすく現れたと言っていいだろう。

 

 そして、神楽耶のギアスはスザクのギアスによって詳細が判明した。

 効果は「幸運」。

 使用している間、神楽耶の運が良くなる()()()。普段に比べて運が良くなったかどうかなど確認のしようがないのでよくわからないが、危機が迫っていそうな状況でとりあえず使っておけば生存率が高くなるかもしれない。

 このギアスについて、リリィは何故か「最強ですね」と言っていた。

 なお、C.C.のコメントは「つまらん奴らだ」であった。

 

(あの女も謎が多すぎるな)

 

 本人が無害であるのは事実だろう。

 身のこなしこそなかなかだが、身体能力自体は一般的な少女と変わらない。スタンガンでも使えばリリィでも無力化できる可能性がある。

 ただ、彼女はまだ何かを隠している。

 おそらくはギアス関連で、だ。リリィはうすうすそれに気づいている節があるが、確証がないのか、それとも「言っても仕方ない」とでも考えているのか口にはしていない。

 

 そんなC.C.は東京租界に置いてきた。

 リリィが保護者なのだから連れてくる方がおかしい、というのもあるのだが、彼女のことを知れば(神楽耶がそうしたように)その力を求める者が出てくるかもしれない。

 あるいは、かつて行われていたという「非人道的実験」が場所を変えて行われてしまうかもしれない。

 日本人以外にとってはアウェーと言っていい場所に連れてくるのは気が引けたのだ。

 

「咲世子さん、すみません。向こうでの安全が確保できたらすぐ戻ってもらって構いませんから」

「ええ、ありがとうございます、ルルーシュ様」

 

 どこか遠くを見ていた咲世子に話しかけると、彼女はすぐににこりと微笑んだ。

 

(妹が心配だろうな)

 

 とはいえ、神楽耶とナナリーの二人をスザクだけで守り通すのは困難と言わざるをえない。

 ついでに言うならルルーシュだって「危なくなったら逃げる」程度が精いっぱいであり、荒事をしろと言われたら自信はまるでない。

 ルルーシュとナナリーの存在をキョウト側に認めさせるまでは護衛として居てもらうしかなかった。

 キョウトの協力を取り付け、兄妹の生存を公表してしまえば身の回りはだいぶ安全になる。

 

 ブリタニア側、というかその中の急進派にとって、ルルーシュ達兄妹は「秘密裏に抹殺しなければならない対象」だからだ。

 存在を明かされてしまったら殺す価値は半分以下になる。

 死んだと思われていたブリタニアの皇族が日本人と手を取り合って日本再興を目指す。そんなお題目が明らかになった上でルルーシュ達が死ねば「彼らを快く思わない勢力の仕業だ」と誰もが思う。当然、日本側もブリタニア批判として用いるだろう。

 明確に「責めるべき非」が生まれた場合、周辺諸国がブリタニアに対する態度を悪化させる可能性が出てくる。そうなれば最悪「ブリタニア対それ以外」による世界大戦の勃発である。

 内部に「できれば穏便に済ませたい派閥」を抱えたまま、かつてない大規模戦争を乗り切れるのか。冷静な人間であれば試してみたいとは思わないだろう。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

 たとえ大蛇が出たとしても知略で篭絡してみせよう。

 ルルーシュは密かに笑みを浮かべた。


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