○○を教えるスネイプ先生 作:ギャグなんてこりごりだ
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――頑張る学生だ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、夜食の甘美な魅力と、残酷な結果を学ぶ。ここでは糖質制限のような馬鹿げたことはやらん。これでも食事かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く雑炊、ゆらゆらと立ち昇る湯気、カロリーの繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、集中力を言い訳にし、罪の味を錬成し、深夜にさえ麺類を啜る方法である。――ただし、お腹いっぱいで眠くなっちゃったなどとほざくウスノロどもより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。進行中の作業が大変であればあるほど、夜食の誘惑に勝つのは困難になる。そして深夜に食べるちょっとした贅沢のおいしさときたら!
「ポッター! カップうどんに豆乳を加えると何になるか?」
絶対に裏切らないおいしさにヘルシーで香りのいいミルクを加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「これなら実質ゼロカロリー」という顔をしていた。ハーマイオニーは今日も徹夜なので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「夜更かし癖があるだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。深夜のご褒美スイーツを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーには深夜のご褒美スイーツが一体何なのか見当もつかない。ふとした瞬間に疲労を感じて手が止まってしまったら、何かしらの形で自分を甘やかしてやらないと再びエンジンをかけるのは難しいのに、そういう時に限って冷蔵庫が空なのだ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが作業をするわけでもないのに夜食を貪っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に息子を応援する父として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前に軽く一休みしようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、ダドリーと二人で星空を見上げながらテイクアウトの中華を食べたことならある。スネイプは全ての夜食が罪の味だとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、暴飲暴食と節度ある夜食の違いは何だね?」
この質問でとうとう夜食のプロのハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。成績については一切が不明だが、少なくとも勉学に励んでいるシーンは一度もなかった男だ。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。カップうどんを豆乳で作るとまろやかでコクのある幸せな味になる。豆板醤とゴマをいれることでゴマ豆乳担々うどんにもできるが、深夜に辛いものを食べると胃が荒れることもあるから気をつけるのだ。また、豆乳で作る場合は少し長めに待たないと麺が固い。冷蔵庫に何もスイーツが見つからなかった場合、余りのパンや米を甘めのミルク粥にしてジャムを添えたり、卵と砂糖、そして牛乳を混ぜてチンするだけのお手軽プリンをマグカップで作ったりすることを検討してもよかろう。ただし、レパートリーが増えれば増えるほど体重増加も加速する。警戒するのだ。暴飲暴食と節度ある夜食はどちらも結局食べているということに変わりはないが、暴飲暴食は後先を考えていないのに対して、節度ある夜食は一応の言い訳を自分に立てているからまだ精神的にましだ。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは1点減点」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! 早めに寝てワンチャン朝活で終わるのに賭けたほうが健康的です!」
「だまらっしゃい!」