ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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白い魔女・リリィ 六

 善は急げ、と準備は急ピッチで進み、翌日の昼には多くのマスコミに囲まれたクロヴィスが声明を発表した。

 

 先の襲撃はスパイや暗殺者などを擁する秘密結社の仕業であったこと。

 襲撃犯の大半以上と首魁については捕らえたこと。

 彼らは以前起こった皇妃マリアンヌ殺害事件や皇女ユーフェミア暗殺未遂にも関わっており、それどころかブリタニアの中枢にまで影響力を持っていたこと。

 

 更に、秘密結社の首魁はブリタニアの血を引いた存在であり、皇帝シャルルと繋がりがあったこと。

 皇帝シャルルは首魁V.V.と共に怪しげな研究に没頭しており、それによって地球全体に強制的な変革を齎そうとしている。

 これはシャルルの望む形に世界を作り変える行為であり、そこに他の人間達の意思は介在しない。

 計画の実現する可能性についてはクロヴィスの言及するところではないが、いずれにせよ、民や政治を疎かにするシャルルがブリタニア皇帝として不適格であることは間違いない。

 

 よって、エリア11は「反シャルル」を掲げ、現体制の打倒を宣言する──といったところが語られた内容である。

 

 ギアスだの『ラグナレクの接続』だのといった怪しげなフレーズは避けたものの、話した内容についてはほぼ真実。その多くはV.V.が直接語った内容であり、なんなら俺とV.V.が話した時やマリアンヌとの会話内容の録音もある。

 更に、

 

『現在体制を構築中である新生日本国はエリア11総督府の意向を支持する』

 

 ルルーシュとスザクが共同で声明を発表。

 クロヴィスもそれを受ける形で、

 

『エリア11総督として新生日本国の樹立を承認する』

 

 更に、日本列島から本国へのサクラダイト輸送の停止が発表。

 皇女ユーフェミアがクロヴィスへの賛同を発表し、エリア11は「反シャルル派ブリタニアと日本人との共同体」として再出発することになった。

 

 俺はカレンと一緒に家へ戻り、無事だった両親や使用人と一緒に事後処理をしながら発表を聞いた。

(カレンには防衛協力として後日、感謝状が贈られるらしい)

 

 しかし。

 

 当然のことながら皇帝シャルル率いるブリタニア本国とて黙ってはいなかった。

 

『皇子クロヴィス、皇女ユーフェミアの反逆、誠に遺憾である』

 

 美少年と言わざるをえないV.V.が幼少期の彼と瓜二つだったとは到底思えないゴツイ外見のおっさん(※皇帝)が野太い声で発表したのは白々しくも堂々とした声明だった。

 

『クロヴィスはブリタニアとも関わりの深い特別な血筋である少女C.C.を我が元から攫い、妃とすることで新帝国の樹立を目論んでいる。テロリストの出自をでっち上げ、現体制を批判するその悪辣、断じて許すべきではない。ブリタニア本国はエリア11に対して徹底的な殲滅作戦を実施する』

 

 これには反逆者として名指しされたナイトオブシックス──アーニャ・アールストレイムを除くナイトオブラウンズが動員されることも明言され、言葉通り総力戦となることが示された。

 

「すごい。私、指名手配されてる」

「いえ、すごいとか言ってる場合ではないのですが……」

「でも、これで『辞めます』って言いに行く必要がなくなった」

 

 テレビを見ながら微妙に呑気なことを言っている俺とアーニャをよそに、養父は本国にある屋敷やそこにいる使用人を引き上げなくては、と大慌てだった。

 別に本国に帰ってもいいのだが、血の繋がった娘は反逆者クロヴィスから感謝状を贈られる存在、養女の方はユーフェミアと懇意にしているうえに半日系の企業で社長をしている。帰っても「コウモリ野郎」と煙たがられるのがオチであり、だったらエリア11に全面協力する方がマシなのである。

 

 なお、俺を捕まえて本国に売ろうとした場合は咲世子とアーニャの二人(おまけでマオ)を相手にすることになる。

 

 そして、

 

『我が弟クロヴィスの発表した情報は、私が掴んだ父上の不正証拠とも一致する』

 

 できる腹黒ことシュナイゼルが遂に大きな動きを見せた。

 

『私は皇子クロヴィスの独立を支持し、新生ブリタニアおよび新生日本国への合流を宣言する』

 

 所有していた数々の証拠を惜しげもなく披露したシュナイゼルは反シャルルを明言。

 ここに皇女コーネリアも賛同したことによって、「どっちが正しいんだ?」と混乱していた民意は「これ、皇帝が悪いんじゃ?」という方向に大きく傾いた。

 

 ナイトオブラウンズからも第九席(ナイトオブナイン)ノネット・エニアグラムと第十二席(ナイトオブトゥエルブ)モニカ・クルシェフスキーが皇帝派からの離反を発表し、ブリタニア本国は大きく割れることとなった。

 

 もちろん、本国にいる人間がエリア11を支持するのは難しい。

 

 皇帝は当然のように「反逆者には死を、オール・ハイル・ブリタニア!」を宣言。

 これを受けて反逆者を捕らえようとする動きが起こったものの、軍内部に発言権を有するコーネリアの離反によって混乱が発生。

 軍部からもコーネリア達を支持する者が数多く現れ、結果、多くの船や飛行機がエリア11へ飛び立った。

 

「やあ、リリィ。久しぶりだね」

 

 声明を聞いた数時間後には、俺は総督府で当人と再会していた。

 

「……いえ、いくらなんでも早すぎるのでは?」

「あれは録画だからね」

 

 もともと用意していた映像にちょいちょいと細工して流したらしい。

 で、発表にみんなが愕然としている間に信頼できる部下やら必要な物資と共にエリア11へ飛び立ったと……。

 さすがというかなんというか、動くとなると手回しが早い。

 

「何か言いたそうな顔だが、何から答えようか」

「そうですね……私は、どの程度までご期待に添えましたか?」

 

 尋ねられたシュナイゼルは満面の笑みを浮かべて、

 

「期待以上だったよ」

 

 と、どこまで本気かわからない答えをくれた。

 

 

 

 

 

 

 皇帝派とクロヴィス派がいきなり本国で対立、のっけから最終決戦──とならなかったのには、皇帝派の打算もあったと思われる。

 何しろ離反した勢力もかなりの規模になる。

 武器弾薬KMFを奪われる、というか二分する羽目になったうえに本国でぶつかり合うのでは勝ったとしても大損になってしまう。なので敢えて敵を逃がし、互いに準備を整えたうえでぶつかる方が余計な被害は少ないと考えたのだ。

 彼らの判断は間違っていない。

 

 ただ、おそらく誤算だったと思われるのは──離反した勢力が考える以上に大規模だった、ということか。

 

「待たせたなクロヴィス。妹達との約束を果たしに来たぞ」

「元ナイトオブラウンズ、ノネット・エニアグラム」

「同じくモニカ・クルシェフスキー、到着いたしました。クロヴィス殿下」

 

 皇女コーネリアはブリタニア正規軍の一部および、軍で使用されていた機体・物資。

 ノネットとモニカは自身の専属サポートチームをそれぞれ率いている。多すぎて収容場所や食料の確保等におおわらわなくらいには大軍勢である。

 

 なお、いかにも気の強そうな大人のお姉さんがノネットで、金色のぱっつん髪が印象的な少女がモニカ。

 女性ラウンズばかりが離反する形になったが、ノネットはコーネリアの元先輩で気が合うこと、モニカはアーニャと親交があったため「彼女がそうする以上は大切な理由があったはず」と皇帝への不信感を募らせたのがきっかけ、ということだった。

 非戦闘員としてはシュナイゼルが連れてきた文官勢や、特派の厚遇を見てエリア11側に賛同した研究者達、家族がエリア11にいる一般人などもやってきている。

 

「これでナイトオブラウンズが三人か。頼もしいことだ」

「元ラウンズ。それに私はまだ戦うとは言ってない」

 

 アーニャが言えば、旧知であるノネットとモニカは不思議そうな顔をして、

 

「なんだ、戦わないのか?」

「無理に戦う必要はないとは思いますが……」

「リリィを守らないといけないから。戦った方が守れるなら戦う」

 

 そこで元ラウンズ二人の視線が俺に向けられる。

 あの、アーニャ。その紹介だと俺が物凄く注目されることになるんだが。

 

「ああ、君が『あの』リリィ・シュタットフェルトか」

「アーニャやジノから話は聞いています。私もあなたの会社のゲーム、プレイしているんですよ」

「あ、ありがとうございます。えっと、もしかしてうちのゲーム、ラウンズの方は全員……?」

「当然」

 

 有名人にでもなった気分だった。

 

「ですが、クロヴィス殿下。どうして私がこんな場に呼ばれているのでしょう……?」

「どうしても何も、リリィには開発部門の一チームを率いてもらわなければならないからな」

 

 経緯はこうだ。

 

 エリア11総督府には仮称『反乱軍』──神聖ブリタニア帝国から分離したクロヴィス派と新生日本国の共同体が入り、協力して動くことになった。

 何しろ物資も人員もいくらあっても足りないためそうしないと回らない。

 戦時にはブリタニア側と日本側で指揮系統を分離することになるだろうが、それでも歩調を合わせるための共同訓練などはある程度必要になる。

 また、何よりも必要なのは機体を揃えることだ。

 

 既存の研究者や特派、ラウンズの専属チーム、日本系の技術者が総動員されるのは当然として、()()()()()()()()()に凄腕の技術者と()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()がいる、ということで白羽の矢が立った。

 しかも、当のラクシャータが「社長に相談しないと」などとのたまった(たぶん悪戯だ)ものだから、じゃあリリィの会社のスタッフはひとつのチームとして迎え入れてしまえ、ということに。

 では、そのチームの責任者に誰がふさわしいかといえば……まあ、俺だよな、という話。

 

 いや、巻き込まれるとは思っていたが、この巻き込まれ方は予想外だ。

 

「うちのチームに実機は扱えません。なので、みんなで考えたろくでもない案をラクシャータさんがブラッシュアップして他のチームに流す、というのが主な仕事になると思いますが、それでよろしいですか?」

「ああ、それで構わない。かのラクシャータ・チャウラーに既存量産機を作らせても仕方ないしな」

 

 とはいえ、会社のスタッフ全部が兵器開発に関わるわけではない。

 BRSチームはそのまま継続だし、ゲーム開発の一部スタッフもそのまま残る。軍に関わるのはシミュレータ系のスタッフとKMF(ナイトメアフレーム)アクションゲームを作っていたチームが主だ。

 上が費用を出してくれるというのでお給料はちょっと弾める予定である。

 

 既存のブリタニアの慣習に拘る必要がなくなったので、カレンも大手を振って戦闘に関わることが可能になった。

 本人は「日本が動くならそっちがいい」と主張しているのだが、これについてはロイドが「腕の良いパイロットを逃がす手はないよねぇ」と抵抗中。

 俺の方にも「代わりに咲世子君を貸してよ」と来たが、これは俺とラクシャータが断固拒否。水際の戦いが繰り広げられている。

 

「シュナイゼル殿下。彼我の戦力差はどの程度とお考えですか?」

「単純な兵数で言えば我々が三。本国側が七といったところだろうね」

 

 反皇帝を唱える勇気がなかった者、唱えるタイミングを逃した者もいる。

 エリア11駐留軍や旧日本軍人を加えても敵方の戦力は倍以上。

 

 ちなみに、ブリタニアには他の植民地もたくさんあるわけだが、それらは突然の事態に混乱しているところに現地人や周辺国からの抵抗が強くなったことで忙しく、今のところどちらにも付く余裕がなさそうだ。

 

「では、旗色はかなり良さそうですね」

「ほう? それはどうしてだい?」

 

 楽しげに尋ねてくるシュナイゼルに微笑んで答える。

 

「士気の差が歴然ですし、守るべき範囲が段違いですから」

 

 日本列島は狭い。

 戦力をある程度各地にばらけさせたとしても、状況に応じて流動的に集めることは難しくない。一方の本国側は「どこを守るか」四苦八苦しないといけない。

 加えてKMFの動力源であるサクラダイトの採掘プラントは日本にあり、向こうの人員の何割かは皇帝に対して反感を抱いている。

 頼みの綱になるはずだった記憶操作のギアスは皇帝自らが手放している。

 

 長期戦ならむしろこっちが有利かもしれない。

 戦いが長引くということは、ある程度戦力が拮抗しているということ。そうなったら周辺諸国も動く。なんかよくわからないけど戦争大好きな皇帝シャルルと辣腕で知られ他国からの信頼も篤いシュナイゼル、どちらにつくかと言ったら決まっているだろう。

 

 となれば。

 

「敵は短期決戦で来るだろうね」

「可能な限りの戦力を一気に投入しての殲滅戦。裏切り者の皇族を捕らえて処刑してしまえば勝ち、ですか」

 

 シュナイゼルの意見に日本側──ルルーシュも同意し、そして、彼らの予言は現実のものとなった。


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