幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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久しぶりに10000字超になりました。
元気なキャラクターがいると、書いていて楽しくなりますね。


34.妖刀、楼観剣

「っつー感じで、俺たちは祖国フランスに麻薬を流したギャング組織を突き止めたのさ」

 

 魔法店に到着したハイエロファント一行は、夕飯の支度をしながらチャリオッツの話を聞いていた。

 これは彼の話した内容だ。

 DIOを討ったかつての仲間、空条承太郎やジョセフ・ジョースターと別れたポルナレフは、フランスへと帰国する。

 しかし、フランスでは1986年を境に犯罪統計(特に少年少女の麻薬犯罪)が急激に伸びていた。ポルナレフはそれを独自に調査し、ついに麻薬を流したギャング組織「パッショーネ」を突き止める。だが、この組織は彼の想像以上に完成されていたのだった。

 ハイエロファントはチャリオッツの話を聞き、抱いた疑問を口にする。

 

「承太郎の助けは呼べなかったのか? ジョースターさんの……SPW(スピードワゴン)財団の協力があれば…………」

 

「さっきも言ったが、例の組織は完成されていた。()()()()()のが上手いんだ。俺たちは孤立し、承太郎たちの助けを呼ぼうにも呼べなかった……」

 

「その……最後に戦ったっつーよ、"でぃあぼろ"だっけ? 結局そいつはどうなったんだ?」

 

「さぁな……やつに襲われたところで、俺の記憶は途切れてるからな」

 

 忌々しそうに右目に付けられた傷を撫でる。

 チャリオッツは強い。本体であるポルナレフは実に単純で、相手の挑発に乗ってピンチに陥ることが多かったが、それでも仲間たちの中では一番洗練されていたと言ってもいい。妹の仇を討つため、何年も修行していたからだ。そしてそれは、DIOを倒した後も同じである。

 パッショーネのボス、ディアボロに目を傷付けられ、脚を失った後でもスタンドパワーの衰えを見せない動きを見せていた。修行は欠かしていない。

 

「でも、本当にいいのか? 俺もここに住んじまってよ」

 

「大丈夫さ。なぁ、魔理沙」

 

「いや、だからお前が決めるなよな。まぁ、私はいいぜ。一人増えたところで、だからな。だが問題は…………」

 

「ベッドか……」

 

 彼ら3人が直面していた問題、それはベッドの数だった。

 魔法店の2階には、他の道具や家具などで隅へと追いやられてしまったベッドが2つある。ハイエロファントと魔理沙はそれらで睡眠を取っていたのだが、今日からチャリオッツが住むとなると、ベッドが一つ足りなかった。ハイエロファントは帰宅途中に気付いたが、今さらどうこうもできないため、黙ったままにしていたのだった。

 魔理沙の言う通り、「寝ること」以外なら3人でも十分やっていけるが、はてさて、睡眠事情はどうなることやら。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………よし」

 

 一人呟いたチャリオッツは、2階へ続く階段を振り返る。魔理沙にはチャリオッツが何を良しとしたのかが分からなかった。だが、ハイエロファントは彼の意図に気付いたようで、チャリオッツと同じように階段に身を向ける。

 そして…………

 

「俺が一番乗りだッ!」

 

「え! ちょ、おい! 待ちやがれ、この野郎どもッ!」

 

 ドダダダ!と魔法店全体が揺れる程の振動を響かせながら、ハイエロファントとチャリオッツは走り出した。

 遅れて走り出す魔理沙に追われながら、掴みかかる腕を払い除けながら、2人は階段を駆け上がる。そしてドアを開け、並んでいるベッドをダイブ!

 家の中のため、本当に短距離しか走ってはいないが、魔理沙は肩で大きく息をしながら3着で部屋に入る。

 

「ま、まさかハイエロファントも()()()()()()()()()()()なんて…………」

 

「よし、魔理沙が床で寝るんだな」

 

「寝ねェーーよッ!」

 

「ハハハハハハ!」

 

 チャリオッツに再会できたことで、ハイエロファントは知らず知らずの内にはしゃいでいた。魔理沙も、ハイエロファントにクールなイメージを抱いていたため、かなり新鮮に感じている。チャリオッツは昔に戻ったようで、ハイエロファントと同じく気分が良かった。

 魔法店ではチャリオッツの笑い声が響き、もう一時間ほど、ベッドの取り合いが行われた。最終的にはベッド2つと1階にあるロッキングチェアを交代しながら使うこととなり、今宵は勝負に負けた魔理沙がロッキングチェアに揺られるのだった。

 

 

____________________

 

 

「…………」

 

 時刻、午前0時を過ぎた頃。

 冬の訪れを感じさせる冷たい風をその身に受けながら、火の灯った提灯を揺らす者が人里を歩いていた。彼はスティッキィ・フィンガーズ。先日起こったカビの異変の元凶を討ち破ったスタンドだ。

 命の恩人だと、人里の民に持ち上げられた後、彼は上白沢彗音に言われるようにして人里の守護者となった。

 現在彼は、彗音と人里内の区分を分担しながら夜の見回りをしている最中である。

 

「……冷えるな」

 

 ボソリと呟きながら、広い水路を跨ぐ橋の上を歩く。

 死人のように青白い巨大な満月は、スーパームーンでもないくせに、昼間顔負けのような月光で人里中を照らしていた。チラリと水の流れる水路を見やると、突然掘り起こされたミミズのように、暗い陰へと隠れる小魚の群れが。

 彼の本体、ブチャラティは漁師の家に生まれた。離婚してしまったが、真面目で正直な父親、()()()()()()()()が、ブローノの意思を継いでいるせいか、脳裏に彼が(よみがえ)る。

 麻薬によって、麻薬が引き起こした事件によってブローノの父親は死亡してしまったが、同時にその出来事はS・フィンガーズの誕生にも繋がった。皮肉なことだった。

 「ジッパーを操る能力」。暗がりを光で照らすには、遮蔽物を取り除くか、切り開くしかない。S・フィンガーズはまさに、隠された真実と邪悪を追い続ける、ブチャラティの正義の心と優しさを映す鏡だった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 歩き続けていたS・フィンガーズの脚が止まった。橋の終わりに、誰かが立っているのを見つけたからだ。

 その影には、腰の辺りから2本。何か、長い物が伸びていた。尻尾ではない。短い物が一本と、長い物が一本。そして少し反り返っている。そのシルエットはさながら日本刀。

 

「……何者だ? こんな夜中に、灯りも無く歩いているなんて普通じゃあねぇ。そして、その腰に差しているものは……」

 

「……我が名は魂魄妖夢。貴様、スタンドと見た。腕試し……願おうか」

 

 人影から発せられた声は女のもの。(うつむ)いていたため、顔はよく見えないが、短く切られた髪がサラサラと風に(なび)いているのを見ると、やはりこいつは女だと確信する。

 だが、彼女の要求は呑めない。ここは人里。こんな所で暴れれば、多方向に多大な被害が出てしまう。そして、理由も無ければ戦う気も起きない。これが一番大きな理由だ。

 

「断る。今ここでは、な」

 

「……そうか。ならば、いい。その場にそのまま突っ立っていろ…………斬り刻んでやるッ!!」

 

「!! 何ッ!?」

 

 耳をつん裂く金属音が、一瞬鼓膜を突き刺さると、妖夢の両手には刀が掴まれていた!

 二刀を広げ、力強く右足を踏み込むと、妖夢の体は目の前から消えた。戦闘の場数を多く踏んでいるS・フィンガーズが見失ったのだ。しかし、彼女の姿を探す必要は無かった。

 彼女のトレードマーク、頭に着けている黒いリボンが視界の下部に見えたからだ。つまり、この一瞬で10m近くあった距離を詰めて来ていた。第一歩の初速で、である。

 

ヒュバッ!

 

「ぅぐうッ!!」

 

「ほぉ、間一髪で避けたか……真っ二つにしたと思ったがなぁ〜〜……」

 

ブシュゥゥ〜〜ッ!

 

「ぐ……くそ……ッ」

 

 胴体が2つに分かれてしまう前に、何とか後ろへ跳び退いていたS・フィンガーズ。しかし、完全に避けられたわけではなく、胸を横断するように一本の傷が走り、血が噴き出す。S・フィンガーズでも対応しきれないスピード、厄介な相手である。

 いつの間にか手放していた提灯が、木でできた橋の上へ乾いた音とともに落下する。

 その光景を目にしたS・フィンガーズは、不思議なことに気が付いた。提灯は自分の体よりも前方に位置していた。ならば、体より先に提灯が真っ二つになるはずだ。もう既に刃が体に届いているのだから、提灯は形を保てていないのが自然。だのに、提灯は依然、提灯としての形をしている。切り傷一つ付いていない。

 

「……外見からは、お前がスタンドだとは思えない。まさか、スタンド使いか?」

 

「フフフフ。どうかな」

 

「その刀がスタンドで、「狙ったものだけを斬る能力」がある、とか? 遮蔽物を無視し、その向こう側にある物体を斬ることができる……」

 

「……良い目だな。この提灯で判断したのか」

 

「怪しまないやつはいないだろう」

 

「フフフフフ。かもなぁ。だが、ちょっと違うなァ〜〜……刀がスタンドではない。スタンドは……()()

 

 妖夢は怪しい笑みを浮かべると、刀を掴んだまま自分を指差す。S・フィンガーズは彼女の、いや、()()動作の意味が分からなかった。姿形はどう見ても人間。どこもスタンドらしくない。

 と、思った瞬間、妖夢の肩の辺りにうっすらと何かのヴィジョンが現れ出した。体は屈強な男、そして頭は黒い犬のもの。よく見れば、喋っていたのはこのスタンドだった。妖夢の口の動きと上手く連動していたのだ。

 

「……取り憑いていると、いうことか」

 

「それが能力。名はアヌビス神。タロットカードの起源となった、エジプト9栄神の一人! そしてェーーッ!! 俺の邪魔になり得るやつは始末する!! お前が一人目だァーーーーッ!!!」

 

「!」

 

 妖夢……いや、アヌビスに取り憑かれた妖夢、アヌビス妖夢は二刀を揃え上空からS・フィンガーズを叩っ斬ろうと飛び上がる!

 一見隙だらけに見えるが、S・フィンガーズが完全に避けられないほどのスピードをもっている。無闇に立ち向かえば、今度こそ真っ二つになるだろう。

 しかし、S・フィンガーズが今の間に、何もしていないと思ったら大間違いだ。彼は既に手を打っている。

 

「くっ!」

 

「ぬぅ! 速いな!」

 

 振り下ろされる刀は空を切る。アヌビス妖夢の左手側に回り込み、第一撃叩き込む構えを取る。

 しかし、アヌビスは余裕の表情を浮かべたままだ。

 

「フン! 防げないとでも?」

 

「俺なんかより、足下の注意をした方がいい。もしかして、()()()()()()を言ってるのか?」

 

「何?」

 

ズ ボ ォ ッ !

 

「ぐおッ!?」

 

 妖夢の体は橋の中に埋まった。

 いや、穴にハマったと言うべきだろう。S・フィンガーズはアヌビスの長話の間に、自分の足下にジッパーを取り付けていた。人の下半身は入り、上半身は通り抜けられないほどの大きさのジッパーだ。

 そして、アヌビス妖夢はまんまとハマった。彼女の上体はS・フィンガーズの脚と同じ高さ。今妖夢が刀を振るっても、S・フィンガーズなら跳んで避けられる位置だ。

 そして、その隙は絶対に見逃さない。妖夢の頭上から、S・フィンガーズの拳が迫る!

 

一先(ひとま)ず、気絶しておいてもらおう! 終わりだッ! スティッキィ・フィンガーーズ!」

 

 スタンドエネルギーが込められた拳が妖夢を襲う!

 あの拳に殴られれば、どんなものであろうともジッパーによってバラバラにされてしまう。人でも、亀でも、ボートであっても、だ。

 だが、アヌビスが観念することはなかった。余裕もまだ見られた。掲げられた二刀の次なる標的は、自身が埋まった、この橋自体だ!

 

「フン。来ぉい! たとえ橋に埋められようとも、絶〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ対に! 負けんのだァーーーーッ!!」

 

 刀は振るわれた。無数の残像をS・フィンガーズの見えている世界に焼き付けて。

 

ズバァン ズバァン ザァン      ズバァン ズバァン  バララァ〜〜ッ!

 

「な、何ィッ!?」

 

 アヌビスは二刀による高速の斬撃により、橋をバラバラに斬り刻んだのだ。そして破壊された橋からの拘束は解け、重力に身を任せるまま、下を流れる水路へと落ちていく。

 脱出ルート? いいや、違う。ただの脱出ではない。橋を壊されたことにより、同じく上にいたS・フィンガーズは着地のタイミングを誤ったのだ。それにより、バランスを崩して宙へと放られている!

 誰だって、突然の事態には動揺を隠せないものだ。どれだけ稼げるレーサーでも、一般道路で追突されればパニックになる。世界的なマラソン選手でも、夜道でいきなり刃物を突きつけられたら、腰を抜かして走れない。

 今のS・フィンガーズはまさにそれだ。

 

「胴体がガラ空きになったようだなァッ!!」

 

「し、しまっ……」

 

「くらえィ!!」

 

 月光を反射する楼観剣が赤く染まった。

 月からの逆光により、よく見えはしなかったが、確実に斬った。刀に付いた鮮血と、顔で感じる生温かい液体の感触。間違いない。

 そして何より、S・フィンガーズのシルエットは、真っ二つになっていた。上体と下半身が離れ離れになった…………どんなスタンドであってもお終いだ。幻覚でもない。自身の腰に流れる水流の中に、ドボン ドボン!と物体が落ちる音も響いた。

 アヌビス妖夢の口角はニヤリとつり上がる。

 

「フフ……フハハハハハ! まずは一人だ…………チャリオッツの気配はこの辺りには無いが……この村落内でのスタンドエネルギーは、あと一つ分感じる…………そちらもいずれ始末しよう。その前に、風邪を引かないように……ハックショイ! 服を乾かさねば……」

 

 鼻から鼻水を垂らしながら、アヌビス妖夢は水路を這い上がる。楼観剣に付着したS・フィンガーズの血液は、既に消えていた。

 

 

____________________

 

 

「……きろ! おい、起きろ! チャリオッツ、今何時だと思ってるんだ!?」

 

「う……う〜〜ん……?」

 

 人里で戦いがあっただなんて露知らず、その翌朝、ハイエロファントはベッドで眠るチャリオッツを叩き起こしていた。

 ベッド横の壁にレイピアを立て掛け、毛布とシーツをぐしゃぐしゃに乱して眠っていたチャリオッツ。余程疲れが溜まっていたのか、それともハイエロファントと再会したことで、昔の自分(ポルナレフ)の癖が出てきてしまっていたのか。だらしない声を発しながら、のそのそとベッドから出る。

 

「そら、早くするんだ。うちに住む以上は、多少の仕事はしてもらうぞ」

 

「ハァ!? タダで住まわしてくれるんじゃあないのか!?」

 

「働かざる者食うべからず、だ」

 

「……俺たちスタンドは、一応食べなくてもやってけるって言ってたじゃあねーか」

 

「じゃあ、住むべからず」

 

「古人の教えを勝手に変えるな! 何でもアリになるだろうがッ」

 

「おーーい! 飯まだかーー?」

 

 ハイエロファントがキツく当たっているように見えるが、これは当時の花京院とポルナレフのやり取りそのものと言ってもいい。ポルナレフの方が歳は上なのだが、どちらもまだ気分が高ぶっている証拠だ。

 2人が言い合っている中、朝食を待つ魔理沙の声が1階から響いた。ハイエロファントは朝食を作っている途中で抜け出したため、カウンターで魔理沙は座りっぱなしで待たされているのだ。

 

「すぐできるぞ! よし、行くぞ。チャリオッツ」

 

「へいへい」

 

 チャリオッツが気の抜けた返事をすると、ハイエロファントから先に階段を降っていった。

 さて、今日の朝食はというと、上からトロリとシロップをかけ、2枚重ねにしたパンケーキだ。ハイエロファントは最近、咲夜だけでなく、アリスとも交流するようになり、彼女から特におやつ系統の作り方を教わっている。パンケーキもその一つである。材料は人里では手に入らないが、アリスの家、もしくは紅魔館にあるとのこと。

 では、その2箇所はどこから仕入れているんだ……?

 

「ん〜〜……これ、美味しいぞ。というか、知ってる味だ。どこで食べたんだっけ?」

 

「アリスに作ってもらったやつじゃあないか? 彼女から教わったんだ」

 

「あ〜〜、なるほど」

 

 それだけしゃべり、魔理沙はパンケーキにがっつく。

 口の端からシロップが(したた)り、流れ、下に受ける皿にボトリと落ちる。口に付着した分は指で拭い、再び口の中へ。生地もシロップも好評である。

 そんな魔理沙の様子を、チャリオッツは羨ましそうに眺めているが、彼の分のパンケーキが出てくることはなかった。コーヒーだけは出されたが、頭に被った甲冑の隙間から、溢さないようにそっと飲むのでは手間と比べて満足し切れなかった。

 

「……で? 俺にやれっつー仕事は何なんだ?」

 

「僕の手伝いだ。掃除だとか、買い物だとか……」

 

「雑用じゃねーか。魔理沙の方はいつもは何やってるんだ?」

 

「実験の材料集め」

 

「趣味かよ! まさか、ハイエロファントがこの家の家事全部やってんのか……?」

 

「ここに来た時、助手にしてやるって言われたんだが、まんまと騙されたんだ」

 

「だ、騙したって言い方良くねぇだろ! ほら、危険なのが多いんだよ…………」

 

 カウンターに座り、3人は会話に花を咲かせる。

 特にチャリオッツと魔理沙が賑やかなムードを作り出していた。そんな時、魔法店のドアから、誰かがノックする音が聴こえてきた。

 

トントン!

 

『魔理沙! いるか!?』

 

「ん? この声は慧音か?」

 

 魔法店に訪れて来たのは上白沢慧音だった。魔理沙がドアを開けると、膝に手をつき、息を切らしている。人里から走って来たようだ。

 魔理沙は彼女をカウンターに座らせ、ハイエロファントは水を差し出す。それを一気に飲み干し、息を整えると、魔法店にやって来た事情を話し始めた。

 

「ふぅ……魔理沙、大変なんだ。スティッキィ・フィンガーズがいなくなってしまった!」

 

「何?」

 

「……スティッキィ・フィンガーズ?」

 

 慧音の言葉に、魔理沙は眉をひそめる。

 話を聞いていたハイエロファントも同じような反応を取るが、彼の場合はスティッキィ・フィンガーズが何者かを知らないだけだ。

 とにかく、彼がいきなり行方不明になるなんて、ただごとではなさそうだ。どこか、遠くへ行くとするなら慧音に(あらかじ)め言っておくだろう。幻想郷の中でS・フィンガーズと最も関わりのある人物は彼女であり、日は浅いが、互いに信用している。

 それと同時に、S・フィンガーズは実力者だ。先日の異変は、彼のおかげでどうにかなっている。戦闘センス、能力、どれを取っても強い。そんな彼が何かの事件に巻き込まれたというのなら、間違い無く大事である。

 

「魔理沙、そいつは誰なんだ?」

 

「あぁ、スティッキィ・フィンガーズもスタンドでよ。『ジッパー』を使うんだ。それで戦うんだよ」

 

「ジッパーでか……?」

 

「……ジッパーのスタンド…………」

(まさか、ブチャラティのスタンドか?)

 

 魔理沙の説明により、一層混乱するハイエロファント。だが、彼女は何一つ間違ったことは言っていない。実際にその目で見た、事実なのだから。

 そんな中、チャリオッツはあることを思い出していた。ジッパーを扱うスタンド、彼は以前見たことがあった。

 ディアボロに一度敗北した時、ポルナレフはブチャラティにコンタクトを取り、ローマのコロッセオにて()()()を渡すこととなっていた。ディアボロはそれを妨げ、あわよくば手に入れようと画策していたのだが、チャリオッツはそのスタンドを、ブチャラティたちがローマへと上陸した時に目撃していた。ブチャラティが、あのカビのスタンド使いともう一人の男と戦っている時にだ。

 

「…………」

 

「それで、そのスティッキィ・フィンガーズがどこへ行ったのか、見当はついているんですか?」

 

「それが、全く無いんだ。キラークイーンに聞いても『分からない』の一点張りで……」

 

「キラークイーンがやったんだよ、きっと! 多分、あの『爆弾に変える能力』で……」

 

「キラークイーンが殺す動機は無いだろう。それに、相手がやり手だと分かっていながら、無理矢理殺そうとするとも思えない」

 

「んじゃ、調べに行くか!」

 

 各々が考察していると、チャリオッツが椅子から飛び降り、言い放った。横に立てていたレイピアを手に取り、刀身を肩に乗せる。

 一見無鉄砲だと思えるが、ここでどれだけ考えても真実は見えてこない。皆、チャリオッツの意見に賛成した。分からないなら、真実を知る者を尋ねるか、調べながら地道に真実を追うかだ。しかし、残念なことに、S・フィンガーズ消失の真実を知る者はいない。ならば、自分の脚で行き、自分の目で見るのが一番である。

 4人は人里へと出発した。

 

 

____________________

 

 

 チャリオッツの提案で魔法店を出発した4人。10分も経たない内に人里前へと着地する。

 人里入り口の門は、いつものように巨大にそそり立っている。が、その近くに門番はいなかった。いつもは松明や槍を手にして、常に2人組が横にいるはずだ。今日に限っては、彼らは見えなかった。よく知らないチャリオッツは置いておき、慧音や魔理沙、ハイエロファントはすぐに怪しむ。

 

「おかしい……見張り番はどこに? 代わりもいないなんて……」

 

「というより、門の近くには誰もいないぞ」

 

「いや、見ろ! 誰か走って来たぜ!」

 

 ハイエロファントと彗音が辺りを見回していると、門前の大通りを2人の男が走って来た。おそらく、この場を空けていた門番だろう。だが、どこか様子がおかしい。血眼になりながら、必死にこちらへ走って来る。

 何かが人里内で起こっているのか?

 

「け、慧音さん! 大変だぁ!」

 

「キラークイーンさんが、妖夢ちゃんと戦ってるんだ!」

 

「な……妖夢と!?」

 

「おいおい……スティッキィ・フィンガーズを探しに来たってのに、何でキラークイーンが妖夢と戦ってんだよ?」

 

「とりあえず行こう! 2人共、場所はどこです?」

 

「こっちだっ、付いて来てくれ!」

 

 

 

 

 

「ハーッ、ハーッ……くそったれが〜〜……!」

 

「フフフ……」

 

「うわあぁぁあ!! もうやめてくれ、妖夢ちゃん! キラークイーンさんが死んじまうよぉ!」

「見た目は怖いけど、悪い人じゃあねぇんだ!」

「アンタ、キラークイーンに何かされたのかい!?」

 

「外野がうるさいな……お前もそう思うか?」

 

 人里を走る大通りのど真ん中。大勢の民が見守る中、アヌビス妖夢とキラークイーンの死闘が繰り広げられていた。

 しかし、もう結果は見えてしまっている。キラークイーンの体には大量の切り傷が刻まれ、しかも右腕の肘から下を切り落とされていた。うるさい野次馬と、目立っている状況、劣勢な現状が合わさり、キラークイーンの苛立ちと焦りは既にピークに達している。彼の頭の中は逃げの一手で埋め尽くされているが、それを許してくれる相手でもない。

 正真正銘のピンチである。

 

「ハーッ、ハーッ……このトラブルを……切り抜けてやる……私は生き延びるのだ……!」

(スティッキィ・フィンガーズを倒したやつだと……!? まともに相手などしていられるかッ! 第2の爆弾(シアーハートアタック)を放って離れるしかないか……!)

 

「生への執着は褒められるものだな……だが、叶わない。お前はチャリオッツとの戦いの前座。逃がさんぞォォーーッ!」

 

「ッ!」

 

 アヌビス妖夢の体が大地を蹴る。ミサイルのように飛び上がり、空中からキラークイーン目掛けて斬りかかる!

 一方のキラークイーン。アヌビス妖夢の素早い動きを目で追えても、その高速の一撃を避けられるほどの体力は残されていない。憎悪と悔しさに満ちた目で睨みながら、歯を食いしばるのみ。

 ギャラリーも戦いの終わりを予感し、中には目を手で覆う者も。キラークイーンの命は、ここに潰える。

 

バッキ〜〜イィィン!

 

「ぬぅ!」

 

「!」

 

「誰かと思えば……この感じ、久しいな」

 

「……チャ〜リオッツ〜〜……!」

 

「アヌビス神……!」

 

 妖夢の刀がキラークイーンを襲う瞬間、一本のレイピアが攻撃を防いだ。彼らの間に割り込んで入ったのは、チャリオッツだ。

 アヌビス妖夢は彼を目にすると、さぞ嬉しそうに、不気味に口角をつり上げる。女の子には似合わない笑顔だ。

 だが、チャリオッツの方は真剣な眼差しを送っている。アヌビス神の恐ろしさをよく知っているからだ。アヌビスが宿った刀剣の柄を握り、鞘から引き抜いた者の精神を支配し、操る能力。かつてはポルナレフも支配されてしまった。なにかと因縁深い相手だ。

 チャリオッツはレイピアで妖夢の刀を払いのけると、アヌビス妖夢の体は後ろへ飛び、着地する。

 

「少し見ない内に、落ち着きが出てきたか? ポルナレフも変わったらしいな」

 

「…………できれば、俺は二度とお前と戦いたくなかった……お前は()()()()()()()()()()からな」

 

「フフフフ…………おい、そこのスタンド、お前はもう行ってもいいぞ。邪魔だ」

 

 チャリオッツとの会話が続く中、アヌビスはキラークイーンに言い放つ。だが、彼の言葉を耳にしたキラークイーンは先程と打って変わり、完全に妖夢を殺す気になってしまった。

 

「……こいつ、どこまでもコケにしやがって……!!」

 

「なぁ、アンタ。俺がやるから大丈夫だ。ひでぇ傷だし、もう引っ込んでな」

 

「…………フン……!」

 

 怒りが沸き上がるキラークイーンを、チャリオッツが(なだ)めた。アヌビスが知る彼なら、もっと強引に、乱暴に抑えただろう。だが、今は違う。自分に余裕があるからか、静かに宥めたのだ。

 キラークイーンはチャリオッツに諭され、身を翻すと、右腕を押さえながら路地裏へと身を隠して行った。

 アヌビスはポルナレフの、チャリオッツの変化を目にし、依然闘気を高める。今のチャリオッツはリベンジマッチに相応しい役者だ。

 『戦えば戦うほど強くなる』自分の手で、成長したチャリオッツを殺すこと。これが目的だった!

 

「さぁ……始めようか!」

 

「……どっからでもかかって来な」

 

 




アヌビスの口調はあんな感じで良いのだろうか…………


ついに戦いの火蓋が切って落とされた!
銀の戦車とアヌビス神!
12年の時を越え、さらに強くなった者たち。勝者はどちらか!?

お楽しみに!
to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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