○○を教えるスネイプ先生 作:ギャグなんてこりごりだ
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――新人作家だ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、教えるスネイプ先生のおおまかな流れと、ざっくりとしたテンプレを学ぶ。ここでは本作のような馬鹿げたことはやらん。これでも教えるスネイプ先生かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸くアイデア、ゆらゆらと立ち昇るネタ、ギャグの繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、日常を作品にし、妄言を連発し、我輩にさえコメディリリーフをさせる方法である。――ただし、このような授業をする我輩をこれまで書いてきたウスノロより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。そもそも深夜の馬鹿げた雑談から始まった作品に何をマジになっているのだろうか。どうしてここまで続いたのか、ハリーたちもわかっていないのだ。
「ポッター! このテンプレに何を加えると作品になるか?」
一話1900字のうち、実に1200字を占めるテンプレートに何を加えるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「さっぱりだ」という顔をしていた。ハーマイオニーはいつも損な役回りを押し付けられがちなので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「謎のレッテルを貼られるだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。このテンプレに当てはめられるネタを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーには使えるネタが一体何なのか見当もつかない。何かに何かを加えること、見つかりにくい何かを探すこと、違いの分かりにくい2つの要素があることが条件なのだ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前にネタに関する行為をしようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、ダドリーと青春的なエモをやった記憶をここで捏造する。スネイプはハリーがここで扱うネタに対してガチ勢とでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、ヘイトとブラックジョークの違いは何だね?」
この質問でとうとうテンプレ上に発言の機会がないハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。爆発、名脇役、妙にリアルな性格、母親など、エピソードに事欠かない男だ。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。このテンプレに書き手の日常や趣味、過去から着想を得たネタを詰め込むことで本作ができあがる。もちろん、脚色を詰め込んでギャグテイストに仕上げるのが重要だ。このテンプレに当てはまるネタはいくらでもあるように思えるが、諸々の条件を満たしつつギャグとして書ける題材なのかはしっかり見極めないと火傷しかねん。ヘイトとブラックジョークはどちらも攻撃的に思えるが、これはギャグなのだから誰かを傷つける形であってはならない。ヘイトになりそうなら我輩を悪役にして、ウィーズリーにツッコミを入れさせてオチにするのが簡単だろう。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な程度で、グリフィンドールは1点減点」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! 僕が全体のオチをつけるか、変則オチにするか、とにかくオチをつけないとただの寒い演説です!」
「だまらっしゃい!」
これにて『○○を教えるスネイプ先生』は一旦完結です。以後は不定期更新となります。ご愛読ありがとうございました。
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