幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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お久しぶりです


43.地霊殿と懐かしきF-MEGA

「……ブラック・サバス……負けてしまったのね……」

 

 薄暗く、閉ざされたとある一室にて、椅子に座る一人の少女が呟いた。ブラック・サバスとは、地底に潜入したハイエロファントや魔理沙が交戦したスタンドであり、この少女の下僕であった。

 彼女は何らかの手段でブラック・サバスの敗北を知ると、小さくため息を吐き、開いていた本を膝に乗せる。

 

 彼女の趣味は読書である。本は良い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。本だけが、彼女に()()()()世界を見せてやれるのだ。

 彼女はまだ途中までしか読んでいない本に(しおり)を挟むと、部屋の壁を埋め尽くす大量の本棚の一つへと戻し、部屋を出て行った。

 

 

 

____________________

 

 

 

「魔理沙。もう大丈夫だ。運んでくれてありがとう」

 

 場所が変わり、こちらは地底を進む魔理沙サイド。

 ブラック・サバスとの戦いを制し、天井の崩落から逃れた魔理沙はハイエロファントを救出。負傷した彼を箒に乗せ、回復を待ちながらゆっくり箒を進めていた。

 

「そうか? ケガは完全に治ってないみたいだけど」

 

「もう何ともない具合だ。一人で動けるよ」

 

「そっか。お前が言うなら…………」

 

 ハイエロファントの体にはまだ所々に傷があったが、魔理沙の箒から降りて自ら浮遊して移動を始める。

 ブラック・サバスは殴る蹴るの攻撃を行わなかったが、力強い押さえつけによってハイエロファントは体の数カ所を折られていた。いくらかは()()()()()()()()負傷を防いだが、それでも五体満足とは言えない具合。浮遊することができて良かったといったところか。

 しかし、せっかく降りたハイエロファントだが、今までのような長距離を自力で移動することはなさそうである。その理由は、彼らの眼前に広がっていた。

 

()()()()…………怪しさしかねぇな」

 

「……ずいぶん豪勢な……屋敷か?」

 

「永遠亭より、どっちかってーと紅魔館寄りの建物だな。というか! 建物の半分壁に埋まってるぞ!」

 

 2人の前にそびえ立っているのは、巨大な西洋風の建物。すぐ目の前に大きな階段があり、その上にさらに大きな扉があった。外壁が赤い紅魔館とは違う、また違った洋館である。

 いくら広いとはいえ、これだけ大きな建物が地底にすっぽり入るわけがないらしく、館と後ろ半分は岩壁と一体化するようにして埋まっていた。一体全体どうやって建築したというのか。明らかに普通ではない。

 だが、廃墟のように見えるというわけでもない。掃除は行き届いているようで、汚さは一切感じない外見をしている。そして、巨大な建物にはそれなりの権力者がいるものだ。それが地底の長なのか、八坂神奈子とコンタクトを取った者なのかどうかは分からないが。

 

「どうする? ハイエロファント」

 

「行くしかないだろう。もしかしたら、この中に山の神と接触した人物がいるかもしれない。それに、ここまで派手なもてなしをされたんだから、礼をしないわけにはいかないだろう?」

 

「へへっ。あぁ、そうだな」

 

 ハイエロファントの返答に魔理沙が頷く。

 にとりの話によれば山の神、八坂神奈子は地底の者と何かしらのコンタクトを取ったとのこと。彼女は神奈子が地底に『何をしたのか』を知るため、ハイエロファントに調査を依頼した。ハイエロファントたちはついでに怨霊たちも鎮められれば、といった心持ちで地底へ来たわけだが、待っていたのは死闘という手厚い歓迎。もし仕組まれたものだとしたら、地底の主に事情を訊かねばなるまい。

 2人は館へと足を進め始める。と、その次の瞬間、館の扉がある階段上から何者かの声が響いた。可愛らしく、それでいて落ち着いた綺麗な声だ。

 

『ようこそ。『地霊殿』へ。おふたりのことは既に耳にしていますわ。霧雨魔理沙さんに……法皇の緑(ハイエロファントグリーン)さん』

 

「!」

 

「……少女? あの子がまさか……いや……」

 

『そう、その通り。私が地霊殿の主。古明地さとりです』

 

「うっ!? な、何ッ……!?」

 

 階段の上から見えたのは、桃色の髪をした少女。袖の長い服とフリルの付いたスカートを穿()いている。それだけならばただの少女で片づくのだが、彼女が着けているカチューシャから謎のコードが伸びており、それらが数本絡み合う先には目玉のような物が存在していた。

 

 

 ハイエロファントはさとりが自己紹介をした後、なんとも言えない不気味さを感じた。

 それは奇怪な格好に感じたのではなく、彼女が言葉を発したタイミング、そしてその内容に感じたのだ。

 ハイエロファントは「まさか……」としか言っていない。それに対し、さとりは「その通り。私は……」と続けたのだ。まるでハイエロファントが「まさか彼女が地霊殿の主なのか?」と言いたかったと分かっていたように。

 彼のその驚きですら筒抜けなのか、さとりは表情をほんの少しだけ曇らせる。そしてハイエロファントたちに背を向け、地霊殿の中へ戻りながら2人についてくるよう促した。ハイエロファントは警戒を解くことなく、彼女の後に続いて行くのだった。

 

 

____________________

 

 

 地霊殿の中を案内される2人。さとりは無言で前を進み続ける。地霊殿の中は想像通りにとても広く、そして明かりが少ない。外装に関しては紅魔館に似ている部分が多かった。

 逆に違う部分といえば、使用人の姿が一切見えないというもの。紅魔館には羽を生やした小さなメイドや、明らかに人外な小人(ホフゴブリンのこと)などがうじゃうじゃいた。しかし、地霊殿は違った。周りにいるのは動物たち。ネコやオオカミ、イタチのような哺乳類もいれば、水場も近くないのにワニやオオトカゲなどの爬虫類も闊歩(かっぽ)している。まるで動物園のようだが、異様な光景には変わりない。あの魔理沙でさえも目を輝かせることはなかった。

 しばらく移動し、到着したのは客間と思しき一つの部屋。行ったのは最初で最後だが、なんとなくレミリアの部屋を思い出す。彼女の部屋よりも本棚が多く存在しているものの、雰囲気は似通っていた。

 部屋の真ん中に机があり、それを挟むようにして2つのソファが置かれている。さとりはドア側にハイエロファントと魔理沙を座らせ、彼女自身は奥側のソファに腰掛けると、ようやく口を開いた。

 

「さて……初対面でお互いの素性が分からない中これを行うのは心苦しかったけれど、ここに来るまでの間におふたりの心の中を見させてもらったわ」

 

「は!?」

 

「…………」

(なるほど。心の中を読む能力……だから地霊殿に入る時、僕が思ったことに返答できたのか)

 

「理解が早くて助かるわ。ハイエロファントさん」

 

「……違う意味で会話にならないな。その能力」

(敬語をやめたということは、テリトリー内に入ったことで自信が出てきたのか。この少女、何が目的だ……?)

 

「…………」

 

 ハイエロファントが返答するが、さとりはそれにすぐ反応することはなかった。ハイエロファントは皮肉のつもりであのようなことを口に出したが、心の中では別のことを考えている。さとりはそれが分かるのだ。

 しばらくハイエロファントの目を見つめるさとり。すると、いきなり「フフッ」と笑いを漏らした。「何がおかしいんだ?」と眉をひそめる魔理沙を他所に、さとりはハイエロファントへ言った。

 

「別に、あなたたちを取って食おうなんて思ってないわ。敬語をやめたのは2人のことをなんとなく理解したから。初対面でいきなりタメ口を聞かれるなんて嫌でしょ?」

 

「………………」

(じゃあ、一体何が目的で僕たちを招き入れたんだ……?)

 

「目的なんて無いわ。ちょっと話をしたかっただけよ。私も私で知りたいことがあるから」

 

 会話を必要としない会話。さとりは慣れているようで、たった一人でベラベラ喋る。しかし、この感じはどうにも慣れないハイエロファントたち。全てを見透かされてるというのも、気持ち悪いものだ。嘘がバレるからというわけではなく、隠し事が何も通じないのだから。

 さとりはハイエロファントから魔理沙へ視線を移すと、別の話題に切り替えて話を続けた。

 

「そう。ブラック・サバス、そんなに強かったのね。私が彼の思っていることを当てたら、すぐに縮こまっちゃったのよ。正直門番にするのも心配だったわ」

 

「そう……なのか……」

(実力を知らないで門番を任せたのか……?)

 

「地霊殿の中のことはペットたちで事足りてるからね。空いてる仕事がアレぐらいだったのよ」

 

「……ちょっと薄情すぎねぇか?」

 

「ふゥん……どうして私がブラック・サバスに未練が無いか、とっくに分かってると思うけど……魔理沙?」

 

「…………」

 

 心を読めるさとりの指摘通り、魔理沙には思い当たる節がある。

 ブラック・サバスは消滅する時、『信頼』と『侮辱』について語っていた。だが、あの時の彼からはその2つよりも、主であるさとりへの恐怖心の方が感じられた。彼は最初からさとりを信頼していたのではなく、恐怖して従っていたに過ぎなかった。『心を読む能力』に屈服していたのだ。

 そして、さとりはそれを理解した上で、地霊殿から遠い門番の役割を与えていた。ブラック・サバスを気遣ってか、それとも彼女の方もブラック・サバスに不信感を覚えていたからか。まぁ、さとりの口ぶりから察するに後者なのであろうが。

 

「あぁ、そうそう。ハイエロファントさん、あなたのおかげで思い出したわ。私が2人に訊きたかったこと」

 

 さとりはソファから立ち上がり、近くにある文机の引き出しを開ける。彼女がそこから取り出したのは、一枚の紙切れ。遠目から見てみると、その表面片側に何かしらの文字が書かれていた。おそらく、誰かからの手紙であろう。さとりは書かれた文章を読み上げる。

 

「『地底の主、古明地さとり殿。我々、地上の者と貴公ら地底の者。ついに両者が手を取り合うべき時がやってきたと私は考えている。これはその友好の印である。地上の神、八坂神奈子』、ですって。地上の神様はセンスの無い文を送りつけるの?」

 

「どうだろうな。私は割とぶっ飛んだやつだとは思うよ」

 

「神様か……まだ僕は会ったことがないな」

 

「そうなの。それで、そう。あれが送られてきた物ね。『ゲーム』って言うらしいんだけど、これは知ってる?」

 

 さとりが『ゲーム』と呼ぶ物、それは部屋の隅に置いてある機械の箱のような物体のことだ。

 魔理沙はさとりの言葉に合わせて視線を移すが、彼女の頭に浮かんだのは『?』だけである。幻想郷には『ゲーム機』が普及していないため、ゲームという単語自体は分かるものの、それとこの箱が一体何の関係があるのか理解できなかった。

 しかし、ハイエロファントは違った。そのゲーム機に見覚えがあるのだ。これはかつて、自身の本体である花京院が使っていたことがある代物。そして、DIOを倒す旅の中で、DIOの刺客であるテレンス・T・ダービーとの勝負でも使ったものと同じ型のゲーム機だった。

 

「ハイエロファント? あの箱、見覚えあるのか?」

 

「……あぁ。僕の本体もやっていた。いわゆるTVゲームというやつさ。テレビに繋いでプレイするゲーム機。ゲーム機本体だけでなく、テレビも一緒に付けるとは、さすが神様だな……」

 

「そう。ハイエロファントさんは使ったことあるのね…………そうだ。私からちょっとした提案があるんだけど」

 

 『提案』という言葉を聞き、魔理沙とハイエロファントはさとりの方を振り返る。その時に見た彼女の顔には、小悪魔的な不敵な笑みが現れていた。

 

「2人は地上の神様が地底に何をしたのか、それを調査しに来たんでしょう? でも、私が知る限りだと例の文とゲーム機が送られてきただけ。それ以外は何も知らないわ。だけど、私がその調査を手伝うと言ったら?」

 

「手伝う? お前が?」

 

「どうせ裏があるさ。魔理沙」

 

「そんな……別に悪いことはしないわ。ただ、私の提案に乗ってくれたら、調査を手伝うってことよ」

 

「分かった分かった…………それで、提案って何だよ?」

 

「私と……ゲームで勝負しましょう」

 

『……何?』

 

 さとりの口から出てきた提案は、2人の予想の外にあるものだった。思わず間抜けなトーンで言葉を発してしまう程度には驚くもの。

 魔理沙はてっきり、ペットたちの世話を手伝え、といった雑用をさせられるかと考えていた。そうだったとしても、迷う間も無く断り、再びハイエロファントと2人で地底を彷徨(さまよ)うつもりだった。

 ハイエロファントの場合は弾幕勝負を仕掛けてくるものかと思っていた。物事を決める際、意見が対立した時には弾幕で白黒つけると魔理沙に教わっていたからだ。

 一瞬固まった2人だが、魔理沙が最初に口を動かした。

 

「ゲ、ゲームで勝負して……私たちが勝ったら調査を手伝うってか? ゲームでやる必要なんてあるかァ!? 妖怪は黙って弾幕だぜ!」

 

「……弾幕勝負っていうのはあくまで方法の一つでしょ? じゃんけんで決まるならそれに越したことは無いし、話し合いで解決するなら、それこそ弾幕勝負をする意味なんて無いわ。そして今の場合、ゲームをすることで問題が解決できる。それこそ弾幕を使う必要ってあるの?」

 

「にゃ、にゃにをォ〜〜っ!?」

 

「……さとり。君はゲームをしたいのか?」

 

「暇な時、軽い気持ちでやってみたらとても面白かったわ。ハマっちゃった。それからはずっと一人でやってたけど、今この場にはあなた(経験者)がいる。ちょっとした好奇心よ。どちらが強いか……ってね。ゲームで勝って調査を楽にするか、ゲームをせずに非効率的で無駄な時間を過ごすか。あなたが決めてくださいな」

 

「…………」

 

 日の光が入らぬ地底。そこに構える地霊殿で胡座(あぐら)をかく者は、闇に包まれた地底そのものと違ってハッキリしていた。日の下に出ない割に気が小さいわけではなく、どちらかというと自信家だ。

 魔理沙はゲームをしないつもりでいるようだが、ハイエロファントもそうかと問われると()()()()()()()()

 

「魔理沙、これから暇になるかもしれない。先に行ってて構わない」

 

「え!?」

 

「おや……」

 

「いいだろう。さとり。僕も久々にやってみたくなったところだ。君の勝負、受けて立つ」

 

「ゲ、ゲームすんの……?」

 

 ハイエロファントはやる気満々である。魔理沙は目を丸くしてハイエロファントを見つめるが、彼が言った通り、たった一人で先に行こうとは思わないらしい。驚くだけで、それ以上のアクションは取らなかった。

 提案した側であるさとりも驚きの表情を見せたが、ハイエロファントのやる気を見て、再び笑みを浮かべる。そして、ハイエロファントの言葉に返答しないまま、部屋の隅に置いてある2台のテレビを順番に抱え、テーブルへと置いた。

 

「……グッド。心の中を読んでたわけじゃないけど、受けてもらえると思ってたわ。魔理沙は……行かないの?」

 

「ゲームに興味ねーけど、ハイエロファントを置いては行けないからな。応援係でもやるさ」

 

「……ありがとう。魔理沙。それでだが……さとり、プレイするゲームは何だ?」

 

「これよ」

 

 さとりが机の引き出しから取り出したのは、ゲーム機とは別の、小さく四角いケース。ゲームカセットだ。そして、そのゲームの名前とは…………

 

「エ、F(エフ)-MEGA(メガ)……!」

 

「ゲームソフトの名前まで知ってたの。そして、しっかりプレイしてる……楽しくなりそうね」

 

 F-MEGA。前後だけでなく、縦横無尽に駆け巡る3Dコースが売りのカーレースゲームである。

 スタンドが見えない人間とは心が通じない、そのような考えをもっていた花京院は孤独の幼少期を過ごした。その()()()()を埋めるため、花京院はテレビゲームをよく遊んでいたのだ。F-MEGAもその内の一つであり、彼が徹底的にやり込んだ作品でもある。

 もちろん、花京院のスタンドであるハイエロファントも、同じようにプレイできる。記憶と技術は受け継いでいる。ある意味、幻想郷に来てから初めて、花京院と共に行う『闘い』かもしれない。本来は本体がスタンドを。そして今回は…………

 

 

 さとりはカセットをゲーム機にセットし、テレビ画面も点ける。タイトル画面になると、ロゴが現れると同時に『F-MEGA!!』と音声が鳴った。これを聞くと思い出す。テレンスとの激闘(カーレース)を。ハイエロファントの闘争心はあの時のように、静かに燃え始めていた。

 

「では、始めましょう。ハイエロファントさん」

 

「あぁ。存分に」

 

「OPEN THE GAME!」

 

 

 

 




時間をかけた割には文字数少なめです。


突如始まるさとりとのゲーム勝負!
テレンス・T・ダービーの時と違って魂を賭けているわけではないが、ハイエロファントは威信にかけて勝利を目指す。

お楽しみに!
to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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