幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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前回、「次回から短くなる」と書いてしまいましたが、今までで1番長い可能性があります。


22.キラークイーンは静かに暮らしたい

 キラークイーンと魔理沙はハイエロファントと別れた後、人里にてコダマネズミの行方を追っていた。人里全体は既に起床時間を迎えたように、人々が外へ出始めていた。朝の挨拶を交わす中、急ぎながら駆け回るキラークイーンたち2人の様子を怪訝に思い、横目でチラチラと見ている。

 しかし、ターゲットを確実に仕留めるチャンスと、ハイエロファントの命がかかっているこの状況下で2人は()()()()()を気にかけることはなかった。

 

「なあ、キラークイーン、ネズミ(やつ)は自分のテリトリーに戻ってるんじゃあないか!?」

 

「そんな分かりやすいところには行かないだろう……かと言って、他に心当たりのある場所は無いが……」

 

 キラークイーンは駆け足で考える。魔理沙は箒で飛行しながらヒントを探す。キラークイーンの頭の中が徐々に埋まりだし、視界にモヤがかかり始めた時、魔理沙は大通りから陰となっている脇道へ()れて行く存在を見つけた。

 その存在というのはネズミなのだが、そのネズミが入って行った脇道にはギラギラと光る無数の何かが見えたのだ。少女とはいえ、幻想郷では戦闘のプロである魔理沙は、それら光る存在を見逃すことはなかった。

 

「! キラークイーン、あれだ!」

 

「……何だ? どうかしたのか? 霧雨魔理沙」

 

「私は()()の正体を探るぜ! キラークイーン!」

 

「なに? おい、勝手に離れるんじゃあ……」

 

 魔理沙はキラークイーンに一言言い残すと、彼の返答を聞くことなく、ネズミの消えて行った脇道へ彼女も入って行ってしまった。彼女(魔理沙)のこと事態はどうでもよく思っているキラークイーンは一瞬放置することも考えたが、魔理沙が口走っていた「あれ」の存在も気になり、後を追う。

 

 

 魔理沙が脇道へ突進すると、無数の光は一斉に消え、その正体をさらに奥の日の下にさらした。脇道の壁や地面から這い出てきたのは……

 

「うげぇ! こりゃあ、大量のネズミ!?」

 

 そう。大量のネズミが目を光らせて魔理沙たちを観察していたのだ。ネズミの群れは脇道を抜けた大通りほどの大きさではないが、広めの通りに出ると、一切バラつくことなく隊列を組んで右方向へ逃走を開始する。しかし、魔理沙が追いつけぬスピードではない。曲がった先にある、再び現れた狭い道へ、両者は入っていった。

 

 魔理沙は日光の明るさに目が慣れてしまい、薄暗いその道に入った直後、その明るさのギャップに一瞬目が(くら)む。思わず目を閉じてしまい、すぐさま開けようとするが遅かった。魔理沙はネズミたちの行方を見失ってしまった!

 

「くぅっ! しまったぜ……ネズミ共を見失っちまったぁ〜!」

 

 せっかく見つけたターゲットへの足がかりを失い、困り果てて頭を抱える魔理沙。そして、そこへキラークイーンが到着した。誰もが想像しただろうが、彼は心の中で「何をやっているんだ」という状態であった。

 

「いきなり飛び出して()()か……」

 

「悪い……」

 

「で? 結局何を見つけたんだ? それを訊きに来た」

 

「……大量のネズミさ。変なやつらだったぜ。キチッと並んで走ってやがった! しかもこの路地に入っていったのを見たんだがよぉ〜っ、一瞬で消えちまいやがるし……」

 

「ほぅ……」

 

 魔理沙の言葉を聞き、キラークイーンは視線を地面へと落とす。すると、何かに気が付いたのか、いきなりしゃがみ込んで土の表面を観察しだした。

 

「おいおい、キラークイーン。今、土いじりをしてる(ひま)はねぇーぜ!」

 

「"足跡"だ」

 

「は?」

 

「足跡が消えている。君の言う通り、確かにネズミ共はこの路地に入った。しかし、足跡が途中で途切れている」

 

「な、何だって? すると……()()()()()()()()?」

 

「"バックトラック"だ。ネズミもやるとは思わなかったが……それに、「列を組んで走った」と言ったか? コダマネズミ(ターゲット)()()()()のか……配下のネズミに!」

 

 バックトラック。

 それは、野生動物が肉食獣や狩人(ハンターたち)を撒くため、自分の足跡を踏んで後退し、どこか適当な場所で木や葉、岩などに飛び移って追跡を(まぬが)れる手法。

 ()()()()()()()という例は、空条承太郎(くうじょうじょうたろう)及び東方仗助(ひがしかたじょうすけ)が遭遇した「虫喰い」という非公式なものを含めても二例目である。ただでさえ、先例が無く、かつここまで素早い実行……キラークイーンは、()()()()()()ネズミたちのこの行動はコダマネズミによって仕込まれたと考えたのだ。

 キラークイーンの解説を聞きながら、魔理沙がふと通りの先に目を向けると、なんとそこには先程のネズミたちがキラークイーンたちをギラギラと不気味に光る目で見つめていた。

 

「なっ……さっきのネズミ共ッ!」

 

 魔理沙は一度降りた箒に再び飛び乗ると、数十匹集まったネズミの群れに突進しようとした。が、キラークイーンがそれを阻む。彼の左腕が魔理沙の首をガッシリと掴んでいた。

 

「うげぇっ! は、離せよ、キラークイーン!」

 

「やつらは追うな。あそこまで訓練されているのなら、深追いするのはかえって危険だ。罠に誘われるか、ターゲットの位置から遠ざけられるかのどちらかだ……」

 

「うっ……くそっ」

 

 キラークイーンが手を離すと、嘲笑(あざわら)うように鳴き声を漏らすネズミ共を、魔理沙は恨めしく(にら)んだ。

 再び()()()()へと戻ってしまった2人。魔理沙は肩を落とし、キラークイーンもその場でこれからどうするかを考える。すると、

 

ドッ パァァーーーーン!

 

 

「! 何だ? この音はっ」

 

「キラークイーン、見ろ! 東の空だ! あれは……私がハイエロファントに預けた弾幕のッ!?」

 

 轟音とともに、東の空で閃光が走った。太陽は既に出ているというのに、その明るさや、撃ち出されたその様子はまるで夜の打ち上げ花火。そしてこれは、「ターゲットの発見」を意味していた!

 

「急げ、キラークイーン! あそこでハイエロファントが例のネズミを見つけたんだ! ハイエロファント……無事でいてくれよぉ〜っ!」

 

 魔理沙は再び先行し、弾幕が光った地点を目指して箒を加速させる。キラークイーンも、ターゲットを今度こそ確実に始末するため、拳を握りしめて駆け出した。

 

 

____________________

 

 

「ハァ……ハァ……これはッ」

 

 現場に駆けつけた魔理沙は、そこに広がる惨劇に絶句した。9m×9mのスペース、それを取り囲む壁には血や肉片、コダマネズミの餌食となったのか、ドロドロに溶けた肉塊がへばりついており、地面も同様であった。

 何より、魔理沙の目についたのは、見たことのある色をした流動体が、水たまりのように(くぼ)んだ場所に鎮座していた。

 

「み、緑色……嘘だろ……ハイエロファントォ!?」

 

 箒を投げ捨て、緑色の水たまりに駆け寄る。手を置いて揺さぶろうとするが、すでに固くなっていた。元々人肌並みの温度もなかったが、朝の風にさらされて棚の奥に数日しまわれた金属ボウルのように冷たい。

 

「あ……あぁ……ちくしょう……チクショオォーーッ!」

 

 うずくまって絶叫する魔理沙……それを狙う一つの影が、屋根にあった。日光に照らされ、鈍く輝く砲身は次なる標的をスコープに定める。

 

「……知ってるんだぜ……コダマネズミ……()()がお前の仕掛けた罠(狩場)だってことはなァ!!」

 

 

ボン ボン! ドシュゥゥ〜〜ッ!

 

 

 魔理沙は自分を狙うコダマネズミの存在には、既に気付いていた。長年の勘か、それとも仲間を殺された恨みが精神力を爆発的に成長させたのか……狙いを定めるコダマネズミへ、振り返りざまに弾幕を浴びせる!

 

「ギギィ……チチ……!」

 

 思わぬ反撃に砲身を引っ込めたコダマネズミは、屋根の(かわら)を蹴落としながら弾幕を避ける。しかし、2、3発程度では魔理沙の怒りはおさまらない。次なる攻撃のため、帽子から、ポケットから、(えり)の中から、アイテムを次々と出して弾幕をお見舞いする。

 

「このド畜生がァーーーーッ」

 

 魔理沙の攻撃は止むことはないが、冷静さを欠いている故に()を外したり、弾幕の威力にムラがあった。コダマネズミは、大きく強力な弾幕避け、小さく弱い弾幕は撃ち落とすなどし、両者の殺し合いは弾幕戦へと発展した……と、思ったのもつかの間。

 

「ッ!? (イデ)ッ」

 

 魔理沙の左脚に痛みが走った。冷静さの無さ故に、自分の体に当ててしまったのか? いいや、そんなはずはない。では、この痛みは何なのか。

 脚を見下ろした魔理沙が目にしたのは、強靭(きょうじん)な歯でふくらはぎに喰らいつくネズミ! しかも1匹どころか、家々の窓やスペースの入り口からどんどんネズミの波が押し寄せてくるではないか。

 

「こ、こいつらぁ〜〜っ!」

 

 ネズミたちは次々と魔理沙の体に喰らいつく。ネズミは齧歯類(げっしるい)に分類される動物であり、発達した前歯によって何でもかんでも噛み砕くことができるのだ。電気ケーブルや家の壁にも穴を空けるその歯に噛まれるのは、絶対に想像したくない。しかし、魔理沙はその激痛を今、その身で体感しているのだ!

 

「うぐぅ! くそッ、離れねぇーかっ」

 

 ネズミたちは腕まで登ってきた。魔理沙は弾幕で追い払うことも考えたが、待っているのは自爆による死、もしくは再起不能の重体。かと言って、少女である彼女はパワーでネズミたちを振り払うこともできない。ほぼ「詰み」の状態である。

 そして、ようやく攻撃が止んだことをいいことに、コダマネズミは「ラット」の照準を魔理沙に合わせた。ネズミに群がられる魔理沙も、その様子を確かに目撃したが、もはやコダマネズミの攻撃を防ぐ体力も手段もない。

 

「く……くそぉ……っ」

 

「ギッシャアアアァァーーーーッ!」

 

 コダマネズミは雄叫びを上げ、魔理沙は敗北に感嘆する。そして、ラットの砲口がついに火を噴いた。

 

ドドドドドドドドドドドド!!

 

 

 

 魔理沙はその光景を確かに目にし、「もうダメか」と死を覚悟して目を閉じた。

 しかし、魔理沙の意識が失われることはなかった。既に放たれた弾丸が魔理沙に届くこともなかった。届いたのは、ガラン!と地面に金属か何かが落ちた音だけ。不思議に思った魔理沙は目を開いてコダマネズミが立つ屋根に注目する。

 なんと、そこにはコダマネズミが放ったはずの弾丸が撃ち込まれていた! 魔理沙の頭の中は一瞬「?」で埋め尽くされたが、答えはすぐ明らかとなる。

 

「今日だけで2回目だ。『よかったな、私がいて』」

 

「キラー……クイーン……」

 

 狩場の入り口から、キラークイーンが姿を現した。

 魔理沙にラットの弾丸が届かなかったのは、彼の仕業である。先程魔理沙が耳にした、「金属の何かが落ちた音」というのは、キラークイーンが投げた鉄鍋が発生源だった。鍋の底は丸く窪んでおり、先の(とが)った弾丸が当たれば反対方向へ反射してしまうのだ。

 

「やれやれ……君は法皇の緑(ハイエロファントグリーン)とは()()()()()()()0()で相性が良いかもしれないが、私とは相性最悪だな。下手に動かず、君はもう下がっていろ……」

 

「あ……だけど……えっ」

 

 キラークイーンに言われたようにしようとするが、自分の体にはまだネズミが貼り付いている……と思っていた魔理沙。しかし、気付けばネズミはもういないではないか。辺りを見回すと、木箱の裏や窓の格子の陰に隠れ、キラークイーンを見て怯えている……?

 肝心の本人はというと……目を見開き、体中からドス黒いオーラがあふれ出ていた。

 

「キラークイーン……」

 

「さて、コダマネズミ。ようやく真打の登場だ。私を倒せば、怖いものは何も無くなり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「クルル……」

 

「まぁ、私が()()()()()()()()がね」

 

「ギッギャァーーッ」

 

 キラークイーンの言葉が終わると、コダマネズミはもうひと叫びする。すると、ワンテンポ遅れて隠れたネズミたちが一斉にキラークイーンへ飛びかかった。魔理沙と同じように、全身をかじって身動きを取れなくさせるつもりまろう。

 しかし、こんな拘束はキラークイーンにとってお粗末極まりないことである。

 

「しばッ!」

 

ド バ バ バ バ バ

 

 

 キラークイーンのラッシュが、飛びかかるネズミたちを殴り、引き裂き、叩き落とす。

 キラークイーンのこの圧倒的戦力に恐れをなしたのか、後方に控えたネズミたちは二の足を踏んでたじろいだ。その様子を眺めてキラークイーンは不敵に笑みを浮かべる。

 

「フフ。『教え込む』というのは、必ずしも利益だけを生むわけじゃあない……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からなぁ〜〜」

 

「キキキ……ッ!」

 

 キラークイーンの煽りに、歯軋(はぎし)りするように鳴き声を上げるコダマネズミ。しかし、配下のネズミ共を封じられたからといってコダマネズミは白旗を揚げることはない。他がダメなら自分の番だ。ラットの標準がキラークイーンの顔面に合わせられる……

 

ドドドゥン!  ドシュゥゥン

 

 

 しかし、いくら弾丸といえども本物のライフル銃で撃ったような速度で飛びはしない。キラークイーンは余裕をもって弾丸を避け、壁際に転がっている鍋を拾うと、再び撃ち込まれる第2撃の弾丸をはね返す!

 

「ウシャアアァーーッ!」

 

 はね返された弾丸はコダマネズミの脳天めがけて飛んで行く。だが、こちらも見切れない動きではなかった。飛んでくる弾丸に、さらにラットで撃ち出した弾丸を直撃させて撃ち落とす。

 この攻防は長きにわたって繰り広げられた。飛んでくる毒の弾丸は、隠れているネズミの脳天を撃ち抜いたり、魔理沙の頬をギリギリ避けて行ったりと、この戦場はまさに、近付いたら確実に死ぬであろう地獄絵図。

 

「それでスタンドを使いこなせているつもりか? ()()()()()()()()()()()()()()だけがスタンドの機能ではないんだぞ。お前はスタンドを「撃つ」ことだけにしか使ってないな」

 

 弾丸を(はじ)いた鍋を掴んでいるキラークイーンの左手は、右手にしているコテとは違う形をしていた。クレーターや露天掘りのように窪んで……まるで、そこには元々何かが()()()()()()ような…………

 コダマネズミはこの異変に、()()()()()()()()

 

______あの左手からは確か、自分を追ってくるやつが……

 

 気付いた時にはもう遅い。

 コダマネズミは自身の背後をゆっくりと振り返った。

 

ギャル ギャル ギャル 

 

コッチヲ見ロッ!

 

 第2の爆弾『シアーハートアタック』!

 コダマネズミはその存在に気付き、反射的に飛び退いてしまう。が、それがかえって(あだ)となった。シアーハートアタックの爆発によってコダマネズミの巨体は空中へ放り出される。スタンド(ラット)を持っていようとも、身動きをまともに取れない空中では無力!

 キラークイーンは()()()()()

 

「キラークイーンッ、上だ! やれェーーッ!」

 

「フン」

 

ドゴ ドゴ ボゴ バゴ ドゴ ボゴ バゴ ドゴ ドゴ バゴ ボゴ ボゴ ドゴ ドゴ ボゴ ボゴ ドゴ ドゴ ドゴ ドゴ バゴ ボゴ ドゴ ドゴ 

 

ド メ シ ャ ア ァ ! !

 

 

 キラークイーンのラッシュがコダマネズミの肉体に直接叩き込まれた! 強靭な拳を数十発受けたコダマネズミの体には、たこ焼きを焼くための鉄板のように無数の窪みが形成され、見ているだけでこちらが痛くなってくるほど。しかも、そのトドメと言わんばかりに殴りつけられた下顎は、頬がちぎれて完全に頭部から分離していた。仮にキラークイーンと魔理沙をこの場で始末したとしても、絶命は間近であろう。そんな展開は訪れないが。

 

「グ……ギ…………」

 

「フゥ〜〜……そんな物騒なモノも……没収だ」

 

メキ メキ……バキイィッ!

 

 力無く地面に墜落するコダマネズミだったが、滞空したままキラークイーンに捕まり、背中に埋まった2つのラットをついに破壊された。パワーにモノを言わせて、両手で掴んで横方向へへし折ったのだ。クリームであればできるかもしれないが、ハイエロファントではまず無理だろう。

 破壊されたラットはシューーッと音を立てて、徐々に消滅し始める。コダマネズミの方も完全に再起不能の状態だ。ピクピクと痙攣(けいれん)しながら地面に横たわる。

 

「さて……長かった逃亡劇も、これにて終了だな。死骸(しがい)すらも(のこ)さない。キラークイーン第1の爆弾!」

 

 コダマネズミに完全なるトドメをさすため、エネルギーを込められた手刀で()()()()()()()と、キラークイーンは下顎がちぎれ飛んだ頭を狙う。すると、コダマネズミの痙攣が……さらに速く、大きく、傷んだその全身に伝わっていくではないか!

 何かに気付いた魔理沙はキラークイーンに叫んだ。

 

「キラークイーン! そいつから離れろッ、コダマネズミは自爆するんだァーーッ!」

 

「な……何だとっ……これは……」

 

 

ドッパアアァーーーーンッ!

 

 一瞬コダマネズミの体が光り輝いたかと思ったら、次の瞬間には派手に血しぶき、肉片をまき散らして自爆していた。そもそも不潔な生物ではあるが、死体が爆発した付近では腐敗臭に似た異臭が漂い、血を浴びたキラークイーンの体……左半身はラットで撃たれたほどではないにしろ、ドロリと溶けかけていた。

 

「う……ぐ……こんな……ひどいことが……」

 

 キラークイーンはフラつきながら恨み節を吐き、ドサッと座り込んでしまった。激闘を制したキラークイーンの様子を見て、魔理沙は右手で鼻を覆いながらキラークイーンに駆け寄った。

 

「おい、大丈夫か? キラークイーン!? ありがとう……いろいろ……面倒かけちまったりよぉ……」

 

 キラークイーンの右側にまわり込み、肩を担ぎながら礼を言う魔理沙。しかし、その途中で涙があふれ、言葉が途切れ気味になってしまう。ハイエロファントが死んだ。1ヶ月ほどともに生活して、共に戦いもした。今ではかけがえのない友人となっていたのに……最期は(はかな)く……

 

「何を泣いて……いるのか……理解できない……イカれてるのか? この状況で……」

 

「……なんだと……」

 

 キラークイーンの言葉が魔理沙の怒りに火を点けた。いや、ハイエロファントはコダマネズミのせいで死に、その怒りに上乗せされたと考えれば、油を注がれたことになる。

 プッツンした魔理沙の右手に力が入り、キラークイーンの右手首を締め付けるが、彼の顔を見る限りどうってことはないらしい。

 

「……スタンドは……死ねば消滅する……そこの緑……色の水たまりは……ハイエロファントの一部だろう……え? 違うか?」

 

 キラークイーンは問いかけるが、それは魔理沙に放たれたものではない。彼の目は狩場を囲む家の1つを見つめていた。

 すると、ズルズルと音を立て、何かの手が窓の格子を掴んだ。その手の色は緑色。間違いない。

 

「ハ……ハイエロファントォ!!」

 

「やぁ……魔理沙……キラークイーンの言う通り、穴から出したのは僕の触手の一部だ……君にもらった筒も一緒に出して、攻撃を受けた瞬間に開けた。フゥ〜〜……そして、その通りに触手は溶けてしまって……切断するのに苦労していたんだ……」

 

 ハイエロファントは魔理沙たちに顛末(てんまつ)を語ると、魔理沙の箒に乗せられ、コダマネズミの狩場を後にした。

 

 

____________________

 

 

 魔理沙はハイエロファントたちを回復させるため、彗音のいる寺子屋へと向かう。が、狩場から寺子屋まではかなりの距離があった。たった1人で大人2人分のものを運ぶのは厳しい。

 しかも、運ぶ以前の問題があった。

 

「み、みんな……」

 

「魔理沙……その2人を……どうするつもりだ? 一体、どこへ連れて行くんだ?」

 

 狩場から出てきた魔理沙たちの前に立ち塞がったのは、人里の人間たちだった。30人近くいる。大方、自爆したコダマネズミが発した異臭を追ってやって来たのだろう。

 

「お前らこそ……何のつもりだ」

 

「悲劇はここで終わらせる」

「その2人を渡すんだ。魔理沙」

「これが人里のためなのだ」

 

 やはり、住民たちの意見は先日と全く同じもの。魔理沙は心の底から落胆した。自分たちが守られたというのに、力を持った者は消し去り、偽りの平和を求め続ける。

 だが、にじり寄る住人たちは草刈り鎌や(くわ)などを武器にしており、満身創痍のハイエロファントやキラークイーンも、()()()()で応戦するのは厳しいのが現実。魔理沙も2人を抱えて飛ぶことはできない。

 

「…………」

(半身が溶けた状態でこいつらの相手をするのは……骨が折れる……やるしかないか……最悪、この2人はどうなってもいい…………()()()……発現させるしか……!)

 

 何かを心で決めたキラークイーンは、キッと人間たちを睨みつける。思わず怯んだ人間たちは、キラークイーンの目から注目の意識をそらせない。その間に、キラークイーンの右手は親指以外を折り畳み、その親指は()()()()()()()()()()()()()ゆっくりと曲げられていく……

 だが、次の瞬間、魔理沙が叫んだ。

 

「お前ら、恥ずかしくねぇのかッ。命懸けで守られといて、その恩人を殺すだァ!? 大概にしろよ、コラァ! お前ら、()()()にされる側になったことあんのか。()()()()()()()()()()は想像できてもよォーーッ、()()()()()()()()は分かんねぇだろ! それでもこの2人はボロボロになりながら戦ってくれた……礼の1つも言えねぇーーのかッ! ガッカリだぜッ!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 キラークイーン、ハイエロファント、そして人里の住人たちは黙って聴いていた。

 魔理沙は感情的な人間である。そのため、敵の口車に乗せられたり、煽りを素直に受け取って暴走することがよくある。感情的になって周りが見えなくなり、ピンチに(おちい)るだなんて決定的な弱点だ。しかし、ハイエロファントは魔理沙のことを嫌いになったことは一度もない。確かに、共に過ごしてきた時間はかなり短い。だが、魔理沙には優しさがある。ハイエロファントはそれを理解していた。友人のために怒れるし、友人のために体も張れる。友人を(けな)した人里の人間だって、見捨てることはできなかった。ハイエロファントは魔理沙のその部分に惹かれていたのだ。

 

 すさまじい剣幕で怒鳴った魔理沙は息が上がり、肩が大きく上下する。キラークイーンは既に()()を止めていた。

 魔理沙の叫びを聞いた人里の人間たちは、それでも心に響かなかったのか、表情をピクリとも動かさない。魔理沙はその様子を見て、眉間(みけん)にさらにシワを加える。

 すると次の瞬間、人々は一斉に地面に膝をつき、土下座をした!

 

「な……ん……?」

 

「…………」

 

「……魔理沙、お前の言ったことは正しい……俺たちは……御二方に謝罪しに来た……!」

 

 人々の群れの、1番先頭にいた男が代表して口を開いた。

 

「子供たちが……見ていたんだ。大量のネズミを好奇心で追っていったら、アンタたちが戦っているのを見たって……」

「謝って(ゆる)されることではないのは分かってる……! だが、これで2度目だ……いい加減にしなきゃいけないのは、彗音さんにも言われたし、魔理沙、お前が言っていた通りなんだ…………俺たちは弱いから……」

「この通りっ! せめて謝罪だけでもお聞きになってください!」

 

 人間たちは口々に言い始める。これでも、人里の全員の心ではないのだが、確かに心を入れ替えた人間は多く存在するようだ。ここまでいるなら……もうハイエロファントたちがどうにかされる心配はないだろう。

 魔理沙も少し恥じながら先程の怒鳴りを反省した。

 

 

 

 この後、ハイエロファントとキラークイーンは人里の人々の謝罪を1人ずつ聞き、療養のために寺子屋に到着したのは午後2時だった。あの場で謝罪しに来た人間の数からして、人里内でのスタンドの見方が変わるのは、遅かろうとも確実である。魔理沙もハイエロファントが認められたことに心から喜んだ。と同時に、スタンドの存在を幻想郷に広めた発端となった「文々。新聞」の射命丸に対し、「スタンドへのイメージに誤解を生んだ」として責任を追及しようと思った魔理沙なのであった。

 

 

____________________

 

 

「ふんふふ〜〜ん。化け物ネズミも倒して、これで安心! 今夜からゆっくり寝られるわ〜」

 

 コダマネズミの討伐した当日、その午後10時。1人、自宅に帰ってきた若い女性。戸を開け、屋内に入ると、囲炉裏(いろり)(まき)に火をつける。ボウッと少し明るくなったところで、行燈(あんどん)にも火をつけ、部屋全体を明るく照らす。気分も良く、布団を()こうと部屋の奥へ目を向けると、

 

「やぁ、ずいぶんと遅いお帰りだったじゃあないか……」

 

「え……あ……キャアァッ!」

 

カチッ 

 

 

 姿を現したのは、キラークイーン。戸締りはしっかりしていたはずなのに、どうやって中に入ったのだ? 女性の頭の中はそのことでいっぱいとなるも、そんな思考も一緒に()()()()()()()。そして、キラークイーンの右手の中には、白く、細く、ツヤとハリのある女の手が。

 

「フフフ……私の正体を知る者は誰1人として存在しない……探ることもできない…………真の平穏を手にしたのは、私だったな。クククク……」

 

 

 




無事、ハッピーエンドですね。



ついにネズミ共との決着をつけたキラークイーンたち。
これで激しい戦闘は終わり、もとの静かな日々が戻るかと思いきや、今度は取材に連れていかれる?
お楽しみに!

to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
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