シスコンな双子の兄が姉になりたい妹のために弟になった話 作:名も無き二次創作家
とある日の朝。
いつものようにジュンが朝食を準備する前のティー(麦茶)タイムを楽しんでいた。
そこに珍しくチノが顔を出す。
確かにチノはいつも早起きだが、ジュンが来てからは朝食ができるのと同時くらいに起きてくるのだ。
「おはようチノ。早いね、どうしたの?」
「おはようございます、ジュンさん。ちょっとご相談がありまして」
チノの顔に寝不足などの症状は見られない。
ジュンは、チノの相談事があまり深刻なモノではないと理解する。
「そろそろ“お兄ちゃん”と呼んで欲しいな」
「……その、私っていま成長期じゃないですか」
「(未だに兄として認められていない? いや、口下手で人見知りなチノが真っ先に頼ってくれている。これはけっこう良いところまで来てるのでは? )そうだね」
「ですから、えっと……」
「(ほう? 言いにくそうだ。「成長期」「中学生」「女の子」。ここから導き出される結論は……)なるほど、だいたいわかったよ」
ジュンには姉が2人いる。そのためデリカシーの大切さをよく理解している。
女の子の前であまり直接的な表現は好まれない場合がある。
そのためチノが“身長”を気にしているにもかかわらず、ジュンは彼女が“胸の大きさ”を気にしていると判断したためすれ違いが起きることになる。
「ほんとですか!? 相談してよかったです」
「ははは、まだ気が早いよチノ。そうだね、軽々しく「気にすることは無い」なんて僕は言わない。男と女では色々と違うけど、家族として、兄として、全力でチノの期待に応えるから安心して相談して欲しい」
「ありがとうございます」
チノは目をきらきらさせてジュンを見ている。
実際、チノはジュンを兄のような人だと思っている。
しかし双子の弟であるジュンを兄と認めれば双子の姉であるココアも自動的に姉になってしまう。
それがなんとなくしゃくというか、認めたくないというか。
ココアのことは別に嫌いじゃ無いけれど、チノ自身と違いすぎて苦手意識……とまでいかずとも理解できない点が多々ある。
それがチノに、ジュンを「お兄ちゃん」と呼ばせることをためらわせている。
「大きくするには(女性)ホルモンが重要らしいよ」
「聞いたことがあります。睡眠が大事だとか」
「(睡眠?それは成長ホルモンだと思うけど。まあ、確かにストレスは女性ホルモン分泌の大敵だし快適な睡眠も必要か……。)まあ、そうだね。睡眠も大事だね。睡眠と言えばレム睡眠とノンレム睡眠があるのは知っているかな」
「深い眠りと浅い眠り、ですよね」
「そそ。レム睡眠のレムは
〈big〉「目玉が跳ね回るんですか!? スーパーボールみたいに!!?」〈/big〉
「え、ああ違うんだ。目玉自体が動くんじゃ無くて黒目が動くだけ……。跳ねるスーパーボールを目で追うと、黒目が上を向いたり下を向いたりするだろう?それが高速で起こるんだ。」
「な、なるほど」
ホッ、と息を吐くチノ。
知らない間に目玉がバウンドしてると思って焦ったのだ。
そんな彼女を見て、かわいらしいなあと改めて思うジュン。
「そのレム睡眠はいわゆる浅い眠りというやつで、ストレスを緩和しづらい。ノンレム睡眠、いわゆる深い眠りの方がストレスを緩和できるって聞いたことがある」
「じゃあ、深く眠ればいいんですね」
「ああ。寝具が身体に合わなかったり騒音があったりと、寝室環境が整っていないと眠りが浅くなってしまうらしい。あと」
「あと?」
「カフェインが駄目らしい」
「喫茶店なのに!?」
コーヒーや紅茶、他にもウーロン茶やコーラなど様々なものに入っているカフェイン。
だが、コーヒーのカフェインは紅茶の2倍と言われており、“コーヒーといえばカフェイン”というイメージも一定数あるほどのだ。
「す、睡眠前の4時間の間に飲まなければ大丈夫らしいよ」
「ほっ。そうなんですね」
「僕はココア姉さんの成長にも尽力したから、実績があるんだ。期待してくれていいよ。他にもマッサージとかを組み合わせれば効果抜群さ」
「……ココアさん?」
ココアは高校生としては普通の身長であったはず。
少し引っかかったチノだが、彼女もチノよりは背が高いため会話をぶった切るほどの違和感では無かった。
「そういえば、ジュンさんは以前に「姉さんより大きくなりたくないから夜更かしをして身長を止めている」と言ってましたが、やっぱり伸ばしておけばよかったと思ったことはないのでしょうか」
「え……、ああ。身長の話?」
「……? ずっと身長の話をしてたじゃないですか」
ここでジュンが勘違いに気付く。
しかしそれと同時にまだ修正可能なことにも気付く。
成長ホルモンだろうと女性ホルモンだろうとストレス緩和と睡眠が大事なことに変わりは無いのだ。
「そうだったね、ごめんごめん。ちょっと今一瞬ぼーっとしてたよ」
「おはよー。なになに? なんの話?」
そのときココアが起きてきた。
寝起きでまだパジャマを着ている。
「別に、なんでもありません」
「おはよう、姉さん。成長には睡眠が大事だなって話だよ」
「成長……ホルモン……」
そのときチノの視線がココアの大きな膨らみに吸い寄せられる。
着痩せするタイプのココアは、制服などのきっちりした衣装だと胸もそれほど目立たない。
しかし今はパジャマ姿の、それも寝起きだ。
少々乱れたパジャマの胸元を大きく盛り上げるココアの隠れ巨乳がその存在感をあらわにしていた。
「……!!?」
瞬間湯沸かし器のような勢いで沸騰したチノ。
『僕はココア姉さんの成長にも尽力したから、実績があるんだ』
『え……、ああ。身長の話?』
今までのすれ違いに気付いてしまったのだ。
「ジュジュジュジュンさん!!!!」
「ごめんなさいごめんなさい僕の勘違いでした!」
気付かれたことに気付いたジュンが速効謝罪する。
ジュンはチノのことを家族と思っているしそもそも家族の距離感がバグっているためなんの疑いも無くチノが胸の話をし出したと思っていた。
しかしチノは“兄みたい”とは思っていても本当の兄とまではまだ思っていない。
年頃の娘が異性に胸の話をされていたのだ。
顔が真っ赤になるのも仕方が無い。
「でも僕には実績がるあるから! チノがいずれ僕たちを正式なきょうだいと認めてくれた暁には全身全霊をこめてチノの発育をサポートするよ! ちなみに取りかかるのは早ければ早いほどいいよ」
「ダメー! よくわかんないけどチノちゃんが大きくなっちゃったらもふもふできなくなっちゃう!」
「そのぶん姉さんも大きくなれば問題無いよ!」
「た、たしかに!!」
「もうめちゃくちゃです……」
小さくあきれたように呟いたチノは、しかし1つ気になっていることがあった。
「と、ところでその……。大きく
大きくなる、ではなく大きくする。
そのニュアンスの違いを察したジュンが答える。
「まず女性ホルモンを把握・管理するよ。女性ホルモンには2種類あって、どちらもバランス良く分泌させないといけないからね。あとはバストアップマッサージを毎日「ストップです!! もういいです!」
いくら兄のように慕っているとはいえ男性に自分の女性ホルモン状態を完全に把握されるなんて。
それだけでも恥ずかしすぎて死にそうなのにバストアップマッサージってつまりそれは胸を毎日揉まれるということで……。
想像しただけで羞恥心が無限に湧き出して茹で上がり、煙を噴いてしまった。
「まだ兄と認められていないんだね……。僕がんばるよ」
「私もお姉ちゃんと呼んでもらえるように頑張るよ!」
この言葉を聞いて「そういう問題じゃ無い」とか「ああ、価値観が違うな」とか、茹だった頭でいろいろ思うチノであった。
◇◇
放課後
今日はラビットハウスが休みだ。
そのためココアはチノと一緒に下着を買いに行った。
チノは中学生なので高校生より帰宅が早い。
そんなチノを待たせないためにココアはダッシュで香風家に帰ってしまったのだ。
つまり、今日の帰宅は途中までジュンと千夜の二人きりなのである。
ちなみに前話で「チノのブラを3人で買いに行くことになった」というのはココアとジュンで軽く決めたことであり、今朝チノに確認を取ったら「そんなデリカシーの無い人だったなんて、失望しました」と言われてジュンが大変な騒ぎになったのはまた別の話。
千夜は二人きりというシチュエーションに緊張していた。
ジュンを変に意識してしまっているのだ。
それも先程のクラスメイト達との会話のせいである。
『ちーやー!』
『聞いたぜえ。ココアの弟と二人っきりで帰るそうだなあw』
『前にも言ったでしょう?ジュンくんとは本当になんにもないって……』
『今は無くてもこれから芽生えるかもでしょお?』
『若い男女が二人きり。やることは1つだねえ』
『きゃー!いいな~羨ましいな~!』
『……もう』
年頃の少女達にとって恋バナは大好物。
例え本人が否定してても、周囲的には楽しく騒げれば関係ない。
千夜も他人の恋バナは好きなもので、文句らしい文句も言えずにいた。
千夜はその場では「なにを言ってるんだか」という反応だったが、いざ実際に二人きりになると緊張してきた。
彼女とて年頃の女の子なのだ。
いつか自分の家でもある喫茶店
「千夜さんはいつもいつも、凄いですね」
「へ?」
急な褒め言葉に思わず素で聞き返してしまった千夜。
「ああ、すみません急に」
ジュンは呆ける千夜に謝罪し、歩きながら言葉を続ける。
「将来の夢が明確で、甘兎庵でもバイトリーダー兼看板娘として毎日頑張っていて、しっかりしていて、努力家で……。ほんと尊敬してます」
「そんなことないわ。お仕事は楽しいし、それに努力ならジュンくんの方がよっぽどじゃないかしら」
特にココアちゃんのことに関して、と続ける千夜。
「僕のは努力って言うより気がついたら身体が動いてるだけだしなあ。姉さんのことが好きすぎて」
「私もよ? 身体が勝手に動くの。甘兎庵が好きだから」
「そんなものですか」
「そんなものよ」
「ははは。じゃあ僕たちおんなじですね」
「ふふふ。そうね」
案外自然に話せてほっとする千夜。
やはり彼とはそんな関係ではないのだと自信?を取り戻した。
しかし千夜には1つ気になることが出来た。
いい加減に敬語とさん付けを辞めて欲しいのだ。
「ねえジュンくん。さっきから思ってたんだけどいつまで敬語とさん付けを続けるの?」
「あ、えと、すみません。実は家族以外の女性にはあまり親しい方がいなくて……。距離感おかしかったですよね。すみません」
頬を染めながら2回も申し訳なさそうに謝った。
同年代の女子からキャーキャー騒がれているし普段のココアとのやりとりを聞いて勝手に女性なれしていると思っていたが、むしろ
「(……可愛い)」
「な、なんですかその優しげな目は……!」
「敬語♡」
「あ、その目で見るの辞めて、くれ……」
赤くなった顔を腕で隠すジュンにキュンときた千夜。
まだ辿々しいタメ語も合わさり彼女の琴線に軽く触れたのだ。
「あ、そういえばこの前姉さんが──」
突然、何の脈絡も無く始まるココアトーク。
その姿を双子の姉に重ねる。
『あ、そういえばこの前ジュンくんがね──』
『急に話が変わったわね』
やっぱりこの男の子は、私の親友の双子なんだなあ。
そう思うと、さきほどのような男女のドキドキよりも、ほっこりした微笑ましい気持ちで一杯になった千夜であった。
なお、愛が重かったのか単純に話の量が多かったのか。
別れ際には少し頬が引きつっている千夜がいたらしい。
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