○○を教えるスネイプ先生 作:ギャグなんてこりごりだ
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――操作キャラだ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、ゲームキューブの堅牢な設計と、無限大な名作ラインナップを学ぶ。ここではゲームキューブでコロコロカービィのRTAを完走するような馬鹿げたことはやらん。これでもレトロゲーム機かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く懐かしさ、ゆらゆらと立ち昇るリメイクへの期待、ゲームキューブコントローラの繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、友達の家をスマブラプレイ場にし、ピクミンを量産し、ひとりの時間にさえマリオカートダブルダッシュをする方法である。――ただし、コントローラのジョイスティックが遊びすぎで剥がれてとげとげになってしまったウスノロどもより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。ニンテンドーゲームキューブは歴史に名を残した家庭用ゲーム機だ。ゲームキューブの名を裏切らない四角さと謎の取っ手から「鈍器」「ポータブル家庭用機」「ゲーミングハンドバッグ」などさまざまな愛称で親しまれ、現在も部室にゲームキューブとスマブラが置いてある学校は少なくない。
「ポッター! GC専用ソフトにGBA専用ソフトとの連動機能を加えると何になるか?」
ハリーが主人公のゲームも少なくないGCのソフトに、同時代のポータブルゲーム機として親しまれたGBAのソフトとの連動機能を加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ロンはGCで『ボクらの太陽』の太陽光センサーを機能させることができないか試行錯誤するのに忙しそうだった。ハーマイオニーはレトロゲームオタクなので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「エアライドキッズなだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。GCで発売された知る人ぞ知る伝説のホラーゲームを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーにはホラーゲームが一体何なのか見当もつかない。バイオハザードシリーズは確かにホラーだが、誰もが知っていることとMAD素材として愛されたことが原因で恐怖心が和らいでしまうのだ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前にオバキュームでゴーストハントしようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、ダドリーとお金を出しあって『デジモンバトルクロニクル』を買って完成度に絶望したことならある。スネイプはGCソフトがすべて名作だとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、GCとPS2の違いは何だね?」
この質問でとうとうゲハ板住人のハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。おそらくGC版ハリー・ポッターシリーズソフトで一度も出番がなかったであろう男だ。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。多くの連動機能はおまけ要素程度のものだったが、それでもプレイヤーの胸を躍らせるものだった。たとえば『ハリー・ポッターと秘密の部屋』はGC版とGBA版を連動させることで隠しステージと隠しキャラクターが解放された。GCで発売された伝説のホラーゲームと言えば当然『エターナルダークネス』であると諸君らも承知のことだろう。SAN値システムを採用した絶妙なサイコスリラーと独特の質感は当時多くの若者を狂わせた。GCとPS2は現在も人気の高いハードだが、GCはスペックや安定性、ラインナップで優れ、PS2は不朽の名作を多く輩出している。早くエアライドとペルソナ3の移植ください。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは1点減点」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! GCで最後のソフトが発売されたのは2006年です!」
「だまらっしゃい!」