ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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皇女の友人・リリィ 八

「社長室の椅子がふかふかすぎて落ち着きません」

「だからって休憩所で仕事しなくてもいいのでは?」

 

 俺が寝込んでいる間に正式稼働していた新社屋。

 目の届くところでわいわいがやがやしていた旧オフィスと違い、創立メンバーも各開発室や研究室へ分かれていってしまったため、別の部署の人間でも気軽に会えるようにと作られたのが「休憩所」である。

 会社の規模から考えるとかなり広めのスペースにはふかふかのソファや白いテーブル、観葉植物に飲み物の自販機などが設置されており、社員なら誰でも利用できる。

 普通に休憩するもよし、ランチに使うもよし、互いの仕事の愚痴を言い合うもよし。ただし煙草は喫煙所でお願いします、という、もしかしたら全スペース中で一番拘ったかもしれない場所だ。

 

 社長室なんて適当にそれっぽい空間になっていればどうでもいい。

 安物でいいからそこそこ見栄えがするものを見繕っておいてください、とお願いしたら「そうはいきません」とそこそこ値の張る奴を揃えられてしまったが、まあその程度のノリである。

 

 何しろ、社長室は社長以外殆ど使わない。

 対して休憩所は社員の殆どが使うのだから、重要度は段違いだ。

 ということは、俺にとっても居心地がいいわけで。

 

「あそこにいても寂しいんですよ」

「秘書を付けたじゃないですか」

「ええ、まあ。でも彼女の仕事はむしろユーザーの代表になることですし」

 

 秘書というのはセシリアことC.C.のことである。

 彼女は今、社長室の隣に作った社長用の宿泊スペースでゲームをプレイ中だろう。

 家からルルーシュ達(というか咲世子)がいなくなってしまったので、一人C.C.を置いておくのもまずい(地下室に置いておいても勝手にピザを頼んで台無しにするに違いない)ということで、なるべく俺が連れて歩いているのだ。

 シュタットフェルト家に帰る時だけは学園の部屋に置いてきて、隣の部屋であるユーフェミア(というか護衛のメイドさん)についでに守ってもらうようにしている。

 ぶっちゃけ、学生の俺に秘書なんて宝の持ち腐れ。

 まあ、単位を取り終わったお陰でこうして会社に来られるようになったのも事実だが。

 

「あ、でも、ここにいると社員の皆さんの迷惑ですね……」

 

 社長が休憩所に居座っているとか何の罰ゲームだ。

 

「いえ、別にそれはいいんですが」

「あれ?」

「というか、逆に人が集まりすぎて業務効率が落ちます」

「あー」

 

 俺の顔を見て萎縮する社員なんてうちには殆どいなかった。

 ここでチーズ君を抱きながらパソコンをいじっていると、数分おきに「飴食べます?」とか「お菓子ありますよ」とか「写真撮っていいですか?」とか言われるなあ、とは思っていたのだが、どうやら客寄せパンダと化していたらしい。

 休憩は一時間に五分、などとけち臭いことを言うつもりはない。むしろ、放っておくと何時間も熱中する人間が多いので、休める時にまとめて休んでおいて欲しいが──無駄に居座る人が増えるのは良くないかもしれない。

 

「わかりました、社長室に戻ります」

 

 と言うと、周りにいた社員から「えー」と残念そうな声が上がる。

 

「というか、自宅が社長室で良かったかもしれませんね」

「まあ、社長の場合はそうかもしれませんね」

 

 初期から色物揃いのスタッフに揉まれた結果、庶務を務めつつ手の足りない部署のヘルプを行い、時には俺のお守りまで担当することになった扇要は「もう慣れた」とでも言いたげな様子で笑った。

 

 と。

 

 休憩所の一角に設置されたテレビの方からどよめきが上がったのは、そんな時のことだった。

 

 

 

 

 

『この度はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます』

 

 画面に映っていたのはスザクの姿だった。

 彼の隣にはルルーシュ、そしてその隣にはナナリーの姿もある。和服姿のスザクに対し、ルルーシュ達はスーツにドレスだ。和式で揃えることで「日本に身を寄せた」イメージを強調する手もあったはずだが、ここは別の人種が手を取り合うことのアピールを優先したか。

 他に並んでいるのはいずれも成人男性。その中心に少年少女がいるのは不思議な感じだが、彼らの堂々とした態度が違和感を打ち消している。

 

『私は枢木スザク。亡き日本国総理大臣、枢木ゲンブの息子です』

 

 報道陣は殆どがブリタニア人。

 中には日本人の姿もあるが、ごく少数。更にそのうちの殆どは名誉ブリタニア人としてブリタニアのテレビ局のスタッフとなっている者だ。

 

『本日、皆様にお集りいただいたのは二つ、ご報告したいことがあるからです。一つはここにいる二人についてです』

 

 示されたルルーシュとナナリーは丁寧な会釈をする。

 敢えてブリタニア式で行われたそれは、彼らが十分な教育を受けた──つまりは高い身分の出身であることを暗に示した。

 

『初めまして。私はルルーシュ。かつてルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという名で呼ばれていたものです』

『妹のナナリーです。お兄様と共に、かつて神聖ブリタニア帝国の皇女をしておりました。目と足が不自由な身のため、お見苦しいかとは存じますが、どうかご容赦くださいませ』

 

 亡き首相の忘れ形見に、ブリタニアの皇子と皇女。

 会見の場はもちろん、休憩所まで騒然となった。

 

「社長、これ大ニュースじゃないですか!?」

「ええ。ゲームでもこんなことそうそうありませんね……」

 

 全部知ってました、とはもちろん言わない。

 

『先の戦争が始まった際、二人は私の家に客人として招かれておりました。そして故あって、本国へ帰ることのできぬまま、今日この日まで生き延びていたのです』

『我々に帰る場所はありません』

『私達にとって、今いるべき場所は既に本国ではなく、友人のいるこの地になっております』

『私はこれから彼らと手を取り合い、新しい日々を始めていきたいと考えております』

 

 ルルーシュ達はスザクと旧友であると同時に、日本への愛着を持っている。

 手を取り合う動機付けとしては十分である。

 とか思っていたら、携帯電話が物凄い勢いで振動し始めた。SNSの通知やらメールやら。アッシュフォード学園の生徒達が一斉に反応しているんだろう。

 

『それがもう一つのご報告です。私はこのルルーシュ、ナナリー、そして志を同じくする有志達と共に、日本再興に向けて本格的に動き出すことを宣言します』

 

 そこからスザクは語った。

 

 父・ゲンブが()()()()()()によって殺された後、彼自身も哀しみに打ちひしがれたこと。

 だが、そんな時でも支えてくれた人がいた。

 スザクは気力を取り戻した。いつの日か日本という国が復活できるよう、自分は力を蓄えようと。そして、ブリタニア側の配慮と善意によってアッシュフォード学園に入学し、そこで多くの経験をし、また多くの友を得たこと。

 そして気づいた。

 

『何も完璧な形での復興でなくともいいのです。一度、小さな国から日本を再スタートさせましょう。そして、その国を我々と、そして、祖国を失った皆さんの手でもう一度大きくするのです』

『行き場を失った我々を彼は受け入れてくれた。私はその恩を返したい。きっと私にもできること、私にしかできないことがあるはずだ』

『戦争は終わりました。神聖ブリタニア帝国は決して敵ではありません。彼らが許してくれた再興のチャンス、それを今こそ使いたいと思います』

 

 詳細についてはエリア11総督府に計画書を提出、その承認を待たなければならないために後日になるとした上で、現時点での主要メンバーが発表された。

 

 首相、枢木スザク。

 首相補佐(兼副総理)、ルルーシュ・ランペルージ。

 

 便利役のようなポジションには紅月ナオト、警備・防衛の責任者として元日本軍人の藤堂鏡志朗の名前もあった。

 

「ナオトぉ!?」

「お知り合いですか、扇さん?」

 

 連絡来てなかったのかよお前、という意味も込めて尋ねると、

 

「え、ええ、まあ。……こんな話、全然知りませんでした」

 

 あの野郎、とでも言いたげな表情で応えてくれた。

 まあ、うちの会社で楽しそうにしているし、何より彼に連絡するとカレンにばれかねないから内緒にされたんだろう。

 決してハブられたわけではないはず。

 扇は悪い奴ではないものの、髪型のせいもあってチンピラっぽく見えたりするから、ちゃんとした組織の創立メンバーには相応しくないというのもあるだろうし。

 

「でも、そうか。日本が……」

 

 ぐっと拳を握りしめた扇は俯き、何かを堪えているようだった。

 別に泣きたい時に泣いていいと思うが。

 

「良かったですね、扇さん」

「社長……」

「扇さんだけじゃなく、日本の皆さん全員にとって朗報といっていいでしょう。そしてもちろん、私にとっても」

「へ? 社長にとっても?」

 

 俺は「もちろんです」と微笑み、

 

「日本の方が穏やかな生活を取り戻せば、ゲームを買ってくれる人がたくさん増えるじゃないですか」

「あ、ああ。なるほど」

 

 若干引き気味な反応をされた。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「びっくりしたなんてもんじゃないですよ! ルルとナナちゃんが皇子様と皇女様だったなんて! しかもスザク君と協力して日本再興って、なにこれ!?」

「いや、ほんとびっくりしたわ、これは」

「ミレイちゃん、言うほど驚いてなさそう」

「そう言うニーナさんも一周回って冷静ですね……」

 

 衝撃の発表がされた日の夜。

 アッシュフォード学園クラブハウスの一室にはシャーリー、ミレイ、リリィ、ニーナといったいつものメンバー──もとい、生徒会関係者が集まっていた。

 ルルーシュもスザクもいなくなったせいで肩身が狭くなった感のある、残る生徒会メンバーの黒一点、リヴァル・カルデモンドも溜め息を吐いて、

 

「ほんとびっくりだぜ。こんなことならルルーシュに金貸しとくんだった。高い利子つけて」

「ちっちゃいこと言ってるわね。私なら撮りためたルルーシュとナナリーの秘蔵写真を高く売りさばくわ」

 

 ミレイはふふん、と笑ってリヴァルに対抗した。

 お調子者の少年は「その手があったか!」と言い、一枚噛ませてくれと迫ってくる。それを適当にかわしながら、ミレイは思った。

 

(ルルーシュが自分から皇子の肩書きを使うなんて思わなかったなあ)

 

 学園での彼は基本的にクールな態度を崩さなかったが、親しい者には笑顔を見せてくれることもあったし、からかってやるとそれはもう良い反応をしてくれた。

 端的に言えば「楽しそう」だったのだ。

 だから、ミレイはそんな日常がもっと続くと思っていた。ただのルルーシュとして、彼もこの場所に居てくれると思っていたのだ。

 だが、現実にはそうもいかなかった。

 

 直接の原因となった少女はリリィやシャーリーの傍に立って笑顔を浮かべている。

 クラブハウスに住んでいるユーフェミアの旧友(という建前の護衛)であるジノはこの場にはいない。大方、本国か軍部あたりと連絡を取り合っているのだろう。

 ユーフェミアが悪いわけではない、というのはわかっている。

 いつ、ああいう事態が起こってもおかしくなかった。それがたまたま早めに起こったというだけだ。いや、もしかしたら遅いくらいだったのかもしれない。

 

 ただ、なんとも言えない寂しさのようなものはあった。

 

「先輩。先輩はこのこと、知ってました?」

 

 タイミングを見て耳打ちすると、ルルーシュ達よりも付き合いの長い小柄な少女は、いつも通りの笑みを浮かべて答えた。

 

「いいえ。でも、いつかはこうなるような気もしていました」

「そうですか」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 理解したミレイはリリィに対してかすかな嫉妬を覚えるとさっと打ち消し、もっと楽しいことを考えようと自分に命じた。

 日本が復活するのは良い事だ。

 スザクも神楽耶も今では大事な友人だ。そんな彼らが故郷を取り戻すのなら喜ばしいことである。

 日本とブリタニアが友好的なまま両国が共存するのなら、ルルーシュ達のところに遊びにいくことだってできる。忙しいだろうからちょくちょく顔を合わせるわけにはいかないかもしれないが、名誉ブリタニア人は携帯電話を持てないせいで連絡が取りにくかった神楽耶達とも電話できるようになるかもしれない。

 

「よーっし、ピザでも取ってお祝いしましょうか!」

「会長……そうですね! ルルの居場所がわかっただけでも一歩前進ですし! 東京租界周辺から開発するのなら近くに来てくれるかも!」

「あの、ミレイさん。ピザを取るなら私は──」

「はいはい。先輩はサラダが食べたいんですよね。ご心配なく、ちゃーんと注文しますから!」

 

 さすがに酒を飲むわけにはいかなかったが、一同は遅い時間まで大いに騒ぎ、愚痴を言い合い、なんだかんだでルルーシュ達の前途を祝したのだった。

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