○○を教えるスネイプ先生 作:ギャグなんてこりごりだ
死ぬ寸前の、息苦しそうな音が、スネイプの喉から漏れた。
「これを、取れ……これを……取れ」
血以外の何かがスネイプから漏れ出ていた。青みがかった銀色の、気体でも液体でもないものが、スネイプの頬を伝っていた。ハリーはそれがなんだか知っていた。しかし、どうしていいのかわからなかった――。
ハーマイオニーが鞄から試験管を取り出し、ハリーの震える手に押し付けた。ハリーはスネイプの頬にそれを添えて、銀色の液体を汲み上げた。
スネイプにはもはや一滴の血も残っていないかのように見えた。ハリーのローブを掴んでいたスネイプの手が緩んだ。
「見てくれ」
緑の目と黒い目が互いをとらえた。しかし、一瞬の後、黒い両眼の奥底で何かが消え、無表情な目が、一点を見つめたまま虚ろになった。ハリーを掴んでいた手がドサリと床に落ち、スネイプはそれきり動かなくなった。
記憶の中で、ハリーは校長室に立っていた。夜だった。どうやらハリーが6年生の、ダンブルドアがマールヴォロ・ゴーントの指輪で右手をやられた頃のようだった。
ダンブルドアはまともなほうの手で球を――予言を掲げていた。スネイプはそれを苦々しげな表情で見上げていた。
「つまり、こうですか。未来のわけもわからない災害のために、私にもうひと働きしろと、あなたはそうおっしゃるつもりか」
「左様。そのために君は生きねばならん。生きるのじゃ、セブルス」
「あなたは私に生きる意味を与えたつもりかもしれないが、あなたこそ生きて戦うことを望まれているのではありませんか? 私の働きが不十分だと?」
「もちろん、君の献身には深く感謝しておるとも、セブルス」
ダンブルドアが黒ずんだ手を重ねると、予言が空気を震わせた。
「2019年。つまり、20年以上先です」
「そして君はまだ60歳にもなっておらん。魔法族にとってはまだまだ働き盛りじゃよ」
「私がこれまで見てきたどんな労働者でもこれほどの苦役を課されていることはなかった!」
スネイプはかつてないほどの怒気を込めてダンブルドアを睨んでいた。今にもダンブルドアを噛み殺しそうだった。それでもダンブルドアは日向ぼっこ中の老人のような微笑みを崩さなかった。
2019年の災害。ハリーにも聞き覚えがある。いや、ハリーはその災害と戦っている最中だったはずだ。闇祓い局の局長として、大厄災と称される世界規模の魔法事故によって離散した魔法界の事物とその原因を追っているはずだった。
「よいかね、セブルス。勝利とは終わりではない。始まりなのじゃ。それがいかに残酷であろうとも」
「残酷なのはあなただ」
「いかにも。未来とは残酷であり、ゆえにそれを見る者も残酷でなくてはならん」
ダンブルドアは憂いの篩を指さした。
「記憶を保存しておくのじゃ、セブルス。そこにある全てが君とともに戦うじゃろう。君がどんな状態であろうとも。今我々が直面している戦いは未来の始まりに過ぎないのじゃから」
スネイプは苦々し気に唸ったが、否定はしなかった。
記憶から戻ってきたとき、ハリーは呼吸が荒くなっているのを自覚した。
無数のファウンダブル――魔法事故によって世界中に離散したものどもに囲まれた世界。ハリーはまだそこに囚われている。
奇妙な、そして馬鹿げた授業がいつまでも続いている。魔法界とマグル界の情報が複雑に絡みあい、ハリーの記憶と混ざりあって、この悪夢が生まれたのだろう。
状況は絶望的だ。しかし、ここにはスネイプがいる。どれがスネイプのファウンダブルで、どれが本物のスネイプなのかもわからない。それでも、ハリーは戦うしかない。