ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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闇を見通す者・リリィ 三

「いやあ、なかなかいいのが出来上がったねえ?」

「ええ。ここまで来るのは本当に大変でしたが……」

 

 某日。

 特派研究施設内のとある一室で、わが社と特派の共同開発である新型シミュレーターの最終試験が行われていた。

 試作品ということもあって外観は二の次、既存のシミュレータと変わらない印象ではあるものの、中身に関しては大幅なブラッシュアップが行われている。

 内部機器の配置や表示を現行機の実物により近づけ、内部プログラムに関しては全くの別物。KMF(ナイトメアフレーム)の動作部分のデータと環境データ(マップ構成や地面、建物の質感等)を別個に分けることによって新しいマップを入れたい時やOSの異なるKMFをテストしたい時などに一からプログラムし直す必要を無くし、拡張性と整備性を大幅に向上させている。

 メカ好きのスタッフと特派の研究員が悪ノリして凝りまくったせいでパイロットスーツを着ずに使用しようとすると違和感を覚えるほどの本格仕様だが、お陰で僅かな環境の違いによる影響までシミュレーションできるものに仕上がった。

 

 完成に行き着くまでにはテレビで特集番組が組めそうなくらいに試行錯誤の連続、挫折と挑戦の繰り返しがあったのだが、お陰で良い物ができたと思う。

 もちろん細かい調整は必要だし、都度アップデートしていく必要はあるわけだが、今のところ大きな問題は起こっておらず、特派側からも好評。

 正式採用されればこのシミュレータのメンテナンス費用だけで毎月ある程度の収入が予定されていたりする。

 

 さて、今行われているのは正規の軍人さんを呼んでの稼働試験。

 

 実機を乗りこなしている方に体験してもらうことでより本物に近づけることや、荒っぽい動かし方、制作側が意図しない挙動が起こった際にエラーを吐かないか確認するためのものだ。

 エリア11に駐留中のブリタニア軍から数名に来てもらい、今は最後の一人がテストしている。

 体格や性別が違う者を、というこちら側からの注文に従って派遣されてきた女性軍人で、名前はヴィレッタ・ヌゥ。階級は騎士候。やや青みがかった銀髪と褐色の肌が印象的な、同性から大人気であろう美女だ。

 なかなかの腕前らしく、シミュレータ上のサザーランドを的確に操ってプログラム操作の敵機を翻弄している。

 

『自動操縦のKMFなど所詮はこの程度か!』

 

 なかなか威勢の良い声も聞こえてくるので、楽しんでもらえているようである。

 

「で、リリィ? これ、ランスロットのデータをインポートしたらすぐテストできるのかい?」

「基本動作だけなら理論上は可能です。既存機にない機能を使う場合には追加のプログラムをしないといけませんが……」

「ちょっと面倒臭いねえ。ま、そもそも動かせなかった今までのヤツよりはずっとマシだけど」

 

 我が婚約者ことロイド・アスプルンドは今日も元気にいつも通りである。

 セシルなんかは退院後に初めて顔を見せた際、大げさに喜んでくれたりしたのだが、彼に関しては「来たんだ。退院おめでとう」で終わりだった。それが少しばかり寂しくもあり、他の人が過剰反応ばかりだったこともあって逆に嬉しかったりもした。

 まあ、ロイドの実家の方はあれ以来「もうさっさと結婚してしまえ」とうるさかったりするのだが。

 うちの会社がかなり成果を上げていて、俺にもそれなりの資産があるため、結婚してしまえば俺が死んでも遺産が入ってくるとか考えているらしい。

 もちろん、籍を入れてしまえばアスプルンド家から使用人やボディガードを出し放題、危険から守りやすくなる、という目論見も含まれているのだが。

 

「いいじゃないですか。これってある意味、リリィちゃんとロイドさんの共同作業でしょう?」

 

 と、ロイドの助手的立ち位置がすっかり板についたセシルが笑う。

 

「開発したのは僕の部下とリリィの部下だけどねえ」

「皆さんで力を合わせて作り上げたのですから、いい話ではありませんか」

「さすがリリィちゃん。ロイドさんも見習ってください」

「はいはい。……まったく、キミとリリィが一緒になると敵わないよ」

 

 お手上げ、とばかりに離れていくロイド。

 セシルが「勝ったわね」とばかりにウインクしてくるのに微笑み返してから、俺は視線をわが社のスタッフの方へ向けた。

 前にシミュレータをテストした人員にももう一度、ということで何人か連れてきていたのだが、

 

「……あの軍人さん、美人だったよなあ」

「扇さんはああいった方がタイプなのですか?」

「うえっ!? しゃ、社長、聞いてたんですか!?」

「ええ、少しだけですが」

 

 実はあのヴィレッタこそが原作で扇と結ばれた女性だ。

 記憶喪失の彼女を拾い、恋仲になったのをきっかけに原作における扇の人生は大きく変わったと言っても過言ではない。

 記憶喪失中のヴィレッタは本来の強気な性格から清楚でおしとやかな性格に変わっていたので、そちらが本来の扇の好みなのかと思っていたが。

 

「気の強い女性が好みなら、うちの義妹なんかもお好きですか?」

「いや、カレンちゃんに手を出すのはさすがにちょっと……って、社長、知ってたんですか?」

「はい。カレンさんから扇さんとは知り合いだと」

「え、扇さんって社長の妹さんとも面識あるんですか? シュタットフェルト家なんてガチのお嬢様じゃないですか」

「第一開発室のあの子ともいい雰囲気な癖に、この女たらし!」

「ちょ、ちょっと待った! 濡れ衣ですって!」

 

 わいわいやり始めたわが社のスタッフ。

 特派側のスタッフも交じって恋バナ(という名のゴシップ話)に花を咲かせているが、助け船は出さないでおく。『第一開発室のあの子』が扇のことを気にしているのは俺の目から見ても事実だし。

 まあ、もし扇がヴィレッタに一目惚れして求婚するというのなら、それはそれで構わないとは思う。

 カレンの兄・ナオトが日本再興に協力している今、レジスタンスの活動はほぼ休止状態だろうし、日本とブリタニアが仲良くやれるのなら、ゲーム会社勤務の扇と軍人のヴィレッタがくっつくのに大きな障害はないのだ。

 

「さて。シミュレータが上手くいったら、いよいよロボットアクションゲームが本格始動ですね」

 

 ナイトメアフレーム熱がどんどん高まっているここで売り出せれば「どかん!」と売れる可能性が高い。

 平和への期待と共に、俺は事業計画を脳内で膨らませた。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「ただいま戻りました。変わりはありませんでしたか?」

「お帰り。ああ、平和そのものだ。この学園は気楽でいいな」

 

 リリィによってセシリア・クラークという偽名を与えられている不老不死の魔女・C.C.は、アッシュフォード学園内のリリィの私室にてゲームをプレイしながら、振り返りもせずに答えた。

 第三作目の「KMFを正式に登場させた戦略SLG」に続き、第四作目となる「幻獣育成RPGの続編」も発売されたため、なかなかに大忙しだ。

 出歩かなくても暇が潰せるうえ、リリィの秘書という肩書きを得たお陰で堂々とピザを頼めるようになったので、とても快適な生活が送れている。代わりに時折、秘書業務に駆り出されるのが難点だが、そのくらいは代価として大目に見てやっている。

 

(最近は有能な秘書が加わったしな)

 

 その有能な秘書──正確にはSP兼メイドである咲世子はリリィの外出着を脱がせて部屋着に着替えさせると苦笑いを浮かべ、空になったピザの箱を片付けてくれる。

 頼まれなくてもスケジュール管理まで完璧にこなし、今回のようにC.C.が出向きにくい場所(さすがにブリタニア軍人が関わる場所がまずいことくらいはC.C.でもわかる)には率先して赴いてくれる。

 

「ああ。すまないな、咲世子」

「咲世子さんは私のメイドなんですから、あまりこき使わないでください」

「構わないだろう。お前のメイドなら私のメイドのようなものだ」

「あなたの雇用主も私なんですが」

 

 リリィの抗議は聞こえなかった振りをしてスルーした。

 そんな二人を見て咲世子はくすりと笑い、

 

「セシリア様はなんというか、手のかかる妹のようですね」

「妹はやめてくれ。私はそんな子供じゃないぞ」

「チーズ君から手を離してから言ってはいかがでしょう」

 

 またしてもリリィが嫌味を言ってくる。

 ふん、と突き放し、チーズ君をぎゅっと抱きしめなおしてからゲームを再開する。

 この愛らしくも憎らしく、しかしどうにも飽きの来ない天才的なデザインのマスコットはC.C.にとって相棒のようなものである。手放すことなど考えられない。

 別の部屋に泊まる際、このチーズ君を連れていくべきか、それとも部屋ごとに別のチーズ君を置くかはとても悩ましい問題である。複数のチーズ君を所有するのはすなわち浮気ではあるまいか。リリィなどはさらっと二体目を手に入れようとしていたが、その軽薄ぶりが許せなかったC.C.はひとまずそれを阻止している。

 

「そういえば、ルルーシュ達の方も順調らしいな」

「ええ。今週末にも総督府へ正式な申請を行うとか」

 

 便りがないのはいい便り、なんていう言葉もあるが、会見時にかなりの大騒ぎになった知名度の高い案件だ。

 頓挫するとか、何かしら悪い方向に進めば必ずニュースになる。それが無いということは順調に進んでいるということである。

 もちろん、良い方のニュースも逐一報道されているし、最初の「復興日本」が東京租界周辺と決まっているため、具体的な準備が進んでいることが噂としても入ってきている。

 本格的な整備や資材搬入はまだ行われていないものの、許可が出ればいつでも始められる手はずは既に整いつつあった。

 

「上手くいけばいいがな」

 

 呟くように言うと、リリィは不思議そうに首を傾げる。

 

「成功しない、と、思っているのですか?」

「ならお前はこのまま何事もなく成功すると思うのか?」

「それは……」

 

 少女の表情が困ったような笑みに変わった。

 言葉よりも明確に想いを表したリリィを見て咲世子が眉を顰め、

 

「暗殺等々については十分に注意をしているはずです。後は正当な進め方をしさえすれば問題はないはずですが」

「……そうですね。相手方が常識的な対応をしてくれさえすれば、ですが」

 

 わかっているじゃないか、と、C.C.は内心で呟く。

 

(相手はあのシャルルだ。一筋縄ではいかないだろう)

 

 現ブリタニア皇帝シャルルのことは良く知っている。

 リリィには言っていないが、皇妃マリアンヌにギアスを与えたのは他でもないC.C.だ。だからシャルルとも面識がある。かつては友人だったと言っていい。

 マリアンヌ殺害の件を機に袂を分かってしまったが、()()()()()、シャルルの苛烈な性格と、彼のバックにいる者の悪辣さは知っている。

 といっても、それを伝えるつもりは毛頭ないが、

 

(さて、どこまで勘づいているのやら)

 

 リリィ・シュタットフェルト。

 世捨て人のような生活を送り、そのせいで軍人なんぞに捕らえられてしまっていたC.C.。そんな彼女が解放後初めて、数年ぶりにギアスを与えた少女。

 ギアスディフェンダー──あんなギアスを見たのは一体何年ぶりだろうか。

 似たようなギアスは見たことがある。ギアス保有者がもっと身近にありふれていた頃に一度だけだが。

 

 果たして、ギアスというものの存在を契約直前に知った少女が「それ」を手に入れるのはどの程度の偶然か。

 

 事あるごとに意味ありげな言動を繰り返し(本人に言えば「あなたが言いますか」と言ってきそうだが)、ルルーシュやスザクを焚き付け具体的行動に踏み切らせた節さえある彼女なら、かなり深いところまで知っている、あるいは気づいているとしても不思議はない。

 ただ、ギアスにまつわる深淵を覗いているのだとして、それでもなおC.C.を手元に置き続けているのは一体どういうわけか。

 

(全て知っている……いや、まさかな)

 

 だとすれば、リリィはある意味、C.C.以上に理解しがたい存在ということになる。

 もし、そんな者がいるのだとすれば──。

 頭に浮かびかけた想いを捨て去り、C.C.はリリィの言葉に相槌を打った。

 

「相手は十を超える植民地を持つ軍事大国だからな」

「何が起こってもおかしくはありません。そう──自ら世界大戦へと向かっていく可能性さえないとは言い切れません」

「そうだな」

 

 C.C.の見解では、世界大戦が起こる可能性は低い。

 シャルルは人の命などどうでもいいと思っているところがあるが、彼には「壊したくないもの」が存在する。それが破壊される可能性を押してまで大破壊、大虐殺に踏み切るとは考えにくい。

 そうしなければ彼の『目的』に支障が出ると判断したのなら話はまた別だが。

 

(それに、()がどう動くかもまた別の話か)

 

 かの者は既に幾度か動いている。

 リリィやルルーシュ、スザクに神楽耶。C.C.がギアスを与えた者達が害されるのは快いとは言えないが、C.C.には積極的な干渉を行う気はない。

 不老不死の魔女は全てを捨てた。

 人の世界の出来事は人がなんとかすればいい。

 

 学園内で「白い魔女」などと呼ばれている少女がどう考えているのかは知らないが。

 

「リリィ様。何か軽くつまめるものでもお作りしましょうか?」

「いいですね。では、お願いします」

 

 ひとまずはこの主従──普段はできるだけ普通の主従として振る舞うことにしたらしいが、正直距離が近すぎる──の世話になるとしよう。

 

「おい咲世子。私の分もあるんだろうな?」

「もちろん、セシリアさんの分もご用意しましょう」

「セシリアさんを甘やかさなくていいんですよ、咲世子さん」

 

 それから一週間と少しの後、ルルーシュ達が提出した日本再興のための申請は、ブリタニア本国の決定により棄却された。

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