幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
そして、次話投稿までの期間、その最長記録を達成しました。
「や、やったっ! ついにカビのスタンドを倒したぞッ」
キラークイーンの爆破によって、グリーン・ディの消滅を確認した魔理沙は歓声を上げる。
霊夢も同じく、グリーン・ディの消滅をしかと目で見た後、降下してみる。すると、その足先からカビが生えることはなかった。山の麓の方を振り返って見てみても、くすんだ緑色のカーテンは消え、先程までの地獄は嘘のようであった。
「……やっと終わったわね……」
「……キラークイーン。手を貸してくれたことに感謝する」
「これからは御免だがね……」
各々が安堵の表情を浮かべている。魔理沙は喜びを噛み締めるような笑顔に。ステッキィ・フィンガーズと霊夢は肩の荷が降りたような、清々しい顔に。そして、キラークイーンもどこかホッとした顔をしていた。珍しいものだが、今は誰も彼に目を向けておらず、目撃者はいなかったのであった。
しかし、彼らの中で、浮かない顔をしている者もいた。八坂神奈子だ。
彼女の表情に気付いた霊夢は、ぐったりしている早苗を抱き抱える神奈子の前に降り立った。
「……その娘、息はあるの?」
「……脈なら…………少し休めば治るでしょうね……」
右腕に乗せた早苗の顔を眺めながら、神奈子は消えるような声で呟く。
神奈子は責任を感じていた。素性を詳しく知らない者を「同志」だと疑いもせず思い込み、簡単に信用したことによって幻想郷の大勢を犠牲にしてしまったこと。霊夢たちの手を
自身の選択は、色々なところで間違っていた。幻想郷に来て浮かれてしまったからか、あるいは、それもこれも全てグリーン・ディの仕業なのか。
だが霊夢は、彼女の胸の内など知ろうとも思わず、淡々とした口調で言葉を紡いだ。
「そう。それで? うちの神社、どうする? 交渉役がこの様だったら、今アンタと話した方が…………」
ボゥン ボゴォォン!
「うぐぅあッ!?」
「くあッ!!」
「な……何が起きた!? ステッキィ・フィンガーズ! キラークイーン!」
霊夢の言葉を遮るように、突如境内に爆発音が響く。
それと同時に、黒い煙を上げながらキラークイーンとS・フィンガーズが石畳の上へ墜落した。
霊夢と神奈子は2人が墜落した地点を振り返り、魔理沙は2人が吹っ飛ばした何かが
「……す、
「やっほう。神奈子。さっきまで離れててね。いまいち状況が分からないのよね」
「……誰?」
諏訪子。彼女の名前は
S・フィンガーズとキラークイーンを吹っ飛ばしたのは、彼女の弾幕。近くにいた魔理沙でも気付かない速度で撃たれのだ。この事実が表すのは、彼女も
未だ立ち昇る土埃を振り払い、砕けた石畳の中から2人が顔を出した。S・フィンガーズは次なる戦いに臨まんとしているのに対し、キラークイーンの顔は怒りに満ちていた。全身からも、ドス黒いオーラが見え隠れしている。
「……クソガキが……ッ」
「待て、キラークイーン!」
「……もしかして、その2人が早苗をやったのかな? グリーン・ディの姿も見えないし」
怒りに震えるキラークイーンを、S・フィンガーズが必死に抑える。先手必勝とはよく言うが、感情に任せて突っ込むのは悪手だ。
と、スタンド2人にスポットを当てているが、感情に流されていたのは諏訪子も同じである。帰って来てすぐに目にしたのは、傷付いた身内の人間。近くには知らぬ者。傷付いた者が大切であればある程、想像は悪い方へと膨らんでいくものだ。
「……いや、諏訪子。早苗をこんな目に合わせたのはグリーン・ディよ。その2人はあいつを倒してくれた」
「……!」
「そういうわけだ! いきなり弾幕撃ちやがってッ!」
神奈子の言葉を聞き、諏訪子の眉がピクリと上がる。
彼女もグリーン・ディの正体には全く気付かずにいたようだ。怒る魔理沙をチラリと見ると、膝をつくS・フィンガーズとキラークイーンの前に降り立った。
そして2人を助け起こす。
「そうだったんだ。それは……ごめんよ。いきなり攻撃してさ」
「……以後気を付けてもらいたいものだな……」
「…………」
(クソったれが…………)
S・フィンガーズは諏訪子が差し出す手を握り、立ち上がる。
だが、それと対照的にキラークイーンは助けを受けずに立ち上がると、皆に背を向けて鳥居へと歩き出した。誰にも、何も言わずに去ろうとするところ、諏訪子にいきなり攻撃されたことをかなり怒っているようだ。気持ちは分からなくもない。諏訪子の方も、キラークイーンの態度を意に介していない様子である。
魔理沙は立ち去るキラークイーンを引き留めようとしたが、S・フィンガーズが彼女を制止する。霊夢も特に何も言わなかった。
「……私は……帰らせてもらうよ……これ以上ここにいても無駄だからな。さようなら、山の神」
「………………」
「キラークイーン……」
キラークイーンは振り返ることなく別れを告げると、カビの胞子で色が
直接の原因になったであろう諏訪子は、心の内は知らないが、表示からは悪びれる様子はなかった。
一方のS・フィンガーズ。キラークイーンの跡をすぐには追おうとはせず、魔理沙と共に、霊夢と守矢神社のこれからを見届けることを決める。
2人が見つめる中、霊夢は神奈子へ再び口を開いた。
「あいつは行っちゃったけど……で? どうする?」
「……こうなった原因の直接的な理由は、全て私にある。その責任を負うわ」
「と、いうのは?」
「あなたの神社はいらない…………信者を増やすために訪れ、逆に虐殺紛いのことに加担するなど、とんだ神よ」
神奈子の口から出たのは、自虐の言葉だった。
別に驚く者はいなかった。「責任を取る」。この場にいる誰もが、神奈子なら言いそうだと思っていたのだ。義理堅そうだと。
霊夢も、早苗が人質に取られ、神奈子が立ち塞がった時には軽蔑の言葉を吐いた。だが、今になって思えば、神奈子も苦しそうな顔をしていた。その時からずっと自分の失態を重く考えていたのだろう。
そして、信仰を増やすために博麗神社を手にする、その目的が無くなった今、彼女らはどうなるのか? そもそもカビの異変は防げたのか?
後者が霊夢の頭を巡る。
「あぁ……そう。まぁ、いらないって言うんだったら、別にいいけど。そんなに責任感じることある?」
「何だって?」
「私は……あのカビスタンドは放っておいても異変を起こしたと思うわ」
「…………」
「魔理沙に聞いたんだけど、スタンドっていうのは精神からできるもの。すなわち、本体にあたる人物の欲望まで具現化させる。
「……だが、お前はあの時怒っただろう?」
「私の
「!」
神奈子は霊夢の言葉にハッとした。
彼女の言う通りだ。分かっていなかった、と言うよりかは視界から外れていた。そもそも、神奈子と諏訪子がわざわざ幻想郷まで信者を集めに来た理由というのは、外の世界で信仰されることが無くなってきたからだ。神にとって信仰を失うというのは、河童が水を奪われるのと同じこと。自身の死、存在そのものに直結する。
神奈子にはそれしか見えていなかったのだ。自分と諏訪子がピンチであることだけが。信者たちの心のことなど、自分たちの抱える問題によって隠してしまっていた。
神奈子は苦笑する。
「分社ぐらいなら、やってもいいんじゃない? 神様は赦してくれるわよ。あぁ、アンタが神様だったっけ?」
「……ふっ。つまらないジョーク……でも、まさか巫女に諭されるとはね」
結論が出た。
2人の会話に、他3名も柔和な表情を浮かべる。特に霊夢と一番付き合いの長い魔理沙は、平和的に解決したことに満足していた。
しかし今日、幻想郷中で多くの命が失われた。妖怪、人間、野生動物。あらゆる者の生がカビによって侵食されてしまった。
だが、それでも生まれるものはある。今確かにここに生まれた拠り所は、傷付いた人々の心をなんとか回復させていくだろう。それでいいのだ。
去ってしまった者はどうしようもない。だからこそ、今を生きる者たちを守るのが"守護者"としての役目なのだと、霊夢を見るS・フィンガーズは改めて理解したのだった。
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カビの異変が終わりを告げ、霊夢、魔理沙、S・フィンガーズの3人は守矢神社から帰宅した。
その日の夜、妖怪の山では生き残った天狗たちが慌ただしく作業をしていた。死んでしまった者の代わりに慣れない業務をする者、生き残り天狗を点呼する者、仲間や他の妖怪の死体の処理をする者。ただでさえ被害が甚大だというのに、異変の影響で急激に数を減らしてしまった天狗たちは、あまりの忙しさに苛立ちを隠し切れず、非常にギスギスした空気を
そんな中、一人の鴉天狗が槍を持って見張り番をしていた。見張りと言うよりかは見回りに近いが。
「くそっ、何で俺がこんなへぼい仕事を…………下っ端共にやらせりゃいいのによぉ〜〜…………」
文句を垂れながら山道を歩く天狗。
いつもなら、天狗たちの中ではエリートの者が就く職務を全うしているところだというのに。文句は次から次へと生産されていく。
「ハァ〜〜……ったく……ん?」
手に下げた提灯の灯りを頼りに山道を徘徊していると、何やら暗闇の中で動く人影を見つけた。
ゴソゴソと音を立てながら、腰を曲げて地面にある何かを探っているようだ。人影は天狗が近付くと、その気配に気付いて動きを止める。思いもよらぬ出会いに、天狗も一瞬固まった。しかし、すぐに平静を取り戻すと、謎の人影へと圧のかかった声を投げ掛ける。
「そこのお前。そこで何してる? ここは我々天狗が管理する『妖怪の山』だ。こんな時刻に出歩くなんて怪しいな。こっちへ顔を見せてみろ!」
天狗の声が辺りに木霊する。
腰を曲げていた人影は彼の声を聞き届け、ゆっくりと上体を上げた。するとどうだ。思っていたより少し背が高い。この天狗よりも、ほんの少しだけ。180cmは超えているだろう。そしてかなりスリムだ。
天狗はこの人物の顔を拝もうと提灯を上げるが、ギリギリその明かりは人影を照らし出さない。すると、次は人影の方から声が発せられた。
「……お前は、天狗の中でどれぐらいの地位だ……?」
「な、何?」
「……お前の地位を聞いている。早く答えろ…………まだ死にたくはあるまい」
「うっ!?」
それは脅迫だった。
天狗は思わずたじろぐが、ふいに手に持つ提灯で人影の足下を照らす。そこには驚くべき光景があった。
大量の血の池。所々に見えるのは人の腕? いいや、違う。それは、殺された
「お! 俺に近付くなァ! ちょっとでもその場を動いてみろッ! エリートの立場を利用し、部下たちを使ってお前を串刺しにしてやるぅぅ!!」
「……私はお前の"ボス"に挨拶をしたいだけなのだが……」
「動くなと言ってるんだ! このスカタン! いいか……5秒数える内に俺から離れるんだな! さもなくば、お前をこの場で殺すからなァーーッ!」
「………………」
天狗は恐怖のあまり、正気を失っている。人影も呆れ返り、小さくため息を吐く。
だが、正気を失い、ヤケになってしまったことで彼の行動力は暴走してしまっているのは確かである。提灯を持つ手とは逆の方で持つ
そして、天狗は口に出してカウントアップを始めた。
「い〜〜……ち、にぃ〜〜……」
「こいつ……狂ったか…………」
1から順番に数えていく天狗。もう後3秒もすれば、目の前にいるこの人物は槍で串刺しにされてしまう。だが、その本人は何の心配も無い余裕の様子。いや、余裕というよりも、弱者を
そして次の瞬間、不可解な現象が起こった。
「さ〜〜ん…………ごぉ〜〜……5?」
"4"が、消えた。
ド ボ ォ ア ァ ァ !
「…………!!」
天狗の胸、心臓のある左胸から、突然大量の血が噴き出した。それだけではない。何者かの、
その衝撃によって、未だ灯りのある提灯が天狗の左手から離れ、槍もまた使い手を失って地に落ちる。
雲に隠れていた月が、妖怪の山へとその月光を浴びせると、誰にも気付かれぬまま天狗の背後に回った者の正体が明らかとなった。
その姿はまさに、異形。
「結果だけだ。この世には結果だけが残る。心臓を貫かれ、絶命するという……結果だけがな」
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「う…………ハッ!?」
勢いよくベッドから跳ね起きる。
誰かに叩き起こされた?
目覚まし時計が耳の側で鳴った?
どちらも違う。彼は思い出したのだ。
そう。ハイエロファントが目を覚ました。
「……今のは……DIO……!? いや、どこか違う……まさか、そのスタンド……!?」
魔理沙の魔法店、その二階で眠っていたハイエロファントは、魔理沙に拾われた時のように同じベッドで寝かされていた。気絶したハイエロファントをここまで運んだのは、マジシャンズレッドとクリームだ。
ハイエロファントは勢いよく起きたことにより、ほんの少しの頭痛を覚える。こめかみを押さえながら、ベッドから出ようとすると、彼の脚に何かがぶつかった。
「! 魔理沙…………」
「…………」
ハイエロファントが寝ていたベッドの横では、魔理沙が突っ伏してしたのだ。
彼女はハイエロファントが眠り続ける間、このようにして「いつハイエロファントが目覚めてといいように」と側で寝ていたのだ。自分はベッドで眠らずに。
窓から差し込む微かな月光が、魔理沙の金髪を透かしている。その色は黄金そのもの。収穫時期を迎えた小麦よりも、はるかに輝いていた。普段は雑そうな魔理沙の、隠れた優しさを表しているかのようであった。
ハイエロファントは魔理沙が起きないように、ゆっくりベッドから抜けると、魔法店の外へ空気を吸いに出る。久々の屋外は、秋の夜でも気持ちのいいものだった。
「……魔理沙には、後でお礼を言わないとな……」
ハイエロファントはふいに夜空を見上げる。
彼の上には、鋼を思わせるような、銀色に輝く流れ星が瞬くのだった…………
東方風神録、無事完結。
諏訪子の扱いが少し雑になってしまったのが、唯一の心残りです。もう少し良い感じにできたらなぁ……
ついにハイエロファントが復活!
突如幻想郷に現れた、新たなスタンド。やつの目的とは何なのか!?
そしてお待ちかね、ムードメーカーの登場!
物語はここから大きく変化する!
お楽しみに!
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
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東方をよく知っている
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ジョジョをよく知っている
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東方もジョジョもよく知っている
-
どちらもよく知らない