【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き   作:リレー小説実行委員会

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 オモチャにして下さい、と言ったな?
 好き勝手に書いても良いと……そういう事だな?

 ――――よかろう! ならば後悔するが良いッ!!

 覚悟せよ! マスターPさんッッ!!!!


※時間軸 世界の法則を乱す者 その後。





【スピンオフ】Master P begins! (マスターPさまファンクラブ 会員No.728 作)

 

 

 

「――――ほぉ~う! わちゃあぁぁーーッッ!!」

 

 まるで仁王像のように逞しく、見る者が見れば「美しい」と形容するであろう太い腕が、目視の出来ないほどの速度で振るわれる。

 何度も、何度も、何度も!

 

「ひっ…………ひ で ぶ ぅ ー ッ !!」

 

 その途端、絵にかいたような悪党顔のモヒカン男が、まるで針で突かれた水風船の如く、その身を爆発させた。ブッシューという大きな音を立てて。

 

「うむ! 見事なり! マスターPよ!!」

 

 奥義を持って経絡秘孔を突き、悪漢を葬り去った男の名は、マスターP――――

 その背中に向けて、傍で一部始終を見守っていた老人が、愉快愉快と賛辞を贈る。

 

「今この時より、お主を“北斗神拳の伝承者”として認めようぞ!

 その力をもって、この乱世を生き抜いてゆくのじゃ!」

 

「はっ! ありがたきお言葉です! 老師!」

 

 現在マスターP氏は、北斗神拳の聖地とされる修行場に、身を寄せていた。

 あの日、突然ピンキー忍者によって“ひとつめの世界”から拉致されてしまい、なんとか謎の施設から脱走したは良いものの……、彼にはこの世界で頼れる人も無く、住む場所のあても無かった。

 

 ゆえにしばらくの間、右も左も分からないままに彷徨っていたのだが……、そんな彼が辿り着いたのが、この土地である。

 本来は俗世と隔絶された場所にあるハズの、北斗神拳宗家の修行場であった。

 

 何日も荒野を彷徨った疲労と空腹から、彼は流れに身を任せるまま、北斗神拳宗家に入門。

 ごはんをめぐんで貰い、泥のようにグッスリ眠った後、その次の日からは即、もう想像を絶する過酷な修行に打ち込む羽目となった。

 

「それにしても……。

 まさか北斗神拳の奥義を、一週間で全て会得する(・・・・・・・・・・)人間が、存在するとはの……。

 世界というんは、ほんに広いものじゃて」

 

「ほんとですね老師! 自分でもビックリですっ!」

 

 数々の武闘家を輩出してきた、北斗の偉いさん。

 そんな人から見ても、この男は「信じらんなーい」とか「人間じゃねぇ!」みたいな評価であるようだ。流石はマスターP氏である。

 とりあえず免許皆伝を貰い、ここでの修行を終えたマスターP氏は、衣服などが入ったナップサックを「よいしょ!」と担ぎ直す。

 そして、いそいそと門の方に向かって、歩き出した。

 

「これよりお主は自由の身。……じゃがマスターPよ?

 これから一体どこへ向かうつもりなのじゃ?」

 

「はい老師! とりあえず人里に降りて、いろいろ見て周ろうと思っております!

 この力を必要とする者が、どこかにいるかもしれませんし!」

 

「ほう! 実に天晴な心がけじゃ!

 頑張るのじゃぞ、北斗神拳の伝承者よ! 涙を笑顔に変えるのじゃ!」

 

 振り返り、グッと力こぶを作ってみせる。

 老師に向けてニコッと笑ってから、マスターP氏は改めて、外の世界へと旅立っていった。

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「あ~。残念だけど、今回は縁が無かったという事で」

 

 山を降り、人里にやってきたマスターP氏は、さっそく美星町にあるコンビニに立ち寄っていた。

 

「悪いけど、君にここのバイトは無理だと思う……。

 元気なのは良いんだけど、そんなんじゃ接客業は無理だよ……」

 

 そして落ちた――――バイトの面接に。

 彼は北斗神拳を習得したが、バイトの面接には落ちた。

 

「とりあえずは、履歴書の書き方から勉強したらどうかな……?

 こんな汚い字じゃ、誰も読めないし、書いてる内容も、ワケわかんない事だらけだし……。

 いくらアルバイトって言ったって、仕事には違いないんだからさ?

 何をやるにしても、やっぱ常識っていうのは必要だよ。……駄目だよそんなんじゃ」

 

「はい……。すんません……」

 

 面接に落ちた上に、軽く説教されるマスターP氏。

 店長さんからしたら、これは悪意からではなく、純然たるご厚意なのだろう。

 今も彼は、叱りつけるのではなく、終始穏やかな口調でアドバイスをしている。

 ひとりの大人として、あまりに物を知らない若者を、心配しての事であった。

 

「面接だっていうのに、ケンシロウのコスプレみたいな服で、来ちゃ駄目でしょ?

 別に服装の指定なんかしてなかったけど……でも分かるでしょ?

 ちゃんと普通の恰好で来ないとさ。印象悪いもん」

 

「……はい……はい……」

 

「それにね? さっき私が『いくらくらい稼ぎたいですか?』って質問したらさ?

 もう君、輝くような笑顔で『年収一億で!』って言ったよね? オナシャッスって。

 ……無理だって。コンビニバイトで一億は。

 面接では、絶対ふざけたら駄目なんだよ……。真面目にやんないと」

 

「はい……すんません……すんません」

 

 山を降り、さっそく職を求めて意気揚々と面接に赴いたは良いものの、マスターP氏を待ち受けていたのは、非情な現実であった。

 

 しかし何故この子は、北斗神拳伝承者という比類なき鋼の肉体を持っているのに、レジ打ちのバイトがしたいのだろう? 接客業をしようと思ったのだろう?

 店長さんには、彼の思考がまったく理解出来ないのだった。

 

「とりあえず、缶コーヒーあげるから、それ飲んで帰りなさい。

 次に面接行く時は、もっとちゃんとしなきゃ駄目だよ?

 まぁ頑張りなさい少年。いい仕事が見つかるといいね♪」

 

「あざっす……あざっす店長さん! あざぁーっす!」

 

 人の優しさが身に染みる。

 厳しいことを言われはしたが、この人は本当に良い人。あたたかい人だった。

 マスターP氏はもうボロッボロ泣きながら、ひたすら缶コーヒーを飲み続けるのだった。

 

 

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 ………………………………………………………………

 

 

 突然この世界に拉致され、お金も住む家も、頼る人も無い。

 そんな無一文&天涯孤独の身であるマスターP氏の心は、とても冷え切っていた。

 

「いったい俺は、これからどうすれば良いんだ……。

 何をすりゃー良いんだ」

 

 途方に暮れる。この見知らぬ世界で。

 今も目の前には、この美星商店街にいる沢山の人々の笑顔。楽しそうにこの場を行きかう人々の姿。

 まるで自分ひとりだけが、この世界から取り残されたかのようだ。ものすごい疎外感。

 

「元の世界に、帰るアテもねぇ。……かと言って、ここですべき事も分かんねぇ。

 ああもう! もっと時間をかけて修行すりゃー良かったぜ!

 一週間で北斗神拳を会得したりなんかせず、色々考える時間を作るべきだったぞっ!」

 

 そもそも、自分はいったい何者なのか(・・・・・・・・・・・・)

 それすらも、今のマスターP氏には、分からないのだ。

 

 別に記憶喪失なワケじゃない。マスターP氏はまったくの健康体だ。

 しかし、自身が初登場した先の小説内には、自身の性別、職業、容姿、年齢などなど……そんなあらゆる情報が一切なかった(・・・・・・)

 大事な大事な個人情報の記述が、ひとつも無かったのだ!

 

 自分は男なのか、女なのか。

 子供なのか、老人なのか。

 日本人なのか、外人なのか。

 背は高いのか、低いのか。

 

 イケメンなのか、フツメンなのか、ブサメンなのか。

 趣味は? 特技は? 特徴は? 好きな食べ物は?

 どんな髪型で、どんな服を着ていて、どんな声で喋ってる?

 

 そんな記述が――――あの小説内には一切無かったのだからッ!! 皆無なのだッ!!!

 

「俺は、いったい何者なんだ……。

 唯一確かなのは、この“マスターP”という謎の人名のみ。

 これだけでいったい、どうしろってんだ……」

 

 先の面接で、氏がまともな履歴書を用意できず、全部適当に書いてしまったのには、こういう理由があった。そりゃバイトの面接も落ちるわ。

 

「とりあえず暫定的に、俺は日本人で、年齢は17で、中肉中背。

 顔はフツメンで、爽やかな印象の短髪で、背丈は普通。

 特徴としては、北斗の拳みたいなツナギの服を着ている。……という事にしておこう」

 

 マスターP氏は町の片隅で、ひとりブツブツと呟く。

 

「趣味は……どうしよう? “食パンを殴ること”にしようかな?

 物言わぬ物体を、ただ意味もなく殴り続けるのが趣味、という事にしよう。

 なかなかパンクだろう?」

 

 マスターP氏はうんうんと頷く。通りすがる人々の「ヒソヒソ……」という声も気にせずに。

 

「なんだったら、今から言葉の語尾に、全部“うんこ”を付けていこうか。

 おはようだうんこ! 今日もいい天気だうんこ! 嬉しいんだうんこ!

 マスターPという人物は、そんな喋り方をするキャラなんだ――――

 そう好き勝手に設定してやっても、別に構わないんだが……」

 

 でもこれをやると、きっと私は友達を失くす(・・・・・・)と思う。

 大切な仲間を失ってしまう、そんな確固たる予感がある――――

 なのでこの案は自重。却下しておく事にします。(※作者より)

 

「好きな音楽は、ボサノバ。

 好きな食べ物は、米ぬか。あとハンバーグの下に敷いてあるスパゲティ。

 ちなみにハンバーグの方に関しては、別に好きでも何でも無いぞ。

 日本語に加え、チュニジア語とカンボジア語を話せることにしよう。無駄にトリリンガル」

 

 そうこうしている内に、どんどんマスターP氏のキャラ設定が固まってくる。

 うん、だんたんイメージが膨らんで来たぞ。ナイス☆

 

「おっ! 米ぬかだ! 米ぬかがあるぞぉ~う! ひゃっほーう♪

 ちょうど腹減ってたんだ! イエーイむしゃむしゃ! いえーい♪」

 

 試しに今考えたキャラ設定を、パントマイムでやってみる。

 こんな街中で、大喜びしながら米ぬかをむさぼり食う、という演技をするマスターP氏。

 

 

「――――帰りたいッ!! 元の世界に帰りたいッッ!!!!」

 

 

 かと思えば、突然地面に蹲り、わんわん泣き始めるマスターP氏。情緒が不安定だ。

 

「もう嫌ッ! こんな生活ッ!!

 元の世界に帰って、普通の生活がしたいのッ!!

 なんだよ米ぬかって! そんなの知らねえよボケぇ! アホかぁぁああーーッ!!」

 

 クソが! とばかりに、そこらにあったゴミ箱を蹴飛ばす。

 なんか足首から〈ゴキィ!〉という変な音がしたけれど、マスターP氏は気にせず、商店街をズンズン進んでいく。

 

「とりあえず、こんな事では駄目だッ!!

 ――――俺は生き抜く! この世界を生き抜いてみせるッ!!

 真面目に! 前向きに! まっすぐに!

 この美星町で生きてくんだよぉー!!」

 

 

 せっかく北斗神拳も覚えた事だし、マスターP氏は気を取り直して、もう少し頑張ってみる事にする。

 

 あのコンビニの店長さんにも「頑張れ」って言われたし、コーヒーもご馳走してもらったし。

 その分くらいは、頑張ってみようと思った。

 

 

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「……んん?」

 

 例の彼が北斗神拳を習得し、美星町に潜り込みました――――

 先ほどピンキー忍者は、マスターP氏の監視任務にあたっている部下の者から、そう報告を受けた。

 

「……えっとぉ? アイツが美星町に行ったっていうのはぁ、分かったんだけどぉ~♨」

 

 そして今、ピンキー忍者はハイライトのない瞳で、じっと自室のTVを見つめている。

 

「これはいったい、どーいう事なのぉ~……?」

 

 眼前にあるモニター画面、そこに映るニュース番組には、今まさに件の男の姿があった。

 

 

『――――本日、○○県美星町で、町長選挙の開票がおこなわれ、

 無所属の新人、マスターP氏(35)が初当選しました(・・・・・・・)

 

「どーいう事ぉ?!」

 

 

 いまTVには、ダルマの目に墨を入れ終わり、「バンザーイ! バンザーイ!」と両手を上げて喜んでいるマスターP氏の姿が、映し出されている。

 ちなみにだが、この35才という年齢は、選挙に合わせて適当にでっち上げた物だ。あくまで彼は17才(という設定)である。

 

『今回初当選のマスターP氏は、現職の○○氏を50万票差という大差で破り、35才という史上最年少での当選となります』

 

『これには、氏の選挙公約である「いや~どうもどうも、みたいな感じで、自由におっぱいを触れる世界を実現する」という言葉が、多くの町民たちから支持されたのが勝因となりました』

 

『今回の当選を受けて、美星町の新町長となるマスターP氏は「頑張って良かった、諦めないで良かった。あのコンビニの店長さんに感謝したい」と、現在の心境を語り、感涙にむせび泣きました』

 

 引き続きピンキー忍者は、どこか“死んだ目”でTVを観続ける。

 

「なんなのぉ、アイツ?

 確かに、異世界を繋ぎ渡るとか、徳の力に影響を与えるとか、そういうぶっ飛んだ所はあるヤツだっていうのは、話に聞いてるけど……♨

 いったいコレ、どーなってんのぉ~?」

 

 たしか、ヤツをこの世界に連れて来てから、まだ1か月と経っていないハズだ。

 しかし、もうあのエネルギッシュな男は北斗神拳を習得しており、そればかりか美星町の町長にまで昇りつめた。

 これは、まさに人外めいた能力を持つピンキー忍者をしても、理解の範疇を越えている。

 

「なんか、アイツを見つけようと手間取ってる間に、どんどん捕まえづらくなってる……♨」

 

 北斗神拳を習得したとなれば、もう以前とは段違いの戦闘力だ。いくらピンキー忍者とはいえ、容易に捕獲する事は出来ないだろう。

 それに加えて、ヤツは町長という、この世界での確固たる地位まで築きやがった。

 とてもじゃないが、もう気軽に捕まえに行って、それで捕獲できるような存在ではない。

 

「えっとぁ……どうしよっかなぁ~? 必要なんだけどなぁ~アイツの力……♨

 でもとりあえずぅ、もうちょっとだけ泳がせてみるぅ?

 捕まえるにしても、もう少し観察が必要だしぃ……。

 ぶっちゃけ、アイツがこれからどうなってくのか、ちょっと興味あるしぃ?」

 

 

 いったいこの先、あのパンクな男は、この美星町で何を成し、どう生きていくのだろう?

 次はいったい、何をやらかしてくれるのだろう?

 

 今も光の無い瞳でTVを見つめるピンキー忍者だが、ちょっとだけ胸がドキドキしているのだった。

 

 

 

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『このまま君を連れ去りたい~♪ 地平線の彼方までぇ~♪』

 

 ところ変わって、美星学園の体育館。

 美星祭初日となるこの場は、いま学園の有志達によるステージ演奏がおこなわれている。

 

『愛してるぅ~♪ 君だけを~♪ どうか泣かないで~♪』

 

 現在も舞台上では、軽音楽のメンバー達によるバンドが、演奏をしている。

 ポップな曲調、キャッチ―な歌詞、そして若さあふれるパフォーマンス。

 それに群がるように、一部の女子たちはキャーキャー言いながら、ステージの真下に詰めかけていた。

 

『ありがとう! センキューみんな! さぁて次の曲は……』

 

 しかしながら……この一部の女子たちを除き、会場全体の雰囲気は、どこか盛り上がりに欠けていた。

 多くの生徒たちが、今もダルそうに椅子に腰かけ、時折スマホをいじったりしながら、おざなりに拍手を贈っている。

 

 有り体に言って、“ノリ切れていない”。

 それが正直な印象だ。

 

『イエーイ! さぁみんな! おもいっきり盛り上がって……』

 

 当然だ。この子達は音楽を知らない(・・・・・・・)

 音楽になど、まったく興味を持っていないのだから。

 

 今の時代、この世代の子供達にとっての音楽とは、“TVで流れている曲”の事を指す。

 後は有線とかの、家やファーストフード店でごはんを食べている時に、何気なく流れている曲。

 

 あとは、最近流行っていると言われているらしき(・・・・・・・・・)、いくつかの話題の曲くらいだろうか?

 今はこれを聴いておけばいい、そうしたら間違いない――――そんな誰かの指示に従って“とりあえず知っている”というような、お気楽で耳障りの良い、普遍的な曲だ。

 

 そう、いわゆる“インスタントミュージック”と呼ばれる物。

 吐いて捨てるような、ごくごく軽い、当たり障りのない普遍的な曲。

 

 それが彼らにとっての、“音楽”という物の全て。

 それ以外の物など、彼らは知る由も無い。

 

 

 ――――ならば、いったいどうして彼らが、音楽を“愛せる”と言うのだろう?

 

 聴くべき物も無く、心が震えない、重さも真実味もない。

 そんなインスタントな音楽しか聴かない……いや身近に存在しない(・・・・・・・・)彼らが、どうやって音楽を愛することが出来ようか?

 

 無いのに、“音楽”が。

 TV番組や有線の、どこを見渡しても本物の音楽(・・・・・)が無い。そんな現代の環境下で、どうして音楽の素晴らしさを知ることが出来ようか。

 

 どうして、音楽を好きになれようか。

 音楽を理解する感性を、育てることが出来ようか――――

 

『夢を信じて~♪ 明日に向かって~♪ あの日のぼくらが~♪』

 

 これは――――大人たちの罪だ。

 日本の音楽業界に携わる、全ての者達の罪――――

 

 目先の小銭や、自分達の利益に走り、育てて来なかった(・・・・・・・・)

 音楽の良さ、楽しさ、素晴らしさを、伝えることをしなかった。

 インスタントな物ばかりを作り、“本物”を作り出すことをしてこなかった。

 

 それが大人たちの罪であり、音楽業界の衰退の理由だ。

 

 

『今すぐここを飛び出して~♪ 夢に向かって走るのさ~♪』

 

 もうこの子達は、音楽を選ばない。音楽という物を“必要としない世代”。

 だって今の時代、こんなツマラナイ音楽を聴くよりも、よっぽど楽しい事で溢れているんだから。

 

 多種多様で、お手軽で、様々なジャンルの娯楽がある。

 もうわざわざ音楽を聴いたり、自分好みの曲を探したり、CDを買う必要なんて、どこにも無いのだから。

 

 その現実を……いまこの場でダルそうに椅子に座る少年少女たちが、象徴している。

 そして楽器を手に取り、これまで必死に練習に打ち込んで来たハズの、心から音楽を愛しているハズの少年たちが今ステージで奏でている、このあまりにも軽い音楽(・・・・・・・・・)が、それをハッキリと証明していた。

 

 

 知らない――――この場の誰も、音楽を。

 

 音楽という物の、本当の価値を知る事のないまま、この子達はこの先、ずっと生きていく。

 音楽を捨て、音楽を見限った世代――――それが今この場にいる、少年少女達だ。

 

 ゆえにバンド演奏など、このようなステージなど……盛り上がろうハズも無い。

 ただただ一部のミーハーな声と、社交辞令のようにおざなりな拍手だけが響く、まったく熱の存在しない空間。

 

 それが今、この国における、音楽(・・)という物。

 その象徴的な光景が、このステージであった――――

 

 

「……」

 

 客席に座り、難しい顔をした室斑勝也が、じっとステージを見つめている。

 彼はいま、その誠実な人柄と空手の腕を見込まれて、生徒会からここ体育館の警備を仰せつかっていた。

 演劇やライブがおこなわれるという性質上、羽目を外した者達による問題行動が起きた場合の抑止力であり、即座に流たちへと報告する任務を担っていた。

 

 今日一日、勝也の持ち場はここ。

 生徒たちが安心してステージをおこなえるよう、そして彼らの安全を守るのが、自分の役目だ。

 ……まぁ実は、今まさに校舎(直樹たちの教室)の方では、ばいきんまんによる性別反転テロが起こっていたりするのだが、彼には知る由も無かった。

 

「……ふむ」

 

 腕を組み、どこか仏頂面をしつつ、目の前でおこなわれているステージ演奏を鑑賞する勝也。

 もちろんステージそのものよりも、なにか異常は無いか、不穏な気配は無いかに目を光らせているのだが……当然ながら彼の耳にもこの演奏は聞こえている。そしてどこか盛り上がりに欠ける会場の雰囲気も。

 

「典型的な身内ノリ(・・・・)だな。

 それ以上でも、以下でも無い」

 

 恐らくは、いま野外でおこなわれているというランカ達のステージとは、もう比べるべくも無いだろう。

 稚拙な演奏、熱の感じない歌声、おざなりな拍手……。

 オリジナル曲ではなく、流行のJ Popをただコピーしている。CDで聴く元の音源に比べれば、もう“劣化版”としか言えないクォリティの演奏。

 

 まぁ、学生たちが自分なりに楽しく演奏している……と見るならば、文化祭に相応しい出し物だと言えなくもない。学生らしいフレッシュさもある。

 しかし、朝からずっとステージを見守っている勝也をしても、これまでおこなわれたステージには琴線に触れるような物はなく、どれひとつとして心を動かされるような“熱”は皆無だった。

 

「まぁ、時代(・・)なのかもしれんけどな……。

 いまの時代、流みたいに熱いヤツばっかりじゃないさ」

 

 ヘラヘラと笑いながら楽器をかき鳴らす、楽器隊のメンバー。

 額に汗を流すことも、力の限りに声を張り上げることも無い、弱々しいボーカル。

 そこには一生懸命さも無ければ、何かを伝えたい、自分達を見せたいという気概も感じられない。

 ただただ“こんなモンでしょ”というように、こなしてしまっている……。

 

「頑張らないのが、カッコいい……。

 本気(マジ)になるのは、ダサい事……。

 クールに賢く、それなりに……ってヤツか。流とは正反対だな」

 

 武道家という昔ながらの人達であり、音楽が好きだった両親の影響で、勝也は幼いころから沢山の音楽に触れてきた。

 人の心を打つような、圧倒されるような、歌い手の想いが籠った本物の音楽に囲まれて育った。

 

 そんな彼の眼には、いま眼前から聴こえてくる演奏は、どうしてもこんな風に映ってしまう。

 熱のない、耳障りの良いだけの、“軽い音楽”だと――――

 

「これ見たら、流は何て言うかな……?

 この日を楽しみにしてた小雪ちゃんは、どう思うのかな……」

 

 最高の文化祭にすると意気込み、情熱を燃やしていた流。

 そして美星祭に来ることを夢見て、病にも負けずに今日まで頑張って来た小雪。

 彼らがこのステージを見てどう思うのか……それを想い、少し暗い気持ちになる。

 

 まぁ自分は音楽評論家では無いし、自分の知っている物や、自分が好きな物が全てだなんて、そんなこと微塵も思っちゃいない。

 誰にでも好みという物があり、人それぞれの趣味趣向がある。それを軽々しく否定するのは、その人の人格までもを否定する事になる。

 これは決してしてはならない事だと、幼き頃より尊敬する両親に教わって来たのだから。

 

 たとえ今の時代、どこにも胸を熱くさせるような本物が、見当たらなくとも。

 たとえ今の時代、誰も本物なんて、求めていないとしても(・・・・・・・・・・)――――

 

 これは別に、音楽に限った話じゃない。

 映画も、TVも、本も……あらゆる娯楽の媒体が“本物”を作り出すことを止め、ただただ目先の小銭を求め、当たり障りのない物を作り続けている。

 

 そして何より、今の若者たち……すなわち“消費者”こそが、気軽に楽しめる物をこそ好み、本当に凄い物になど見向きもしない。

 

 今の時代、インスタントな物こそが全て。普遍的で当たり障りない物こそが正義。

 もう誰も、御大層な“本物”など、求めてはいない――――

 

 

「……ふぅ。いかんいかん。気を引き締めねばな」

 

 ただ今は、このステージの安全を守ろう。

 みんなが文化祭を楽しめるよう、良い思い出を作れるよう、自分は尽力しよう。

 

 勝也は一度だけ目を瞑った後、スッと襟元を正す。

 そして改めて、気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヨーソロー……! ヨーソロー……!』

 

 

 ふと、演奏に交じって聞えてきた小さな声に、勝也は閉じていた瞼を開く。

 

 

『ヨーソロー……! ヨーソロー……!』ジャカジャカ

 

 

 前を向くと、いま正に生徒たちが演奏中である舞台上に、見知らぬ何者かが、ゆっくりと現れるのが見える。

 舞台袖から、フォークギターらしき物をジャカジャカとかき鳴らしながら、ゆっくりと中央に向かって歩いているのだ。

 

『ヨーソロゥ!! ヨーソロォーウ!!』ジャカジャカジャカ!

 

 だんだん声が大きくなる。ギターをかき鳴らす速度が上がる。

 よく見ると、その人物はグラサン&小汚いバンダナという。70年代のフォークシンガーみたいな服装……。有り体に言うと長〇剛(・・・)みたいな恰好をしているのが分かった。

 

「えっ……ちょっとアンタ……」

 

「ん? ……何このオッサン?」

 

「あれっ……?」

 

 音が止まる。

 突然、ゆっくりとした歩みでステージに乱入してきたその男性を見て、ステージ上の学生たちは演奏を中断してしまう。

 そして、キョトンとしたまん丸の目で、その男を見つめる。

 

 

『――――お前らの夢は何だッッ!!!!』

 

 

 突然この場に響く、ニセ長〇剛のシャウト――――

 その大音響に、思わず耳を押える会場の観客たち。

 

 

『――――人間を舐めるなぁぁぁあああッッ!!!!』

 

 

 バコーン!! という爆音を立てて、いきなり男がドラムセットを蹴り飛ばす!

 大小様々な太鼓がステージ上に散乱し、ドラム担当の少年が後ろにひっくり返る!

 

『人間をッ!! 人間を舐めるなッッ!!!!

 ――――そんな腐った目で、人間を見るのを止めろッッ!!!!』

 

「ヨーソロー!」の掛け声と共に、長〇剛がギターの子に蹴りを入れた。

 ゴロゴロー! すってーん! とばかりに、舞台から蹴り落とされる。

 

『人間をなめるなぁーッ!  自分をなめるなぁーーッ!!

 もっと深くッ! もっと深くぅ!! 愛してやれぇぇぇえええッッ!!!! 』

 

 シャウト――――これは魂の叫びだ。

 いま舞台上にいる謎の人物は、力の限りにフォークをかき鳴らしながら。観客席に向かって声を張り上げている。

 その姿に、勝也は思わず席から立ち上がった。

 

「おいっ……! あれって新町長じゃないのか(・・・・・・・・・)!?」

 

「何日か前に当選したっていう、美星町の町長……?!」

 

 どよめきが上がる。客席にいる誰もがステージを見つめ、眼前の男に釘付けになっている。

 本来は警備担当である勝也でさえも、目を見開いて見入ってしまっている。

 

 ――――マスターP! ヤツの名はマスターP!!

 彼が今、突如として美星祭に乱入し! ステージを乗っ取ったのだ!!

 美星町の町長による、ゲリラライブッ!!??

 

『ヨーソロゥ! ヨォォォーーソロゥ!!

 行くぞ若者たちよッ! 聴けッ!! “Captain of the Ship”!!!!』

 

 彼がかき鳴らすフォークギターが、やかましい程のジャカジャカした音を立てる!

 その音は大音響となってスピーカーから流れ、この場の全ての者達の心を揺らす(・・・・・)

 

 

『じめじめと暗く腐ったぁ~、憂鬱な人生をぅ~!

 俺は憎んでばかりいたぁ~ッ♪

 叩かれてもぉ! 突っ伏したまんまぁ! ただぁッ!!

 頭をひしゃげて、生きてきたぁ~ッ♪』ジャカジャカ!

 

 

 足が動かない。身体を動かすことが出来ない。

 勝也は、いまステージでギターをかき鳴らす男から、目を離す事が出来ない。

 

 

『えげつなさをぅ、引っかけられぇ~い!!

 横なぐりの雨が、頬を突き刺したときぃ~ッ!

 我慢ならねえたったひとつのぉ! 俺のぉッ!!

 純情がッ! 激烈な情熱にぃ! 変わるぅ~ッ♪』ジャカジャカジャカ!

 

 

 なんだこれは……? なんだあの男は……?

 この場の誰もが、彼から……マスターP氏から目を離すことが出来ずにいる……!

 

 

 

 

正義ヅラした、どこかの舌足らずな他人の戯言など、叩きつぶしてやれッ!!

 

眉をひそめられ! "出しゃばり"と罵られても!

いい人ね、と言われるより! よっぽどましだッ!!

 

ガタガタ理屈など! あとからついて来やがれ!!

街は"自由"という名の、留置場さ!

 

あんな大人になんか、なりたかねえと!!

誰もがあのころ! 噛みしめていたくせにッッ!!!!

 

 

 

 

 なんだ……あのシャウトは?

 なんだ……?! 心のド真ん中に直接響いてくるような、あの歌声は?!

 

 しゃがれて、割れて、ろくに聞き取れないような声が……シャウトが!!

 こんなにも! 俺の心に語り掛けてくるッ! 掴んで離さないッ!!

 

 

 

 

――――ああ! この潔さよッ!!

明日からお前が! Captain of the Ship!!

 

いいかッ! 羅針盤から目を離すな!!

お前がしっかり舵を取れ!!

 

 

白い帆を高く上げ!

立ちはだかる波のうねりに、突き進んで行けッ!!

 

たとえ雷雨に打ち砕かれても!

意味ある人生を求めて! 明日船を出せッ!!

 

 

 

 

 

 気が付けば……ひとり、また一人と、ステージに向かって歩き出していた。

 彼らはフラフラと、まるで誘蛾灯に向かう虫たちのように、ステージの方へと向かう。

 たった今、まるで太陽の如く眩い光を放っている、ステージ上のマスターP氏の近くへと!

 

 ――――もっと彼に近寄りたい! もっと間近で見たいッ!! マスターP氏を!!!!

 

 

 

 

あらゆる挫折を、片っぱしから蹴散らしッ!!

高鳴る鼓動で、血液が噴き出してきたッ!!

 

俺たちの魂が、希望の扉を叩くとき! 太陽よッ!!!!

お前は俺たちに“明日”を約束しろッ!!

 

 

そうさ! 明日からお前が、Captain of the Ship!!

お前には、立ち向かう若さがある!!

 

遥かなる水平線の向こう! 俺たちは今!

寒風吹きすさぶ、嵐の真っただ中!!

 

 

 

 

 

「うおおおお! 町長ぉー! すげぇぇええええッ!!」

 

「かっけぇ!!!! マスターPぃぃぃーー!! うおぉぉぉ!!!!」

 

 声が聴こえる……若者たちの上げる声が。

 いま、ステージの下へと詰めかけた多くの者達が、マスターP氏に向けて拳を振り上げている。

 彼の声に! 彼の熱に! 引き寄せられるように!! 共鳴するようにしてッ!!

 

 

 

 

Captain of the Ship!!

孤独など! ガリガリ喰い散らかしてやれッ!!

 

Captain of the Ship!

吠える海の力を! 生命に変えろッ!!

 

 

ヨーソロー!! 進路は東へッ!!

ヨーソロー!! 夕陽が西に沈む前にッ!!

 

ヨーソロー!! 確かな人生をッ!!

ヨーソロー!! 俺たちの船を出すッ!!

 

 

ヨーソロー!! お前が舵を取れッ!!

ヨーソロー!! こんな萎えた時代に!!

ヨーソロー!! 噛みつく力が欲しいッッ!!!!

 

 

 

 

 

「ヨーソロー! ヨーソロォォーーッ!!」

 

「町長っ! マスターP町長ぉー! ヨォーソロォー!!」

 

「うおおおマスターP!! マスターPッ!! ヨォォーソロォォーーッッ!!」

 

 ……大きくなる……歓声が!!

 マスターP氏に合わせて、この場の誰もが声を張り上げている! 拳を振り上げている!

 

 頑張るのはカッコ悪い? 本気になるのはダサい? 恥ずかしい? ――――否ッ!!

 今ここにいる全ての者達が! 大きく口を開き! 声を振り絞っているではないかッ!!

 

 ――――マスターP氏に向けて、声援を贈っているではないかッ!! 力の限りにッッ!!!!

 

 ヨーソロー!! ヨーソロー!! 

 あぁ! ヨーソロー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっと心で話をしてくれッ! もっと本当の事を聞かせてくれッ!!

 

怖がらず! ためらわず! 腐らず! ひるまずッ!!

自分を信じてッ! 自分を愛してッッ!!

 

 

決して逃げるな! 逃げるなッ!!

お前がやれ!! お前がやれッ!! お前が舵を取れッッ!!

 

死んでるのか!? 生きてるのかッ!?

 

 

――――そんな腐った瞳で、人間を見るのはやめろッッ!!!!

 

 

 

生きてくれ! 生きてくれ! 生きてくれッ!

おまえの命は! 生きる為に流れているッッ!!

 

人間だ! 人間だッ!

たかが! 俺もお前も人間だッッ!!

 

 

決して奢るなッ! 決して高ぶるなッ!!

決して自惚れるなッ!!

 

一歩ずつ! 一歩ずつ! 確かな道をッ!!

 

 

 

お前がどうするかだッ! お前がどう動くかだッ!!

 

決めるのは誰だッ!? やるのは誰だ!? 行くのは誰だ?!

そうお前だッ!! お前が舵を取れッ!!

 

 

 

お前が行け! お前が走れ!! お前が行くから道になるッ!!

 

前へ! 前へ! 前へ! 前へッ!!

ただただ! ひたすら前へ! 突き進めばいいッ!!

 

わかるか!? わかるか!?

お前が決めろ! お前がしっかり舵を取れッ!

 

 

 

――――人間をなめるなッ!! 自分をなめるなッ!!!!

 

 

 

もっと深く! もっと深く! もっと深く愛してやれッ!!

 

 

信じてくれと、言葉を放つ前に!

信じきれる自分を愛してやれッ!

 

 

感じてくれ! 感じてくれ!

幸せは、なるものじゃなく! 感じるものだッッ!!!!

 

早く行け! 早く行けッ!

立ちはだかる波のうねりに、突き進んで行けッッ!!!!

 

 

 

今すぐ! 今すぐ! 今すぐ! 今すぐ!

 

白い帆を高く上げ! お前は、お前の弱さを叩きつぶせッ!!

先ずは自分に打ち勝て! 打ち勝て! 打ち勝てッ!!

 

 

行け! 行け! 行け! 行けッ!!

お前の命は、生きる為に流れているッ!!

 

行け! 行け! 行け! 行けッ!!

お前の命は、生きる為に! 流れているッ!!

 

 

 

生きて! 生きて! 生きてッ!! 生きてッ!!!!

 

ただただ! 生きて帰ってくればいいッ!!!!

 

 

生きてッ!! 生きてぇッ!! 生きてぇーッ!!

 

 

生きて生きて生きて!! ――――生 き ま く れ ッ !!

 

 

 

 

お前が決めろッ! お前が決めろッ! お前が決めろッ!

 

お前が舵を取れッ!!

 

 

お前が決めろッ! お前が決めろッ! お前が決めろッ!

 

お前が舵を取れッ!!

 

 

 

そうさ! 明日からお前が! Captain of the Ship!!

 

そうさッ! 明日からお前がッ!! Captain of the Ship!!!!

 

 

 

 

 

ヨーソロー!! ヨーソロー!!!!

 

 

ヨーソロー!!

 

ヨーソロー!!

 

 

ヨォォォーーソロォォォオオオーーッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁ!! マスターP! マスターP!!」

 

「素敵よマスターP! マスターP!!」

 

 

 彼が最後に〈ジャーン♪〉とギターをかき鳴らした途端、この場を割れるような拍手と歓声が包む。

 

 

「「「 マスターP! マスターP!! マスターP!! 」」」

 

 

 腕を振り上げ、輝くような笑顔で声援を贈る、少年少女たち。

 俺達の町長、私達の新リーダー! マスターP氏に向けての! 大喝采!!!!

 

「……ッ!」

 

 そんな、まるで夢の中にいるような、信じられない光景を……勝也は見守り続ける。

 いくら町長とはいえ、本来は即通報の案件だ。許可もなくステージに乱入するなど、とても許される事ではない。

 

「……マスターP、町長……!」

 

 けれど、見てくれ。この生徒たちの輝くような笑顔を(・・・・・・・・)

 この生き生きとした目を。キラキラした瞳を。若さ溢れる元気な姿を。

 

 これは正に、流や自分達が求めてやまなかった、“最高の美星祭”の姿じゃないか。

 

「なんだ……この人は。

 何者なんだ、マスターPって男は……!」

 

 今ステージ上では、ひたすらペットボトルの水を口に含んでは、それを客席に向けて「ぶぅーーッ!」と噴き出しているマスターP氏の姿がある。

 そして、それを受けてキャッキャと笑い声を上げ、楽しそうな少年少女たちの姿。

 

「こんなブッ飛んだ人がいるのか……こんなスゲェ人が。

 おい流……お前だけじゃないぞ。

 俺達の新しい町長は、もうとんでもねぇ傑物だぞ(・・・・)ッ……!!」

 

 驚愕に目を見開く勝也を余所に、マスターP氏が大きな歓声を受けながら、ステージを降りていく。

 ヘッドから弦がビョンビョン飛び出している、彼愛用のフォークギター。

 それを肩に雄々しく担ぎ、まさに長〇剛そのものの姿で、観客たちに手を振って歩いて行く。

 

「……ん?」

 

 舞台から降りた途端、大勢の生徒たちに取り囲まれている様子のマスターP氏。

 しかし、その彼の元へテテテと駆けて行く、見知った少女の姿を、勝也の目が捉えた。

 

「いや~どうもどうも! 新町長のマスターPっす!

 好きな食べ物は米ぬかです! 以後よろしゅう! ほんによろしゅうに……って、ん?」

 

「あっ……あのあのッ!!」

 

 ランカだ(・・・・)

 まだステージ衣装を着たまんまだが、いまマスターP氏に駆け寄ったあの少女は、マクロスFでお馴染みランカ・リー。

 勝也もよく知る、学園のアイドル。その人であった。

 

「さっきの歌、すんごく良かったですっ!

 もうわたし! わたしっ……! 感動しちゃいましたっ!」

 

 ランカは人込みをかき分け、すごい勢いでマスターP氏の前までやって来る。

 そしてとても嬉しそうに、彼の手をギュッと両手で握った。

 

 

「――――好きです! マスターPさん!

 ランカとお付き合いして下さいっ☆」

 

 

『彼女が出来たッッ!!!???』

 

 

 美星学園の体育館に、マスターP氏の上げる驚愕の声が、響き渡った。

 

「やったぞ!! 彼女が出来たッ!!

 俺はついに、彼女を手に入れたぞぉぉぉおおおッッ!!!! ひゃっはーー☆☆☆」

 

 さっそくランカを「よいしょ!」っと抱え上げ、マスターP氏がうっほほーいと走り出す。

 俺は人生の勝者だ! とばかりに、満面の笑みで外へ飛び出して行った。

 お姫様ダッコされたランカの方も、イエーイって感じで、すごく嬉しそうだ。

 

「いやいやッ……!?

 おいランカ!! お前アルトの事はどうす……?!」

 

 正気を取り戻した勝也は思わず追いすがるも、もうドドドドと土煙を上げて駆けて行くマスターP氏に、追いつけるワケもなく。瞬く間にその姿を見失ってしまう。

 

 

・北斗神拳を覚える。

    ↓

・バイトの面接に落ちる。

    ↓

・町長に当選する。

    ↓

・彼女が出来る。 イマココ☆

 

 

「うひゃらひゃほーーい!! もう元の世界なんざぁ知るかぁぁーーッ!!

 ――――俺は生きるッ!! この世界で生き抜いてみせるッ!!

 これが、俺の物語だッッ!! マスターP様のなぁぁぁーーーーッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我らが美星町の町長が、元気に駆けて行く。

 

 新任だというのに町長の仕事もサボり、いま愛する彼女と共に、この世界に飛び出して行った。

 

 

 ――――マスターPの冒険は、始まったばかりだ!

 

 

 

 

 

 

 ~おしまい~

 

 







 笑いの文化が強く根付く関西には、【愛が無ければイジられない】という言葉があります。
 からかって良いのは、イジって良いのは……その人を“心から愛している”人間だけ。

 そんな私たち特有の、愛情表現のやり方があるのです。


 ――――もんじゃ焼きへようこそ! マスターPさん☆☆☆
 私達は君を、心から歓迎するぞッ!

 さぁ! いつでもかかっておいで♪
 遠慮なく来てネ! かもんマスターP☆

hasegawa マスターPさまファンクラブ 会員No.728(ナニワ)



※ここから続くお話。
【番外編】マジンガー絶頂
 https://syosetu.org/novel/245415/12.html



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