ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
なんでジェレミアが来たのかと思ったら、ロロがもう一回捕まったからだった。
「何しろ、一度は軍に引き渡した者の再逮捕です。警察からはすぐに連絡がありました。……まあ、さすがに不審がられるのは避けられませんでしたが」
「そうでしょうね……」
皇帝が一番偉い、皇帝に仕える貴族や騎士も偉い、みたいな国だからまだマシだが、「あんたらどういう管理してるの?」と思われても仕方がない。
「ですが、捕まえられたのであれば安心しました」
麻酔が効いているとはいえ、警察が間に合うかどうかは怪しいと思っていた。
ロロが逃げきる可能性ももちろんだが、嚮団の手駒が他にも控えていた場合はロロが始末されることも考えられた。
殺されるのは敵とはいえ心苦しいが、そこに関しては成り行きに任せるしかなかった。
ジェレミアは重々しく頷いて、
「
「それは何よりです」
俺が送った情報も無事活用されそうだ。
何食わぬ顔で頷いた俺は「形式的なものですが」と前置きしたジェレミアから一通りの事情聴取を受け、話せる限りのことを話した。
といっても、ジェレミア以外の兵士もいたので、話せる内容は本当に限られてしまったのだが。
学園の防犯カメラからも俺達が話をする姿、ロロの襲撃に咲世子が対処する姿は確認できるので、正当防衛であることは十分に主張できる。
いや、まあ、メイドが暗殺者を軽々撃退するところはあんまり広まってほしくないんだが。
事情聴取は小一時間ほどで終わり、ジェレミアは帰っていった。
「ご協力感謝します。後日、例の誹謗中傷の件でもお伺いするかもしれませんが、その際もどうかよろしくお願いいたします」
今回もロロ逮捕に貢献した件で感謝状が送られる予定だという。
国に貢献したということで養父母は喜び、カレンは微妙に面白くなさそうな顔をしていた。
ともあれ、これでようやく眠れる。
しばらく眠って疲れを取ったらアスプルンド家に出かけることになる。明日も平日だが、そっちはお休みするしかなさそうだ。
と。
「年頃の男子と同衾なんて許せるわけがありません」
「ちょっ、話が違うよ! 僕はリリィがいないと眠れないんだ!」
寝る際にマオの扱いをどうするか、ということで揉める羽目になった。
彼の『聴心』への対処は今のところ二つ。
俺に触れていてもらうか、俺にギアスを集中してもらうことだが、眠りに落ちようとしている際にギアスを細かく操作するのは当然難しい。となると寝る間も手を繋いでいることになるものの、これは他でもない咲世子が許してくれなかった。
さすがのマオもこの状況では何もしないだろうし、もし何かされた場合は警察に引き渡そうがボコボコにしようが文句を言うつもりはないのだが。
羊を数えるみたいに俺を数えてもらえばなんとか……いや、ちょっと生理的に嫌だな。
どうしよう、と悩んでいると、咲世子が代案を出してくれる。
「マオ。寝ている間も『声』は聞こえるのですか?」
「え? いや、眠ってしまえば平気だけど、そもそも眠れないんだって」
「それなら問題ありません。眠れればいいのでしょう?」
そうして用意されたのは咲世子特製の睡眠薬。
強力な分、長期服用は避けるべき薬だが、代わりに周りがうるさかろうが「こてっ」と眠れるとのこと。
「すごいや! こうなったら咲世子も含めて四人で──」
「リリィ様に不埒なことを考えるようなら即座に成敗します」
「ごめんなさい」
心を読める人間がいるなら心を読まれない訓練ができますね、とか当たり前のように言ってのける彼女が実はいちばんびっくり人間かもしれない。
咲世子の処方してくれた薬は効果抜群で、マオは薬を飲んでから五分もせずに身体の制御が利かなくなりだした。離れすぎなければ起きてすぐ俺に集中すればいい話なので、何部屋か離れたところにマオ用の部屋を用意し、ひとまずそこに寝てもらうことに。
「邪魔者もいなくなりましたので、お休みください、リリィ様」
「ありがとうございます。ところで、咲世子さんは?」
「私は万一、あの男が起きてきてもいいようにこの部屋で休ませていただきます」
なら、せっかくだし一緒に寝たらどうかと提案すると「ですが、それだと安眠してしまう恐れが……」と言う咲世子。
一瞬にして脳内が姉さま一色になった俺はテンションが上がったまま、一緒に寝ようというお願いを押し通した。
「今更婚約解消するくらいなら最初から婚約してないけど? 話は終わったから研究所に戻っていいよね?」
ところ変わってアスプルンド家。
両家揃っての話し合いが始まって二分でロイドが席を立った。
「さすがはロイドさま。いっそ清々しいまでに普段通りですね」
「利害関係のすり合わせをする気満々で来たキミも相当だけどねえ?」
笑い合う(※主観含む)俺達を見たロイドのご両親が「やっぱりこの子に任せるしかないな」という顔になったのがありがたいような、微妙に納得がいかないような。
まあ、ロイドが細かいところを気にするとも思ってなかったので、後はもう帰ってもらっても構わない。
「ではロイドさま。詳細はお父様お母様と詰めてしまっても?」
「ああ、うん。そうしてくれる? あと暇な時にまたプリン買って来て欲しいな」
「かしこまりました」
ロイドがいつも通りで、俺としても一安心である。
彼が「やっぱり嫌」と言う確率も一パーセントくらいはあったと思うので、この結果は非常に有難い。
と。
「ねえ、リリィ? この性格悪そうな奴は誰?」
「言うねえ。僕の方こそキミが誰なのか気になるんだけど?」
精神年齢がお子様なマオがロイドを見て失礼なことを言い、意外と煽り耐性がないらしい(あるいは単に面白がっているのか)ロイドが反応した。
そういえば、この二人ってあんまり相性が良くない気がする。
思ったことを口に出すタイプなのが共通しているし、自分の好きな物を譲れないところもそっくりだ。
「ええと、ロイドさま? こちらはマオ。わけあってしばらく雇用することになったスタッフなんです」
「ふうん、スタッフねえ?」
にやりと笑い、品定めでもするようにマオを見るロイド。
嫉妬してくれている……わけないか。単にわざと煽ってるだけだろう。
「ええ。ひとまずは咲世子さんに教育をお願いして、ある程度作法が身に付いたらゲーム制作を手伝っていただこうと──」
「リリィ。こいつはリリィのなんなわけ? 随分偉そうだけど」
「あれ、話を聞いてなかったのぉ? 僕はロイド。リリィの婚約者だよ」
「婚約者!? お前みたいなやつにリリィは勿体ない!」
そして、ロイドの挑発に見事に引っかかるマオ。
「落ち着いてください、マオ」
「事を荒立てるつもりなら気絶させてでも止めますよ」
咲世子と二人がかりで止めたものの、あまりロイドの前には出さない方がいいかもしれない。
……うん、悪い奴じゃないんだろうけど、この調子が続くようだとかなりきつい。
『声』に悩まされてイライラ状態だと余計ひどかったのだろうし、C.C.が逃げ出したくなったのも頷けるというものだ。
早めに別の対策を用意したいところだが、頭に浮かんでいる方法はどちらも今すぐにはできない。
気長に待つことも考慮しないといけないだろうか。
とか思ってたら、次の日から体調を崩してしばらく寝込んだ。
どうやら無理をしすぎたらしい。せっかくV.V.を撃退したというのに、文字通り忙殺されるようなことになったら台無しである。
◆ ◆ ◆
「私を本国に、ですか?」
「ああ。お前以外に適任がいないからな」
エリア11総督クロヴィスはジェレミア・ゴットバルトを呼び出すと、内密の話として彼と二人きりの場を作った。
ジェレミアにしか頼めない重要な仕事を命じるためだ。
リリィ・シュタットフェルト、およびルルーシュとの出会い、彼らから齎された情報を共有して以来、クロヴィスの中でジェレミアの存在はとても大きなものとなっている。
秘密と志を共有できる仲。側近と言ってもいい位置づけになりつつある男に命じる内容は、当然、彼らにとっての最重要事項に関わることだった。
ジェレミアもまたそれは理解している。
臣下の礼をとると「かしこまりました」と即答してくれる。
「して、どのような仕事でしょうか?」
「うむ。例の機情(機密情報局)に引き渡した犯罪者の件について、正式に問い合わせて欲しいのだ」
「……なるほど」
もちろん、問い合わせに際しては文官も付けるが、ジェレミアにリーダーをしろ、というのがクロヴィスの命令である。
「恐れながら、機情は秘密主義の部署。成果は期待できないかと存じますが……」
「よい。正式に人を派遣して問い合わせた、という過程が重要なのだ」
クロヴィスは政治的な分野に強くない。
正直なところ「納得いかないから一言抗議しておこう」程度の考えでしかないが、この手の事柄において「明確な手順を踏むこと」が時として重要であることくらいはわかる。
エリア11総督がこの件について不満を抱いている、ということが本国に伝われば何かしらの変化があるだろう。
もっと簡単に言えば「アクションさえ起こせば後はシュナイゼルがなんとかしてくれる」といった意図である。
「それともう一つ、家族や兄弟に贈り物を届けて欲しい」
「贈り物、ですか?」
「ああ。立場上、なかなか戻る機会が取れないであろう? その埋め合わせと、他の皇族への心証を良くしておくための策だ。特に宰相閣下には直接お渡しして欲しい」
クロヴィス自らが描いたシュナイゼルの肖像と、ユーフェミアのエリア11での学生生活を収めた写真。後は直筆の手紙といった内容である。
写真に関しては全て印刷するとかなりの枚数になるので、
記録媒体には「とある少女」の声や名前に加工を施した音声データと画像データが何重もの偽装、プロテクトを施した上で同梱されている。
ジェレミアも本命が何であるか理解したのだろう、再度「かしこまりました」と強く応えてくれた。
「このジェレミア・ゴットバルト、必ずや任務を遂行いたします」
「頼む。まあ、それほど意気込む必要もないだろうがな」
データのコピーについてはクロヴィスも握っている。
そもそも大元のデータはリリィの手に残っているし、あの少女も複製を行っているだろう。ジェレミアに預けた記録媒体が奪われたり破壊されたとしても大きな痛手はない。
先の一件を知るものすべてを抹殺する力が『敵』にあるというのならやってみればいい。
そんなことをして、ブリタニアという国がこれまでの姿を保っていられるとは到底思えないが。
「さあ。ここが正念場かもしれないな」
クロヴィスは誰に言うでもなく呟いた。
◆ ◆ ◆
「正念場、などと言っていられるか。まだまだ本番はここからだ」
「なにぶつぶつ言ってるんだいルルーシュ?」
「大したことじゃない。ただ、あの先輩にまたしてもしてやられた、と思っているだけだ」
「ああ、リリィか。あの子にライバル意識を燃やすなんて、ルルーシュもわかってきたじゃないか」
「ああ。お前と先輩は仲が悪そうだったな……」
ルルーシュ達は旧日本軍人の運転する車の中にいた。
車、といってもトレーラーに近い大型のもので、防刃や防弾等、十分な防御が施された特別仕様だ。歩兵の攻撃ならそこそこ持ちこたえられるので、キョウトからの行き帰りのために手配したものだ。
前回のキョウト移動の際はこっそりの移動だったが、今はもうルルーシュ達の素性がバレているし、日本再興も宣言しているため、必要以上に隠れる意味がない。
なので、時折生じる揺れに眉を顰めながら再興策の練り直しを進めていたのだが。
小型パソコンを叩く手を止め、ルルーシュは顔を上げた。
するとスザクは複雑そうな表情を浮かべて、
「別に仲が悪いわけじゃないよ。なんていうか、馬が合わないだけで」
「それを仲が悪いというんだろう」
しかも、ルルーシュを「仲が悪い仲間」にしようとするとは。
「俺は別に先輩が妬ましいわけじゃない。ただ、俺が足踏みしている間に先に行かれているのが悔しいだけだ」
「そういう子なんだよ、リリィは」
どういう子だ、と尋ねたい気もしたが、なんとなく納得できてしまうあたりがなんともあの少女らしい。
と、少し離れて神楽耶と世間話をしていたナナリーが首を傾げて、
「リリィさんは悪い人じゃありませんよ?」
「あはは、大丈夫。そういうことじゃないよ」
「ああ。ただ、善人なら付き合いやすいと言えるか、という問題だな」
「まあ。難しいことを仰いますのね」
神楽耶がおかしそうにくすりと笑った。
「リリィ様はお話していて楽しい方ですし、とても可愛らしいです。それだけで十分ではありませんか?」
「そりゃあ、まあ……」
「神楽耶はそうだろうね」
善人だが一筋縄ではいかない、という意味でリリィと似たところのある神楽耶は、男二人の弱腰な意見に「失礼な」と憤慨した。