幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
ご容赦ください。
激しい「喜び」はいらない……
そのかわり「深い絶望」もない…………
そんな「植物の心」のような人生を……
射程距離内に………………入ったぜ…………
出しな……てめ〜の…………
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永遠亭での宴会から4日後、ハイエロファントは魔法店で新聞を眺めていた。彼にとって興味深い見出しだったので、ガラにもなく店のカウンターに広げて読んでいる。その見出しというのが、「人里で行方不明事件勃発! ドロドロに溶けた死体も発見」というものだった。別にオカルトやスプラッタが好きというわけではないが、実に興味をそそられる。
バ タ ン !
「いよぉーす、ただいま。ハイエロファント」
「あぁ、おかえり。魔理沙、帰ってきていきなりで悪いが、これを見てくれ」
「んー?」
ハイエロファントに
「さっきアリスの家で見たよ。まるで、
「ああ。行方不明にもだが、ドロドロの死体というのも気になる。僕が出会ったスタンドにそんなことが可能なやつはいなかったが、今回もスタンドが犯人である可能性はゼロではない」
ハイエロファントの言葉に魔理沙が頷く。早朝からアリスにお茶会へ誘われ、帰宅しても眠そうに
それを確認したハイエロファント。
「今からでも、確かめに行くかい?」
「もちろん行くぜ! 私もお前をそれに誘うつもりだったんだからな!」
魔理沙は力のこもった返事をすると、帽子を被り、帰宅と同時に立て掛けた箒を再び手に取って人里へ向けて飛び立とうする。が、それをハイエロファントが呼び止めた。
「あ、待ってくれ、魔理沙。昼ご飯なんだが、今日は塩むすびなんだ。6個あるんだが」
「それぐらい持ってこォーい! 行くぞ!」
こうして、塩むすびを持ったハイエロファントと魔理沙は新聞に大々的に報じられていた事件を解決すべく、魔法店を後にした。ちなみに、塩むすびは人里へ行く途中で6個全て消費された。魔理沙は朝ご飯を食べていなかったため、無くなるまでがすぐであったのは言うまでもない。
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ハイエロファントたちが人里へ向かっている際中、かの地の中央に位置する寺子屋に、人里中の人間が集まっていた。何をしているか? 多くの人々が見物だ。そしてごく少数の人が、寺子屋前に立つ慧音と言い争いをしていた。では、なぜこんなことになったのか? それは先日までの行方不明事件と関係している。集まった人々は寺子屋側とその反対である通り側、といった具合で分かれていた。分かれているといっても、慧音以外の者は全員通り側にいるのだが。
いや、それには少し語弊があった。寺子屋側にもう1つだけ、
「だっからよぉーーーっ、慧音先生! 行方不明事件が起きてる中、こいつがいきなり現れたんだぜ! どう見ても普通じゃあねえし、怪しすぎるんだぜ!」
「お、落ち着いて! 怪しいことには怪しいですが、彼が犯人だという証拠はないはず!」
「犯人じゃあなくても、こいつぁヤバいやつだってハッキリ分かる! ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ!」
「しかし……どうすれば……なぁ、君もどうにか言ったらどうなんだ!?」
彼は人里を
慧音は必死に人里の民を
「こいつは即刻! 打首にすべきだ!」
「おおぉぉーーーー!!」
「人里は俺たち、人間の手で守るんだ!」
「お、落ち着いて!! おい! 君もいい加減にしてくれ! 何でもいいから知っていることを話すんだ!」
ブチッ ブチブチ ブチ……
「え……?」
人々の雄叫びが止まった。その理由は非常に小さな音だった。男たちの大声で簡単にかき消されてしまいそうな、ただ、
「お、おい……どこへ……?」
慧音が呼び止めようとするが、彼は一切見向きもせず、ズンズンと場を離れようとする。
「こ、こんの……逃すかよォーーッ! この化けモンがァッ!!」
自分の脇を通って場を後にしようとする彼に、恐怖が限界を超え、暴力へと変化してしまった1人の住民。本来なら、誰かがこれを止めに入るが、状況が状況である。
活火山の噴火の如く、勢いよく拳を振り上げ、火山弾の如くめいいっぱいに振り下ろした!
バ シ ィ ッ !
「なっ……何じゃあ!? こりゃあ!」
振り下ろされた拳が、
「! ハイエロファント! それに魔理沙!」
「よっす、慧音。何だ? この人だかり」
「ああ、それは……彼だよ。怪しいには怪しいんだが……な」
箒で降り立った魔理沙は慧音の元へと駆けていき、ことの
「その拳をしまうんだ。後ろへ引っ込めるように力を入れたら離そう」
「く……くそっ……」
「早くしろっ。拳を引っ込めるんだ」
「分かってるぜェッ! うるせぇんだよ!」
男は乱暴に拳を引っ張ると、ハイエロファントは触手を男から離した。しかし、ハイエロファントは未だ睨みつけている。人間である男ではない。異形の彼のことだ。見てみれば、彼の拳は既に彼自身の胸と同じ高さまで、拳が抜かれていた。男の拳を止めるのがあと一瞬遅ければ、
ハイエロファントは一目見て理解した。「彼はスタンドだ」と。
「ちッ……お前、この前の「スタンド」ってやつか……鬱陶しいぜ……」
男はハイエロファントに触れられた箇所を、分かりやすくパンパンと逆の手で払うと、悪態をつきながらその場を去っていくのだった。その男に続き、寺子屋前の人だかりは徐々に、バラバラと小さくなっていく。やがて、ほとんどの者がいなくなると、慧音は魔理沙たちを振り返って声を掛けた。
「魔理沙、ハイエロファント。話はこちらでするよ。寺子屋に入ってくれ。そして、君もだ」
慧音はこれまでの出来事の詳細を語ろうと、寺子屋へハイエロファントたちを招き入れた。
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「なるほど。そんなことがあったのか」
「ああ。そして、行方不明者は6人、例の遺体は14。合計20人分の被害だ」
行方不明、死傷事件の情報がまとめられた資料を3人の前に出して語った。行方不明者の名前と、最終目撃場所が記された地図には、「犯人の
「何も証拠がない、というのは厄介ですね」
「ああ。だから、彼にも話を訊きたいのだが……」
一同はスタンドを見やる。当の本人は全く顔に感情が出ておらず、初めて慧音と相対したときと同じ無表情。口はあるのに、一切喋らない。手があるのに、ジェスチャーもしない。何とも掴みどころのない存在だ。
「彼もスタンドでしょう。彼から感じるこのエネルギーはスタンドのそれだ。ここは、同じくスタンドであるこの僕が、彼とのコンタクトを図ろうと思います」
「ああ、やってみてくれ」
「頼んだぜ」
ハイエロファントがスタンドとの会話相手に立候補すると、彼の前に移動して座り、正面から互いの顔が見られるような態勢をとる。そして、ハイエロファントは自己紹介から始めた。分かりやすく、身振り手振りも交えながら。
「やあ、僕の名前は
「…………」
沈黙。スタンドに反応はない。自己紹介をするハイエロファントの、自分を指し示す手の動きに彼の視線がついていっているだけだ。
「……君が言いたくないなら強制はしない。だが、それなら意思をはっきり示してほしい」
ハイエロファントはできる限り優しく要請する。すると、
「……キラー……クイーン……」
「! 今、何て?」
「私の……名は……"キラークイーン"…………と、
「!! 何だって……!?」
そのスタンドは確かに名乗った。"キラークイーン"と。しかし、彼の言った最後の言葉は、どこか日本語がおかしかった。自分のことを「こいつ」「名付けて呼んでいる」だって? まるで、掘り返された誰かの記憶、もしくはセリフを使い回したかのようだ。キラークイーンは最後に放った言葉を最後に、再び黙りこくってしまった。
「……ハイエロファント、今のは?」
魔理沙は驚きの表情を浮かべてハイエロファントに問いかける。慧音も事態がよく分からないため、魔理沙ほどの焦りや驚きは見られないが、キラークイーンから目を離せないでいた。彼の容姿は確かに恐ろしいものだが、その口から発せられた声はどこにでもいそうな、それでもって狂気を孕んでいそうな、耳から離れようとしない特徴的なものだった。
「……分からない。ただ、クリームの時と似ているのか……それとも、今回も別のパターンなのか……とにかく、僕やマジシャンズレッドとは違うはずだ」
以前戦ったことがあるクリーム。彼は本体の魂に束縛され、紅魔館で暴れ回ったことがあった。その時は、クリームの本体であるヴァニラ・アイスという男がクリームの体を乗っ取る形であったが、今回はそれと似て非なるパターンだ。本体の記憶が色濃く残りすぎているのか? 本体の意思が中途半端に混ざっているのか? ハイエロファントには分からなかった。
しかし、分からないことはどれだけ悩んでいても仕方がない。ハイエロファントは彼についてのさらなる情報を求めて、再びキラークイーンとコンタクトをとる。
「今回の……連続殺人、および行方不明事件の犯人は君なのか? それとも違うのか?」
「…………」
「だんまりでは分からないぞ。何か知っていることがあれば教えてくれ」
「…………」
今度は一言も話さない。ハイエロファントはその後も粘って質問を繰り返したが、結局口にしたのは彼自身の名前のみであり、本体、能力すら判明することはなかった。
時間が経つのはおそろしく早く、既に日が沈みかけている。彗音の提案により、ハイエロファントと魔理沙、キラークイーンは慧音の家に
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午後6時12分、慧音宅、ハイエロファントたちは慧音の作った夕飯を食している。メニューは白米に味噌汁、
「幻想郷にも鮎はいるんですね」
「川魚はかなり豊富に存在していると思うぞ。外の世界から流れ着いた図鑑とか読んでみると、見たことあるやつが多かったりしたからな」
「なるほど。今度、魚料理にもトライしてみようか……」
魔理沙が「うまい、うまい」と
「では、今夜9時から人里内でのパトロールを始めようと思う。コンビについては私と魔理沙、ハイエロファントとキラークイーン、という組み合わせなのだが、異論のある者は?」
「大丈夫だぜ」
「特にないです」
「…………」
そしてパトロールの時が来た。慧音の考案したコンビに、一同は文句を言わなかった。この組み合わせの
魔理沙と慧音は人里の中で「妖怪の山」に比較的近い辺りを、ハイエロファントたちはその逆の方角からしらみ潰しに事件の犯人を探し出すこととなり、彼らは出発する。
しかしここで、ハイエロファントは自身の
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ハイエロファントとキラークイーンは静まりかえった大通りをひたすら歩いていた。夏はようやく終わり、秋の涼しさが顔を出し始めている。遠くから鈴虫などの透き通るような鳴き声が響き渡るが、それ以外の音はほとんどない。2人の間にも会話はなかった。ただ、ハイエロファントが手に持った松明だけが、暗黒に包まれた人里のほんの小さな空間を明るく照らしているだけである。
(……今のところ、キラークイーンに不審なことはない……何か、音沙汰があるわけでも、だ。本当に素性が知れないな……)
ハイエロファントはキラークイーンを見つめてそう思う。キラークイーンはそれを知ってか知らずか、彼とは目を合わせようとはしなかった。
いや、それにしてもだが、なんと静かで落ち着きのある夜だろうか。永遠亭での戦いや、その後の宴会が嘘のようだ。カラフルな弾幕が飛び交い、命の危険にさらされていたあの時とは打って変わって、自然が豊かな地方の村落のように心地よい風が身を包んで守ってくれているようだ。
タッ タッ タッ タッ ……
「! うっ……今の足音は……ネズミか?」
突如耳に入り込んできた小さな足音。それにハイエロファントは思わず、首筋がゾワリと
しかし、このネズミも、ハイエロファントたちに
ドシュゥ〜〜〜ッ!
「!! 何だ!? 今の音はッ!」
突如耳を打った、
ハイエロファントは急いで周りを見渡し、
「!」
ガッ! ドッ…………ドスゥッ
ハイエロファントの焦りが頂点に達しようとした瞬間、キラークイーンの姿が消えた。いいや、消えてはいない。高速でしゃがみ込み、道に落ちていた小石を投げて
タッ タッ タッ タッ タッ ……
攻撃に失敗してしまったからか、退散するようにしてネズミの足音は離れていく。ハイエロファントは攻撃に使われた物の正体を探ろうと、一瞬足元に意識を移した瞬間、ドゥッと大地を蹴る音が至近距離で弾けた。おそらく、キラークイーン!
「! キラークイーン? 追跡するのかっ! 待つんだ!!」
ハイエロファントも後を追おうとするが、その時には既にキラークイーンの姿は無かった……
ネズミの足音は民家の屋根を突き進む。そして、それを追うのはキラークイーン。彼は通りから追跡している。松明を持っていたハイエロファントは置いてきてしまったため、彼の視界は非常に暗くなっているが、耳の感覚を研ぎ澄ませて襲撃者に食らいつく。
が、彼の努力は虚しいこととなるのはすぐのことであった。ネズミの足音は通りのある方とは逆の、民家の群れのさらに奥へと行ってしまったのだ。
しかし、キラークイーンはこのことを何とも思っていなかった。彼はその左手を一度もたげ、右手で支えつつネズミの足音が消えていった民家へと向けた。そして一言。
「キラークイーン第2の爆弾「シアーハートアタック」」
ドギュウウ〜〜ン!
キラークイーンの左手から、キャタピラとドクロが付いた小さな戦車のような物体が撃ち出される! その小型戦車はギャルギャルとキャタピラを回転させると、見た目からは想像できない高いスピードを出して、民家に突っ込んだ!
カチッ
ド グ オ ォ ォ ン ! !
「! 今度は何だッ!?」
キラークイーンを
「なっ……一体何が起こっていると言うんだッ……!!」
ハイエロファントは燃え上がる炎へ向かって走り出した。
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ギャル ギャル ギュル …… ガシュン!
再び場面は変わり、出火場所。キラークイーンが放ったシアーハートアタックが彼の左手へ帰還する。先程の爆発はシアーハートアタックが起こしたものだ。熱源に反応し、追跡。そして爆破する、小型自動追尾爆弾。つまり、爆発して炎が起こったということは、シアーハートアタックが反応したということだ。それはネズミか? それとも……この家の……
「キラークイーン! この炎は何だッ!? まさか君の仕業とは言わないなッ!」
爆発に気付いて駆けてきたハイエロファントが遠目から叫んだ。しかも、かなり激情に
「キラークイーン。敵を見つけたらしいが、これは一体何が起こったんだ? 先程の攻撃から、敵の能力では炎が発生するとは思えないぞ。知っていることを今ここで全部吐くんだッ」
「……私は……」
「!」
キラークイーンが口を開いた。ハイエロファントの前では初めて、
「私は敵を見つけ、始末しようとしただけだ。この炎はその二次被害。性に合わないが、これではかなり目立ってしまうだろうな……」
「ッ! そういう問題ではないんだ! 僕たちは君の無実と、人里の安全のために戦っているんだぞ。こんなことをしては、むしろ逆効果だ!」
「……敵の存在は既に明らかとなった。そして、私の攻撃は
「…………!」
開き直り? いいや、違う。心の底から、彼は自分の保身だけを語っていた。そのためには誰がどうなろうと関係ないと、彼の思考の奥底に眠る「真の邪悪」が垣間見えていた。
「それじゃあ、私は失礼するよ。
キラークイーンはそう言うと、ハイエロファントのいる方向から足を
「待つんだ」
「……!」
「自分のためだけに、何も知らない人間を自分だけの都合で殺した……お前は…………まさに「吐き気を催す邪悪」だッ! しかし……失った命は戻らないし、君に「殺す」という意思がなかった以上、僕は君を攻撃することはない。だが、もし、次に同じことがあれば……僕は君を
ハイエロファントからしたら、それは一種の「
これに対してキラークイーン。背中越しに言い放たれ、足を止める。そしてゆっくりと振り返るが、その様子を見たハイエロファントは思わず絶句した。キラークイーンは振り返りざまに、ドス黒いオーラ、殺気、威圧。そのどれとも取れるような重々しい雰囲気をドッと放ったのだ。
「……分かったよ。肝に
ハイエロファントはこの時、ようやく気付いた。
「もっとも、戦ったとしても私は誰にも負けんがね」
「……ッ!!」
そう言うとキラークイーンは、くるりと体をハイエロファントから背け、人里の、夜の闇へと姿を消していった。それから消化活動が行われたのは約20分後のことだった。そして、偶然か必然か、死者はたった1人だけ。昼間にキラークイーンに殴りかかった男が焼死体で発見された。
シアーハートアタックって、良いですよね。
突如人里に現れたキラークイーン。
彼の目的は? 行方不明事件の犯人は誰なのか?
キラークイーンの毒牙は止まることを知らない……!
お楽しみに!
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
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東方をよく知っている
-
ジョジョをよく知っている
-
東方もジョジョもよく知っている
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どちらもよく知らない