幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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30.ゲスい菌①

「何よ……誰もいない……妖怪も、天狗たちまで……」

 

 「妖怪の山」の上空を飛行しながら、守矢神社を目指す霊夢。本来なら、この山には監視役の天狗や、野良の妖怪たちがおり、あの手この手で()()を邪魔される。しかし、今日、彼らの一人も見当たらないのだ。静まり返り、生命を感じない。これもカビの異変が原因だと言うのか?

 

「早く元凶を倒さないと、幻想郷がもっとめちゃくちゃになる! 守矢神社に急がないと……ッ!」

 

 霊夢は飛行速度を上げ、山の上部を目指し続けた。

 

 

____________________

 

 

 飛行し続けて数分、霊夢はカビの胞子が飛んでいない空間へと出てきた。空気が美味しく、近くには鳥居、そして(やしろ)が。霊夢は一目で理解した。ここが守矢神社なのだと。

 

「おや、霊夢さん。お早い訪問で。でも、約束の日は明日のはず……」

 

 霊夢が上空で境内を見下ろしていると、前から彼女へ語り掛ける者が現れた。東風谷早苗だ。そしてその後ろ、もう一つ影が見える。巨大な輪っかの形をしたしめ縄を背中に()()、紫色の髪がトレードマークとなっている女性。ドッシリ構えている彼女も、霊夢を不思議そうに眺めている。

 

「神社が云々(うんぬん)じゃあないわ! アンタら、幻想郷へは信者を増やしに来たんでしょ? 一体何のつもり!?」

 

「……? 一体何のことを……?」

 

 霊夢の言葉に、依然キョトンとした態度を崩さない早苗。霊夢の方も、犯人は分かっていると疑って止まない態度を(ゆる)ませない。

 そんな2人を見かねたのか、いよいよと言った具合で奥に構える女性が話へ割って入ってきた。

 

「お初にお目にかかる、博麗の巫女、博麗霊夢。私はこの神社に祀られる、八坂神奈子(やさかかなこ)。何やら切羽(せっぱ)詰まった様子だが、あなたが何を言っていて、私たちに何を求めているのか……全く分からないのよ。一から説明してくれる?」

 

「……えぇ、いいわ。今、幻想郷ではあらゆる生物を腐敗させるカビが蔓延(まんえん)してんのよ。私はそんな現象を起こせるやつなんか知らないし、ちょっとした知り合いが「妖怪の山(ここ)」が怪しいって言うもんで、アンタらを訪ねてみたってわけ。そうしたら驚くことに、この神社周辺だけはカビが舞っていない! しかも、その主が何も知らないときた。アンタら怪しさMAXなのよ」

 

 霊夢が異変の詳細を語るが、早苗も尋ねてきた神奈子もピンときていない反応をする。

 こんな状況になってしまったら、多くの人は彼女ら2人の身の潔白を疑い始めるだろう。魔理沙であれば、あっという間に信じ込んでしまうに違いない。しかし、霊夢は違う。ちょっとした遊び心で勝負を仕掛けてきた相手も、もれなくコテンパンにしてきた。今までの異変解決で頭に付いた教訓、それは「迷ったら叩きのめせ!」。

 

「まぁ、いいわ。アンタらどっちも倒したら、真相が分かるでしょーよ」

 

「……血の気が盛んなことで……だったら、身の潔白を証明するために、私たちもやるしかないみたいだ……」

 

「神奈子様、ここは私が行きます」

 

 臨戦態勢となった霊夢と同じように神奈子も戦うため、前に出るが、早苗がそれを阻んで霊夢と相対する。彼女の手にも、霊夢と同じような棒が掴まれていた。

 

「博麗霊夢! 私が「神に仕える」とは何なのか、信仰心とは何か、実力を以って知らしめてあげましょう!」

 

「来なさいよ……博麗の巫女が何なのか、思い知らせてやるわ」

 

 生命が事切れていく最中、妖が住む山の中腹で、ついに弾幕戦の幕が開いた。

 

 

____________________

 

 

「ハァ……くそっ、カビの胞子の発生源は絶対ここのはずだ! 元凶はどこだ!?」

 

 胞子が渦巻く山林の中、霧雨魔理沙が箒を飛ばす。彼女もまた、カビの異変を解決せんと乗り出した者だ。

 先程博麗霊夢が通った場所を、魔理沙もまた通過する。そして同じように、他の妖怪の姿を少しも目にすることはなかった。普段より、何倍も恐ろしい山と化してしまった。

 

「ぅおぉ〜〜い……誰かよぉ〜〜〜〜……助けてくれよぉおおぉぉ」

 

「あ……!?」

 

 どこからか、助けを呼ぶ声が響いた。こんな異常事態の中、生きて登山をしているやつなんていないだろう、そう思った魔理沙だが、声が聴こえた方を振り向いて戦慄する。

 なんと、声の主は男の天狗だったのだ。しかし、天狗だと分かったのは()()()であり、彼の顔、体は異形のものへと歪んでいた。カビで朽ち果てているのだ。

 

「お、おい……そこのお前、止まれよぉおお〜〜〜〜。俺もよぉお、上へ連れてってほしいィンだけどさァ〜〜……脚が動かねんだ。どれだけ立ち上がろうとしてもよ〜〜、下半身が()()()()ぉ〜〜」

 

「う……うげぇ…………」

 

 都市伝説、テケテケをご存知だろうか?

 魔理沙の目に映るのはまさに、()()であった。

 

 

____________________

 

 

ボグォオオ〜〜ン!

 

 

 一方、霊夢たち。守矢神社では激しい弾幕戦が繰り広げられていた。早苗がばら撒く青い弾幕の雨を、霊夢が同じく弾幕で撃ち落とす。どちらもまだ全力を出していない。2人とも、余裕の表情が顔に出ていた。

 

「流石は博麗の巫女…………この程度、どうってことなさそうですね!」

 

「フン。私から神社を取ろうとしてるんだから、もっと実力があるかと思ったけど、案外そうでもないらしいわね」

 

「……!」

 

 霊夢の言葉に反応し、早苗の眉がピクリと動いた。彼女の煽りが効いたらしく、眉間にほんの少しのシワが寄り、弾幕のスピードが上がる。

 霊夢はそれらも撃ち落とし、避け、まるでレベルを合わせているようにして早苗を翻弄する。煽られることに対してあまり耐性が無いのか、早苗は出し惜しみしていたように、おもむろにカードをスカートのポケットから引っ張り出すと、宙へ掲げて叫んだ。

 

「奇跡.白昼の客星!!」

 

「! スペル……!」

 

 早苗が叫ぶと、彼女の両脇から細長い弾幕が無数に出現した。それらはスプリンクラーの如く周囲に散布され始め、早苗本人からも球形の弾幕が飛ばされる。

 しかし、霊夢は余裕の表情を崩さない。まだコツを掴んでいないのか、弾幕群の隙間は大きい。霊夢は逆に、弾幕の雨が降りそそぐ、早苗のいる方へと突き進む。

 

「……この程度の大技(スペル)! 避けるなんて容易(たやす)いわ! 真ん中に来る弾だけを撃ち落とし…………て……!?」

 

 だが、霊夢のシナリオ通りに行くことはなかった。早苗の弾幕に混じり、先程まで見られなかった青い弾幕がチラホラと現れ出したのだ。霊夢の頭の中で「?」が浮かび上がるが、犯人はすぐ分かった。神社手前で構える、()()()が強い神の仕業だ。

 

「2対1は卑怯(ひきょう)でしょうが……」

 

「悪いけど、負けるわけにいかない! 早苗、決めるんだ」

 

「はいッ! 秘術.グレイソーマタージ!!」

 

 霊夢が神奈子の弾幕に苦しめられ始めると、早苗は新たなスペルを発動。星型の弾幕群を形成し、あらゆる方向へ、かつ、高い密度で放出する。小さい早苗の弾幕と、それよりも一回り大きな神奈子の弾幕のコンビネーションは、弾幕戦のエキスパートである霊夢を唸らせるほどのものだった。

 追い詰められた霊夢に、いよいよ弾幕の魔の手が迫る!

 

「くっ……しょうがないわね……私にもちょっとだけダメージはあるけど……ッ!!」

 

 霊夢は回避行動を取ろうとはしなかった。逆に、彼女ら2人の弾幕をギリギリまで引きつけ始めたのだ。

 そして当たる直前、霊夢は手に持つ札を弾幕に直撃させ、その爆裂で自分の体を外へと押し出した!

 

 

ド シ ャ ァ ア ア 

 

 

「いっ……痛ァ……ッ」

 

 吹っ飛ばされた霊夢は、守矢神社の境内に墜落した。石畳にかなりの勢いで激突したかに見えたが、そちらのダメージは小さいようで、弾幕の爆裂を防いだ右腕を押さえる。かなりの威力があったようで、霊夢の巫女服の右袖が跡形も無く消し飛んでいた。

 

「今が好機! 霊夢さん! しばらくの間、眠っていてもらいますよッ! カビの異変とやらは私たちが解決します!」

 

「…………くっ……」

 

 早苗は霊夢にトドメを刺すため、手に持つ棒を振り上げて、下方にいる霊夢へと突進した!

 霊夢は後ろから援護する神奈子を警戒しながら、早苗を迎え討とうとするが、思っていたよりもダメージが体にあり、一瞬フラついてしまう。この差が命取りであった。

 

「これで終わ……」

 

 

ズ ゾ ゾ ゾ ゾ 

 

 

「……り…………!?」

 

「なっ……!? カ、カビが!?」

 

「あぁ……アァアァアアアーーーーッ!!」

 

 突如、3人の間に流れる空気が混沌としたものへと変貌した! 霊夢へと急降下した早苗、彼女の顔面からカビが発生したのだ!

 苦しむ彼女はそのまま境内に激突。土埃が晴れると、その中から、左半身をカビに侵された早苗の姿が現れた。

 

「さ、早苗ェェーーーーッ!!?」

 

「こ……こいつらが犯人じゃあなかった……ということは……敵は…………!?」

 

『イイ眺メダ……』

 

『!?』

 

 神奈子が早苗へと走り掛かろうとしたが、その足は止まった。謎の声が聴こえてきたからだ。

 霊夢共々、声の聴こえた方、神社の屋根の上を振り返って見る。そこには、深い緑色をした、明らかに人外だと分かる何者かの姿が。霊夢は直感でこいつが何者かが分かった。

 

「ス……スタンド……!」

 

「ゴ名答。一目見テ分カルトイウコトハ、ヤハリコノ世界ニハ他ニモスタンドガイル、トイウコトカ…………」

 

 緑色をしたスタンドは自身の親指で、軽く顎を触れる。相手の言葉にすかさず思考を張り巡らせる力、相対して分かる。こいつは()()()だ。

 霊夢の言葉と自分の持っていた仮説とを照らし合わせるスタンドに、神奈子が怒鳴る。

 

()()()()()()()!! 何のつもりだ!? お前、まさか裏切ったのかッ!」

 

 神奈子の言葉に、グリーン・ディは首を(かし)げる。彼女の言葉にピンときていないようだ。表情で分かる。心から分からないと思っているようだ。

 しばらく間を置いた後、グリーン・ディは口を開く。

 

「裏切ッタトハ人聞キガ悪イナ…………「好キニシテイイ」ト言ッタノハ八坂神奈子、アンタダロウ?」

 

「何だと……?」

 

「今マデ()()()()()()ヲ扱ッタコトハナカッタカ? ソレニ関シテハ"()()"ノ方ガ上手カッタナ。不満ハ募ッタガ」

 

「…………」

 

「……シリアルキラーに()()()()()()()()()()()()()()()()ってことでしょ…………とどのつまり。アンタの場合は"自由"って言いたいわけ?」

 

「フフフ…………」

 

 グリーン・ディは不気味な笑みを浮かべる。彼の頭部には()がいくつかあり、そこから緑色の胞子を放出しているようだ。今でもブシューーッと"死"へと(いざな)うカビを噴出している。

 苦しむ早苗を横目に、神奈子はグリーン・ディの元へと足を踏み出す。やる気のようだ。

 

「……アンタを簡単に信頼した、全て私の責任だ。早苗は助ける。幻想郷も……アンタを消し飛ばして!」

 

「……ホウ。ソレデ、私ニ向カッテクルノカ。ヤメタ方ガイイト思ウゾ……」

 

「何?」

 

「私ノ左腕ガ()()()()()()、知ッテイルカ?」

 

『!?』

 

 グリーン・ディに言われると、神奈子と霊夢の2人は彼の顔面から、その左腕があるはずの場所を注目する。しかし、()()()左腕は存在していなかった。どこに行ったのか? なぜ、左腕が無いというのに平然としていられるのか?

 彼女らがグリーン・ディの異変に気付くと同時に、「うぐ……」といううめき声と、ズブズブと何かが沈み込むような音が聴こえてきた。発生源は…………

 

「さっ、早苗!?」

 

 倒れている早苗の首筋に、緑色の腕が指を突き立て、今にもかっ切ろうとしていた!

 なぜ腕だけで動けるのか? 断面をカビで覆い、操っているから? 理由は誰にも分からない。

 ただ、分かることは、これは人質だ。自らの欲望、快楽を邪魔しようとする者を牽制(けんせい)するための人質。神奈子も思わず足を止め、グリーン・ディへの攻撃を戸惑ってしまった。

 

「オレニ攻撃シヨウトイウノナラ、コノ小娘ノ命ハナイゾッ!」

 

「くっ……そんな……」

 

「…………」

 

「! オイ、ソコノ紅白ノ女……今、何ヲシヨウトシタ?」

 

 グリーン・ディが神奈子に気を取られている、そう思っていた霊夢はアクションを起こそうとしていた。札を数枚取り出し、グリーン・ディを攻撃しようとしていたのだ。霊夢を振り返った神奈子は「嘘だろう」という表情を浮かべる。霊夢がグリーン・ディを攻撃していたら、それと同時に早苗の首は飛んでいた。

 

「私は博麗の巫女、博麗霊夢。異変解決だとか、何やらかんやらが仕事。アンタを倒すと幻想郷が救われるって言うんなら……いいじゃあないの。ほら、相手するわ」

 

「な、何を言っているんだッ! 博麗霊夢ゥ!!」

 

「…………もしかして、トロッコ問題やったコトない? 信者を増やすために幻想郷に来たんでしょ? 一人を取るか、多数を取るか……」

 

「ッ…………!」

 

 霊夢は既に決めていた。戦うことが仕事なら、私情に流されてはいけない。余計な感情は事態をさらに悪化させ、自らの死をも引き寄せる。

 『感傷』とは心の『スキ間』であり、『弱さ』。いつもは飄々とし、だらけきっている彼女であるが、戦いの中では、誰よりも冷徹になる。守護者としての責務を果たすために。

 

「……イイダロウ。ナラバ来ルトイイ。出来ルダケ()()()! 小娘ヲ殺シタ後、博麗霊夢、オ前モバラバラニシテヤルッ!」

 

「…………!」

 

 グリーン・ディは分離した左腕を、さらに深く、早苗の首へと沈める。グリグリとねじ込まれる度、傷口から血が噴き出している。彼が止めを刺さずとも、放っておけばいずれ死ぬだろう。

 グリーン・ディは笑みを浮かべ、霊夢は札とお祓い棒を持ち直す。霊夢にとって、第2ラウンドのゴングが今…………!

 

 

ボグォオン!

 

 

「! 何ヲ……?」

 

「……!! アンタ……何のつもりッ!?」

 

 突如、青い弾幕が霊夢を襲った。不意打ちだったが、反応速度が速かった霊夢は冷静に対処し、撃ち落とした。

 何者が放ったのか? 犯人は八坂神奈子だ。グリーン・ディに背を向け、彼を守るように、霊夢と相対している。霊夢にはわけが分からなかった。が、それと同時に怒りが湧き上がる。神奈子は早苗を殺させまいと、霊夢と戦うつもりのようだ。

 

「…………ッ!」

 

「ウククク……ソンナニコノ早苗ガ大切カ?」

 

「最悪…………」

 

 霊夢は心からそう思っていた。

 しかし、邪魔するというのなら、幻想郷がカビに蝕まれ続るのなら、倒さなくてはならない。例え、相手が神であろうとも。

 一方、グリーン・ディはこの状況を嬉々として食い付いていた。今までにないほど、興味深い()()()()なのだから。

 

「大切ナモノヲ守ル者と、ソレヲ見捨テテオレニ向カッテクル者……面白イ。実ニ面白イ。ソノママ殺シ合エ! コノ私ニ見セルノダッ! オ前タチノ絶望ノ表情ヲッ!!」

 

『いいや! 絶望するのはお前だッ! このゲス野郎!』

 

「! あ、アンタは……!」

 

 霊夢と神奈子が弾幕戦を繰り広げようとした瞬間、彼女らを取り巻くカビのカーテンに穴が空いた。高速で飛んで来たのは、箒に(またが)った霧雨魔理沙()()()()である。

 

 

 




グリーン・ディ(チョコラータ)の口調はこんなものでいいのでしょうか……
一応読み返しながら書いていますが、一番難しいです。


カビの異変の元凶と相対した霊夢!
しかし、人質を取られたことにより、八坂神奈子とも戦うこととなってしまう。
霧雨魔理沙も駆けつけたが、彼女はどうやってグリーン・ディと戦うというのか!?

お楽しみに!
to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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