【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き   作:リレー小説実行委員会

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別れの記憶(A-11 作)

 

 

同日・土曜 午前7時…。

 

美星学園正門を前にして、ルカは校舎を睨んだ。

出来上がった当日の学校祭なら、知り合いの伝手で入場券を手に入れたり、入場制限のない学校のものを訪れたりして、ルカはよく知っていた。

だが、それがどのように生み出されるのかについては、去年までは部外者に過ぎなかったルカには分かるはずもなかった。

だが今年は、いや、今は違う。

今回の学校祭がどのような素晴らしいものになるか想像はつかないが、その素晴らしいものが生まれる瞬間を、休校日だからという理由でルカは見逃したくなかった。

「…で、宿泊申請なんだがな。登校日ではない以上必要なんだがな。昨日言った通り、生徒会広報担当であろうなかろうと、具体的な用件でなければ許可は出来ない。」

横で摩利が、風紀委員長らしく何か融通の効かないことを言っているが、今日のルカは昨日のルカではない。

「あー、その件なんですけどね、校内警備に参加しようと思いましてね。手、足りてないでしょ?」

登校日の昼間しか生徒・職員のいない普段の学校であれば、警備員のオッチャンや風紀委員は、昼間だけ仕事をしていればいい。

休校日や夜間では、風紀を乱す生徒も、校外からの侵入者に出くわして事件に巻き込まれる生徒も、校内にはいないからだ。

しかし宿泊作業解禁中は、校内に生徒がいる状態が、1日24時間続くことになる。

なので、この期間の校内警備も24時間体制にならざるを得ず、風紀委員の仕事量は通常の数倍に膨れ上がるのだ。

勿論、本来ならば、如何なる状況でも揺るがない意志と、それを支える腕っ節がなければ、風紀委員の務めは果たせない。

摩利の見立てでは、ルカには腕っ節が絶望的に不足していて、「手」としては足しにならない。

だが、意志の強さの点では次第点。

警備には「手」だけでなく「目」も必要であり、現状ではどちらの量にも、摩利は不安を感じていた。

「用件はわかった。宿泊申請は風紀委員会から提出しよう。申請が済み次第、校内を巡回してくれ。問題を見つけたら、すぐに最寄りの風紀委員に知らせるのだ。」

しかし、早速校門を通ろうとするルカの前を、腕を伸ばして摩利は遮る。

「この門のシフト交代まで、私は動けないし、他の者達も忙しいのでな。9時まで待ってくれ。あと110分くらいかな。」

「ええ!? 織斑先生もここに居るんですよ!」

頑張る生徒を応援するのは教師の習性であり、生徒が誤った道に入らないよう見守るのは教師の務めである。

宿泊申請に名を連ねる教師は珍しくはない。

顧問として生徒に混じって出し物の準備をする者が大半だが、体育教師であり学園一の腕力を誇る織斑先生の場合は、校内警備をする風紀委員の応援である。

今この瞬間もルカと摩利の目の前で、その腕力を織斑先生は披露している。

引っくり返った姿勢で片腕だけ地面につけて全体重を支え、その片腕をゆっくり曲げたり伸ばしたりして、空中でフワフワ浮いたり沈んだりしているのだ。

「ひょっとしたら、織斑先生なら摩利先輩の抜けた穴を埋められるかも知れません。僕もここの門番に加わりますから、その間に申請して来て下さいよ、摩利先輩。」

「『ひょっとしたら』とか『かも知れない』では、学園の安全は守れないな。」

だが、もう片方の腕は蹲るように丸まった両脚を抱きかかえている。

口元は両膝に埋もれてよく見えないが、何か陰鬱な言葉を呟いているのは聞こえてくる。

そして瞳は、どこか遠くを見ているのか、そもそも見えていないのか、焦点が定まっていない。

「昨夜は大事な用が織斑先生にはあったそうで、来る予定ではなかったんだが、午後10時頃に現れてな。どちらかというと足手まといなんだが、この状態で夜道を一人で帰すのは心配でな。」

そこまで言うと、この話は終わったとばかりにルカから離れ、摩利は竹刀を取り出して剣道の形稽古を始める。

来客が訪れるには早すぎ、夜闇に紛れた襲撃を受けるには遅すぎる、手持ち無沙汰な早朝の門番をするハメになったルカは暇潰しに、織斑先生の唱える呪詛を拝聴することにした。

「なんで男は…別れ話になるわけ? 無いものは無いもん…。そんなに…が好きなら…、牛飼いになればいいじゃない…。」

ルカは自分の耳を疑った。

(織斑先生に、別れ話をする男がいる。)

10才若く見られてしまう、と自身で語ったという噂が立つほどの、若々しい顔立ちと立ち居振る舞い。

体育ジャージ以外の服装を見た者はいないが、それでも分かるほどのメリハリの効いたスタイル。

彼女がリサイクルショップに売ったブラウスを、今は廃部になっている探偵部が入手したところ、バストサイズは88cmだったそうだ。

だが、そのブラウスが良く手入れされていて、彼女のお気に入りであることが示唆されたことから、彼女の胸囲はもっと大きいというのが、生徒の間での通説だ。

88cmでは、彼女の胸は入らなくなったのだと。

学園の独身男性職員の半数は彼女の元彼、という噂が流れるのも仕方がない。

(そんな学園指折りの美女である織斑先生に、別れ話をする男がいる。)

前例の話はないわけではない。

生徒の間で流れる噂では、男子体育担当の織村先生が元彼で、

「あの胸は、男の自信を失わせる。」

と零したと言われている。

勿論、噂の域をでない話であり、ルカは重視していない。

しかし結局のところ、15年ちょっとしか生きていないルカには、分からないことなど沢山あるのだ。

それをルカは自覚しているし、何より、先に述べたように早朝の門番は暇なので、織斑先生の呟きにもう暫く耳を傾け、彼女を振るという決断をした男に思いを馳せることにした。

すると、門番の仕事が漸く訪れたようで、ルカは耳を織斑先生から離して来客の方へ向けた。

「摩ー利ーっ!」

見れば、学園の敷地に沿って伸びる歩道の向こうから、此方へ大きく手を振り、親しげな笑顔を向けながら、涼しげな眉目の青年が歩いて来る。

ルカは彼に見覚えがあった。

(先週、摩利先輩と一緒にデートしているのを見かけた彼氏だ。)

「あれがシュウか? ルカ。」

思わず首肯いたルカが違和感を感じて声の主の方を振り向くと、来客対応のため形稽古の手を休めていた摩利が、再び竹刀を手に取り、青年へ構えを向ける。

その構えは、先ほど稽古していた剣道の中段の構えに似ているが、何処となく異なる。

以前にルカが摩利から聞いた話では、剣道部にも所属する彼女の剣術は元々、侍のワザを現代に伝える叔父から学んだ古武術なのだという。

何より、剣道の形稽古の時には感じられなかった、摩利から発せられる鋭い剣気。

小説や漫画の世界にしか存在しないと思っていたそれを、ルカは目の当たりにする。

(あの青年は、摩利先輩の彼氏とは別人、しかも相当な危険人物らしい。)

どうやら、彼への対応にはスポーツマンシップではなく武士の覚悟が必要だということに、ルカは戦慄を覚えた。

青年の側もこちら側の雰囲気を察したのだろう。

「あれっ? そんなにリキんでいたら、動きが雑になるし、体にも悪いよ。」

笑顔は崩さないままだが、足を止めて背中のリュックを降ろし、そこから瑞々しい青葉を生やした大根を一本取り出して、その場でぴょんぴょん跳ね始める。

(小太刀?)

青年の右手に収まった大根が、一瞬だけ、小振りの日本刀に見えたことに、ルカは自分の目を疑い、先輩に縋るように摩利の方へ目を向けるが、

「縮地法か。しかし大根ではな。私をコケにするのは良い加減にすべきだったな、シュウ!」

叫びを残して、摩利の姿はルカの視界から消えてしまう。

同時に、青年の方から、トラック同士が正面衝突したかのような音が響く。

ルカが目を戻すと、天高く吹き上げられた大根の下で、大きく振り上げられた竹刀を振り下ろしている摩利の後ろ姿があった。

青年については、ルカからは摩利の陰に重なっていて良く見えないが、竹刀の届く範囲にいることは間違いない。

しかし、何時まで経っても、青年の脳天に竹刀が叩きつけられる音は聞こえてこない。

代わりに、助けを求めるかのように叫ぶ摩利の鼻音が聞こえてくる。

「んーっ。んんーっ!」

摩利の背中に目を凝らせば、振り下ろされた摩利の両上腕は、背中ごと青年の両腕で束ねられている。

青年の右腕は、摩利の後頭部に伸びていて、頭を押さえつけている。

どうやら青年は、竹刀の届く範囲の外に逃げるのではなく、逆に間合いを詰めて摩利の体に密着することで、振り下ろされる竹刀を避けたようだ。

慌ててルカは駆け寄ろうとするが、その間にも、青年からの締め付けが効いているのか、力が抜けて姿勢を崩していく摩利が見える。

(時間が無い。)

先の凄まじい攻防を見せられた後では、駆け寄っても自分では大して役に立たないだろうとルカは感じていた。

(なら、駆け寄らなくても今すぐ出来ることを。)

ルカは精一杯の大声で叫んだ。

「んーっ。んーっ。」

「摩利先輩を放せぇーっ!」

すると、青年は摩利を抱えたまま体の向きを変え、摩利の陰から半身を出してルカを見た。

だがルカの注意は、青年から放たれた視線には向かなかった。

青年に伴って体の側面をルカに向けた摩利の横顔は、その唇を青年の唇によって塞がれながら、うっとりと頬を赤く染めている。

ルカは思わず二人に背を向けてしまう。

二人の体が密着しているのが側面から見えたが、青年の腕が抱えているのは摩利の胸から上だけだった。

なら、摩利先輩の腰を青年に押し付けていた力は何処から?

(やっぱり、先輩の彼氏じゃないか。)

「んんっ! んんっ!」

摩利が何か言いたげだが、鼻音だけでは言葉にならない。

さらに、先の緊迫感の反動が疲労となって吹き出し、摩利の言い訳を聞く気力をルカから奪い去る。

「おっと、挨拶が遅れたね。アンジェローニ君だっけ? 摩利から聞いてるよ。私は千葉 修次。見ての通り、摩利の彼氏で、」

「別の人の彼氏だろう? シュウとのデート中をルカが見たんだな。」

やっと二人だけの世界から帰ってきたかと、ルカは振り返ろうしたが、そのタイミングで自分の名前が出たのにビックリして、振り返る動作で首と体とのタイミングがズレてしまう。

「先週の日曜日のレゾナスで、甘い空気をタップリ醸し出していたそうだな。彼女はシュウのことが好きなのだな。叔父様が好きな私と違ってな。」

首筋の嫌な痛みを代償にルカが見たのは、互いの唇を解放した以外は先ほどと変わらず、密着したままの二人である。

(どうやら、昨日の自分との会話が原因で、修次さんが二股を掛けていると、摩利先輩は誤解しているらしい。)

「彼女とのデート中に貪った、私の唇の味はどうだったかな? 叔父様との約束を盾に、私に付き纏うのはやめてくれないかな?」

「行方不明になる前に交わした、師匠との約束だ。地球連邦一番の侍の座と、君の愛を、僕は師匠から奪う!」

修次の腕の中で酔い痴れている摩利を見る限り、それでも二人の仲は変わらないと思ったが、自分の関わった誤解をルカは放っておけなかった。

どうすれば誤解を解けるだろうと悩み始めるルカに、修次から助け船が来る。

「僕達二人を見てどう思う? アンジェローニ君。」

「溢れんばかりの甘い空気で、噎せ返りそうです。」

「な!?」

これで、摩利とレゾナスの彼女が繋がった!

力なく後ろへ項垂れて、修次の腕の中でそっくり返る摩利。

「すっかりリキみがとれたね。しなやかな摩利は、強いし素敵だよ。今晩も学校に泊まるんだろ? おばさんから届け物とか頼まれていてさ、大根は買い直さなきゃな…。はい、弁当と着替えと…、」

彼女をそっと地面に座らせて腕を解いた修次は、降ろしていたリュックから荷物を取り出す。

「な! 娘の下着を男に預けるなって、あれほど言ったのに…、って、ナプキン?」

一瞬だけ顔を顰めるがすぐに思案顔になる摩利を見て、窘める修次。

「今日から多くなるだろ? 自分の体の周期は自分が把握しなきゃ。あの日が排卵日なのを僕が気付かなかったら、」

「一夜の過ちをいつまでっ!」

堪忍袋の緒が一瞬で切れた摩利。

鞭のようにしなやかに振るわれる摩利の体から放たれた運動エネルギーを載せて、彼女の握る竹刀が修次に襲いかかる。

咄嗟にリュックで受ける修次だが、

「また来週ーーっ! 愛してるよ、摩利ーーっ!」

空の星となり飛び去っていった。

すると、聞き慣れない不気味な音調のサイレン音が辺りで鳴り始める。

最初に動いたのは、先ほどまで膝を抱えて蹲っていた、織斑先生である。

「小学校で習ったでしょ、全球瞬時警報システム。ネオジオンによるテロを契機に整備された、連邦への武力攻撃などの情報を住民まで直接瞬時に伝達する仕組みよ。」

立ち上がって頭上の空を一瞥した後、戸惑って辺りを見回すルカ・摩利に声を掛けながら二人の手を取って、織斑先生は正門を跨いで校舎へ向かって走り出す。

「非常事態か。ルカの宿泊申請どころではないな。コロニーが降ってくるのかもな。」

未だに戸惑っているルカに向かって、自分を落ち着かせるように、蒼ざめた摩利は語る。

校舎と正門との間にはグラウンドがあり、一息では玄関には辿り着けない。

すでに不気味なサイレン音は止み、辺りに響くのはアナウンサーの緊迫した声だ。

「…の上空で飛翔体が観測されました。屋外にいる場合は直ちに近くの建物に…」

「飛翔体って、さっきの修次さんですかね?」

「なら安心なんだがな。」

ルカの冗談に和んで、彼の方へ向けた摩利の目に映る朝の空。

その空に、一点浮かぶ星を見つけ、摩利は叫ぶ。

「先生、止まって!」

摩利と繋いでいた手を引き戻され、後ろに倒れる織斑先生。

そうでなければ彼女の踏むはずだった地面は、先の星によって轟音と共に抉られ、三人から校舎を遮る土煙に変わる。

立ち昇るその土煙から、一本の焼け爛れたソーセージが、呆然とする三人の目の前に転がり落ちる。

「3秒ルールよ。」

言うが早いか、織斑先生はソーセージを拾って一口かじる。

目の前の現象を飲み込めない摩利は、自分を落ち着かせるために、何でもいいから自分の分かる所から考えることにした。

(胸の膨らみが乳房ではなく大胸筋で出来ている以前に、そういうガサツな性格が、彼氏を引かせるのだな。)

大学受験への影響を抑えるため、美星学園の修学旅行は3年生の春に行われる。

その際、摩利を含む3年女子の一部は、女湯で織斑先生のメリハリボディの正体を目撃している。

このため、3年女子の間では大胸筋の筋トレが流行っているのだが。

そこまで考えて、目の前のソーセージと土煙について何一つ分からないことに、摩利は気付いた。

だが、織斑先生は違うようだ。

「このソーセージは…。モグモグ。いえ、有り得ないわ。カリッ。でも…、まさか…。もう一口…。…! 舌樽さんなの?」

織斑先生の呼びかけに、土煙は答える。

「いいえ、そこのババァ。ワテクシは『したたるウー…』…織斑先生?」

 

ー美星祭開催まで後30日ー

 

 






 作者さまのページ
 https://syosetu.org/?mode=user&uid=316281


 A-11さん、執筆お疲れ様でした♪
 とてもしっかりした文章を書いて下さいましたね!

 この作品で注目すべき部分は、きっとラストに示された「織斑先生としたたるウーマン」についてですね。恐らくしたたるウーマンは、先生の……?
 ……まぁ私はISという作品を未読で、織斑先生の事をよく知らないので、これについては他の人にブン投げますけれども(宣言)

 ではでは、6番手ありがとうございました♪
 ――――次は私だZE!

(hasegawa)



☆もんじゃ焼き掲示板☆
 楽しく読んでいただければ幸いです。(A-11)


※このお話から続く番外編。
・【番外編】アイネ・クライネ・ナハトムジーク
 https://syosetu.org/novel/245415/3.html
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