○○を教えるスネイプ先生   作:ギャグなんてこりごりだ

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また×15ウィザーディング・ワールド学を教えるスネイプ先生

「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――闇祓いだ」

 

 薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。

 

「このクラスでは、原作者の微妙なセンスと、厳密な設定を学ぶ。ここでは夢設定を振り回すような馬鹿げたことはやらん。これでも二次創作かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く翻訳への苛立ち、ゆらゆらと立ち昇るポッターモアの情報、魔法界を這い巡る物語の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」

 

 褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。

 

「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名案を原稿にし、傑作を出版し、教会にさえ禁書指定をさせる方法である。――ただし、才気あふれる息子をないがしろにし続けて闇に堕ちたことすら気づけないウスノロより諸君らがまだましであればの話だが」

 

 大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。バーテミウス・クラウチ・シニアとその息子であるバーテミウス・クラウチ・ジュニアの有能さ、そしてそれゆえに生じた悲劇は誰もが知るところだ。

 

「ポッター! 英国魔法省の外交事情にクラウチ・シニアの能力を加えると何になるか?」

 

 栄光ある孤立という次元じゃないほど他国との連携が見えない魔法省にパーシーが信仰するほど能力の底が見えないクラウチを加えると何になるって?

 ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「降参だ」という顔をしていた。ハーマイオニーは後に英国魔法省の頂点に立つので空中に高々と手を挙げた。

 

「わかりません」

 

 スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。

 

「役職持ちなだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。クラウチ・ジュニアの美点を探してこいと言われたら、どこを探すかね?」

 

 ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーにはクラウチ・ジュニアの美点が一体何なのか見当もつかない。ハリーにとってクラウチ・ジュニアは恩師でもあり、セドリックの仇でもあったのだ。

 

 マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。

 

「わかりません」

「クラスに来る前に自分のキャリアを振り返ろうとは思わなかったわけだな、ポッター?」

 

 ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、ダドリーと根拠もなく将来の夢を語り合ったことならある。スネイプは人生が変わったきっかけの全てをハリーが自覚しているとでも思っているのだろうか。

 

 スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。

 

「ポッター、クラウチ・ジュニアとクラウチ・シニアの違いは何だね?」

 

 この質問でとうとう家庭的な大臣のハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。

 

「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

 

 生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。ディーンはアラスター・ムーディに扮したクラウチ・ジュニアに『服従の呪文』をかけられて『女王陛下万歳』を歌わされていたが、アイルランド人であることを誇っているシェーマスはその姿を見てどう思ったのだろうか。

 

 しかし、スネイプは不快そうだった。

 

「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。英国魔法省は外交部門に弱点を抱えていた。そこに元魔法法執行部部長で様々な外国語に長け、マグルの文化と社会を熟知し、政治家としても有能なクラウチ・シニアが管理職として収まったのは偶然ではあるまい。この人事を左遷と見たどこぞの犬はさぞかし政治的センスに欠けてらっしゃるようだ。クラウチ・ジュニアは闇の帝王に狂信的な死喰い人だったが、同時にその有能さを隠しきれず、極めて実戦的な指導をしたうえ、ポッターが闇祓いを目指すきっかけを作った。クラウチ・ジュニアとクラウチ・シニアはどちらも有能でありながら致命的な欠陥を抱えていたが、その最たるものがコミュニケーションへの積極性の欠如だ。親子が一度でも落ち着いた対話の機会を設けていれば、あるいは別の歴史があったやも知れん。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」

 

 一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。

 

「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは1点減点」

 

 たまらずロンが叫んだ。

 

「でも先生! いくら有能でも大量殺人犯と冤罪野郎なことは変わりません!」

「だまらっしゃい!」

 

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