幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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46.八咫烏(やたがらす)

「暑いな……本当に」

 

 マグマの渓谷を突き進む、霊夢たち4人。チャリオッツは溢れる熱気に汗を垂らし、甲冑の隙間から流れる液体を腕で拭う。

 流れる汗はチャリオッツの身を離れる前に、溶岩から放たれる熱気で次々と蒸発し、甲冑に塩の跡を付けるだけでなく、さらなる熱を生み出していた。

 

「くそ……後から手入れしねぇと。()()()スタンドやってた頃は、こーゆーことに気を遣わなくてよかったのによ」

 

「あんたは男だからいいじゃあないの。髪が汗に濡れたまま乾いて、パリパリになって最悪!」

 

「慣れると快適だよ? ねぇ、スナマル」

 

 お燐の言葉に、文字にならないような声でザ・フールは反応する。彼女は全く嘘を吐いていないようで、言葉通りにこの灼熱の空間に慣れていた。その証拠として、お燐は一滴の汗もかいていない。ザ・フールは砂でできているため、汗を流すことはないものの、暑がっている様子は見られなかった。

 霊夢は顔の横にぶら下げた髪を忌まわしそうにイジりながら、お燐の後を追って飛び続ける。と、ここで霊夢はあるものを見つけた。お燐が進む先にそれは広がっていた。

 

「! 何よ、あれ。門か何か……?」

 

「見えてきたよ。あれが間欠泉のエネルギーを操作する部屋の入り口さ!」

 

「部屋、と言うにはずいぶんデカいな……まるで巨大なホールみたいだが、あんなに広いところでエネルギーを操作してんのか? ドデカい装置でもあるのかよ」

 

「お空は機械とか、装置は使わずにエネルギーを操るんだよ。もし、あの子が暴れたら……お姉さんたち強いし、頑張って生き延びてね!」

 

「ハァ!?」

 

 お燐が最後に付け足した言葉に、チャリオッツは「聞いていない!」と声を上げる。

 それに、間欠泉のエネルギーを制御していると言うが、お空は専用の装置などは一切使わないとのことだ。妖怪ならばその特殊な力で、地下熱と温泉のエネルギーを操っているのだろうか。そんな可能性もあるが、地底にこれだけ多く溢れるマグマと、地上に噴出した温泉の量を考えれば、妖怪の事情に疎いチャリオッツでも自分の力だけでそれらのエネルギーを操ることがとてつもなくすごいことだというのは理解できる。

 熱せられる甲冑の下で、チャリオッツは思わず武者震いするのだった。

 

「よし、みんな。いよいよ突入だよ!」

 

 お燐の掛け声とともに、マグマの上を行く4人はさらに加速。前方に大きく構える石の門をくぐり抜け、いよいよお空のいる空間へと侵入した。

 

 

 

 門をくぐった先に広がるのは、コンクリートか金属かも分からない、謎の物質でできた壁と床。天井も同じ素材であるが、中心へ迫るほど大きく(くぼ)んでいる丸天井。

 天窓などは一切無いが、壁や床に使われている巨大なタイルの隙間から、マグマに似た橙色の光が(うごめ)いている。その光が博麗神社がいくつか入りそうな巨大な空間に溢れ、地上の夕方のような明るさを生み出していた。

 広大なドームには何の障害物は無く、ドームの端から端までを見るのに何も遮る物が無い。

 だが、空中に一つだけ。普通の人間よりも大きい影が浮かんでいた。緑色のリボンを付け、白い服に緑色のスカートを着ている。胸元には『目』のようなものが存在し、右手右足には鎧や柱のようなもの。そして、()()の背中には鳥のものと酷似した大きな黒い翼が生えていた!

 

「……お燐とスナマル……その人たちは?」

 

「え〜〜とぉ……お客さん? みたいな感じかなぁ?」

 

「……?」

 

「オッホン。私は博麗霊夢。博麗神社で巫女をやってる者よ。そこの化け猫から聞いた話で、地上の神様があんたに何かしたかもしれないって考えててね。具体的に何をもらったのか、訊きに来たってわけよ」

 

「あぁ……八咫烏(やたがらす)の、『核融合』の力のことね」

 

 彼女こそ、お空こと霊烏路空(れいうじうつほ)である。元は地獄鴉という妖怪であったが、今は事情が違うようで、他の地獄鴉には無い膨大な力を保有している。それが彼女の言う『核融合』の力。さとりから与えられたお空の仕事とは、間欠泉のエネルギーを操るというよりも、捨てられた灼熱地獄の熱管理であり、その過程で間欠泉を刺激しているというのだ。

 本来持たないパワーを、お空は如何にして手に入れたのか。彼女は語った。

 

「この前、ここに地上の神様がやって来たんだよ。「お前に力を与えるから、私たちに協力しろ」みたいなことを言って、私に『核融合』の力をくれたの」

 

「具体的に、どんな協力を請われたわけ?」

 

「う〜〜ん……「エネルギーを生み出せ」って……というか、そんなことぐらいしかできないけどね」

 

「エネルギーねぇ……たしか、河童(にとり)のやつは「山で物作りをやってる」って言ってたな。それに使うエネルギーを、あの少女に生み出してもらおうってわけか」

 

「なるほど。じゃあ、にとりが心配してた()()()()も無いわけね。ハイっ、任務は終わり! 解散!」

 

 霊夢がそう言い、部屋の中心に背を向けるとお燐とお空が「え、もう終わり?」と言いたげなキョトンとした顔を見せた。

 お空はまだその片鱗を見せてはいないが、お燐は侵入前に「暴れたら〜〜」ということを言っていた。まだ見ていないだけで、お空は暴れん坊の気でもあるのだろう。ならば、面倒くさがりの面をもつ霊夢としてはあまり関わりたくない相手だ。ヨーヨーマッの件でとっくに疲れた彼女も、もうこれ以上は弾幕戦もやりたくない。とっとと用事を済ませ、チャリオッツを連れて魔理沙たちと落ち合おう。

 そう思いながら、自分たちが入ってきた門へと戻ろうとする。が、後ろからお空が声をかけてきた。

 

「ねぇ〜〜……ちょっと気になったんだけどさぁ。巫女ってさ、妖怪退治するんだよね? もしも地底の妖怪が地上に出て行ったら、あなたはその妖怪を退治するわけ?」

 

「……そういうことになるわね」

 

 霊夢は動きを止め、顔を半分振り向かせた状態で返答する。

 そこから見えたお空は、霊夢を見下しているかのように顎を上げ、雰囲気も目の色も先程よりも暗く、不吉な予感を漂わせていた。まさに、『地獄の住人』にふさわしい威圧感。彼女に何かを感じたのはチャリオッツも同じようで、レイピアを握る左手に力が入っている。

 お空は続けた。

 

「じゃあ、今から戦ってみる?」

 

「ハァ?」

 

「…………」

(これは……おやおや。予想外だったけど……お姉さんに頑張ってもらわないといけなくなったかな。()()()()()()()()()妖怪ではないけども、自分の立場によって地上に行けないから。でも、私じゃ止められない。もし、ここでお空が止まらなかったら、地上を火の海にするまで誰も止められない……)

 

「つまり、お空。オメーは地上に行きたいのか? ただ行くだけだったら、霊夢も許してくれるだろ」

 

「そうはいかないんだよ。お兄さん」

 

 またしても、何も知らないチャリオッツはお空と霊夢の会話に口を挟む。しかし、そこには今回の異変とは別の事情というものがあり、お燐が彼に寄って、騒動の根本にある問題について話し始めた。

 お燐が話した内容はこうだ。地底には数多くの妖怪、怨霊が存在しており、そのほとんどが地獄に関連する者だと。ただでさえ危険な者がいるというのに、ある時鬼が住み始めたという。それが地獄から『旧地獄』へと変化した後の話。

 そこから、鬼たちは地上にて、自分たちと同じように忌み嫌われた他の妖怪を地底に招き入れ続けるが、地上の妖怪がそれを許さなかった。鬼たちに対し、『地底での活動を認める代わりに地上に上がっては来ない』という旨の条件を叩きつけたのだ。

 そんな条件がある中で、お空は地上へ出たがっている。以前はそんなことはなかったが、力を手に入れた直後からその欲望は増しているようだ。

 

「地上に出たら、この力を使って新たな灼熱地獄を生み出す! 本当の楽園を地上の妖怪たちに見せてやるわ!」

 

「力を手に入れてからあんなんなのね。ホントに止まりそうにないし。()()()()やつ?」

 

「知るか! おい、お空(あのガキ)が左手に弾幕を込め出してやがる。やるしかねぇぜ。霊夢!」

 

「やれやれ。締まらない始まり方ね…………化け猫とザ・フール! 戦わないなら、この部屋から出てなさい!」

 

 既にお空から距離を取っていたお燐とザ・フールは、霊夢に言われるままにこれから戦場に変わるドームの中心から離れる。霊夢は彼らへ振り向かず、退場したことを背中で感じ取ると、素早く札とお祓い棒を掲げて攻撃に備える。チャリオッツも構えた。

 

「うん。お燐たちは私の友達だからね。あなたたちがお燐たちに協力しろって言ったとしても、私は2人しか狙わないよ。案外、覚悟ができてるのかな。地獄の業火に焼かれる覚悟がッ!!」

 

『!』

 

 掲げられたお空の左手には、まるで太陽のように輝く光の玉がみるみるうちに巨大化していく。白とも黄ともつかない、直視し続ければ確実に目を痛めてしまいそうな(まばゆ)い光は、よく見てみれば燃え盛っている。

 お空は巨大な炎の塊を左手で軽く、風船を放るかの如く前方へ払うと、お空の攻撃はゆっくりと霊夢たちへ向い出した!

 

「お、遅いけど……」

 

「デカすぎるッ! 前に砂漠で()ったが、太陽のスタンドにも似たこの熱気もヤバい! 避けるぞッ!」

 

 巨大火球はゆっくりと2人に迫るが、その大きさと熱気は尋常ではないもの。お燐がここに来るまでに話していたが、灼熱地獄そのものだという比喩は間違ってなどいなかった。一度焼いたものは全て、骨も残さず消滅させてしまう。聞いた時は鼻で笑ってしまったが、体で感じるととてつもなく恐ろしい。

 霊夢はお空が火球を投げる直前まで、弾幕を使って相殺させることも考えていたが、そんなことは浅はかな考えであった。もしその場で弾幕をぶつけていたなら、火球を消した時に発せられる余波で大変なことになっていたに違いない。

 2人は火球を避けると、お空の両サイドへ回り込んで挟むようにして攻撃を仕掛ける。ターゲットを失った火球は、お空が操作したのであろう、音も無く消滅。挟み込もうとせん2人を横目に、お空も本格的に戦闘態勢に入った。

 

 

 

 左右をそれぞれ相手取るということはさすがに選ばないお空。では、どんな弾幕を張るというのか。

 答えは全方位へ放つ、高速の弾幕。個々の大きさはそれほどでもないが、凄まじいのは連射数。一発や二発どころではなく、三十や四十という数を途切れることなく連続で射出してくるのだ。また、数とスピードだけで攻めてくるわけではなく、先に撃った巨大火球と同じように目を焼くような光すら放っている。まともに避けさせる気も無い、えげつない弾幕。それをいともたやすく行うお空は、挑戦する霊夢とチャリオッツに『太陽の化身』であることを改めて認識させるのだった。

 

 

ドドドドドドドドドドド

 

 

「な、なんて密度だ……! 妖夢の弾幕とは比べものにならないぞッ! 直撃は怖いが、甲冑を脱いで……避けるしかねぇッ!」

 

 チャリオッツは身に纏う甲冑をボン! という音を立てて脱ぎ捨てると、残像が生まれるほどのスピードでお空の弾幕を避ける。霊夢も、チャリオッツよりかは飛行に慣れているため、多少スピードを上げて避け続ける。

 幸いだったのは、お空は膨大な弾幕群を左右に振ったり、2人を追尾するように撃ち続けないことだ。弾幕の精密な操作が苦手であるのだろうか。それでも、こちら(霊夢たち側)からの攻撃を許さない現状は変わらない。

 そして、お空も焦ったく感じてきたのだろう。どこからか、一枚の黒いカードを取り出して不敵に笑う。

 

「まぁ、これぐらいじゃやられないだろうね…………そろそろ使わせてもらおうかな。大技、『スペル』を。核熱.『ニュークリアフュージョン』!!」

 

「スペル!?」

 

「何だ!?」

 

 カードを掲げて叫んだお空。その直後、彼女の体は白色の光に覆われ、弾幕以上の光を放つ。と、次の瞬間!

 

ブワァアアアア〜〜ーーッ!

 

 強烈な青い光を、一瞬爆発したかのように解き放った。実際、何かを体に集束させて体外へ放出したに違いない。霊夢とチャリオッツはその光に当てられて、飛行のバランスをほんの一瞬だけ崩してしまった。

 しかし、スペルは弾幕戦における決め手にも使われる、文字通りの大技。風を起こす程度で終わるものでは断じてない。そう霊夢が警戒していると、ついにその本領を拝むことになった。

 青い光の爆発の後、お空を中心に巨大な球型の弾幕が数個配置される。一発分だけで、ただでさえ大きなお空の体を覆い隠すサイズだ。それらが先程の弾幕と同じように、まっすぐ放射状に撃ち出された!

 

「たしかに大技と言うだけあるが……それだけじゃあ、さっきと対して変わらん! 霊夢! 俺が行くぞッ!」

 

「! 待ちなさい、チャリオッツッ! 絶対に、まだ終わりじゃあないわッ!」

 

 チャリオッツはレイピアを構え、迫るお空の大型弾幕を華麗に躱すと、お空目掛けて突進を仕掛ける。

 だが、彼の剣の鋒がお空に届くことはなかった。霊夢の見立ては当たっており、お空は大型弾幕でチャリオッツに見られないように隠していたのだ。先に撃った弾幕をカーテンのように使って、その背後に大量の小型弾幕を備えていた!

 

「な、なんだとォーーーーッ!!?」

 

「ほらほら、妖怪退治の専門なんでしょう? 妖怪は容赦なんてしないよ。確実に追い詰めて倒すのさ。確実に!」

 

 チャリオッツは小型弾幕の群れを目にし、驚きの表情と絶叫を見せる。しかし、そのことが逆に功を成し、チャリオッツは空中で急ブレーキをかけて弾幕に突っ込まずに済んだ。小型弾幕のスピードは大型のものよりも幾分か速く、それでいて撃ち出される角度も様々。チャリオッツは元来た道を辿るように、バックステップで小型弾幕を避けていく。が、そこで霊夢の叫びが再び響いた。

 

「チャリオッツ! どこに向かってるのよ! まだ消えてないわッ、さっきの大きい弾幕が……停滞しているッ!」

 

「は、挟み込むつもりかッ!?」

 

「どうだろうね。()()()()()目的じゃあない。問題は、その弾幕の配置。避けられるかな」

 

 追い詰められたチャリオッツの方へと、お空は『第三の足』である右手の制御棒を向ける。その先には弾幕を形作っていると思われる、エネルギーが集まっていた。

 袋のネズミとなっているチャリオッツに、さらなる弾幕で追い討ちしようというのか。

 残念なことに、この仮説は五十点だ。それだけではない。この弾幕がトドメではないのだ。トドメは、彼の周りに配置した全ての弾幕。水中に大量に放置された機雷の如く、一つが爆発したら他のものも連鎖して爆発する。お空が狙っているのはそれである。自分の弾幕を簡単に避けられるのなら、避けられる空間を無くして追い詰める。速さなど、最早関係無い!

 

「さぁ、くらえッ!」

 

ドォオゥン!

 

「ま、まずいッ……!」

 

カッ!  ドバァアアアァ〜〜ーーン!!

 

「チ……チャリオッツゥーーッ!!」

 

 お空が制御棒から放った弾幕は、そのまま弾幕群に囲まれたチャリオッツにまっすぐ飛んでいった。直後、轟音とともに周りに並んだ小型弾幕、及び大型弾幕が爆裂。オレンジ色の火を噴き、瞬きを強制させる閃光があらゆる影を消し去った。チャリオッツの影もまた、爆炎にかき消されてしまった。

 霊夢の絶叫がドーム内に木霊するが、それも爆発音に呑み込まれて消え、ついにはチャリオッツからの返答も無いのであった。それを見たお空は一人、ほくそ笑んで霊夢へ視線を移す。

 

「まずは一人! 私の攻撃から逃れる術は無いわ。相当運が良くないとね〜〜」

 

「…………!」

 

「次は巫女の方ッ!」

 

 お空はチャリオッツを完全に始末したと思い、今度は霊夢の方へ向き直る。弾幕戦の経験に富んでいるのは霊夢の方だが、彼女もこれまでの道のりでかなり消耗している。隙をついてお空を攻撃することは、非常に困難な状況であった。

 霊夢もお空を見返すが、互いの弾幕が撃ち出されるよりも前に、彼女が注目してしまったものがある。それはチャリオッツを巻き込んだ爆煙が、ようやく晴れていく光景である。もちろん、その場にチャリオッツがいるだなんてことはなかった。しかし、その奥。少々下に降った高度の壁に、一つのクレーターができあがっていた。そこにボロボロになったチャリオッツがめり込んでいるではないか。

 お空に狙われているが、そんなことに構わず霊夢が安堵して声を上げる。

 

「チャリオッツ! 良かった……完全に吹き飛んでなかったのねッ……!」

 

「何!」

 

 霊夢の声につられて、お空も弾幕を消して振り返る。

 あれだけの弾幕の爆発を身に喰らったのだから、お空と霊夢両者ともチャリオッツはバラバラになったのかと思っていた。実際はボロボロになってぐったりしているだけ。まだ息があるのも見て分かった。

 だが、戦闘への復帰は厳しそうだ。甲冑を脱いでいたことにより、防御力が下がったところへ火力の高い攻撃を受けてしまった。全身から血が噴き出し、片目も水分が蒸発したのか銀色の兜が黒く変色し、(まぶた)も開いていない。

 彼が語ることはないが、チャリオッツは最後にお空が放った弾幕へ、近くの小型弾幕を弾いて少し離れた位置で爆破させた。それによって、連鎖する爆発を受けるタイミングを遅らせて、その瞬間に自分の位置を変えて大型弾幕の直撃を防いでいたのだ。しかし、チャリオッツはここでリタイア。戦いはこの先、霊夢だけで行われる。

 

「ちょっと驚いたよ……その耐久力。でも、トドメはやめた。放っておいてもその内死ぬかもしれないからね。これから巫女と戦うことは変わらない」

 

「……さっきから、あんた気に障ること言って……そんなに倒されたいわけ?」

 

「…………いや、倒されるのはあなただよ」

 

「あぁ、そう。それじゃあ、私はいよいよ本気を出させてもらう! これから行われるのは本場の『妖怪退治』よ。あなた、霊烏路空。あんたを退治して全てが終わる」

 

ブワァッ! シゥウウ シゥウウ……

 

「!?」

(れ、霊力が跳ね上がった…………)

 

「行くわよ」

 

 霊夢は目的を『お空の鎮静化』から、『妖怪退治』へとチェンジした。ここからは死闘である。

 空中にばら撒いた札は(ほの)かな光を帯びてお空へと向かい、振られたお祓い棒からは鮮やかな弾幕群が放たれる。霊夢の弾幕攻撃、その動きは非常に華麗だった。風に舞う花のように、蜜の多い花を物色するハチドリのようにしなやかに、素早い動きで弾幕を張る。

 回避と攻撃を同時に行っているだけであるが、お空の目から見える景色は先程と180°変わっていた。自分の攻撃は当たらず、追い詰めることもできず、囲んでは逃げられるのを繰り返す。逆に、今度は自分が回避をし始めていた。防御のために霊夢の攻撃を撃ち落としても、同タイミングで霊夢が距離を詰めて来る。それにより、さらに弾幕の精度が上がって回避も難しくなる。

 徐々に、形成は逆転し始めていた。

 

「くぅッ! つ、強い! さっきとはかなり違う。本気の弾幕になっている! でも、どうして最初からその調子で来なかったの!? 始めからそうだったら、あの剣士だってボロボロにならなかった。あなた、やっぱりちょっと()()()でしょう」

 

「……押されてても口は動くのね! じゃあ、無理矢理黙らせてやるわ。霊符.『夢想封印』ッ!」

 

「……! 爆符.『メガフレア』!」

 

 西部劇の早撃ち勝負のように、霊夢とお空は素早くカードを取り出す。霊夢の背後には巨大な魔法陣のようなものが現れ、虹色に輝く大量の弾幕が展開された。一方お空の方は、制御棒の先にエネルギーをチャージし、再び巨大な光球を生み出すと、それを前方へ射出。

 互いのスペルがぶつかり合えば、今いるドームそのものを吹き飛ばしかねない大爆発が起きるだろう。しかし、霊夢は怖気付くことはない。あの太陽の化身を、幻想郷を守る者として地上に出すわけにはいかない。スペルを使って終わりではなく、お空の『メガフレア』に衝突しないように、一つ一つの弾幕を操作してお空へと向かわせる。

 破壊者と守護者の対比はここにもあるようで、お空はとにかく相手の撃破のため、火力に特化した弾幕を使った。放てば終わりの強力な弾幕。彼女は一切そう思うことはないが、そこにはほんの少しの(おご)りが存在している。

 勝負を分けたのはその部分である。

 

「なッ……! 私の弾幕を避けようとしないなんて……ッ! 私に当てるために……血を流すのも怖くないっていうの…………そんな……バ、バカ……な……ッ!」

 

ドドドドドドドドド ドバァアアン!!

 

 霊夢の『夢想封印』は四方八方からお空を取り囲み、一斉に彼女の体に着弾。いつかのS(スティッキィ)・フィンガーズのように、相手の体に無数のクレーターを残して撃墜した。

 だが、危ないのは霊夢も同じだ。弾幕の操作を最後の最後まで行い続けたため、お空の『メガフレア』から逃れる時間が無くなってしまった。徐々に近付く激しい火炎をどう避けるか、彼女は考えていた。

 

(これだけの距離……さすがに遅すぎたみたいね。私はチャリオッツみたいに、始めからトップスピードでは動けない…………弾幕をぶつけて相殺する? スペルを使う、そんな余裕も無いわ。本当にどうしよう)

 

 光球の熱は霊夢に届き、彼女の鼻の頭をジリジリと焼く。交通事故に遭う瞬間、車が迫っているのか分かっていても、体が硬直して動けなくなるのと似た現象であろう。頭で分かっていても、霊夢は全く動こうとはしなかった。

 弾幕が霊夢に当たるまで、残り3秒。

 

ドォン!

 

「うっ!? な、何…………」

 

 突如、霊夢の体が左方向へ吹っ飛ばされた。弾幕の爆風ではなく、確実に質量のある物体がぶつかってきたのだ。一瞬肌に訪れた感覚は、生物にはない無機質な温かさ。そして硬かった。触れてきたそれは、まるで金属そのもののような存在である。

 

「あ、あなたは……! 動けたの……チャリオッツ」

 

「……全く、オメーは大したやつだ。弾幕に当たることを覚悟して、相手に喰らいつくとはな。恐れ入ったぜ」

 

「何よ……あんた……身代わりのつもりなの!?」

 

「多少はケガするぜ。爆風に備えな……」

 

 

カッ!!

 

 

 チャリオッツの影は再び閃光に消える。霊夢は爆発の瞬間、右腕で自分体を庇い、爆風に吹き飛ばされて壁に激突した。重度の火傷を右半身に負ったが、熱が空気を揺らす中、彼女の左目にはバラバラになって落下するチャリオッツの残骸が映っていた。

 

 

 

 

 

 






お空のスペルをその身で受けたチャリオッツ。
彼に助けてもらった霊夢は、この異変を真に終わらせられるのか?
次回、いよいよ地霊殿編が終結!

お楽しみに!
to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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