幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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書くのがかなり苦手な戦いになりました…………
でも、ヨーヨーマッ好きなので良し。


40.『戦車』は勝利の暗示

「…………!」

(()()()の攻撃ッ……! でも、一体どうやって……?)

 

「霊夢様、だんな様の元へと戻りましょうか」

 

「! ヒューーッ、ヒューー……」

 

 緑色で鱗のある人型スタンド、ヨーヨーマッはクルリと霊夢へ背を向け、チャリオッツの元へと歩き出す。

 まずい。何か得体の知れない出来事が起こっている。ほぼ間違い無くヨーヨーマッ(このスタンド)の仕業であろうが、その正体は全く謎。霊夢の頬に穴が空いているという事実だけしかない。

 だが、霊夢がこの場で取る行動は既に決まっていた。ヨーヨーマッの攻撃をチャリオッツに気付かせること。そして、チャリオッツへの攻撃を防ぐこと!

 

ボシュゥン!

 

「あばッ!」

 

「…………」

(こいつが余計なことをする前に、この場で倒す!)

 

 霊夢はヨーヨーマッの死角から弾幕を撃ち出し、彼の頭部へ直撃させる。軽く爆砕しているが、そもそもただの生物ではないスタンドという存在である上、回復力と耐久力が異様に高いヨーヨーマッには大したダメージになっていない。

 霊夢はさらに叩き込む。

 

ボン ボゴォン! ドパァン ボジュゥゥ

 

「あぶッ! ぺぎゃっ……ぶげェ!」

 

「………………!」

 

「アァ〜〜ン、もォォォッと叱ってェェ〜〜ーーッ!」

 

「うっ…………」

(こいつ……もう結構ぐちゃぐちゃになってんのに……まだ(こた)えてないの!?)

 

 霊夢が思っているように、今のヨーヨーマッは弾幕を受けてかなりボロボロの状態だ。まるで破裂した風船か、文字通りのボロ雑巾のよう。

 (らち)があかないことを理解した霊夢は、ついに攻撃を弾幕から"巫女としての力"へ変更しようとする。この力を行使すれば、いくらタフネスなスタンドであっても消しとばすのは可能である。

 しかし、ここで思わぬ邪魔が入ってしまう。

 

「おい、霊夢! 何やってるんだ!?」

 

「ッ……!?」

 

「……おぉっ、だんな様!」

 

 割って入ったのはチャリオッツ。

 ヨーヨーマッを起こしに行ったはずの霊夢が、いきなり彼を攻撃し始めるのを見て彼女を止めに来たのだ。

 

「いきなり何をやってるんだ? さっきは攻撃に否定的だったというのに……」

 

「ヒューーッ! ヒューー、ヒューー」

(違っ……こいつは敵よ! 攻撃されてるわ!)

 

「ん? 口笛……?」

 

「……」

 

 チャリオッツに羽交い締めにされ、暴れる霊夢。彼女は必死にチャリオッツへ敵の存在を伝えようとするが、頬に空いた穴から空気が漏れ出てしまい、口笛のような音にしか変わらない。

 当然それでは霊夢の真意が伝わるはずもなく、チャリオッツの顔には『?』が見え隠れしていた。

 ヨーヨーマッは無表情。態度といい、タフネスといい、どこまでも不気味なやつだ。

 

「よく分からんが、霊夢。こいつ無しじゃ地底を歩けないぞ。案内役はこいつしかいない。殺すならその後だ」

 

「おや、ひどい」

 

「……ッ!?」

(な……!? ダメよ! それじゃあ遅すぎるッ! その間にどんな攻撃をしてくるかも知れないのに)

 

「ほら、行くぞ。おいヨーヨーマッ、案内を続けるんだ」

 

「了解しました。だんな様」

 

 チャリオッツはヨーヨーマッに対して警戒心を持っていない様子だ。霊夢はそれに納得できず、また、チャリオッツに真実を伝えられないことをもどかしく思っている。だが、心の中では「確実に攻撃の正体を暴く」という意思が篝火(かがりび)のように燃えるのであった。

 チャリオッツに命令され、傷が再生しつつあるヨーヨーマッは2人の先頭に立つ。そして再び、強風が吹きつける地底の通路を進み始めた。

 

 

 ここから、霊夢のたった一人の戦いが始まった。

 

「ヒューーッ! ヒューーッ、ヒューーッ!」

 

「だから……さっきから何なんだ?」

 

 霊夢は諦めることなく声を上げようとするが、やはり出るのは笛の音。チャリオッツは不審がるが、それも狙いだ。

 霊夢は振り向いたチャリオッツにジェスチャーを行った。前を歩くヨーヨーマッを指差し、次に自分を。その後は自分に向けて手をパッパッと払う動作を見せるが、絶望的にジェスチャーの才能が無いのか、

 

「…………ッ! …………ッ!」

 

「……? 何だ……? いい加減口で言ってくれ」

 

「〜〜〜〜……ッ!」

 

 彼女の真意がチャリオッツに伝わることはなかった。

 あまりにも伝わらないため、霊夢は途中でジェスチャーを諦めてしまい、チャリオッツに「何でもない」と手を振って合図するのだった。

 

 

 しばらく歩き続け、次に霊夢が取った行動は『絵を描く』ということだ。

 しかし、彼らが歩く地面は岩であるため、地上でやるような『砂に絵を描く』といったことはできない。ならばどうするか。おそらく、世に生きる多くの人が一生の内に一度は経験したことがあるだろう、『背中に絵を描く』。

 霊夢はチャリオッツの背に近付き、人差し指で彼の甲冑を撫で始めた。

 

「うっ!? ビ、ビックリした…………お前、本当に何なんだ!? いきなり触りやがって!」

 

「………………」

(ご、ごめん……)

 

「そして……お前はお前で、何やってるんだッ!」

 

「アラ?」

 

 チャリオッツは霊夢を一喝した後、今度はヨーヨーマッを指差して怒鳴った。

 彼はどこからか持って来た木の枝を組み立てて椅子を一つ作ると、チャリオッツを座らせ、彼の甲冑をタオルで拭いていた。キュッキュッと丁寧に磨いているが、それは良い。問題は、腕や脚の関節に油を差し始めたことだ。

 機械でもないのに、そんなお節介。チャリオッツはバカにされていると憤慨し、ヨーヨーマッを蹴っ飛ばす。

 

「痛いですぅ〜〜。だんな様。油は必要ありませんか?」

 

「私を自動車や遊具なんかと一緒にするなッ! 貴様と同じスタンドだろーがッ!」

 

「『スタンド』と一括りにしても、色々なスタンドがございますよ。自分の体を糸にしたり、人体に潜入したり…………油が必要なスタンドも、どこかに存在するかと」

 

「ハァ……もう、好きに言ってろ…………霊夢も、次何かやったら赦さないからな」

 

 ヨーヨーマッの屁理屈に、チャリオッツは完全にうんざりしている様子。木の椅子から立ち上がると、再び向かい風が吹く地底の道を進み始めた。

 

「…………」

 

 2人の会話を聞きながら、霊夢はチャリオッツ以上に参っていた。チャリオッツに気付いてもらおうと思っても裏目に出てしまう、この現状。

 もはやヨーヨーマッが意図的にチャリオッツに絡み、自分(霊夢)から注意を()らしているのではないか、とも思い始めてきた。自身の口内をチャリオッツに見せ、攻撃されている事実を見せつけようとも考えるが、ヨーヨーマッがそれを許すとは思えない。何かしらの形で邪魔してくるだろう。

 

「………………」

(だったらせめて……あのスタンドの攻撃方法を探って、攻撃の邪魔をしなければ……)

 

 霊夢は改めて今までのヨーヨーマッの行動、そして謎の攻撃について振り返る。

 ヨーヨーマッは自分たちに対して一見忠実である。だが、怪しい部分が多いのもまた事実。なぜ、自分たちにあそこまで尽くそうとするのか?

 自分たちを油断させ、近付き、確実に始末するため…………?

 しかし証拠が無い。

 それ以外には……自分たちは()()()()()()()()()()()()こと、そして、()()()()()()()()()

 

(分からない……風にしても、蚊にしても、どうやって私の頬に穴を空けたわけ……?)

 

「あぁ、そうだ」

 

「!」

 

 前を歩き続けるヨーヨーマッを睨んでいた霊夢。突然彼が振り向いたことで、心臓が飛び跳ねたように感じ、額から汗が噴き出す。

 嫌な予感…………思わず霊夢は身構えた。

 

「お二人とも、水分の方は大丈夫ですか? そこらで拾ったイモリで特性ドリンクでも……」

 

「ハァ? イモリィ? そんなもん飲めるか!」

 

「………………」

 

 ヨーヨーマッはポケットから2匹のイモリを引っ張り出すと、チャリオッツの前でプランプランと揺らして見せた。

 だが、いくら人間ではないチャリオッツでもイモリを食べようなどとは思わず、「近付けるんじゃねぇ!」と手を払っている。霊夢も同様で、両生類が苦手な女の子らしく、遠目から見ていた。

 2人に断られてしまったヨーヨーマッは「おいしいのになァ〜」と呟くと、水を吸った雑巾のようにイモリを絞った。そこから垂れる水を口でキャッチすると、「プハァ〜!」と満足そうに息を吐く。

 

 この光景を目にした2人は、言うまでもなく唖然としていた。スタンドといえど、本体の影響をそれなりに受けているはず。まさか本体も同じことをするのか? チャリオッツの中で、ヨーヨーマッの本体のイメージはどんどんねじ曲がっていくのだった。

 

 

プゥ〜〜ン プゥ〜〜ン

 

「!」

 

パシン!

 

「ん? 霊夢、どうした? 蚊か?」

 

 耳元に鳴り響いた不快音。霊夢はノールックで音源を両手で叩き潰した。

 閉じた手を目の前までもってきて開いてみると、チャリオッツが言った通り、音の主は蚊であった。まだ血は吸っていなかったらしく、潰れた腹から赤い液体が漏れ出てくることはなかった。

 チャリオッツが横で「ここ多いよな〜」と呟く中、霊夢はヨーヨーマッへと視線を移す。

 蚊は人、スタンド関係無く寄り付くようで、ヨーヨーマッの周りを思わず背筋が凍るような羽音を響かせて飛んでいた。

 すると、次の瞬間……

 

パクッ!

 

「モグモグ…………」

 

「!?」

(えっ……蚊をッ!?)

 

「ぺ!」

 

プゥ〜〜ン……

 

 霊夢が見た光景を説明しよう。

 彼女は周りを飛ぶ蚊を鬱陶しがっていたヨーヨーマッを見ていた。最初は何の反応もしなかったが、突如、ヨーヨーマッは飛んでいた蚊を食べてしまったのだ!

 しかし、口に含んだ蚊を呑み込みはしなかった。ヨーヨーマッはそのまま口を開け、再び蚊を空中へ放ったのだ。

 そして、その蚊は霊夢とチャリオッツの元へ。

 

パシン!

 

「くそっ、鬱陶しいやつらだ…………」

 

「…………」

 

 ヨーヨーマッの口から離れた蚊は、チャリオッツの血を吸うため(本当に吸えるかは分からないが)彼の首筋に近付くが、その前に叩き潰されてしまった。

 霊夢は答えを出した。

 蚊だ。ヨーヨーマッは蚊を使って、自分の頬に穴を空けた。おそらくは、口の中で蚊を改造、もしくは洗脳でもしているのだろう。

 そう予想した霊夢は、さっそく行動に移す。

 

「…………」

 

「……霊夢? やけに()()が……どうかしたのか?」

 

パシン!

 

「…………」

(()()()()()()()……近付いてくる蚊は、チャリオッツが叩いてくれる…………)

 

 霊夢はチャリオッツの体にピッタリと密着し、前を歩くヨーヨーマッの背中を追う。

 蚊を鬱陶しく思うのはチャリオッツも同じであるため、自動でヨーヨーマッの攻撃を防げているといっても過言ではない。これも、上手いスタンドの使い方と言っても良いだろう。

 霊夢は「やってやった」と笑みを浮かべ、先程チャリオッツが言ったように、ヨーヨーマッに目的地まで案内させるのであった。そしてその後は…………チャリオッツが言った通りにするつもりだ。

 

 

____________________

 

 

 相変わらず強い風が吹きつける地底。そこを進み続ける3人であるが、霊夢が蚊を対策してからというもの、特に何も起こらず時間だけが過ぎていく。ヨーヨーマッが言う『目的地』にも着かない。

 いや、先程から少しだけ変わったことが一つだけある。それは風の温度。冷たく湿った向かい風は、熱を孕む温風に変わったのだ。

 

「急に暑くなってきたな」

 

「はい。地底は地熱の影響も受けているので」

 

「……地熱ねぇ……まぁ、温泉も湧いたし、そういうものか。それにしてもだが……」

 

 右手で自身に風を送りつつ、チャリオッツは周りを見渡す。ヨーヨーマッは温風の正体を地熱で温められた風だと言うが、チャリオッツはそうは思わなかった。

 彼らが歩く、整備も何もされていない道の脇には、何やら棒状の鉄の器具が放置されている。何本もだ。

 それだけではない。人間の物と思しき頭蓋骨や、卒塔婆(そとば)まで立っている。()()が普通の場所でないことは明白だった。

 

「ヨーヨーマッ。まだ『地霊殿』とやらに着かないのか?」

 

「まだまだです。それにしても暑いですねェ。イモリ、どうですか?」

 

「いらん」

 

 ヨーヨーマッはポケットから干からびたイモリを出すが、即答で断られる。今度はスルメイカの干物を食べるように、バリバリとかじって呑み込んだ。

 チャリオッツは最初のイモリで慣れたのか、完全に無視を貫いている。霊夢は相変わらず引き気味だ。

 

「フゥ……」

 

「!」

 

「……どうしましたか? 霊夢様。もしや、イモリ食べたかった?」

 

「…………!」

(い、いらないわよ! というか、近付いて来る!?)

 

 ヨーヨーマッはイモリを平らげると、一息つくと同時に霊夢を凝視した。彼の口は満足そうに口角を上げ、ゲップまでしていたが、霊夢に向けられた目は違った。

 全く笑っていない瞳。片目には眼帯をしているが、一つ目でも彼の感情を読み取るのは簡単だった。間違い無く、こう思っている。

 「なぜ、霊夢は攻撃を受けていないのか」と。

 

 ヨーヨーマッは霊夢へと歩み始めた。

 次は蚊は使わない。堂々と仕留めに来る気だ。だが、今ここでやるというのか?

 実力では完全に負けているが、そんなに回復力に自信があるというのか。それとも、自信があるのは回復力ではなく、()()()()

 

「遠慮なさらず。ほら、霊夢様。まだイモリはおりますよォ。赤ちゃんですケドネ」

 

「…………ッ!」

(ち、近付けるな……ッ!)

 

「ホラホラァ〜〜」

 

「…………ッ!」

 

「一口、どーぞ」

 

「〜〜〜〜ッ!!」

 

「美味しいですよ。アカハライモリ!」

 

 ヨーヨーマッはしつこく霊夢に迫る。イモリを掴む手を、無理矢理霊夢の口にねじ込まんとする勢いだ。

 しかも、彼が勧めているのはアカハライモリ。歴とした『有毒生物』である。こいつを霊夢に食わせて、彼女を毒殺しようとでもいうのか。

 しかし、ヨーヨーマッがイモリを食わせるよりも早く、霊夢の堪忍袋の緒が限界を迎えた!

 

(いい加減に鬱陶しいわよッ! このヌケサクッ!!)

 

バキィ!!

 

「ぶべぎゃッ!」

 

「おぉ、良いパンチだ」

 

 我慢の限界がピークに達した霊夢は、思いきり握った右拳をヨーヨーマッの頬に叩き込んだ。

 今まで様々な攻撃をヨーヨーマッに加えてきたが、このパンチが一番効いたかもしれない。ヒットした瞬間の彼の顔は、苦悶に満ちていた。

 一部始終を見ていたチャリオッツは、霊夢の攻撃に拍手を送った。

 だが、これが()()()()()

 

「! 霊夢、その顔どうしたッ!?」

 

(ようやく気付いたわけ? どれだけ鈍感なのよ……)

 

「そ、その状態でよく平然としてられるなッ……! 本当に何とも無いのかッ!?」

 

(大丈夫よ。この程度のケガ……穴……? 大したことないわ。とにかく、今はこいつ(ヨーヨーマッ)をどうにか……)

 

「ほ、本当に大丈夫なのかッ!? お前、()()()()()()()()()()()ッ!」

 

 

ドロォオ〜〜ッ

 

 

(え……?)

 

 突如、霊夢の視界の右半分が何かによって覆われた。

 彼女は自らの左手で触って、正体を確かめてみる。ブヨブヨ、ドロドロしている。まるで川底の泥のようだ。強く押し込めば押し込むほど、指が沈んでいく。触れていた手を離し、指先を見た霊夢は戦慄した。

 

(私の……肌…………まぶたが……溶けてるッ……!?)

 

「ヨーヨーマッを殴った右手もだぞ……! わ、私の装甲と指もだッ!」

 

「ッ…………!?」

(て、手の甲がッ……!? そんなバカな……ッ!)

 

 決め手は、『蚊』ではない。温風が吹く所に来てからというもの、蚊の姿は一切見なくなった。

 しかし、それでも攻撃は続行されたということは、霊夢の右手と顔、そしてチャリオッツの腕と肩の装甲を溶かした攻撃は、蚊を用いたものではなかったのだ。

 チャリオッツにヨーヨーマッの攻撃の存在を知らせることはできたが、事態は振り出しに。ヨーヨーマッの目的は霊夢たちの始末であろうが、そのために()()()()()()、これも依然不明である。

 2人が混乱している中、殴り飛ばされたヨーヨーマッが起き上がる。

 

「……()()()()()()()()です。案内は続行しますか? それとも、ここでおやめになられますか?」

 

「……ッ!」

 

「…………その目的地とはどこだ?」

 

「『灼熱地獄跡』ですゥ。血の池もありますよ」

 

 不気味な笑みを浮かべ、チャリオッツの質問に応答する。

 勝利を確信した顔だ。霊夢であればこの程度の敵、一瞬で倒せるものだ。だが、時間をかけ過ぎた。ヨーヨーマッに案内をさせ続けたこと、攻撃の正体を探ることにだけ専念してしまったこと。今にして思えば、そのどれもが敗北の要因だったのだろう。まさか、それら全て計算していたのではないだろうか? 

 「してやられた」と下唇を噛む霊夢は、今まで経験してきた戦いの中で最も焦っていた。

 

「……なるほど。方法は分からんが、我々を徐々に溶かし、その地獄の跡に放り込もうという魂胆(こんたん)だったわけか」

 

「どうしましょう? 攻撃の正体を探りますか? だんな様。それともわたくしの体力とだんな様の体力、お比べになりますか?」

 

「…………」

 

「…………ッ!」

(どうするのよ、チャリオッツ! こうしている内にも……わ、私たちの体は溶かされているのよ!)

 

 ヨーヨーマッは自身の能力で霊夢たちを溶かしている。彼は敢えて地霊殿に至る偽物の道を通って時間を稼ぎ、やがて戦闘不能になる彼らを地獄の跡で焼き殺す予定だった。

 しかし、霊夢の機転により、動けなくなるまで溶かされることはなかった2人は、ヨーヨーマッの次なる手段で溶解が加速してしまったのだ。ヨーヨーマッとチャリオッツの会話が交わされる中、霊夢の腕や服も少しずつ溶け始め、穴ができていく。チャリオッツも同じく、甲冑に穴が空き始めていた。

 しかし、チャリオッツは霊夢と違い、ほんの少しの焦りも見せなかった。

 

「……そうだな。体力勝負といこう」

 

「では、どうぞ。わたくしが再起不能となるのが先か、だんな様が溶けるのが先か……いざ、尋常に…………」

 

「何言ってる。気付いてないのか?」

 

「……ハイ?」

 

「だから、お前もう斬れてるからな」

 

「エ?」

 

ズルリ……ズルリ……

 

「ア、アレェ……?」

 

「フン。マヌケめ。()()()()()()やがったな」

 

 ヨーヨーマッの視界が縦に割れ、二等分された景色はそれぞれ左右へズレていく。

 そう。チャリオッツは既に斬っていた。ヨーヨーマッは何かしらの方法で、チャリオッツの()()()()()()()()()。彼がアヌビス妖夢戦の時に見せた超高速は、おもりとなる甲冑を外して防御力と引き換えに得るもの。つまり、肩と腕の装甲を溶かされたチャリオッツは、()()()()だけあの超高速で動かせるわけだ。

 ヨーヨーマッはそれを知らず、ただダメージになると、そう思い込んでチャリオッツの甲冑を溶かし続けてしまった。

 そして、おもりを捨てたチャリオッツはホールケーキに包丁を入れるが如く、ヨーヨーマッの頭をかち割った。もちろんそれだけではなく、ヨーヨーマッ本人が気付いていないだけで、とうに全身バラバラだ。

 

「アレェエエ〜〜ッ!!?」

 

「さて、と。そうやって積み木みたいにバラバラになったお前をどうするのかというと…………甲冑脱衣(アーマーテイクオフ)ッ!」

 

 チャリオッツは十数個に斬られてしまったヨーヨーマッの前に立つと、ボンッ! と軽い爆発音と同時に、着ている残りの甲冑を脱ぎ捨てる。

 そしていつかの時と同じように数人に分身すると、ヨーヨーマッ()()を抱え、『灼熱地獄跡』へと飛び出した。

 

「ウワァアアアァーーッ! な、何をするつもりだァ!」

 

「お前が考えていたことと全く同じことさ。想像できるだろう?」

 

「ま、まさか…………」

 

 ヨーヨーマッは、これから自分が辿る末を理解した。

 なんて恐ろしいことだ。このようにして死ぬ人間なんて、ほんの一握りしかいないだろう。

 しかし、それが現実。現実は非情である。ヨーヨーマッが理解した時には、チャリオッツ()()は到着した。

 ご存知、『灼熱地獄跡』! 眼前に広がるのは溶岩の渓谷。焼けるような熱気が肌を刺す。

 チャリオッツはここで何をするのか?

 想像がつく人は多いだろう。チャリオッツの分身たちは、一斉に谷底へヨーヨーマッを放り込んだ!

 

「ウワァアアァーーッ! チクショウ! チクショウ! こんなことで死ぬなんて…………さとり様ァ〜〜ッ!!」

 

「冥土の土産に覚えておきな。我が名は銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)! 『戦車』のカードを由来とするスタンド。その暗示とは、『侵略』、そして『勝利』ッ!」

 

 宙へ放られたヨーヨーマッは、自らの主君の名と断末魔を叫び、(たぎ)る溶岩の海へ落ちていく。いくら斬り刻んでも死なないスタンドでも、溶岩の中へ放り込まれればいずれ力尽きるだろう。それが狙いだ。

 危ない場面が多かったが、チャリオッツと霊夢のコンビは、ついにヨーヨーマッに勝利したのだった。

 

 

「地獄の底で寝ぼけな」

 

 

 

 

 

 

 




かなり駆け足な終わりだったかと思います……


チャリオッツ&霊夢コンビも、無事敵を撃破!
地霊殿編もいよいよ後半戦。
その頃、地上では何が?

お楽しみに!
to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない

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