幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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ついに東方永夜抄も終わりが近づいて参りました。

そして、第1部で「永夜抄には好きなキャラクターがいる」と書きましたが、1番好きなキャラクターは輝夜です。




16.月の姫

「た、大変だどーッ」 「輝夜〜!」

「永琳が負けたどォーッ!!」

 

「…………そう」

 

 永遠亭のとある部屋。照明はなく、ただ小さな窓口から月の光が入ってきており、それだけを頼りにしている薄暗い部屋だ。そこへ、3匹のハーヴェストが駆け込み、主へ永琳の敗北を報告する。彼らの話に耳を傾ける彼女こそ、蓬莱山輝夜(ほうらいさんかぐや)、その人である。腰の下辺りまで伸びている黒い髪に、白いリボンやフリルのようなものの付いた桃色の服、赤いスカートを身につけている。

 ハーヴェストの報告を聞いた彼女はゆっくりと立ち上がり、月光の差し込む戸を閉めてどこかへ歩いていくのだった。

 

 

 

____________________

 

 

 場面は変わり、こちらは異変解決チーム。(やり)を構えたアリスの上海(シャンハイ)人形を首元に配置され、庭の外壁際で尋問されている永琳とその様子を見る妖夢、アリス。尋問しているのはスタンドの2人だ。

 

「もう一度()く。ここにいるスタンドは"ハーヴェスト"、そして"エニグマ"だけなんだな?」

 

「だから……そう言ってるじゃあないの。そんなことで嘘なんかつかないわ」

 

「八意、「念には念を」という言葉がある。ここは敵陣。最大限の警戒をしておかねば落ち着けないのだ。」

 

「……もういないわよ。いい加減信じて」

 

「……だ、そうだ。ハイエロファント」

 

「…………」

 

「まだ気にしているのか?」

 

 マジシャンズレッドが言う通り、ハイエロファントは気にしていることがあった。それは空での戦いが終結していなかった頃に感じた、圧倒的「悪のオーラ」。自分や幻想郷の住人への危害を考えると、スルーできるものではない。ここで何としてでもその正体を掴みたいと思っていたのだ。

 しかし、「知らない」と言い張られてしまえば、もう何もできない。拷問をする手もあったが、直接害を及ぼされたわけでもないため、痛めつけるのも気が引ける。

 

「分かった。あなたの言葉を信じよう」

 

「助かるわ。それと、もう少し人形たちを離してくれると助かるのだけれど」

 

「それはできない。信じるのは「スタンドは他にいない」。この言葉だけだ。あなたの全てを信用したわけではない」

 

「生意気言うわね。10年ぽっちしか生きてないくせに」

 

「僕から見れば、あなたはその倍も生きていなさそうだが?」

 

 ハイエロファントの言葉に一瞬沈黙する永琳。すると、何が可笑しいのか分からないまま、永琳は「フフフフ」と意味ありげに笑いだした。妖夢、アリスは特に思うことが無いのか、それともそんな光景に慣れているのかは知らないが、先程と全く同じ表情で永琳の笑い声を聞いている。ハイエロファントとマジシャンズレッドは意味が分からず、互いの顔を見合わせるのだった。

 

「何が可笑しいんだ?」

 

「いいえ。フフフ……あなたは私をただの人間だと思っているの?」

 

「何だって?」

 

 妥当な答えだ。そう訊き返すということは、彼女はただの人間ではないのだろう。弾幕をあれだけ操っているのを思い出せば、そのことにも納得できる。魔理沙だって種族でいえば人間だが、職業的な面では魔法使いだ。

 ハイエロファントの間抜けた声をスルーして、永琳は言葉を続ける。

 

「私は元々ね、この地球()の者ではないのよ。いえ、正確に言えば「戻ってきた」といった感じなのだけれどね。()()()は月から来たの」

 

「何っ? 月からだと!」

 

 衝撃の告白だった。ハイエロファントは幻想郷に来て、様々な妖怪や生き物と出会った。半人半妖、鴉天狗、外の世界にもいた吸血鬼……

 そのどれもが地球産のものであり、鏡の中の世界など、メルヘンなものや存在の根拠が薄いものは信じないハイエロファントは彼女の言葉に非常に驚いた。今目にしているのは宇宙人なのだから。

 

「なぜ月の者が地球へ……?」

 

 マジシャンズレッドが問いかける。これに対し永琳、先程までこぼしていた笑みが完全に消え、再び真剣な表情へと戻った。

 

「……明かすのはここまで。私だって、あなたたちのことを信用しき……」

 

「いいじゃあないの。永琳。話してあげて」

 

「! 誰だ!?」

 

 永琳がマジシャンズレッドの問いへの返答を拒否しようとしたその時、半壊しかけていた永遠亭から、女性の声が響いた。可愛らしい中学生〜高校生くらいの声。そしてその風貌。彼女の美しい顔、そしてその長い髪に、身の周りに浮遊しているハーヴェストによってハイエロファントは突如現れたら女性の正体を理解した。

 

「まさか……あなたが……?」

 

「私の名前は蓬莱山輝夜。永琳が言った通り、私も月の住人よ」

 

「! 「かぐや」で、しかも月から来たなんて……まるでおとぎ話の「かぐや姫」じゃあない!」

 

 輝夜の自己紹介にアリスが反応した。そう。彼女こそ、かの有名なかぐや姫なのだ。

 輝夜は永琳を(いさ)めるように言うと、ハイエロファントたちへニコリと微笑みを向けた。その美貌や柔らかなオーラといったら、承太郎の母親であるホリィとは比べものにならない。まさに絶世の美女。

 

「私と永琳、そしてあなたたちが倒した"イナバ"はね、月からここへ来たのよ。イナバは違うけど、私と永琳は月でのルールを破ってしまってね。流刑でここに来た」

 

「姫さまッ!」

 

「大丈夫よ。永琳。彼らは()()()ではないし、本当に何も知らないのよ」

 

 輝夜のカミングアウトを防ぐため、永琳が口を挟もうとするが輝夜はそれを止める。輝夜はハイエロファントたちのことを「自分たちの敵ではない」と言うが、永琳の顔からは納得できていなさそうであった。

 

「私の元へね、八雲紫なる妖怪がやって来たのよ。彼女が全部説明してくれたわ。永琳、あなたがやったことは無駄だった、てね」

 

「なっ……!?」

 

 輝夜と永琳の会話は、彼女ら2人にはよく分かることであろう。しかし、その近くにおり、しかも知らず知らずの内に尋問相手を奪われたハイエロファントやマジシャンズレッドたちには彼女らの言っていることの意味が一切分からなかった。蚊帳の外に出されてしまったハイエロファントは「おいおい」と説明を求める。

 

「話が見えないぞ。僕らにも分かるように説明してくれ」

 

「……実を言うと、永琳は自分の意志でここへ来たのよ。地球へ追放されて1人になった私を案じてくれてね。それで、自分を連れ戻そうとする月の民の来訪を何としてでも防ぎたかった」

 

「…………」

 

 永琳は黙って聞いていた。目を伏せ、輝夜の話に静聴しているその姿からは、彼女へ自分の不甲斐なさを謝罪しているような気も感じられた。

 

「だから、この幻想郷の内側に結界を張ったのよ。元々あるのとは別の、もう1枚ね」

 

「……結界? この世界は結界に囲まれていたのか?」

 

「"博霊大結界"という結界です。外からの侵入、幻想郷そのものの守衛をするために張られているんです」

 

 初めて知った事実に首を(かし)げるマジシャンズレッド。彼に妖夢が耳打ちして補足情報を彼の耳に入れた。ハイエロファントとアリスは霊夢などから既に得ていた情報であるため、そのまま話に集中し続けた。

 

「でも、元々張られている結界が既に外からの観測を防ぐ役割を持っていたので、永琳が張った結界は結局無駄なものだったと……そういうことなの」

 

「……そう、だったのですね」

 

 輝夜の説明にようやく納得したのか、永琳は思わずホッとしたように顔が(ほころ)ぶ。

 平たく言えば、ハイエロファントたちと永遠亭の者が対立する理由はもとより無かった、ということなのだ。互いの勘違いが原因だったのである。しかし、ここでマジシャンズレッドが混乱した。

 

「……では、どうして結界を張っただけで夜が止まるのだ? 元々ある結界は夜を止めていなかったではないか」

 

「「月の異変」は永琳が張った結界の影響よ。終わらない夜の異変は……ねぇ?」

 

 マジシャンズレッドの疑問に輝夜が答えるが、意味ありげな間を残すと、ハイエロファントの方へ今にもイヤミが飛んできそうな悪い笑みを向けた。この場ではマジシャンズレッドだけが()()()()のだ。夜を止めた者の正体を……

 これにはハイエロファント、妖夢、アリスは何も言えず、ただ各々が視線を合わすことなく何もないところを見つめるしかできなかった。複雑な気分だ。異変を解決しに来たら、仲間のせいで自分たちまで異変の共犯、しかも別の異変の犯人に加担する形になりかけていたのだから。

 輝夜はバツの悪そうなハイエロファントたちから視線を空へ移すと、ふわりと浮遊を開始した。

 

「永琳の月の異変はもう解決も同然。それじゃあ、今から「永夜の異変」を私が解決してしまいましょうか」

 

「! 何だって? あれは幻想郷の賢者である八雲紫がかけた術だ……そんな簡単に破れる代物(もの)なのか?」

 

「見ていなさい。ハイエロファント。これから目にするのは、姫さまの「能力」……」

 

 永琳がハイエロファントへ促す。輝夜は自身の能力を使って、紫の"永夜"を解除しようというらしい。

 宙空へ上昇した輝夜がゆっくりと手を広げると、不思議なことが。

 何と見えていた月、星々が凄まじい勢いで東へ流れ始めたのだ。もはや点や光る丸ではなく、流星のように線を引き、その軌道がはっきりと目で見て取れる。と、思ったら、気が付いた時には朝となっていた!

 

「こっ、これはッ!?」

 

「よ、夜が……朝になった……」

 

「そう。これが姫さまの「永遠と須臾(しゅゆ)を操る程度の能力」。その一端よ」

 

 永遠と須臾を操る。

 永遠を操るのは分かるだろう。物体の存在を固定し、まるで時が進んでいないかのように状態を保存することができる。では、須臾とは? 非常に細かい時間のことだ。人間はそれを認識することすらできない。その時間の中で行動を完了することができるのが、須臾を操る能力なのだ。

 

永夜を解除した輝夜は、自分を見上げる5人に軽く手を振って挨拶を告げると、未だ上空にいる霊夢、魔理沙、レミリアに弾幕勝負を仕掛けに行ったのだった。

 

 

「……何というか、少しバカらしい1日でしたね。永琳さん」

 

 突然敬語で話しかけてきたハイエロファントに、永琳は一瞬驚く。先程まで完全に警戒され、強気な口調で圧力をかけてきていたのにだ。

 

「……どうしたの? いきなり口調を変えて」

 

「いえ……僕らは敵対する必要が無かった。その上、異変を解決しに来たというのに、最後は立場が逆転してしまったなんて。笑いものだと思いませんか?」

 

 永琳はハイエロファントの言葉に「ふふ」と笑いをこぼすと、既に人形が退いていたため、立ち上がる。そして明るくなった空が、さらにカラフルな花火で染められていくのを見ながら、背伸びをすると、(きびす)を返して半壊した永遠亭に戻ろうと足を進め始めた。

 

「そうね。でも、「めでたしめでたし」なのは変わらないわ。それで良いじゃあないの。私だって、平和が1番」

 

 永琳の返答に頷く一同。これ以上の損害はまっぴらだとお互い思うのであった。

 

 そして永夜が明けたこの日、輝夜は本当の自由を手に入れたも同然だった。これ以前は月の追っ手を気にして、あまり外を出歩くことが無かったが、これを機会に存分にやりたいことを為せるようになった。その初めとして、彼女は霊夢たちに弾幕勝負を仕掛け、1日中戦うのであった。

 ハイエロファントたちはウサギたちと気を許し合い、共に永遠亭の復興作業を行った。余談だが、ハイエロファントはあまりエニグマが好きではなく、彼が寄ってきても喋りかけようなどとは思いもしないらしい。

 そして、倒されたハーヴェストはいつの間にかその数を戻していた(数百体で1つのスタンドのため)。

 

 

 復興作業を始めて2日後、輝夜の提案で異変に関わった者たちで宴会を、そして「肝試し大会」をやることとなった。

 

 

 

 

____________________

 

 

 時、永夜の異変が解決された日の午後9時、その(なか)ば。

 場所、幻想郷のどこかにある家屋。永遠亭のように豪勢であるわけでも、人里の家々のように庶民的でもない、なんとも不思議な和風の平屋。

 この時刻、その中に足を踏み入れる者がいた。八雲紫。幻想郷の賢者だ。

 

 

ガラ ガラ ガラッ 

 

「……戻ったわ」

 

「ゆ、紫さま!? 今までどちらに!?」

 

 来訪者、ではなく、現在この家を自身の寝床としており、たった今帰宅したのだった。それを出迎えたのは、()と同じく長い中華風の服を着て腰から9つの黄金色の尾を生やした女性。名前は八雲藍(やくもらん)。紫の式神である(平たく言えば、決められた、指令された通りに動く使い魔)。

 

「紫さま。まだ、大異変(あの時)に消費した力はまだ戻られていないでしょう。安静になさっていてください! 今冷えたお茶をお持ちします」

 

 藍は紫が履き物を脱いで屋内へ上がるのを肩を貸して手伝うと、そのまま台所のある方へとパタパタと走っていった。

 

「……月の異変は……解決したようで良かったけど…………またしばらく……動けないわ……ね……」

 

 

 

バ  タ  ン  ! 

 

 

 

____________________

 

 

 時を同じくして人里。永夜の異変が解決したことにより、上白沢彗音の能力によって()()()()()()()()から元に戻っていた。

 外の世界のように街灯などの整備が全くされておらず、今はポツポツと松明の火がちらほら見えているぐらいで非常に暗い。人通りもほとんどなく、里の中にほんの数軒だけの居酒屋程度しか営業もしていなかった。

 

 そんな夜中に1人、自身の家へ疾走する女性がいた。息を切らし、普段はあまり使わない脚全体の筋肉をフル稼働して目的地を目指す。まるで、何かから逃げているようだ……

 

「ハアッ、ハアッ、ようやく見えたッ!」

 

 ついに家を見つけ、タヌキやアライグマの如く凄まじい速度で家へ入ると、ダン!と引き戸を閉め、(かぎ)で戸を固定し、外側からの開閉を不可能にした。

 

(な……何なのよ! ()()()はッ! 人間じゃあない……もしかして、新聞に取り上げられてた……あれもスタンドッ!?)

「ハアッ……ハアッ……でも……ここまで来たら、さすがにもう大丈夫のはず……」

 

 呼吸を落ち着くの待ち、女性は家の灯りをつけようと後退りをする。すると、

 

 

 

ド ッ ……

 

 

「!!」

 

 何かが背にぶつかった。いつもと同じ家具の位置のはずだ。自分の思い出せる限り、()()()()には家具や荷物は置いていない。そして私は独身。もう22歳でいい歳だから結婚したいけど、気を抜いたら出てしまうちょっと粗雑な一面で中々相手を見つけられない。だから、本来ならこの私の家には私以外の誰もいない!

 

 女性はゆっくり振り返った。そして目で見たのは、永遠に続いていそうな暗黒。しかし、何も見えなくとも、彼女は分かっていた。確かに、そこに何かがいる、と。

 

 

ガ  シ  イ  ィ  ッ  ! 

 

「ひィッ!! あぁ、嫌ァ〜〜ッ!」

 

 突如何者かの腕が彼女の首、そして左手首を捕らえた!

 

「イィィイイ嫌ァァーーッ!! 私まだ独身でェッ! 家を出る時にお母さんに「元気な子供見せるね」って言ったのよォーーッ! まだ相手も見つかってなくて兆候も見えないけどォ、あなたでもいいッ!! いいわッ! だから、後生よォ、せめて命だッ………!!!」

 

 

ボ グ オ ォ ォ ン ! 

 

 

 女性は爆ぜた。火薬を体に詰められて火を点けられたわけではない。弾幕を当てられたわけでもない。ただ、触れられただけだ。

 そして、目の前の何者かは、彼女がいた場所に落ちていた物体を手に取った。それは、彼女の左手。それを大切に抱え、自身の頬の近くに寄せると、()は口を開いた。とても、小さな声で。誰にも、その()にだけしか聴こえないような声で……

 

「……私の…………名は……()……()……吉影(よしかげ)……」

 

 

 

 

 

 

 




いや〜……()()が来ていますね……
彼との邂逅もそう遠くない未来です。


ついに永夜の異変を解決した一行。
輝夜が提案したという肝試し大会。それにはとある思惑が……?
お楽しみに!
to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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