Lostbelt No.■ 無価値幸福論 ブロークンファンタズム 特異点Δi   作:ルシエド

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 ある日、いつかの過去の話。

 エミヤオルタは汎人類史の現拠点、ノウム・カルデアの内部を歩いていた。

 彼は立香の部屋を訪れ確認事項について話そうとしていたが、立香が自室におらず、そのため施設内部を警戒しつつ練り歩いていた。

 現在は世界と世界の戦いの最中。

 万が一、億が一の侵入者による狼藉を、エミヤオルタは警戒する。

 

 結局エミヤオルタの懸念は杞憂に終わった。

 立香は談話室でソファーに腰掛け、壁に体を預けて眠りに落ちていた。

 眠りに落ちる少女の足元で、スマートフォンが床に落ちている。

 寝不足ゆえにか、ここでスマートフォンをいじっている途中に寝てしまったのだろう。

 

「人騒がせな女だ」

 

 エミヤオルタは表情をぴくりとも動かさないまま、冷たい鉄面皮を揺らがせもせず、少女を乱雑に揺り起こそうと手を伸ばす。

 

 その手が触れる直前に、少女の口から言葉が漏れた。

 

「……ごめんなさい……ゲルダ……アーシャ……パツシ……」

 

 伸ばされたエミヤオルタの手が止まる。

 少女を揺り起こそうとした手が少女に触れることはなかった。

 エミヤオルタの焦げたような肌色の手が、ぎゅっと握られ、拳が砕けそうなほど力が入る。

 夢の中で誰かに謝り続ける少女を救うことなどできやしない、血濡れた無情な守護者の手が、未だに『汚れた自分と違って人間らしい綺麗さを保っている』彼女の手に触れることを許さない。

 否。許せない。

 

「こんな自分の幸福に何一つ繋がらない戦いなど、投げ出してしまえばいいものを」

 

 夢の中で少女は、数多くの命に謝り続けている。

 夢の中に蔓延る怨念の敵に、心を喰われ続けている。

 忘れるには重すぎた。

 割り切るには多すぎた。

 自分の世界のために潰しすぎた。

 かつてエミヤオルタが、衛宮士郎で居られなくなった時と同じように……戦いと、罪悪感と、底の見えない苦痛が、藤丸立香を侵している。

 

 なのにエミヤオルタにできることはない。

 怨念の怪物など倒しようがない。

 エミヤオルタにできることなど、この現実に存在する敵を撃ち殺すことくらいのものだ。

 『その罪悪感が一生消えない』ことを、エミヤオルタはよく知っている。

 

 エミヤオルタは、もう正義の味方ではない。

 真逆(オルタ)ゆえに、悪の敵にしかなれない。

 そんな彼では、少女の心一つ救うことすら叶わなかった。

 

「夢の中の敵を殺すことすらできないとは。とんだ無能な掃除屋もいたものだ」

 

 エミヤオルタは汚れた手で、躊躇いがちに少女の手を握る。

 少女の手は、傷の多い手であった。

 もう消えなくなった傷もあった。

 魔獣が、敵のサーヴァントが、時には人間が、藤丸立香の手に刻んだ傷があった。

 そんな少女の手を、エミヤオルタは優しく握る。

 エミヤオルタの体温が手を通して伝わって、悪夢にうなされていた立香の表情が少しずつ穏やかになっていき、数時間ほど経った後には穏やかな寝息を立て始める。

 

 やがてエミヤオルタは自分を嘲笑するように鼻を鳴らし、立香から離れどこかへ行った。

 

 藤丸立香が悪夢から目覚める、一時間ほど前のことだった。

 

 

 

 

 

 エミヤ、およびエミヤオルタは、同じ衛宮士郎から分かたれた別々の可能性である。

 正義の味方に憧れ、そうなろうとした夢見る歪みの少年、衛宮士郎は人を救おうとした旅路の果てに、摩耗してエミヤに、あるいは魔道に堕ちてエミヤオルタとなる。

 そのため、核となる技能は同一で、それの伸ばし方のみが異なっていた。

 

 彼らは自分の中に一つの独立した心象世界『無限の剣製』を持ち、これによって剣を中心とした武具防具を『投影』して作り出し、手品師にもたとえられる立ち回りを行う。

 武器が敵に破壊され、一瞬で作り出した武器で追撃を防ぐこともザラだ。

 彼らの手に握られた武器は、彼らが最も得意とする投影と紐付いたものである。

 

 エミヤは双剣。オルタは双銃。両者は構え、口を開いた。

 

「かつて魔道に堕ちた時、オレは魔性菩薩たる人類悪の雛を殺す戦いに向かっていた」

 

「……殺生院、キアラ」

 

「そうだ。オレとお前の違いはそこだろう。

 ヤツの色欲ゆえの邪悪に穢されたか、そうでないか。オレと、奴は―――」

 

 オルタは、言葉少なに語り始めた。

 

 かつてある世界で、周囲を愛欲に溺れさせるだけで世界を滅ぼしかけた女が居た。

 名を殺生院キアラ。

 最低最悪の色欲の魔である。

 数え切れないほどの『善人』がキアラに誑かされ、欲に溶け、キアラという悪に命じられるままに世界を破滅に向かわせていった。

 

 キアラに目をつけられればほとんど全ての人間が抵抗できず、終わる。

 まさしく顎の如き天上楽土。

 キアラに溺れるごく普通の人達は欲望・善意・狂気の区別がつかなくなっていき、世界が殺生院キアラの欲望に『食われる』のは時間の問題だった。

 彼らは幸せだった。

 キアラに愛されていると思い。

 キアラの言葉に救われ。

 キアラのために殺し合い。

 キアラの与える快楽に溺れながら、キアラに大切なものを全て差し出し、嗤った。

 

 誰も苦しむことのない、誰もが笑みを浮かべる楽園が、そこにはあった。

 

 エミヤオルタは、そんなキアラを殺すため、キアラの被害者でしかなかった者達を片っ端から殺していき、その過程で魔道に堕ちたエミヤである。

 正義の味方などという理想はもう捨てた。

 信念の欠片も残っていない。

 守りたかった善人、救いたかった普通の人達、そのことごとくを殺し尽くした。

 誰も彼もが、()()()()()()()()()()()()()()()を守ろうとしたから。

 

『やめて、わたしの世界を壊さないで!』

『ここには苦しみがないんだ!』

『衛宮士郎、お前の生きてる苦しみばかりの世界とは違うんだよ』

『みんな幸せなんですよ。なんていう理想郷なんでしょうか』

『殺すことしかできないお前と一緒にするな。殺生院様は人をお救いになられてる!』

『かわいそうに。こんなにも救われている人達を見ても、あなたは自分を変えられない』

 

 何もかもを嗤うように、エミヤオルタは鼻を鳴らす。

 

「同じだ、どこも」

 

「その侮辱、許されると思うな。よりにもよってあの女の地獄とこの世界を同一に見るなど」

 

「天上楽土は、天上楽土の外に刃を向けた時点で、外から焼き尽くされなければならない」

 

「……ふざけるな。剪定事象になどならなければ、他の世界に刃など向けるものか!」

 

「だが、なった。

 ならば消えるしかないさ。

 今更ながらに、オレが最初に呼ばれた理由がよく分かる。

 オレはお前のオルタ。

 楽園を壊す者。

 人を救う理想郷を奪う者。

 世界にそう在れと望まれ、他人の理想郷を踏み潰す―――いつものことだ」

 

 両者の右腕が、一瞬消える。否。消えて見えるほどの速度で振られたのだ。

 

 オルタが右の銃を抜き撃ちし、エミヤが右の剣を振るって切り落とす。

 切り捨てられた銃弾が二つに分かれ、公園の地面に小さな穴を穿っていた。

 銃弾も剣先も超音速の攻防を、両者はこともなさげにこなしている。

 

「オレはオレのマスターの正義の味方をする。

 優しい理想を否定させないために、守る。

 それが、衛宮士郎の成れ果てとしてオレが今成すべき仕事だ。

 間違い続けた男の成れ果てとしてはあまりにも上等すぎる話だとは思わないか?」

 

「オレはオレのマスターの世界を滅ぼす鉄心の味方をする。

 世界が必要ないと判断した理想を駆逐する。

 それが、衛宮士郎の成れ果てとしてオレが今成すべき仕事だ。

 くだらないことを囀るな。オレにもお前にも、我々のマスターにも、正義などない」

 

 両者は言葉を交わしながら――『目の前の大嫌いな自分』を言葉でも否定しながら――走り、荒々しい戦闘を展開する。

 戦いの天秤は、序盤から明確にオルタの方に傾いていた。

 

「そら行くぞ」

 

「……っ」

 

 オルタが双銃を連射する。

 一息の間に放たれた数、実に16。

 全てが命中の軌道にある精密射撃の内10をエミヤは一瞬で切り落とし、残り6つを身を捩りながら跳ぶ事で回避した。

 だが、かわしきれなかった弾丸の一つが頬にかすり、皮膚を削り落としていった。

 オルタの攻撃を対処しきれていないことに、エミヤは舌打ちする。

 

 サーヴァントの強さの比較において、たまに語られる常識がある。

 『剣は銃より強い』、という奇妙奇天烈な常識だ。

 

「オレ達のようなものがこんな世界を肯定しようというのが滑稽なのだ。かつてのオレよ」

 

「ぐっ」

 

「地獄から生まれた英霊が、地獄を否定する世界を守るなど、とんだ笑い話だ」

 

 サーヴァントは幻想の世界の戦士と言える。

 ゆえに、伝説の剣や神の槍などが強い。

 銃の強さは超人たるサーヴァント相手に絶対的有利とはならないのだ。

 投影で武器を作れる衛宮士郎には幾多の選択肢があり、エミヤは英雄の剣を投影して強さを継ぎ足す道を選び、オルタは近代的な銃を利用した合理性の道を選んだ。

 

 エミヤの手には幻想があり、オルタの手には合理がある。

 そして少なくともこの戦闘において、優勢を作っているのは合理であった。

 

 弾頭をいじられて跳弾能力を持たされた銃弾が地面や周囲の街灯で跳ね返り、エミヤの手足を撃ち抉る。

 

「くぅっ……!」

 

「お前はかつてのオレだが、オレはお前のかつての姿ではない。

 オレはお前の戦術を知るが、お前はお前の成れ果てであるオレの戦術を知らない」

 

 同一存在ゆえに僅かな差が如実に出る。

 より悪辣な方が勝つ。

 言い変えれば、()()()()()()()()()

 地獄の頂点に立つ汎人類史が大抵の異聞帯に勝る理由が、この戦いにはあった。

 

 理想も願いも捨て切ったエミヤオルタはその分だけ合理的に殺しをこなしてきた。

 ゆえに強い。

 多様性のある地獄こそが、更に地獄に落ちた更に強いエミヤを作り出す。

 エミヤオルタは、この世界が失いつつある『汎人類史の強さ』そのものだった。

 

 理想も、夢も、信念も、自分の過去も、大切な人との記憶も失いつつある、心が完全に壊れた衛宮士郎―――こんなものを生み出し続けられるからこそ、汎人類史はとても強い。

 

 衛宮士郎の強さは、衛宮士郎の不幸より生まれ、ゆえに衛宮士郎は汎人類史でこそ強く悲劇的なものに成り果て、悲惨な人生を積み重ねた分だけ世界の奴隷として酷使されていく。

 

 けれど、それでも。

 その苦難の最果てでこそ、輝くものもある。

 地獄の中でも強がれる男がここに居る。

 エミヤは強がり、ニヒルに笑んだ。

 

「多弁になってきたじゃないか、もう一人のオレ。

 何が気に入らない? 何に怒っている?

 この世界が気に入らないなら、淡々と戦って潰せばいい。

 オレ達はそういうものだ。オレ達が多弁になるのは……自分が許せない時、か?」

 

「安い挑発だな」

 

 嗤うオルタの馬鹿げた威力の投影拳銃弾を伏せてかわし、エミヤは双剣を投げた。

 それなりの重量がある双剣が鳥の如く飛んで行くが、それをオルタは余裕でかわす。

 オルタの横を双剣が通り過ぎたその瞬間には、エミヤの手には双剣が握られていた。

 

 これが投影。無限に剣を製ずる力。彼の手には武器が絶えない。

 更に投影して投げ、今投影して手に持っている、『干将・莫耶』は引き合う特性を持った夫婦剣の宝具である。

 オルタの横を通り過ぎた双剣は、エミヤが手にした双剣と引き合い、戻って来る。

 エミヤは全力で跳び、オルタとの距離を詰め、戻ってきた双剣との挟み撃ちを行った。

 

 投げた二剣、手に持つ二剣、四つで行う四箇所同時の同時斬撃。

 一人で前後から挟み撃ちを行うため、巨大な剣でも巨大な盾でも防御困難という、思わず見惚れる完成度の攻撃であった。

 凡百の英霊であれば、この一撃でまずやられる。

 

「これで―――!」

 

 オルタはエミヤの出方を見て、双銃に付いた刃に魔力を通して強化する。

 この双銃もまた干将・莫耶。刃の付いた銃になっているが、その本質は変わらない。

 オルタは双銃を振り上げ、そのまま肘を曲げて双銃を背中側に回し、正面に振り下ろすように思い切り腕を振った。

 

 合理を極めたオルタの体術が、双銃にて空の内に二つの円を描いて刻む。

 

 オルタの干将・莫耶に引っ張られ、飛んでいる干将・莫耶の軌道が誘導され、オルタの双銃の刃に切り砕かれる。

 オルタが振った双銃はそのまま振り下ろしの形になり、エミヤは咄嗟に手に持った双剣で受け止める。

 

 そのまま受け流そうとして、エミヤはオルタの双銃が、エミヤの手にした双剣を強烈に『引き付け』て、接着したように固定したことに遅れて気が付く。

 双銃も双剣も変わらない。

 干将・莫耶であれば、二つは引き合う。

 気付いていれば、双剣なんてすぐに手放して逃げていただろうに、その一瞬の読み合いでの敗北が、決定的な失態だった。

 

 双剣を固定したまま、銃口がエミヤの体に向いた状態で、オルタは引き金を引いた。

 

「ぐあ、アッ……!!」

 

 ほんの一瞬。一般人であれば流れすら視認できない一瞬の壮絶な駆け引きにて、オルタはエミヤに勝利した。

 赤き外套の守りを抜いた銃弾はエミヤに血を流させて、エミヤは遮二無二距離を取る。

 少し離れた距離はオルタの独壇場だと分かっていても、今この段階で距離を詰められていることはあまりにも致命的に感じられたからだ。

 

 オルタは背中側から真正面に向けて腕を振り、刃付きの双銃を振り下ろし、撃っただけ。

 困難な絶技を組み合わせたわけでもない、何気ないワンアクションだった。

 だが間違いなく神業だった。

 タイミングがよく、無駄がなく、ゆえに合理性を極めた最適手となっていた。

 

 怖気がするほどに合理を極めた、無駄が何一つ無い一撃。

 

「知っている技。使い慣れた技。自分自身に通じると思うか?」

 

「くっ……」

 

 オルタはエミヤの人生をよく知っている。

 エミヤはオルタの人生を全く知らない。

 オルタの方が悪辣で、オルタの方が擦り切れている。

 だから、そのほんの少しの差が、絶望的な壁になっている。

 

 より残酷な世界の方がより強い英霊を生み出せると、汎人類史が証明するような攻防だった。

 

「気付いているのか、異聞帯のエミヤ」

 

「……なにが、だ」

 

「お前達の世界が勝てば、お前達の世界が他の世界を滅ぼす。

 お前達の世界が負ければ、汎人類史がお前達の世界を滅ぼす。

 何一つ犠牲にしない世界?

 誰も踏みつけにしないまま幸福になる世界?

 誰の笑顔も失わせないまま続く世界?

 もうそんなものは無くなった。

 お前の理想の世界は、もう死者か加害者にしかなれないということに」

 

「っ」

 

「お前の理想(ゆめ)は、もうとっくに死んでいる」

 

「―――」

 

「お前はこの世界を作る、皆を幸せにしたいという願いが綺麗だったから憧れた!」

 

 オルタの声が荒げる。常の彼らしくもなく。

 

 嵐のような銃弾の連射が、エミヤへと襲いかかった。

 

「自身からこぼれ落ちた気持ちが!

 この世界では拾われたと錯覚し!

 それを守らんと誓いを立てた!

 これを偽善と言わずなんと言う!

 所詮は偽物だ、そんな偽善では何も救えない!

 自分の世界も守りたい? もう一つの世界も滅ぼしたくない?

 甘っちょろい三流の半端者だからこそ、何を救うべきかも定まらない―――!!」

 

 エミヤは自分の強力な投影や打てる手を正確に先に潰して来るオルタの容赦の無さに舌を巻き、干将莫耶で弾きながら横っ飛びに銃弾をかわす。

 だが、かわしきれない。

 回避の動きが先読みされている。

 足の甲、肩、二の腕、脇腹、次々と銃弾がかすめ、当たり、弾がめり込んでいく。

 

「無様なものだ、カルデアのマスターとやらは!

 最後のマスターの責任ゆえに、強迫観念に突き動かされてきた!

 それが苦痛だと分かっていても!

 破綻していると気付いていても!

 『みんなも死にたくないはずだ』と、何の得もなく、ただ走り続けている!」

 

 誰もが幸せな世界という幻想は、壊れてしまった。

 

 エミヤが抱いた幸せな幻想は、認められないまま壊れてしまった。

 

「……『壊れた現像(ブロークンファンタズム)』!」

 

 エミヤは投影した剣を爆発させる得意技を披露し、爆発した双剣が銃弾の群れを吹き飛ばす。

 

 壊れた幻想の残骸を見つめるオルタの瞳が、ひどく悲しげだった。

 

「―――まるで、オレ達の破綻した理想の道を、再走し始めている子供を見ている気分だ」

 

 オルタはマスターの笑顔を脳裏に浮かべて、虚しげに嗤う。

 

「人は世界のために戦えばどこかで破滅する。

 頑張っても益を得るのは自分達以外のどこかの誰か。

 自分の幸福のために自分勝手に生きた方が醜くともまだマシだ」

 

 まるで、古い鏡を見せられて、「こういう人間が昔居たな」と見せつけられて、「このままだとお前と同じになるかもな」と言われているかのような、酷い話だった。

 

「こんな世界は無ければよかった。見つかるべきではなかったのだ。無ければよかった」

 

 オルタは冷たい無表情なまま、誰にも見えない口内で歯を食いしばる。

 彼は誰もが幸せなまま旅路を進み終えた世界なんて、見ているだけで心が傷付いてしまいかねない世界を、悲しい別れのたびに傷付いてしまうあんな普通の女の子に、見せてほしくなかった。

 だから、引き金を引く指に力がこもる。

 

「自分より他人が大切だという考え。

 誰もが幸福であってほしい願い。

 その全てが結実したのがこの世界か。

 ハッ、ご立派なことだ。

 その果てが剪定事象か。いいザマだよ。その無様さが大いに笑える」

 

「……」

 

「存在自体が許されない。

 こんな世界が否定されて大いに満足だ。

 見ているだけで、あの子を傷付ける世界など。

 あの子が、これまでの旅路を悔いるかもしれない世界など。

 消えてしまえばいい。

 誰もが幸福などという傲慢なハッピーエンドで、全員を救えなかったあの子を傷付けるな」

 

 涙を流すような銃火だった。

 銃弾が涙の粒のようだった。

 毛先ほども動かない鉄面皮が、その奥の感情を隠していた。

 言葉には少しだけ、にじみ出ていたけれど。

 

 殺すために銃を選んだオルタの言葉と攻撃を、守るために剣を選んだエミヤの防御が受け止めていく。

 

「オレは割り切っている。

 オレは慣れている。

 聖杯戦争など始めさせる必要もない。

 このままいつものように汚れ仕事を完遂してしまおう。

 藤丸立香(マスター)の傷が広がる前に、オレの独断で即時この異聞帯を切除する」

 

 強力な銃弾が足にめり込んで、エミヤの体がぐらりとぐらつく。

 なのに、エミヤは笑った。

 真面目な顔を保てなくて、笑ってしまった。

 笑えるようなことは何も無い残酷の中で、思わず笑ってしまっていた。

 

「何が可笑しい?」

 

「いや、深い理由などないさ。

 ただ……オレ達は、『衛宮士郎』をやめられないんだな、と思っただけだ」

 

 エミヤの体から活力が徐々に失せている。

 蓄積されたダメージがあまりにも大きい。

 だが心は、戦いが始まった時よりもずっと、強い力に満ちていた。

 

「カルデアで新しく大切なものを見つけてしまったオレ達は、どうしようもなく衛宮士郎だ」

 

「―――」

 

「何故だろうな。何故オレ達は……いや、どうでもいいことか」

 

 かつて、エミヤと名付けられた英霊がいた。

 かつて、エミヤ・オルタと名付けられた英霊がいた。

 けれどもう、長き旅路を『救ってやりたい少年/少女』と共に過ごしてきた二人の男は、かつての自分と少しだけ違う自分になっていた。

 かつての衛宮士郎に戻るような方向性の、ほんの小さな変化があった。

 

 エミヤは声を張り上げて、穴だらけの自分の体に活を入れる。

 

「オレ達の人生などとうに終わっている。

 サーヴァントの尽力は生者のためにある。

 この戦いは元より……己のマスターの未来を勝ち取る戦いだ!」

 

「戯言だな」

 

「語るさ、戯言を!

 掲げるとも、理想を!

 信じてるんだ、未来を!

 オレは世界をこんな形で救ったマスターを、サーヴァントとして、信じている!」

 

 オルタが強大な魔力を炸裂弾頭として投影装填するのを感じ、エミヤは『ずっと使うことを誘われていた』盾の投影を、たまらず切った。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

 光り輝く七つの花弁が、飛び道具に対し無敵の防御を構築する。

 必殺の炸裂弾、次いで発射された無数の弾丸がアイアスにぶつかるが、盾は微塵も揺らがない。

 だが、これは誘いでしかなかった。

 

「爺さんの夢を……オレとレイスイと皆で、ちゃんと形にしてみせた!」

 

 オルタの銃弾の一つが、盾にぶつかり、膨大な光を放つ。

 かくして、エミヤはオルタを見失った。

 この二人の戦闘において、相手を一瞬でも見失うというのは致命傷に等しい。

 

「くっ……剪定なんぞさせるものか!

 まだ何も決まっていない!

 オレ達の世界は―――絶対に、間違いなんかではない―――!!」

 

 そして間髪入れず、容赦のない追撃がエミヤを襲う。

 飛来したのは黒白の双剣。

 アイアスが正面に展開されたのを見てから、オルタが横に回り込んで投げた剣。

 エミヤは瞬時に神がかった判断と、追い込まれてからの執念で、両方を身を捩ってかわす……だが、その剣は、かわした後に戻って来る。

 

 干将・莫耶は夫婦剣。

 引き合うことで、投げた後も軌道が曲がる。

 

「なら、夢を見たまま、理想の世界に溺れて死ね」

 

 エミヤの右腕が、肩口の関節と肉ごと切り離され、切断された腕が宙を舞った。

 

 

 

 

 

 決着はついた。

 『エミヤ』は小技、小細工、創意工夫をもって戦うべき英霊である。

 双剣にしろ双銃にしろ、両の手で別々のことをして、両の手で器用な攻防を繰り広げ、それでようやく一流と渡り合っている。

 だから、片腕を失った時点でもうどうしようもない。

 決着はついた、とオルタは考える。

 

 だが、エミヤはそうは考えていなかった。

 

―――体は剣で出来ている。(I am the bone of my sword.)

 

「何?」

 

 それは、心をそのまま言葉に換える詠唱。

 

 足を止めて詠唱を始めたエミヤを見るオルタの視線が冷める。

 オルタはとてつもない愚か者を見る目でエミヤを見る。

 棒立ちのエミヤは、いい的だった。

 駆け引きすら無い、非常に長い詠唱を無防備に始める愚かしさ。

 

 オルタはエミヤが詠唱中にロー・アイアスの展開などを始める展開を一応警戒しつつも、確かな失望と共に銃撃を見舞う。

 エミヤの体に空いた穴が、引き金を引く度に増えていった。

 

「っ……血潮は鉄で 心は硝子。 (Steel is my body, and fire is my blood.)

 

 エミヤとオルタの戦いが双剣と双銃を中心としていたのには、理由があった。

 

 この両者の切り札……宝具は、『固有結界』である。

 非常に長い詠唱を必要とするそれは、決まればもう一人の自分が相手でもまず確実に勝てる。

 が、両者共に相手の切り札がそれであると知っているなら?

 成功するわけがない。

 戦闘距離での詠唱時間など確保できるわけがない。

 集中と時間が必要な強力かつ大規模な投影も然りである。

 

 だから、どちらも固有結界など使わなかった。

 使えば負けることが明白だったからだ。

 なのにエミヤはここに来てその詠唱を始めた。

 敗北が決まった戦闘終盤でのやけっぱち。一か八かの大博打、という名の自殺行為。オルタはそう判断し、淡々と銃の引き金を引き続けた。

 

 銃声の度に、エミヤの霊体が砕け、霊基にダメージが入っていく。

 

「ぐっ、幾たびの戦場を越えて不敗。(I have created over a thousand blades.)

 

「夢を見ている時のオレは、ここまで愚かだったか。勉強になった」

 

ただの一度も敗走はなく、(Unknown to Death.) ただの一度も理解されない。(Nor known to Life.)

 

 オルタの銃撃が次々と当たるが、エミヤは倒れない。

 このまま行けば詠唱終了まで保つのでは、とも思える流れだが、実際は違う。

 

 オルタは特殊な弾丸を投影し、攻性魔力をエミヤの体に蓄積させていた。

 トドメの一発を撃ち込むことでそれは爆発し、エミヤを木っ端微塵に即死させる。

 "耐えられるかもしれない"をチラつかせつつ、エミヤを完全に詰ませていく。

 

 普通の弾丸を撃ち込んで追い詰めていっても、途中で詠唱が間に合わないと判断すれば、詠唱を中断してまたアイアスを展開し、逃げに入るかもしれない。

 詰んでいることに気付かせないまま詰ませるのが、オルタの狡猾な戦術だった。

 ここまで魔力が蓄積すれば、アイアスで防いでから逃げに入っても、銃弾一発でエミヤが爆死するラインを超えているため、問題なく一射で殺せるだろう。

 自分自身の耐久力をよく知っているがゆえに、オルタはエミヤの確殺ラインが目に見える。

 

 ここで殺す、という絶殺の戦術構築がここにある。

 

彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。(Have withstood pain to create many weapons.)

 

「存外、つまらん決着だった」

 

 そして、オルタのトドメの一撃が突き刺さった。

 蓄積された攻性魔力が爆発し、エミヤが爆発に飲み込まれる。

 エミヤの耐久力がオルタの推定の二倍三倍あったとしても、死は免れないだろう。

 詠唱は完遂せず。二節を残して、爆音が詠唱を遮った。

 本当につまらなそうに、オルタはその爆焔を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター。レイスイ。聞いているのか? 次はバビロニア、かのギルガメッシュの……」

 

「あ、シロウさんシロウさん、これ着てみて。クリスマスプレゼント(予定)なんだけど」

 

「何かねこれは。服? 肌着のようなものか」

 

「聖骸布? っていうの貰ったから作った服。服飾は初心者なんだけどね」

 

「聖骸布? 待ちたまえ、なんでわざわざそんなもので作った?」

 

「え? 聖骸布って超すごいホッカイロみたいな布なんじゃないの?」

 

「……まあ、水素水が体に良いというくらいには真実だ」

 

「嘘じゃん! シェイクスピア! シェイクスピアァー! また俺をからかったなー!」

 

「……くっ、くくく。

 君はサーヴァントをすぐ全面的に信頼するからな。

 その上嘘をつかれた後でも信じる。

 いい反応もしてくれるから、君をからかうのが楽しいんだろう」

 

「さ、最悪だ……気をつけないと……」

 

「気を付けてどうにかなるものでもないと思うがね。何故突然こんなものを?」

 

「もう冬だから。人理修復して冬が来たら皆寒いかな? って」

 

「君のその手、そういうことだったか。妙に傷が増えているなとは思っていた」

 

「針がめっちゃ刺さって痛かったです、はい。……か、感想をいただけますか」

 

「ちょっと待ちたまえ。今着よう」

 

「うんうん。どう? 着心地どんな感じ? 暖かい?」

 

「なら言うが、これあんまり暖かくはないぞ、マスター。結構チクチクするところもある」

 

「次からは別の素材にします……生まれてごめんなさい……」

 

「死ぬほど落ち込んでいるな……いや、その、なんだ」

 

 

 

 

 

「着心地は良くないが、気に入りはした。大切に着させてもらうよ、ありがとう」

 

 

 

 

 

 其は、召喚されたルーラーが刕惢に贈与したもの。

 『トリノの聖骸布』と呼ばれたものを、スキルで作成し、ごく普通の少年が『暖かくしていてほしい』というありきたりな気遣いで、一着の服に仕上げたもの。

 "死後に復活した聖人"の聖骸布は、ただ一つの効果を着た者へともたらすだろう。

 

 死しても、一度は蘇る。

 サーヴァントに限るが、ほんの僅かな命を残し、死にすら耐える。

 ただ一度きりの奇跡をエミヤにもたらす、マスターの笑顔と共に贈られた絆の礼装だった。

 

故に、生涯に意味はなく―――(Yet, those hands will never hold anything.)

 

「なんだと!? バカな、この一撃に耐えられるわけが―――」

 

―――その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.)

 

 剣の世界が、世界を塗り潰す。

 無限の剣が現れる。

 雪崩の如き量の剣が、雨の如く四方八方から降り注ぎ、オルタの全身を貫いていく。

 

 かくして、勝者と敗者は決まった。

 

 ハリネズミのようになったオルタの前で、エミヤは握った拳を突き上げる。

 

 ほんのひととき、胸の内に満ちる達成感と、マスターへの感謝に、彼の心は揺蕩っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルタは嗤った。

 自嘲のような笑みだった。

 自分の無力さを心底否定している笑みだった。

 

「負けるはずがないと、思っていたのだがな」

 

「理想を捨てた衛宮士郎は、理想を捨てていない衛宮士郎に勝てない……らしい」

 

「なんだ、それは」

 

「さあな。腹の立つ理屈だ。そうでないことを願っておこう」

 

「……」

 

「オレより、君の方が強かった。

 異聞帯のオレは、汎人類史の君より弱かった。

 だが……お前には負けない。誰かに負けるのはいい。けど、自分には負けられない」

 

「……そう、だな。オレ達の最大の敵とは、常に自分自身だ」

 

 エミヤの勝機は、ここにしかなかった。

 ここでオルタの予想を超える以外に、勝ち筋はなかった。

 会話の中で隙を見つけてなんとかねじ込んだが、もう一度やれと言われても、エミヤはもう一度成功させる自信がない。

 まさに、奇跡のような勝利であった。

 

 この世界は毒であり、薬だ。

 『エミヤ』には見ているだけで効きすぎる。

 忘れていた昔の自分が蘇ってしまう。

 良くも悪くも、エミヤは冷たい自分を維持することができなくなっていく。

 エミヤの勝因はそれで、オルタの敗因はそれだった。

 

「……オレは行く。お前はそのまま消える。それでいいんだな」

 

 エミヤの問いかけに、オルタはフッと笑う。

 嗤うのではなく笑う。

 そこには何の嘲笑も、見下しも、摩耗も見られない、ごく普通の笑みだった。

 

「オレにお前は勝った。

 なら、それでいいんだろう。

 いいじゃないか正義の味方。……なんでか、妙に泣きたくなる」

 

「……」

 

「……なあ、オレは、こんな何もできない身で、あの子の未来に、何を―――」

 

 言おうとした言葉を最後まで言い切れず、オルタは消え去った。

 

 エミヤにはその言葉の続きが分かる。

 

 だがその言葉の続きを勝手に言ってしまうような無粋を、エミヤは持ち合わせていない。

 

「行くか」

 

 ここで止まってはいられない。

 最序盤の最大のチャンスだ。

 ここで勝利を確定させてしまえば、この先に生まれるであろう傷はぐっと少なくなる。

 マスターの心を守ることができる。

 エミヤはマスターがくれた、ちょっとちくちくするヘッタクソな出来の黒い聖骸布を握り、普段から身に着けている赤い聖骸布をなびかせて、公園を抜け出した。

 そして、そこで。

 

 

 

時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)

 

 

 

 『アサシン』の銃弾が、絆の聖骸布ごと、エミヤの胴を撃ち抜いた。

 こふっ、と多量の血が吐かれる。

 時間を操り、意識外からの奇襲を行い、エミヤを暗殺したアサシンの顔を見て、エミヤは運命を呪うような顔をした。

 

「……それはないだろう、爺さん」

 

 そのサーヴァントの名もまた、『エミヤ』。

 だが衛宮士郎ではない。

 衛宮士郎をかつての大災厄から救い、衛宮士郎に理想と夢を与えた人物の並行世界の存在……衛宮切嗣がサーヴァント化した存在。

 アサシン、英霊エミヤ。

 それが、二人のエミヤの戦いを見張り、チャンスを見つけて暗殺を実行し、汎人類史の敵を速やかに始末した掃除屋の名前だった。

 

 平行世界の親が、平行世界の子を殺す。衛宮が衛宮を殺す、因果の帰結。

 

「ここで君は終わりだ。この世界もいずれ終わる」

 

「……なあ、いいのか、爺さん。汎人類史の争いの螺旋、放っておいて」

 

「……」

 

「この世界には、それが、もうないのに」

 

「……」

 

「平和がいい、幸せが至上、笑顔を奪うなとか言いながら……すぐに皆、失わせる……」

 

 まるで、大切なものを失う痛みを忘れるような繰り返し。

 文明に痛覚に何一つ残留しないまま、争いは繰り返される。

 その未来に福音はなく、最後に残るのは多くの悲劇が抉り取った胸の奥の伽藍堂。

 ゆえに強く、ゆえに様々な形を持つという、残酷さが保証する世界の強さと多様性。

 

「―――ああ。なんて、矛盾した螺旋だ。

 生きたいと願う命が殺し合わねば世界ごと滅びる。

 そんな世界で……俺はあんな子供達に……こんなものを……背負わせ―――」

 

 そして、エミヤも消滅した。

 二人のエミヤが消滅し、後には静寂が残る。

 衛宮切嗣だったものは、懐からタバコを出して、火を付ける。

 吐き出した煙が、真っ黒な夜空に溶けていった。

 

「唾を吐き捨てたい気分だ」

 

 エミヤが抱えていた理想は、彼から受け継いだもの。

 借り物の理想のオリジナルはここにあり、ゆえにその心は軋む。

 かつて衛宮切嗣は、聖杯に世界平和を願おうとした。

 不可能を可能とする聖杯ならば、それが出来ると思っていた。

 それで、少しは世界がマシになると思っていた。

 

 だが、この世界はどうだ?

 この世界はいわば切嗣の夢見た世界。

 彼の願いが叶った理想世界だ。

 だがそれゆえに、この世界は剪定される運命の中にあるという。

 

 それはすなわち―――切嗣の夢が、本当の意味で、完全に否定されたことを意味する。

 

「……世界平和を望めば。

 世界はこうなってしまうのか。

 皆に幸せになって欲しいと願えば。

 未来は無くなってしまうのか。

 それが宇宙のルールなら……僕は、夢を見なくて正解だったのかもしれない」

 

 切嗣は割り切っているつもりだった。

 本人は自分がそう在れていると思っていた。

 けれど、その実、そんなことはまったくない。

 

 この世界は、切嗣がいつか見たかった世界、彼の理想で。

 この世界への残酷が、切嗣への全否定で。

 深い満足と深い絶望が、同時に心の奥に満ちていた。

 

「ああ、でも、なんでだ」

 

 とうの昔に涙も枯れ果てた切嗣から、幼稚な感想が出て来ることはない。

 

「―――なんで、こんなにも虚しくて、こんなにも悲しいんだ」

 

 どうしようもないほどに深い悲しみが、そこにあった。

 

「……」

 

 切嗣は、汎人類史二体目のサーヴァントとして召喚された。

 ならばその役割は汎人類史の味方。異聞帯の剪定である。

 立香達の下に帰り、次の作戦を練り始めなければならない。

 けれど切嗣はもう、どうにも、そういうことをする気にはなれなかった。

 誰の味方もしたくなかった。

 誰の敵もしたくなかった。

 今はただ、この優しい世界を眺めていたかった。

 

 この世界を滅ぼすことに、加担したくなかった。

 

 一仕事はした。ならもういいだろうと、切嗣は一人納得する。

 

「すまないね、マスター。僕はここで一抜けだ。……なんでだろう、なんだか少し、疲れた」

 

 夜闇の中に、アサシンのエミヤが溶けていく。

 

 かくして戦場より、三者三様の正義に生きたエミヤ達は、消え去った。

 

 彼らは苦難にぶつかる正義の味方。

 世界の維持がために戦う者達。

 大のために小を切り捨ててきた人理の守護者。

 自分達の世界のために、誰かのささやかな幸せと小さな世界を踏み潰す者達。

 されど捨てきれない優しさと情があり、カルデアでは信頼される者達だった。

 

 かつて、幸福なる世界平和を夢に見た男達。

 

 ただただ今は、この宇宙の残酷さに唾を吐き捨てる。そうすることしかできないから。

 

 

 


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