○○を教えるスネイプ先生   作:ギャグなんてこりごりだ

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一人旅学を教えるスネイプ先生

「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――魂の旅人だ」

 

 薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。

 

「このクラスでは、一人旅の自由な楽しみと、無限の可能性を学ぶ。ここではぼっち煽りのような馬鹿げたことはやらん。これでも旅行かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く内湯の湯けむり、ゆらゆらと立ち昇るほかほかのお弁当、お一人様の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」

 

 褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。

 

「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、休暇を思い出にし、突発旅行を敢行し、平日にさえぶらり途中下車をする方法である。――ただし、諸条件を確認したうえでこの旅行が問題のない範囲か判断できないウスノロどもより諸君らがまだましであればの話だが」

 

 大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。ハリーたちにとって一人旅は渋い大人の趣味で、もっと悪い言い方をするなら寂しい生活をしている人の気晴らしという認識すらある。そして寂しい生活代表のようなスネイプに熱弁されたところで、困惑以外何も生じない。

 

「ポッター! 一人旅の候補地に東京ディズニーリゾートを加えると何になるか?」

 

 ただでさえ悩みそうな目的地候補にカップルや家族で行く王道スポットを加えると何になるって?

 ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「寂しそうだ」という顔をしていた。ハーマイオニーはぼっちの気持ちがわかるので空中に高々と手を挙げた。

 

「わかりません」

 

 スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。

 

「としまえん跡地にスタジオツアー施設が建つだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。数万円で国内の遠くまで行く簡単な方法を探してこいと言われたら、どこを探すかね?」

 

 ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーには安価な長距離旅行の方法が一体何なのか見当もつかない。レンタカーで行ける範囲では長距離とは言えないし、飛行機も状況が極めて限られる。

 

 マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。

 

「わかりません」

「クラスに来る前に自分探ししようとは思わなかったわけだな、ポッター?」

 

 ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、ダドリーと自転車でどこまでも走り、思っていたよりも世界は広いのだと肌で感じたことならある。スネイプは大きな一歩を踏み出して違う世界に飛び込む覚悟が誰にでも備わっているとでも思っているのだろうか。

 

 スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。

 

「ポッター、観光客とバックパッカーの違いは何だね?」

 

 この質問でとうとう孤独を知るハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。

 

「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

 

 生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。シェーマスの故郷であるアイルランドは酒と遺跡、そして自然の絶景で旅には最高だが、シェーマスはそれらを一言も話題に出したことがない。

 

 しかし、スネイプは不快そうだった。

 

「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。東京ディズニーリゾートは一人旅に適している。入場料は少々高くつくが、ただの旅行ではなかなか味わえない景観と興奮を五感で楽しみ、アトラクションもシングルライドで快適、もちろんスケジュールも自由。数万円で旅行の計画を立てると宿泊費と交通費に圧迫されるが、交通費は青春18きっぷで解決できる。青春18と銘打っておきながら年齢制限はないので安心して使うのだ。観光客とバックパッカーはどちらもよそ者だが、観光客はカモなのに対し、バックパッカーは金払いが悪い上にダル絡みしてくることが多い。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」

 

 一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。

 

「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは1点減点」

 

 たまらずロンが叫んだ。

 

「でも先生! 先生は一度でも楽しい旅行をしたことがあるんですか!」

「だまらっしゃい!」

 

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