○○を教えるスネイプ先生 作:ギャグなんてこりごりだ
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――未来のチャンピオンだ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、ポケットモンスターシリーズの圧巻な物語性と、複雑な設定を学ぶ。ここでは厳選のような馬鹿げたことはやらん。これでもゲームかと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く冒険への興奮、ゆらゆらと立ち昇る勝利への意欲、開発元の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、昨日の敵を今日の友達にし、未知に次ぐ未知を探訪し、神話に名を残す伝説の存在を相手にしてさえ奮闘をする方法である。――ただし、ポケモンを対人ツールとしてしか見ていない悲しき戦闘人形どもより諸君らがまだ少年少女のワクワクを残していればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。ポケットモンスターシリーズは確かに名作揃いだが、今はポケモンといえば対人の時代だ。公式でランクやレート、出場可能ポケモンの制限まで行っている。長時間プレイを続けているプレイヤーでもストーリーの細部を忘れている事だってある。
「ポッター! ベトベターに環境対策を加えると何になるか?」
ヘドロが月からのX線を浴びてポケモンになった謎の生物に近年流行りのエコ路線を加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ロンはパーシーから交換でもらったラッタがあまりに狂暴で悲鳴を上げていた。ハーマイオニーは考察班なので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「エリートトレーナーなだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。ポケモンになる方法を探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーにはポケモンになる方法が一体何なのか見当もつかない。いつだってポケモンになってみたい夢は抱えているが、具体的な方法を考えるのは少し怖いのだ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルがヒンバスの醜さに身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後にミロカロスを仲間にするマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前にミオ図書館を見学しようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、イーブイをどのタイプに進化させるかでダドリーと喧嘩になったことならある。スネイプはポケモンプレイヤーが誰でも考察にハマるとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、メガシンカとダイマックスの違いは何だね?」
この質問でとうとう髪の癖がオカルトマニア並みのハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。ハリー、ロン、ハーマイオニーが御三家のポケモンをもらうので、シェーマスは近所の草むらで野生のポケモンを捕まえなくては旅に出られない。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。産業廃棄物を食べて育つベトベターは環境汚染を象徴するようなポケモンだが、近年の作品では環境対策が進み、激減したベトベターを保護するために専用のヘドロ槽を用意したり、ゴミ処理施設で飼育したりと工夫を重ねている。人間とポケモンについてはシンオウ地方の神話に語られているほか、少年がユンゲラーになったり、死者のデスマスクがデスマスになったり、手段を択ばないのであればやりようはある。メガシンカとダイマックスはどちらもバトルで用いる特別な切り札だが、メガシンカは絆によって進化を超えてさらに進化する力であるのに対し、ダイマックスはガラル粒子によってポケモンから周囲の空間を歪める力を発生させ、巨大化しているように見せる力だ。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音をかき消すように、ネビルの大鍋が爆発し、煙の中から人が飛び出してきた。
「トレーナー たるもの いつなんどき であっても バトル の じゅんび を おこたっては ならん! ゆだんたいてき!」
やみばらい の ムーディ が しょうぶを しかけてきた!