幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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第2部でやりたかったことがここにある。

2つ目は再来週辺りでできるでしょーか……


14.恐怖のサイン

ド ガ シ ャ ア ア ! ! 

 

 

 上空から降ってきた木造の瓦礫(がれき)は大地に衝突する。下にいた4人はどうなったのか。あれほどの質量をもつものが降ってきたのだ。直撃すれば確実に死亡してしまうだろう。

 しかし、心配はいらない。彼らは避けていた。咲夜の時を止める能力によって。

 

「……危なかった……」

 

「しかし、敵がどこにいるのかまだ分からないわ。警戒を(おこた)らないように。」

 

「咲夜さん。時を止めた時に索敵をしませんでしたか?」

 

「もちろんしたわ。でも、近くにはいなかった………どこか遠くから喋りかけてきてる可能性もあるけれど……」

 

 咲夜の言う通りに、3人は周りを見渡して敵影を(さが)すが、依然見つからない。辺りの音も、廃屋が落ちてきた爆音が遠くで木霊しているものしか聴こえない。しばらくすると、再びあの声が響いた。頭の中ではなく、確かに竹林内に。

 

『なるほど。そこの……メイドの能力か。空条承太郎と同じように、時を止める能力を持っているな?』

 

「確かに、私の能力はあなたの言う通りのもの……だけど、クウジョウ?」

 

「咲夜、それはかつての私の仲間の名だ。だが……おかしい。承太郎の"星の白金(スタープラチナ)"は怪力と超スピードをもっているだけで、時を操ることはできないスタンドのはずだが……」

 

『赤色のお前も……スタンドか。空条承太郎とどういう関係かは知らないが、私もその能力を直接目にしたわけではないのでね……言伝(ことづて)だから、齟齬(そご)が生じている可能性も否定できない』

 

「今、スタープラチナのことはどうでもいい。問題は、お前も我々を邪魔するのか?それだけだ。いい加減姿を現してはどうなんだ」

 

 痺れを切らしたハイエロファントは謎の声を遮り、その正体を言及する。マジシャンズレッド共々、未だ酔いが覚めきっておらず、危機的状況を打破できたとは言い難い。敵の強さ、能力によっては、ハーヴェストと戦っていた時よりもピンチに(おちい)っている。

 

『……随分と食ってかかるな?酔っているからか?……そう急がずとも、既に「攻撃」は始めている』

 

「何……ッ!」

 

 ハイエロファントが反応した直後、その頭上から明るく燃える影が降ってきた。長めなその形を見る限り、おそらく降ってきた物の正体は松明。

 

「ハッ!」

 

 ザンッ!と妙に聴き心地の良い音を響かせて妖夢は松明を両断する。加えて、流れる水の如くしなやかに、横にもう一閃。四つに()かれた松明の残骸は自身の炎によって空中で燃え尽き、ハイエロファントを避けて落下した。

 

「大丈夫ですか?ハイエロファントさん」

 

「ああ……済まない。妖夢……」

 

「お2人は戦闘の続行が厳しそうに見えます。ここは、私と咲夜に任せてください」

 

「! だが……」

 

「だが…何ですか?もしかして、私たちが相手に勝てなさそうに見えるんですか?」

 

「いや、そういうことでは……」

 

 別に彼女らをみくびっているわけでは、断じてない。妖夢と会ったのは今日初めてのことであり、咲夜とは共闘をしたことこそあるものの、その強さの真髄を見たわけではない。故に、魔理沙ほど2人の()を知れていない、という心配があるのだ。ましてや、相手の正体は謎のまま。力を合わせなくては、苦戦を強いられるのは火を見るよりも明らかだと考える。

 少々しどろもどろになりつつ、ハイエロファントはマジシャンズレッドへ目を移し、彼の判断を仰ごうとする。彼もその視線に気付き、ハイエロファントへ「任せよう」と首を縦に振った。

 

「それじゃあ、そういうことで……行きましょう。咲夜」

 

「ええ。もうやる気満々よ」

 

『……決まったようだな。では、じっくりと観察させてもらうとしよう。君たちの()()()()()()を」

 

 

ガサッ  ガサッ  ガサッ! 

 

 

 謎の敵が言葉を終えた瞬間、自分たちの頭上から葉を切り裂いて迫る物体の音が聴こえた。シュルシュルと空気をかき分けて妖夢の頭頂目掛けて接近していく物体。それは、3枚の手裏剣!

 

「フッ!」

 

 不意打ちのつもりで放ったのであろうが、残念なことにこんな攻撃は妖夢に通用しない。3枚まとめて楼観剣で払いのけ、投げられたと思われるポイントへ斬撃型の弾幕を()()()()()()。が、手応えはない。細く鋭い弾幕は葉と(かん)を撃ち抜いて夜空へと放り出された。

 敵の攻撃はそれに連なり、今度は二方向から手裏剣群を仕向ける。これに対しては妖夢。白楼剣を抜刀し、楼観剣と共に、2本の刀でつむじ風の如く回旋して攻撃を叩き落とした。手裏剣を阻んでも回転は止まらず、勢いはそのまま、両方の刀から弾幕を投擲(とうてき)ポイントへ撃ち出す。が、これも手応えなし。

 

「当たった感覚はなし……咲夜。敵は見えた?」

 

「いいえ。怪しい影は無かったわ。2回目に投げられた瞬間に時を止めて見たけど、特には……この紙切れぐらいよ」

 

(折られた紙……?)

「……紙だなんて……攻撃に使えるわけないよね」

 

 妖夢は咲夜が手にしていた紙をチラリと横目で見るが、「どうせ、ゴミだろう」とすぐに意識を次の攻撃へ移した。

 しかし、この様子を見ていたハイエロファント。紙切れに妙な気を覚えていた。「そんなはずはない」を(くつがえ)すのがスタンドだ。自分たちの常識を超える何かが、この紙にあるかもしれないと(にら)まずにはいられなかった。

 

「咲夜さん。一応その紙にも注意しておくんだ。何かのヒントになるかもしれない」

 

「ええ。ポケットにでも入れておくわ」

 

 ハイエロファントに言われた通りに、咲夜は拾った紙切れをスカートのポケットにしまった。

 

『確かに、君たちもやり手だな。真正面からの殴り合いをしなくて本当によかった。僕は殺傷能力をもたない、チンケなスタンドだからな』

 

「薄々感じていたけど、あなたもスタンド」

 

 再び響いた謎の声。突然の発生と突然の告白に、4人は思わず静聴してしまう。そして、ハイエロファントとマジシャンズレッドは「やはり」と頷き、妖夢も声をこぼした。

 

『しかし、もう勝負のバランスは傾き始めている。この僕の方へね……』

 

「……何ですって?」

 

『能力の関係上、多数の相手を同時に始末するのは苦しいが、1人ずつ順番に順番に……確実に仕留めてやろう』

 

 4人が敵スタンドの声に夢中になっていると、突如そこへ強風が吹きかかった。竹の葉や稈を揺らして地面の落ち葉を巻き上げる。スノードームのように舞った落ち葉は夜空へ高く上っていく。が、しかし、それらは4人の元へ戻ってくることはなかった。代わりに降ってきたのは、小さな、大量の紙の雨!

 

「やはり! やつの能力は「紙」だったのかッ!」

 

 4人の周りを舞い落ちる紙吹雪。ハイエロファントは自身の目の前に落ちた紙を見て、あることに気付いた。折りたたまれているのだ。どれもこれも、綺麗にたたまれている。ものによって折られている回数に違いはあるものの、折りたたまれていない紙はない。

 

(なぜ……全ての紙が折られているんだ……? 開いた状態ではいけない理由が……?まさか……()()()()()()()()()()のか……? だとしたら……)

「咲夜さん! ポケットに入れた紙を急いで捨てるんだッ!!」

 

「なっ……どうして!? さっき、()()()()()()()()()って……」

 

「その紙は折られていた! きっと、それが能力だ!開かれる前に捨て……」

 

 ハイエロファントの声が途切れる。こちらを見る咲夜のスカートに、闇に紛れて伸びる腕を見たからだ。おそらく、あれが敵!

 

「てっ、敵だ! あなたのポケットに手を伸ばしているぞッ」

 

 ハイエロファントの言葉を聞いた咲夜。ここからが早かった。既に左手で握っていたナイフを右手へ持ち替えると、右の腰ポケットに少しも目を振ることなく紙使いのスタンドの腕を突き刺した。

 とばかり、ハイエロファントと咲夜は思っていた。実際は違っていた。

 「捉えた!」と確信した咲夜は、確かな手応えを感じるナイフへ目を移すと驚くべき光景を目の当たりにしたのだ。刺していたのは人外の腕ではない。先程襲撃してきたウサギの内の1匹だったのである。ナイフはウサギの少年の胸に深々と突き刺さっていた。声を上げる暇も無かったのか、そもそも正気の状態でなかったのか…ウサギの少年は絶叫することなく、涙を静かに垂らしながら死んでしまった。

 

「そ、そんな……確かに「腕」があったんだ! この目で見た!」

 

「ハイエロファント……酔っているなら、余計な口を出さないで……」

 

「……っ……」

 

 咲夜は静かに言葉を放った。特に何でもない者を殺してしまったが、それでも冷静なのは「さすが吸血鬼のメイド」と言うべきか。ハイエロファントは自身の目を疑いたくはなかったが、状況が状況。口をつむぐしかなかった。

 

「咲夜……大丈夫? その子は……?」

 

「もう死んでるわ。でも、どうしていきなりウサギの少年が……ッ!?」

 

 事態に口を閉ざしていたマジシャンズレッドと妖夢は周りを警戒しながら、咲夜に少年の安否を問いかけ、彼女は首を左右に振って応えた。咲夜は少年を()きかかえて地面に下ろそうとする。

 が、咲夜はとある異変に気付いた。少年の体が自分の腰から離れない。少年が重かったから?いいや、違う。咲夜のスカートはビリビリに破れており、少年の体の位置は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように、ボロボロに穴が空いて糸が張られただけになったスカートの残骸(ざんがい)に絡まっていたのだ!

 

「こ……これはっ!?」

 

 

バサ!  バサ!  ブワサアッ! 

 

 

「! 咲夜ッ。周りを見ろ! 「紙」の様子がおかしいぞッ! ()()()()()()()()()、折られた紙が開いていくッ!」

 

「!」

 

 咲夜がマジシャンズレッドの声で振り返ると、地面に落ちていた無数の紙が徐々に展開されていく光景が目に入る。それだけでなく、再び空を切り裂く音と共に手裏剣が放たれていた。妖夢は既に手裏剣の対処に追われており、咲夜のことからは目を離していた。

 

「急いでこの子を服から離さなくては……!」

 

 咲夜は妖夢に加勢するべく、絡まったウサギを離そうとするがかなり複雑に糸が巻かれているため、中々手間取ってしまう。

 そんな中、自身の脚に違和感を覚えた。カサカサ、ウゾウゾと何かが()い上ってくるその感覚は、一瞬で全身を駆け巡って体を硬直(こうちょく)させる。違和感の正体を探るべく、視線を落とそうとした瞬間、ウサギの少年の顔を無意識に見てしまった。その刹那(せつな)、サブリミナル効果のように彼女の脳裏に刻まれたのはウサギの少年の、中途半端に開いた口から伸びる()()()()()()()。モソモソと動いていた。

 

「……ッ! こ、これは……!?」

 

 脚部に感じた妙な気配の正体。それは、咲夜の上体目掛けて駆け登ってくる害虫、毒虫の群れだった!ゴキブリ、ムカデ、()、ハエ、ブヨ……飛び回り、狂乱しながら咲夜の脚を登っていく。

 

「ひィッ……この……虫めッ!」

 

 咲夜は脚を振り上げて虫たちを払おうとする。もちろん、()()は咲夜の脚から吹っ飛んでしまうわけだが、この時、咲夜は1つ重大なミスを犯していた。

 彼女はこの状況下で、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ズ  キ  ュ  ン 

 

 

「なっ!?」

 

 虫たちを払いのけた咲夜は、突然地面に倒れ伏せてしまった。気を失ったとか、足が疲れたわけでは断じてない。彼女の下半身は、何と(くだん)の紙に吸い込まれているのだ!

 

「さ、咲夜さん!!」

 

「まずいぞッ!」

 

 手裏剣の相手で動けない妖夢に代わり、マジシャンズレッドとハイエロファントが咲夜を救出するために炎の縄と触手を伸ばして彼女の両腕を捕捉する。それを確認した2人は、息を合わせて彼女を引っ張るが、思いの(ほか)紙に吸い込まれるパワーが強い。2人の力を以ってしても咲夜を引き返すことができず、逆に引っ張られてしまう!

 

「咲夜さん! 時を止めて脱出するんだッ!」

 

「……既に……やったわ……だけど、出られない……もう腰まで引き込まれた!」

 

『フフフフ。これが僕の能力。咲夜とか言ったか? そのメイド。お前は僕に見せてしまったのさ。「恐怖のサイン」を!」

 

「何だってッ!?」

 

『僕の名は「エニグマ」ッ! 物体、人間、あらゆるものを紙にする! この僕に「紙」にできない者なんて、誰もいない……』

 

 エニグマと名乗ったスタンドは勝ち誇り、余裕がでてきたのか、口数が増えてきていた。実際、彼はハイエロファントたち4人を追い詰めてはいるのだ。

 もう胸の辺りまで紙に吸い込まれている咲夜。他2人も力尽き、ついに彼女の腕から触手などを離してしまった。マジシャンズレッドとハイエロファントの顔には焦りの色が(にじ)み出る。しかし、咲夜の抵抗が(かな)ことはなく、声を上げることもなく、やがて完全に紙に吸い込まれてしまった。

 

「さ……咲夜さァァーーんッ!!」

 

「な、なんてことだ……!」

 

「!! あの咲夜が……」

 

 咲夜を吸い込んだ紙は一人でに折りたたまれ、月光の下へと飛んでいく。宙を回転して舞っていた紙をパシッとつまんだのは、人型の何か。古代の石像か、芸術作品の彫刻のような模様をもつ、彼こそが"エニグマ"である。

 

「まずは……1人。次は……そこの赤いスタンドがいいか? お前が僕に手を出さないのは、酔ってしまって上手いこと炎をコントロールできず、「仲間を巻き込む可能性があるから」……フフフ。違うか?」

 

「……!」

 

「だったら、他の仲間を紙にする前にお前を紙にしておいた方が、後で楽だなぁ?」

 

 そう言うと、エニグマは咲夜の紙とは別の「紙」をどこからか取り出した。エニグマの攻撃を予見したマジシャンズレッドが自身の腕に炎を(まと)わせる。が、その間を妖夢が楼観剣を片手に持ち、割って入った。「まだ私がいるだろう」と視線だけでエニグマにそう思わせるほどの気迫を放っている。

 

「彼の前に、まず私ですよ」

 

「……それはお前が決めることではない。それに、大した特殊能力を持たないお前が僕に刃向かうというのは、()()()()()()()()

 

「賢いかそうでないか、ではありません。斬るか斬らないか」

 

「……勝負あった……」

 

 妖夢の強気な主張に、エニグマは呆れ返る。ハイエロファントとマジシャンズレッドはその様子を無言で見つめていた。()()咲夜が無力化されてしまう相手にどうやって勝つ気なのだろうか?彼女に秘策があるのか?ただ純粋に気になってしまう。下手をすれば自分たちの命を危険にさらしてしまう状況でありながら、法皇と魔術師(彼ら2人)は妖夢の中に見えた弱気や迷いのない()()()に目を奪われてしまっていた。

 

「いいだろう! お前を徹底的に恐怖させ、「紙」にし! 後でビリビリに引き裂いてやるっ! そうなってもいい覚悟があるなら、構えておけ!」

 

 エニグマは咲夜の紙をしまったかと思うと、紙の群れを再びばら撒いていつの間にか姿を消してしまっていた。エニグマの最後のセリフを聞いた妖夢は、右手に持っていた楼観剣を(さや)におさめ、目をかたく(つぶ)る。腰を落とし、刀の()に手をかけると彼女は静止してしまった。

 この構えを見た瞬間、マジシャンズレッドの頭の中にある言葉が浮かび上がった。「居合(いあい)」!

 妖夢は居合斬りをしようというのだ。

 

 

 バサバサと髪や葉が揺れ、ただ時が過ぎていく。エニグマからの攻撃もない。妖夢も動かない。スタンド2人はその光景を固唾(かたず)を飲みながら凝視していた。永遠のように長い時間は集中力を削っていくものだ。妖夢は今、何を思っているのか?

 それが分かるのは、そう遠くない時であった。沈黙を破って先制攻撃を仕掛けたのはエニグマ。空から手裏剣を何枚も飛ばしてくる。これに対し、妖夢。今度は叩き落とすことはしなかった。避けたのだ。走って逃れたのではなく、最小限の動きで、襲いくる数枚の手裏剣をノールックで避け切った。

 次の手に、竹の陰から、何らかの液体が飛ばされた。夜であるため、その液体の外見はあまり分からなかった。が、水のように透明色ではあった。妖夢はそれに気付いているのか、いないのか、自身に当たるまで一切その場を動こうとしない。

 

「よ、妖夢! 気付いていないのか!? 何か液体が飛ばされているぞ!」

 

 咄嗟(とっさ)に妖夢へ声を張り上げるが、彼女がハイエロファントの叫びに反応することはなかった。しかし、宙を舞う液体の内、下の部分が落ち葉へ付着した時、付着部分から「シューー」という()()()()()()()()()()が発せられた。妖夢は音の場所を理解し、一跳びで元の場を離れた。あの液体の正体は、おそらく"酸"であろう。

 跳び退いた妖夢が着地すると、次はその足下から虫たちの群れが出現する。毒虫も混ざっており、瞬時に妖夢の脚を駆け上がるが彼女は一切気にすることはなかった。やがて彼女のスカートの中へ。(そで)の内側へ。徐々に侵攻されるが、妖夢は()を崩さなかった。

 

『ここまでして、まだ粘るのか……しかし、だ。まだ僕の有利が傾いたわけではない……「こういう手」もあるのだ!』

 

 

 ギュ  ギュン  ギュン!  ギュウゥン!

 

 エニグマの言葉と共に放たれたのはナイフの嵐。そして、それらに見られる形状からして、放たれた無数のナイフは咲夜のものであると理解したハイエロファント。エニグマはハイエロファントとマジシャンズレッドもついでに一掃し始めようとしている。縦横無尽に飛び回るナイフは、彼らの肩や脚に問答無用でくい込んでいく!

 

「うぐあっ!?」

 

「やつめ……妖夢の恐怖をあばこうとするついでに、我々を始末するつもりかッ!!」

 

『その通り…手裏剣を目を開けずに避けていたところから、ナイフを当てにかかっても同じように避けられるだろう。ならば! 殺意を込めずにその周りだけにナイフを飛ばし、かつ、お前たちを始末する。構えを解いて2人を助け、蜂の巣になるか…あくまで僕を倒すことに集中して2人を見捨てるか……究極の選択! さあ、「恐怖のサイン」を見せてみろ! その時、この「エニグマ」は絶対無敵の攻撃を完了するッ!』

 

 エニグマの言う通り、妖夢の頭部や胴体をナイフは狙っていない。当たるにしても、腕や脚を(かす)る程度だ。

 エニグマの余裕は妖夢に聴こえていたのだろうか?勝者として(おご)る彼を斬る手立てはあるのか?彼女が動かない間に、ハイエロファントたちの体は徐々に、徐々に削られていく……

 

『2人を見捨てるかァッ! 白髪(はくはつ)の剣士! ならば、望み通りにこいつらを始末してや……』

 

 エニグマの言葉は途中で途切れた。妖夢がハイエロファントとマジシャンズレッドがいる方へと体を向けたのだ。依然、目は閉じている。

 

『……今更2人の命が惜しくなったのか? 安心しろ。まとめて極楽浄土へ送って……ッ!?』

 

 

ド  ォ  ウ  ッ  !  

 

 妖夢は目を見開き、ハイエロファントとマジシャンズレッドの方へと体を飛ばしたのだ。その右手は、腰の楼観剣の柄を血管が少し浮き出るほど、しっかりと握っていた。

 しかし、未だナイフは尽きることなく飛び交っている。無数のナイフは先程よりも妖夢の命に近づいて切り裂きにかかってきた。肩を貫き、(もも)に刺さり、(ほお)を抉る。しかし、臆さない。彼女はハイエロファントたちに向けて言い放った。

 

斬った

 

 

 

ズ バ ア ァ ン ! !

 

 

 

「うっ……ぐッ……!? なぜ、僕の……場所が……!?」

 

 妖夢は2人の間を通り抜け、その奥に隠れていたエニグマを斬り伏せた。エニグマの右腰から左肩にかけて大きく長い裂傷が走り、鮮血をぶち撒ける。最後まで言葉を紡ぎ切ることができないまま、彼は落ち葉の海へと身を落としたのだった。

 

(す、凄みだ……妖夢は凄みでエニグマを捉えたんだ! 隠れてコソコソと観察することしかできないチンケなスタンドなんかよりも、彼女の精神力の方が圧倒的に上だった。強気ではあったが、妖夢の()()に屈したエニグマこそ、敗者になったのか……)

 

 ハイエロファントは理解していた。もっとも、妖夢は自身のことに気付いている様子を見せていないのだが。

 妖夢は楼観剣に付いたエニグマの血を振り払うと、鞘におさめた。そして一言。

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど、あんまり無い! ……ん?」

 

 バシッと決めた!と思いきや、いきなり色の変わった声を出した妖夢。ハイエロファントとマジシャンズレッドも怪訝に思った。視線を動かさず、その額にはじんわりと冷や汗が滲み出てきている。妖夢はおそるおそる自分の服の(えり)を引っ張り、その中を覗く。と、

 

「キャアアアァァーーーーーーッ!!」

 

「ど、どうしたんだ!? 妖夢!」

 

「む……虫! 虫が服の中にィッ!!」

 

「まさか……さっきの攻撃……気付いてなかったのか……?」

 

 先程エニグマの攻撃によって妖夢に近づいていった虫たちだろう。エニグマと戦っている時の気迫は既に消え去り、見た目相応の弱点を(あら)わにした。服の上から、小さく多い膨らみがモゾモゾと(うごめ)いているのがわかる。妖夢は地面に倒れ、電撃でも浴びているかのようにのたうちまわった。

 

「取ってェー! 早く誰か取ってェェーーッ!!」

 

「……マジシャンズレッド。僕は咲夜さんを救出する。おそらく紙を開けば元に戻るだろう。妖夢は任せた」

 

「わ…私が……? ……か……断固拒否する! ハイエロファント、お前の方が近い。触手を伸ばして虫を取ってあげればいいではないか」

 

「僕だって嫌です!」

 

「自分が嫌なことを人にやらせるなッ! どんな性格をしているんだ!」

 

「いーから! 早く取ってよォーーー!!」

 

 妖夢の絶叫はしばらく竹林に木霊していた。

 

 

 

 

 




エニグマの本体はあまり好きではないですが、エニグマの能力やデザインは四部に登場するスタンドの中でもかなり好きな部類です。



エニグマ、ハーヴェストを倒したハイエロファントたち。
一方の魔理沙や霊夢はついに月の異変の犯人と遭遇……!?
犯人の目的は?異変はクライマックスへ……
お楽しみに!
to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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