○○を教えるスネイプ先生 作:ギャグなんてこりごりだ
「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――愛され野郎だ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、プレゼントの厳密な法則と、望外の喜びを学ぶ。ここではサプライズのような馬鹿げたことはやらん。これでもお祝いかと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く期待感、ゆらゆらと立ち昇るろうそくの煙、金の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、日常を特別にし、幸福を贈与し、ふとした瞬間にさえ微笑みをもたらす方法である。――ただし、相手の需要を考えずにいらないものを押し付けるウスノロどもより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。年度末のプレゼントシーズンも過ぎ、新生活の忙しさに荒んだ心は多少の贈り物では和まない。結局のところ現金が一番嬉しいよね、などと口走る程度には悲しさを帯びた日々だ。
「ポッター! 多忙なあの人に差し入れを加えると何になるか?」
プレゼントを用意するにも渡すタイミングがない人に、応援目的の飲食物を加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「ただ飯だ」という顔をしていた。ハーマイオニーは差し入れのセンスもいいので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「多忙な人気者なだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。知り合って間もない同期への誕生日プレゼントを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーには知り合って間もない同期への誕生日プレゼントが一体何なのか見当もつかない。学生でも社会人でも、何かしらの流れで誕生日の話題になったとき、一応プレゼントを検討しておくことになる。そのとき切れるカードはあって困るものではない。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前にプレゼント交換会をしようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、ダドリー軍団の子供たちに頼まれてダドリーがほしいプレゼントを探ったことならある。スネイプは大事な友達がそばにいてくれるだけではプレゼントにならないとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、味気ないプレゼントと便利なプレゼントの違いは何だね?」
この質問でとうとう実用品嗜好家のハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。映画で与えられた爆発属性はシェーマスにとってまさに最高のプレゼントだっただろう。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。どれだけ多忙な人でも飢えや渇きには勝てない。個包装で持ち歩きやすく癖のない飲食物を差し入れる親切心が邪魔になるのは、よほど差し入れのチョイスが悪かった時くらいのものであろう。知り合って間もない同期に誕生日プレゼントを贈ること自体が億劫だが、いちいち選ぶ手間を省きたいのならば自分のプレゼント傾向を自分で定めてしまうのも手だろう。我輩はちょっと高めのドレッシングやジャムをよく選んでいる。味気ないプレゼントと便利なプレゼントはどちらも意外性に欠けるが、雰囲気を求められないプレゼントならAmazonギフトカードのような味気ないプレゼントでもよいし、それらは往々にして便利なプレゼントでもある。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは1点減点」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! もらって嬉しいプレゼントはもらった経験がないとわからないんじゃないですか!」
「だまらっしゃい!」