幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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29.La muffa cresce 死の媒介者

 博霊神社に東風谷早苗が来訪して2日。幻想郷はいつものように(さわ)やかな朝を迎えていた。

 いつもと同じように7時前に起きた霊夢は、境内に散乱する落ち葉を集め、縁側で陽を浴びる。朝の冷たい風が頬を打ち、温かい日光を感じるこのルーティーンは、現代で言うクーラーに毛布のような、自然を活かした贅沢(ぜいたく)だった。

 霊夢は縁側でくつろいでいると、ヒラヒラと舞うキタテハを見つけた。右に左に、前に後ろに、上に下に、まるで風に舞う羽毛のようだ。

 

「虫はいいわねぇ。呑気(のんき)にしてても誰も文句を言わないんだから」

 

 そう言って霊夢はチラリと目を逸らす。

 今朝は霧が発生しているのか、風景全体が(かす)みがかっていた。じきに寒くなるのか、と霊夢は内心ため息をつく。

 そんなところで、霊夢は視線を戻した。目前にはまだキタテハが舞っているだろう。そう思っていた。思って()()のだ。

 

「……!」

 

 キタテハは消えていた。

 どこへ行ったのかと、霊夢は辺りを見回してみる。すると、先程までキタテハが飛んでいた地点、その石畳の上にコロリとひっくり返っているではないか。

 キタテハの様子をよく見ようと霊夢は縁側から尻を浮かせ、その蝶々のところまで歩き、様子を見た。彼女はあることに気付く。

 

「! これは……コケ? いや……カビ?」

 

 地に落ちたキタテハの体には、コケかカビのような緑色の物体が(ころも)のようにして纏わり付いている。体の半分をそれに覆われたキタテハは既に絶命していた。

 

 

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時を同じくして、「迷いの竹林」。

 

 

ズ ボ ォ オ ッ

 

 

「うわぁ!!」

 

 ドシン! と音を立てて(うさぎ)の少年が落とし穴に落ちた。月の異変の後、兎たちは竹林の中の道を整備する仕事をしているのだが、こんなもの、誰が作ったのか? 犯人は同じく兎の少女、てゐが掘ったものだった。

 

「あちゃ〜……鈴仙を引っかけようと思ってたのに……大丈夫〜? ……きゃぁああああッ!!」

 

 てゐの悲鳴が竹林中に木霊した。同胞が落ちた落とし穴を覗き込んだ彼女は、体から血の気が無くなるのを感じたと言う。

 穴に落ちた同胞の体からは大量のカビと思しきものが発生し、肉をグズグズに溶かしていた。元の人型の原型は保たれていなかった。

 

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 続いて、「霧の湖」。

 

 

 スタンド、「(ストレングス)」を遊び場にした妖精たちが、何やら新しい遊びを行おうとしているところであった。

 

「よぉーーし! かんちゅーすいえいやるぞーー! 一緒にやるやつは集まれぇ〜〜いっ」

 

「まだギリギリ「寒中」じゃあないと思うよ」

 

 水色の髪に青いリボンと服を着た氷の妖精、チルノが人差し指を天に向けて仲間たちを呼び寄せる。チルノにツッコミをする妖精や、少女である彼女よりも幼く見える妖精、多種多様な妖精たちがあちこちから集まってきた。20人近く集ったところで、秋の湖で水泳をすることとなり、全員でその準備を始める。

 力を合わせ、船の形をしているストレングスの船首に飛び込み台を置き、台が向く先にガラクタで作ったゴールをセッティングする。

 

「よぉし、まずは私からよ」

 

「次はアタイね。アタイは水泳においても()()()()()になってやるんだからね。吠え面かかせてやるわ!」

 

 順番を決め、ストレングスの船首から、1人の妖精が湖に飛び込んだ!

 それに続いてチルノも水中に飛び込もうとするが、異変に気付く。先に飛び込んだ妖精の着水音が聴こえなかったのだ。

 

「あ〜〜っ! 水に入ってないなぁ? アタイの耳を誤魔化そうたって、そうはいかないわ。もしや、飛んでゴールまで行こうって魂胆(こんたん)ね!」

 

 「バレバレだぞ!」とチルノと待機する他の妖精たちは、先手の妖精が飛び込んだ水面を覗く。ストレングスの船体、そして水面には、カビかコケのような緑色の物体がこびり付き、漂っていた。

 

 

___________________

 

 

 そして人里。

 

 

「ん〜ん〜……今日も良い一日が迎えられそうだァ」

 

 ある男が通りを歩いていた。彼は37歳無職独身の柳之介(りゅうのすけ)という男だ。親から貰った少々の金を食い潰し、小道に落ちてる銭や物乞いで生計を立てている。

 そして彼、今は服の中にある物を隠し持っていた。とても綺麗な手鏡である。手入れがされ、傷もほとんど無い手鏡。柳之介はそれを売り捌こうと目論んでおり、それ故に上機嫌だった。

 

「グフフフ。こいつぁ、かなり良い値で売れると見たぜ。問題はどこで売るかなんだよなぁ〜〜。一番高い値で買ってくれるとこはどこなんだろーな〜〜……この手鏡をよ〜〜……」

 

 胸元から手鏡を取り出そうと、(えり)の中に手を伸ばし、柄を掴んで引っ張った。スルリと鏡は顔を出すが、調子に乗って勢いよく出してしまい、手鏡が手から滑り落ちてしまった。柳之介は一瞬肝を冷やしたが、鏡面に傷が付くことなく、仰向けとなって落下する。

 

「っとぉ〜〜ッ! あ、危ねぇ危ねぇ……上物をドブに捨てるとこだったぜ……早めに売り飛ばすか……」

 

 そうして柳之介は地面に落ちた手鏡を拾うため、腰を曲げて頭から覆い被さるように屈み込んだ。

 するとどうだ。金に目がくらんだ男の視界は、ウゾウゾとうごめく何かによって(さえぎ)られていくではないか。

 

「お、おぉおおぉお〜〜〜〜……? 前が……見え……み……み、みみ……ぶへぉああ〜〜〜〜…………」

 

「え? ひッ、キャアアアアアアァァァッ!!!」

 

 柳之介の近くにいた通行人の女性が甲高い悲鳴を上げた。彼女の前には、男の下半身が立っていたのだ!

 その上に上半身は無く、下半身の足元にはカビのような緑色の物体の山が積もっている。物体と物体の間からは、日光が反射して(みにく)い物から目を離してしまうようになっていたのがせめてもの救い……なのだろうか。

 

 

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「こ、これは……ッ!?」

 

 場所は博霊神社に戻る。

 キタテハに起こった現象を「異常」と見なした霊夢。その後、彼女の頭上からは数羽の鳥がカビに侵されて墜落してきた。何が起こっているのか? 

 彼女は神社の鳥居から、幻想郷全体を見下ろした。目にしたのは緑の霧。いや、魔法の森に飛び交う胞子に似たものだった! 緑色のそれらは竹林を、人里を、紅魔館付近を、あらゆる土地を飲み込んでいた。

 

「幻想郷中に……これは……胞子? 何かが飛んでる……何が起こってるの?」

 

 霊夢はふと、妖怪の山に目を向ける。彼女の視界には驚きの光景が広がっていた。

 山が緑色だったのだ。木々の葉によって染められた色ではない。山を包むドームのように、夏の積乱雲のように、緑色の胞子が妖怪の山を飲み込んでいたのだ。ここで彼女の頭にスティッキィ・フィンガーズの言葉が(よみがえ)る。

 

『あの山からとてつもない邪悪を…………』

 

「まさか……守矢神社……!?」

 

 こんな現象を引き起こせる者は、幻想郷にはいないはずだ。ならば、新たにこの地にやって来た守矢の勢力が怪しい。妖怪か、スタンドか、それとも早苗が言っていた"神"とやらか。とにかく、こんな異変は野放しにすることはできない。

 霊夢は異変を解決するべく、死のカーテンに包まれた「妖怪の山」へと向かった。

 

 

____________________

 

 

「これは!? 何が起こっているんだッ!?」

 

 人里も大混乱に陥っていた。人々の体からカビが発生し、その部位の肉が腐っていく。腕が朽ちてちぎれた者、顔面をカビに覆われた者、下半身と上半身が分離しても生きている者、まさに阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄。

 慧音は人々の混乱を抑えようとはするが、いきなり自身の体が腐り始めて焦らない人間などいない。それは慧音も同じである。彼女も右手の指先にカビが生え始めていた。

 

「慧音、無事かッ!?」

 

「ス、スティッキィ・フィンガーズ……!」

 

 通りの奥からスティッキィ・フィンガーズが走り込んできた。慧音の元までやって来ると、肩を押さえて落ち着くよう言い聞かせる。

 

「慧音、決して慌てるな。無闇に動けば"能力"を受けるぞ」

 

「こ、これは何だ!? 幻想郷に何が起こってる?」

 

「……スタンド攻撃だ」

 

「何……ッ!?」

 

 S・フィンガーズは知っている。このカビの正体を。ばら撒く者が何者かを。

 それは、かつて相対したギャング組織の追手のスタンド能力だった。ローマにて、最後に立ち塞がった者の内の一人であり、本体であるブチャラティは直接戦っていないが、仲間が始末したことは知っている。

 まさか、こいつも幻想郷に来るとは…………

 

「いいか? 絶対に()()()()()。下ってしまえば、そこからカビが発生する。カビはやがて全身を飲み込み、腐れ落ちるぞ」

 

「これも……スタンドの力だと言うのか……」

 

「……スタンドは本体の無意識の才能と言ってもいい。心の中に罪悪感があれば、無意識に()()()()()()()()。だがやつは……ヘリの男は……「残酷さ」を楽しみ、生き甲斐にしていた……だから()()()()なのだ。カビを止めるには、カビを生み出すスタンドを直接叩くしかないッ!」

 

「…………話は……聞かせてもらった」

 

『!』

 

 S・フィンガーズの話が終わると同時に、2人の間に割り込む者が現れた。慧音とS・フィンガーズは同時に振り返る。そこにいたのは、キラークイーンだった。走って来たS・フィンガーズと同じく、彼からカビは出ていなかった。

 

「警戒して、あまり動かなかったのが良かったな……恐ろしいスタンドがいたものだ」

 

「キラークイーン……」

 

「……キラークイーン。俺は今からカビのスタンドを倒しに行くつもりだ。一緒に……来てくれないか? あんたの力が必要になるかもしれない」

 

「……!」

 

 キラークイーンと彗音にとって予想外の提案だった。彗音は思わずキラークイーンを横目で見る。彼はS・フィンガーズを黙って見つめるだけだ。

 S・フィンガーズも無理に、とは思っていない。彼が嫌がるのなら、自分一人で行くつもりだ。そして、キラークイーンの答えは……

 

「……わざわざ、自分の命を捨てに行くものだろう? 誰だって君みたいに、他人のために動けるわけじゃあない。対処法が分かっているなら、尚更自分の身を守るものだ……」

 

「…………!」

 

 答えはNOと見た。想像通りだ。そもそもキラークイーンは誰かのために戦う、という心など持ち合わせてはいない。自分のために戦うだけだ。しかし、S・フィンガーズはそれを悪いとは思っていない。自分の力を自分に使い、生き延びることなんて誰だってするし、()()()()()()()

 S・フィンガーが(ゆる)せないのは、自分のために他人を利用し、踏みつける者である。

 

「……分かった。なら、俺は今から「妖怪の山」とやらへ向かう。せめて、慧音と共に人里の人間たちに対処法を教えてやってくれ」

 

 そう言うと、S・フィンガーズは2人に背を向けて走り出した。眼前にそびえ立つ山目掛けて。

 走る通りの脇へ目を向けると、苦しむ人々が家の前で助けを求めている。動かない家内を抱きしめ、泣く者もいる。

 この世の全ての人間を助けようなどと、決してそんなことは思わない。S・フィンガーズはただ、赦すことができない(邪悪)を打ち砕くだけだ。

 

「もしもの話だ」

 

「ッ!!」

 

 突如、走るS・フィンガーズの背に語り掛ける者が現れた。かなりのスピードで走っているが、それに追いつける者などそういないはずだ。

 振り返ってみれば、走ってきていたのはキラークイーンだと分かる。

 

「もしも、君が敗北してしまった場合、この世界にカビの弱点を知る者はいなくなる。気付く者はいるだろうが、そいつが敵スタンドを倒すまでに、人里が無事でいられるかな?」

 

「…………」

 

「保証はない。私も、人間たちの"流れ"の中で生活している。それが脅かされるなら、いいだろう。協力してやる。だが、私は生き延びるからな。どんな手を使ってでも、だ」

 

「キラークイーン……」

 

 強力な味方ができた。S・フィンガーズはキラークイーンの能力、そして本性は知らない。知る必要も無いだろう。彼らが結託する理由は……"共通の敵"で十分である。それ以上の詮索(せんさく)と、()()は互いの命を削り合う。

 妖怪の山へ並んで走る2名だったが、その頭上を一つの影が飛び去った。何者かと思って見上げるS・フィンガーズたち。

 

「! あれは……」

 

「霧雨魔理沙か……キラークイーン、俺に考えがある」




チョコラータは結構好きです。


ついに守矢の勢力と激突!
誰が勝って生き延びるのか?
誰が負けて死ぬのか?
お楽しみに!
to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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