○○を教えるスネイプ先生 作:ギャグなんてこりごりだ
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――イギリス野郎だ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、スチームパンクの多様な魅力と、面倒な構造を学ぶ。ここでは純粋SF至上主義のような馬鹿げたことはやらん。これでもサイエンスフィクションかと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸くボイラー、ゆらゆらと立ち昇る煤煙、蒸気の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、思弁小説をエンターテイメントにし、歴史とファンタジーを融合し、アニメやゲームにさえ進出する方法である。――ただし、ハードSF以外のSFを一切認めようとしないウスノロどもより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。スチームパンクだろうがハードSFだろうが、詳しくない者から見ればマニアのおもちゃにしか見えない。ハリーも馴染み深いSFといったらせいぜいスターウォーズくらいのものだし、魔法族の子どもにとってはもっと意味がわからないだろう。
「ポッター! ジブリ作品にスチームパンク要素を加えると何になるか?」
日本の国民的映画スタジオが世に送り出す名作に子ども心をくすぐる蒸気機関を加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「父さんは嘘吐きなんかじゃなかった、本当にあったんだ!」という顔をしていた。ハーマイオニーはジュール・ヴェルヌを読んで育ったので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「冒険少年なだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。魔法族にもなじめるスチームパンクを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーには魔法族にもなじめるスチームパンクが一体何なのか見当もつかない。蒸気機関はどうしたってマグルの技術だ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前にクリスタルの伝説を辿ろうとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、格好つけて本屋で買ったSF小説の難解さにダドリーと二人で頭を抱えたことならある。スネイプは全てのSFが一般人にも親しみやすいとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、アンティーク風ファッションとスチームパンク風ファッションの違いは何だね?」
この質問でとうとうディズニーシーで一番好きなアトラクションは海底二万マイルのハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。マグルの文化にも触れてきた環境で爆発を使いこなす力を得たとあれば色々と想像が膨らむものだが、二次創作で主役のポジションをもらっていることがほとんどない男だ。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。国民的アニメスタジオであるスタジオジブリの作品にもスチームパンクの要素を取り入れたものはある。『天空の城ラピュタ』や『ハウルの動く城』がそうだ。また近年の深夜アニメでスチームパンクものだと『プリンセス・プリンシパル』が我輩のイチオシだ。御託はいいから見るのだ、ポッター。スチームパンク作品の中には魔法を扱うファンタジー色の強いものもあり、その代表として我輩は『ファイナルファンタジーⅨ』を挙げたい。とても思い出深い作品だ。steamでも販売しているからプレイするのだ、ポッター。アンティーク風ファッションとスチームパンク風ファッションはどちらも真鍮や革で構築されていることが多いが、アンティーク風は幅広い時代を扱い、スチームパンク風は蒸気機関によるSFのモチーフを扱う。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは1点減点」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! スチームパンクファッションとかヴィクトリアンメイド服とかの美人なお姉さんが見れれば正直満足です!」
「だまらっしゃい!」