ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
再び口を封じたV.V.を適当に隅へ転がす。
椅子をもう一脚用意したら、そこへアーニャに座ってもらい、両手両足を拘束。もちろん併せて武装も解除。
「アーニャさん、すみません。少しの間だけ我慢してくださいね。乱暴な人はちゃんと押さえておきますから」
「うん、大丈夫。リリィならきっとうまくやってくれる」
「リリィ。もしかしてその『乱暴な人』っていうのは僕のことか?」
スザクのツッコミは微笑んでスルー。
咲世子が「手練れなら椅子ごと体当たりくらいはできると思います」と言ったので、十分な重りもくっつけた。
これで準備はOK。
「では、始めます」
「うん」
「ああ」
「───」
マリアンヌに乗っ取られなければならないアーニャ、母との対面になるかもしれないルルーシュ、聞きたくない話を敬愛する相手から聞かされるかもしれないクロヴィスやジェレミア。
それぞれが、それぞれの想いをもって結果を待つ中、俺はギアスディフェンダーの効果範囲を絞る。
少し離れた場所にいるアーニャを範囲外に出せば、果たして変化はすぐに表れた。
あどけなさの残る少女の表情が、どこか大人びたものへと変わったのだ。
「出てきてくださらないかとも思ったのですが」
言うと、彼女はくすりと笑って答える。
「あら。だって、愛する息子と娘に会えるチャンスでしょう? 出てこない手はないと思わない?」
「………!」
その言葉に複数人が反応。
互いに身を乗り出しかけ、期せずして牽制しあうような形になって、最終的にルルーシュが代表となる。
「母さん、なのか……?」
「そうよ、ルルーシュ。久しぶり。大きくなったわね」
マリアンヌは魂のみでアーニャに取り憑いている。
姿かたちが変わるわけではないため、年下の少女が母を名乗っていることになるわけだが──今のアーニャが浮かべている表情は、なるほど確かに、慈愛溢れる母の表情に見えた。
これにはナナリーも万感の想いを込めて呟くように、次いでクロヴィス達も次々に声を上げた。
「お母様……!」
「マリアンヌ様!」
「よくぞご無事で……!」
これにマリアンヌは「無事ではなかったんだけど」と苦笑。
「みんな、また会えて嬉しいわ。こんな格好じゃなかったらもっと良かったんだけど」
「それは肉体がないことに対してでしょうか。それとも、アーニャさんの身体を使っていることについてですか?」
「んー……両方?」
悪戯っぽくぺろりと舌を出す表情は年相応の少女のようだ。
愛らしいアーニャの姿なのもあってとてつもなく可愛い。なんというか、愛嬌とカリスマを兼ね備えた人なのは間違いなさそうだ。
つまり、警戒が必要だということ。
「悪かったわね、リリィ。ナイフなんか投げちゃって」
「軽く謝られても困ります。下手をすれば死ぬかもしれなかったのですよ? それとも、やむにやまれぬ事情があったのでしょうか」
「ええ、あるわ。聞いてくれればきっと、ルルーシュ達も納得してくれるはず」
「人を殺してもいい理由だって? そんなもの、あるはずがないだろう!」
吠えるスザクに俺も同意見である。
が、
「ラグナレクの接続について説明してくださいますか?」
「貴女がそれを知ってるってことは、C.C.が裏切ったってことなのかしら。それともC.C.の説得を受けた上で対立することを選んだの? まあ、どちらでもいいけれど──」
「話を逸らさないでくれ、母さん! せっかくこうして会えたんだ、全ての謎を詳らかにしてもらわなければ納得できない!」
「ええ、ルルーシュ。もちろん話すわ、きちんとね」
そうして、マリアンヌは語りだした。
マリアンヌが死んだ経緯についてはC.C.が俺に語った通りだ。
同志であった皇帝とマリアンヌ、C.C.、V.V.の関係に亀裂を入れることになったあの事件を機に、事態は大きく動きだした。
マリアンヌはたまたま居合わせたアーニャの身体に乗り移ることで「完全な死」を避けることができた。ひっそりと魂だけがこうして生き延びていた。
「どうして教えてくれなかったんですか? 私もお兄様も、お母様が亡くなってどれだけ悲しかったか……」
「ごめんなさい、ナナリー。でも、あなた達はまだ小さかったでしょう? ギアスのことも知らなかったし、説明しようと思ってもできなかったのよ」
「ですが、アーニャさんの身体をたびたび乗っ取って活動していた。そのせいで彼女が記憶障害に悩まされていることはご存じですか?」
「ええ、知っているわ。でも言って何になるの? 私だって出ていくことはできないし、計画のために活動もしないといけない。知らない方が幸せなことだってあると思うの」
大事のために小事が犠牲になることは確かにある。
納得したくはないが、理解はできる。
「なら、その計画──ラグナレクの接続とは何なのですか、マリアンヌ様!」
「それはね、
「な……!?」
どよめく一同。
それを満足そうに見つめながらマリアンヌは続ける。
「私達はそのために長い間準備を重ねてきたわ。でも、そこに転がっているV.V.のせいで全てが台無しになりかけている。C.Cはやる気を失い、計画は頓挫しかけているの。これではシャルルの本当の想いも全て無駄になってしまうわ」
「お母様……」
悲しそうに目を伏せる皇妃の姿に何人かが息を呑むが──。
俺としては、どうしても冷ややかな反応をせざるをえなかった。
「話を先に進めていただけないでしょうか。ラグナレクの接続とは結局なんなのですか?」
「………」
割り込んで尋ねるとマリアンヌが若干イラっとしたのがわかる。
話術で人を丸め込むのは得意だが沸点は割と低いらしい。
「……それはね、嘘のない世界の実現よ」
「嘘の……」
「……無い?」
「そう。人は嘘をつく生き物でしょう? そして無駄に傷つけあって生きている。嘘のせいでどれだけの人が傷つき、悲しみ、憎しみあってきたか、あなた達にはわかるかしら?」
と、思ったらまた演説が始まってしまった。
仕方なく、俺はもう一度口を挟む。
「精神世界──『Cの世界』へ全人類を接続させ、一個の集合意識とする計画。ですよね?」
「っ!?」
「……貴女」
空気が変わり、みんなが息を呑む。
代わりにマリアンヌは小さく舌打ちをして俺を睨みつけてくる。
要は、マリアンヌのやろうとしていたのは印象操作だ。
自分達の計画が「崇高な理想」であり「多大な苦労の末に成し遂げられようとしている」「人のためになること」だと強調することで、具体的内容をより良いものに見せようとしていた。
それを俺が割り込んで端的に伝えてしまったために、一同は「は? 何それ?」と頭に疑問符を浮かべる状態になったというわけだ。
「できればマリアンヌさまに説明していただきたかったのですが、客観的な説明をしていただけそうにないので簡潔にお伝えします」
『Cの世界』とは意識のデータベースのようなものだ。
データベースには死者の記憶や思念も含まれている。ルルーシュの「死者の魂を呼び戻す」ギアスもそこに限定的なアクセスを行ってデータを呼び出していると考えて良いだろう。
『Cの世界』へのアクセスは一時的なものであれば他者の記憶を共有したり、あるいはテレパシーの代わりのような形で利用できる程度であるが、これが全体的で永続的なものとなると話が変わる。
「人はあらゆる記憶や感情を共有することになります。つまり、自分の肉体というものは意味を為さなくなる。世界に生きている人間──いいえ、死んでいる人間も含めて全ての存在が繋がり、人間は個体ではなく群体として生きることになります」
ここでちらりとマリアンヌを見る。
演説を中断された彼女は悔しそうにしながらも「その通りよ」と答えた。
「素晴らしいでしょう? もう誰も嘘をつけない。楽しいことも悲しいことも全部共有できる。人はみんな平等になる。もう争い合う必要もなくなるの!」
「そうですね。群体になるのですから、個々の状態に意味はありません。例えばルルーシュさんとナナリーさんの二人が生き残るためにジェレミア卿を殺すことになったとしても、それはプラスの結果であって何ら悲しむことではなくなります」
「随分と突っかかるじゃない。そんなに私が気に食わない?」
「私は反対だ、というだけの話です。ラグナレクの接続が実施された場合、私のような『維持コストの高い』存在は真っ先に切り捨てられるでしょうし」
要は人間は『人類』という一個の存在になると考えればいい。
一人一人が死んでもその記憶や思考は残るのだから、個人の生死に意味はない。健康優良な個体を残して他を間引き、遺伝子的に有利な組み合わせで交配を繰り返せばみんなハッピーという世界だ。
イケメンと恋愛したい、とかそういうのは無意味だ。だって、イケメンと「つがい」になっているのも自分なのだから、
ふん、と、マリアンヌは鼻で笑って、
「実際に体験すれば貴女もわかるわ。死ぬことに意味がなくなる。……いいえ、人は死を克服できるの! 争いも何もない、永久に平和な世界が実現するのよ!」
「全人類を同一化させて得られる平和など『無』と変わりません。……ですが、そうですね。私とあなたが議論しても意味はありません」
俺はルルーシュ達を振り返って告げる。
「私はマリアンヌさま達の計画に反対です。たとえどんな結末になろうと、最後まで抗います。ですが、みなさんがどうするかはみなさん自身の選択です。私にそれをなじる権利はありません」
後はただ待つ。
無理矢理に自論を押し通すのではマリアンヌ達と一緒になってしまう。
『全体幸福』を否定するためにも『個の意見』を尊重する。
俺が黙り込むと、マリアンヌは再び口を開いて旧知の者達へと話しかけた。
「ね、ルルーシュ。ナナリー。今からでも遅くないわ。一緒にシャルルの計画を補佐しましょう? そうすればまた家族全員で一緒にいられる」
「ユーフェミア。貴女はルルーシュのことが好きだったでしょう? なら、この子と一緒になればいいわ。貴女とルルーシュの子供ならさぞかし優秀だと思うの」
「クロヴィス。貴方もぜひ力を貸して頂戴。美しさを誰よりも愛する貴方なら私達の理想を理解してくれるでしょう?」
「ジェレミア。あの時は辛い思いをさせてごめんなさい。でも悲しむ必要はないわ。貴方は立派に役目を果たした。だから、ね? もう一度私達に尽くして頂戴?」
やはり、マリアンヌは王者の器だ。
低い身分の出身らしいが、そんなことは関係ない。ナイトオブラウンズ、そして皇妃に上り詰めた運命力がそれを証明している。
ゲーム会社の運営一つで四苦八苦している俺とはモノが違う。
話を遮られ流れを止められても声を荒らげず、今だって一人一人に声をかけて誠心誠意気持ちを伝える、説得の基本を当たり前のように実践している。
まして、俺とマリアンヌでは年月が違う。
ルルーシュ達と過ごしてきた時の重み。積み重ねてきた想いの量が全く違う。
何より、ここでマリアンヌ達を否定することはギアスを、つまりは母と再会できた事実さえも否定するのと同じことなのだから。
──勝てない、かもな。
なら、潔く諦めよう。
ないものねだりはしない。自分にできるところまで最後まで頑張る。走って逃げたとしてもすぐ追いつかれて殺されるだろうが、だからって彼らには従わない。
個の存在、魂を否定することは、俺がこの世界に転生してきたことをも否定する行為だ。
と。
誰もが黙り込む中、ぽん、と肩に手が置かれた。
「僕も反対だ」
「……スザクさん?」
少年は俺に微笑みかけると更に言葉を続けた。
「マリアンヌさん。貴方の志は確かに尊いものかもしれない。だが、それは僕の父さんやリリィ、咲世子さんの父さんを殺してまで実現することなのか?」
「……違うわ」
一瞬、言葉を詰まらせたマリアンヌはすぐに笑顔を浮かべて、
「あれはV.V.が手駒に命じてやったことよ。私達には関係ない」
「なら、どうしてそいつをさっさと罰しなかった。利用出来るから好きにさせていたんじゃないのか」
「っ。……言ったでしょう? 個人の死になんて意味はない。ラグナレクの接続が実現すれば死んだ人にだってまた会えるの」
「だから殺していいっていうのか。平和な世界を作るために殺して、黙って、奪って、そんなことが理想に繋がると思っているのか、お前達は!」
少年の怒声が室内に響いた。
スザクはマリアンヌとの面識はない。そして、彼はブリタニアによって奪われた側の人間だ。
争いごとが嫌いで、そのために父であるゲンブを殺そうとさえして、ギリギリで思いとどまった。人の命に人一倍敏感な彼だから我慢できなかった。
そして、そんなスザクの発言に続いて、
「私は何があろうとリリィ様の味方です。誰が相手であろうと主を害するのであれば相手になりましょう」
「姉さ……咲世子さん」
「もちろん、私も反対でしてよ? 和とは無理に実現するものではありません。それぞれが精一杯歩み寄る努力をするからこそ尊いのです」
「神楽耶さま」
なんだか、日本側とブリタニア側で分かれてしまった。
なんだかんだ言っても俺は三つ子の魂を捨てられていないらしい。だがまあ、それはそれで悪い気分ではなかった。
後はもう、何があっても文句は言わない。
そして。
「なら、母さん。一つ試してみないか」
重い重い口を開き、ルルーシュが告げた。
「試す? 何をかしら?」
「貴女を想って亡くなった人達が、貴女の思想をどう思うかだ」
少年の瞳が輝き、そのギアスが今、発動した。