ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
『彼女の本名は篠崎百合。日本とブリタニアの戦争が始まる前にシュタットフェルト家の養女となり、会社を興して秘密裏にイレブンを支援していた。日本びいきなのは家柄が理由ではない。当人が元日本人だからだ』
誰だか知らないがやってくれた。
若い男のものと思われる声は、ルルーシュ達くらいしか知らない──ユーフェミアやミレイにさえ伝えていない俺の裏事情をこと細かに暴露した。
おそらく、というかまず間違いなく、会社からの電話も同じような話だろう。
あまりに突然の事態に、カフェテリアに集まっていた生徒達は声を失い、それから大きくどよめき始めた。
「なにこれ?」
「リリィ・シュタットフェルトって……前会長のことだよな?」
「篠崎って……」
どうしたものか。
いつか来るだろうと覚悟はしていたものの、ずっとこの日が来なければいいとも思っていた。
しらばっくれるか認めるかは難しい二択だ。
正直言って、俺個人としては認めてもそれほど支障がない。
だが、認めてしまうと困る者もいる。
シュタットフェルト家の養父と養母は確実に困るだろうし、ロイドも微妙な立場に立たされてしまう。
そして何より、裏切られたと感じたアッシュフォード学園の生徒やゲームのファンが新しい日本に反感を抱くかもしれない。
敵の狙いはだいたいそのあたりだろう。
反応によってはユーフェミアから俺を引き剥がすこともできる。ジノが過剰反応する可能性も考慮すれば、悪い作戦とまでは言えない。
俺は悩んだ末に顔を上げ、みんなの視線に応えた。
「この『声』の話はおおむね事実です」
どよめきが起こった。
嘘、と、口元を覆う者さえいる。
アッシュフォード学園高等部の初代生徒会長(二期連続)が実は日本人だったというのだから当然だ。
「黙っていたのは申し訳ありません。ですが、私は皆さんを騙して利用していたつもりも、これから裏切る気もありません。不安も質問もあると思いますが、全て後ほどお答えします。ですから、今はこの声を止める方を優先させていただけないでしょうか」
生徒達の声はだいぶ収まったが、まだ動揺の色が濃い。
俺はミレイを振り返って、
「ミレイさん、放送室の使用申請は出ていませんよね?」
学園中に声を届けているなら原因はそこしか考えられない。
「え? えーっと……ニーナ?」
「はい、リリィ先輩。この時間は誰も使用していないはずです」
「ありがとうございます。では、校内設備の無断使用ということになります。近隣への迷惑でもありますので、ただちに止めてもらわなければなりません」
プレッシャーで胃が痛くなりそうなのを必死に堪え、できるだけ毅然とした表情を作る。
現生徒会長のミレイを差し置いて行動するのは越権行為ではあるのだが、目的を明確に示したことでみんなの表情は良くなった。
俺も、この件に関してうやむやにできるとは思っていない。
逃げも隠れもしないと宣言しているのだから、みんなにとっても今この場で追及する意味は薄い。
他の大勢に先がけてミレイが混乱から立ち直り、
「ゲリラ放送は私の十八番だものね。生徒会長権限を他の人に取られてたまるもんですか。行くわよ、我が生徒会!」
「いや、生徒会長権限でも横暴なんですけど、わかりました!」
「しょうがねえなあ……。リリィ先輩、後で説明してもらいますからね?」
シャーリーやリヴァルといった名物メンバーが動き出したことで流れは決定的になった。
放送室に向かうミレイ達のために生徒達が道を開け、
「先輩。私も行ってきます」
「ニーナさん、その……」
「大丈夫です。日本人でもブリタニア人でも変わらない、リリィ先輩が教えてくれたことですから」
微笑んで歩いていくニーナの態度が、俺の心に温かいものを残した。
結論から言えば、放送室には誰もいなかった。
残されていたのは一台のノートパソコン。ネットにアップされたとある動画(会社から連絡があったものと同じであることを後に確認)の音声だけを流していたらしい。
放送を止めた後、ミレイ達生徒会メンバーは事態の収拾に向けて慌ただしく動きだした。生徒の悪戯だとしても使用許可が出ていない時点で違反である。犯人に注意する必要はあるし、原因を究明して再発防止に努めなくてはならない。
放送室の鍵は開けられていたが、壊されていたわけではなかった。プロなら簡単に開けられるだろうが──外部の犯行なら学園としてセキュリティの強化に取り組んでもらう必要もある。
ミレイやシャーリー、ニーナが動いている間に俺は件の動画を確認した。
映像はほぼ無いに等しい。
前世の感覚で言うと、フリー素材を多用した個人製作の動画といった感じで、音声とテロップがメインのものだ。話している誰かさんも画面に姿を現していないため犯人の特定は困難。
とりあえず動画は外部メディアに保存し、サイト管理者にも通報しておく。
そのうえで、クラブハウスのホールを借りて一般生徒達と向かい合った。
「先ほども申し上げた通り、先ほどの話はほぼ事実です」
「身分詐称っていうことですか……?」
「元日本人であることを黙っていた、という意味ではそう言えるかもしれませんが──養子縁組の手続き自体はブリタニア政府が承認した正式なものです」
俺がシュタットフェルト家の養子になったのは戦争が始まる前のことだ。
戦争から逃げたと言うにはタイミングがやや早すぎるし、養子の手続き自体も両家の合意の上で行われたものなので、不正と言われても困る。
戸籍ロンダリングもありふれているとまではいかないが、貴族レベルでは割とある話。取引やパワーバランスの調整等で幼少期に別の家に引き取られるとか、親世代に聞けばぽこぽこ出てくるレベルに過ぎない。
表向きの経緯からして「孤児を養女として引き取った」だったのだから、日本のそこそこ良い家柄との養子縁組ならむしろ、成立当時の状況的には良い話だ。
養子縁組して程なく戦争が始まったため、角が立たないような設定をでっち上げたに過ぎない。
「イレブンを支援していたっていうのは……?」
「有能な人材であれば日本人でもブリタニア人でも雇用する、というのは設立当時からの我が社の方針です。給料等は契約内容に基づいて支払っているだけですし、労働によって得た対価を従業員がどのように使用するかは当人達の自由でしょう」
うちのゲームで遊んでいる日本人とかもいるだろうが、無償で配ったりした事実は一切ない。
金を払って買ったのなら人種に関係なくお客様だ。
そもそも、本気で裏工作がしたいなら俺みたいな子供を一人ブリタニアに送って「ふーやれやれ」とか普通は言わない。
実際、俺が流した情報なんて、日本で行った予言に比べれば微々たるものだ。
「私の出自についてはアスプルンド家も承知です。いらぬ誤解を避けるために情報を伏せていたので、このような形で暴露されることは心苦しいとしか言えませんが……」
「じゃあ、その、そっちのメイドさんとの関係は……?」
「咲世子さんは血縁上の姉にあたります。ですが、彼女がアッシュフォード家──理事長に雇われたのは私が転入してくる前ですし、私がエリア11に来たのはシュタットフェルト家の事情によるものです」
「私にせよ
ここまで説明すれば、表立って批判できる者はいなくなる。
もともとアッシュフォード学園は自由な校風だ。
スザクや神楽耶が受け入れられている現状、日本人──イレブンという人種に対する差別はもはやないも同然なので、理屈的にも感情的にも納得してもらう土壌は十分にある。
後は、個々人の意見など吹き飛ばすほどの『力』を持った者がどう判断するか、という話になるが、
「ブリタニアから日本に送られた者がいるように、日本からブリタニアに送られた者もいる。それだけの話だろう?」
「私とリリィさんはお互い、本当の素性を隠したうえでお友達になりました。そして、リリィさんは私の本当の名前を知ってもお友達でいてくれました。なら、私も同じです」
元とはいえブリタニア皇族である二人は「大したことではない」というように答え、
「むしろ、裏切られたと思う人間は日本人に多いだろう。僕だって、都合よく戦火を免れた彼女に思うところがないわけじゃない。だけど、いがみ合うことに意味はない。まして、人種に関係なく仲良くしようとしている人間相手なら」
「リリィ様とお呼びするべきか百合様とお呼びするべきか迷ってしまいますが、他に何か言うことがありまして?」
日本側の重要人物である二人もまた、そんな風に答えた。
更に、一同の視線はユーフェミアとジノへと向かう。
皇女の立場は未だ伏せられたままではあるものの、ラウンズに護衛される上位の貴族というのは十分に仰ぐべき立場にある。
ユーフェミアは静かに、俺に向かって進み出てきて、ゆっくりと手を伸ばし──意外と強い力で俺の頬をつねった。
いたい。
「……もっと早く言ってくだされば良かったですのに。わたくしがその程度のことで態度を変えると思いまして?」
「ユーフェミアさま」
「ユーフェミア様、しかしその者は──」
「シュタットフェルト家のリリィ様。そのことに変わりはありません。それとも、それはナイトオブラウンズとしての言葉ですか?」
「っ。いえ……」
唇を噛んだジノは悔しそうに視線を逸らした。
手続きに問題がない以上、俺の行為は反逆にはあたらない。皇帝が過去の自国の判断を覆すというのなら話は別だが。
「なんだ」
「結局、悪戯だったってことか」
話はそんな風にして決着を迎えた。
後日事情聴取が行われたり、といったことはあるかもしれないが、ひとまず学園内で大きな波風は立たなかった。
騒がしく自由なこの学園の校風に、今回は多大な感謝をしなければならない。
「リリィ様。あなたのお覚悟、しかと頂戴いたしましたわ」
人の減り始める中、神楽耶が俺にそっと囁いた。
「……何事もなくて安心しました」
「なんだ。私が誘拐でもされると思ったのか?」
部屋には何事もなかったかのようにC.C.がいた。
珍しくゲームをせず、ピザも食べず、チーズ君も抱かずにベッドに足を投げ出していた彼女は、俺の顔を見ると笑うでもなく言った。
「そういうわけではありませんが、急にいなくなってもおかしくないとは思っています」
「今のところそういう予定はないがな。だがまあ、先のことはわからないのも事実か」
ふん、と、息を吐いた少女は黄玉のような瞳で俺をじっと見つめ、
「騒がしかったが、そちらは終わったのか?」
「学園内の騒ぎは収まりましたが、具体的な対処はまだです。私も会社に戻って指示を出さなければなりません」
「忙しい中、私の心配か。ご苦労な事だな」
案外、C.C.の様子が落ち着いている。
若い男の声。俺の裏事情を詳らかにしたような暴露内容。これまでとは一線を画す情報収集能力からしてロロ達とは別口、C.C.に縁深い
俺が思い浮かべた人物が原作で登場した際、C.C.はかなり取り乱していた。ルルーシュを守るために自分の身を差し出そうとまでしており、そこから考えると作中でトップクラスに相手を危険視していたと考えられるのだが。
「今日は神楽耶さま達がお泊まりになるので、スザクさんに護衛をお願いしてあります。大人しくしていていただけますか?」
「わかった」
やっぱり違うんだろうか。
だとしたらどういうことなのか、と考えつつ、俺は咲世子と共に会社へ向かうことにする。
あらかじめ手配しておいたシュタットフェルト家の車に乗り込み(
「っ」
ひとりでにギアスディフェンダーが起動した。
《視られているわ》
常人には聞こえない
《銀髪の男。歳は十六、七。ヘッドホン付きのバイザーで耳と目を隠してる。視線の動きがわかりにくいけど──おそらく、
咲世子にしかわからないように小さく頷きながら、俺は「やっぱり」と思う。
相手は俺の想像した男で間違いなさそうだ。
だとすると、真の狙いはC.C.か? しかし、だとするとこのタイミングはむしろ好ましくない。先の騒ぎを受けて警備が強化されているはずなので潜入するのは難しい。
危険物の捜索も並行して行われているはずなので、爆発物等の大掛かりな手段の可能性も低いと思われる。
スザク達が一緒にいる以上、力づくでの誘拐も困難。それは別に刺客がいたとしても変わらない。
原作においてルルーシュは
テロリストを率いているわけでもなく、スザクという強い味方がいる今の状況なら、決して勝てない相手ではない。
悩みつつも、俺はそのまま会社に向かうことにした。
念のため警告として神楽耶にメールを打ち、古典的な縦読みで「幸運を祈る」と仕込む。
これで、ほぼ危険は避けられるはずだ。
会社に戻った俺は社員達に対し、学園でしたのと同じような説明を行った。
更に、サイトの管理者には会社としてもあらためて削除依頼を出し、会社のHPやSNSには「弊社社長に関する各種問い合わせについて」などと題してお知らせを掲載、警察に届け出を出しつつ、社員にはボーナスを出して問い合わせ電話への対応にあたってもらった。
具体的な答え方についてはシュタットフェルト家、アスプルンド家とも協議しなければならないが、暴露された場合は明かすしかない、という見解はあらかじめ決めてあった。
そのため、ひとまずの対応は「後日正式な形でお知らせします」「動画の掲載等の悪質行為については許可したものではなく、断固とした対応を行う」ということで統一した。
「もちろん私も泊まり込みでお手伝いしま──」
「高校生は帰って寝てください」
「……はい」
本人が電話に出てどうする、ということで、みんなからは「いいから帰れ」と言われた。
泊まり込みができるように社長室の隣に私室を作ったというのに……。
「私のせいで申し訳ありません、皆さん」
「いや、社長のせいじゃありませんよ」
幸いなことに、騒動を受けて会社を辞める、などと言い出すスタッフもいなかった。
「社長が変人なのはとっくに知ってましたし」
「軍と関わるようになってから情報漏洩は厳しくチェックされてましたし」
「日本人が嫌いならこの会社で働いてません」
「皆さん……」
「まあ、これが熱愛発覚とかだったら裏切られた! ってなりますが」
「あはは……。私、婚約者がいるんですが」
むしろ「気をつけて帰ってください」などと言われながら、俺は会社を後にすることになった。
「リリィ様。このままお屋敷に戻っても?」
「申し訳ありません。少々、学園に用がありますので、そちらに行っていただけますか?」
「かしこまりました」
家でも相談をしないといけないのだが、こっちも外せない用事だ。
シュタットフェルト家の運転手さんには「帰りはアッシュフォード家の車を借りるから」と言って屋敷に戻ってもらい、校門の前で車を降りる。
車が走り去るのを見送って──さて。
「こんばんは、リリィ・シュタットフェルト。いや、篠崎百合の方がいいのかな?」
すっかり暗くなった道の向こうから、咲世子から聞いていた通りの人物が現れる。
いるのは分かっていた。
さっきからギアスディフェンダーが発動しっぱなしだったからだ。
おそらく学園前でずっと張っていたのだろう。ストーカーか何かか。いや、ストーカーなんだが。
「初めまして。星の綺麗な夜ですね」
「そうだね。……ああ、でも、君の輝く瞳の方がよっぽど綺麗だよ」
「それは、ありがとうございます」
なんとなく背筋がぞくっとするのを感じつつ微笑んで答える。
「お名前を伺っても?」
「僕の名前はマオだよ。……ああ、良い! 良いね、リリィ! 聞こえない! 聞こえないよ!」
「聞こえない。あなたのギアスは心の声を聴くものなんでしょうか」
「ああ、そうだよ。さすがだね、頭がいいんだ。ますます欲しくなっちゃったな」
笑みを浮かべる少年──青年の方がいいか? なんとなく言動のせいで幼く感じるものの、身長は高く顔立ちも悪くはない。
だが、全身から発散される危険な匂いが良くない。
傍に控えた咲世子が僅かに攻撃よりの姿勢に移行し、
「できたらそのメイドをどけてくれないかな? たぶん、僕じゃ心が読めても勝てないんだよ」
まあ、そうだろうな。
スザクとかならともかく、並の身体能力では咲世子には対応できない。まっすぐ行ってぶっ飛ばす、という思考を読んでる間にぶっ飛ばされて終わりである。
「あなたのご用件を教えて下さるなら考えます」
すると、マオは鷹揚に手を広げて答えた。
「簡単だよ。君が欲しいんだ。C.C.と一緒に僕と来てくれたら、他に何もいらない。君にこれ以上、危害を加えたりもしないよ」
「なるほど」
こいつやっぱり頭がおかしいな、と、俺はあらためて思った。