○○を教えるスネイプ先生 作:ギャグなんてこりごりだ
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――隠れた才能だ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ。ここでは杖を振り回すような馬鹿げたことはやらん。これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く大釜、ゆらゆらと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である。――ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロどもより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。どうやらようやく魔法薬学を教えてくれるようだ。だからといって嬉しいわけではない。ワクワクしているのはハーマイオニーだけで、残りの誰もがうんざりしている。
「ポッター! 不明な毒薬が含まれる混合液にスカーピンの暴露呪文を加えると何になるか?」
何に何を加えるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「お手上げだ」という顔をしていた。ハーマイオニーは勉強熱心なので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「祖父が魔法薬学の大家なだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。副作用を抑えるための適切な追加材料を探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーには適切な追加材料が一体何なのか見当もつかない。普通に作るだけでも失敗するのに、余計な手間を加えて何ができるというのか。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前に教科書を開いてみようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、教科書に目を通しはした。スネイプはハリーがすでにNEWTレベルまで学習済みだとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、鎮静水薬と安らぎの水薬の違いは何だね?」
この質問でとうとう正統派優等生のハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。魔法薬学の失敗度合いではハリーといい勝負なのにスネイプが私怨でハリーばかり攻撃していたから低成績が目立たない男だ。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。混合毒薬に対して暴露呪文を行使することで毒薬の構成が判明するが、判明した毒薬に対する解毒薬を混合するのみでは混合毒薬に対する解毒とはならない。混合によって変容した追加の成分を特定する必要がある。この混合毒薬と解毒薬の対応関係を端的に説明したものが『ゴルパロットの第三法則』だ。魔法薬は絶妙なバランスによって成り立った作品だが、それを傑作に至らせるための挑戦を怠ることは許されない。この目的ではしばしばペパーミントやハッカの葉が用いられる。鎮静水薬と安らぎの水薬はどちらも精神の安寧をもたらす魔法薬だが、鎮静水薬は4年生で調剤を学び、ラベンダーとワニの心臓、ペパーミントを主な材料とする。一方、安らぎの水薬はOWLの出題範囲として5年生で学び、月長石の代表的な用途としても知られる。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、ネビルの大鍋が爆発し、ハリーはその煙をもろに吸い込んでしまった。
咳き込んでいるうちに、ハリーは自分の声が高く、澄んでいくのを感じた。髪はさらさらになり、制服もあちこちがきつくなったりだぼついたりした。
煙が晴れると、ロンが驚きの声を上げた。
「おったまげー……ハリー、君、女の子になっちゃってるぜ」
ハリーはフラスコに映った自分の姿を確かめた。母さんにそっくりだ! ハリーはどうすればいいかわからず、もじもじしながらスネイプを見上げた。
「先生、その……」
たまらずスネイプが叫んだ。
「グリフィンドールに50000000000点!」