ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「ユフィ姉様、リリィさん、お久しぶりです」
「みなさん無事で良かったですわ。……あら? また新しい方が増えていますけれど」
戦いが収まった後、俺はナナリー、神楽耶と再会した。
微笑む少女達は俺の隣にいるアーニャを見て訝しげに首を傾げたが、
「アーニャ・アールストレイム。よろしく」
「アーニャさん……えっと、ナイトオブシックスの方、ですか?」
「まあ。リリィ様ったらまたお友達を増やしましたのね?」
少女が名乗ると別の意味で驚いたような顔をしてくれた。
俺達の避難した総督府は幸いにも戦火に見舞われることはなかった。
屋上の庭園から見下ろせば、戦いを終えたブリタニア軍人と新生日本国(仮)の有志達が仲良く健闘を讃え合っている。
数年前には国の存亡をかけて戦った敵同士だが、今回、肩を並べ同じ敵に立ち向かったことである種の仲間意識が芽生えたらしい。もちろん、言い争いになっている姿もあちこちで見かけるが、それは仕方ない。喧嘩したことで個人的な親交が芽生えることもあるだろうし。
東京租界および周辺ゲットーにも大きな被害はなし。
怪我人は緊急措置として(日本人も含め)租界の病院に搬送されている。事前の発見、事後の対処共に上手くいったと言っていいだろう。
戦闘発生を予期し、準備していた者がいたのかもしれない。
「全くもう、せっかくルルーシュ様が準備万端整えてくださったというのに、下の者に任せておけず飛び出していくなんて、スザクさんは本当に無鉄砲すぎますわ」
「仕方ないだろ。戦力は多ければ多いほどいいんだ。それに、ルルーシュだっていつも言ってるじゃないか。上の者こそ先陣を切れって」
「スザク君。今はもう戦国時代じゃないのよ?」
「日本はブリタニアとは違うのですから、君主が率先して戦う必要はないかと」
「さ、咲世子さんにリリィまで」
咲世子やスザク、カレンも無事に戻ってきた。
予期せぬところでデータが取れたロイドは大喜びで、お伴のセシルと一緒に上機嫌で戦勝パーティ(仮)に参加している。
民間人ながら獅子奮迅の活躍を見せたカレンも大人達に囲まれて称賛を浴びている。貴族のお嬢様の中にも骨のある奴がいるじゃないか、的な感じだ。
「やれやれ。この分なら正式発足前に軍事行動を取った件は大目に見てもらえそうだな」
「あくまで自衛のための戦闘だ。ブリタニア軍との連携も取れていたし、本国が物言いをつけてくるようなら私から文句を言おう」
「ルルーシュさん、クロヴィス殿下。お疲れさまです」
「ああ。先輩も、随分といろいろやらかしたらしいですね?」
「全くだ。リリィのトラブル誘因体質には困ったものだよ」
「う……申し訳ありません」
皇子様ズに連携して文句を言われると立つ瀬がない。
身に覚えが大量にあることも含め、俺としては平謝りするしかなかった。
「ルルーシュ! 本当に心配していたのですからね?」
「う、ユフィか。心配しなくても俺は戦闘はしていないし……」
「そういう問題ではありません! まったくもう、もう少し連絡をくれてもいいではありませんか」
「いや、しかし、立場上ブリタニアの皇女様とあまり親しくするわけにもだな……」
会いたい気持ちが溜まっていたらしいユーフェミアにルルーシュが引っ張られていくのを見ながら、俺はクロヴィスに語り掛ける。
「この度は過大なるご配慮、ありがとうございます。クロヴィス殿下」
「なに。むしろこれで動きやすくなったのではないか? 君も、シュナイゼルも」
「恐れながら、私は策謀家ではございませんので」
「嘘。リリィは腹黒」
「あ、アーニャさん!?」
思わぬところからの攻撃に悲鳴を上げると、クロヴィスがくつくつと笑って、
「アーニャ・アールストレイム。リリィの護衛と機体の貸与、誠に感謝する。今後は難しい立場に立たされるだろうが、何かできることがあれば言ってくれ」
「ありがとうございます。助かります」
こういう場が得意ではないのか、言葉少なに敬語を紡ぐアーニャが可愛かった。
「殿下。敵兵や敵機体の回収は如何ですか?」
「ああ。何分、派手に戦ってくれた者が多かったからな。機体の方は大破しているものも多く、回収して解析に回せるものは多くなさそうだ」
スザクにカレン、咲世子、あと藤堂まで参加していたのでエース級がいっぱいだったからな……。
ユーフェミアの警護に回されたヴィレッタは
皇族との繋ぎになることも含めれば武功の代わりとしては十分だろう。
「ただ、基本的に機体の無力化を優先したため、敵兵の多くは生き残っている。厳重に捕縛し、確保するよう指示済みだ」
「厳重というと、視覚や言葉は」
「無論、封じるように手配してある」
「それを聞いて安心いたしました」
敵は十中八九ギアス嚮団。
ギアス使いがいっぱいだろうから、変なことをされないよう普段よりも念入りに拘束しておく必要がある。当然、クロヴィス達もそれは心得ていた。
「詳しい尋問はこれからだが、果たしてどの程度吐いてくれるかな」
「首魁が捕まればいいのですが……」
俺達の元にV.V.と思しき少年を捕らえたという報が届いたのは、それからしばらく経ってのことだった。
緊急連絡以外は全てシャットアウトされた小さな地下室に、そうそうたる面子が揃っていた。
クロヴィス、ルルーシュ、ユーフェミア、ナナリー。
スザクに神楽耶。
ジェレミア、アーニャ、ユーフェミアのメイドさん。
俺と咲世子、マオが場違いに思えるほどの豪華メンバー。だが、彼らには「ギアスについて知っている」という共通点がある。
そして、
「……こいつが、母さんを殺した犯人」
「神よ、感謝いたします。マリアンヌ様の仇にこうして出会えるとは」
ルルーシュやジェレミアが感慨深げに呟く。
一方、俺は目の前の少年を見つめて驚愕していた。
「これは、まさか」
「リリィ様、どうなさいまして?」
神楽耶の問いに、俺は、縛られ拘束されたV.V.から視線を外さずに答えた。
「V.V.の怪我が治っていません」
そう。
少年──V.V.は怪我をしていた。脱出後に転んだものとみられる擦り傷や、瓦礫をかすめたか何かの切り傷といったものではあったが、問題はその怪我が残っているということ。
「C.C.がピザカッターで指を切ったのを見たことがあります。その時はすぐに傷が修復されていました。つまり──」
「こいつは不老不死じゃないってことか。どういうことだ、こいつが不老不死だって言ったのはリリィだろう?」
スザクの問いに俺は「わかりません」と首を振るしかない。
現状は視界と口を塞がれているため、顔の全てが見えているわけではないのだが、彼は俺が見たV.V.と瓜二つだ。ギアスの効果でも認識の阻害程度が精いっぱいのはずだし、ギアスディフェンダーの範囲下にある以上、そもそもギアスでは誤魔化せないはず。
部分的に前世以上の科学技術があるとはいえ、整形でそっくりにした別人というのも無理がある。
「スザクさん。彼を『視て』もらうことはできますか?」
「ああ。……ただし、僕がおかしな行動を取ったらすぐに止めてくれよ」
「わかりました。咲世子さん、その時はお願いします」
「かしこまりました」
秒で姉に丸投げしたのを卑怯と言うなかれ。俺が不用意に近づいたらスザクにぶん殴られてKOする恐れがあるのだ。
果たして、スザクの『ギアスアナライザー』による解析は無事に終わった。
前に試した時はスザクがC.C.を視ても一般人と同じ反応だった。ちなみに俺に使うと「ギアスが打ち消された」という結果がわかる。
つまり、不老不死なら何の成果も得られないはずだが。
「馬鹿な」
「なんだ。何が視えたんだスザク!?」
詰め寄るルルーシュに、スザクはゆっくりと答えた。
「こいつはギアスを持っている。たぶん効果は、目を見た相手が持つ『ギアスの経験値を奪う』というものだ。それに何の意味があるのかはわからないけど……」
「なるほどな」
あっさりと頷くルルーシュ。
「何かわかったのですか、お兄様?」
「ずっと疑問に思っていた。こいつやC.C.が一体何歳なのかと。もし、不老不死の力もギアス同様、誰かから授けられたものだとしたら。どういうメカニズムで授受が行われるのかと」
「ルルーシュ。我々にもわかりやすいように言え」
「つまりこういうことじゃないか? こいつの持っていた不老不死は何らかの理由で誰かに移譲された。代わりにこいつは新しくギアスを与えられ、C.C.を探すように命じられた。大方、不老不死の力とは、ギアス所有者にしか受け継げないものなんだろう」
だとすれば今、誰が不老不死なのかも見当がつくと、少年は不敵に告げた。
「合っていますか、先輩?」
「ええと、はい。何故私に尋ねるのかわかりませんが、正解です」
ルルーシュがいると何もしなくても話が進むから楽だ。
「不老不死の力──『コード』は、十分に成長したギアス能力者にしか受け継ぐことができません。そして、ここから先は推測になりますが、行き着くところまで成長したギアス能力者は保有者から『コード』を奪うことができると思われます」
導かれる推測は一つだ。
ブリタニア皇帝シャルルは度重なる失敗からV.V.を見限り、彼から『コード』を取り上げた。そして、普通に傷つくし死ぬ身体となった彼に「信頼して欲しければ挽回してみせろ」と放り出したのだ。
ギアスを与えたのはせめてもの情けか。
結果、V.V.が得たギアスの効果は皇帝にとっても想定外だっただろうが、目隠ししたうえに俺のいる場所での邂逅で助かった。
V.V.がこんなギアスを得たのは皇帝から『コード』を取り戻したいからだろう。
他人の経験値を吸いとることでギアスを急成長させ、『コード』を奪えるところまで一気に持っていきたかった。だとすると嚮団にいたギアス能力者達は既に吸われた後なんだろうか。
何人もの経験値を吸えばカンストしても良さそうなものだが──還元率が悪いか、あるいはC.C.を捕まえないと皇帝が会ってくれないという事情でもあったか。
「……哀れだな、V.V.」
呟いたルルーシュはクロヴィスの許可を取った上で少年の口を自由にする。
「我々の推測に間違いはあるか?」
「ないさ。ああ、ないよ。僕の負けだ。まったく、リリィ・シュタットフェルトには邪魔ばかりされたよ。忌々しい」
喋れるようになったやいなやまくし立てるV.V.。
執拗に俺を狙っておいて目の敵にするのは止めて欲しいが──。
「本当に困ったものだ。アーニャ・アールストレイムの中にいる
ここで、少年の口から爆弾発言が飛び出した。
俺とアーニャにとっては「ですよね」で終わる話だが、
「あ……!?」
「お母さまが──」
「マリアンヌ様が──」
「アーニャ・アールストレイムの中にいるだと!?」
生前のマリアンヌを知る者、そして、マリアンヌを慕っていた者がこの場には大勢いた。
彼らにとっては寝耳に水の話である。
アーニャの中に誰かが乗り移っているとは知っていたが、それがマリアンヌだとは思っていなかっただろう。となれば、
「リリィ殿、それは本当なのか!?」
だから、何故俺が知っている前提なのか聞きたいが、ともあれ答える。
「確証を得たのは今ですが、推測はしていました。どうやら、私を殺そうとしたのは皇妃マリアンヌさまで間違いないようですね」
「なっ──!?」
「殺そうとしただと!? 確かなのか!?」
「事実。私が一瞬気を失ったと思ったら、リリィにナイフを投げていた。咲世子が助けてくれなかったらリリィに刺さってた」
ユーフェミアとアーニャの証言もあり、俺の発言は裏付けが行われた。
騒然となる一同。
だが、V.V.の思惑は外れたようだ。隠されていた事実を指摘して俺への疑念を強めようとしたんだろうが、別のインパクトで上手く中和することができた。
「V.V.。マリアンヌさまとあなたは、そして皇帝陛下は何を企んでいるのですか? こうなった以上、教えてくださってもいいのでは?」
あてが外れた少年はふんと鼻を鳴らし、これを突っぱねる。
「さあね? 適当に予想合戦でもしてればいいんじゃないかな?」
「そうですか。では、そうしましょう。……例えば『ラグナレクの接続』。全人類を精神世界に接続して魂を一つにする計画、なんてどうでしょう?」
「なっ!? まさか、C.C.から聞いたのか!?」
よし、言質が取れた。
もはや急展開すぎて絶句している一同を俺は振り返り、告げる。
「では、マリアンヌさま自身に尋ねてみませんか?」